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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1278578
審判番号 不服2012-10773  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-08 
確定日 2013-08-26 
事件の表示 特願2008-548933「アレイアンテナ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月12日国際公開、WO2007/076895、平成21年 6月11日国内公表、特表2009-522885〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2006年1月4日を国際出願日とする出願であって、原審において平成24年2月24日付けで拒絶査定となり、これに対し同年6月8日に審判請求がなされるとともに手続補正書の提出があったものである。
なお、平成24年11月28日付けの当審よりの審尋に対し、平成25年2月14日に回答書の提出があった。


第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年6月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、以下のように補正前の平成23年10月17日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

(本願発明)
「 【請求項1】
通信セル(2)の中に少なくとも1つの基地局(1)を有する無線通信システム(C)であって、
前記基地局(1)は、少なくとも4つのアンテナポート(P1、P2、P3、P4、P1a、P1b、P2a、P2b、P3a、P3b、P4a、P4b)を備える少なくとも1つのアレイアンテナ(3、32)を具備し、
前記少なくとも4つのアンテナポート(P1、P2、P3、P4、P1a、P1b、P2a、P2b、P3a、P3b、P4a、P4b)は、少なくとも2つの行と少なくとも2つの列に配置された少なくとも4つの対応するアンテナ要素(4、5、6、7、33、34、35、36)にそれぞれ接続され、
前記少なくとも4つのアンテナ要素(4、5、6、7、33、34、35、36)は本質的に同じ偏波を有し、
前記アレイアンテナ(3、32)が少なくとも2つのアンテナ放射ローブ(24、25、26、27)を介して通信を行うように構成され、
それぞれのアンテナ放射ローブ(24、25、26、27)は、前記少なくとも4つのアンテナ要素のそれぞれにより生成され、前記通信セル(2)の中の少なくとも1つのユーザ装置(UE23)と1つの情報ストリームの通信を行い、多入力多出力(MIMO:Multiple Input Multiple Output)により通信を行い、
それぞれのアンテナ放射ローブは、前記情報ストリームの通信が本質的に最適となるように、方位角及び仰角の両方向に個々に制御可能であり、
前記アンテナ放射ローブ(24、25、26、27)の制御は、前記UE(23)からのフィードバック情報に基づいて適応的に実行され、
前記フィードバック情報は、いわゆるチャネル品質表示(CQI:Channel Quality Indicator)値の形をしていることを特徴とする無線通信システム(C)。」

(補正後の発明)
「 【請求項1】
通信セル(2)の中に少なくとも1つの基地局(1)を有する無線通信システム(C)であって、
前記基地局(1)は、少なくとも4つのアンテナポート(P1、P2、P3、P4、P1a、P1b、P2a、P2b、P3a、P3b、P4a、P4b)を備える少なくとも1つのアレイアンテナ(3、32)を具備し、
前記少なくとも4つのアンテナポート(P1、P2、P3、P4、P1a、P1b、P2a、P2b、P3a、P3b、P4a、P4b)は、少なくとも2つの行と少なくとも2つの列に配置された少なくとも4つの対応するアンテナ要素(4、5、6、7、33、34、35、36)にそれぞれ接続され、
前記少なくとも4つのアンテナ要素(4、5、6、7、33、34、35、36)は本質的に同じ偏波を有し、
前記アレイアンテナ(3、32)が少なくとも2つのアンテナ放射ローブ(24、25、26、27)を介して通信を行うように構成され、
それぞれのアンテナ放射ローブ(24、25、26、27)は、前記少なくとも4つのアンテナ要素のそれぞれにより生成され、前記通信セル(2)の中の少なくとも1つのユーザ装置(UE23)と1つの情報ストリームの通信を行い、多入力多出力(MIMO:Multiple Input Multiple Output)により通信を行い、
それぞれのアンテナ放射ローブは、前記情報ストリームの通信が本質的に最適となるように、方位角及び仰角の両方向に個々に制御可能であり、
前記アンテナ放射ローブ(24、25、26、27)の制御は、前記UE(23)からのフィードバック情報に基づいて適応的に実行され、
前記フィードバック情報は、いわゆるチャネル品質表示(CQI:Channel Quality Indicator)値の形をし、
それぞれのアンテナ要素は、少なくとも1つの放射要素を備えることを特徴とする無線通信システム(C)。」


2.補正の適否
(1)新規事項の有無、補正の目的要件
上記本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、本願発明に「それぞれのアンテナ要素は、少なくとも1つの放射要素を備える」との構成を追加して限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

(2)独立特許要件
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

[補正後の発明]
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。


[引用発明]
原審の拒絶理由に引用された特表2005-509316号公報(以下、「引用例」という。)には、「送受信装置における多入力・多出力通信チャンネルを制御する方法およびシステム」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重ストリームかつ多重アンテナの受信機におけるフィードバック方法であって、
多重アンテナ送信機と多重アンテナ受信機との間の複合チャネルを測定して、複合チャネルの測定値を生成するステップと、
前記複合チャネルの測定値に応答して、前記多重アンテナ送信機において使用するための複数のアンテナアレイの重みセットを選択するステップであって、各アンテナアレイの重みセットは、複数のデータストリームのうちの1つに関連付けられるステップと、
前記多重アンテナ送信機において使用するための前記多重アンテナアレイの重みセットについて記述した情報を送信するステップとを含む、フィードバック方法。
(・・・中略・・・)
【請求項7】
多重ストリームかつ多重アンテナの送信機におけるフィードバック方法であって、
ユーザデータを分割して複数のデータストリームを生成するステップと、
アンテナアレイの各アンテナからパイロット信号を送信するステップと、
前記複数のデータストリームの各々に対して選択されたアンテナアレイの重みセットの指示を受信するステップであって、各アンテナアレイの重みセットは、前記アンテナアレイの各アンテナに関連付けられた重みを含み、
前記選択されたアンテナアレイの重みセットを使用して各データストリームを重み付けして、前記アンテナアレイで各アンテナのためのアンテナ信号を生成するステップと、
前記アンテナ信号を送信するステップであって、前記複数のデータストリームが送信されるステップとを含む、フィードバック方法。」(2頁)

ロ.「【0001】
本発明は一般に通信システムに関し、特に多入力・多出力通信チャンネルにおいて複数のデータストリームの送信および受信を制御する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
通信システムの設計者は、送信機と受信機との間の通信チャンネルの容量を増大させる方法を常に捜し求めている。通信チャンネルは、ある点から他の点にシンボル列を伝送するシステムとして定義することができる。例えば、移動体通信システムは、音声またはデータを表すシンボル列を電話交換装置と加入者装置との間で、相互に無線で伝送し合うチャネルを含んでいる。このチャネルの容量の増加は、シンボルの送信速度の向上を意味している。つまり、より多くのシンボルを同一時間内に送信することによって、音声はより良好となり、かつデータファイルの送信もより短時間に行うことができる。
【0003】
無線通信チャンネルの容量を増大させるために、送信されたエネルギーを効率良く受信機に集中させるアンテナアレイが送信機に使用されてきた。アンテナアレイは、他のアンテナ信号と特定の利得や位相関係を有するアンテナ信号を各々送信する、離間されたアンテナ群である。複数のアンテナが協働してアンテナ信号を送信すると、それらの複数のアンテナは、単一のアンテナが生成したパターンよりもさらに受信機に集中したアンテナパターンを生成する。アンテナ信号を生成する信号の利得や位相を変更する過程が、一連の「アンテナアレイの重み」を使用した信号の「重み付け」と呼ばれることに注意されたい。
【0004】
アンテナアレイは、信号品質を改善するために受信機においても同様に使用することができるので、チャネル容量を増大させるために送信機と受信機の双方でアンテナアレイを使用することもまた提案されてきた。複数のアンテナを送信機および受信機で使用する場合、それらの間の無線チャネルを多入力・多出力(MIMO:Multiple Input Multiple Output)チャネルと呼ぶことができる。
【0005】
図1は、通信チャンネルの一部分が無線である通信チャンネルの上位の概略図を示している。図に示すように、xは受信機に無線送信されるユーザデータを表している。受信機においては、xはデータの推定値
【数1】
^x
(当審注:文字表記の制約により上付き記号の「^」は前置記号で代用した)
【0006】
として表されている。ユーザデータxは分割されて、複数のデータストリーム、x1、x2、....を表すベクトルを生成していてもよい。
【0007】
ユーザデータxは行列Vで処理されて、アダプティブアレイアンテナ信号zを生成する。行列Vの各列は、データストリームxiのうちの1つを送信するのに使用されるアンテナアレイの重みセットを含むベクトルである。信号zは、アンテナアレイのアンテナ素子から空中を通って送信され、受信アンテナ信号rとして受信機アンテナアレイで受信される。アンテナ信号zと受信アンテナ信号rとの間のエアインタフェースは、信号zに関するエアインタフェースの効果について記述する行列Hを含んでいる。エアインタフェースは、信号zにノイズnを加算した形式でも記述される。
【0008】
受信アンテナ信号rは、受信機において行列U’で処理され、データの推定値
【数2】
^x
を生成する。
【0009】
ここで図2を参照して、2つの入力、2つの出力を有するMIMOアンテナアレイシステムを示す。このMIMOシステムは、2つの異なったデータストリーム、x1およびx2を、下記の行列で定義される「複合チャネル」Hを通じて単一の加入者装置に同時に送信するために用いることができる。
【数3】
(・・・以下略・・・)
」(3?4頁)

ハ.「【0024】
図3を参照して、本発明による方法とシステムを実現するために用いることができる多重ストリームかつ多重アンテナの送信機を示す。図に示すように、送信機20はユーザデータ22を受信し、アンテナ素子26を有するアンテナアレイ24を用いて、ユーザデータ22を送信する。
【0025】
ユーザデータ22は、ユーザデータストリームをデータストリーム30およびデータストリーム32のような複数のデータストリームに分離するデータスプリッタ28に入力される。図3には2つのデータストリームを示しているが、データスプリッタ28は任意の数のデータストリームを生成し得る。データスプリッタ28は、制御装置36によって生成される制御信号34に相応してデータを分割する。例えば、制御信号34は2ビットをデータストリーム30に送り、1ビットをデータストリーム32に送る、2対1の比率を指定してもよい。この分割比は、双方のストリームに等しいビット数を送るように指定してもよいし、またはすべてのデータビットを1つのストリームに送るように指定してもよい。
【0026】?【0030】
(・・・中略・・・)
【0031】
電力割り当て器54の出力は、アンテナアレイ信号プロセッサ58の入力に接続されている。アンテナアレイ信号プロセッサ58は、各データストリームにアンテナアレイの重みセットを適用することによって、データストリームをさらに処理する。これらのアンテナアレイの重みセットは、制御信号60を介して制御装置36から来る。データストリーム30,32にアンテナアレイの重みセットを適用することで、アンテナアレイ信号プロセッサは、異なったアンテナアレイパターンを有する各データストリームの送信を可能にする。
【0032】
アンテナアレイ信号プロセッサ58の出力は、入力データストリームの重み付けされた成分を含んでいる。例えば、出力62は、データストリーム30の位相および利得が重み付けされた部分(phase-and-gain weighted portion)に加え、一緒にデータストリーム32の位相および利得が重み付けされた部分を含んでいてもよい。アンテナアレイ信号プロセッサ58からの重み付けされた出力の数は、データストリームの数以上あってもよい。アンテナアレイ信号プロセッサ58の出力の数は、データストリーム入力の数より多くてもよいが、一方、送信されるデータストリームの数は同じままである。
【0033】
図4をここで参照して、アンテナアレイ信号プロセッサ58の上位のブロック図を示す。図に示すように、データストリーム30,32は、アンテナアレイ信号プロセッサ58に入力され、各データストリームの複製が、アンテナアレイで使用されるアンテナ素子に対応する利得乗算器に送られる。図4で示す例において、2つのアンテナがアンテナアレイで使用されているので、各データストリームの複製は2つの利得乗算器80に送られる。
【0034】
各利得乗算器80の後には、制御信号入力に従って信号の位相を回転させる移相器82が続いている。移相器82の出力は加算器84に接続されており、加算器84は重み付けされたデータストリームを加算して、出力信号62,64を生成する。
【0035】
制御信号60(図3参照)は、複数のアンテナアレイの重みセットを含み、1つのアンテナアレイの重みセットは、各データストリームに関連づけられている。例えば、制御信号60は重みセット信号86,88を含んでいる。重みセット信号86は、データストリーム30に関連づけられた各利得乗算器80および移相器82に対する利得および位相の重み(すなわち、合成された重み)を含んでいる。したがって、データストリーム30に関連づけられた移相器82の出力は、データストリーム30に対して選択されたアンテナパターンを有するアンテナ信号を生成する。同様に、重みセット信号88は、データストリーム32に関連づけられた各利得乗算器80および移相器82の位相および利得の重み付けを含んでいる。データストリーム32に関連づけられた移相器82の出力において、データストリーム32に対して選択されたパターンを有するアンテナアレイを駆動するアンテナ信号を生成する。
【0036】
各データストリームの所望のアンテナパターンを生成するために、データストリームに関連づけられた利得乗算器80は異なる利得値を有し得、またデータストリームに関連づけられた移相器82は異なる位相シフト値を有し得る。それにより、特定の送信パターンを形成するために協働するアンテナ信号が生成される。
【0037】
送信機20に関するいくつかの実施形態において、出力信号62,64は、高周波に変換され、増幅され、さらに2つのアンテナ素子26に接続され得る。但し、図3に示す実施形態においては、出力信号62,64を、制御装置36からの制御信号68に応答して選択されたアンテナ素子26に接続するために、マルチプレクサー66が使用されている。これは、制御信号62はアンテナアレイ24のアンテナ素子26の任意の1つに接続され、一方、出力信号64はアンテナ素子26の残りの1つに接続され得ることを意味する。
【0038】
制御装置36は、フィードバック受信機70から入力された情報とメモリ72に格納されているデータとに基づいて、制御信号34,42,48,56,60,68を出力する。フィードバック受信機70は、図5に示す受信機のような遠隔の受信機からのフィードバックデータを受信するために、アンテナ74に接続されて示されている。アンテナ74をアンテナアレイ24から分離して示しているが、フィードバックデータを受信するために、アレイ24のアンテナ素子26のうちの1つを使用してもよい。
【0039】
フィードバック受信機70からのフィードバックデータは、メモリ72内にあるコードブック(codebook)76の送信パラメータを調べるのに制御装置36が使用するコードブックインデックス(codebook index)を含んでいてもよい。
【0040】
制御装置36はまた、フィードバックデータに基づいて付加的な制御信号や送信パラメータを計算または導き出すのに使用されてもよい。したがって、フィードバックデータが、計算の根拠となり得る測定値、または送信機20で使用されるパラメータを示すデータを含んでよいことは当然理解されるはずである。」(7?9頁)

ニ.「【0041】
図5を参照して、本発明による方法およびシステムによる、多重ストリームかつ多重アンテナの送受信システム用の受信機を示す。図に示すように、受信機98は、無線周波数信号104,106を受信する素子102を有するアンテナアレイ100を含む。アンテナ素子102同士は空間的に離間されているので、受信されたRF信号104とRF信号106とが異なる信号であることはほぼ確実であり、送信機20のアンテナ素子26から受信されたRF信号104,106によって得られる伝搬路同士が、マルチパスフェージング環境では異なっていることもほぼ確実である。
【0042】
送信機20および受信機98で構成された多重ストリームかつ多重アンテナの送受信システムでは、複数のデータストリームが送信されて、送信機20と受信機98との間のデータ処理能力を向上させている。送信機20は、複数のデータストリームを同時に送信することができ、受信機98は、送信機20および受信機98での複数のアンテナ間のチャネル特性の差異を利用することによって、複数のストリームを分離しておくことができる。このように、送信機20のユーザデータ22は受信機98によって受信され、推定されたユーザデータ108として出力される。
【0043】?【0046】
(・・・中略・・・)
【0047】
送信機での複数のアンテナを介した複数のデータストリームの送信を制御するために、受信機98は、必ず複合チャネルを測定して、送信機にフィードバックデータを送信する必要がある。図に示すように、無線周波数フロントエンド110の出力は、送信機20の
各アンテナ素子26から送信されたパイロット信号を利用して、複数の入力アンテナと複数の出力アンテナとの間の複合チャネルを測定する複合チャネル推定器128にも接続されている。以下に、複合チャネル推定器128の機能、および受信機98のデータフィードバック部の他の多く機能ブロックについて図8を参照してさらに十分に説明する。
【0048】
H行列で表わされる複合チャネル推定器128の出力は、V行列計算機/セレクタ130に入力される。ブロック130の「計算機能」は、送信機20において各データストリームに対して使用されるべき所望のアンテナアレイの重みセットについて記述する行列であるVを計算する。所望のアンテナアレイの重みセットは、複合チャネルの測定値に基づいて計算される。」(9?11頁)

ホ.「【0098】
送信機20の代替の実施形態において、アンテナアレイ信号プロセッサ58は、アンテナアレイで4つのアンテナを駆動する4つの出力を生成するV行列を使用してもよい。しかし、4-出力V行列に対するアンテナアレイの重みセットの選択を支援するのに必要なフィードバックデータ量は、容認できない割合のフィードバックデータに使用されるリンク容量を消費し始める。したがって、2-出力V行列を用いて、4つのアンテナの使用可能な組み合わせから選択される2つのアンテナを駆動する。選択された2つのアンテナは、送信機20と受信機98との間の最も高い総合データレートをサポートする。使用可能なアンテナ素子のより多くの組み合わせからアンテナ素子を選択する送信機において、アップリンクフィードバックデータを減少させることと、ダウンリンクの性能を減少させることとの間でトレードオフがなされていた。」(19頁)


上記引用例の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず、上記ロ.【0002】、【0003】に「(移動体)通信システム」、「無線(通信)チャンネル」とあるように、引用例記載の通信システムは無線通信チャンネルを介して通信を行う『無線通信システム』であり、引用例図1にあるように「送信機TX」と「受信機RX」の間において「ユーザデータx」の無線通信を行うものであって、
上記ロ.【0004】にあるように、送信機と受信機の双方で「アンテナアレイ」を使用して「多入力・多出力(MIMO:Multiple Input Multiple Output)」の無線通信を行うものである。

また、上記ハ.【0024】、図3にあるように、「送信機20」の具備する「アンテナアレイ24」は少なくとも4つの「アンテナ素子26」を有しており、
上記ハ.【0038】にあるように、送信機側の「フィードバック受信機70」において「遠隔の受信機からのフィードバックデータを受信」し、「制御装置36」において「フィードバック受信機70から入力された情報とメモリ72に格納されているデータとに基づいて、制御信号34,42,48,56,60,68を出力する」ものであって、
上記ハ.【0031】、【0035】の記載によれば、該「制御信号60」は「複数のアンテナアレイの重みセットを含み」、「1つのアンテナアレイの重みセットは、各データストリームに関連づけられて」いて、例えば「データストリーム30に関連づけられた移相器82の出力は、データストリーム30に対して選択されたアンテナパターンを有するアンテナ信号を生成する」とあって、「データストリーム32」も同様であるから、「フィードバックデータ」に基づき生成される少なくとも2つの「アンテナパターン」があり、
引用例記載の「送信機」の具備する「アンテナアレイ」は『少なくとも2つのアンテナパターンを介して通信を行う』ように構成されたものである。

また、「アンテナアレイ」の生成する「アンテナパターン」が「アンテナアレイ」を構成する「アンテナ素子」により生成されるのは技術常識であって、上記ハ.【0025】の記載によれば前記「データストリーム30,32」は元々「遠隔の受信機」に宛てた1つの「ユーザデータストリーム」であるから、『1つの遠隔の受信機と1つのユーザデータストリームの通信を行う』ものである。

そして、前記ハ.【0038】の記載に戻れば、前記「制御信号60」による前記「アンテナパターン」の制御は、前記「遠隔の受信機」からの「フィードバックデータ」に基づいて実行されるということができ、
上記イ.【請求項1】や、ニ.【0047】【0048】の記載によれば、該「フィードバックデータ」は「受信機98」側において「複合チャネルの測定値」に基づいて生成されているから、無線通信路である「複合チャネル」の状態に適応して生成されているので、『前記アンテナパターンの制御は、前記遠隔の受信機からのフィードバックデータに基づいて適応的に実行される』ものということができる。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「 少なくとも1つの送信機を有する無線通信システムであって、
前記送信機は少なくとも1つのアンテナアレイを具備し、
前記アンテナアレイは少なくとも4つのアンテナ素子を有し、
前記アンテナアレイが少なくとも2つのアンテナパターンを介して通信を行うように構成され、
それぞれのアンテナパターンは、前記アンテナ素子により生成され、少なくとも1つの遠隔の受信機と1つのユーザデータストリームの通信を行い、多入力・多出力(MIMO:Multiple Input Multiple Output)により通信を行い、
前記アンテナパターンの制御は、前記遠隔の受信機からのフィードバックデータに基づいて適応的に実行される
無線通信システム。」


[対比・判断]
補正後の発明と引用発明を対比すると、
まず、補正後の発明の「基地局」、「ユーザ装置(UE)」と、引用発明の「送信機」、「遠隔の受信機」を対比すると、そもそも移動体通信における技術常識ではあるが、例えば本願明細書【0023】末尾に「信号の受信と送信を行う」とあるように、補正後の発明の「基地局」と「ユーザ装置(UE)」の間における通信は基本的に双方向のものであって、補正後の発明の「基地局」は送信を行い、「ユーザ装置(UE)」は基地局からの信号を当然に受信するから、両者は「送信機」、「受信機」の点で一致する。

また、引用発明の「アンテナアレイ」、「アンテナ素子」はそれぞれ、補正後の発明の「アレイアンテナ」、「アンテナ要素」にあたり、
引用発明の「アンテナパターン」とは、引用発明の送信機がアンテナより電波を放射する際の指向性(ビーム)の空間的パターンのことであるから「アンテナ放射パターン」であって、そのパターン形状から「ローブ」(lobe:耳たぶ、葉)とも呼ばれるので、補正後の発明の「アンテナ放射ローブ」にあたる。

また、引用発明の「ユーザデータストリーム」において、「ユーザデータ」は「情報」であるから、補正後の発明の「情報ストリーム」に相当し、
同様に引用発明の「フィードバックデータ」は、補正後の発明の「フィードバック情報」である。
したがって、両者は以下の点で一致し、また相違している。

(一致点)
「 少なくとも1つの送信機を有する無線通信システムであって、
前記送信機は少なくとも1つのアレイアンテナを具備し、
前記アレイアンテナは少なくとも4つのアンテナ要素を有し、
前記アレイアンテナが少なくとも2つのアンテナ放射ローブを介して通信を行うように構成され、
それぞれのアンテナ放射ローブは、前記アンテナ要素により生成され、少なくとも1つの受信機と1つの情報ストリームの通信を行い、多入力多出力(MIMO:Multiple Input Multiple Output)により通信を行い、
前記アンテナ放射ローブの制御は、前記受信機からのフィードバック情報に基づいて適応的に実行される
無線通信システム。」


(相違点1)
「送信機」、「受信機」が、補正後の発明では「基地局」、「ユーザ装置(UE)」であって、「通信セルの中」にあるのに対し、引用発明では「送信機」、「遠隔の受信機」であって、「通信セルの中」との限定は無い点。

(相違点2)
補正後の発明では「アレイアンテナ」が「少なくとも4つのアンテナポートを備え」、「前記少なくとも4つのアンテナポート」は「少なくとも4つの対応するアンテナ要素にそれぞれ接続され」るのに対し、引用発明には「アンテナポート」がない点。

(相違点3)
「4つのアンテナ要素」が、補正後の発明では「少なくとも2つの行と少なくとも2つの列に配置され」、「本質的に同じ偏波」を有するのに対し、引用発明はその様な構成を備えていない点。

(相違点4)
「それぞれのアンテナ放射ローブは、前記アンテナ要素により生成され」る構成に関し、補正後の発明は「それぞれのアンテナ放射ローブは、前記少なくとも4つのアンテナ要素のそれぞれにより生成され」るのに対し、引用発明は単に「それぞれのアンテナパターンは、前記アンテナ素子により生成され」る点。

(相違点5)
補正後の発明では「それぞれのアンテナ放射ローブは、前記情報ストリームの通信が本質的に最適となるように、方位角及び仰角の両方向に個々に制御可能」であるのに対し、引用発明はその様な構成を備えていない点。

(相違点6)
「フィードバック情報」に関し、補正後の発明では「前記フィードバック情報は、いわゆるチャネル品質表示(CQI:Channel Quality Indicator)値の形」をしているのに対し、引用発明の「フィードバックデータ」の形は不明な点。

(相違点7)
補正後の発明では「それぞれのアンテナ要素は、少なくとも1つの放射要素を備える」のに対し、引用発明はその様な構成を備えていない点。


そこで、まず、上記相違点1の「送信機」/「基地局」、「受信機」/「ユーザ装置(UE)」、及び「通信セルの中」の点について検討すると、
引用例の上記ロ.【0002】には「例えば、移動体通信システムは、」とあり、一方、本願明細書【0025】には「ユーザ装置23は、例えば、移動体電話または携帯用コンピュータである。」とあり、【0030】には「ユーザ装置23は、基地局1に対して相対的に移動していてもよく、」とあるように、引用発明の「無線通信システム」も補正後の発明と同じ「移動体通信システム」への適用を想定するものである。
そして、このような「移動体通信システム」がいわゆる「セルラー通信システム」として、通常固定配置された「基地局」の通信エリア(セル)の中を移動可能な複数の「ユーザ装置(UE)」に対して通信サービスを提供すするシステムであることは技術常識であるから、
引用発明の「送信機」を「基地局」となし、「遠隔の受信機」を「ユーザ装置(UE)」として、これらが「通信セルの中」にあるとした相違点1は格別のことではない

ついで、相違点2の「アンテナポート」について検討する。
まず、補正後の発明の「アンテナポート」の技術的意義について検討するに、本願明細書中には「アンテナポート」の具体的形状や構造について特段の記載は見あたらず、本願図1b、図6をみても「アレイアンテナ3,32」内部のアンテナ要素と外部回路との間における電気的接続の境界線上の点、あるいは接続端子である以上の技術的意味は認められない。
引用発明の「アンテナアレイ」においても、これを構成する4つの「アンテナ素子」と他の回路との間における電気的接続の境界線上に任意の接続点を定めること、あるいは何らかの接続端子を設けるのは適宜のことであるから、これをアンテナポートとして、「アレイアンテナ」が「少なくとも4つのアンテナポートを備え」、「少なくとも4つの対応するアンテナ要素にそれぞれ接続され」るとした相違点2も格別のことではない。

ついで、相違点3の「4つのアンテナ要素」が、「少なくとも2つの行と少なくとも2つの列に配置され」、「本質的に同じ偏波」を有する点について検討する。
一般にアレイアンテナを構成するアンテナ要素は、通常同一構造のものを同一方向に向け一次元ないし二次元的に配列することが一般的であって、特に「4つのアンテナ要素」からなるアレイアンテナであれば、これを2行2列の平面配置とすることも、例えば原審拒絶理由にも挙げた、特開2003-284128号公報(図2,21の「PDMA基地局CS1」の「アレイアンテナ11a」を参照)、特表2000-508144号公報(図21参照)等にあるように周知の構成である。
そして、同一構造のアンテナ要素を同一方向に向け配置するのであるから、電磁気的振動の方向である「偏波」も基本的に同じになるのは技術常識としてこれも自明なことに過ぎない。
したがって、「4つのアンテナ要素」が、「少なくとも2つの行と少なくとも2つの列に配置され」、「本質的に同じ偏波」を有するとした相違点3も格別のことではない。

ついで、相違点4の「それぞれのアンテナ放射ローブは、前記(少なくとも4つの)アンテナ要素(のそれぞれ)により生成され」る構成について検討する。
一般にアレイアンテナのアンテナ放射ローブ(アンテナパターン)などの特性は、アレイアンテナを構成するアンテナ要素のそれぞれにより生成される電磁界の合成・総和によるものであるから、アレイアンテナを構成するアンテナ要素の数が増えるほど特性は改善され得る(例えばアンテナパターンがシャープになる)ものであるが、トレードオフとして各アンテナ要素を駆動する信号を生成する手間が増えるなどの課題も発生することはアレイアンテナの設計における技術常識である。
引用例記載のアレイアンテナにおいてもこの様な課題は意識されるものであって、引用例の上記ハ.【0033】、【0037】などの記載によれば、4つあるアンテナ素子のうち「2つのアンテナがアンテナアレイで使用されている」実施例が開示されている一方、上記ホ.には「送信機20の代替の実施形態において、アンテナアレイ信号プロセッサ58は、アンテナアレイで4つのアンテナを駆動する4つの出力を生成するV行列を使用してもよい。」として4つのアンテナ素子全てを使用してアンテナ放射ローブ(アンテナパターン)を生成することが可能であることも記載がある。
従って、「それぞれのアンテナ放射ローブは、前記少なくとも4つのアンテナ要素のそれぞれにより生成され」るとした相違点4は、当業者であれば必要に応じて適宜なし得る設計的事項に過ぎず、格別のことではない。

ついで、相違点5の「それぞれのアンテナ放射ローブは、前記情報ストリームの通信が本質的に最適となるように、方位角及び仰角の両方向に個々に制御可能」である点について検討する。
一般にアレイアンテナを構成する個々のアンテナ要素の重み付け(引用例の「重みセット」に相当)を変えることにより、アレイアンテナとしてのアンテナ放射ローブ(アンテナパターン)を方位角及び仰角の両方向に制御可能なことは、いわゆる「フェーズドアレイアンテナ」として周知の構成である。
(必要とあれば、例えば特開平9-162628号公報(図6,8)、特開平11-191752号公報(【0037】、【0088】、図3、特開2002-314319号公報(図1,【0010】)等を参照)
そして、このような制御がアレイアンテナのアンテナ放射ローブを介した情報ストリームの通信を最適とするために行われていることは引用発明も同様である。
したがって、「それぞれのアンテナ放射ローブは、前記情報ストリームの通信が本質的に最適となるように、方位角及び仰角の両方向に個々に制御可能」であるとした相違点5も格別のものではない。

ついで、相違点6の「前記フィードバック情報は、いわゆるチャネル品質表示(CQI)値の形」をしている点について検討する。
引用例の上記ハ.【0040】には「フィードバックデータ」(フィードバック情報)の信号形式として「計算の根拠となり得る測定値、または送信機20で使用されるパラメータを示すデータを含んでよい」ことの記載があり、この「測定値」とは、上記イ.も参照すれば「複合チャネルの測定値」のことであって、通信チャネルの品質を表示するものである。
更に、「フィードバック情報」の形式として具体的に「チャネル品質表示(CQI:Channel Quality Indicator)値」が用いられることも、原審において挙げられた米国特許出願公開第2005/0181739号明細書([0022]3頁左欄19?20行)のほか、特開2005-277570号公報(【請求項7】、【0008】)、国際公開2004/077778号パンフレット(8頁9?15行)、国際公開2005/093961号パンフレット(1頁9?17行)等にあるように周知技術である。
したがって、「前記フィードバック情報は、いわゆるチャネル品質表示(CQI:Channel Quality Indicator)値の形」をしているとした相違点6も格別のことではない。

最後に、相違点7の「それぞれのアンテナ要素は、少なくとも1つの放射要素を備える」点について検討する。
「アンテナ要素」(アンテナ素子)とは、電波、電磁波として信号を空間に放射するための要素(素子)であるから、その放射器の部分は「放射要素」ということができ、アンテナ要素が「少なくとも1つの放射要素を備える」のは当然のことに過ぎず、相違点7も何ら格別のことではない。

また、補正後の発明が奏する効果も前記引用発明及び周知技術から容易に予測出来る範囲内のものである。
そして、当審の審尋に対する回答書を参酌しても、上記認定を覆すに足りるものは見あたらない。

よって、補正後の発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2.補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の[引用発明]で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-28 
結審通知日 2013-04-01 
審決日 2013-04-12 
出願番号 特願2008-548933(P2008-548933)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01Q)
P 1 8・ 575- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 麻生 哲朗  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 新川 圭二
矢島 伸一
発明の名称 アレイアンテナ装置  
代理人 下山 治  
代理人 大塚 康弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 高柳 司郎  
代理人 木村 秀二  

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