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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1279336
審判番号 不服2010-28498  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-17 
確定日 2013-09-19 
事件の表示 特願2001-501222「細菌毒力を制御するためのメチル化のモジュレーター」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月14日国際公開、WO00/74686、平成15年 1月14日国内公表、特表2003-501391〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2000年6月9日(パリ条約による優先権主張 1999年6月9日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成22年7月27日付けで手続補正がなされ、平成22年8月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年12月17日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、平成22年7月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
有効量のメチオニナーゼを含有する、細菌感染を処置するための薬学的組成物。」

3.原査定の理由
一方、原査定の拒絶の理由は、以下のとおりのものである。
「1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

出願時の本願明細書には、・・・またはメチオニナーゼなどメチオニン枯渇剤を有効成分として用いることで、細菌感染の毒力・細菌毒性をも緩和するという薬理効果が得られたことを具体的に確認した薬理試験結果の記載やそれと同視し得る程度の記載はなく、裏付けを欠く。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。そして、出願時の技術常識に照らしても、請求項1-6に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので、請求項1-6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」

4.判断
4-1 特許法第36条第4項に規定する要件(いわゆる実施可能要件)について
本願発明は、上述のとおり、薬学的組成物の発明であるから、特許法第2条第3項第1号にいう物の発明である。また、物の発明における実施には、その物の使用をする行為が含まれる。そして、本願発明におけるその物の使用とは、上記薬学的組成物をヒトなどの患者に投与し、かつ、ヒトなどの患者において細菌感染を処置するという薬理作用をもたらすことにほかならない。そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるためには、上記薬学的組成物をヒトなどの患者に投与する際に必要な投与量、投与方法、製剤化方法に加え、上記薬学的組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る記載がなされている必要がある。

そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討するに、該発明の詳細な説明には、上記薬学的組成物をヒトなどの患者に投与し、かつ、ヒトなどの患者において細菌感染を処置するという薬理作用をもたらすことに関して、以下の(ア)?(オ)の記載がある。
(ア)「【0003】
(背景技術)
一般的に、代謝におけるメチル基転移反応の重要性は、かなりの認知が得られるようになった。PCT出願WO96/20010および米国特許第5,872,104号(参考として本明細書中に援用される)は、抗生物質に対する微生物の耐性を減少するためのメチル化インヒビターの使用を記載する。Heithoff,D.M.ら、Science(1999)284:967-970は、DNAアデニンメチラーゼ(Dam)を欠くSalmonella typhimuriumは、本質的に無毒性であり、ゆえにマウスの腸チフスに対する生ワクチンとして使用され得ることが示す研究結果を報告する。その著者らは、Damが、感染の間に誘導されることが既知の少なくとも20個の遺伝子の発現を調節すると結論付け、そして、Damのインヒビターが抗菌性であるらしいことを記載していた。腎盂腎炎関連ピリ線毛(Pap)DNAと関連するメチル化パターンが、E.coliにおける遺伝子発現を制御したことが、Braaten,B.A.ら、Cell(1994)76:577-588によってより初期に示された。従って、細菌において、メチル化状態が、代謝の制御に重要であり、それゆえ、一般的に感染性に重要であることが明らかである。ウイルス感染におけるS-アデノシル-L-メチオニン(SAM)依存性メチル基転移の重要性がまた、Liu,S.ら、Antiviral Research(1992)19:247-265によって研究されている。」(【0003】)

(イ)「【0004】
S-アデノシル-ホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)は、SAM対S-アデノシル-ホモシステイン(SAH)の割合を調節するその能力によって、メチル基転移に大いに関連する。SAHHは、SAHとその溶解産物(アデノシンおよびホモシステイン)との間の平衡を触媒する。SAHHは、アデノシンのレベルの調節においてもまた重要である。SAHHは、Minattoら、Experimental Parasitol(1998)175-180によって記載されるように、抗寄生虫化学療法および抗ウイルス化学療法に関する標的として使用されている。SAMは、全てのメチル基転移反応のためのメチル基の供給源であり、そしてSAHは、メチル化インヒビターを構成する。従って、SAM対SAHの割合を制御するSAHHが阻害される場合、これは、細菌のメチル基転移代謝の調節を引起し、その結果、細菌の毒力を引き起こす。メチル化プロセスはまた、メチオニンレベルによって影響を受け、そしてメチオニンを枯渇する薬剤(例えば、メチオニン-α,γ-リアーゼ(メチオニナーゼ(methioninase)))も同様に、メチル化状態を調節するのに効果的である。
」(【0004】)

(ウ)「【0012】
一般的に、毒力、感染性、または増殖(growth)および増殖(proliferation)に重要なメチル化経路を妨害する任意の因子が、標的化され得る。いくつかの適切な標的としては、メチル基転移反応自体を触媒する酵素(例えば、Dam)、メチルドナーのレベルを調節する酵素(例えば、SAHH)、および、メチル基の供給を直接調節する酵素(例えば、メチオニナーゼ)が挙げられる。従って、大部分の場合、メチル基転移を媒介する酵素を阻害することが望ましいが、所望されないメチル化反応を促進することにより、活性の増強が役立ち得る。メチル化反応に間接的に影響を与える酵素(例えば、SAHH)を阻害することもまた、最も有用である。この阻害はSAHレベルの上昇を引き起こし、これは次に、S-アデノシル-L-メチオニン(SAM)がメチル化反応に影響を与える能力を増強する。存在可能なメチル基の供給を枯渇させる酵素(例えば、メチオニン-α,γ-リアーゼ(メチオニナーゼ))が代表的に刺激されるか、またはこれらの酵素のレベルが増強される。抗菌剤の選択は、選択された標的に依存する。」(【0012】)

(エ)「【0018】
さらに別の好ましい実施形態において、メチオニナーゼの活性レベルが増強される。癌および他の過剰増殖状態の処置におけるメチオニナーゼの使用は、PCT公開WO94/11535およびWO96/40284に開示される。メチオニナーゼコード配列の発現を含む遺伝子治療による腫瘍の処置は、米国出願番号09/195,055(1998年11月18日出願)(本明細書中に参考として援用される)に記載される。従って、本発明はまた、メチオニナーゼを供給してメチオニンレベルを枯渇させることによってメチル基の供給源を枯渇することに関する。悪性疾患を処置するためのそのような枯渇をもたらすメチオニナーゼの使用は、米国特許第5,690,929号(これは、本明細書中に参考として援用される)に開示される。その中に記載される投与方法および処方物を、本明細書中に同等に適用し得る。」(【0018】)

(オ)「【0020】
メチル化のレベルおよび状態を調節する抗毒力化合物が、単独の活性成分として適切な被験体に投与され得るか、またはいくつかのこのような化合物が組合せて使用され得るか、またはこれらはさらなる抗菌剤と組合せて使用され得るかのいずれかである。しかし、米国特許第5,872,104号の記載の場合と異なり、従来の抗生物質を用いた同時投与は必要ではない。処方物の性質および投与形態は、被験体の性質、細菌感染の性質、感染の重症度、ならびに医者および獣医に周知の種々の他の因子に依存する。適切な被験体としては、ヒトに加えて、家庭用の動物および鳥類、商業的な目的が意図される家畜、研究での使用のための実験動物などが挙げられる。上記に述べるパラメーターに依存して、投与形態は、全身的または表面的(topical)または局所的(local)であり得る。全身投与は、注射によってか、または、経皮投与、経粘膜投与、もしくは経口投与によるものであり得る。任意の適切な投与形態に適した処方物は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、最新版、Mack Publishing Co.、Easton、PAに見出され得る。本発明の範囲内の毒力インヒビターを調節するメチル化は、メチオニナーゼのようなタンパク質は例外として、代表的に、従来の処方技術および投与技術に容易に供される低分子である。
【0021】
従って、抗生物質のために使用される化合物は、カプセル剤、丸剤、もしくは散剤の形態で経口投与され得るか、またはシロップ中に含まれ得る。この化合物はまた、鼻の関門を透過するために界面活性剤を含む処方物を用いて鼻腔内投与され得る;坐剤によって、経皮パッチによって、静脈内注射または皮下注射もしくは筋内投与もしくは腹腔内注射のいずれかによる注射によって投与され得る。静脈内注射に適した組成物としては、代表的に、等張性キャリア媒体に加えて、活性成分のリポソーム処方物が挙げられ得る。局在した処置のために(例えば、眼の感染症)、この薬剤は、点眼剤の形態で投与され得;創傷部位で局在した感染に対して、局所投与を表面的にすることもまた好ましい。
【0022】
低分子以外の化合物(例えば、メチオニナーゼ)の投与に関して、より特化された技術が必要である。なぜなら、タンパク質を全身投与することは困難だからである。しかし、そのようなタンパク質は、代表的に静脈内注射され得、そして適切な処方によって他の投与経路もまた、使用され得る。鼻腔内投与は、頻繁に成功している。種々の投与手段が、一般的に当該分野において利用可能である。さらに、このタンパク質は、単純に裸のDNAを用いてか、または細胞(これは、エキソビボ改変され、そして再投与され得る)の遺伝物質へのDNAの組込みをもたらす手段を投与されるDNA中に含めることによってかのいずれかによって適切な発現系を提供することによって、供給され得る。あるいは、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルスなど)が、直接使用され得る。このような「遺伝子治療」に関する技術は、現在開発下であり、そしてこれらの技術自体は、本発明の一部を構成しない。すなわち、本明細書中に本発明者らによって提供される洞察は、増強されたレベルのメチオニナーゼは、細菌感染との戦いにおいて役立ち、いずれにせよこれらの増強されたレベルが達成されるということである。」(【0020】?【0022】)

上記(ア)?(オ)の記載によれば、上記薬学的組成物をヒトなどの患者に投与する際に必要な投与方法や製剤化方法は、抽象的ながらも上記(オ)に記載されているといえるものの、投与量が記載されていないうえ、上記薬学的組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る薬理試験結果の記載は見いだせない。また、上記薬学的組成物が上記薬理作用を示すことは本願発明の出願時の技術常識に属する事項であったというような、上記薬理試験結果の記載がなされていなくても上記薬学的組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるといえる、格別の事情も見いだせない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載には、上記薬学的組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る記載がなされているとはいえない。

この点について審判請求人は、審判請求書において、細菌におけるメチル化状態の重要性について本願明細書【0003】の通り記載されている、とか、メチル化状態を調節する手段は本願明細書【0004】の記載より明らかである、と主張する。
しかしながら、本願明細書【0003】すなわち上記(ア)には、メチル化状態が細菌の代謝の制御に重要であるといい得る事例がいくつか記載されているにとどまる。また、本願明細書【0004】すなわち上記(イ)には、メチオニナーゼについて、これがメチル化状態を調節するのに効果的である旨の一文が記載されているにとどまる。そうすると、これらの記載によって、メチオニナーゼを含有する薬学的組成物がヒトなどの患者に投与された際に、患者において細菌感染を処置するという薬理作用をもたらすことを、当業者が認識できるとはいえない。
また審判請求人は、続けて、
・メチオニナーゼは、メチオニンを枯渇させメチル基の供給を妨げる(本願明細書【0012】(審決注:上記(ウ)参照))。この性質を利用して、メチオニナーゼは様々な抗癌剤の有効成分として利用されている。多くの癌は細菌と同様に、メチオニン依存性であり、細胞中のメチオニンを枯渇させることによって増殖を抑制することが可能である。例えば、メチオニナーゼを用いた抗癌剤について、本願明細書【0018】(審決注:上記(エ)参照)の開示がある。
・この他にも様々な抗癌剤が開発されている。例えば、以下のものが挙げられるがこれらに限定されない。
・特許第2930723号公報
・[参考資料1]・・・Anticancer Research 16, 3937-3942, 1996.
・[参考資料2]・・・Anticancer Research 17, 3857-3860, 1997.
これらは、細胞におけるメチオニンを枯渇させメチル基の供給を妨げることを目的とする、メチオニナーゼの薬学的組成物としての利用可能性を示す。
とも主張する。
しかしながら、癌細胞は真核細胞であるのに対し、細菌は原核細胞であるなど、両者はその性質が大きく異なるものであり、メチオニナーゼを用いた抗癌剤の例がいくつか知られていることによって、メチオニナーゼを含有する薬学的組成物がヒトなどの患者に投与された際に、患者において細菌感染を処置するという薬理作用をもたらすことを、当業者が認識できるとはいえない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

4-2 特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のサポート要件の存在は、本願出願人すなわち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。
ここで、本願発明は、上述のとおりの薬学的組成物の発明であるから、その課題は、ヒトなどの患者において細菌感染を処置するという薬理作用をもたらすことにほかならない。
しかしながら、4-1で説示したように、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記薬学的組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る記載がなされているとはいえないし、上記薬学的組成物が上記薬理作用を示すことは本願発明の出願時の技術常識に属する事項であったというような、上記薬理試験結果の記載がなされていなくても上記薬学的組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるといえる、格別の事情も見いだせない。

そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲や、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲は存在しないものとするほかはないが、それにもかかわらず、本願明細書の特許請求の範囲には本願発明が記載されているから、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合するものとはいえない。


5.むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-18 
結審通知日 2013-04-24 
審決日 2013-05-08 
出願番号 特願2001-501222(P2001-501222)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横井 宏理  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 岩下 直人
大久保 元浩
発明の名称 細菌毒力を制御するためのメチル化のモジュレーター  
代理人 柴田 富士子  
代理人 柴田 五雄  

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