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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する E04D
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する E04D
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する E04D
管理番号 1279057
審判番号 訂正2013-390101  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2013-07-17 
確定日 2013-08-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4130616号に関する訂正審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第4130616号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり一群の請求項ごとに訂正することを認める。 
理由 1 手続の経緯
本件審判の請求に係る特許第4130616号発明(以下,「本件特許」という。)は,平成15年7月30日(優先権主張:平成15年2月21日)に出願され,平成20年5月30日に特許権の設定登録がなされ,その後,平成25年7月17日付けで本件訂正審判が請求されたものである。

2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の要旨は,本件特許に係る明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり,すなわち,下記訂正事項1?5のとおりに訂正することを求めるものである。
[訂正事項]
(1)訂正事項1
請求項1を以下のとおり訂正する。
[訂正前]
「【請求項1】
軒先に取付けた軒樋の底部に,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を接続したことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。」
[訂正後]
「【請求項1】
軒先に取付けた軒樋の底部に,該底部に形成した開口に挿入した落し口を,該落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下端に,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を外嵌して接続したことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。」

(2)訂正事項2
請求項2を以下のとおり訂正する。
[訂正前]
「【請求項2】
雨水溜まりとなる凹底部を備えた上合を軒先に取付けた軒樋に接続し,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を上合の凹底部に接続したことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。」
[訂正後]
「【請求項2】
雨水溜まりとなる凹底部を備えた上合を軒先に取付けた軒樋に接続し,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を上合の凹底部に接続し,かつサイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板,直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材を取付けたことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。」

(3)訂正事項3
請求項4を以下のとおり訂正する。
[訂正前]
「【請求項4】
サイホン管の上端部に渦流防止部材を取付けた請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のサイホン式雨水排水装置。」
[訂正後]
「【請求項4】
サイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板,直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材を取付けた請求項1又は請求項3に記載のサイホン式雨水排水装置。」

(4)訂正事項4
明細書の段落【0005】を以下のとおり訂正する。
[訂正前]
「【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため,本発明の請求項1に係るサイホン式雨水排水装置(以下,第一のサイホン式雨水排水装置という)は,軒先に取付けた軒樋の底部に,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を接続したことを特徴とするものである。」
[訂正後]
「【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため,本発明の請求項1に係るサイホン式雨水排水装置(以下,第一のサイホン式雨水排水装置という)は,軒先に取付けた軒樋の底部に,該底部に形成した開口に挿入した落し口を,該落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下端に,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を外嵌して接続したことを特徴とするものである。」

(5)訂正事項5
明細書の段落【0013】を以下のとおり訂正する。
[訂正前]
「【0013】
更に,上記の第一及び第二のサイホン式雨水排水装置においては,サイホン管の上端部に渦流防止部材を取付けることが好ましい。雨水がサイホン管に流れ込むとき,地球の自転の影響で渦流が発生して空気を吸い込みやすくなるが,上記のようにサイホン管の上端部に渦流防止部材を取付けて渦流が発生しないようにすると,渦流による空気の吸込みがなくなってサイホン作用による排水が一層安定して行われるようになる。」
[訂正後]
「【0013】
更に,上記の第一及び第二のサイホン式雨水排水装置においては,サイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板,直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材を取付けることが好ましい。雨水がサイホン管に流れ込むとき,地球の自転の影響で渦流が発生して空気を吸い込みやすくなるが,上記のようにサイホン管の上端部に渦流防止部材を取付けて渦流が発生しないようにすると,渦流による空気の吸込みがなくなってサイホン作用による排水が一層安定して行われるようになる。」

3 当審の判断
1.訂正の目的の適否,新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,請求項1に関して,「軒先に取付けた軒樋の底部に,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を接続したことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。」を「軒先に取付けた軒樋の底部に,該底部に形成した開口に挿入した落し口を,該落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下端に,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を外嵌して接続したことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。」と訂正するものであり,本件特許明細書等及び願書に最初に添付した明細書又は図面の関連する記載は以下のとおりである。
(ア)訂正前の特許請求の範囲の記載事項として,【請求項1】には,「軒先に取付けた軒樋の底部に,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を接続したことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。」と記載されている。
(イ)願書に最初に添付した明細書の段落【0023】には,本発明のサイホン式雨水排水装置における軒樋底部のサイホン管接続箇所の具体的な説明として「サイホン管3の上端は,図2に示すように,軒樋2の底部に設けられた落し口2aの雄筒部2bに接続されている。この落し口2aは,上部外周面に雄ネジが形成された雄筒部2bの上端にフランジ部2cを設けたものであって,軒樋2底部の開口に上方から挿入され,そのフランジ部2cが開口周縁部に係止されている。そして,この雄筒部2bには,内周面に雌ネジを形成した締付けリング2dが下方から螺合され,雄筒部2bの上端のフランジ部2cと締付けリング2dの上端のフランジ部2eによって軒樋2底部の開口周縁部を上下から挟持した状態で取付けられている。これらのフランジ部2c,2eは,漏水を防止するために接着剤を用いて軒樋2の底部に水密的に接着することが望ましい。」と記載されていることから,訂正事項1における「該底部に形成した開口に挿入した落し口を,該落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け」ることが記載されているといえる。
(ウ)また,【図2】のサイホン式雨水排水装置における軒樋底部のサイホン管接続箇所を示す部分断面図より,落し口2aの下端にサイホン管3の上端を外嵌して接続することがみてとれることから,訂正事項1中の「落し口の下端に,・・・サイホン管の上端を外嵌して接続した」ことが記載されているといえる。
したがって,上記訂正事項1は,願書に最初に添付した明細書の段落【0023】及び【図2】等の記載に基づいて,訂正前の請求項1においては,軒樋の底部にサイホン管の上端を接続するための具体的な構成について特定されていなかったものを,訂正後の請求項1は,「(軒樋の)底部に,該底部に形成した開口に挿入した落し口を,該落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下端に,・・・サイホン管の上端を外嵌して接続した」との限定を加えることにより,軒樋の底部にサイホン管の上端を接続するための具体的な構成を特定し,発明特定事項を直列的に付加するものであるから特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,請求項2に関して,「雨水溜まりとなる凹底部を備えた上合を軒先に取付けた軒樋に接続し,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を上合の凹底部に接続したことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。」とあるのを「雨水溜まりとなる凹底部を備えた上合を軒先に取付けた軒樋に接続し,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を上合の凹底部に接続し,かつサイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板,直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材を取付けたことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。」と訂正するものであり,本件特許明細書等及び願書に最初に添付した明細書又は図面の関連する記載は以下のとおりである。
(ア)訂正前の特許請求の範囲の記載事項として,【請求項2】には,「雨水溜まりとなる凹底部を備えた上合を軒先に取付けた軒樋に接続し,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を上合の凹底部に接続したことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。」と記載されている。
(イ)願書に最初に添付した明細書の段落【0029】には,「上記の渦流防止部材5は,図8に示すように円筒5aの内部に格子状の仕切り板5bを設けたもので,円筒5aの外径はサイホン管3の内径と実質的に同一とされている。特に,円筒5aの長さが50mm以上(例えば50?200mm程度)であって,その開口率が70%以上である渦流防止部材5は,これを図5に示すようにサイホン管3の上端部に内嵌して取付けると,格子状の仕切り板5bにより渦流が阻止されて整流となり,大量の雨水が空気を吸い込むことなく速やかにサイホン管3内を満流状態で流下するので好ましい。円筒5aの長さが50mmより短い場合は,渦流防止作用及び整流作用が不十分となり,開口率が70%より低い場合は,サイホン管3への雨水の流入量が減少して排水能力の低下を招くので,いずれの場合も好ましくない。」と記載されている。
そして,段落【0030】に,「なお,上記の渦流防止部材5に代えて,外径がサイホン管3の内径と実質的に同一である長さが50mm以上の円柱に,その中心線と平行な多数の貫通孔を形成して開口率を70%以上とした渦流防止部材なども好適に使用することができる。」と記載されている。
さらに,段落【0031】に,「もう一つの渦流防止部材6は,図9に示すように,直交する十字板6aの下部に,軒樋2底部の落し口2aのベルマウス形状に対応する形状の切欠部6bを形成したものである。図6に示すように,この渦流防止部材6の下部を落し口2aからサイホン管3の上端部に挿入して取付けると,雨水が落し口2aに流入する前に渦流防止部材6の十字板6aによって渦流の発生が確実に阻止されるため,渦流による空気の吸込みがなくなってサイホン作用による排水が安定化する。」と記載されている。
上記の記載から,訂正事項2における「サイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板,直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材を取付けた」ことが記載されているといえる。
したがって,上記訂正事項2は,願書に最初に添付した明細書の段落【0029】ないし【0031】,図5,6及び図8,9等の記載に基づいて,「渦流防止部材」の具体的な構成を含めて,サイホン管の上端部の具体的な構成を特定し,発明特定事項を直列的に付加するものであるから特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,請求項4の「サイホン管の上端部に渦流防止部材を取付けた請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のサイホン式雨水排水装置。」を,「サイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板,直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材を取付けた請求項1又は請求項3に記載のサイホン式雨水排水装置。」と訂正するものである。
すなわち,訂正前の請求項4においては,「渦流防止部材」の具体的な構成について特定されていなかったものを,訂正後の請求項4は,「サイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板,直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材」との限定を加えることにより,「渦流防止部材」について,配設箇所を含めてその具体的な構成を特定したものである。
また,訂正事項2(訂正後の請求項2の記載)との整合を図るため,訂正後の請求項4において,訂正前の請求項4にあった請求項2の引用を削除した。
本件特許明細書等及び願書に最初に添付した明細書又は図面の関連する記載は上記「(2)訂正事項2について」と同様である。
したがって,訂正事項3は,特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は,訂正事項1に係る訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために,明細書の段落【0005】に記載された「・・・軒先に取付けた軒樋の底部に,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を接続した・・・」を,「・・・軒先に取付けた軒樋の底部に,該底部に形成した開口に挿入した落し口を,該落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下端に,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を外嵌して接続した・・・」と訂正するものである。
すなわち,訂正事項4は,上記「(1)訂正事項1について」に記載したように,軒樋の底部にサイホン管の上端を接続するための具体的な構成を特定したものである。
本件特許明細書等及び願書に最初に添付した明細書又は図面の関連する記載は上記「(1)訂正事項1について」と同様である。
したがって,訂正事項4は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は,訂正事項3(及び訂正事項2)に係る訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために,明細書の段落【0013】に記載された「・・・サイホン管の上端部に渦流防止部材を取付けることが好ましい。・・・」を,「・・・サイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板,直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材を取付けることが好ましい。・・・」と訂正するものである。
すなわち,訂正事項5は,上記「(3)訂正事項3について」(及び「(2)訂正事項2について」)に記載したように,「渦流防止部材」について,配設箇所を含めてその具体的な構成を特定したものである。
本件特許明細書等及び願書に最初に添付した明細書又は図面の関連する記載は上記「(2)訂正事項2について」と同様である。
したがって,訂正事項5は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではない。

以上のことから,上記訂正事項1?5は,特許請求の範囲の減縮及び/又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではない。
よって,本件訂正は,特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ同条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

2.独立特許要件について
訂正事項1?5は,特許請求の範囲の減縮及び/又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるところ,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。
(1)訂正後の発明
訂正後における特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下それぞれ「本件訂正発明1?8」という。)は,平成25年7月17日付けの審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)審判請求人が提出した文献1?11について
審判請求人は,本件特許出願前に,「13cm^(2)以下の開口面積を有する樋」が記載されている刊行物(電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものを含む。)が,日本国内又は外国で頒布されていたことが判明したため,上記審判請求書に添付して文献1?11を提出した。これらの文献には,「軒先に取付けた軒樋の底部に,該底部に形成した開口に挿入した落し口を,該落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記フランジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下端に,家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を外嵌して接続した」点及び「サイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板,直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材を取付けた」点について,記載も示唆もされていないから,文献1?11には,本件訂正発明1?8は記載されておらず,また,本件訂正発明1?8は,これらの文献に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)まとめ
したがって,本件訂正発明1?8は,文献1?11に記載された発明ではなく,また,文献1?11に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また,他に本件訂正発明1?8が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由も見当たらない。
よって,本件訂正は,特許法第126条第7項の規定に適合する。

4 むすび
以上のとおりであるから,本件審判の請求は,特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし,かつ,同法同条第5ないし7項の規定に適合する。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
サイホン式雨水排水装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軒先に取付けた軒樋の底部に、該底部に形成した開口に挿入した落し口を、該落し口を構成する、上端にフランジ部を設け、外周面に雄ネジを形成した雄筒部と、上端にフランジ部を設け、内周面に雌ネジを形成した締付けリングとを螺合させて、軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け、該落し口の下端に、家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を外嵌して接続したことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。
【請求項2】
雨水溜まりとなる凹底部を備えた上合を軒先に取付けた軒樋に接続し、家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を上合の凹底部に接続し、かつサイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板、直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材を取付けたことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。
【請求項3】
サイホン管が、合成樹脂製の丸樋もしくは角樋、又は、可撓性のチューブのいずれかよりなるものである請求項1又は請求項2に記載のサイホン式雨水排水装置。
【請求項4】
サイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板、直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材を取付けた請求項1又は請求項3に記載のサイホン式雨水排水装置。
【請求項5】
軒樋の底部のサイホン管接続箇所を覆うように、下部に流入口を有するカバーを軒樋の底部に設けた請求項1に記載のサイホン式雨水排水装置。
【請求項6】
軒樋の底部に、雄筒部からその上端のフランジ部に連なる部分にアールを付けたベルマウス形状の落し口、又は、雄筒部からその上端のフランジ部に連なる部分にテーパー状の面取りを形成した落し口を設けて、該落し口の雄筒部にサイホン管の上端を接続した請求項1に記載のサイホン式雨水排水装置。
【請求項7】
上合の雨水溜まりとなる凹底部が1?10リットルの容積を有する請求項2に記載のサイホン式雨水排水装置。
【請求項8】
上合の凹底部のサイホン管接続箇所を覆うように、多数の透水孔を有する内側カバーを上合の凹底部に設けると共に、この内側カバーを覆うように、多数の透水孔を有する外側カバーを上合の凹底部に設けた請求項2に記載のサイホン式雨水排水装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、大雨のときに雨水を極めて効率よく排水できるサイホン式雨水排水装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の家屋は、軒樋を上合(集水器)に向かって流れ勾配が付くように軒先に取付け、上合に流入した雨水を堅樋を通じて自然落下させることにより排水していた。けれども、軒樋に流れ勾配が付いていると家屋の外観が良くないため、最近の住宅では、流れ勾配を付けないで軒樋を水平に取付ける場合が増えている。また、軒樋の底部に落し口を設け、この落し口に堅樋を接続して雨水を排水するものもある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のように雨水を上合や軒樋の落し口から堅樋に自然落下させる排水装置は排水効率があまり良くなく、特に、軒樋を水平に取付ける場合は排水効率が悪くなるので、本来必要な容量以上の大きい軒樋を取付けたり、上合と上合の間隔あるいは落し口と落し口の間隔を狭めて堅樋の本数を増やし、大雨のときに雨水が軒樋から溢れないようにする必要があった。そのため、コストアップを招き、上合や堅樋の増加によって家屋の外観も損なわれるという問題があった。
【0004】
本発明は上記の問題に対処すべくなされたもので、その目的とするところは、大雨のときにサイホン作用により大量の雨水を極めて効率良く排水でき、コストアップや家屋の外観を損なうことがないサイホン式雨水排水装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明の請求項1に係るサイホン式雨水排水装置(以下、第一のサイホン式雨水排水装置という)は、軒先に取付けた軒樋の底部に、該底部に形成した開口に挿入した落し口を、該落し口を構成する、上端にフランジ部を設け、外周面に雄ネジを形成した雄筒部と、上端にフランジ部を設け、内周面に雌ネジを形成した締付けリングとを螺合させて、軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け、該落し口の下端に、家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を外嵌して接続したことを特徴とするものである。
【0006】
このような構成の第一のサイホン式雨水排水装置は、小雨のときには屋根から軒樋に流れ込んだ雨水がサイホン管の内部を自然落下して排水される。一方、大雨になって屋根から大量の雨水が軒樋に流れ込み、サイホン管の内部を流落する雨水量が増加すると、開口面積が3?13cm^(2)と小さいサイホン管はすぐに雨水で満たされ、サイホン作用によって雨水が自然落下排水の数倍の流速でサイホン管を満流状態で流れ落ち、多量の雨水が極めて効率良く排水される。このサイホン作用による排水は、軒樋底部のサイホン管接続箇所の雨水が少なくなって空気がサイホン管に吸い込まれると停止し、自然落下排水に戻る。
【0007】
サイホン管の開口面積が20cm^(2)より大きい場合は勿論、13cm^(2)より大きくなると、大雨のときでもサイホン管に空気が吸い込まれて満流状態になりにくいため、サイホン作用による排水が行われにくくなり、サイホン作用による排水が行われてもすぐに空気を吸い込んで自然落下排水に戻るため、排水効率が従来の堅樋等による自然落下排水とあまり変わらなくなる。一方、サイホン管の開口面積が2cm^(2)よりも小さい場合は勿論、3cm^(2)よりも小さくなると、流下する雨水とサイホン管内面との摩擦抵抗が増して流下速度が抑えられるため、サイホン作用が発揮されても十分な排水能力を得ることは難しくなる。
【0008】
上記のように、第一のサイホン式雨水排水装置は大雨のときの排水能力が極めて高いため、軒樋として従来の軒樋よりも容量の小さいものが使用可能となり、しかも、サイホン管が細くて目立ちにくい上に、サイホン管の設置間隔を広げて設置個数を少なくできるので、コストアップや家屋の外観を損なう心配がなくなる。
【0009】
前記の目的を達成する本発明の請求項2のサイホン式雨水排水装置(以下、第二のサイホン式雨水排水装置という)は、雨水溜まりとなる凹底部を備えた上合を軒先に取付けた軒樋に接続し、家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した3?13cm^(2)の開口面積を有するサイホン管の上端を上合の凹底部に接続したことを特徴とするものである。
【0010】
この第二のサイホン式雨水排水装置は、前述した第一のサイホン式雨水排水装置と同様に、小雨のときには雨水がサイホン管の内部を自然落下して排水され、大雨のときにはサイホン作用により雨水が自然落下排水の数倍の流速でサイホン管の内部を満流状態で流れ落ちて優れた排水能力を発揮するものであるが、特にこの第二のサイホン式雨水排水装置の場合は、雨水が上合の凹底部に一旦溜められてサイホン管に流れ込むため、サイホン管に空気が吸い込まれにくくなり、サイホン作用による排水が安定して行われるようになる。
【0011】
上記の第一及び第二のサイホン式雨水排水装置においては、サイホン管の開口面積を2?20cm^(2)としてもサイホン作用による排水は行われるが、上記のように開口面積を3?13cm^(2)にすると、サイホン作用による排水が一層安定して効率良く行われるため排水能力が更に向上する。
【0012】
サイホン管は、合成樹脂製の丸樋もしくは角樋、又は、可撓性のチューブのいずれかよりなるものが好ましく使用される。丸樋もしくは角樋よりなる開口面積が2?20cm^(2)と小さいサイホン管は、従来の堅樋等に比べると遥かに細くて目立ちにくいため、サイホン管による家屋の外観の低下を抑えることができる。また、可撓性のチューブよりなるサイホン管は、安価で施工性が良く、場合によっては、外部から見えないようにサイホン管を家屋外壁材とその裏側の内壁材との中空部に配設して、家屋の外観をすっきりとさせることも可能である。
【0013】
更に、上記の第一及び第二のサイホン式雨水排水装置においては、サイホン管の上端部の内部に格子状の仕切り板、直交する十字板又は複数の貫通孔を形成した円柱のいずれかよりなる渦流防止部材を取付けることが好ましい。雨水がサイホン管に流れ込むとき、地球の自転の影響で渦流が発生して空気を吸い込みやすくなるが、上記のようにサイホン管の上端部に渦流防止部材を取付けて渦流が発生しないようにすると、渦流による空気の吸込みがなくなってサイホン作用による排水が一層安定して行われるようになる。
【0014】
上記の第一のサイホン式雨水排水装置においては、軒樋底部のサイホン管接続箇所を覆うように、下部に流入口を有するカバーを軒樋の底部に設けることが好ましい。このようなカバーを設けると、サイホン管の空気の吸込みがカバーによって防止されるため、サイホン作用による排水が更に安定して排水性能が向上する。特に、軒樋内部の雨水の水面が上昇してカバーが水中に埋没した状態になると、カバーによる空気の吸込み防止作用が顕著に発揮され、サイホン作用による排水が極めて安定して行われるようになる。また、第一のサイホン式雨水排水装置においては、軒樋の底部に、雄筒部からその上端のフランジ部に連なる部分にアールを付けたベルマウス形状の落し口、又は、雄筒部からその上端のフランジ部に連なる部分にテーパー状の面取りを形成した落し口を設けて、該落し口の雄筒部にサイホン管の上端を接続することが好ましく、このようなベルマウス形状の落し口又はテーパー状の面取りを形成した落し口を設けると、サイホン管への雨水の流入抵抗が減少するため、サイホン作用による排水性能が一層向上する。
【0015】
上記の第二のサイホン式雨水排水装置においては、雨水溜まりとなる軒樋凹底部の容積を1?10リットルとすることが好ましく、この程度の容積があると、大雨のときに十分な量の雨水を軒樋凹底部に溜めながら空気の吸込みを防止してサイホン作用による効率の良い排水を安定して行うことができる。
【0016】
また、第二のサイホン式雨水排水装置においては、上合の凹底部のサイホン管接続箇所を覆うように、多数の透水孔を有する内側カバーを上合の凹底部に設けると共に、この内側カバーを覆うように、多数の透水孔を有する外側カバーを上合の凹底部に設けることが好ましい。このようにすると、外側カバーと内側カバーによってゴミ等の固形物が二重に除去されるため、サイホン管路のゴミ詰まりを防止できると共に、空気を吸い込む音を消すこともできるようになる。すなわち、上合の凹底部の雨水が空になってサイホン作用による排水が自然落下排水に戻るときには、サイホン管路に空気が吸い込まれてゴボゴボと音が出やすくなるが、この吸気音は内側カバーと外側カバーで二重に減衰されるため十分な消音効果が発揮される。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。
【0018】
図1は本発明のサイホン式雨水排水装置の一実施形態を示す側面図、図2,図3,図4は落し口の形状がそれぞれ異なる軒樋底部のサイホン管接続箇所を示す部分断面図、図5,図6は異なる渦流防止部材を取付けた軒樋底部のサイホン管接続箇所を示す部分断面図、図7はカバーを設けた軒樋底部のサイホン管接続箇所を示す部分断面図、図8,図9は上記の異なる渦流防止部材を示す斜視図、図10は上記のカバーを示す斜視図である。
【0019】
図1に示すサイホン式雨水排水装置は、家屋軒先の破風板1aに軒樋吊具(不図示)を用いて軒樋2を取付け、この軒樋2の底部に、家屋の外壁材1bに沿って縦方向に配設したサイホン管3の上端を接続したものである。
【0020】
軒樋2は、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリオレフィン等の熱可塑性合成樹脂で押出成形されたものや、ブリキなどの金属で造られたものや、樹脂被覆金属板で造られたものなど、従来の種々の軒樋がいずれも使用可能であり、従来の軒樋より小型の軒樋も使用可能である。
【0021】
サイホン管3は、2?20cm^(2)の開口面積、好ましくは3?13cm^(2)の開口面積を有する合成樹脂製の細い丸樋3aをエルボ継手3bを介して接続することにより形成されたものであって、固定具3cにより家屋の外壁材1bに固定されている。サイホン管としては、上記と同様の開口面積を有する合成樹脂製の細い角樋をエルボ継手を介して接続したものや、後述する可撓性のチューブなども好ましく使用される。
【0022】
サイホン管3のサイホン作用によって軒樋2から大量の雨水を効率良く排水するためには、2?20cm^(2)、好ましくは3?13cm^(2)の開口面積を有する細いサイホン管3を採用することが必要であり、開口面積が20cm^(2)より大きい場合は勿論、13cm^(2)よりおおきくなると、既述したように空気を吸い込んでサイホン管内が満流状態になりにくいため、サイホン作用による排水を行うことが困難になる。一方、2cm^(2)より小さい場合は勿論、3cm^(2)より小さくなると、流下する雨水とサイホン管3内面との摩擦抵抗が増して流下速度が低下するため、十分な排水能力を発揮することが困難になる。好ましい3?13cm^(2)の開口面積のサイホン管3を採用すると、サイホン作用による排水が安定して優れた排水能力を発揮することができる。
【0023】
サイホン管3の上端は、図2に示すように、軒樋2の底部に設けられた落し口2aの雄筒部2bに接続されている。この落し口2aは、上部外周面に雄ネジが形成された雄筒部2bの上端にフランジ部2cを設けたものであって、軒樋2底部の開口に上方から挿入され、そのフランジ部2cが開口周縁部に係止されている。そして、この雄筒部2bには、内周面に雌ネジを形成した締付けリング2dが下方から螺合され、雄筒部2bの上端のフランジ部2cと締付けリング2dの上端のフランジ部2eによって軒樋2底部の開口周縁部を上下から挟持した状態で取付けられている。これらのフランジ部2c,2eは、漏水を防止するために接着剤を用いて軒樋2の底部に水密的に接着することが望ましい。
【0024】
落し口2aの形状は、図3に示すように、雄筒部2bからフランジ部2cに連なる部分2fにアールを付けた所謂ベルマウス形状とすることが好ましく、このようなベルマウス形状の落し口2aを設けると、サイホン管3aへの雨水の流入抵抗が減少するため、サイホン作用による排水性能が一層向上する利点がある。また、図4に示すように、雄筒部2bからフランジ部2cに連なる部分にテーパー状の面取り2gを形成した落し口2aも、サイホン管3aへの雨水の流入抵抗が減少するので好ましい。
【0025】
サイホン管3の下端は、図1に示すように異径継手4aを介して太い排水管4bに接続されており、この排水管4bは地中の雨水桝4cに接続されている。なお、この排水管4bは必ずしも雨水桝4cに接続する必要がなく、地中に埋設された雨水浸透トレンチ管(不図示)等に接続してもよい。
【0026】
上記構成のサイホン式雨水排水装置は、小雨のときには屋根1cから軒樋2に流れ込んだ雨水が空気と共にサイホン管3の内部を自然落下して排水される。けれども、大雨になって屋根1cから大量の雨水が軒樋2に流れ込み、サイホン管3の内部を流落する雨水量が増加すると、開口面積が2?20cm^(2)と小さいサイホン管3はすぐに雨水で満たされ、サイホン作用によって雨水が自然落下排水の数倍の流速でサイホン管3内を満流状態で大量に流れ落ちる。特に、軒樋2底部の落し口2aが前述のベルマウス形状であったり、テーパー状の面取り2gが形成されたものである場合は、サイホン管3への雨水の流入抵抗が小さいため排水性能が一層向上するようになる。そして、雨水がサイホン管3から太い排水管4bに流れ込むと自然落下排水に戻って減速され、雨水桝4cを経て地下貯水槽(不図示)や下水管(不図示)へ排水される。このサイホン作用による排水は、軒樋2内部の雨水が減少して空気がサイホン管3に吸い込まれるようになると停止し、自然落下排水に戻る。
【0027】
上記のように、このサイホン式雨水排水装置は大雨のときの排水能力が極めて高いため、軒樋2として従来の軒樋よりも容量の小さいものを使用しても、雨水が溢れる心配はない。また、排水能力が上記のように高ければ、サイホン管3の設置間隔を広げて設置個数を減少させることができるため、サイホン管3が細くて目立ちにくいことと相俟って、雨水排水装置による家屋の外観低下を最小限に抑えることが可能となり、施工費用を低減することも可能となる。
【0028】
ところで、雨水が軒樋2底部の落し口2aからサイホン管3に流れ込むときには、地球の自転の影響で渦流が発生して空気を吸い込みやすくなり、空気を吸い込むとサイホン作用による排水は自然落下排水に戻る。従って、サイホン作用による排水を安定化して持続させるためには、図5及び図6に示すような渦流防止部材5,6をサイホン管3の上端部に取付けることが好ましい。
【0029】
上記の渦流防止部材5は、図8に示すように円筒5aの内部に格子状の仕切り板5bを設けたもので、円筒5aの外径はサイホン管3の内径と実質的に同一とされている。特に、円筒5aの長さが50mm以上(例えば50?200mm程度)であって、その開口率が70%以上である渦流防止部材5は、これを図5に示すようにサイホン管3の上端部に内嵌して取付けると、格子状の仕切り板5bにより渦流が阻止されて整流となり、大量の雨水が空気を吸い込むことなく速やかにサイホン管3内を満流状態で流下するので好ましい。円筒5aの長さが50mmより短い場合は、渦流防止作用及び整流作用が不十分となり、開口率が70%より低い場合は、サイホン管3への雨水の流入量が減少して排水能力の低下を招くので、いずれの場合も好ましくない。
【0030】
なお、上記の渦流防止部材5に代えて、外径がサイホン管3の内径と実質的に同一である長さが50mm以上の円柱に、その中心線と平行な多数の貫通孔を形成して開口率を70%以上とした渦流防止部材なども好適に使用することができる。
【0031】
もう一つの渦流防止部材6は、図9に示すように、直交する十字板6aの下部に、軒樋2底部の落し口2aのベルマウス形状に対応する形状の切欠部6bを形成したものである。図6に示すように、この渦流防止部材6の下部を落し口2aからサイホン管3の上端部に挿入して取付けると、雨水が落し口2aに流入する前に渦流防止部材6の十字板6aによって渦流の発生が確実に阻止されるため、渦流による空気の吸込みがなくなってサイホン作用による排水が安定化する。
【0032】
また、サイホン管3への空気の吸い込みを防止するためには、図7に示すようなカバー7を軒樋2底部のサイホン管接続箇所(落し口2a)を覆うように設けることも有効である。このカバー7は、図10に示すような正方形のカバーであって、四側面の下部に流入口7aが形成されたものである。かかるカバー7を図7に示すように設置すると、軒樋2内部の雨水の水面が流入口7aより高くなったときに、落し口2aと大気とがカバー7によって隔離されるため、落し口2aからの空気の吸い込みが防止される。特に、雨水の水面が上昇してカバー7が水中に埋没した状態になると、渦流による大気から落し口2aへの空気通路がカバー7によって完全に遮断されるため、空気の吸込み防止作用が顕著に発揮されてサイホン作用による排水が極めて安定して行われるようになる。
【0033】
なお、このカバー7に代えて、下部周囲に流入口を形成した円形ドーム状のカバーなどを使用することも勿論可能である。
【0034】
図11は本発明の他の実施形態に係るサイホン式雨水排水装置の正面図、図12は同装置の断面図、図13は同装置の部分拡大図、図14は同装置における上合とサイホン管との接続箇所の分解断面図、図15は同装置における上合の斜視図、図16(a),(b)は同装置における横引きガイドの正面図と側面図、図17(a),(b)は同装置におけるコーナーガイドの正面図と側面図である。
【0035】
このサイホン式雨水排水装置は、軒樋2、上合8、可撓性のチューブからなるサイホン管3、サイホン管3の配設に用いる横引きガイド9、コーナーガイド10、チューブ固定バンド11、吊り金具12などの付属部品によって構成されている。
【0036】
図11に示すように、このサイホン式雨水排水装置では、軒樋2が左右から上合8に接続されている。この上合8は軒樋2と同様の熱可塑性合成樹脂で射出成形されたものであって、図11、図14、図15に示すように、雨水溜まりとなる深い凹底部8aを有している。上合8の左右両端には、軒樋2を接続するための軒樋嵌合部8b,8bが設けられており、この軒樋嵌合部8bに接続された軒樋2の耳部を押さえる耳押さえ部8e,8eが上合8の前板8cと後板8dの上端に形成されている。そして、上記凹底部8aの後側中央部には一段低い凹部8fが設けられており、この凹部8fに連通するネジ孔8gが上合の後板8dの下端部に形成されている。このネジ孔8gには、図13、図14に示すように、先端に雄ネジを形成したねじ込みソケット8hが螺合されており、このねじ込みソケット8hにサイホン管3の上端が嵌合接続されて、これらの接続箇所から空気が入らないように密閉されている。
【0037】
雨水溜まりとなる上記凹底部8aの内容積は、1リットル?10リットル程度であることが好ましい。1リットルより小さい場合は、サイホン作用による排水が始まるとすぐに空気がサイホン管3に吸い込まれるため、サイホン作用による排水と自然落下排水が繰り返されて安定せず、空気の吸い込まれる音が大きいという不都合を生じる。一方、10リットルより大きい場合は、サイホン作用による排水が安定し、効率良く雨水を排水できるけれども、上合8を正面から見たときに凹底部8aが目立ち過ぎて家屋の外観を損なうという不都合が生じる。凹底部8aのより好ましい内容積は、1.5リットル?7リットルである。
【0038】
また、上記の一段低い凹部8fは、その形状を流水抵抗の小さな曲面形状とすることによって、凹底部8aに溜まった雨水が該凹部8fにスムーズに流れ込んでサイホン管3に吸引されるようにすることが好ましい。このような凹部8fが形成されていると、凹底部8aの雨水が空に近い状態になるまでサイホン管3に空気が入らないため、サイホン作用による排水が安定化する。
【0039】
この実施形態におけるサイホン管3は、可撓性を有する軟質合成樹脂製あるいは合成ゴム製のチューブからなるものであって、特に補強用のネットを埋入した強度及び耐久性の良好なチューブが好ましく使用される。この可撓性のチューブからなるサイホン管3(以下、サイホンチューブ3という)は、既述したようにサイホン作用による優れた排水能力を発揮させるためには2?20cm^(2)の開口面積を有する必要があり、特に、3?13cm^(2)の開口面積を有することが好ましい。
【0040】
図12、図13に示すように、上記のサイホンチューブ3は軒天1dの下面に沿って横引きされ、さらに家屋外壁材1bに沿って縦方向に配設されている。このサイホンチューブ3の横引きされた上端部には合成樹脂製の横引きガイド9が外嵌着され、高さ調節自在な吊り金具12で軒天1dの先端から吊持されている。そして、サイホンチューブ3の湾曲したコーナー部には合成樹脂製のコーナーガイド10が外嵌着され、このコーナーガイド10が家屋外壁材1bに固定されている。
【0041】
上記の横引きガイド9は、図16(a)(b)に示すように上部が開環した直状の円筒体であって、開環部分の端縁9a,9aが両外側へ屈曲形成されている。従って、この上端縁9a,9aを案内片として下方から横引きガイド9をサイホンチューブ3に押し付けると、横引きガイド9の開環部分が弾性的に拡開して簡単に外嵌着できるようになっている。
【0042】
また、上記のコーナーガイド10は、図17(a)(b)に示すように、上部から後部にかけて開環した湾曲状の円筒体であって、開環部分の端縁10a,10aが両外側へ屈曲形成されている。そして、このコーナーガイド10の前端には、上記の横引きガイド9を接続するための嵌合部10bが形成され、更に、下端部の端縁10a,10aから両側に孔付きの取付片10c,10cが形成されている。
【0043】
従って、開環部分の端縁10a,10aを案内片としてコーナーガイド10をサイホンチューブ3の湾曲コーナー部分に押し付けると、開環部分が弾性的に拡開して簡単に外嵌着でき、さらに前端の嵌合部10bを横引きガイド9の後端部に外嵌着すると、横引きガイド9とコーナーガイド10の接続を簡単に行うことができるようになっている。そして、図13に示すように、取付片10cの孔からビス等の止具1eを家屋外壁材1bにねじ込むと、コーナーガイド10を容易かつ確実に固定できるようになっている。
【0044】
家屋外壁材1bに沿って縦方向に配設されたサイホンチューブ3は、図11、図12に示すようにチューブ固定バンド11により数箇所で家屋外壁材1bや布基礎1fに固定され、チューブ下端が屋外の地中に埋設された雨水桝4cに接続されている。可撓性を有するサイホンチューブ3は、適当に曲げながら簡単に配設でき、図12に示すように家屋外壁材1bの下端に水切り材1gが取付けられている場合でも、水切り材1gを迂回するようにサイホンチューブ3を曲げて配設できるため、施工性が良好である。
【0045】
尚、サイホンチューブ3は、家屋外壁材1bと内壁材1hとの間の断熱材1iを充填している中空部1jに通すようにしてもよく、その場合は、外部からサイホンチューブ3が見えないので、家屋の外観を大幅に向上させることができる。また、サイホンチューブ3の下端は必ずしも雨水桝4cに接続する必要はなく、地中に埋設された雨水浸透トレンチ管(不図示)等に接続してもよい。
【0046】
さらに、上記のサイホンチューブ3と、別の軒樋の上合から家屋外壁材に沿って配設されたサイホンチューブ3を一緒に雨水桝4cに接続してもよく、このように複数本のサイホンチューブ3を雨水桝4cに接続すると、雨水桝4cの数を少なくして排水管等の施工を少なくできる。
【0047】
以上のような構成のサイホン式雨水排水装置も、小雨のときには雨水が屋根1cから軒樋2を経て上合8の凹底部8aに流れ込み、サイホンチューブ3の内部を自然落下して排水される。一方、大雨になってサイホンチューブ3内を流落する雨水量が増加し、チューブ内が雨水で満たされると共に上合8の凹底部8aに雨水が溜まりだすと、サイホン作用によってサイホンチューブ3内を雨水が自然落下排水の数倍の流速で流れ落ちるため、多量の雨水が極めて効率良く排水される。例えば、サイホンチューブ3の開口面積が約7cm^(2)で、チューブ上端からチューブ下端までの高低差が略5mであると、雨水の流速は略2.7m/秒程度になり、排水量は略115リットル/分程度になる。このサイホン作用による排水は、上合8の凹底部8aの雨水が少なくなって空気がサイホンチューブ3に入ると停止し、通常の自然落下排水に戻る。
【0048】
上記のようにこのサイホン式雨水排水装置も排水効率が極めて高いため、軒樋2として従来より小さいものが使用可能となり、しかも上合8やサイホンチューブ3の設置間隔を従来の堅樋間隔より広げて設置個数を少なくすることができるので、コストアップや家屋の外観の低下を防止することができる。
【0049】
サイホンチューブ3は上述したように従来の堅樋に比べると開口面積が遥かに小さいものであるが、サイホン作用で排水されるときの流速が速いため、固形物は洗い流されてサイホンチューブ3内に詰まる恐れがほとんどない。けれども、サイホンチューブ3のゴミ詰まりをより確実に防止するためには、図18に示すように内側カバー13aと外側カバー13bを凹底部8aに取付けた上合8を用いることが望ましい。
【0050】
この図18に示す上合8は、その凹底部8aの中央部に僅かに低い低段部8iを形成し、サイホンチューブ3の接続箇所(凹部8f)を覆うように、多数の小さな透水孔を有する内側カバー13aを低段部8iに設置すると共に、この内側カバー13aを覆うように、多数の小さな透水孔を有する外側カバー13bを凹底部8aに設置したものである。その他の構成は前述した上合8と同様であるので、図18において同一部分に同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0051】
このように内側カバー13aと外側カバー13bを取付けた上合8を採用すると、雨水に含まれるゴミ等の固形物はこれらのカバー13a,13bによって二重に除去されるため、サイホンチューブ3のゴミ詰まりを確実に防止することができる。また、凹底部8aの雨水が空になってサイホン作用による排水が自然落下排水に戻るときには、サイホンチューブ3に空気が吸い込まれてゴボゴボと音がでることが多いけれども、この音の伝播は内側カバー13aと外側カバー13bによって二重に減衰されるため、満足な消音効果も発揮されることになる。なお、カバー13a,13bの一方のみを使用することによっても、ゴミ等の固形物の除去と消音効果が発揮されることはいうまでもない。
【0052】
【発明の効果】
本発明のサイホン式雨水排水装置は、大雨になるとサイホン作用によって大量の雨水を極めて効率良く排水することができ、しかも、軒樋の小型化が可能である上に、サイホン管の配設間隔を広げて設置数を低減できるため、コストアップや家屋の外観低下を防止できるといった効果を奏する。特に、可撓性を有するサイホンチューブでサイホン管を形成したものは施工性が向上し、また、サイホン管の上端部に渦流防止部材を取付けたものや、下部に流入口を有するカバーで軒樋底部のサイホン管接続箇所を覆ったものは、サイホン作用による排水の安定性が向上し、更に、上合に内側カバーと外側カバーを設けたものはゴミ詰まりの防止と消音効果も発揮できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施形態に係るサイホン式雨水排水装置の側面図である。
【図2】
同装置における軒樋底部のサイホン管接続箇所を示す部分断面図である。
【図3】
落し口の形状が異なる軒樋底部のサイホン管接続箇所を示す部分断面図である。
【図4】
落し口の形状が更に異なる軒樋底部のサイホン管接続箇所を示す部分断面図である。
【図5】
渦流防止部材を取付けた軒樋底部のサイホン管接続箇所を示す部分断面図である。
【図6】
異なる渦流防止部材を取付けた軒樋底部のサイホン管接続箇所を示す部分断面図である。
【図7】
カバーを設けた軒樋底部のサイホン管接続箇所を示す部分断面図である。
【図8】
渦流防止部材を示す斜視図である。
【図9】
異なる渦流防止部材を示す斜視図である。
【図10】
カバーを示す斜視図である。
【図11】
本発明の他の実施形態に係るサイホン式雨水排水装置の正面図である。
【図12】
同装置の断面図である。
【図13】
同装置の部分拡大図である。
【図14】
同装置における上合とサイホン管(サイホンチューブ)との接続箇所の分解断面図である。
【図15】
同装置における上合の斜視図である。
【図16】
(a)は同装置における横引きガイドの正面図、(b)はその側面図である。
【図17】
(a)は同装置におけるコーナーガイドの正面図、(b)はその側面図である。
【図18】
内側カバーと外側カバーを設けた上合の断面図である。
【符号の説明】
1b 家屋の外壁材
2 軒樋
2a 落し口
3 サイホン管
3a 丸樋
5,6 渦流防止部材
7 下部に流入口を有するカバー
8 上合
8a 凹底部
13a 内側カバー
13b 外側カバー
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2013-08-13 
出願番号 特願2003-203804(P2003-203804)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (E04D)
P 1 41・ 851- Y (E04D)
P 1 41・ 856- Y (E04D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 新井 夕起子  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 住田 秀弘
杉浦 淳
登録日 2008-05-30 
登録番号 特許第4130616号(P4130616)
発明の名称 サイホン式雨水排水装置  
代理人 白木 裕一  
代理人 白木 裕一  
代理人 森 治  
代理人 森 治  

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