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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1279212
審判番号 不服2009-25521  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-24 
確定日 2013-09-11 
事件の表示 特願2004-530091「IL-7薬物原料、組成物、製造及び使用」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月 4日国際公開、WO2004/018681、平成17年11月17日国内公表、特表2005-534339〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、2003年8月6日(パリ条約による優先権主張2002年8月8日、欧州特許庁、2003年6月5日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?27に係る発明は、平成24年12月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?27に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
IL-7を含む製薬学的組成物であって、該IL-7が、下記の3つのジスルフィド架橋:Cys:1-4(Cys2-Cys92);2-5(Cys34-Cys129)及び3-6(Cys47-Cys141)を有するIL-7コンホーマーからなり、他のIL-7コンホーマー及び二量体が除去されて中和免疫応答としての抗IL-7免疫応答を減らす、製薬学的組成物。」

2.引用例の記載事項
本願の優先日前に頒布された、特開平5-268971号公報(当審による平成24年6月18日付け拒絶理由通知における引用文献1。以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付加した。

(ア)「【特許請求の範囲】
・・・(中略)・・・
【請求項8】 純化された齧歯類またはヒトIL-7。
・・・(中略)・・・
【請求項18】 有効量のヒトIL-7または生物学的に活性なヒトIL-7類縁体またはサブユニットを適当な希釈剤または担体とともに含有する、ヒトの患者に予防的または治療的にBもしくはTリンホサイトを発達させおよび増殖させ或いは免疫応答を増強させるために、非経口投与するに適する薬剤組成物。
・・・(後略)」

(イ)(4ページ左欄第43行?右欄第13行)
「(課題を解決するための手段)
本発明は哺乳類インターロイキン-7(IL-7)蛋白質類(最初はリンホポエチン-1(IL-1)と命名された)を提供する。これらの分子は、細胞培養上清からの精製により、または哺乳類IL-7をコードするDNA配列の発現により調製することができる。・・・(中略)・・・本発明はまた、・・・(中略)・・・本発明の蛋白質を使用し、もしくはこれを含む種々の治療用組成物・・・(中略)・・・も提供する。」

(ウ)(5ページ左欄第33?45行)
「1.定義
インターロイキン-7およびIL-7は、前B細胞として知られている特異化した前駆体を含めて、骨髄由来リンホサイトの子孫細胞および前駆体細胞の増殖を誘発する能力を持つ、哺乳類の内性分泌蛋白質を意味する。・・・(中略)・・・第5図に示した配列に相当する成熟ヒト蛋白質のグリコシル化部分を除いた推定分子量は、17,387ダルトンである。」

(エ)(9ページ左欄第37行?右欄第25行)
「組換え蛋白質を発現させるために、種々の細胞培養系を用いることが可能である。哺乳類発現系の例としては、グルツマン(Gluzman)らにより、Cell 23:175(1981)に記載されている、サル腎臓繊維芽細胞のCOS-7ライン、および相容性ベクターを発現する能力のある他の細胞ライン例えば、C127、3T3、CHO、HeLaおよびBHK等の細胞ラインがある。・・・(中略)・・・
酵母系、好ましくはサッカロマイセス種、例えばS.セレビジエ(cerevisiae)、ならびに他の属の酵母、例えばピチア(Pichia)もしくはクルイベロマイセス(Kluyveromyces)を用いた系も、本発明の組換え蛋白質の発現に採用可能である。」

(オ)(11ページ左欄第38行?右欄第48行)
「8.精製工程
好ましくは、精製哺乳類IL-7または生物学的に同等な均等物は、適当な宿主/ベクター系を培養して本発明の合成遺伝子の組翻訳生成物を発現させ、これを培養培地から精製することにより調製される。
精製IL-7を製造する別法は、細胞培養上清からの精製を含む。この方法では、所望蛋白質を有用量生産する細胞ラインを採用する。そのような細胞ラインの上清を所望により市販の蛋白質濃縮膜、例えば・・・(中略)・・・限外濾過装置を用いて濃縮することが可能である。濃縮工程に続いて、この濃縮物を適当な陰イオン交換樹脂・・・(中略)・・・で処理する。・・・(中略)・・・陰イオン交換クロマトグラフィーに引き続き、陽イオン交換工程を採用することが可能である。・・・(中略)・・・適当な陽イオン交換樹脂には、スルホプロピル基またはカルボキシメチル基を有する種々の不溶性マトリックスが含まれる。スルホプロピル基が好ましい。・・・(中略)・・・陽イオン交換クロマトグラフィーののち、ブルーダイリガンド(blue dye ligand)を有するマトリックスを用いるアフィニティークロマトグラフィーが有用であると判明した。・・・(中略)・・・最後に、IL-7組成物をさらに精製するため、一回もしくはそれ以上の逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)工程を、疎水性RP-HPLC担体、例えばメチルまたは他の炭化水素基を側鎖に持つシリカゲルを用いて、施しても良い。均一な組換え蛋白質を得る目的でも、上記精製工程の幾つかまたは全てを種々に組み合わせて精製することが可能である。」

(カ)(13ページ左欄第18?30行)
「多くの分泌蛋白質は、翻訳の後に共有結合炭水化物部分を獲得し、該部分はしばしばN-グリコシル結合によるアスパラギン酸側鎖へのオリゴサッカライドの形状である。特定の分泌蛋白質へ結合しているオリゴサッカライド単位の構造および数は、いずれも広く変化でき、その結果単一グリコプロテインについて、広範囲の異なる分子物質が存在する。」

(キ)(14ページ左欄第1?12行)
「本発明の一態様によれば、IL-7のアミノ酸配列は、ペプチドAsp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Asp-Lys(DYKDDDDK)をコードするヌクレオチドよりなるN末端融合構造物を経て、酵母のα-因子リーダー配列に連結される。このペプチド配列は、高度に抗原性であり、特異的モノクローナル抗体と可逆的に結合するエピトープを提供し、そして発現された組換え蛋白質の迅速なアッセイおよび容易な精製を可能にする。この配列はまた、ウシ粘膜エンテロキナーゼでAsp-Lys対の直ぐ後の残基で特異的に開裂される。」

(ク)(20ページ左欄第24行?21ページ右欄第22行)
「実施例5: 酵母中でのヒトIL-7の発現
hIL-7の発現のために、pIXY120から誘導された酵母発現ベクターを次のようにして造成した。・・・(中略)・・・pIXY192-形質転換酵母株で生産された上清、またはpIXY193で形質転換された酵母細胞の破壊物から調製された粗抽出物を、IL-7活性のための前B細胞増殖アッセイでアッセイして、生物学的活性蛋白質の発現を確認した。」

(ケ)(22ページ右欄第16行?23ページ左欄第45行)
「実施例7:高効率哺乳類発現系を用いた組換えヒトIL-7の発現
・・・(中略)・・・
COS-7細胞を培養し、上記コスマンらの記載に従って、hIL-7のcDNA(実施例3参照)を挿入されて含むSmaI-切断pDC201で形質転換されたE.coli DH5α(rec A-)の1.5ml培養からのプラスミドDNAで形質転換した。・・・(中略)・・・得られるベクターは、COS-7細胞に形質転換すると、高レベルの一時的hIL-7発現を誘発した。」

(コ)(26ページ左欄第49行?右欄第5行)
「実施例10: IL-7と免疫反応する抗体の調製
慣用技術、例えば米国特許4,411993号に開示されている方法で純化天然IL-7または組み換えIL-7、例えばヒトIL-7を用いて、ポリクローン抗体または好ましくはモノクローナル抗体を調製した。」

3.対比
上記記載事項(ア)?(コ)の記載から、引用例には「インターロイキン-7(IL-7)を含む薬剤組成物であって、該IL-7が、形質転換されたサル腎臓繊維芽細胞COS-7系あるいは酵母により発現されたものである、薬剤組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
本願発明と引用発明とを対比すると、両者の一致点と相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
両者が「IL-7を含む製薬学的組成物」である点。

[相違点]
(1)前者のIL-7が「下記の3つのジスルフィド架橋:Cys:1-4(Cys2-Cys92);2-5(Cys34-Cys129)及び3-6(Cys47-Cys141)を有するIL-7コンホーマー」からなるものであるのに対し、後者ではこのような特定がなされていない点。

(2)前者のIL-7が「他のIL-7コンホーマー及び二量体が除去されて中和免疫応答としての抗IL-7免疫応答を減らす」ものであるのに対し、後者ではこのような特定がなされていない点。

4.判断
(1)相違点(1)について
本願明細書の段落【0028】には、「本発明は、今日までデータバンクに提出され、証明されそして受け入れられた上記の三次元構造は不正確でありそして組換えヒトIL-7の長期活性は主として特定の1-4;2-5;3-6コンホーマーにより発現されることを今や示す。」と記載されているから、ヒトIL-7の天然の存在形態は「1-4;2-5;3-6」コンホーマーであると考えられる。(なお、このことは、例えば本願の出願日後の文献であるStructure, January 14, 2009, Vol.17, p.54-65の56ページ左欄下から4行?右欄第4行の、適切にリフォールディングされたヒトIL-7が「1-4;2-5;3-6」コンホーマーであることを確認した旨の記載によっても裏付けられている。)

そして、ヒトIL-7の天然の存在形態が「1-4;2-5;3-6」コンホーマーであるとすれば、ヒトの近縁種であるサル等の哺乳動物細胞を宿主としてIL-7を発現させた場合に生産されるIL-7は、上記「1-4;2-5;3-6」コンホーマーであると考えることが自然である。
この点について、本願明細書には、以下の記載がなされている:
「【0124】
リフォールディング工程iii)は、IL-7ポリペプチドの再生(renaturation)及び好ましくは再酸化、及び典型的には、ろ過(例えば、ゲルろ過)及び限外ろ過により行われる更なる脱塩工程を含む。好ましい態様では、リフォールディングは活性な新規なコンホーマーを望まれない形態から分離するためのイオン交換クロマトグラフィー工程を含む。・・・(後略)」
「【0127】
サンプルがIL-7ポリペプチドをコードする真核生物宿主細胞の培養物である(由来のものである)場合には、上記処理工程i)?iii)を行う必要がないことがある。実際、このような状況においては、サンプルは、他の生成物関連物質及び不純物と複雑に混合しているけれども、正しく折りたたまれたIL-7タンパク質を含むことができる。これは、特に、組換え真核生物宿主細胞が培養培地中にIL-7ポリペプチドの発現及び分泌を引起す核酸分子を含む場合に真実である。」
このように、本願明細書においても、大腸菌を宿主としてIL-7を発現させた場合はリフォールディング工程が必要とされる一方で、ヒトを含む哺乳動物細胞を宿主とした実施例C、Eでは、リフォールディング工程は含まれておらず、また哺乳動物細胞宿主の培養培地に、「1-6;2-5;3-4」等の、本願発明とは異なるIL-7コンホーマーが混在することは、MALDI-TOF等で確認されていない。
また、例えば、本願の出願日後の文献である特表2008-502317号公報(国際公開第2005/063820に対応)の段落【0061】にも、マウス細胞で発現させたIL-7を含む融合タンパク質において、IL-7が「1-4;2-5;3-6」コンホーマーであったことが記載されている。
これらのことから、真核生物細胞、とりわけ哺乳動物細胞を宿主としてヒトIL-7を発現させた場合に、リフォールディングを必要とせず、正しい「1-4;2-5;3-6」コンホーマーが産生されるものというべきである。

してみれば、引用発明の「形質転換されたサル腎臓繊維芽細胞COS-7系あるいは酵母により発現された」ヒトIL-7は、引用例には明記はされていないものの、実際には、「3つのジスルフィド架橋:Cys:1-4(Cys2-Cys92);2-5(Cys34-Cys129)及び3-6(Cys47-Cys141)を有するIL-7コンホーマー」である蓋然性が高いといえるから、上記相違点(1)は実質的な相違点ではない。

(2)相違点(2)について
引用例には、引用発明のヒトIL-7が「他のIL-7コンホーマー」が除去されていることは明示されていない。
しかし、上記「相違点(1)について」で述べたとおり、そもそも真核生物細胞、とりわけ哺乳動物細胞を宿主としてヒトIL-7を発現させた場合に、「1-4;2-5;3-6」コンホーマーが産生されるものであり、これとは異なるIL-7コンホーマーが混在することは本願明細書においても確認されていない。
したがって、引用発明のヒトIL-7においても「他のIL-7コンホーマー」は除去されたものである蓋然性が高いといえるから、この点は実質的な相違点ではない。

また、引用例には、ヒトIL-7を「純化された」ものとすること(摘記事項(ア))、及び「成熟ヒト蛋白質のグリコシル化部分を除いた推定分子量」が単量体の分子量である「17,387ダルトン」であることが記載され(摘記事項(ウ))、またヒトIL-7を治療用組成物として使用する(摘記事項(イ))ことが記載されているから、ヒトIL-7を単量体として、高度に精製する意図が推認される。一方で、IL-7を二量体として使用することは引用例に記載されておらず、また技術常識を考慮しても、IL-7を二量体として使用することは当該記載から読み取ることもできない。
したがって、ヒトIL-7の純化にあたっては、ヒトIL-7の単量体をその他の不純物から高度に精製することが目的とされているといえる。

そして、引用例には、ヒトIL-7の精製方法として、蛋白質濃縮膜、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー及び逆相高性能液体クロマトグラフィーを組み合わせることが可能であることが記載されている(摘記事項(オ))。
さらに、特異的モノクローナル抗体との可逆的結合により精製する周知の方法も、ヒトIL-7の精製方法として引用例に示唆されている(摘記事項(キ))ところ、引用例にはペプチド標識に対する特異的抗体(摘記事項(キ))、並びに抗ヒトIL-7抗体の作成方法が記載されている(指摘事項(コ))。
加えて、上記の方法を用いるにあたり、精製条件を調節することは、当業者が通常の実験操作において行う程度のことである上、タンパク質の単量体と二量体は、その分子量等の性状が全く異なるものであるから、単量体を高度に精製をすれば、二量体はその過程で容易に分離される性質のものというべきである。
したがって、上記の方法を適宜組み合わせるなどして用い、ヒトIL-7の単量体を精製することは、当業者であれば容易に想到しうることである。

そして、ヒトIL-7の高度な精製により、二量体等の不純物が除去される結果、当然に「中和免疫応答としての抗IL-7免疫応答を減らす」こととなるから、IL-7が「他のIL-7コンホーマー及び二量体が除去されて中和免疫応答としての抗IL-7免疫応答を減らす」ものとすることは、結局、当業者であれば容易に想到しうることである。

(3)本願発明の構成を採用することによる効果について
本願発明の効果について、本願明細書には、大腸菌中で発現され、精製されたサルIL-7と、「部分変性工程を使用する精製プロセスから発生された、又は脱アミド化された形態もしくは二量体形態約20%を発生させるために化学的に処理された精製されたr-IL-7により発生された、不純物を含んだ」サルr-IL-7(実施例G)用いて、その生物活性をサルにおいてin vivoで試験し(実施例J)、「『不純物を含んだ』r-sIL-7の皮下投与で処理されたグループ3は、IL-7処理の3?4週間後に始まるIL-7のin vivo生物学的効果の減少を示す」(段落【0225】)と結論している。
しかしながら、ペプチド医薬を使用するにあたり、当該ペプチドを高度に精製することにより、不純物の混入による望ましくない影響が低減されることは、当業者の予測し得る範囲内である。しかも、80%程度の低い純度しか有さないペプチドを医薬品に用いることはそもそも不適当であるから、この程度の純度のペプチドによる悪影響が何であるかを具体的に確認したところで、技術的に顕著な意義があるとはいえない。
したがって、上記効果が格別顕著なものであるとは認められない。

以上の理由により、本願発明は、当業者が引用例に基づいて容易に発明することができたものである。

5.請求人の主張について
請求人は、平成24年12月19日付け意見書において、「本願発明では、他のタンパク質からのIL-7精製はもちろんのこと、さらに他のIL-7コンホーマーから特異的なIL-7コンホーマーを分離してもいる」旨主張し、以下の(i)?(vii)を指摘している。

(i)引用例には、IL-7を組換えE.coli株から産生させる場合の精製プロセスが記載されているが、当該プロセスは参考資料1(Cosenza et al., J. Biol. Chem., 1997, Vol.272, p.32995-33000)のプロセス(これもまた、組換えE.coli株を用いている)と、容易に比較でき、これと極めて似た産生及び精製プロセスである。参考資料1によれば、得られた精製組換えヒトIL-7のジスルフィド結合形成を分析したところ、Cys3-Cys142架橋の証拠を確立したことが記載されている。つまり、引用例の上記プロセスによれば、本願発明のコンホーマー(Cys2-Cys92)のものとは異なる「Cosenzaのリフォールディング」に至ることが証明される。

(ii)引用例記載の真核細胞における産生では、3つのジスルフィド架橋の存在、高度に産生する株からの工業的規模での産生の必要性、及びヒンジペプチドの存在のために、適切な分析ツールで分離プロセスを行なうことにより、本願発明に記載のコンホーマーの選択をしない限り、真核細胞のプロセスでは、産生される全てのIL-7分子の完全で正しいリフォールディングとはなりえない。引用例には、完全にリフォールディングされたグリコシル化組換えヒトIL-7のコンホーマーを分離する方法も例も記載されていない。つまり、引用例は、ヒトIL-7の完全なリフォールディングとなる方法を開示しえない。
組換えCHOクローンの上清を用いて、引用例の下流のプロセシングの主な系を再現した結果、生活性について選択した全てのフラクションが、HPLCで異なるピークを示したことから、生活性の基準は特異的なIL-7コンホーマーを選択するには適当ではない。また全てのフラクションのプールが、1つのピークを示した。
言い換えると、引用例でなされるバイオアッセイ分析では、様々なレベルの不純物(部分的にフォールディングされていなかったり、正しくフォールディングされていなかったり、凝集しているIL-7)を含むグリコシル化IL-7バッチ間で区別することができない。
これらの複雑な混合物のコレクションからは、次の二重のHPLCクロマトグラフィー工程の完了後でも、決して高度に分離されたコンホーマーを得ることはできないであろう。

(iii)引用例ではタンパク質の生活性を試験する際、pH8で100mMのNaCl溶液が使用されているが、5又は6といった酸性pHの緩衝液では共有結合による二量体の形成が最小となるか妨げられる一方で、pH8が二量体の形成を促進するのに最適なpHである。

(iv)本願明細書に記載の方法による臨床試験での免疫原性試験によって、IL-7での処置から2?3週間後に、抗IL-7結合抗体の存在およびタイターを測定することにより、患者の免疫原性を試験したところ、最小量の不純物の存在でも、免疫原性が誘導されることがわかった。

(v)二量体を含まないIL-7は、当業者であれば容易に想到しうるとの解釈は容認できない後知恵に基づくものである。反対に、当業者といえども本願請求項に記載のコンホーマーを選択することの着想すらすることもないであろう。

(vi)「1-6;2-5;3-4」コンホメーションは、存在する。Cosenzaらの文献がそれを示している。出願人の主張は、「1-4;2-5;3-6」コンホーマーが引用文献1の産物に存在しない、ということではない。そうではなく、引用例の産物は、異なるコンホーマーの混合物であり、二量体や凝集体を形成する部分的にリフォールディングしたタンパク質を含むのに対し、本願発明は、他のIL-7コンホーマーおよび二量体を除くことにより精製された薬学的組成物に関する。

(vii)コンホメーションは宿主細胞には依存しない。CHO真核宿主細胞での発現では、分離前の上清中に発現されたIL-7タンパク質の大部分はもっぱら正しくリフォールディングされたタンパク質であるというよりは、むしろ様々にフォールディングされていないもの、部分的にフォールディングされていないもの、誤ってリフォールディングされたもの、または分子間架橋した分子(二量体および凝集体)の複合した混合物である。これは、大腸菌またはHEK-293細胞での発現においても同じであり、COSまたはBHKといったほかの細胞系であっても同じであろう。どのような宿主細胞においても発現しているIL-7は、コンホーマー、二量体および凝集体の混合物である。

上記の主張について検討する。
(主張(i)について)
引用発明は組換えE.coli株から産生させたヒトIL-7を含む組成物ではないから、上記主張は引用発明を前提としない主張であり、上記4.で示した判断の理由とは関係なく、採用できない。

(主張(ii)について)
請求人が提出した実験結果によって、COS-7細胞や酵母細胞等の真核細胞を宿主としてヒトIL-7を発現した場合に、本願発明における「1-4;2-5;3-6」コンホーマーに加え、「1-6;2-5;3-4」コンホーマーが混在することが、立証されているとはいえない。
すなわち、請求人は、哺乳動物細胞であるCHO細胞を宿主として生産したヒトIL-7の精製を試みたものの、活性を有する画分はSDS-PAGEで複数のバンドを有するものとして現れ、「本願請求項に記載の発明」とされる「CYT標準」のように、精製されたバンド、あるいはこれと同じ位置のバンドには見えない点を主張しているものと考えられる。
しかしながら、真核細胞宿主を用いたタンパク質の生産において、一般に糖鎖が付加されるところ、例えば引用例の摘記事項(カ)にも記載されるとおり、「特定の分泌蛋白質へ結合しているオリゴサッカライド単位の構造および数は、いずれも広く変化でき、その結果単一グリコプロテインについて、広範囲の異なる分子物質が存在する」。したがって、生産されたIL-7がSDS-PAGE上で幅の広いバンドや複数のバンドとして現れることは、糖鎖の影響であると考える余地があり、請求人の主張するように、異なるコンホーマーの混合物であるとは必ずしもいえない。
むしろ、例えば本願明細書の図18にも記載のとおり「一過性トランスフェクションによるHEK293細胞におけるhIL-7発現」のうち、培地中から得られたヒトIL-7はいずれも「グリコシル化されたIL-7」として表示された2つのバンドを示すものであり、各バンドは異なるコンホーマーとして説明されていないことからすれば、本願発明における「1-4;2-5;3-6」コンホーマーであっても、グリコシル化により複数のバンドを示すこともあると考えるべきである。
加えて、請求人はCHO細胞により生産されたヒトIL-7の中に、「1-6;2-5;3-4」コンホーマーが混在する主張を、プロテアーゼ分解物のサイズ分布や、MALDI-TOFを用いた分析等により、何ら裏付けていない。
一方、上記「4.(1)」で示したとおり、真核生物細胞により発現されたヒトIL-7が「1-4;2-5;3-6」コンホーマーであることを裏付ける証拠は多数存在するから、真核生物細胞を宿主として用いた場合には、そもそも「1-6;2-5;3-4」コンホーマーが生じないと考えるべきである。
したがって、「これらの複雑な混合物のコレクションからは、次の二重のHPLCクロマトグラフィー工程の完了後でも、決して高度に分離されたコンホーマーを得ることはできない」とはいえない。

(主張(iii)について)
マウスIL-7とヒトIL-7は異なる物質である。上記「4.(2)」で述べたとおり、ヒトIL-7の精製条件を調節することは、当業者が通常の実験操作において行う程度のことであるところ、当該精製条件は通常、精製する物質ごとに調整されるものである。また、化学物質の生活性試験と精製とは異なる操作である。
したがって、仮に引用例に、マウスIL-7の生活性を試験する際の一つの例として記載された条件が「二量体の形成を促進するのに最適なpHである」としても、それによって、マウスIL-7とは異なるヒトIL-7の高度な精製に対する阻害事由があるとはいえない。

(主張(iv)について)
上記「4.(3)」で述べたとおり、そもそも医薬として用いるペプチドは高純度まで精製されるものであるから、本願明細書に示された効果が格別顕著なものであるとは認められないところ、上記意見書の「D」の表でも同様に、どの程度存在するか不明な「残る不純物の存在」において「高い抗体タイター」が認められ、98%まで精製されたタンパク質を使用した場合に抗体が検出されなかった、といった程度の比較では、依然として格別顕著な効果を認めることはできない。

(主張(v)について)
上記「4.(2)」で述べたとおり、ヒトIL-7の精製条件を調節することは、当業者が通常の実験操作において行う程度のことであり、精製において用いる方法については、引用例に記載されている(摘記事項(オ))から、後知恵との主張は失当である。
この点、引用例には、ピチア(Pichia)属酵母を宿主として使用しうること(摘記事項(エ))や、好ましくはスルホプロピル基を有する陽イオン交換工程を含む精製方法が示唆されている(摘記事項(オ))ところ、例えば本願出願後の文献である、Protein Expression and Purification, 2009, Vol.63, p.1-4の要約、2ページ右欄第1段落及び図1に示されるとおり、ピチア属宿主を用いて生産されたヒトIL-7が、限外ろ過及び一般的なSP セファロースFF陽イオン交換クロマトグラフィー(なお、SP セファロースFFマトリックスはスルホプロピル基を有する。)のみで、純度95%まで精製できたことが確認されている。このように、引用例の記載は、ヒトIL-7を高純度に精製することを十分可能にする記載であるといえ、引用例に基づき当業者がヒトIL-7を高純度に精製することに、何の困難性も認められない。
なお、そもそも真核生物宿主により生産されたIL-7に「1-6;2-5;3-4」コンホーマーが混在するとは認められず、得られるヒトIL-7が本願発明に含まれるものと異ならない以上、「当業者といえども本願請求項に記載のコンホーマーを選択することの着想すらすることもない」ことは、本願発明の進歩性とは無関係である。

(主張(vi)(vii)について)
請求人も上記主張(i)で述べるとおり、Cosenzaらの文献(参考資料1)はE.coliを宿主として用いたプロセスを記載しているところ、上記「4.(1)」で述べたとおり、そもそも真核生物細胞、とりわけ哺乳動物細胞を宿主としてヒトIL-7を発現させた場合に、リフォールディングを必要とせず、正しい「1-4;2-5;3-6」コンホーマーが産生されるものと理解できる。
したがって、E.coliを宿主として、リフォールディング工程を経て得られたヒトIL-7の中に、仮に正しくないコンホーマーが含まれていたとしても、そのことから、真核細胞宿主が発現するヒトIL-7の中に「『1-6;2-5;3-4』コンホメーションは、存在する。」とも、「どのような宿主細胞においても発現しているIL-7は、コンホーマー、二量体および凝集体の混合物である。」ともいえない。

以上のことから、上記主張はいずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-19 
結審通知日 2013-03-26 
審決日 2013-05-01 
出願番号 特願2004-530091(P2004-530091)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名和 大輔齊藤 真由美  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 冨永 みどり
田中 晴絵
発明の名称 IL-7薬物原料、組成物、製造及び使用  
代理人 齋藤 房幸  
代理人 田中 聖  
代理人 津国 肇  

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