• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1278675
審判番号 不服2011-22302  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-14 
確定日 2013-08-28 
事件の表示 特願2006-540698「医療環境における人間に対して、個人に即した体験を与えるシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日国際公開、WO2005/051471、平成19年 6月 7日国内公表、特表2007-514997〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年11月11日(優先権主張 平成15年11月26日 欧州)を国際出願日とする特許出願であって,平成22年8月20日付けの拒絶理由通知に対して,平成23年2月23日に意見書の提出とともに手続補正がなされ,平成23年6月17日付けの拒絶査定に対して平成23年10月14日に審判請求がなされるとともに手続補正がなされ,平成24年1月26日付けで当審の審尋がなされ,平成24年7月11日に回答書が提出され,平成24年11月30日付けで当審より拒絶理由を通知したところ,平成25年3月7日に意見書の提出とともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成25年3月7日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「医療環境における患者に対して個人に即した体験を与えるシステムであって,
患者情報に基づき提示される複数のテーマから前記患者によって選択されたテーマを示す表示を備え,前記患者が保持可能な選択手段であって,所定の情報を含む少なくとも1つの識別子要素を備える選択手段と,
前記識別子要素に含まれる前記情報を読み出す読み出し手段を備える制御手段であって,前記選択手段が前記読み出し手段にセットされ,前記読み出し手段が前記識別子要素から前記情報を読み出すとき,前記医療環境において前記読み出された情報を表示する表示手段を制御し,前記選択手段に接続される制御手段とを有するシステム。」

第3 当審における拒絶の理由について
当審における平成24年11月30日付けで通知した拒絶理由の概要は,以下のとおりである。
『【理由】
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用文献1.特開2003-323491号公報(2003年11月14日公開)
(新たに引用する刊行物)
引用文献2.特開2003-233664号公報(2003年8月22日公開)
(新たに引用する刊行物)
引用文献3.特開平11-285484号公報
(原査定の拒絶理由の刊行物1)
引用文献4.(略)
・請求項1?11
・引用文献1?4
・備考
1.?4.(略)
したがって,本願請求項1?11に記載された発明はいずれも特許を受けることができない。』

第4 当審の判断
1.各引用例にいて

ア 引用例1について。
当審の拒絶理由通知で引用した引用文献1(以下「引用例1」という。)には,以下のことが記載されている。
(以下「引用例1摘記事項」という。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,医療介護支援システム及び医療介護支援方法に関するものである。」
(イ)「【0030】
【発明の実施の形態】以下,本発明を具体化した医療介護支援システム及び医療介護支援方法の一実施形態を図1?図7に従って説明する。
【0031】図1は,医療介護支援システム1の構成図である。医療介護支援システム1は介護用サーバ2,入力手段としての入力装置3及び実行手段としての介護装置4を備え,入力装置3及び介護装置4はネットワークとしてのインターネットNを介して介護用サーバ2に接続されている。また,介護用サーバ2は治療方法の提供側に設置され,入力装置3及び介護装置4は患者6側に設置される。また,インターネットNには医療介護支援システム1に登録した医療機関5が接続され,医療機関5は例えば病院や介護センター等からなる。」
(ウ)「【0067】また,介護装置4はバーチャル機能を備えていてもよい。即ち,介護装置4はあたかも治療者が実際に治療を行っているかのように,バーチャル的に治療を実行する装置でもよい。この場合,自分にとって好みの治療者(例えば女性の介護者)にバーチャルで介護を受ければ,心身ともにリラックス感が高まり回復も早まる。また,通信端末7を用いて理想の人物像を入力情報データベース13に登録し,その人物のシミュレーション映像により治療を行うようにしてもよい。
【0068】介護装置4がバーチャル機能を備える場合,このバーチャル機能には仮想の療養室を患者6に提供する機能も有している。このように,療養室が患者6にとって好みの室内装飾,レイアウト,色合いであれば,患者6の心身の療養効果も一層高まる。また,療養室が有名人や著名人が以前に療養のために使用した部屋であれば,同じようにその療養室を使用すれば心身に及ぼす影響も高く,治療の一環として効果もある。
【0069】また,療養室は画面28に図7に示す検索画面49を表示して,患者6が所望するものが選択される。即ち,検索画面49には療養室の一覧が表示され,療養室の外観とその療養室に関するコメントとが表示される。コメント欄には例えば,「有名人Zさんは糖尿病を自然療法により治療を希望していたため,自然療法に適したこの療養室を選び,専門の医師,介護者,栄養士等をそれぞれ選定して治療に当たり,3ヵ月後に回復して療養を終えた」等と記載される。
【0070】この検索画面49には選択番号入力欄50aと,「OK」ボタン50bとが設けられている。そして,患者6は療養室の概観やコメントを閲覧して,最も適した療養室を選び出し,検索画面49の選択番号入力欄50aに療養室の番号を入力し,「OK」ボタン50bをクリックする。すると,介護装置4はその療養室をバーチャルにより提供し,患者6はあたかも実際にその療養室にいるかのように治療(介護)が受けられる。また,この療養室は治療者を落札する場合と同様に,オークションを用いて落札される形式でもよい。」

イ 引用例1発明について。
引用例1摘記事項によれば,引用例1には,以下の発明が開示されている。
(以下「引用例1発明」という。)
「医療介護支援システム1であって,
実行手段である介護装置4を備え,
介護装置4はバーチャル機能を備え,このバーチャル機能には仮想の療養室を患者6に提供する機能を有し,療養室が有名人や著名人が以前に療養のために使用した部屋であれば,同じようにその療養室を使用すれば心身に及ぼす影響も高く,治療の一環として効果もあることから,
療養室は画面28に検索画面49を表示し,患者6が所望するものを選択するべく,検索画面49には療養室の一覧を表示し,療養室の外観とその療養室に関するコメントとが表示され,
コメント欄には例えば,『有名人Zさんは糖尿病を自然療法により治療を希望していたため,自然療法に適したこの療養室を選び,専門の医師,介護者,栄養士等をそれぞれ選定して治療に当たり,3ヵ月後に回復して療養を終えた』などと記載され,
検索画面49には選択番号入力欄50aと,「OK」ボタン50bとが設けられ,
患者6は療養室の概観やコメントを閲覧して,最も適した療養室を選び出し,検索画面49の選択番号入力欄50aに療養室の番号を入力し,「OK」ボタン50bをクリックすると,介護装置4はその療養室をバーチャルにより提供し,患者6はあたかも実際にその療養室にいるかのように治療(介護)が受けられる医療介護支援システム1。」

ウ 引用例2について。
当審の拒絶理由通知で引用した引用文献2(以下「引用例2」という。)には,以下のことが記載されている。
(以下「引用例2摘記事項」という。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,商品を店舗内にて小売り,またはレンタルする店において,陳列している商品に関連する情報を,消費者が容易に確認できることが施されたシステムに関する。」
(イ)「【0010】次に,商品に関連する映像情報が店舗内の情報出力装置のディスプレイ上に表示されるしくみについて説明する。図1に示すように,消費者は,商品陳列部102に陳列されているビデオテープのパッケージの中から自分の興味のあるビデオパッケージ112を取りだし,情報出力装置101の一部に組み込まれているスキャナー105に,そのパッケージ112に印刷されているバーコード部をかざすことによりバーコードを読み込ませる。ここで,図2において,バーコードを読み取ったスキャナー204からの情報が,サーバー211に伝達される。ここで,サーバー211は,そのバーコードの認識コードと,どのスキャナーでスキャンされたかを認識し,そのコードに該当する情報,つまり消費者がスキャンさせたビデオパッケージに関連する映像情報を,ストレージ部212から抽出して,店舗内の情報再生装置201に伝送する。情報再生装置201は,送られてきた情報を,スキャンされたスキャナー104の付近に設置しているディスプレイ207,210上に再生する。
【0011】これにより,消費者は,自分がスキャンさせたビデオパッケージの映像を,その付近に設置されているディスプレイ上で確認することができる。ここで,表示される映像は,商品が映画のビデオパッケージの場合には,その映画の予告編を表示させることが考えられる。スキャナーは,商品陳列部を有する情報出力装置101内に複数設置されており,消費者は陳列棚から商品を取り出した位置に近い場所で,その商品のパッケージに印刷されているバーコードをスキャンすることができるとともに,そのパッケージに関する映像を視聴することができる。」

エ 引用例2開示事項について。
引用例2摘記事項によれば,引用例2には,以下の事項が開示されている。
(以下「引用例2開示事項」という。)
「消費者が,自分の興味のある映画のビデオパッケージを,商品陳列部から取り出し,予告編を表示させるものであって,
消費者が,商品陳列部に陳列されているビデオテープのパッケージの中から自分の興味のあるパッケージを取りだし,
設置されたスキャナーにパッケージに印刷されているバーコード部をかざして読み込ませると,
バーコードの認識コードを認識し,コードに該当する関連する映像情報,つまり予告編を抽出してディスプレイ上に再生し,
消費者が予告編を視聴する。」

オ 引用例3について。
当審の拒絶理由通知で引用した引用文献3(以下「引用例3」という。)には,以下のことが記載されている。
(以下「引用例3摘記事項」という。)
(ア)「【要約】【課題】画像を閲覧しながら,自らストレス解消が図れるようにする。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,人の心理的又は生理的状態を測定する方法とその装置とに関する。詳述すれば,本発明は,ストレス処理に役立てるために生体自己制御(バイオフィードバック)機構と共に,或いはその一部として画像ないし刺激を利用することでストレスを測定すると共に,そのストレスの処理に役立てる方法と装置とに関する。」
(ウ)「【0018】画像表示装置9は,後述する患者ごとに個人用最適反応画像プロフィール(personalized preferred image response profile)を表す画像からなる第1画像集14を例えばディスクないし記憶カードに記憶している。この第1画像集14は,個々の患者に合わせて工夫されていて,種々のテーマ(海洋,森林,砂漠,夕暮れなど)ごとの画像シリーズないし患者個人の画像(例えば,家族)に基づく画像シリーズであってもよい。各画像シリーズは,患者の心理状態や生理状態に基づいて,混沌状態から平穏状態を経て,静穏状態で終わる複数の画像からなるものであってもよい。
【0019】この画像表示装置9は,画像ライブラリと患者個人の画像から選択する画像からなる第2画像集15を記憶して表示するようにもなっている。この第2画像集15は,第1画像集14と同様にディスクないし記憶カードに記憶されていてもよい。前述したように,画像としては静止画像でもよいし,視聴覚的画像でもよいし,或いはビデオクリップであってもよい。
【0020】(略)
【0021】(略)
【0022】(略)
【0023】前述の測定から得たデータを利用して,各患者ごとの個人用最適反応画像プロフィールが作成されるのである。そこで,第1画像集14は,ストレスの度合いを下げるような好ましい反応をもたらすことになる複数の画像で構成している。従って,この個人用最適反応画像プロフィールには,第1画像集14から得られるものであって,共通の性格を表すデータ,又は,患者に好ましい反応をもたらす傾向のある第1画像集の属性から得られるデータの何れかからなるようにしてもよい。
【0024】そして,個人用最適反応画像プロフィールを利用して,第2画像集15を含む画像ライブラリから画像を選択する。患者は,このように選択した画像を個人の生体自己制御用画像として利用することになっている。従って,個人用最適反応画像プロフィールを利用することで,患者自身に所望の影響をもたらす画像を選択する。一般的に言えば,この個人用最適反応画像プロフィールは,選択された画像と,反応プロフィールに合致するその他の画像を一組の情報で構成されていてもよい。
【0025】一例を挙げれば,個人用最適反応画像プロフィールを利用するには,患者は先ず画像ライブラリにアクセスする。このアクセスの仕方としては,例えばインターネットを介して画像ライブラリにアクセスするか,又は,対話型CD-ROMを利用してアクセスしてもよい。その後,個人用最適反応画像プロフィールにつながる番号をコードとしてキーボードないしキーパッドから入力する。すると,画像ライブラリにより個人用最適反応画像プロフィールが利用されて,その画像ライブラリから画像が選択される。このように選択した画像は,寸描画(低解像度の小さいプレビュー画)が患者に対して表示され,患者はそれを見ながら,必要とする画像とその並び具合を選んだ上で,個人の生体自己制御用投写装置での生体自己制御に使用すべくダウンロードするか,又は,転送する。その際,選択した画像のデータは,例えばフラッシュピック(Flash Pix)のフォーマットでダウンロードするか,転送するようにしてもよい。
【0026】この個人用最適反応画像プロフィールは,ユーザ,即ち,患者をして,例えば海の景色とか,砂漠の景色,森林の景色,或いは,家庭,庭,お気に入りの美術館などの画像集とかの種々のカテゴリーから画像集を選択できるようにしている。これにより,ユーザは,自分の精神状態に悪影響をもたらす画像を選択してしまうようなことなく,生体自己制御用として用いる好ましい画像を変えることもできるのである。」

カ 引用例3開示事項について。
引用例3摘記事項によれば,引用例3には,以下の事項が開示されている。
(以下「引用例3開示事項」という。)
「画像ライブラリから個人用最適反応画像プロフィールを利用して画像が選択され,患者に表示され,患者は必要とする画像と並び具合を選んでダウンロードすることにより,画像を閲覧しながら自らストレス解消が図れる。」

2.対比
ア 引用例1発明と本願発明とを対比する。
(ア)引用例1発明は,「実行手段である介護装置」が,「バーチャル機能」を備え,この「バーチャル機能」は,「仮想の療養室を患者に提供する機能を有」するものである。
その際,患者は,コメント欄に,『有名人Zさんは糖尿病を自然療法により治療を希望していたため,自然療法に適したこの療養室を選び,専門の医師,介護者,栄養士等をそれぞれ選定して治療に当たり,3ヵ月後に回復して療養を終えた』などと記載される「検索画面」を「閲覧」し,「最も適した療養室を選び出」す。
そうすると,「その療養室をバーチャルにより提供」し,「患者はあたかも実際にその療養室にいるかのように治療(介護)が受けられる」ものである。
してみると,引用例1発明と本願発明とは,後記する点で相違するものの,「医療環境における患者に対して個人に即した体験を与えるシステム」である点で共通する。
(イ)引用例1発明は,「療養室は画面に検索画面を表示」し,患者は「検索画面を閲覧」し,「療養室を選び出」すものであり,「検索画面には選択番号入力欄50aと,『OK』ボタン50bとが設けられ,患者が選択番号入力欄に療養室の番号を入力し,『OK』ボタンをクリックすると,その療養室をバーチャルにより提供」するものである。
してみると,引用例1発明と本願発明とは,後記する点で相違するものの,「患者である利用者が好みの映像を選択して表示させるための手段」を有すること,つまり,「提示される複数のテーマから患者によって選択されたテーマを選択する選択手段」と,「選択されたテーマの情報を医療環境に表示する表示手段」と,この「表示手段」を「制御」し,「選択手段に接続」される「制御手段」を有する点で共通する。

イ 上記「ア」のことから,引用例1発明と本願発明とは,以下の点で一致する。
[一致点]
「医療環境における患者に対して個人に即した体験を与えるシステムであって,
提示される複数のテーマから患者によって選択されたテーマを選択する選択手段と,
選択されたテーマの情報を医療環境に表示する表示手段と,
表示手段を制御し,選択手段に接続される制御手段と
を有するシステム。」

ウ そして引用例1発明と本願発明とは,以下の点で相違する。
[相違点1]
本願発明では,「選択手段」が,「患者が保持可能な選択手段」であって,「所定の情報を含む少なくとも1つの識別子要素」を備える「選択手段」であること,そして,「制御手段」が,「識別子要素に含まれる情報を読み出す読み出し手段」を備える「制御手段」であって,「選択手段が読み出し手段にセットされ,読み出し手段が識別子要素から情報を読み出すとき,読み出された情報を表示する表示手段」を制御する「制御手段」であるのに対して,引用例1発明は,そのような構成になっていない点。
[相違点2]
本願発明では,「提示される複数のテーマ」が,「患者情報に基づき提示」される複数のテーマであるのに対して,引用例1発明は,患者情報に基づき提示されるものではない点。
[相違点3]
本願発明では,「選択手段」が,「患者情報に基づき提示される複数のテーマから患者によって選択されたテーマを示す表示」を備えるのに対して,引用例1発明では,そのような構成になっていない点。

3.判断
以上の相違点について,以下に判断する。

ア [相違点1]について。
(ア)引用例2開示事項によれば,引用例2には,「消費者が,自分の興味のある映画のビデオパッケージを,商品陳列部から取り出し,予告編を表示させるものであって,消費者が,商品陳列部に陳列されているビデオテープのパッケージの中から自分の興味のあるパッケージを取りだし,設置されたスキャナーにパッケージに印刷されているバーコード部をかざして読み込ませると,バーコードの認識コードを認識し,コードに該当する関連する映像情報,つまり予告編を抽出してディスプレイ上に再生し,消費者が予告編を視聴する。」ことが開示される。
(イ)つまり,引用例2には,「利用者が好みの映像を選択して表示させるための手段」であって,利用者が商品陳列棚からビデオパッケージを取り出すこと,ビデオパッケージにはバーコードが印刷されていること,スキャナーによりバーコードの認識コードを読み出すこと,スキャナーにバーコードをかざして認識コードが読み出されると,認識コードに該当する映像情報である予告編を表示することが開示される。
(ウ)ここで,本願発明と引用例2開示事項とは,「利用者が好みの映像を選択して表示させるための手段」である点で共通することから,引用例2開示事項の,「利用者が商品陳列棚から取り出すビデオパッケージ」は,本願発明の,患者が選択する「保持可能な選択手段」に対応し,以下同様に,「ビデオパッケージにバーコードが印刷されている」ことは,選択手段に「所定の情報を含む少なくとも1つの識別子要素」を備えることに対応し,「スキャナーによりバーコードの認識コードを読み出す」ことは,「識別子要素に含まれる情報を読み出す読み出し手段」を備えることに対応し,「スキャナーにバーコードをかざして認識コードが読み出されると,認識コードに該当する映像情報である予告編を表示する」ことは,「選択手段が読み出し手段にセットされ,読み出し手段が識別子要素から情報を読み出すとき,読み出された情報を表示する表示手段」を備えることに対応する。
(エ)してみると,引用例1発明の,「利用者が好みの映像を選択して表示させるための手段」に,引用例2開示事項の,「利用者が好みの映像を選択して表示させるための手段」の構成を適用することにより,引用例1発明の,「療養室の画面に検索画面を表示し,患者は検索画面を閲覧し,療養室を選び出すものであり,検索画面には選択番号入力欄と,『OK』ボタンとが設けられ,患者が選択番号入力欄に療養室の番号を入力し,『OK』ボタンをクリックすると,その療養室をバーチャルにより提供する」との構成を,患者が選択して「保持可能な選択手段」であって「所定の情報を含む少なくとも1つの識別子要素を備える選択手段」との構成とし,「識別子要素に含まれる情報を読み出す読み出し手段」を備える「制御手段」であって「選択手段が読み出し手段にセットされ,読み出し手段が識別子要素から情報を読み出すとき読み出された情報を表示する表示手段」を制御する「制御手段」との構成とすることには何ら困難性がなく,当業者が容易に想到することができたものである。

イ [相違点2]について。
(ア)引用例3開示事項によれば,引用例3には,「画像ライブラリから個人用最適反応画像プロフィールを利用して画像が選択され,患者に表示され,患者は必要とする画像と並び具合を選んでダウンロードすることにより,画像を閲覧しながら自らストレス解消が図れる。」ことが開示される。
(イ)つまり引用例3には,患者が画像を閲覧してストレスを解消する際,まず患者に適した画像を選択して表示し,そのなかから患者が画像を選択することが開示される。
(ウ)ここで,引用例3の,「患者に適した画像を選択して表示」することは,本願発明の,「患者情報に基づき提示」することに対応する。
(エ)してみると,引用例1発明で,患者に複数のテーマを提示する際,引用例3開示事項を適用することにより,「患者情報に基づき提示」される複数のテーマとすることには何ら困難性がなく,当業者が容易に想到することができたものである。

ウ [相違点3]について。
(ア)相違点3に係る事項は,つまり,患者が選択したテーマの識別子要素を備える選択手段に,選択したテーマが何であるのかを分かるように表示をすること,これにより,だれがみてもその選択手段が表示するテーマが分かるようにするためのものであると理解できる。
(イ)選択されたテーマの識別子要素を備える保持可能な選択手段に,選択されたテーマを示す表示をすることは,よく知られている。(以下「周知の事項」という。)
例えば,特開2000-108561号公報(以下「周知例1」という。)には,以下のことが記載されている。
(a)「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は,例えばシート状またはカード状の印刷媒体に印刷された絵や文字などと関連して,音声情報などを記憶し,また,再生する情報記憶装置および情報再生装置に関する。」
(b)「【0029】図5にも示すように,この実施の形態の録音再生装置30は,ほぼ円柱状の筐体31の上面に,メモリカード10を接続するための差し込み口32が設けられると共に,筐体31の側面には,絵入りカード21の右上隅を挿入して,インデックス領域22のコード情報を読み取るためのスロット33が設けられる。
【0030】また,筐体31の上面には,マイクロホン34,液晶ディスプレイ35,スピーカ36,再生ボタン37p,録音ボタン37rなどが設けられており,筐体31の側面には,種別登録ボタン37sなどが設けられる。
【0031】そして,液晶ディスプレイ35には,インデックス番号情報や文字情報が表示され,スピーカ36からは,カード21に描かれている動物の名前などが,例えば,「カメ」のように,音声で出力される。
【0032】図6に示すように,録音再生装置30のスロット33には,カード21のインデックス領域22のコード情報を読み取るために,例えば16個の,反射型の光学センサ38a?38pが配設されると共に,板ばね39が配設されて,カード21が下側に押さえられ,光学センサ38a?38pとインデックス領域22とが所定の間隔に保たれる。」
つまり,上記(a),(b)によれば,周知例1には,絵入りカードに「カメ」や「ウサギ」などの絵が表示され,インデックス領域のコード情報を読み取ると,カードの動物の名前がメモリから読み出されて,「カメ」のように音声が出力される。
例えば,特開平05-323864号公報(以下「周知例2」という。)には,以下のことが記載されている。
(c)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は,音感教育又は玩具等に使用される音感遊戯装置に関するものである。」
(d)「【0058】また,前記小板2は,複数対でそれぞれモードを構成するようになされており,これら複数対のモード毎の小板に複数対の識別コードを各々付するようにしている。上記図11?図20の例を用いて説明すると,図11及び図12に示す8種類の絵柄の小板については,動物モードとしてこのモードに対応する識別コードを各小板の裏面に付するようにする。したがって,これら図11及び図12に示す動物モードに対応する音は,例えば各絵柄の動物に対応する鳴き声となっている。
(以下略)」
つまり,上記(c),(d)によれば,周知例2には,小板に8種類の動物の絵柄があり,各小板の裏面には識別コードが付され,これにより各絵柄の動物に対応する鳴き声が出力される。
(ウ)患者が選択する「保持可能な選択手段」は,医療環境などで持ち運ばれるものであるから,選択したテーマが何であるのかを誰がみても分かるように表示したいと考える。
(エ)つまり,患者が選択する「保持可能な選択手段」においても,「選択されたテーマの識別子要素を備える保持可能な選択手段に,選択されたテーマを示す表示をする」こと,つまり「周知の事項」を適用しようとする動機付けが働く。
(オ)してみると,引用例1発明に,引用例2開示事項,引用例3開示事項と周知の事項とを適用することにより,患者が保持可能な選択手段に,「選択されたテーマを示す表示をする」よう構成すること,つまり,「選択手段」に,「患者情報に基づき提示される複数のテーマから患者によって選択されたテーマを示す表示」を備えるよう構成することには何ら困難性がなく,当業者が容易に想到することができたものである。

以上判断したとおり,本願発明における上記[相違点1]?[相違点3]に係る発明特定事項は,いずれも当業者が容易に想到することができたものであり,上記各相違点を総合しても,想到することが困難な格別の事項は見いだせない。
また,本願発明の作用効果も,引用例1発明,引用例2開示事項,引用例3開示事項,及び周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって,本願発明は,引用例1発明,引用例2開示事項,引用例3開示事項,及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1発明,引用例2開示事項,引用例3開示事項,及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は当審で通知した上記拒絶理由によって拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-29 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-04-17 
出願番号 特願2006-540698(P2006-540698)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 裕子  
特許庁審判長 清田 健一
特許庁審判官 金子 幸一
手島 聖治
発明の名称 医療環境における人間に対して、個人に即した体験を与えるシステム  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 津軽 進  
代理人 五十嵐 貴裕  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ