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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B81B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B81B |
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管理番号 | 1279419 |
審判番号 | 不服2012-14493 |
総通号数 | 167 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-07-27 |
確定日 | 2013-09-18 |
事件の表示 | 特願2008-322711「微小機械デバイス及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 9日出願公開、特開2009-148883〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は平成20年12月18日の出願(パリ条約による優先権主張2007年12月19日、中華人民共和国)であって、平成23年8月24日付拒絶理由通知に対して同年11月30日に意見書と手続補正書が提出されたが、平成24年3月30日付で拒絶すべき旨の査定がなされたものである。本件審判は該査定の取消を求めて平成24年7月27日に請求されたものであり、同日付で特許請求の範囲に対する手続補正書が提出され、その後、当審による平成24年11月9日付審尋に対し、平成25年1月31日に回答書が提出されている。 2.平成24年7月27日付手続補正の却下の決定 【結論】 平成24年7月27日付手続補正を却下する。 【理由】 2.1 補正の内容 平成24年7月27日付手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を補正するものであって、補正前後の請求項1を、補正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)補正前 「基板と、該基板の表面に設置された第一材料層と、前記第一材料層との間に隙間があり、犠牲層に支持された第二材料層とを含む微小機械デバイスにおいて、 前記第二材料層の前記第一材料層に相対する表面に少なくとも一つの凸部が設置されており、 前記凸部の材料が、前記第一材料層と前記第二材料層との材料と異なり、 前記凸部が金属からなることを特徴とする微小機械デバイス。」 (2)補正後 「基板と、該基板の表面に設置された第一材料層と、前記第一材料層との間に隙間があり、犠牲層に支持された第二材料層とを含む微小機械デバイスにおいて、 前記第二材料層の前記第一材料層に相対する表面に少なくとも一つの凸部が設置されており、 前記凸部の材料が、前記第一材料層と前記第二材料層との材料と異なり、 前記凸部が金属からなり、 前記犠牲層と前記凸部とが同じ材料からなることを特徴とする微小機械デバイス。」 2.2 補正の適否 本件補正が、請求項1に係る発明の発明特定事項である「犠牲層」及び「凸部」について、両者が「同じ材料からなる」との特定を加えるものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することは明らかである。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、以下に検討する。 2.3 補正発明 本件補正後の請求項1に係る発明(以下、単に「補正発明」という。)は、上記2.1(2)に示したとおりのものである。 2.4 刊行物 2.4.1 刊行物の記載事項 本願の出願前に頒布された刊行物であって、原審の拒絶理由に引用された特開平10-284771号公報(以下、単に「刊行物」という。)には、以下の記載がなされている。 a.(発明の詳細な説明、段落9) 「【0009】また、固定部と、上記固定部に対向して配置される可動部と、上記可動部が上記固定部に接触する際の接触面積を低減せしめる凸部とを有する微小装置を製造する方法において、エッチング速度の速い層と遅い層との、少なくとも2種類の層から構成される犠牲層を上記固定部となる層と上記可動部となる層との間に形成する工程と、上記犠牲層をエッチングする際に上記エッチング速度の遅い層を部分的に残存させることによりセルフアラインで上記凸部を形成する工程とを行なう。」 b.(同、段落11) 「【0011】また、上記少なくとも2種類の層から構成される犠牲層の少なくとも1層を上記固定部に上記可動部の材料を貼り合わせる際の接合層とする。」 c.(同、段落15,16) 「【0015】また、固定部と、上記固定部に対向して配置される可動部と、上記可動部の周りの開口部とを有する微小装置において、上記可動部が上記固定部に接触する際の接触面積を低減せしめる凸部を隣接する上記開口部の中央に設ける。 【0016】この場合、上記凸部を上記固定部または上記可動部に設ける。」 d.(同、段落18) 「【0018】また、少なくとも2種類の層から構成される犠牲層の少なくとも1層を固定部に可動部の材料を貼り合わせる際の接合層としたときには、工程数を減ずることができるという効果が得られる。」 e.(同、段落37?39) 「【0037】(実施の形態5)本発明の実施の形態5について、図8に従って説明する。本実施の形態5も実施の形態2、3および4と同様に、固定部と可動部との間の間隙をせまくとる必要がある微小装置、その製造方法にも適用可能である。 【0038】まず、図8(a)に示すように、第1のシリコン基板400の主面すなわち図8における下面に、熱酸化の手法により酸化膜401を成膜したのち、LP-CVDの手法により窒化シリコン膜402および多結晶シリコン膜403を成膜する。つぎに、図8(b)に示すように、第2のシリコン基板404を多結晶シリコン膜403に高温熱処理の手法により接合し、シリコン基板400の主たる部位を研削、研磨し、絶縁膜状のシリコン単結晶層、いわゆるSOI層405を形成する。つぎに、図8(c)((d)のU-U断面図)、(d)に示すように、フォトリソグラフィーおよびトレンチエッチングの手法によりSOI層405を貫通するエッチングを行ない、SOI層405をパターニングして、微小装置の基本的な構成要素である微小構造体すなわちアンカー部410、重り407、梁409、片持ち梁408およびエッチングホール411を形成する。つぎに、シリコン基板404、多結晶シリコン膜403、窒化シリコン膜402、酸化膜401およびSOI層405からなる基板体をフッ酸とフッ化アンモニウムとの容量比が1:7のBHFに浸漬し、犠牲層である酸化膜401および窒化シリコン膜402をエッチングすることにより、可動部すなわち重り407、梁409および片持ち梁408をリリースする。また、犠牲エッチングの所要時間は、酸化膜401を除去するのに充分な時間で、しかも窒化シリコン膜402が完全に除去されずに残存する程度の時間とする。酸化膜401および窒化シリコン膜402のエッチング速度はそれぞれ、1000Å/min、20Å/minであるため、エッチングの所要時間の設定は容易である。 【0039】つぎに、犠牲エッチング後の構造すなわち実施の形態5の微小装置について、図9に従って説明する。図9(a)は平面図、図9(b)は図9(a)のW-W断面図、図9(c)は図9(a)のX-X断面図、図9(d)は図9(a)のY-Y断面図、図9(e)は図9(a)のZ-Z断面図である。図に示すように、SOI層405の開口部から犠牲層が除去され、多結晶シリコン膜403が見えている。また、犠牲エッチングの際、酸化膜401は窒化シリコン膜402に対して、徐々に後退するエッチングマスクとして作用するため、SOI層405の開口部の窒化シリコン膜402は長時間エッチング液にさらされ、SOI層405の可動部となる部分の下側の奥まった領域の窒化シリコン膜402は短時間エッチング液にさらされる。このエッチング液にさらされる時間の差異によって、SOI層405の開口部の窒化シリコン膜402を除去し、SOI層405の可動部となる部分の下側の奥まった領域の窒化シリコン膜402を残存させる。したがって、重り407の下方の固定部412(シリコン基板404)の表面には、重り407が対向する固定部412の最外表面と接触する際の接触面積を低減せしめるメッシュ状の凸部450がセルフアラインで形成される。また、片持ち梁408の下方の固定部412の表面には、片持ち梁408が対向する固定部412の最外表面と接触する際の接触面積を低減せしめる蒲鉾状の凸部451がセルフアラインで形成される。」 f.(同、段落46,47) 「【0046】(前略)また、微小装置の微小構造体の材料として、実施の形態1、5および6では単結晶シリコン(SOI層604、405、504)を例に説明してきたが、これに限定される訳ではなく、他の材料例えば水晶や金属であってもよい。 【0047】また、実施の形態2、3、4、5および6において、少なくとも2層から構成される犠牲層として、それぞれ具体的な例を用いて説明してきたが、これに限定される訳ではなく、犠牲エッチングのエッチング速度の異なる、少なくとも2層から構成されていればよい。また、犠牲層のシリコン酸化物系の材料を主として説明してきたが、場合によっては金属であってもよい。(後略) g.(同、段落54) 「【0054】また、実施の形態5において、(中略)エッチング速度の遅い犠牲層と速い犠牲層との成膜順序を逆にし、実施の形態4のごとく凸部を可動部側に形成してもよい。これらのことは実施の形態6においても同様である。」 h.(図8,図9) SOI層405に、アンカー部410、重り407、梁409及び片持ち梁408をもつ可動部が形成され、可動部は犠牲層である酸化膜401及び窒化シリコン膜402に支持されること、及び、凸部450は多結晶シリコン膜403の可動部に相対する表面上に形成されること、が理解される。 2.4.2 刊行物に記載された発明 上記摘記事項eから、凸部450は犠牲層と同じ材料の窒化シリコンであって、多結晶シリコン膜403とも、可動部とも異なる材料からなることが、容易に理解される。 そこで、摘記事項a?e及びhの記載内容を、本件発明の記載に沿って整理すると、刊行物には次の発明が記載されているということができる。 「第2のシリコン基板404と、該第2のシリコン基板404の表面に設置された多結晶シリコン膜403と、前記多結晶シリコン膜403との間に隙間があり、犠牲層に支持された可動部とを含む微小装置において、 前記多結晶シリコン膜403の前記可動部に相対する表面に少なくとも一つの凸部450が設置されており、 前記凸部450の材料が、前記多結晶シリコン膜403と前記可動部との材料と異なり、 前記凸部450が窒化シリコンからなり、 前記犠牲層と前記凸部450とが同じ材料からなる、微小装置。」(以下、「刊行物記載の発明」という。) 2.5 対比 補正発明と刊行物記載の発明とを対比すると、後者の「第2のシリコン基板404」、「多結晶シリコン膜403」、「可動部」及び「微小装置」が、前者の「基板」、「第一材料層」、「第二材料層」及び「微小機械デバイス」にそれぞれ相当することは明らかである。また、後者の「凸部450」は、第二材料層と第一材料層とが相対する表面に設けられている限りにおいて、前者の「凸部」と共通する。 したがって、補正発明と刊行物記載の発明とは、以下の点において一致及び相違すると認められる。 <一致点> 「基板と、該基板の表面に設置された第一材料層と、前記第一材料層との間に隙間があり、犠牲層に支持された第二材料層とを含む微小機械デバイスにおいて、 前記第二材料層と前記第一材料層とが相対する表面に少なくとも一つの凸部が設置されており、 前記凸部の材料が、前記第一材料層と前記第二材料層との材料と異なり、 前記犠牲層と前記凸部とが同じ材料からなる、微小機械デバイス。」である点。 <相違点1> 凸部が設置される表面が、前者では第二材料層の第一材料層に相対する表面であるのに対し、後者では第一材料層の第二材料層に相対する表面である点。 <相違点2> 凸部の材料が、前者では金属であるのに対し、後者では窒化シリコンである点。 2.6 当審の判断 上記各相違点について検討する。 2.6.1 <相違点1>について 刊行物には、摘記事項gに見られるとおり、刊行物記載の発明において凸部を可動側に形成すること、すなわち第二材料層の第一材料層に相対する表面に設置することも記載されている。 したがって、凸部が設置される表面を、補正発明のように第二材料層の第一材料層に相対する表面とすることは、上記記載に接した当業者が当然試みることである。 2.6.2 <相違点2>について 刊行物には、摘記事項fに見られるとおり、犠牲層の材料を金属とすることも記載されており、この場合、犠牲層と同じ材料からなる凸部も金属となることはいうまでもない。 したがって、凸部の材料を、補正発明のように金属とすることは、上記記載に接した当業者であれば、容易になし得ることである。 2.6.3 本件発明の作用効果 補正発明には、刊行物記載の発明及び技術的な常識に基づいて普通に予測される範囲を超える格別な作用効果を認めることもできない。 2.7 まとめ 以上のとおりであるから、補正発明は刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるため、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきである。 なお、請求人は回答書において、請求項1に、「前記第1材料層が銅であり、その厚さが100ナノメートルである」との特定を付加する補正をする意志がある旨述べている。この時点でこのような補正を認めるべき法的根拠はないが、一応検討しておくと、以下のとおりである。 刊行物1には、摘記事項fにSOI層405を金属膜にて置き換えることが記載されているが、第一材料層を形成する多結晶シリコン膜403についても、同様にシリコン膜であることから、これも金属とすることが刊行物には示唆されているということができる。金属として銅を採用することは、微小機械デバイスにおいて従来周知である。また、その厚さを特定することにも何ら技術的な意義は認められない。 したがって、上記補正を採用しても、結論に変わりはない。 3.本願の発明について 3.1 本件発明 上記のとおり、平成24年7月27日付手続補正は却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成23年11月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1に係る発明は2.1(2)に示したとおりのもの(以下「本件発明」という。)である。 3.2 刊行物記載の発明または事項 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、上記2.4に示したとおりである。 3.3 対比と判断 本件発明は、上記2.3?2.6で検討した補正発明から、「犠牲層」及び「凸部」について、両者が「同じ材料からなる」との特定を除いたものである。 そうすると、本件発明を特定する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加する補正発明は上記2.6で示したとおり、刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.4 むすび したがって、本件出願の請求項1に係る発明は、刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。 よって、結論のとおり審決する。 . |
審理終結日 | 2013-04-19 |
結審通知日 | 2013-04-23 |
審決日 | 2013-05-08 |
出願番号 | 特願2008-322711(P2008-322711) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B81B)
P 1 8・ 121- Z (B81B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 太田 良隆、西中村 健一 |
特許庁審判長 |
豊原 邦雄 |
特許庁審判官 |
菅澤 洋二 野村 亨 |
発明の名称 | 微小機械デバイス及びその製造方法 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 実広 信哉 |