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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1279256
審判番号 不服2012-8290  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-08 
確定日 2013-09-09 
事件の表示 特願2007- 42112「グループ関係性表示システム、グループ関係性表示方法およびグループ関係性表示プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月31日出願公開、特開2008-176758〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年2月22日(優先権主張:平成18年12月20日)を出願日とする特許出願であって、平成23年11月7日付けで拒絶理由の通知がなされ、平成24年1月10日付けで手続補正書の提出がなされ、平成24年2月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成24年5月8日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ、当審において、平成25年2月14日付けで前置報告書を利用した審尋がなされが、回答書は提出されなかったものである。



第2 平成24年5月8日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年5月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正内容
平成24年5月8日付けの手続補正(以下,「本件補正」という)は、本件補正前の平成24年1月10日付け手続補正書により補正された請求項1の内容を、

「【請求項1】
複数のデータの間の関係強度を保持する記憶装置と、
処理装置と
を具備し、
前記処理装置は、
前記複数のデータの間の前記関係強度を計算するデータ関係強度計算部と、
前記複数のデータをグループに分類するための閾値を示すグループ粒度と前記複数のデータの間の前記関係強度とに基づいて、前記複数のデータを複数のグループに分類するグループ生成部と、
前記複数のデータ間の前記関係強度に基づいて、前記複数のグループの関係強度を計算するグループ関係強度計算部と、
前記複数のグループの前記関係強度が、角度として反映されるように前記複数のグループを視覚化表示した関連度チャートを生成する関連度チャート生成部と、
ユーザの操作に応答して、前記グループ粒度を変更する関連度チャート操作部
を具備し、
前記関連度チャートは、
前記グループ粒度を変更するためのグループ粒度変更機能を備え、
前記関連度チャート操作部は、
ユーザによって操作された前記グループ粒度変更機能に連動して前記グループ粒度変更機能にあらかじめ対応付けられた新たなグループ粒度を取得し、前記グループ生成部に対して、前記新たなグループ粒度に対応した前記複数のグループの再生成指示を出力する
グループ関係性表示システム。」

から、

「【請求項1】
複数のデータの間の関係強度を保持する記憶装置と、
処理装置と
を具備し、
前記処理装置は、
前記複数のデータの間の前記関係強度を計算するデータ関係強度計算部と、
前記複数のデータをグループに分類するための閾値を示すグループ粒度と前記複数のデータの間の前記関係強度とに基づいて、前記複数のデータを複数のグループに分類するグループ生成部と、
前記複数のデータ間の前記関係強度に基づいて、前記複数のグループの関係強度を計算するグループ関係強度計算部と、
前記複数のグループの前記関係強度が、角度として反映されるように前記複数のグループを視覚化表示した関連度チャートを生成する関連度チャート生成部と、
ユーザの操作に応答して、前記グループ粒度を変更する関連度チャート操作部と
を具備し、
前記関連度チャートは、
前記グループ粒度を変更するためのグループ粒度変更機能を備え、
前記関連度チャート操作部は、
ユーザによって操作された前記グループ粒度変更機能に連動して前記グループ粒度変更機能にあらかじめ対応付けられた新たなグループ粒度を取得し、前記グループ生成部に対して、前記新たなグループ粒度に対応した前記複数のグループの再生成指示を出力し、
前記グループ生成部は、前記再生成指示を受けて、前記新たなグループ粒度に基づいて前記複数のデータを複数のグループに再分類し、
前記グループ関係強度計算部は、前記再分類されたグループの関係強度を再計算し、
前記関連度チャート生成部は、前記再計算されたグループの関係強度に基づいて前記関連度チャートを再生成する
グループ関係性表示システム。」

に、変更する補正を含むものである。


2.補正の適否
上記補正は、補正前の請求項1における「グループ生成部」について、「前記再生成指示を受けて、前記新たなグループ粒度に基づいて前記複数のデータを複数のグループに再分類」する点を限定し、「グループ関係強度計算部」について、「前記再分類されたグループの関係強度を再計算」する点を限定し、「関連度チャート生成部」について、「前記再計算されたグループの関係強度に基づいて前記関連度チャートを再生成」する点を限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。


3.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-92442号公報(以下、「引用文献1」という)には、下記の事項が記載されている。

(あ)「【0019】
図2は図1の検索装置が行う処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、ユーザが利用者用端末装置1から入力した検索文を取り込む(ステップS1)。次に、検索文を検索キーとして、技術情報データベース装置に登録されている技術文献の概念検索を行う(ステップS2)。」

(い)「【0024】
なお、技術情報データベース装置4には、多数の技術文献(特許文献等)が登録されており、各技術文献ごとに検索語群との間で内積を演算して類似度を検出する。そして、図2のステップS2では、類似度の高い技術文献を、検索文書として抽出する。ここでは、内積値が「1」に近いものを類似度が高い技術文献として抽出する。以下では、環境技術の対象5分野に関する618件の特許公開公報が検索文書として抽出されたものとする。
【0025】
ステップS2の処理が終わって検索文書が抽出されると、各検索文書ごとに上述した形態素解析を行って、単語リストを作成する(ステップS3)。具体的には、上述した環境技術に関する数百以上の技術文献(当該事例では618件の特許公開公報)を、形態素解析により「てにをは」を抜かした単語と語幹に分割し、重要単語の出現頻度を算定する。
【0026】
ここで、重要単語とは、科学技術基本計画中に謡われている技術用語およびそれらの関連語等からなる2500語を採用する。図4は単語リストの一例である。この単語リストは、必要不可欠な単語をほぼすべて網羅しており、重要度がそれほど高くない単語も含まれるが、後述するウェイトにより自動的に除外されるため、特に問題はない。
【0027】
次に、単語リストに含まれる各単語に、重要度に応じたウェイトを付加し、各技術文献ごとにウェイト表を作成する(ステップS4)。ウェイトの算定式は以下の(1)式で表される。
wij=TFij×IDFj …(1)
【0028】
(1)式において、wijは技術文献i中の単語jのウェイト、TFijは技術文献i中の単語jの出現頻度(Term Frequency)、IDFjは技術情報DB装置4中の単語jが現れる技術文献の件数比率の逆数である。
【0029】
次に、ウェイト表に登録された単語のうちウェイトの高い一部の単語を抽出する、いわゆる次元引き下げ処理を行い、新たなウェイト表を作成する(ステップS5)。
【0030】
図5は各技術文献に含まれる重要単語の出現回数を記録した出現リストの一例を示す図である。関連語として挙げられている各重要単語は、上記のステップS3で作成された単語リストに含まれる単語である。どの技術文献にも現れる単語は、いわゆる機能語と呼ばれるもので、各技術文献を特徴づける単語ではない。そこで、単語リストに含まれる2500語の単語の中から機能語を除外して、ウェイトの高い順に並べ、上位1000個を抽出する。
【0031】
このような次元引き下げ処理を行うことにより、クラスター分析の高速化を図れる。抽出された単語を含む技術文献は、(2)式のようなベクトルPaで表現される。
【数1】
*P_(a)=(w_(a1),w_(a2),・・・,w_(am)) ・・・(2) (審決注)
【0032】
(2)式の右辺は、抽出された各単語のウェイトwa1,…,wamを表している。すなわち、抽出された各単語は、ウェイトをスカラー値とする、互いに異なる次元である。
【0033】
次に、ステップS5で作成されたウェイト表を用いて、関連のある技術文献をまとめたクラスターを作成する(ステップS6)。具体的には、技術文献データベース装置に登録されている環境技術関連の複数の技術文献(当該事例では特許公開公報618件)を、既存の概念や枠組みによらずに、内容の類似性に基づいて分類し、クラスター化する。」
(審決注:公報ではP_(a)にベクトルであることを意味する矢印が「P」の文字の上に表記されているが、当審決では該表記ができないため、ベクトルの表記については文字の前に*を記載している。)

(う)「【0036】
本実施形態では、ベクトルの方向が近い複数の技術文献を結合してクラスターを形成した後、クラスターに含まれる技術文献の各ベクトルの合成からクラスターのベクトルの向きを決定する重心法を適用する。
【0037】
図6では、3つのクラスターを形成する例を示しているが、クラスターの数には特に制限はない。図6に示す各クラスター同士は互いに一定以上の距離があり、内積値が一定以下となるため、これ以上のクラスター化は行わない。
【0038】
図7は図2のステップS6に示すクラスター作成処理の一例を示す詳細フローチャートである。まず、互いに異なる2種類のクラスター同士でベクトルの内積を計算する(ステップS21)。計算された内積値は、これら2種類の技術文献の類似度を表している。なお、初期状態では、各技術文献が別個のクラスターとして取り扱われる。
【0039】
一つのクラスターの中に複数の技術文献が含まれている場合、各技術文献に対応するベクトルの平均ベクトルを計算して、異なる2つのクラスターの平均ベクトル同士の内積を計算する。
【0040】
ステップS21の処理に前後して、複数の技術文献を同一のクラスターに含めるか否かの基準となる結合最大距離を設定する(ステップS22)。この結合最大距離の値は、試行錯誤により決定するのが望ましい。
【0041】
次に、ステップS21で計算された内積値が結合最大距離より小さいか否かを判定する(ステップS23)。小さければ、比較した2種類のクラスターを同一のクラスターに含めるクラスター結合を行う(ステップS24)。そして、ステップS21に戻って、まだ比較していない2種類のクラスター同士で内積を計算する。」

(え)「【0044】
一方、ステップS23で、内積値が結合最大距離以上と判定されると、すべてのクラスター同士が結合最大距離を超えているか否かを判定する(ステップS25)。超えていないクラスター同士が存在すれば、そのクラスター同士でステップS21以降の処理を行い、超えていればクラスターの結合処理を終了し、クラスターを決定する(ステップS26)。このとき、クラスターリストとクラスター間距離表を作成する。
【0045】
図8はクラスター間距離表の一例を示す図である。図8のクラスター間距離表には、すべてのクラスター同士の内積値またはクラスター間の相関係数が登録されている。」

(お)「【0052】
上記の手順で作成したクラスター同士の近さ関係を視覚的に表した方が理解しやすい。そこで、以下では各クラスターを二次元平面上に配置する手法について説明する。
【0053】
クラスターはもともと多次元(上記の例では1000次元)のベクトルで表現されており、これを二次元で表現すると、矛盾の生じる箇所が必ず出てくる。そこで、本実施形態では、クラスター間の距離が短いほど近さ関係を忠実に表現し、距離が長いほど歪みが大きくなるようにして矛盾を吸収する最適化を行う。」

(か)「【0063】
図15はクラスターマップの一例を示す図である。図15のクラスターマップは、環境技術に関する技術文献をクラスター分析した例を示している。
【0064】
このように、本実施形態では、多次元空間上のクラスターを(9)式に示す誤差Eが最小になるように二次元平面上に配置してクラスターマップを作成するため、クラスター間の距離が近いほど、クラスター間距離の誤差精度の高いクラスターマップが得られ、類似したクラスター同士の関係を視覚的に把握できるようになる。」

(き)上記(い)には、段落【0025】に各検索文書ごとに形態素解析を行って単語リストを作成することが記載され、段落【0027】に単語リストに含まれる各単語に重要度に応じたウェイトを付加することが記載され、段落【0030】に単語リストに含まれる単語の中から機能語を除外してウェイトの高い順に並べて上位を抽出することが記載されているので、引用文献1には、「各文書から作成した単語リストに含まれる各単語に重要度に応じたウェイトを付加し、単語リストに含まれる単語の中から機能語を除外したウェイトの高い単語を抽出」することが記載されている。

(く)上記(い)には、段落【0031】に抽出された各単語のウェイト値を要素とするベクトルで文書を表現することが記載され、上記(う)には、
段落【0036】にベクトルの方向が近い複数の技術文献を結合してクラスターを形成することが記載され、段落【0038】?【0041】に文書を表すベクトルの内積を計算し、内積値が結合最大距離より小さいか否かを判断し、小さければ同一のクラスターに含めることが記載されているので、引用文献1には、「各文書を抽出された単語のウェイトを要素とするベクトルで特定して複数の文書間のベクトルの内積を計算し、計算された内積が結合最大距離より小さいかを判断することでベクトル方向の近い複数の文書を結合してクラスターを形成」することが記載されているといえる。

(け)上記(え)には、クラスターの決定段階でクラスター間距離表を作成することが記載されているので、引用文献1には、「クラスター間距離を求め」ていることが記載されているといえる。

(こ)上記(か)には、クラスター間の距離が近いほど、クラスター間距離の誤差精度の高くなるように、クラスターを二次元平面上に配置してクラスターマップを作成することが記載されているので、引用文献1には、「クラスター間距離に基づいてクラスターを二次元平面に配置したクラスターマップを作成」することが記載されているといえる。

(さ)上記(う)には、段落【0040】に結合最大距離を試行錯誤により決定することが記載されているので、引用文献1には、「結合最大距離は試行錯誤により決定する」ことが記載されている。

(し)引用文献1に記載されたクラスターマップは、表示装置に表示されることで、ユーザーがクラスター同士の関係を視覚的に把握できるようにしたものであるから、引用文献1に記載された装置は、「クラスターマップ表示装置」と呼び得るものである。

よって、上記(あ)乃至(し)及び関連図面の記載から、引用文献1には、実質的に下記の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。

「各文書から作成した単語リストに含まれる各単語に重要度に応じたウェイトを付加し、
単語リストに含まれる単語の中から機能語を除外したウェイトの高い単語を抽出し、
各文書を前記抽出された単語のウェイトを要素とするベクトルで特定して複数の文書間のベクトルの内積を計算し、計算された内積が結合最大距離より小さいかを判断することでベクトル方向の近い複数の文書を結合してクラスターを形成し、
クラスター間距離を求め、
クラスター間距離に基づいてクラスターを二次元平面に配置したクラスターマップを作成し、
前記結合最大距離は試行錯誤により決定する
クラスターマップ表示装置。」


4.対比
(1)本件補正発明と引用発明との対応関係について
(ア)引用発明の「文書」、「クラスタ」は、本件補正発明の「データ」、「グループ」に相当する。

(イ)引用文献1の段落【0033】には、「内容の類似性に基づいて分類し、クラスター化する」ことが記載されているので、引用発明の「ベクトルの内積」は文書間の類似性を表したものであるといえ、文書間の類似性の高低は文書間の関係強度の高低に対応していると認められるので、引用発明の「ベクトルの内積」は、本件補正発明の「関係強度」に相当している。

(ウ)引用発明の「クラスターマップ」は、クラスター間距離に基づくものであり、クラスター間距離はクラスター間の関係強度に対応していると認められるので、複数のクラスター間の関連強度を視覚化表示したものであるといえるから、引用発明の「クラスターマップ」は、本件補正発明の「関連度チャート」に相当している。

(エ)引用発明の「結合最大距離」は、該距離が大きいほどクラスターの大きさが大きくなるので、本件補正発明の「閾値を示すグループ粒度」に相当している。

(オ)上記(イ)の記載から、引用発明の「各文書を前記抽出された単語のウェイトを要素とするベクトルで特定して複数の文書間のベクトルの内積を計算」することは、本件補正発明の「前記複数のデータの間の前記関係強度を計算」することに相当しているといえるので、引用発明においてもそのため処理を行う「データ関係強度計算部」を具備しているといえる。

(カ)上記(エ)の記載から、引用発明の「計算された内積が結合最大距離より小さいかを判断することでベクトル方向の近い複数の文書を結合してクラスターを形成」することは、本件補正発明の「前記複数のデータをグループに分類するための閾値を示すグループ粒度と前記複数のデータの間の前記関係強度とに基づいて、前記複数のデータを複数のグループに分類」することに相当しているといえるので、引用発明においてもそのため処理を行う「グループ生成部」を具備しているといえる。

(キ)上記(ウ)に記載したように、クラスター間距離はクラスター間の関係強度に対応していると認められるので、引用発明の「クラスター間距離を求め」ることは、本件補正発明の「前記複数のグループの関係強度を計算」することに相当しているといえるので、引用発明においてもそのため処理を行う「グループ関係強度計算部」を具備しているといえる。

(ク)上記(ウ)の記載から、本件補正発明と引用発明は、「前記複数のグループの前記関係強度が反映されるように前記複数のグループを視覚化表示した関連度チャートを生成する」点で共通しているといえ、また、引用発明においてもそのため処理を行う「関連度チャート生成部」を具備しているといえる。

(ケ)引用発明の「前記結合最大距離は試行錯誤により決定」は、ユーザが何らかの操作部により「結合最大距離」の変更を行うことを意味していることは明らかであるから、本件補正発明と引用発明は、「ユーザの操作に応答して、前記グループ粒度を変更する操作部」を具備している点で共通している。

(コ)引用発明の「クラスターマップ表示装置」は、上記(オ)?(ケ)に記載したように各処理を行う処理部と有しているといえ、また、各処理で作成された「クラスター」、「クラスター間距離」等を記憶する記憶部を有することは自明であることを鑑みれば、引用発明の「クラスターマップ表示装置」も、「複数のデータの間の関係強度を保持する記憶装置と、処理装置とを具備し」た「グループ関係性表示システム」であるといえる。


(2)本件補正発明と引用発明の一致点について
上記の対応関係から、本件補正発明と引用発明は、下記の点で一致する。

「複数のデータの間の関係強度を保持する記憶装置と、
処理装置と
を具備し、
前記処理装置は、
前記複数のデータの間の前記関係強度を計算するデータ関係強度計算部と、
前記複数のデータをグループに分類するための閾値を示すグループ粒度と前記複数のデータの間の前記関係強度とに基づいて、前記複数のデータを複数のグループに分類するグループ生成部と、
前記複数のグループの関係強度を計算するグループ関係強度計算部と、
前記複数のグループの前記関係強度が反映されるように前記複数のグループを視覚化表示した関連度チャートを生成する関連度チャート生成部と、
ユーザの操作に応答して、前記グループ粒度を変更する操作部と
を具備した、
グループ関係性表示システム。」

(3)本件補正発明と引用発明の相違点について
本件補正発明と引用発明は、下記の点で相違する。

(相違点1)
本件補正発明では、「前記複数のデータ間の前記関係強度に基づいて、前記複数のグループの関係強度を計算する」ものであるのに対し、引用発明はそのような構成とはなっていない点。

(相違点2)
本件補正発明では、「前記複数のグループの前記関係強度が、角度として反映されるように前記複数のグループを視覚化表示した関連度チャートを生成する」ものであるのに対し、引用発明のクラスターマップはクラスター間距離を角度として反映するものではない点。

(相違点3)
本件補正発明では、「前記関連度チャートは、前記グループ粒度を変更するためのグループ粒度変更機能を備え」たものであるのに対し、引用発明はそのような構成とはなっていない点。

(相違点4)
本件補正発明の「操作部」は、「ユーザによって操作された前記グループ粒度変更機能に連動して前記グループ粒度変更機能にあらかじめ対応付けられた新たなグループ粒度を取得し、前記グループ生成部に対して、前記新たなグループ粒度に対応した前記複数のグループの再生成指示を出力」する「関連度チャート操作部」であるのに対し、引用発明はそのような構成とはなっていない点。

(相違点5)
本件補正発明では、「前記グループ生成部は、前記再生成指示を受けて、前記新たなグループ粒度に基づいて前記複数のデータを複数のグループに再分類し、前記グループ関係強度計算部は、前記再分類されたグループの関係強度を再計算し、前記関連度チャート生成部は、前記再計算されたグループの関係強度に基づいて前記関連度チャートを再生成する」ものであるのに対し、引用発明はそのような構成とはなっていない点。


5.当審の判断
(1)相違点1について
クラスター分析の分野では、クラスター間距離の求め方として、2つのクラスター間の距離をクラスタの重心の距離として定義する「重心法」や、2つのクラスターから1つずつデータを選んで距離を求めた距離の平均値で定義する「群平均法」等の手法は、引用文献を示すまでもなく周知な技術である。
してみると、引用発明において、クラスター間距離を群平均法により、2つのクラスターから1つずつデータを選んで距離を求めた距離の平均値として算出することで、相違点1である「前記複数のデータ間の前記関係強度に基づいて、前記複数のグループの関係強度を計算する」ものとすることは、格別なこととはいえない。

(2)相違点2について
引用発明の「クラスターマップ」は、「クラスター間距離に基づいてクラスターを二次元平面に配置した」ものであり、引用文献1の段落【0064】には、「クラスターマップ」が「類似したクラスター同士の関係を視覚的に把握」できるようにするものであることが記載されていることから、引用発明では、「クラスター」という要素の要素間の関連性を視覚化するために、要素間の関連性を距離として反映させたマップを「クラスターマップ」として作成しているといえる。
一方、原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-350793号公報(以下、「引用文献2」という)には、検索された文書を同心円上に配置する場合、段落【0043】?【0045】に、その配置のために文書間の関連度合い利用することが記載され、図5には、関連性が高い文書同士は互いに接近して配置し、関連性が低い文書同士は互いに離れて配置された検索マップが記載されていることから、該検索マップは、同心円の中心からみると、互いに関連性の高い文書同士は中心からのなす角が小さく、互いに関連性の低い文書は中心からのなす角が大きなものとなるので、引用文献2には、「文書」という要素の要素間の関連性を視覚化するために、要素間の関連性を同心円上の角度として反映させたマップを「検索マップ」として作成することが記載されている。
そして、要素の要素間の関連性を視覚化する手法として、要素間の関連性を同心円上の角度として反映させることが引用文献2に記載されているように公知であることから、引用文献2に接した当業者であれば、引用発明の「クラスターマップ」を作成する際に、クラスタ間の関連性を距離として反映させる代わりに同心円上の角度として反映させること、即ち、相違点2である「前記複数のグループの前記関係強度が、角度として反映されるように前記複数のグループを視覚化表示した関連度チャートを生成する」ものとすることは、格別に困難なくなし得たものである。

(3)相違点3乃至5について
クラスタリングによる結果を表示する画面上にクラスタリングの粒度を決定するスライドバーを設け、該スライドバーにより粒度を変更した場合、変更した粒度による再クラスタリングの結果を画面上に表示することは、原査定の備考欄に引用された特開2000-194725号公報(段落【0075】には、類似ユーザーグループ抽出図とともに嗜好類似度バーが表示され、マウスポインタで該バーを操作することでマウスポインタの新たな位置の嗜好類似度が取得されて処理を実行し、新たな類似ユーザーグループ抽出図を表示することが記載されている)、特開平9-293139号公報(画像の特徴量により最小距離によりクラスタリングを行って画像の深い階層的な構造を表示する装置において、段落【0040】には、粒度のスクロールバーによるユーザの粒度の入力に応じて、表示部に画像の階層的な表示を行うことが記載され、図9には画像の階層的な表示がされている画面上に粒度のスクロールバーを備えた点が記載されている)に記載されているように周知技術である。

また、引用発明は、「結合最大距離は試行錯誤により決定する」ものであるから、引用発明では、該試行錯誤を行うためには何らかの結合最大距離を変更する操作手段がユーザに提供され、かつ、結合最大距離の変更結果はユーザによりクラスターマップで確認されるものであることは明らかである。

してみると、引用発明に上記周知技術を適用し、クラスタリングの粒度である結合最大距離の試行錯誤を行うために、クラスターマップを表示する画面上に結合最大距離の変更を行うスライドバーを表示させること、ユーザーが該スライドバーにより結合最大距離の変更を行った場合には、変更した結合最大距離により新たなクラスターを形成し、新たなクラスター間距離を求め、新たなクラスター間距離に基づいて新たなクラスターマップを作成すること、即ち、相違点3乃至5の構成を備えることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(4)本件補正発明の作用効果について
また、本件補正発明の作用効果も、引用発明、引用文献2に記載された事項、及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。


6.むすび
よって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項、及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 補正却下の決定を踏まえた検討

1.本願発明
平成24年5月8日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成24年1月10日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
複数のデータの間の関係強度を保持する記憶装置と、
処理装置と
を具備し、
前記処理装置は、
前記複数のデータの間の前記関係強度を計算するデータ関係強度計算部と、
前記複数のデータをグループに分類するための閾値を示すグループ粒度と前記複数のデータの間の前記関係強度とに基づいて、前記複数のデータを複数のグループに分類するグループ生成部と、
前記複数のデータ間の前記関係強度に基づいて、前記複数のグループの関係強度を計算するグループ関係強度計算部と、
前記複数のグループの前記関係強度が、角度として反映されるように前記複数のグループを視覚化表示した関連度チャートを生成する関連度チャート生成部と、
ユーザの操作に応答して、前記グループ粒度を変更する関連度チャート操作部
を具備し、
前記関連度チャートは、
前記グループ粒度を変更するためのグループ粒度変更機能を備え、
前記関連度チャート操作部は、
ユーザによって操作された前記グループ粒度変更機能に連動して前記グループ粒度変更機能にあらかじめ対応付けられた新たなグループ粒度を取得し、前記グループ生成部に対して、前記新たなグループ粒度に対応した前記複数のグループの再生成指示を出力する
グループ関係性表示システム。」


2.引用文献
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献の記載事項及び引用発明は、上記第2 3.に記載したとおりである。


3.対比・判断
本願発明は、上記第2 2.で検討した本件補正発明における限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要素を全て含み、さらに特定の点に限定を施したものに相当する本件補正発明が、上記第2 5.に記載したとおり、引用発明、引用文献2に記載された事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用文献2に記載された事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明、引用文献2に記載された事項、及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-18 
結審通知日 2013-07-19 
審決日 2013-07-30 
出願番号 特願2007-42112(P2007-42112)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 俊介野崎 大進  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 山崎 達也
仲間 晃
発明の名称 グループ関係性表示システム、グループ関係性表示方法およびグループ関係性表示プログラム  
代理人 工藤 実  

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