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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05B
管理番号 1278840
審判番号 不服2012-9662  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-24 
確定日 2013-09-04 
事件の表示 特願2008-532221「プロセスプラント内の総資産使用指標」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月29日国際公開、WO2007/035205、平成21年 3月 5日国内公表、特表2009-509263〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2006年8月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年9月20日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成23年5月9日付け拒絶理由通知に応答して平成23年8月17日付けで手続補正がなされ、平成24年1月18日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成24年5月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、当審による平成24年7月2日付けの審尋に対して、平成25年1月4日付けで回答書が提出されたものである。


第2.平成24年5月24日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年5月24日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容の概要
本件補正は、平成23年8月17日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)本件補正前の請求項1
「 【請求項1】
複数の下位レベルエンティティを有する、プロセスプラント内のエンティティを監視する方法であって、
それぞれ前記複数の下位レベルエンティティのうちの1つの下位レベルエンティティに関するステータス情報に関係する複数の使用指標を取得することと、
それぞれ前記複数の下位レベルエンティティのうちの1つの下位レベルエンティティの重要度に関係する複数の重み付け値であって、それぞれの重み付け値が前記エンティティに対する当該下位レベルエンティティの衝撃度および当該下位レベルエンティティの故障の頻度に基づいている複数の重み付け値を取得することと、
前記下位レベルエンティティの前記使用指標および重み付け値を組み合わせることにより、前記エンティティに関するステータス情報を表わす総使用指標を作成することと、
前記総使用指標を記録媒体に記憶することを含む
方法。」

(2)本件補正後の請求項1
「 【請求項1】
複数の下位レベルエンティティを有する、プロセスプラント内のエンティティを監視する方法であって、
それぞれ前記複数の下位レベルエンティティのうちの1つの下位レベルエンティティに関するステータス情報に関係する複数の使用指標を取得することと、
それぞれ前記複数の下位レベルエンティティのうちの他の下位レベルエンティティの重要度に対する所与の下位レベルエンティティの相対的重要度に関係する複数の重み付け値であって、それぞれの重み付け値が前記エンティティに対する当該下位レベルエンティティの衝撃度および当該下位レベルエンティティの故障の頻度に基づいている複数の重み付け値を取得することと、
前記下位レベルエンティティの前記使用指標および相対的重み付け値を組み合わせることにより、前記エンティティに関するステータス情報を表わす総使用指標を作成することと、
前記総使用指標を記録媒体に記憶することを含む
方法。」


2.補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「複数の下位レベルエンティティのうちの1つの下位レベルエンティティの重要度」を「複数の下位レベルエンティティのうちの他の下位レベルエンティティの重要度に対する所与の下位レベルエンティティの相対的重要度」と限定し、「重み付け値」を「相対的重み付け値」と限定するものであるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか。)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、明細書及び図面の記載からみて、上記1.(2)に示すとおりのものである。

(2)刊行物の記載事項及び刊行物記載の発明
本願優先日前に外国において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である米国特許出願公開第2004/0186927号明細書(以下、「刊行物」という。)には、以下の事項及び発明が記載されている。
なお、丸括弧内は、当該刊行物に係る米国特許出願に基づいて優先権主張して出願した、日本国特許出願の公表公報(特表2006-520960号公報)を参照した日本語翻訳文、及び同公報における該当箇所である(特に刊行物の「health」の訳語については、本件明細書での翻訳に合わせて、「健全性」とした。)。

ア.段落[0001](段落【0001】)
「The present invention relates generally to process control systems within process plants and, more particularly, to a system that generates reports specific to a particular user to aid asset optimization in a process plant.」
(本発明は、一般的にプロセスプラント内のプロセス制御システムに関するものであり、さらに詳細にいえば、プロセスプラント内の資産最適化を補助するために個々のユーザに特有なレポートを生成するシステムに関するものである。)

イ.段落[0055](段落【0035】)
「As mentioned generally thus far, a plant 10 is comprised hierarchically related entities within the plant 10 , such as areas, units, loops, devices, etc., where the plant 10 may be considered an entity in and of itself. The hierarchical arrangement may be arranged where the plant 10 includes various areas, which in turn include various units, that in turn include various loops and devices. Each of these entities are generally interrelated and interconnected within the process plant 10 . For example, areas may include devices interconnected with units, loops, etc. In this example hierarchy, lower level entities, such as devices, may be interconnected to form higher level entities, such as units, which in turn may be interconnected to form yet higher level entities such as areas, and so on.」
(上述のように、プラント10は、領域、ユニット、ループ、デバイスなどの如き階層的に関連づけされたエンティティをプラント10内に備えている。ここでは、プラント10はそれ自体の中に存在するまたはそれ自体の一つのエンティティであると考えられうる。プラント10がさまざまな領域を備え、次いで、これらの領域がさまざまなユニットを備え、次いで、これらのユニットがさまざまなループとデバイスを備えるように階層的な構成が形成されうる。これらのエンティティの各々は、プロセス10内において通常相互に関連しているとともに相互に接続されている。たとえば、領域は、ユニット、ループなどと相互接続されているデバイスを備えうる。この階層の一例では、デバイスの如き下位エンティティは、ユニットの如き上位エンティティを形成するために相互接続され、次いで、これらのユニットは、領域の如きさらに上位エンティティを形成するために相互接続されていく。)

ウ.段落[0069](段落【0049】)
「(前略)・・・Examples of available status information regarding the process plant 10 includes status information from the maintenance system application 66 (e.g., calibration, alerts, etc.), the asset management tools 70 (e.g., alerts, alert history, repair schedules, etc.), the asset utilization expert 50 (e.g., health index, performance, etc.) or any other desired data source. ・・・(後略)」
((前略)・・・プロセスプラント10に関する入手可能なステータス情報の例としては、保全システムアプリケーション66からのステータス情報(たとえば、校正、アラートなど)、資産管理ツール70からのステータス情報(たとえば、アラート、アラート履歴、修理計画など)、資産活用エキスパート50からのステータス情報(たとえば、健全性指標、性能など)、またはその他所望のデータ供給源からのステータス情報が挙げられる。・・・(後略))

エ.段落[0082](段落【0062】)
「The determination of the severity for any particular status category may be based on the status information received and categorized within that particular status category. Each type of status information categorized under a particular category may have a level of severity associated therewith. The severity level for that particular category may then depend on the severity level for each type of status information, which may be by a weighted average. Alternatively, the severity level for that particular category may be dictated by the type of status information that has the greatest severity level. For example, the health for a unit may have all the health information for every loop and device within that unit categorized into the health category. If the severity level of the health of just one of the devices is high, even though the severity levels for all other loops and devices within the unit are low, the severity level for the health category for the unit is also high because health of just one device may affect the overall health of the unit despite the fact that all other devices and loops within that unit are healthy. The severity levels may be part of or associated with the status information as it is received by the asset optimization reporter, or the severity levels may be determined once the status information is received and analyzed.」
(あるステータスカテゴリの重篤度の決定はそのステータスカテゴリ内で受診され、分類されたステータス情報に基づきうる。あるカテゴリ下で分類されるステータス情報の各タイプは、そのカテゴリに関連する重篤度レベルを有しうる。次に、そのカテゴリの重篤度レベルは、加重平均により求めうる各タイプのステータス情報の重篤度レベルに依存しうる。これに代えて、そのカテゴリの重篤度レベルは、最大重篤度レベルを有するステータス情報のタイプにより決定されうる。たとえば、ユニットの健全性は、健全性カテゴリに分類されるそのユニット内のすべてのループおよびデバイスに関するすべての健全性情報を含みうる。これらのデバイスのうちの一つの健全性の重篤度レベルが高い場合、そのユニット内のすべての他のループおよびデバイスに対する重篤度が低いとしても、そのユニット内の他のすべてのデバイスおよびループの健全性が良好であるという事実にも係わらず一つのデバイスの健全性がそのユニットの総合的な健全性に影響を与えうるため、そのユニットの健全性カテゴリの重篤度レベルは高くなる。重篤度レベルは、資産最適化レポータにより受信されるのでステータス情報の一部であってもよいしまたはそれに関連づけされていてもよい。あるいは、重篤度レベルは、ステータス情報が受信され、解析されてから決定されてもよい。)

オ.段落[0088](段落【0068】)
「Examples of KPIs include, though are not limited, to the following: health, availability, downtime, utilization, reliability, age (lifespan), failure predication, and mean time between failure. A health index, as disclosed in U.S. patent application Ser. No. 10/085,439, referred to above, may relate to the health of a particular device, loop, unit, area, etc. and may further relate to the overall health of the plant. The health index may be provided by an asset management system by querying the necessary devices, loops, etc. The value of the health index may be analyzed and related to the overall priority associated with the entity. Health indices of various entities may be combined, and weighted as necessary, to provide health indices for higher level entities. 」
(KPIの例としては、以下のものに限定するわけではないが、健全性、可用性、非稼働率、稼働率、信頼性、年齢(寿命)、故障予測、および故障間平均時間が挙げられる。上述の米国特許出願第10/085,439号に開示されているように、健全性指標は、あるデバイス、ループ、ユニット、領域などの健全性に関しうるし、また、プラント全体の健全性にさらに関連しうる。この健全性指標は、資産管理システムが必要なデバイス、ループなどを問い合わせることにより提供されうる。健全性指標の値は、解析され、そのエンティティに関連する総合優先順位と関連づけされる。さまざまなエンティティの健全性指標は、組み合わされ、必要に応じて重み付けされることにより、さらに高いレベルのエンティティに対する健全性指標を提供する。)

カ.段落[0092](段落【0072】)
「Failure reports may identify problem assets, problem asset types, problem units, etc. Problem assets, problem asset types and problem units are typically those assets, asset types or units, respectively, that perpetually fail or cause upsets in the production process. Furthermore, detailed help information may be made available on how to best manage the failure. This detailed help may provide suggested corrective measures or recommendations (e.g., recommended actions) that may be taken along with corresponding step-by-step instructions to guide the user or some other person in rectifying the problem diagnosed by the system, though the detailed help information may provide instructions regarding non-suggested measures. Additionally, failure reports may include predictions and analyses as to which entities are close to failing or will likely fail first, what effect such a failure will have on other entities (e.g., overall area or plant failure, impact on profitability, etc.) or on other aspects of the plant 10 (e.g., profitability, quality, etc.), failure history of a particular entity, failure mode, and underlying causes of failure. Predictive failure analyses may be created based on some or all of these variables. In turn, failure reports may include a failure defense plan by taking into account the above factors, prioritizing tasks, generating work orders, parts orders, service orders, etc. Operational information, maintenance history, equipment specifications and engineering analysis may contribute to the development of the failure predictions and analyses. In some cases, failure of an entity may be merely superficial of a greater underlying cause for failure. In order to provide the appropriate maintenance, a root cause failure analysis may be performed which may draw on the knowledge and experience of appropriate personnel that in turn may provide information for a report detailing the proper maintenance to be performed. 」
(故障レポートは、問題資産、問題資産タイプ、問題ユニットなどを特定しうる。問題資産、問題資産タイプ、および問題ユニットとは、それぞれ対応して、生産プロセスにおいてひっきりなしに故障するまたは不調を引き起こす資産、資産タイプ、またはユニットである。さらに、これらの故障を最良に処置する方法に関する詳細なヘルプ情報が入手可能とされうる。この詳細なヘルプは、システムにより診断された問題を解決するにあたりユーザまたは他の人を案内するためのステップ・バイ・ステップのインストラクションとともに提供されうる修正策または修正案を提案しうる。 ただし、この詳細なヘルプ情報は、推奨しない策に関するインストラクションを提供する場合もある。これに加えて、故障レポートには、いずれのエンティティがすぐに故障するかもしくは最初に故障するか、この故障によりプラントの他のエンティティが受ける影響(たとえば、領域全体もしくはプラントの不良により収益性が受ける影響など)またはプラントの他の側面(たとえば、収益性、品質など)が受ける影響、あるエンティティの故障履歴、故障モード、および、故障の根本的な原因に関する予測および分析が含まれうる。予測故障分析は、これらの変数の一部に基づいてまたは全部に基づいて作成されてもよい。同様に、故障レポートは、上述の因子を考慮に入れ、タスクを優先順位に並べ、作業指示書、部品発注書、サービス作業指示書などを作成する故障防止計画を含みうる。運転情報、保全履歴、装置仕様、およびエンジニアリング分析は、故障予測および故障分析の作成に寄与しうる。場合によっては、あるエンティティの故障は、故障のさらに重大な根本的原因のうわべでしかないこともある。適切な保全を提供するためには、根本原因故障分析を実行しうる。この根本原因故障分析は、適切な作業員の知識および経験に依存し、実行されるべき適切な保全を詳述するレポートに情報を提供しうる。)

キ.刊行物記載の発明
上記イ.に摘示する記載からみて、刊行物の「プラント、領域、ユニット、ループ、デバイス」は、いずれも「エンティティ」として認識できる。また、プラントが領域を備え、領域がユニットを備え、ユニットがループとデバイスを備えることからみて、エンティティのうちで、プラントが最上位であり、ループとデバイスが最下位である階層的な関係を理解できる。
また、上記エ.に摘示する「ユニットの健全性は、健全性カテゴリに分類されるそのユニット内のすべてのループおよびデバイスに関するすべての健全性情報を含みうる。これらのデバイスのうちの一つの健全性の重篤度レベルが高い場合、そのユニット内のすべての他のループおよびデバイスに対する重篤度が低いとしても、そのユニット内の他のすべてのデバイスおよびループの健全性が良好であるという事実にも係わらず一つのデバイスの健全性がそのユニットの総合的な健全性に影響を与えうるため、そのユニットの健全性カテゴリの重篤度レベルは高くなる。」という記載からみて、ユニットの健全性カテゴリの重篤度レベルは、ユニット内のデバイス及びループの健全性と、デバイスの健全性の重篤度レベルとに応じて決定されることを理解できるし、そのようにユニットの健全性カテゴリの重篤度レベルを決定するためには、ユニット内のデバイス及びループの健全性に関する情報や、デバイスの健全性の重篤度レベルに関する情報を取得する必要があることは明らかである。
また、上記オ.に摘示する「健全性指標は、あるデバイス、ループ、ユニット、領域などの健全性に関しうる」という記載からみて、ユニット内のデバイス及びループの健全性に関する情報として、ユニット内のデバイス及びループの健全性指標が存在し、さらに上記ウ.の摘示からみて、健全性指標がステータス情報に関連することは、明らかである。
さらに、上記エ.に摘示する「重篤度レベルは、資産最適化レポータにより受信されるのでステータス情報の一部であってもよい」という記載からみて、重篤度レベルがステータス情報を表わすといえる。

以上の記載事項を、技術常識を踏まえつつ本件補正発明に照らして整理すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物記載の発明」という。)が記載されていると認める。
「ループ及びデバイスを有する、プラント内のユニットの健全性カテゴリの重篤度レベルを決定する方法であって、
ループ及びデバイスに関するステータス情報に関連する健全性指標を取得することと、
デバイスの健全性の重篤度レベルに関する情報を取得することと、
ループ及びデバイスの健全性指標と、デバイスの健全性の重篤度レベルに関する情報に応じて、ユニットのステータス情報を表わす健全性カテゴリの重篤度レベルを決定する方法。」


(3)対比
本件補正発明と刊行物記載の発明とを対比すると、刊行物記載の発明の「ループ及びデバイス」は、「ユニット」に対して下位レベルエンティティといえるし、「ユニット」がプラント内のエンティティといえるから、「ループ及びデバイスを有する、プラント内のユニット」は、本件補正発明の「複数の下位レベルエンティティを有する、プロセスプラント内のエンティティ」に相当する。
また、刊行物記載の発明の「ユニットの健全性カテゴリの重篤度レベルを決定する方法」は、「エンティティについての作業を行う方法」という点で、本件補正発明の「エンティティを監視する方法」と共通する。
また、刊行物記載の発明の「ループ及びデバイスに関するステータス情報に関連する健全性指標」が、本件補正発明の「それぞれ複数の下位レベルエンティティのうちの1つの下位レベルエンティティに関するステータス情報に関係する複数の使用指標」に相当することは、明らかである。
また、刊行物記載の発明の「デバイス」が本件補正発明の「下位レベルエンティティ」に相当することは明らかであるから、刊行物記載の発明の「デバイスの健全性の重篤度レベルに関する情報を取得すること」は、「下位レベルエンティティの重要性に関する情報を取得すること」という点で、本件補正発明の「それぞれ複数の下位レベルエンティティのうちの他の下位レベルエンティティの重要度に対する所与の下位レベルエンティティの相対的重要度に関係する複数の重み付け値であって、それぞれの重み付け値が前記エンティティに対する当該下位レベルエンティティの衝撃度および当該下位レベルエンティティの故障の頻度に基づいている複数の重み付け値を取得すること」と共通する。
そして、刊行物記載の発明において「ループ及びデバイスの健全性指標と、デバイスの健全性の重篤度レベルに関する情報に応じて、ユニットのステータス情報を表わす健全性カテゴリの重篤度レベルを決定する」ことは、「下位レベルエンティティの使用指標および下位レベルエンティティの重要性に関する情報を組み合わせることにより、エンティティに関するステータス情報を表わす所定の指標を作成すること」という点で、本件補正発明において「下位レベルエンティティの使用指標および相対的重み付け値を組み合わせることにより、エンティティに関するステータス情報を表わす総使用指標を作成すること」と共通する。
以上から、本件補正発明と刊行物記載の発明とは、以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
「複数の下位レベルエンティティを有する、プロセスプラント内のエンティティについての作業を行う方法であって、
それぞれ前記複数の下位レベルエンティティのうちの1つの下位レベルエンティティに関するステータス情報に関係する複数の使用指標を取得することと、
前記下位レベルエンティティの重要性に関する情報を取得することと、
前記下位レベルエンティティの使用指標および前記下位レベルエンティティの重要性に関する情報を組み合わせることにより、前記エンティティに関するステータス情報を表わす所定の指標を作成することを含む
方法。」

<相違点1>
「エンティティについての作業を行う方法」が、本件補正発明では、「エンティティを監視する方法」であるのに対して、刊行物記載の発明では、「ユニットの健全性カテゴリの重篤度レベルを決定する方法」である点。

<相違点2>
「下位レベルエンティティの重要性に関する情報を取得すること」、及び「下位レベルエンティティの使用指標および前記下位レベルエンティティの重要性に関する情報を組み合わせることにより、前記エンティティに関するステータス情報を表わす所定の指標を作成すること」が、本件補正発明では、「それぞれ複数の下位レベルエンティティのうちの他の下位レベルエンティティの重要度に対する所与の下位レベルエンティティの相対的重要度に関係する複数の重み付け値であって、それぞれの重み付け値がエンティティに対する当該下位レベルエンティティの衝撃度および当該下位レベルエンティティの故障の頻度に基づいている複数の重み付け値を取得すること」、及び「下位レベルエンティティの使用指標および相対的重み付け値を組み合わせることにより、エンティティに関するステータス情報を表わす総使用指標を作成すること」であるのに対して、刊行物記載の発明では、「デバイスの健全性の重篤度レベルに関する情報を取得すること」、及び「ループ及びデバイスの健全性指標と、デバイスの健全性の重篤度レベルに関する情報に応じて、ユニットのステータス情報を表わす健全性カテゴリの重篤度レベルを決定する」ことである点。

<相違点3>
本件補正発明の方法は、総使用指標を記録媒体に記憶することを含むのに対して、刊行物記載の発明の方法は、何らかの指標を記録媒体に記憶することについて明らかではない点。


(4)各相違点の判断
ア.相違点1について
刊行物記載の発明において「ユニットの健全性カテゴリの重篤度レベルを決定する」ことは、上記エ.に示すように、ユニットの総合的な健全性に対する影響を認識するためであるし、そのために「ループ及びデバイスに関するステータス情報に関連する健全性指標を取得すること」を行っているから、刊行物記載の発明の方法は、実質的にユニットを監視、すなわちプロセスプラント内のエンティティを監視しているといえる。
したがって、上記相違点1は、表現上の相違にすぎず、実質的な相違点ではない。

イ.相違点2について
相違点2について検討するため、上記カ.に摘示する刊行物の記載を参照すると、「故障レポートには、いずれのエンティティがすぐに故障するかもしくは最初に故障するか、この故障によりプラントの他のエンティティが受ける影響(たとえば、領域全体もしくはプラントの不良により収益性が受ける影響など)またはプラントの他の側面(たとえば、収益性、品質など)が受ける影響、あるエンティティの故障履歴、故障モード、および、故障の根本的な原因に関する予測および分析が含まれうる。」との記載がある。
当該記載における「いずれのエンティティがすぐに故障するかもしくは最初に故障するか」が本件補正発明における「故障の頻度」に相当し、「この故障によりプラントの他のエンティティが受ける影響」が「衝撃度」に相当することは、明らかである。
そして、このような「いずれのエンティティがすぐに故障するかもしくは最初に故障するか」という情報、すなわち「故障の頻度」や、「この故障によりプラントの他のエンティティが受ける影響」についての情報、すなわち「衝撃度」が、エンティティの健全性に対して重要な情報であることは、明らかであるから、刊行物記載の発明における「デバイスの健全性の重篤度レベルに関する情報」として、これらの「故障の頻度」や「衝撃度」を採用することは、当業者にとって、格別に困難な事項とはいえない。
そして、刊行物記載の発明における「デバイスの健全性の重篤度レベルに関する情報」としての「故障の頻度」は、デバイスの故障の頻度、すなわち下位レベルエンティティの故障の頻度を意味するし、「衝撃度」は、デバイスの故障により領域全体もしくはプラントが受ける衝撃度、すなわちエンティティに対する下位レベルエンティティの衝撃度を意味することになる。
さらに、それらの「故障の頻度」や「衝撃度」を数値化した値として扱うことは、自明であるし、数値それ自体が、大・小や、多・少、高・低などのように比較可能であること、すなわち相対的な意味を持つことは当然であるから、そのような数値を「重み付け値」、あるいは「相対的重み付け値」と呼称するかどうかは、当業者が適宜に決定すればよい表現上の事項にすぎない。
また、刊行物記載の発明における「ユニットのステータス情報を表わす健全性カテゴリの重篤度レベル」を、「エンティティに関するステータス情報を表わす総使用指標」と呼称するかどうかも、当業者が適宜に決定すればよい表現上の事項にすぎない。
以上から、刊行物記載の発明における「デバイスの健全性の重篤度レベルに関する情報」として、刊行物記載の「故障の頻度」や「衝撃度」を採用して、「それぞれ複数の下位レベルエンティティのうちの他の下位レベルエンティティの重要度に対する所与の下位レベルエンティティの相対的重要度に関係する複数の重み付け値であって、それぞれの重み付け値がエンティティに対する当該下位レベルエンティティの衝撃度および当該下位レベルエンティティの故障の頻度に基づいている複数の重み付け値を取得すること」、及び「下位レベルエンティティの使用指標および相対的重み付け値を組み合わせることにより、エンティティに関するステータス情報を表わす総使用指標を作成すること」は、当業者が容易に想到できた事項である。

ウ.相違点3について
刊行物記載の発明の方法は、上記(2)ア.に示すように、制御システムに関する方法であるところ、そのようなシステムにおいて、何らかの指標や情報を記録媒体に記憶することは、改めて例示するまでもない周知の技術的事項である。
したがって、刊行物記載の発明において、指標を記録媒体に記憶することは、当業者にとって容易である。

(5)本件補正発明の効果について
本件補正発明が奏する効果は、刊行物記載の発明や周知の技術的事項に基づいて、当業者が予測し得る効果を超えるものではない。

(6)補正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、刊行物記載の発明、及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

したがって、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成23年8月17日付けで補正された特許請求の範囲、並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、上記第2.1.(1)に示すとおりのものである。

2.刊行物の記載事項及び刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及びその記載事項は、上記第2.2.(2)に記載したとおりである。

3.対比
本願発明は、前記2.1.(2)に補正後の発明として記載した発明、すなわち本件補正発明から、上記第2.2で指摘した各限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2.2.(6)に記載したとおり、刊行物記載の発明、及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、本願発明も同様に、刊行物記載の発明、及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物記載の発明、及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、本願は、その余の請求項2ないし37に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-03 
結審通知日 2013-04-09 
審決日 2013-04-22 
出願番号 特願2008-532221(P2008-532221)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青山 純  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
長屋 陽二郎
発明の名称 プロセスプラント内の総資産使用指標  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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