• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1278495
審判番号 不服2012-6292  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-06 
確定日 2013-08-21 
事件の表示 特願2008-552620「財産のデータを使用するためのシステムと方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 9日国際公開、WO2007/090105、平成21年 7月 2日国内公表、特表2009-524895〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年1月29日(優先権主張 2006年1月27日 米国)を国際出願日とする特許出願であって,平成23年7月1日付けの拒絶理由通知に対して平成23年11月2日に意見書の提出とともに手続補正がなされ,平成23年12月1日付けの拒絶査定に対して平成24年4月6日に審判請求がなされるとともに手続補正がなされ,平成24年9月11日付けの当審の審尋に対して平成25年1月17日に回答書が提出されたものである。

第2 平成24年4月6日の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年4月6日の手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正について
平成24年4月6日の手続補正(以下「本件補正」という。)により,本件補正前の旧請求項1?13の発明は,本件補正後の新請求項1?13の発明に補正された。
本件補正前後の各請求項の対応をみれば,本件補正後の新請求項1?6の方法の発明及び新請求項7?13のシステムの発明は,それぞれ,本件補正前の旧請求項1?6の方法の発明及び旧請求項7?13のシステムの発明に対応する。

2.検討
そこで,本件補正後の新請求項1に係る発明の補正の目的について検討する。
(1)本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は以下のとおり補正された。
(なお,本件補正前の(a)?(c),(d1),(d2)の各符号,及び本件補正後の(A)?(C),(D1)?(D3)の各符号は,審理を整理するため,当審で特許請求の範囲の記載を分説して付したものであり,アンダーラインは補正の箇所を示すものとして,当審で付したものである。)

<本件補正前の特許請求の範囲の請求項1>
「(a)商品を売買する少なくとも一つの注文を,通信ネットワークを介して受信するステップであり,前記少なくとも一つの注文は価格を指定するところのステップ;
(b)前記商品の内部評価価格をメモリに格納されたデータベースにアクセスすることによって決定するステップ;
(c)前記指定された価格と前記内部評価価格とを比較することによって,前記指定された価格が前記内部評価価格と,ある量だけ異なると判断するステップ;
および
(d1)前記内部評価価格と前記量だけ異なっている前記指定された価格に応答して前記少なくとも一つの注文を規則に基づいて抑止するステップであって,(d2)前記規則は,特定の商品に特化した規則と全ての商品のための汎用的な規則とを含むところのステップ;
を有する方法。」
(以下「本件補正前発明」という。)

<本件補正後の特許請求の範囲の請求項1>
「少なくとも1つのプロセッサにより実行される方法であって,
(A)商品を売買する少なくとも一つの注文を,通信ネットワークを介して受信するステップであり,前記少なくとも一つの注文は価格を指定するところのステップと;
(B)前記商品の内部評価価格をメモリに格納されたデータベースにアクセスすることによって決定するステップと;
(C)前記指定された価格と前記内部評価価格とを比較することによって,前記指定された価格が前記内部評価価格と,ある量だけ異なると判断するステップと;
(D1)規則を決定するステップであって,
前記規則は,価格差を定義し,前記規則は,前記内部評価価格と比較して注文の価格が前記価格差の中になければならないことを指定し,
前記規則を満足しない注文は,取引所に通信しない,
こととするステップと;
(D2)ユーザの注文が取引所に通信される前であって,かつ,決済される可能性のある他の注文にさらされる前に:
(i)前記少なくとも1つのプロセッサにより,前記ユーザの注文が前記規則を満足するかを判断するステップと;
(ii)前記ユーザの注文が前記規則を満足しないことに応答して,前記少なくとも1つのプロセッサにより,前記ユーザの注文が,前記取引所に通信されることを抑止するステップと
(iii)前記少なくとも1つのプロセッサによって,前記ユーザの注文の前記取引所への通信が抑止されることを前記ユーザに伝達するステップと;
を有し,
(D3)前記規則は,特定の商品に特化した規則と全ての商品のための汎用的な規則とを含む;方法。」
(以下「本件補正後発明」という。)

3.判断
(以下,例えば,前記「1.」の「(A)」などで分説される事項を,「(A)の事項」などという。)

(1)本件補正後発明の(D1)の事項について。
(ア)本件補正後発明の(A)?(C)の各事項は,本件補正前発明の(a)?(c)の各事項に対応することが明らかであるから,本件補正後発明の(D1)?(D3)の事項は,本件補正前発明の(d1)?(d2)の事項に対応する。
(イ)本件補正後発明の(D3)の事項は,本件補正前発明の(d2)の事項に対応し,本件補正後発明の(D2)の事項は,注文の抑止に係る事項である点で一応共通することから,本件補正前発明の(d1)の事項に一応対応する。
(ウ)すると,本件補正後発明の(D1)の事項は,本件補正前発明には,対応する事項が見当たらない。
(エ)つまり,本件補正後発明の(D1)の,「規則を決定するステップであって,前記規則は,価格差を定義し,前記規則は,前記内部評価価格と比較して注文の価格が前記価格差の中になければならないことを指定し,前記規則を満足しない注文は,取引所に通信しない,こととするステップ」とのステップを特定する事項は,新たなステップ(つまり「新たな作用」。)を特定するものであって,本件補正前発明のいずれの事項をも限定的に減縮するものではない。

(オ)本件補正後発明の(D1)の事項に関し,審判請求人は,平成25年1月17日の回答書で,以下の回答をしている。
「(1)まず,補正後の構成要件「規則を決定するステップであって,前記規則は,価格差を定義し,前記規則は,前記内部評価価格と比較して注文の価格が前記価格差の中になければならないことを指定し,前記規則を満足しない注文は,取引所に通信しない,こととするステップ」は,補正前の,「規則」の内容をより具体的に規定したものであって,限定的な減縮であることは明らかです。規則は,定義されている必要があるのは当然であり,その規則の内容を限定的に明記した構成要件であります。」
(回答書第3ページ下から10行?下から2行)

(カ)審判請求人の上記回答について検討する。
確かに,本件補正後発明の(D1)は「規則」の内容をより具体的に規定することを含むものであり,確かに,規則は,定義されている必要があるのは当然であり,確かに,本件補正後発明の(D1)は,その規則の内容を限定的に明記した構成要件を含むものではある。
ここで,本件補正前発明には,「規則」があることや「規則」の内訳(つまり「特定の商品に特化した規則」と「全ての商品のための汎用的な規則」との内訳。)があることが,(d1),(d2)で特定されてはいる。
しかし,「規則を決定する」ための一連の「ステップ」を特定する事項は,本件補正前発明には,対応する事項が見当たらない。
つまり,審判請求人の主張を参照してもなお,(D1)のステップを特定する事項は,新たな作用を特定するものであって本件補正前発明のいずれの事項をも限定的に減縮するものではない。
したがって,審判請求人の主張を採用することはできない。

(キ)以上のとおりであるから,本件補正後発明の(D1)の事項を特定する補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項2号の,請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である特許請求の範囲の減縮に該当するものと認めることはできない。

(2)本件補正後発明の(D2)の(iii)の事項について。
仮に,本件補正後発明の(D1)の事項が,限定的な減縮にあたるとして,さらに本件補正後発明の(D2)の(iii)の事項について検討する。

(ア)本件補正後発明の(D2)の事項は,「ユーザの注文が取引所に通信される前であって,かつ,決済される可能性のある他の注文にさらされる前に:(i)前記少なくとも1つのプロセッサにより,前記ユーザの注文が前記規則を満足するかを判断するステップと;(ii)前記ユーザの注文が前記規則を満足しないことに応答して,前記少なくとも1つのプロセッサにより,前記ユーザの注文が,前記取引所に通信されることを抑止するステップと(iii)前記少なくとも1つのプロセッサによって,前記ユーザの注文の前記取引所への通信が抑止されることを前記ユーザに伝達するステップと;を有」することを特定する。
(イ)対応する本件補正前発明の(d1)は,「前記内部評価価格と前記量だけ異なっている前記指定された価格に応答して前記少なくとも一つの注文を規則に基づいて抑止するステップ」との事項を特定する。
(ウ)ここで,本件補正後発明は「3つ」のステップを有することを特定するのに対して,本件補正前発明は「1つ」のステップを特定するにとどまることはさておき,本件補正後発明の(D2)の(i)のステップと(ii)のステップとは,本件補正前の(d1)のステップとは,「注文や注文の通信を抑止する」という点で一応共通する。
(エ)しかし,本件補正後発明の(D2)の(iii)の,「ユーザの注文の前記取引所への通信が抑止されることを前記ユーザに伝達するステップ」との事項を特定するステップは,本件補正前発明をみても,対応する事項が見当たらない。
(オ)つまり,本件補正後発明の(D2)の(iii)の,「ユーザの注文の前記取引所への通信が抑止されることを前記ユーザに伝達するステップ」とのステップを特定する事項は,新たな作用を特定するものであって本件補正前発明のいずれの事項をも限定的に減縮するものではない。

(カ)本件補正後の(iii)の事項に関し,審判請求人は,平成25年1月17日の回答書で,以下の回答をしている。
「(3)補正後の構成要件「(iii)前記少なくとも1つのプロセッサによって,前記ユーザの注文の前記取引所への通信が抑止されることを前記ユーザに伝達するステップ」は,補正前の「注文を規則に基づいて抑止するステップ」をより具体的に規定したものであることは明らかです。すなわち,補正前において,「抑止」されることが,どのような動作を行うのかをより具体的に明記したものです。「抑止」したことは,何らかの形で外部から分かるように伝達することが必要であります。この点を,より具体的に明記し限定的に減縮したのが,この構成要件であります。」
(回答書第4ページ10行?17行)

(キ)審判請求人の上記回答について,以下に検討する。
発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【0021】
いくつかの実施例では,例えば,データが利用できるようにされている受付管理者または顧客からトレーダに対して,証券上の注文を全く行わないよう指示される。あるいは,トレーダは,内部価格あるいはその他の財産のデータからみて,価格が一定価格以上離れていたり,価格が分散していたりしている場合,価格が示されて,証券の注文を出さないよう指示される。この場合,受け取られる注文が規則を満たす場合,システム100で関連した規則を受信するかまたは適用して(208),判断する(212)。規則を満たさない注文は,抑止されるかまたは,あるいは,ステップ214で送信されるのを防止される。そして,ステップ216でオーダーが抑止されたかおよび/またはオーダーが規則を満たさないことを示して,オーダーを送信しているトレーダに通知される。例えば,規則を満たす注文は,ステップ218で取引のための取引所または店頭取引(OTC)に送信される。規則は通常,財産のデータ(例えば内部および/または評価価格)の取り扱い機能を示す。そして,規則は,特定の有価証券または商品(有価証券または商品のクラス,タイプ)に特化したものと,全ての有価証券または商品のための汎用のものがある。注文は,自動的なマッチングによるか,たとえば,その時の未決注文の受理によって,決済される(220)。
【0022】
規則によって指定される差額の量(amount)は証券のタイプに依存する。タイプとしては,証券の流動性,証券に課されている売買制限,証券の価格のバリエーション等がある。そして,この差額の量(amount)は,受付管理者によって指示されるかまたは受付管理者を雇用する銀行または機関によって指定される。したがって,注文は,この種の指示に従って参加者によって調整される。すなわち,規則を満たさないオーダーは,規則を満たす別の価格が指定されて再送信される。あるいは,注文を送信しているトレーダは,注文がブロックされる前か後に,許可を要請する。または,特定の場合においては,この種の命令または規則を無視してよいかの許可を要請する。他の実施例では,この種の指示が,警告またはガイドラインの形をとる。すなわち,指示が,将来の規制となりうるもの,あるいは,必ずしも拘束を要求しない好ましい運用ガイドラインという形をとる。」

(ク)発明の詳細な説明の上記の記載によれば,「抑止されることがどのような動作を行うのか」について,「何らかの形で外部から分かるように伝達すること」として,サーバが,「価格が示されて証券の注文を出さないよう指示」したり,「オーダーが抑止されたかおよび/またはオーダーが規則を満たさないことを示して,オーダーを送信しているトレーダに通知」するという具体的な作用が想定される。
サーバのこれら具体的な作用が,本件補正前発明に含まれることは想定することができない。
(ケ)さらに,注文が抑止される差額は管理者により指示され,トレーダーであるユーザにより調整されるものであるから,「抑止されることをユーザに伝達する」ことは,例えば,トレーダーが注文がブロックされる前か後に許可を要請するなど,サーバとトレーダのコンピュータが連係する新たな作用にもつながる。

(コ)仮に,「ユーザの注文の取引所への通信が抑止されることをユーザに伝達する」との事項が,単に,「注文が抑止されたことをユーザに伝達する」ものであったとしても,この作用は,やはり新たな作用を特定するものであって本件補正前発明のいずれの事項をも限定的に減縮するものではない。
(サ)そして,そもそも本件補正前発明の審査は,つまり,「金融商品の注文が価格の条件を満たさない場合に注文を抑止する」ことの進歩性を判断したものであるから,「金融商品の注文が価格の条件を満たさない場合に,ユーザの注文の取引所への通信が抑止されることをユーザに伝達する」ことの進歩性の判断は,新たな審理が必要となる。
以上(キ)?(サ)のことから,審判請求人の主張を採用することはできない。

(シ)以上のとおりであるから,仮に,本件補正後発明の(D1)の事項が,限定的な減縮にあたるとしても,本件補正後発明の(D2)の(iii)の事項を特定する補正は,改正前の特許法第17条の2第4項2号の,請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である特許請求の範囲の減縮に該当するものと認めることはできない。

以上,(1),(2)の判断のほか,本件補正後発明の(D1)の事項を特定する本件補正や,(D2)の(iii)の事項を特定する本件補正は,請求項の削除,誤記の訂正にあたらないことは明らかであり,原査定の拒絶理由通知で明りょうでないことの指摘もしていないことから,明りょうでない記載の釈明にもあたらないことも明らかである。

4.むすび
以上のとおり,本件補正は,改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり,特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成24年4月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成23年11月2日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「商品を売買する少なくとも一つの注文を,通信ネットワークを介して受信するステップであり,前記少なくとも一つの注文は価格を指定するところのステップ;
前記商品の内部評価価格をメモリに格納されたデータベースにアクセスすることによって決定するステップ;
前記指定された価格と前記内部評価価格とを比較することによって,前記指定された価格が前記内部評価価格と,ある量だけ異なると判断するステップ;および
前記内部評価価格と前記量だけ異なっている前記指定された価格に応答して前記少なくとも一つの注文を規則に基づいて抑止するステップであって,前記規則は,特定の商品に特化した規則と全ての商品のための汎用的な規則とを含むところのステップ;
を有する方法。」

2.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は以下のとおりである。
「【拒絶理由】3.この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
<<請求項1?17>>
引用文献1には,証券取引を行う際に,取引規制登録テーブルを参照することにより,銘柄や注文内容が登録されている内容に抵触するか判断し,警告メッセージを表示すること,強制注文ボタンにより警告を受けても注文を行うこと,が記載されている。
引用文献2(特に,段落【0026】,【0050】)には,注文提示要求のレートとレートサーバにおいて算出された内部レートとの間に予め定められた以上の乖離が存在する場合に,ワーニングメッセージを送信し,不利な執行条件での債券取引を抑制することが記載され,引用文献1記載の発明において,取引規制として内部レートとの乖離を登録するよう構成することは当業者にとって容易である。
(途中略)
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2005-18517号公報
2.特開2005-32049号公報
3.(略)
【拒絶査定】この出願については,平成23年7月1日付け拒絶理由通知書に記載した理由3によって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
(途中略)
引用文献1段落【0019】には,「(途中略)本システムの特徴として,ディーラー端末42は,注文発生時に注文系DBサーバ32を参照して法的規制や自主規制に抵触しないかどうかを判断する規制チェック手段(図示せず)を備えたものである。」ことが記載されており,引用文献1には,「特定の商品に特化した規則と全ての商品のための汎用的な規則」とが開示されている。
したがって・・・先の拒絶理由は依然として解消していない。
(以下略)」

3.引用文献
ア 原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-18517号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。
(以下「引用例1摘記事項」という。)
(ア)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,証券取引システムに係り,特に株式等の注文時に取引規制に抵触するか否かを判断し,迅速な発注処理を行うことができる証券取引システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来,証券会社等には,取引所で発生する株価等の証券データを表示すると共に,顧客の注文を受け付けて,証券売買を発注する証券取引システムがあった。
また,注文発生時には,当該注文が予め設定されている規制に抵触するか否かの規制チェックを行う必要があり,このような規制チェックは,証券取引管理者より与えられた情報を元に,発注処理担当者が自己の判断で規制の有無を判断して発注処理を行うようになっていた。」
(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,従来の証券取引システムでは,注文が規制に抵触しているか否かの判断は発注処理担当者が行うため,見逃しや判断誤り等の人為的ミスが発生する可能性があり,また,判断に時間がかかって迅速な発注処理を妨げてしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので,発注処理担当者が特別な操作を行わなくても注文が規制に抵触するか否かの正確な判断を行って,発注処理を迅速に行うことができる証券取引システムを提供することを目的とする。」
(ウ)「【0029】
次に,本システムにおけるディーラー端末42の注文時の動作について説明する。
ディーラー端末42において,「発注ボタン」等の押下により注文の指示が入力されると,ディーラー端末42は注文入力画面を表示して入力を受け付ける。
ここで,ディーラー端末42における注文入力画面の表示例について図6を用いて説明する。図6は,ディーラー端末42の注文入力画面の表示例を示す説明図である。
図6に示すように,注文入力画面は,「コード」(銘柄コード)と,「売買」(「売り」又は「買い」の指定)と,「値段」(注文値段)と,「数量」(注文数量)と,「空売り」(空売り規制の有無)と,「管理」(管理用項目)と,「執条」(執行条件)と,「値条」(値段条件)と,「停失」(売停失効フラグ)と,「注文ボタン」「クリアボタン」「注文予約ボタン」「強制注文ボタン」とが設けられている。
【0030】
「強制注文ボタン」は本システムの特徴部分であり,取引規制登録テーブル33で注意規制銘柄として登録されている銘柄については,ディーラー端末42は,「強制注文ボタン」がクリックされないと注文/約定系サーバ31への発注に移行しないようになっている。
【0031】
次に,ディーラー端末42における発注処理について図7を用いて説明する。図7は,本システムのディーラー端末42の発注処理を示すフローチャート図である。
図7に示すように,ディーラー端末は,「発注ボタン」が押下されると,ディーラー端末42は,図6に示した注文入力画面を表示して,注文情報を入力する(100)。
【0032】
注文情報が入力され,確定ボタン(OKボタン)等がクリックされると,ディーラー端末42は,注文系DBサーバ32にアクセスして取引規制登録テーブル33を参照し(102),規制チェックとして,当該注文が,登録されている取引規制情報に抵触するか否かを判断する(104)。
そして,規制チェックの結果,取引規制情報に抵触しない場合(OKの場合)には,当該注文条件に従って,注文/約定系サーバ31に発注する。
【0033】
また,処理104において,取引規制情報に抵触する場合には(NGの場合)には,エラーメッセージを表示する(106)。
エラーメッセージの例としては,「注意規制銘柄」が注文された場合には,警告メッセージとして,「発注チェックワーニング[社内取引注意銘柄]」(例えば,「要注意!この銘柄は社内取引中銘柄です」)を表示して,ディーラーに注意を促す。そして,このような警告メッセージを表示した場合には,図6に示した「強制注文ボタン」がクリックされた場合に限り,注文/約定系サーバ31に発注する(図示せず)。」
(エ)「【0042】
更に,ここでは,規制チェックの処理はディーラー端末42において行われるものとしているが,注文/約定系サーバ31が行うようにしてもよい。
具体的には,ディーラー端末42において,注文情報が入力されて,確定ボタンが押下されると,従来と同様に,ディーラー端末42は注文情報をそのまま注文/約定系サーバ31に出力する。そして,注文/約定系サーバ31が当該注文情報を入力すると,注文系DBサーバ32の取引規制登録テーブル33を参照して,当該注文が規制に抵触しないかどうかをチェックする。
【0043】
そして,抵触しない場合にはそのまま売買接続サーバ21に注文を出力する。また,規制に抵触する場合には,予め記憶してある警告メッセージやエラーメッセージを発注元のディーラー端末42に出力する。これにより,注文が規制に抵触した場合にはディーラー端末42の表示画面にメッセージが表示され,取引が中断される。」

イ 引用例1摘記事項の(エ)の摘記事項を参酌して(ウ)の摘記事項をみれば,引用例1には,次の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「注文が規制に抵触するか否かの正確な判断を行って,発注処理を迅速に行うことができる証券取引システムを提供するものであって,
ディーラー端末に注文入力画面を表示し,ディーラーが,注文入力画面で銘柄,売買,値段,数量の注文情報を入力すると,ディーラー端末は,注文情報をそのまま注文/約定系サーバに出力し,
注文/約定系サーバは,取引規制登録テーブルを参照し,規制チェックとして,注文が,登録されている取引規制情報に抵触するか否かを判断し,
規制チェックの結果,取引規制情報に抵触しない場合には,注文条件に従って発注し,
取引規制情報に抵触する場合には,エラーメッセージを表示して発注しない
証券取引システム。」

ウ 原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-32049号公報(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。
(以下「引用例2摘記事項」という。)
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,債券取引を支援する債券データ処理システム,コンピュータシステムにおける債券データの処理方法及びそのコンピュータプログラムに関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来技術に鑑みてなされたものであって,債券取引を効果的に支援することができる債券データ処理システム及びコンピュータシステムにおける債券データの処理方法を提供することを一つの目的とする。」
(ウ)「【0018】
本発明の第5の態様は,ディーラ・システムから,注文提示データを取得するステップと,前記取得した注文と同一銘柄の債券に関する内部レート/価格に関するデータを取得するステップと,前記注文のレート/価格と,前記内部レートとを比較するステップと,前記比較するステップの結果に基づき,前記ディーラ・システムにワーニングを通知するステップと,を備える。これにより,ディーラによる不利な執行条件での取引を抑制することができる。前記ワーニングを通知するステップにおいて,前記注文のレート/価格と前記内部レート/価格との間に予め定められた値以上の乖離が存在する場合,前記ワーニングが通知される,ことが好ましい。」
(エ)「【0025】
図1は,本実施の形態における債券取引システムの論理システム構成を示す,ブロック図である。図1において,101-103は,債券の業者間取引を仲介する仲介業者の仲介業者システムであって,典型的には,仲介業者毎に異なるシステムが構築される。104-106は,ディーラ・コンピュータであって,ディーラはこの端末において,仲介業者システム101-103からの債券に関する注文情報の確認,仲介業者システム101-103へのオファー/ビッドの注文の提示,あるいは実際の債券売買取引処理を行うことができる。
【0026】
107は,複数の仲介業者システム101-103とディーラ・コンピュータ104-106との間の注文情報あるいは注文要求を媒介する債券注文管理システムである。108は,レート・サーバであって,システムのユーザである取引業者が,マーケットに提示する独自の時価の基となる内部レートを算出する。ユーザの独自の内部レートは,債券注文管理システムに渡される。各債券銘柄について算出することができる。109-111は,各仲介業者システム101-103からの注文データなどの各種データを受信し,債券注文管理システム107に転送するフィーダである。」
(オ)「【0048】
図6は,債券注文管理システム107の論理構成を示すブロック図である。図6は,債券注文管理システム107において,ディーラ・コンピュータ104-106からの注文要求の処理に関する構成(注文系)を主に示している。図6において,601は注文の状態を管理する注文状態管理部である。602は自社のオファー/ビッドの注文残量の判定,あるいは売買取引要求の数量判定などのアクションを実行するアクション実行部である。
【0049】
603は,自社(システム)の注文数量やマーケットに出ている注文残数量の管理を行うバランサである。604は,レート・サーバ108から内部レートを取得するレート取得部である。オファー/ビッドの注文提示要求や,ヒット/テイクの売買取引要求などの注文要求は,注文転送サーバ116を介して,仲介業者システム101-103に転送される。注文転送サーバ116へのデータ送信は,インターフェース部605を介してなされる。
【0050】
オファー/ビッドの注文提示要求の処理について,図7を参照して説明する。ディーラ・コンピュータ104-106からオファー/ビッドの注文提示要求が送信されると,クライアント通信部407がそれを受信(S701)し,メッセージ仲介部402に渡す。メッセージ仲介部402は,取得した注文提示要求のレートと,レート・サーバ108からレート受信部604を介して取得した内部レートを比較し,内部レートと比較して,注文要求の妥当性を決定する(S702)例えば,注文提示要求のレートと内部レートとの間に予め定められた値以上の乖離が存在する場合,ディーラ・コンピュータに対してワーニングのメッセージを生成し送信する(S703)。これにより,ディーラによる不利な執行条件での債券取引を抑制することができる。
【0051】
注文提示要求が内部レートに対して妥当な値である場合,メッセージ仲介部402は注文提示要求の内容に従って仲介業者システムに送信するための注文提示要求を生成する。例えば,複数の仲介業者システムに送信する場合,各仲介業者システムのデータ・フォーマットに適合した注文提示要求を,それぞれ生成する。注文提示要求は,複数もしくは一つの仲介業者システムに送信することができる。
【0052】
メッセージ仲介部402は,データ・ベース・インターフェース部403を介して,注文提示要求をデータ・ベース115のQUEUEに追加する。さらに,メッセージ仲介部402は注文状態管理部601に注文提示要求に関するデータを渡す。注文状態管理部601は,注文提示要求の識別子とその注文状態とを関連付けて記憶し,管理する。例えば,ディーラ・コンピュータから注文を受け付け,仲介業者システムへ送信前であることを,注文提示要求の識別子と関連づけて記憶し,管理する。必要なデータは,データ・ベース115に記憶もしくは,債券注文管理システム内のメモリに記憶することができる。」

エ 引用例2摘記事項によれば,引用例2には以下の事項が開示される。
(以下「引用例2開示事項」という。)
「債権注文管理システムが,ディーラ・コンピュータから注文提示要求が送信されると,レート・サーバから内部レートを取得し,注文提示要求のレートと内部レートと比較し,注文提示要求のレートと内部レートとの間の乖離が,予め定められた値以上の乖離が存在する場合には債権取引を抑制する。」

4.対比
(ア)引用例1発明は,「ディーラーが,注文入力画面で銘柄,売買,値段,数量の注文情報を入力すると,ディーラー端末は,注文情報をそのまま注文/約定系サーバに出力し,注文/約定系サーバは,取引規制登録テーブルを参照し,規制チェック」するものである。
ディーラーの注文は証券の売買であるから,本願発明の「商品の売買の注文」に相当する。
そして,「商品を売買する注文」は,ディーラー端末から注文/約定系サーバに送信されるものであるから,注文/約定系サーバが,「商品を売買する注文」を,「通信ネットワークを介して受信」する。
してみると,引用例1発明と本願発明とは,後記する点で相違するものの,「商品を売買する少なくとも一つの注文を,通信ネットワークを介して受信するステップであり,少なくとも一つの注文は価格を指定するところのステップ」である点で共通する。
(イ)引用例1発明は,「注文/約定系サーバは,取引規制登録テーブルを参照し,規制チェックとして,注文が,登録されている取引規制情報に抵触するか否かを判断し,規制チェックの結果,取引規制情報に抵触しない場合には,注文条件に従って発注し,取引規制情報に抵触する場合には,エラーメッセージを表示して発注しない」ものである。
つまり,引用例1発明は,注文系DBサーバのメモリに格納された取引規制登録テーブルにアクセスして取引規制情報を取得し,注文情報が取得した取引規制情報に抵触するか規制チェックをし,抵触する場合には注文が発注されないものである。
ここで,引用例1発明の,「注文情報と取引規制情報とが抵触する場合に注文が発注されないよう規制チェックする」ことと,本願発明の,「指定された価格と内部評価価格とを比較し,指定された価格が内部評価価格とある量だけ異なると判断し,内部評価価格とある量だけ異なっている指定された価格に応答して注文を規則に基づいて抑止する」こととは,後記する点で相違するものの,「注文の情報と発注抑止のための情報とを対比し,許容できなければ注文を抑止する」という点で共通する。
してみると,引用例1発明と本願発明とは,後記する点で相違するものの,「商品の発注抑止のための情報をメモリに格納されたデータベースにアクセスすることによって決定するステップと,注文の情報と発注抑止のための情報とを対比し,許容できるか判断するステップと,許容できなければ注文を抑止するステップ」とを有する点で共通する。

したがって両者は,
[一致点]
「商品を売買する少なくとも一つの注文を,通信ネットワークを介して受信するステップであり,少なくとも一つの注文は価格を指定するところのステップと,
商品の発注抑止のための情報をメモリに格納されたデータベースにアクセスすることによって決定するステップと,
注文の情報と発注抑止のための情報とを対比し,許容できるか判断するステップと,
許容できなければ注文を抑止するステップと
を有する方法」
の発明である点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明は,発注抑止が商品の価格でなされるものであるのに対して,引用例1発明は,注文が価格の情報を含むものの,発注抑止は商品の価格でなされるものではない点。
このことから,本願発明は,「商品の発注抑止のための情報を決定する」ことが,「商品の内部評価価格を決定する」ものであり,「注文の情報と発注抑止のための情報とを対比する」ことが,「指定された価格と内部評価価格とを比較する」ものであり,「許容できるか判断し,許容できなければ注文を抑止する」ことが,「指定された価格が内部評価価格とある量だけ異なると判断」し,「内部評価価格とある量だけ異なっている指定された価格に応答して注文を規則に基づいて抑止する」ものであるのに対して,引用例1発明はそのようなものではない点。
[相違点2]
本願発明の規則は,特定の商品に特化した規則と全ての商品のための汎用的な規則とを含むのに対して,引用例1発明の取引規則は,そのようなものではない点。

5.相違点に対する判断
[相違点1]について。
引用例2開示事項によれば,引用例2には,債権の売買の注文に係るものではあるが,「債権注文管理システムが,ディーラ・コンピュータから注文提示要求が送信されると,レート・サーバから内部レートを取得し,注文提示要求のレートと内部レートと比較し,注文提示要求のレートと内部レートとの間の乖離が,予め定められた値以上の乖離が存在する場合には債権取引を抑制する。」ことが開示される。
ここで,本願発明の商品は,具体的には証券であるものの,「金融商品であって株や債権など会社や国が発行するいかなる有価証券をも含む」(本願の【0002】段落の記載参照。)ものであるから,引用例2の債権の売買の注文と本願発明の証券の売買の注文とは,「商品の売買の注文」である点で共通する。
つまり,引用例2は,発注抑止が,売買される商品の価格でなされるものである。
そして,引用例2開示事項の,「内部レート」は,「商品の発注抑止のための情報」であって,本願発明の「商品の内部評価価格」に対応し,以下同様に,「注文提示要求のレートと内部レートと比較」することは,「注文の情報と発注抑止のための情報とを対比」することであって,「指定された価格と内部評価価格とを比較」することに対応し,「注文提示要求のレートと内部レートとの間の乖離が,予め定められた値以上の乖離が存在する場合には債権取引を抑制する」ことは,「許容できるか判断し,許容できなければ注文を抑止する」ことであって,「指定された価格が内部評価価格とある量だけ異なると判断し,内部評価価格とある量だけ異なっている指定された価格に応答して注文を規則に基づいて抑止する」ことに対応する。
してみると,引用例1発明に引用例2開示事項を適用することにより,発注抑止を売買される商品の価格でするよう構成すること,そして,「商品の発注抑止のための情報を決定する」ことを,「商品の内部評価価格を決定する」こととし,「注文の情報と発注抑止のための情報とを対比する」ことを,「指定された価格と内部評価価格とを比較する」こととし,「許容できるか判断し,許容できなければ注文を抑止する」ことを,「指定された価格が内部評価価格とある量だけ異なると判断し,内部評価価格とある量だけ異なっている指定された価格に応答して注文を規則に基づいて抑止する」こととするよう構成することには何ら困難性がなく,当業者が容易に想到することができたものである。
[相違点2]について。
引用例1発明の取引規制登録テーブルに登録される規制情報は,「予め管理者端末が銘柄毎に登録する」(【0020】段落参照。以下「引用例1記載事項A」という。)ものであって,「法的規制に関するデータ(コンプライアンス情報)及びその証券会社独自の判断による自主規制に関するデータ」(【0019】,【0023】段落参照。以下「引用例1記載事項B」という。)であるから,規制は銘柄,つまり特定の商品ごとに登録されるものの,法令順守の情報,つまりすべての商品に共通する汎用的な規制も含まれる。
してみると,引用例1記載事項A,Bに基づいて,「特定の商品に特化した規則と全ての商品のための汎用的な規則とを含む」よう構成することには何ら困難性がなく,当業者が容易に想到することができたものである。

以上のとおりであるから,[相違点1],[相違点2]に係る本願発明の構成は,引用例1発明,引用例2開示事項,及び引用例1記載事項A,Bから当業者が容易に想到することができたものである。

そして,本願発明の全体構成により奏される作用効果も,引用例1発明,引用例2開示事項,及び引用例1記載事項A,Bから予測できる範囲のものである。

したがって本願発明は,引用例1発明,引用例2開示事項,及び引用例1記載事項A,Bに基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-21 
結審通知日 2013-03-26 
審決日 2013-04-08 
出願番号 特願2008-552620(P2008-552620)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮下 浩次  
特許庁審判長 清田 健一
特許庁審判官 金子 幸一
須田 勝巳
発明の名称 財産のデータを使用するためのシステムと方法  
代理人 伊東 忠重  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ