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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1279353
審判番号 不服2012-14179  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-24 
確定日 2013-09-19 
事件の表示 特願2006-30346「硬質物品の貼付方法及び転写式粘着材料及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年8月23日出願公開、特開2007-211063〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年2月7日の出願であって、平成23年9月8日付けで拒絶理由が通知され、同年11月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年4月26日付けで拒絶査定され、これに対し、同年7月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年8月30日付けで前置審査の結果が報告され、当審において、同年11月26日付けで審尋され、平成25年1月28日に回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成24年7月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「アクリル系重合体を含有する粘着剤組成物からなる粘着剤を剥離基材上に断続パターンに塗工してなる転写式粘着材料上に硬質物品を圧着し、当該硬質物品を圧着した圧着面に前記粘着剤の複数の断続パターンを転写し、前記圧着面に転写された前記複数の断続パターンを対象面に貼付する硬質物品の貼付方法であって、
前記アクリル系重合体を、ガラス転移温度が0℃以下であるものとし、
前記粘着剤を、塗工時に前記粘着剤を分散媒に溶解又は分散させることによって溶液又はエマルションを構成し得る粘着剤とし、前記塗工時の前記溶液又はエマルション100質量部に含まれる前記粘着剤を60質量部以上とし23?25℃での粘度を500?30000mPa・Sとしていることを特徴とする硬質物品の貼付方法。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定は、「平成23年9月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって拒絶すべき」というものであるところ、具体的には、「この出願に係る発明は、刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものである。
そして、刊行物として、
1.特開平8-333556号公報
2.特開平8-43615号公報
等の文献が引用されている。

4.引用刊行物
原査定の拒絶理由に引用された本願出願日前の刊行物である特開平8-333556号公報(以下、「引用例1」という。)及び特開平8-43615号公報(以下、「引用例2」という。)には、それぞれ次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

[引用例1]
(1-i)「【請求項1】剥離機能を有する担体シート上に、不連続の独立単位区域の集合よりなる形状を有する粘着剤層が形成され、且つ、前記各独立単位区域の寸法が被転写面の寸法以下であることを特徴とする転写型粘着シート材。」(特許請求の範囲【請求項1】参照)
(1-ii)「粘着剤層の粘着剤は、アクリル系、ゴム系、シリコーン系等の粘着剤でよく、熱可塑性であるのが通常であるが、自己架橋型粘着剤等を用い僅かに架橋(加硫)して、ずれを少なくしたものであってもよい。粘着剤を剥離機能を有する担体シート上に塗布して、不連続の独立単位区域の集合よりなる形状を有する粘着剤層を形成するが、この形成方法としては、ホットメルト粘着剤をホットメルトアプリケーターを用い所定形状の独立単位区域を形成するよう吐出・塗布する方法や、ホットメルト粘着剤、粘着剤溶液、粘着剤エマルジョン、紫外線重合型等のの光重合型の粘着剤を、例えば、スクリーン印刷により所定形状の独立単位区域を形成するよう印刷・塗布する方法などがある。」(段落【0013】参照)
(1-iii)「実施例2 アクリル系ゾル型粘着剤である「ニッセツKP802L」(日本カーバイド社製)をスクリーン印刷法により、実施例1で用いたと同様の剥離ライナー上に「図2」のような四角ドットの集合模様に印刷後、放置乾燥し、粘着剤層を形成した。各独立単位ドットの縦横長さは2mmで、ドット間の間隔は1mmであった。」(段落【0019】参照)
(1-iv)「上記実施例1?3で得られた転写型粘着シート材の粘着剤層に、貼り付け用試験片の被転写面を押し当てることにより、容易に被転写面のほぼ全面にドット状の粘着材層を転写することができた。更に、その貼り付け用試験片の被転写面を再度各転写型粘着シート材の粘着剤層に押し当てれば、最初に転写されたドット間の隙間にも粘着剤を付着させることができ、粘着剤の占める面積を大きくすることができた。実施例1の転写型粘着シートの粘着剤層上に貼り付け用試験片の被転写面を押し当てた様子を「図5」に示す。「図5」中、1が転写型粘着シート材で、2が貼り付け用試験片である。「図6」は、ドット状粘着剤層が転写された上記貼り付け用試験片の被転写面を示す。このようにして粘着剤ドットが転写形成された試験片は、極めて容易に金属、木材、石材、紙、プラスチック製品等の面に貼り付けることができた。」(段落【0021】参照)

[引用例2]
(2-i)「比較例1 接着剤用樹脂をMw約48万で固形分39重量%のアクリル系樹脂「ニッセツKP-802L」〔商品名;日本カーバイド工業(株)製〕とし、架橋剤「ニッセツ CK-401」を1重量部、酢酸エチルを60重量部とした以外はすべて実施例1と同様にして再帰反射シートを作製した。得られた再帰反射シートは表1に示す様にフクレの発生を抑さえることができないものであった。」(段落【0041】参照)

5.刊行物に記載された発明
上記引用例1の特許請求の範囲【請求項1】には、「剥離機能を有する担体シート上に、不連続の独立単位区域の集合よりなる形状を有する粘着剤層が形成され、且つ、前記各独立単位区域の寸法が被転写面の寸法以下であることを特徴とする転写型粘着シート材」が記載されており(摘示(1-i)参照)、その具体例として、実施例2には、「アクリル系ゾル型粘着剤である「ニッセツKP802L」(日本カーバイド社製)をスクリーン印刷法により、実施例1で用いたと同様の剥離ライナー上に「図2」のような四角ドットの集合模様に印刷後、放置乾燥し、粘着剤層を形成した」ものが記載され(摘示(1-iii)参照)、さらに、「上記実施例1?3で得られた転写型粘着シート材の粘着剤層に、貼り付け用試験片の被転写面を押し当てることにより、容易に被転写面のほぼ全面にドット状の粘着材層を転写することができた。・・・・・(中略)・・・・・このようにして粘着剤ドットが転写形成された試験片は、極めて容易に金属、木材、石材、紙、プラスチック製品等の面に貼り付けることができた。」との記載があることから(摘示(1-iv)参照)、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が、実質的に開示されているものと認められる。

「アクリル系ゾル型粘着剤である「ニッセツKP802L」を剥離ライナー上に四角ドットの集合模様に印刷して粘着剤層を形成した転写型粘着シート材の粘着剤層に、貼り付け用試験片の被転写面を押し当てることにより、被転写面のほぼ全面にドット状の粘着材層を転写し、粘着剤ドットが転写形成された試験片を金属、木材、石材、紙、プラスチック製品等の面に貼り付ける方法」

6.対比、判断
そこで、本願発明と引用例発明とを対比すると、
(ア)引用例1発明における「アクリル系ゾル型粘着剤である「ニッセツKP802L」」は、引用例2に明細書段落【0041】の記載によれば「Mw約48万で固形分39重量%のアクリル系樹脂」であるから(摘示(2-i)参照)、本願発明における「アクリル系重合体を含有する粘着剤組成物からなる粘着剤」に相当する。
(イ)引用例1発明における「剥離ライナー」は、本願発明における「剥離基材」に相当する。
(ウ)引用例1発明における「四角ドットの集合模様に印刷して粘着剤層を形成した転写型粘着シート材」は、本願発明における「断続パターンに塗工してなる転写式粘着材料」に相当する。
(エ)引用例1発明における「貼り付け用試験片」は、本願発明における「硬質物品」に相当する。
(オ)引用例1発明における「貼り付け用試験片の被転写面を押し当てることにより、被転写面のほぼ全面にドット状の粘着材層を転写」することは、本願発明における「硬質物品を圧着し、当該硬質物品を圧着した圧着面に前記粘着剤の複数の断続パターンを転写」することに相当する。
(カ)引用例1発明における「金属、木材、石材、紙、プラスチック製品等の面」は、本願発明における「対象面」に相当する。
(キ)引用例1発明における「粘着剤ドットが転写形成された試験片を金属、木材、石材、紙、プラスチック製品等の面に貼り付ける方法」は、本願発明における「前記圧着面に転写された前記複数の断続パターンを対象面に貼付する硬質物品の貼付方法」に相当する。
そして、引用例1発明の「アクリル系ゾル型粘着剤」が、「塗工時に前記粘着剤を分散媒に溶解又は分散させることによって溶液又はエマルションを構成し得る粘着剤」であることは明らかであるから、両発明は、本願発明の表現を借りて表すと、
「アクリル系重合体を含有する粘着剤組成物からなる粘着剤を剥離基材上に断続パターンに塗工してなる転写式粘着材料上に硬質物品を圧着し、当該硬質物品を圧着した圧着面に前記粘着剤の複数の断続パターンを転写し、前記圧着面に転写された前記複数の断続パターンを対象面に貼付する硬質物品の貼付方法であって、
前記粘着剤を、塗工時に前記粘着剤を分散媒に溶解又は分散させることによって溶液又はエマルションを構成し得る粘着剤としていることを特徴とする、硬質物品の貼付方法」
である点で一致し、次の点で一応相違している。

<相違点>
A.本願発明においては、アクリル系重合体を「ガラス転移温度が0℃以下であるもの」としているのに対し、引用例1発明においては、アクリル系重合体のガラス転移温度については記載がない点
B.本願発明においては、粘着剤について「塗工時の前記溶液又はエマルション100質量部に含まれる前記粘着剤を60質量部以上とし23?25℃での粘度を500?30000mPa・S」としているのに対し、引用例1発明の粘着剤は「Mw約48万で固形分39重量%のアクリル系樹脂」であり、粘着剤の粘度については記載がない点

そこで、これらの相違点について検討する。

(1)相違点Aについて
アクリル系重合体を粘着剤の用途に用いる場合において、ガラス転移温度が高くなると粘着性が低下し粘着剤の用途には適さなくなるため、これを0℃以下とすることはこの出願前広く知られている技術的事項である(例えば、特開平1-98612号公報第4頁左上欄5?9行、特開2000-169801号公報の段落【0025】、特開2005-187538号公報の段落【0012】の記載等を参照)。
したがって、引用例1発明において用いられているアクリル系ゾル型粘着剤においても、粘着剤の用途としての粘着性を得るためにガラス転移温度が0℃以下のものが用いられているのは当然のことであり、上記相違点Aに挙げられた構成はこの点を単に明記したものにすぎないから、相違点Aは実質的な相違点ではない。
また、そうでないとしても、粘着性を考慮して、粘着剤として使用する重合体のガラス転移点を0℃以下とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点Bについて
アクリル系重合体を含有する溶液またはエマルジョン形態の粘着剤において、求められる性能に基づく凝集力や粘度を得るためにその固形分濃度を調整することは、常套手段としてこの出願前広く行われている(例えば、特開2000-169801号公報の段落【0031】、特開2005-187538号公報の段落【0014】の記載等を参照)。
引用例1発明は、本願発明と同じく剥離シート上に不連続の独立単位区域の集合よりなる形状を有する粘着剤層を形成するものであり(摘示(1-ii)参照)、塗工手段の選択とともに、粘着剤層の形成のために要求される粘着剤の凝集力や粘度などについては当然検討が行われているものと認められ、引用例1の実施例2においては、スクリーン印刷法が用いられているため、粘度のそれほど高くないすなわち固形分濃度の低い粘着剤が用いられているものと推察できる。
しかし、粘度を高く設定する必要がある場合には固形分濃度を多くすればよいことは当業者に明らかであり、したがって、引用例1発明において、塗工手段の変更等により要求される高い粘度を得るために、「塗工時の前記溶液又はエマルション100質量部に含まれる前記粘着剤を60質量部以上」とすることは、当業者であれば実施にあたり適宜なし得ることである。また、塗工時、すなわち常温の範囲である23?25℃における粘度の値はその固形分濃度により自ずと定まってくるものであり、「500?30000mPa・S」という値はこの粘度を単に明記したものにすぎないものである。

7.請求人の主張について
この点に関して、請求人は回答書において、「引用例1では断続パターンを確実に塗工しつつ断続パターン及び凝集力を好適に維持するという課題に関する示唆も開示も全く存在せず、且つ粘着剤の粘度についての積極的な開示も何ら無く、しかも他の引用例も同様に断続パターンを確実に塗工しつつ断続パターン及び凝集力を好適に維持するための粘着剤の粘度に関する示唆も開示も全く存在しないことから、引用例1から上記の目的をもって他の引用例と組み合わせても、本願発明には想到し得ないことは明らかです。また本願請求項2に係る発明によれば、粘着剤を60質量部以上とすることにより、塗工後に溶媒又は分散媒が蒸発或いは揮発して粘着剤のみとなったときも剥離基材上には硬質物品を貼付するに足る十分量の粘着剤が断続パターンにて存在します。すなわち平成23年11月14日付手続補正による請求項2に係る発明は、上記塗工時の粘度による効率的な生産にも耐え得る塗工のし易さと、エマルション中の粘着剤の量の設定による実用に耐え得る硬質物品の確実な貼付とを、ともに両立させ得るという、顕著な効果を有するものとなっています。」と主張し、本願発明の進歩性と顕著な効果を主張している。
しかし、引用例発明1においても、担体シート上に所定形状の独立単位区域を形成するよう印刷や塗布が行われ(摘示(1-ii)参照)、ドット状の粘着剤層を有する転写型粘着シート材を使用しての転写・貼り付けが良好に行われている(摘示(1-iv)参照)ことからみて、明記されてはいなくても、「断続パターンを確実に塗工しつつ断続パターン及び凝集力を好適に維持する」ことが当然行われているものと認められるから、請求人の上記主張は採用できない。

8.むすび
以上のとおり、本願の請求項2に係る発明は、本願出願日前に頒布された上記刊行物に記載された発明、及び本願出願日前周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-18 
結審通知日 2013-07-23 
審決日 2013-08-05 
出願番号 特願2006-30346(P2006-30346)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大熊 幸治  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 新居田 知生
菅野 芳男
発明の名称 硬質物品の貼付方法及び転写式粘着材料及びその製造方法  
代理人 赤澤 一博  
代理人 赤澤 一博  

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