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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1278787
審判番号 不服2011-2022  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-27 
確定日 2013-09-04 
事件の表示 特願2003-570787「炎症の治療用薬剤の投与」拒絶査定不服審判事件〔平成15年9月4日国際公開,WO03/72040,平成17年9月2日国内公表,特表2005-526045〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2003年2月25日(パリ条約による優先権主張 2002年2月25日及び2002年4月23日,いずれもアメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成21年3月13日付けの拒絶理由通知に対して,その指定期間内である同年9月24日付けで手続補正されたが,平成22年9月21日付けで拒絶査定され,これに対して平成23年1月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成23年1月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成23年1月27日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.補正事項

本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を次のように補正することを含むものである。

・補正前:
「 【請求項1】
病的炎症を長期的に低減することを必要とする患者における病的炎症を低減するための、α4インテグリンに結合するモノクローナル抗体またはその免疫活性な断片からなる薬剤であって、
α4インテグリンを阻害する、または、α4インテグリンを含む二量体を阻害する、患者に治療上有効な量で長期投与されることを特徴とする薬剤。」

・補正後:
「 【請求項1】
病的炎症を長期的に低減することを必要とする患者における病的炎症を低減するための、α4インテグリンに結合するモノクローナル抗体またはその免疫活性な断片からなる薬剤であって、
α4インテグリンを阻害する、または、α4インテグリンを含む二量体を阻害する、患者に治療上有効な量で少なくとも6か月間にわたって長期投与されることを特徴とする薬剤。」

2.補正の目的について

上記の補正事項は,補正前の「長期投与される」を,「少なくとも6か月間にわたって長期投与される」とするものであるが,これは,「長期投与」の期間を「少なくとも6か月間にわた」るものに限定するものであって,産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げられる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで,補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)について,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(同法第17条の2第5項で準用する同法126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

3.独立特許要件について

(1)引用刊行物

原査定の拒絶の理由で引用された,本件優先日前に頒布された刊行物である「NEUROLOGY, 1999, Vol.53, p.466-472」(原査定における引用文献1。以下,原査定に倣って「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。なお,原文は英文のため,訳文で記す。

ア.(標題)
「抗α4インテグリン抗体がMSにおける脳病変部の活動性に及ぼす影響」

イ.(要約欄:下線は斜体部分を表す。)
「目的:MSにおけるMRI病変部活動性へ,ヒト化抗α4インテグリンモノクローナル抗体(α4β1インテグリン又は最晩期抗原4(very late antigen-4)と反応性を有する)が及ぼす作用を決定すること。方法:無作為化二重盲検プラセボ対照試験を,活動性再発寛解型及び二次性進行型のMSの患者72名において実施した。各患者は,抗α4インテグリン抗体(ナタリズマブ:Antegren)又はプラセボの静注を2回,4週の間隔で受け,一連のMRI及び臨床評価により24週間追跡調査をした。結果:治療群では,プラセボ群より有意に少ない新たな活発な病変部(new active lesions)(患者あたり平均1.8対3.6)と新たな強化病変部(new enhancing lesions)(患者あたり平均1.6対3.3)を最初の12週間にわたって呈した。研究後半の12週間では,新たな活発な(new active)又は新たな強化(new enhancing)病変部の数に有意な差異はなかった。ベースライン強化病変部(baseline-enhancing lesions)(すなわち,ベースラインスキャンで強化した病巣)であって,最初の治療に続く4週間に強化し続けたものの数は,2群間で有意な差異はなかった。急性のMS増悪を伴う患者の数は,最初の12週間では2群間に有意な差異は無かった(治療群の9に対してプラセボ群の10)が,後半の12週間では治療群において多かった(14対3;p=0.005)。しかしながら,本研究は,再発率について治療の影響を決定的に検討するように計画されたものではなかった。治療は十分に忍容された。結論:抗α4インテグリンモノクローナル抗体による短期治療は,MRIでの新たな活発な病変部の数において,有意な減少を引き起こした。MRIの及び臨床的な帰結について,この治療の長期影響を決定するために,さらなる研究が必要である。」

ウ.(第466頁右欄第14行?第467頁左欄第6行)
「方法.Antegren(ナタリズマブ;エラン・ファルマシューティカルズ,サウス・サン・フランシスコ,CA)は,ヒト化モノクローナル抗体(mAb)であり,ヒトα4インテグリンに対して作製されたマウスmAb (AN100226mと呼ばれている)から生成されたものである。……。AN100226mのヒト化形態であるAntegrenは,インビトロ及びインビボの両方でα4インテグリン媒介の細胞接着に対して,その完全な阻害活性を保つことが示された。」

エ.(第467頁左欄第45行?同頁右欄第5行)
「治療の用量・用法(第0週及び第+4週). 患者は,第0週と第4週に試験薬の注入のために入院した。2回だけの注入がされたが,これは,健康被験者におけるAntegrenの単回投与の予備的研究において,3から4週間の間α4インテグリン受容体を完全に飽和すると期待されるAntegrenの血清濃度を与えるだろうことが示されたから,及び,安全性の点では,繰り返し投与についての先行研究がないからである。簡単な検査,並びに,繰り返しのEDSSとGNDSの検査をした後,MRI脳解析を実施し,以前と同様に血液採取をした。その後,試験薬を,2度の機会に,30から45分間かけて注入した。患者は,通常の生理食塩水で100 ml溶液に希釈された3 mg/kgの試験薬又はプラセボを投与された。
追跡調査の来院(第1, 2, 4, 6, 8, 12, 16, 20及び24週). 各来院時に,患者の健康状態における全ての変化を記録した。MRI脳解析は,各来院時に実施された。簡単な臨床検査も実施し,前回の来院から患者にあったと考えられる有害事象,新たな薬,又は,MSの増悪を全て記録した。……」

オ.(第467頁右欄下から10行目?第468頁左欄第19行)
「MRI手順. MRI脳解析は,来院毎に次の手順に従って実施した:3 mm厚スライスのファスト/ターボ・スピン・エコー・シーケンス(……)で,0.1 mmol/kgのガドリニウムDTPA静注(1?2分間)に続く5?7分間,T1強調シーケンス(……)。
全ての部位からの画像が,臨床上の詳細について盲検化された一人の神経放射線科医(I.F.M.)により検査された。ベースライン(第-4週)のT1強調解析での強化病変部の数を計数した。第0週には,新たな(new)及び持続的な(persistent)強化病変部(第-4週から)の数が記録された。第0週解析で強化され,その後の検査においても強化し続けた病変部を“ベースライン強化(baseline-enhancing)”と定義した(すなわち,それらは,治療開始直前に存在した。)。第+1週以降の画像から初めてコントラスト強化が現れ,その後の調査でも強化が継続した病変は,最初に現れた時には“新たな強化(new enhancing)”と,その後の調査では“持続的な強化(persistent enhancing)”と分類した。計数は,非強化のT2強調画像において,新たな(new)又は新たに拡大した(newly enlarging)病変部についても行われた。“新たな活発な(new active)”病変部は,T1強調画像で見られた新たな強化病変部と,T2強調画像で見られた新たに拡大した病変部との合計として定義された。」

カ.(第469頁右欄第20?24行)
「第2週から第24週までの平均の持続的な強化病変部(persistently enhancing lesions)の数は,第4, 6及び8週にAntegren治療群で低い傾向があったことを除き,概して両治療群は同様であった。」

キ.(第471頁右欄第22行?同欄最下行)
「今回のような短期研究では,障害又は疾患進行における有意な変化を期待することは非現実的であり,また,実際には,12週目の時点で両群間のEDSSスコアーに統計的有意差があったとしても,それは24週目にはあてはまらない。さらに,障害とMRIで見られた変化との間の比較的軽微な相関は,どのような可能性のある治療であっても,最終的には,より大規模でより長期の臨床試験において試験されなくてはならない。
今回の結果の限界は注意されるべきである。第一に,MRI活動度に対する抗α4インテグリン抗体の効果の大きさは明らかにされていない。12週間にわたっての新たな活発な病変部の数が治療群において有意に小さかったが,95%信頼区間(-0.1,-3.6)は,その期間中のプラセボと比較した新たな活発な病変部の減少が3%の小ささかも知れないし,100%の大きさかも知れないことを示している。第二に,何回Antegrenを投与できるかは未知である。MSの治療におけるAntegrenの予備的な有効性(3 mg/kg)は,今回の調査で示されたが,効果は軽微で一時的であった。本調査の薬物動態分析は,一部の患者のみが,各注入後に,4週間効果的である可能性が高いと考えられているAntegrenの血清濃度を有したことを示した。毎月の注入の間適当なAntegrenの血清濃度を得て,MRI活動性の抑制を維持するために,高用量で長期投与されたAntegrenの評価を将来の調査で行う必要がある。しかしながら,モノクローナル抗体の繰り返し投与は,抗イディオタイプ抗体を引き起こす可能性があり,そして,もし重大であるなら,有効性の損失を引き起こす可能性がある。
MRIに及ぼすAntegrenの効果の大きさ及び期間についてより正確に決定するために,さらなる調査が必要である。これには,最近,米国MS学会のタスクフォースが提案した計画,すなわち,並行群プラセボ対照の計画において,毎月のMRIで6ヶ月間にわたり新たなMRI活動性の>50%の減少を示すこと,を使うことができるのではないか。」

(2)対比

引用文献1には,「MSにおけるMRI病変部活動性へ,ヒト化抗α4インテグリンモノクローナル抗体(……)が及ぼす作用を決定すること」を目的として(摘記ア及びイ),「MSの患者72名」に対して(摘記イ),「抗α4インテグリン抗体(ナタリズマブ:Antegren)」(摘記イ及びウ)を,第0週と第4週の2回,3 mg/kgを投与をしたところ(摘記エ),「抗α4インテグリンモノクローナル抗体による短期治療は,MRIでの新たな活発な病変部の数において,有意な減少を引き起こした。MRIの及び臨床的な帰結について,この治療の長期影響を決定するために,さらなる研究が必要である。」との結論を得たこと(摘記イ)が記載されている。
これらのことから,引用文献1には,「MSの患者における,MRIでの新たな活発な病変部の数を減少させるための,抗α4インテグリンモノクローナル抗体であるナタリズマブ(Antegren)からなる薬剤であって,3 mg/kgの量で第0週と第4週の2回,投与をされる薬剤」についての発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
そこで,本願補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明における「抗α4インテグリンモノクローナル抗体であるナタリズマブ(Antegren)」は,本願発明における「α4インテグリンに結合するモノクローナル抗体またはその免疫活性な断片」に相当する。
また,引用文献1に記載された「MS」とは多発性硬化症を指し,また,本願明細書0033段落の記載によれば,本願補正発明における「病的炎症」は多発性硬化症を含むから,引用発明における「MS」は本願補正発明における「病的炎症」に該当する。そして,その患者は病的炎症を長期的に減少することを必要とすることは,当業者に明らかである。したがって,引用発明における「MSの患者における,MRIでの新たな活発な病変部の数を減少させるための」とは,本願補正発明における「病的炎症を長期的に低減することを必要とする患者における病的炎症を低減するための」に相当する。
さらに,引用発明における「ナタリズマブ(Antegren)」は,「インビトロ及びインビボの両方でα4インテグリン媒介の細胞接着に対して,その完全な阻害活性を保つことが示された」ものであって(摘記ウ),それを「3 mg/kg」で2回投与した治療の結果が「MRIでの新たな活発な病変部の数において,有意な減少を引き起こした」(摘記イ)のであるから,引用発明における「3 mg/kg」は,実際に新たな活発な病変部の数に有意な減少を引き起こすのに有効な量であるといえ,ナタリズマブが抗α4インテグリンモノクローナル抗体である以上,この減少は当該抗体がα4インテグリンに結合して阻害することによると解するのが自然である。したがって,引用発明における「3 mg/kg」は,本願補正発明における「α4インテグリンを阻害する、または、α4インテグリンを含む二量体を阻害する、患者に治療上有効な量」に相当する。
そうすると,本願補正発明と引用発明は,いずれも,

「病的炎症を長期的に低減することを必要とする患者における病的炎症を低減するための、α4インテグリンに結合するモノクローナル抗体またはその免疫活性な断片からなる薬剤であって、
α4インテグリンを阻害する、または、α4インテグリンを含む二量体を阻害する、患者に治療上有効な量で投与されることを特徴とする薬剤。」

であることで一致し,以下の点で相違している。

[相違点]本願補正発明では,投与される期間が,「少なくとも6か月間にわたっ」た「長期」のものに限定されているのに対し,引用発明では,「第0週と第4週の2回」である点。

(3)判断

ア.相違点について

引用文献1には,「毎月の注入の間適当なAntegrenの血清濃度を得て,MRI活動性の抑制を維持するために,高用量で長期投与されたAntegrenの評価を将来の調査で行う必要がある。」(摘記キの2段落目後半)と記載されているから,「毎月」の投与で「長期投与」することは示唆されていると言える。
また,引用文献1では,「MRIに及ぼすAntegrenの効果の大きさ及び期間についてより正確に決定するために,さらなる調査が必要」として,「米国MS学会のタスクフォースが提案した計画,すなわち,並行群プラセボ対照の計画において,毎月のMRIで6ヶ月間にわたり新たなMRI活動性の>50%の減少を示すこと,を使うことができるのではないか」との提案が記載されている(摘記キの3段落目)。ここで,予備的研究においては,ナタリズマブ(Antegren)の単回投与が与えるであろう血清濃度が,α4インテグリン受容体の完全な飽和を「3から4週間」の間期待できる程度のものであると示された(摘記エ)ことを踏まえれば,「6ヶ月間にわたり新たなMRI活動性の>50%の減少を示す」には,すなわち,効果を6ヶ月間にわたり持続させるには,少なくとも6ヶ月にわたり3?4週間毎に繰り返し投与が必要であることは,当業者に明らかであるといえる。
したがって,引用文献1には,「少なくとも6か月間にわたって長期投与される」ことが動機付けられているといえるから,本願補正発明は,当業者が容易に想到し得たものである。

イ.効果について

請求人が回答書において強調する「持続的な強化造影病変部の累積数」の「有意で顕著な縮小」(本願明細書0155段落及び表2)という本願補正発明の効果については,引用文献1の摘記オに記載の定義及び本願明細書0143段落に記載の定義からみて,引用文献1に記載の「持続的な強化病変部」が本願明細書に記載の「持続的な強化造影病変部」に相当すると認められるところ,引用文献1には,「平均の持続的な強化病変部(persistently enhancing lesions)の数」について,「第4, 6及び8週にAntegren治療群で低い傾向があった」と記載されている(摘記カ)から,前記効果は当業者が予測可能な範囲内のものであるといえる。
また,その他の明細書記載の効果(0153,0155及び0157段落)についても,概して,投与を継続している間治療効果が得られたことをいうものであると解され,引用文献1の記載から当業者が予測できない範囲のものとはいえない。

ウ.請求人の主張について

(ア)なお,請求人は,審尋に対する回答書において,引用文献1の第471頁左欄第37行の記載を根拠に,引用文献1は,持続的な病変部に対する治療効果を記載していないのに対し,本願明細書(表2)には,長期投与により,持続的な強化造影病変部が偽薬と比べて減少したことが記載されていると主張する。
しかしながら,引用文献1における請求人の指摘箇所には,「ベースライン強化病変部の強化期間の短縮は見られず,既に確立された炎症病変部の治療に対する明らかな治療効果は無かったことを示す。」と記載されているのであって,ここでいう「ベースライン強化病変部」とは,「第0週解析で強化され,その後の検査においても強化し続けた病変部」(摘記オ),つまり「治療開始直前に存在した」病変部のことであるから,引用文献1の上記記載は,本願明細書でいう「持続的な強化造影病変部」に対する治療効果がなかったことを意味するものではない。なお,本願明細書では,引用文献1における「ベースライン強化病変部」に対応するものについて特に記載はないから,引用文献1において「ベースライン強化病変部」に対する効果が無いとされていることに対する,本願補正発明の優位な効果は何ら見当たらない。
また,本願明細書の表2を見ても,長期投与による持続的な強化造影病変部の減少として,引用文献1から予測できないような顕著な効果を読み取ることはできない。すなわち,本願明細書の表2において,「持続的な強化造影病変部」の数値を示す2つの欄のうち,「持続的な強化造影病変部(1?6か月目)」の欄についていえば,「偽薬」群の「3.6」に対し「3 MG/KG」治療群では「0.8」となっているが,これは,ナタリズマブの投与期間中の効果であるから,上記イの項目において述べたとおり,引用文献1の記載から予測可能な範囲内のものといえるし,また,「持続的な強化造影病変部(9および12か月目)」の欄についていえば,「偽薬」群で「0.2」であり,1?6か月目の「3.6」から大幅に低減しているとともに,「3 MG/KG」治療群での「0.1」と同程度であるが,これは,持続的な強化造影病変部について偽薬においても治療群で得られた結果と同程度となる程に大幅な改善が得られているかのようにも読める一見では不可解なものであって,技術的にどのように理解したよいのか明らかでないから,そのようなデータによって,引用文献1からは予測できないような顕著な効果が示されていると認めることもできない。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

(イ)また,請求人は,審判請求書及び前記回答書において,引用文献1には,「長期投与」,「長期治療」を妨げるような内容の記載があると主張し,その根拠として,次の3つを挙げている。すなわち,[1]引用文献1の第470頁右欄第14行には,Antegren を用いることにより急性再燃等の副作用が有意に増加することが記載されている旨,[2]引用文献1には,第471頁左欄第37行で,既に確立された炎症病変に対する明確な治療効果が無いことが,第471頁右欄第40行で,MS治療におけるAntegrenの予備的な効果はささやかで一時的なものであったことが,それぞれ記載されるように,試験結果が不満足なものであったことが記載されている旨,及び,[3]引用文献1の第471頁右欄第51行では,抗体の繰り返し投与が所望の効果を達成しないことを懸念している旨。
しかしながら,以下に述べるように,いずれも「少なくとも6か月間にわたって長期投与」することの阻害要因とは解されない。
すなわち,[1]の点については,請求人が指摘する引用文献1の記載は,臨床試験の結果を報告するという論文の性質上,観察された全ての副作用を報告するという観点で記載されたものであり,そこに何らかの副作用が記載されていたからと言って,直ちに薬剤として使用できなくなるわけではない。一般に,薬剤は,治療効果と副作用等を総合的に勘案しながら開発されるものであり,この観点において,引用文献1には,全てを総合して,抗α4インテグリンモノクローナル抗体に有効な効果を認め,長期の臨床試験での研究を必要としている(摘記イの結論部分及び摘記サ)のであるから,請求人の指摘の副作用に関する記載は,阻害要因とは言えない。
[2]の点については,「既に確立された炎症病変に対する明確な治療効果が無いこと」については,上記(ア)の項目で述べたとおりであるし,効果が「ささやかで一時的なもの」ということについては,摘記キの2段落目の記載をみれば,「高用量で長期投与されたAntegrenの評価を将来の調査で行う必要がある。」との結論につながる文脈で記載されているものであるから,いずれも阻害要因とは言えない。
[3]の点については,請求人が指摘する引用文献1の記載は,モノクローナル抗体の繰り返し投与において一般的に留意すべき事項を指摘している程度のものと解するべきで,これについては,実際,引用文献1においても「低い力価の抗Antegren抗体(ELISA法)が,Antegren治療の37患者中4名(11%)に検出された。この4名の患者では,抗体は,第4週;第6及び8週;第6,8,12及び16週;第16,20及び24週に検出された。抗イディオタイプ抗体の力価は,1.3と5.0 μg/mLの間の範囲内であった。抗Antegren抗体が本研究のMRIの又は臨床的な帰結に影響を及ぼすかどうかを評価する正式な分析は行わなかった。」(第470頁左欄第12?19行)と記載されるように考慮されている事項であるし,しかも,その留意すべき事項を承知の上で,「長期」の臨床試験が必要であるとしている(摘記イの結論部分及び摘記サ)のであるから,これも阻害要因とは言えない。
したがって,請求人の当該主張も採用できない。

(4)小括

よって,本願補正発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび

以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから,同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたから,本願請求項1に係る発明は,本件補正前の平成21年9月24日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
病的炎症を長期的に低減することを必要とする患者における病的炎症を低減するための、α4インテグリンに結合するモノクローナル抗体またはその免疫活性な断片からなる薬剤であって、
α4インテグリンを阻害する、または、α4インテグリンを含む二量体を阻害する、患者に治療上有効な量で長期投与されることを特徴とする薬剤。」
(以下,「本願発明」という。)

2.引用刊行物

原審で通知した平成21年3月13日付け拒絶の理由に引用された引用文
献1,及び,その記載事項は,上記第2の3.(1)の項目に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願補正発明は,上記第2の2.の項目において検討したとおり,本願発明における「長期投与」の期間を「少なくとも6か月間にわた」るものに限定したものであるから,本願発明は,本願補正発明をそのまま包含するものである。
そうすると,本願補正発明が,上記第2の3.(2)?(4)の項目で述べたように引用文献1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとされるのであるから,本願発明も,同様の理由により引用文献1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の点について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-08 
結審通知日 2013-04-12 
審決日 2013-04-23 
出願番号 特願2003-570787(P2003-570787)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横井 宏理  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 中村 浩
渕野 留香
発明の名称 炎症の治療用薬剤の投与  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康徳  
代理人 高柳 司郎  
代理人 下山 治  
代理人 大塚 康弘  
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