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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09C
管理番号 1278399
審判番号 不服2011-10567  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-19 
確定日 2013-08-20 
事件の表示 特願2007-287794「潜在セキュリティー用途のためのフレーク」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月10日出願公開、特開2008- 81744〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,2004年8月11日(パリ条約による優先権主張 2003年8月14日,2004年1月20日 米国)を国際出願日とする特願2006-523075号の一部を,平成19年11月5日に新たな特許出願としたものであって,その請求項1?10に係る発明は,特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。
「【請求項1】
複数の成形された不透明なタグジェントフレークであって,第1の複数のフレークを含み,該第1の複数の成形された不透明な無機タグジェントフレークのそれぞれが,同じ選択された形状を有し,少なくとも50Xの倍率の可視光下で判読可能な記号またはロゴを有し,10マイクロメートル未満の厚さを有する,複数の成形された不透明なタグジェントフレーク。」(以下,「本願発明」という。)

2.引用刊行物及びその記載事項
原査定に引用された,本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である刊行物A?Bには以下のことが記載されている。
刊行物A:特表2002-522263号公報(原査定の引用文献1)
刊行物B:特開昭51-107800号公報(原査定の引用文献2)
2-1.刊行物Aの記載事項
(A-1)
「【請求項1】 1又はそれ以上の記号(20)を担持する予め決定できる寸法の顔料を作るための無機シート(10)において,
上記シートが異なる化学組成物及び(又は)物理特性を有する少なくとも2つの重なった層(11,12)で構成されることを特徴とする無機シート。」
(A-2)
「【請求項3】 第1及び第2の表面(26,27)を備えた少なくとも1つの不透明で全反射性の層(22)の積層体を有し,上記全反射性の層が上記表面(26,27)の少なくとも一方上に蒸着された低屈折率材料の層(23)を有し,低反射性材料の上記層(23)の少なくとも1つが1つの半透明で部分反射性の層(21)により重ねられていることを特徴とする請求項1に記載の無機シート(10)。」
(A-3)
「【請求項11】 上記記号(20)が0.5ないし20μm間の寸法,好ましくは1ないし10μm間の寸法を有することを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の無機シート(10)。」
(A-4)
「【請求項12】 少なくとも1つの記号(20)を担持する無機顔料(15)を作る方法において,
少なくとも2つの重なった層(11,12)の多重層シート(10)を提供する工程と;
上記層(11,12)の表面(13,14)のうちの少なくとも一方上に少なくとも1つの記号(20)を施す工程と;
上記多重層シート(10)を,0.5ないし100μmの範囲,好ましくは5ないし40μmの範囲の寸法の所望の顔料薄片(15)へと破砕する工程と;
を有することを特徴とする方法。」
(A-5)
「【0002】
記号の形をした情報を担持する超小型のアルミニウム小板をコーティング組成物内へ組み込むことは米国特許第5,744,223号に既に記載されている。アルミニウム小板は,後に小板寸法に切断される薄いアルミニウム箔内にエンボシングされた区分として形成される。エンボシングされた小板は車両の密売や盗難を防止するための情報担持体として作用する。」
(A-6)
「【0005】
本発明の特殊な目的はコーティング組成物又は印刷インクの色に関して適合する色での記号担持顔料を提供することである。
別の目的は暗色又は強烈色を有するコーティング組成物内で容易に検出できる記号を担持する顔料を提供することである。」
(A-7)
「【0018】
色の視野角度依存性変化を有する無機シートは好ましくは例えばPETの可撓性のウエブの如き支持材料上に製造される。大半の場合,第1の半透明層が可撓性のウエブ上に蒸着される。すべての引き続きの層を蒸着した後,多重層コーティングが可撓性のウエブから取り外され,もって,コーティングは典型的には不規則形状及び寸法の小さな部片に破断される。コーティング組成物特に印刷インクのために又はバルク材料内への組み込みのために適した所望の顔料薄片を得るためには,これらの部片を更に破砕する必要がある。」
(A-8)
「【0019】
既述のように,色の視野角度依存性シフトを有する顔料は強力な複写防止特徴を備えた書面を提供する。この模造品防止特徴は,層のうちの少なくとも1つ上に記号を施すことにより,更に向上される。更に,このような顔料薄片はデータ保持体として機能することができる。」
(A-9)
「【0041】
一層詳細には,無機シートは,Cr(20nm)の層21と,MgF_(2)(400nm)の層23と,Al(69nm)の層22と,MgF_(2)(400nm)の層23と,Cr(20nm)の層21とを備えて,対称的なPET製のウエブ19上に形成された。」

2-2.刊行物Bの記載事項
(B-1)
「本発明は,物質の遡及識別(どのような物質であったかを遡って識別する)のために,物質の各製造単位を微小粒体で標識する方法の改良に関する。本発明の他の面は,本発明方法による遡及標識において有用な微小粒体に関する。」(2頁左下欄12行?16行)
(B-2)
「本発明は,顕微鏡またはその他の拡大手段を用いて,単一微小球体の視覚検査によって容易に解読することができる微小球体の手段による遡及識別を提供するものである。」(3頁左上欄7行?10行)
(B-3)
「これらが配合されるバルク物質からの分離を容易にするために,この微小球体の形状は目立つことが好ましい。球状,円筒状,多面状またはその他の幾何学的形状の微小球体は,通常の特定物質から容易に認識し,かつ回収することができる。」(3頁左下欄6行?10行)

3.対比
(3-1)刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには,「1又はそれ以上の記号を担持する無機シート」(A-1;【請求項1】)を「顔料薄片へと破砕する」(A-4;【請求項12】)ことが記載されており,その記号については,「0.5ないし20μm間の寸法」(A-3;【請求項11】)とされていて,さらに,「容易に検出できる」(A-6;【0005】)とされているものである。
また,無機シートについては,
「少なくとも1つの不透明で全反射性の層の積層体を有し」(A-2;【請求項3】)とされていて,さらに,その厚さについては,具体例の記載として,
「Cr(20nm)の層と,MgF_(2)(400nm)の層と,Al(69nm)の層と,MgF_(2)(400nm)の層と,Cr(20nm)の層とを備えて,対称的なPET製のウエブ19上に形成された。」(A-9;【0041】)とされていることから,合計909nmの厚さをもった無機シートが記載されているものといえる。
そして,無機シートの破砕に際しては,「典型的には不規則形状及び寸法の小さな部片に破断される」(A-7;【0018】)と記載されている。
以上のことから,次の発明が刊行物Aに記載されているものといえる。
「容易に検出できる0.5ないし20μmの間の寸法の1又はそれ以上の記号を担持する無機シートであって,少なくとも1つの不透明の層を有する厚さ909nmの無機シートを破砕した,典型的には不規則形状の顔料薄片」(以下,「引用発明」という。)
(3-2)本願発明と引用発明の対比
ここで,本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明でいう「タグジェントフレーク」とは必ずしもその意味は明らかではないものの,明細書の記載を参酌すると「抗偽造目的で使用されるタグとなるフレーク」(【0005】など)の意と解せられ,一方,引用発明の顔料薄片も「模造品防止」(A-8;【0019】)のために使用されるものであるから,両者は対応するものといえる。
また,引用発明の顔料薄片の厚さは909nmであり,本願発明の「タグジェントフレーク」の厚さである「10マイクロメートル未満の厚さ」に相当する。
したがって,本願発明と引用発明とは,
「複数の成形された不透明なタグジェントフレークであって,第1の複数のフレークを含み,該第1の複数の成形された不透明な無機タグジェントフレークのそれぞれが,記号を有し,10マイクロメートル未満の厚さを有する,複数の成形された不透明なタグジェントフレーク。」
である点で一致し,以下の点で相違するものである。
[相違点1]
フレーク上の記号が,本願発明では「少なくとも50Xの倍率の可視光下で判読可能な」とされているのに対して,引用発明では,「0.5ないし20μm間の寸法」である点。
[相違点2]
本願発明では,成形されたタグジェントフレークが,「同じ選択された形状を有し」とされているのに対して,引用発明では,「典型的には不規則形状」とされている点。

4.当審の判断
上記相違点について以下検討する。
(4-1)[相違点1]について
まず,本願発明における「少なくとも50Xの倍率の可視光下で判読可能な」とは,そもそも本願発明の目的を考慮すると,「偽造者にとっては肉眼では見えず,顕微鏡などの機器を使用しないと検出できないもの」でなければ意味がないものであることから,
「可視光下で判読可能とするには少なくとも50X以上の倍率が必要となる」(すなわち,可視光下で50Xの倍率よりも小さな倍率で判読可能なほど大きな記号を排除する)という意味に解すべきものである。以下,これを前提に検討する。
次に,本願発明における「50Xの倍率」という倍率で可視できる大きさがどの程度のものなのかについて,本願明細書の記載に基づいて検討する。
本願明細書には,
「フレークの形状を見るために,代表的には20X?200Xの倍率で見られ,このフレークは,代表的には直径約5ミクロン?100ミクロン,より代表的には,直径約20ミクロン?40ミクロンである。」(【0038】)との記載があり,この記載からは直径約5ミクロン程度のフレークの形状を識別するためには,200X程度の倍率が必要であると推測される。
そして,通常は,同じ大きさのフレークよりも文字などの記号の方が識別は困難であることから,5ミクロン程度の記号を判読するためには少なくとも200X以上の倍率が必要になると解せられるから,引用発明における記号の大きさは「0.5ないし20μm」というのは,少なくとも50Xよりも大きい倍率が必要となる範囲と重複するものといえる。
すなわち,引用発明の記号の大きさ「0.5ないし20μm間の寸法」というのは,本願発明における「少なくとも50Xの倍率の可視光下で判読可能な」とは,少なくとも部分的にせよ重複する概念を有するものと解される。
さらに,本願発明において「少なくとも50Xの倍率の可視光下で判読可能な」と特定することについては,本願明細書の記載を参酌すると,「偽造者にとっては肉眼では見えず,顕微鏡などの機器を使用しないと見えないという目的を達するための倍率」といった程度の意味を超える,格別の技術的意義や格別の効果はないと解せられ,これに対して,引用発明の記号を担持する顔料薄片も,そもそも模造品防止という目的のためのものであることから,そこに担持される記号の大きさ「0.5ないし20μm間の寸法」も,同様な目的を達成するものと理解される。
そうすると,引用発明における「0.5ないし20μm間の寸法」と,本願発明における「少なくとも50Xの倍率の可視光下で判読可能な」とは,概念的にも,技術上の意義の点からも,実質的には格別の差異がないというべきものである。
また,仮に,「格別の差異がない」とまではいうべきものではないとしても,上記したように,5ミクロンの記号の判読のためには200X程度以上の倍率が必要であると解されるから,「0.5ないし20μm」と示されている引用発明における記号の大きさの範囲から,例えば,比較的小さい方のサイズを選択すれば,それはすなわち「少なくとも50Xの倍率の可視光下で判読可能な」に該当することになるので,引用発明に基づいて,「少なくとも50Xの倍率の可視光下で判読可能な」記号を選択することは,実質的には当業者が適宜なし得る程度のことというべきものである。
(4-2)[相違点2]について
刊行物Aにおいて,顔料薄片は,無機シートを所望の顔料薄片へと破砕する工程により製造するものであり,「典型的には不規則形状及び寸法の小さな部片に破断される」(A-7;【0018】)とするものであって,ここでは「典型的には」の語が用いられていて,「所望の顔料薄片」の形状が必ずしも「不規則形状」に限定されているものではないと解されるとともに,該刊行物Aにおいて,従来技術として言及されている,「記号の形をした情報を担持する超小型のアルミニウム小板」については,「アルミニウム小板は,後に小板寸法に切断される薄いアルミニウム箔内にエンボシングされた区分として形成される」(A-5;【0002】)と記載されていて,この記載からアルミニウム小板が同じ形状をしていることを示唆するものとも解される(刊行物Aのこの段落【0002】で引用されている米国特許第5744223号には,「many thousands of identical platelets(数千個の同一形状の小板)」(第2カラム第36行)を使用することが記載されている。)。
そして,刊行物Bには,顕微鏡などの拡大手段を用いて,標識のため使用した微小粒体を,周辺の物質から視覚検査によって容易に認識するために,球状,円筒状,多面状またはその他の幾何学的形状の微小粒体とすることが記載されている。((B-1)?(B-3))
そうすると,引用発明において,「容易に検出できる記号を担持する不透明な複数の顔料薄片」について,不規則形状の「顔料薄片」を,球状等の容易に認識できる形状のものに統一すること,すなわち,同じ形状を有するものに変更することは,当業者が容易に想到し得たものといえる。
(4-3)本願発明の効果について
本願明細書の記載をみても,本願発明により当業者が予期し得えない格別な効果が奏されるものとすることができない。

5.むすび
以上のとおり,本願請求項1に係る発明は,上記刊行物A及びBに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-28 
結審通知日 2013-03-29 
審決日 2013-04-10 
出願番号 特願2007-287794(P2007-287794)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牟田 博一  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 橋本 栄和
小出 直也
発明の名称 潜在セキュリティー用途のためのフレーク  
代理人 山本 秀策  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  

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