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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1279439
審判番号 不服2010-25847  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-16 
確定日 2013-09-18 
事件の表示 特願2000-530103「ブタ生殖器および呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)のポリ核酸によってコードされるタンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月12日国際公開、WO99/39582、平成14年 2月12日国内公表、特表2002-504317〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年(1999年)2月8日(優先権主張 1998年2月6日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年11月21日付けで拒絶理由が通知され、平成21年5月28日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年8月20日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成22年2月25日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、同年7月12日付けで、同年2月25日付けの手続補正に対する補正の却下の決定がなされ、同日付で拒絶査定がされたところ、同年11月16日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出された後、平成24年5月8日付けで前置報告書を用いた審尋が行われ、同年11月12日付けでこれに対する回答書が提出されたものである。

第2 平成22年11月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年11月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年11月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)のうち、補正後の請求項1についての補正事項は、請求人が審判請求書の【請求の理由】(3)で主張するように、補正前の請求項2を以下のように、補正後の請求項1に補正するものである(下線部が補正箇所である)。

補正前:
「【請求項2】
ブタにおいて抗体を誘導するのに有効な量の32?38、57?66、または120?128位を含んでなり、配列番号:55(ISU-12)のDNA配列のORF2、ORF3、またはORF4を含まない配列によってコードされるPRRSVおよび生理学的に許容可能なキャリヤーを含んでなる、PRRSVに対する抗体を誘導するための組成物。」

補正後:
「【請求項1】
ブタにおいて抗体を誘導するのに有効な配列番号:55(ISU-12)のDNA配列の13471?14946番目の配列によってコードされるポリペプチドおよび生理学的に許容可能なキャリヤーを含んでなる、PRRSVに対する抗体を誘導するための組成物。」

2.補正の適否
(1)補正前の請求項2における「PRRSV」という記載を「ポリペプチド」と補正する補正事項は、平成21年8月20日付け拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項(D)【2】についてするものであるから、明りようでない記載の釈明を目的とする補正に該当する。

(2)補正前の請求項2における「32?38、57?66、または120?128位」という記載は、平成21年5月28日付けの意見書の(6)(ii)の記載及び本願明細書の段落【0072】の「この態様では、32?38、57?66および/または120?128位の超可変領域の1以上が包含されている限り、PRRSVORF5の他のアミノ酸配列(・・・)をコードすることができる。」という記載からみて、ORF5における超可変領域の位置を特定したものである。
また、補正後の請求項1における「配列番号:55(ISU-12)のDNA配列の13471?14946番目の配列」とは、審判請求書の【請求の理由】(3)の記載及び本願明細書の段落【0022】からみて、ORF5?7の配列に相当するものである。

補正前の請求項2の発明特定事項である「ブタにおいて抗体を誘導するのに有効な量の32?38、57?66、または120?128位を含んでなり、配列番号:55(ISU-12)のDNA配列のORF2、ORF3、またはORF4を含まない配列によってコードされるPRRSV」という記載を「ブタにおいて抗体を誘導するのに有効な配列番号:55(ISU-12)のDNA配列の13471?14946番目の配列の配列によってコードされるポリペプチド」と補正する補正事項について検討する。
この補正事項は、ブタにおいて抗体を誘導するのに有効なポリペプチドが、補正前は、ORF5の超可変領域を含む配列によりコードされるものであったのを、補正後は、ORF5?7からなる配列によりコードされるものとする補正である。
ここで、補正後のポリペプチドは、ORF5全体にさらに、ORF5の超可変領域とは異なるエピトープとなり得る領域を含むORF6及びORF7をも加えた、ORF5?7からなる配列によりコードされるものである。
そうすると、解決しようとする課題が、補正前の発明では、「ORF5の超可変領域に結合する抗体を誘導するための組成物を提供する」ことであったのに対し、補正後の発明では、「ORF5?7に含まれるエピトープに結合する抗体を誘導する組成物を提供する」ことになり、この補正後の課題は、補正前の課題を概念的に下位にしたものではない。
したがって、本件補正は、解決しようとする課題を変更するものである。

よって、上記補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
さらに、上記補正事項は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれに該当するものでもない。

(3)以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.独立特許要件について
上記2.のとおり、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるが、念のため、仮に、本件補正が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号および第4号を目的とする補正に該当するとした場合に、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.に「補正後」として記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
原査定の理由において引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるJ. Gen. Virol., 1995, Vol.76, No.12, p.3181-3188(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した)。

ア.「ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)の病原性の異なる5つの米国単離株のORF2?5の配列を決定した。これらの単離株のヌクレオチド及び推定アミノ酸配列を他の既知のPRRSV単離株と比較した。7つのPRRSV米国単離株間のアミノ酸配列はORF2で91?99%、ORF3で86?98%、ORF4で92?99%、ORF5で88?97%であった。弱毒米国単離株は他の米国単離株と比較して、ORF2?ORF4に大きな配列の相違があった。抗原性の可能性をもつ超可変領域を主要エンベロープ糖蛋白質内に同定した。ORF2?7の系統解析では、メジャーなアメリカ遺伝子型内に少なくとも3つのマイナーな遺伝子型の存在が示唆された。弱毒米国単離株は他の米国単離株とは異なる枝を形成した。この研究の結果は、PRRSVの分類とワクチンの進歩の両者へ影響をもつものである。」(要約)

イ.「PRRSVは、新しく提案されたアルテリウイルス科ファミリーに暫定的に分類され、このファミリーはウマ動脈炎ウイルス(EAV)、乳酸デヒドロゲナーゼ増強ウイルス(LDV)、サル出血熱ウイルス(SHFV)を含む(・・・)。ウイルスゲノムは約15kbであり、8つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む(・・・)。ORF1a及び1bは、おそらくウイルスRNAポリメラーゼをコードする(・・・)。ORF5、6及び7は、それぞれグリコシル化膜タンパク質(E)、非グリコシル化膜タンパク質(M)及びヌクレオカプシドタンパク質(N)をコードすることがわかっていた(・・・)。」(3181頁左欄下から6行?右欄8行)

ウ.「ORF5遺伝子産物の配列比較によると、疎水性のN末端領域は非常に可変であり、米国単離株と欧州LV間だけでなく、米国単離株間でも同様であることを示した(図2d)。ORF5の最初の32-33アミノ酸残基は、LVにおけるシグナル配列を形成することが予測されている(Meulenbergら、1995;図2d)。したがって、すべてのPRRSV単離株におけるORF5の潜在的なシグナル配列は、不均一である。推定シグナル配列にすぐに続く、さらなる超可変領域(アミノ酸位置34-40)もまた同定された(図2d)。この超可変領域中のアミノ酸配列の変異は重要であり、構造的に保存されていない(図2d)。コンピューター解析によると、この超可変領域は、非常に親水性であり、かつ抗原性である(データは示さず)。新しい観察は、すべてのウイルスにあてはまるのもではないかもしれないが、ウイルスの抗原性の変異は、宿主免疫応答による変異体の直接選択の結果であることが提唱されてきた(ドミンゴらによるレビュー、1993)。この超可変領域は、宿主免疫系による選択圧があるため進化してきた可能性がある。従って、PRRSV単離株間において観察された抗原性の多様性の可能な説明を提供するものである(・・・)。また一方、ORF5における少なくとも2つの他の可変領域もまた同定され(図2d、アミノ酸位置60-68、122-130)、これらの変異の重要性をさらに研究する必要がある。」(3186頁右欄24行?下から3行)

エ.図2には、VR2385株のORF2?5のそれぞれの推定アミノ酸配列が記載されている。さらに、図2の脚注において、VR2385株の配列は、既に公開されたものであることが記載されており、参照文献として、「Meng et al.,1994」(J. Gen. Virol., 1994, Vol.75, p.1795-1801)が記載されている。

引用例1には、PRRSVのゲノムは、8つのORFを含むことが記載されており(上記記載事項イ参照)、PRRSVのVR2385株のORF2?5の塩基配列及び推定アミノ酸配列が記載されている(上記記載事項エ参照)。さらに、上記記載事項エにおいて、VR2385の配列は既に公開されたものであるとして挙げられた参照文献であるJ. Gen. Virol., 1994, Vol.75, p.1795-1801には、VR2385株のORF6及び7の推定アミノ酸配列が記載されている(参照文献の図1参照)。

そして、本願明細書の段落【0055】の「プラーク精製したPRRSV単離体ISU-12(1992年10月30日に、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)、12301パークローン・ドライブ、ロックビル、メリーランド20852、米国に登録番号VR2385[プラーク精製3回]およびVR2386[プラーク精製なし]で寄託)のORF2?7、およびPRRSV単離体ISU-22、ISU-55、ISU-3927(1993年9月29日にアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)にそれぞれVR2429、VR2430およびVR2431の登録番号で寄託)のORF6?7、ISU-79およびISU-1894(1994年8月31日にアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)にそれぞれVR2474およびVR2475の登録番号で寄託)は、米国特許出願連続番号第08/301,435号明細書に詳細に記載されている。」(下線は当審による。)という記載によれば、引用例1に記載されたVR2385株は、本願補正発明のISU-12株と同一である。

そうすると、引用例1には、以下の発明が記載されているに等しいものと認められる。
「特定のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるORF2?7を含むPRRSVのISU-12株。」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
両者は、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルスであるPRRSVのISU-12株に関する発明である点で一致し、下記の点で相違する。
相違点1:本願補正発明は、「ブタにおいて抗体を誘導するのに有効な配列番号:55(ISU-12)のDNA配列の13471?14946番目の配列によってコードされるポリペプチドを含んでなる、PRRSVに対する抗体を誘導するための組成物」であるのに対し、引用発明は、ISU-12株にはORF2?7のアミノ酸配列は記載されているが、そのうちの特定の領域からなるポリペプチドをPRRSVに対する抗体を誘導するために用いることについては特に記載されていない点

相違点2:本願補正発明に係る組成物は、「生理学的に許容可能なキャリヤー」を含むものであるのに対し、引用発明には、そのようなことは記載されていない点

(4)相違点についての検討判断
(ア)相違点1について
引用例1には、ISU-12株のORF5は、超可変領域を含むことが記載されており、超可変領域は、宿主免疫系による選択圧のため変異してきた可能性があることが記載されている(上記記載事項ウ参照)。
ところで、多種類のウイルスにおいて、ウイルスタンパク質の可変領域に中和免疫応答を誘起する部位があることは技術常識であった(The FASEB Journal, 1991,Vol.5,p.2427-2436、Journal of General Virology,1991,Vol.72,p.117-124、Journal of General Virology,1991,Vol.72,p.1835-1843及びArch.Virol.,1997,Vol.142,p.523-534参照)。当業者が、この技術常識の下に引用例1の記載を読めば、将来のワクチン開発にあたって、PRRSVの超可変領域を含む領域をPRRSVに対する抗体を誘導するための抗原ポリペプチドとして用いてみることは、自然に着想することであり、その際、超可変領域を含むORF5と共に、ウイルス粒子の膜タンパク質であるORF6及びウイルスのカプシド(殻)を形成するORF7も含めた領域であるORF5?7をポリペプチドとして含んでなるPRRSVに対する抗体を誘導するための組成物を作製することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)相違点2について
抗体を誘導するための組成物において、生理学的に許容可能なキャリヤーを添加することは、本願優先日前における周知技術であることを考慮すると(特開平7-138186号公報の段落【0097】、特表平10-500670号公報の請求項19及び特表平9-508014号公報の請求項14参照)、当該組成物に生理学的に許容可能なキャリヤーを加えることは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)本願補正発明の奏する効果について
本願明細書には、実際にORF5?7の配列によりコードされるポリペプチドを抗原として使用して抗体を誘導させた実施例が記載されているわけではないから、本願発補正発明の効果が、当業者が予期できない顕著なものであるということもできない。
そもそも、本願補正発明は「抗体を誘導するための組成物」であって、特に中和抗体を誘導するための組成物と特定されているわけではない。そして、引用例1にはORF5が抗原性を有する超可変領域を含むことが記載されている以上(上記記載事項ウ参照)、ORF5?7の配列によりコードされるポリペプチドが単に抗体を誘導することができたとしても、それは当業者にとって当然のことであって、格別顕著な効果とはいえない。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成23年1月4日付けで補正された審判請求書において、以下の点を指摘して、引用例1から本願補正発明に容易に想到することはできず、本願補正発明の効果は容易に予測することができない効果であると主張する。

(ア)引用例1には、VR2385のポリヌクレオチド配列が開示されているが、ORF2?4を除去すべきであることについては示唆されておらず、引用例1の記載はワクチンを製造するために、ORF5?7を選択することを導くものではない。
ワクチン製造において、対象となるブタに対しPRRSVの好ましくない症状を引き起こすことなく、強い免疫応答を惹起することができるようなワクチンを構築すること、すなわち、特異性が高く、かつ、安全性が高いワクチンを設計することは当業者をして容易なことではなく、いずれのペプチド(ORF)を含めるかを決定するには様々な根拠が必要であるところ、本願明細書の実施例1において、最小ビルレンス株であるISU3927のORF2?4は、ORF5?7よりも大きな変動を示すことが記載されているから(図2および表3)、PRRSVのORF2?4がビルレンスに関与する領域であることは本願明細書において裏付けられている。

(イ)本願明細書には、ORF5において3つの超可変領域(32?38位、57?66位、120?128位)が同定され(表1)、コンピューター分析によると、3つの超可変領域総てが親水性でありかつ抗原性であることが示されているから(段落【0142】)、これらの領域はウイルス膜に暴露されており、宿主免疫選択圧力下にあると考えられる。また、実施例5では、ORF5?7の免疫原性がウサギ抗血清力価を用いて確認されており、表7から分かるように、ORF5?7のペプチドは抗原性を有することが示されている。このように、本願補正発明のペプチド(ORF5?7)を使用することにより奏される効果は、引用例1には示唆されていない格別顕著な効果である。

(ア)について検討する。
引用例1には、ORF5には免疫選択圧のために変異する超可変領域が存在することが記載されている(上記記載事項ウ参照)。
上記「(4)(ア)相違点1について」で述べたように、本願優先日前における技術常識を考慮すれば、当業者が、将来のワクチン開発にあたって、引用例1に記載されたPRRSVの超可変領域を含む領域をPRRSVに対する抗体を誘導するための抗原ポリペプチドとして用いてみることは、自然に着想することであり、その際、超可変領域を含むORF5と共に、ウイルス粒子の膜タンパク質であるORF6及びウイルスのカプシド(殻)を形成するORF7も含めた領域であるORF5?7をポリペプチドとして含んでなる抗体を誘導するための組成物を作製することは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、引用例1には、ORF5?7を選択することが示唆されていない旨の審判請求人の主張は採用することができない。

請求人が主張するように、本願明細書の段落【0146】には、「最小ビルレンスのISU3927は、他の米国単離体と比較して、ORF2?4において高い配列変動を有する」と記載され、表3には、ORF2で93?94%、ORF3で87?90%、ORF4で91?93%であることが示されている。しかしながら、ORF2?4以外の領域であるORF5においても91?93%の配列変動があることが示されている(表3最下段)。そして、最小ビルレンスのISU3927において、これらの配列の相違がどのように細胞毒性の減少に寄与しているのか具体的に分析した実施例は記載されていない。
このような本願明細書の記載から、当業者は、ORF2?4のみがウイルスの病原性に関与しているとは理解できない。
そもそも、本願補正発明はウイルス自体を含む組成物ではなく、ポリペプチドを含む組成物に係る発明であるから、本願優先日前における技術常識からみて、投与された生体に対してポリペプチドが単独で毒性を有するものとは考えがたい。
実際、本願明細書の実施例4では、ISU-12株のORF2?4のそれぞれにコードされるポリペプチドを含む組成物を使用してウサギを免疫し、その抗体価の測定に成功していることから、免疫されたウサギは生存し、抗体は取得できたものであるといえることからも、ORF2?4によりコードされるポリペプチド自体には毒性があるものとは認められない。
よって、本願補正発明は安全性が高いワクチンである旨の審判請求人の主張は採用できない。

(イ)について検討する。
引用例1には、ORF5は抗原性を有する超可変領域を有することが記載されているから、ORF5にさらにORF6及び7をも付加したポリペプチドが抗原性、すなわち、抗体を誘導することができる性質を有することは、当然に期待されることである。

そうすると、(ア)、(イ)はいずれも理由がないから、審判請求人の主張は採用できない。

(6)小括
以上検討したところによれば、本願補正発明は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないものであるが、仮に、同法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであっても、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成22年11月16日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成21年5月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】32?38、57?66、または120?128位を含んでなるポリペプチドであって、配列番号:55(ISU-12)または配列番号:54(ISU-55)のDNA配列のORF2、ORF3、またはORF4を含まない単離されたDNA配列によってコードされるポリペプチド。」
「【請求項2】ブタにおいて抗体を誘導するのに有効な量の32?38、57?66、または120?128位を含んでなり、配列番号:55(ISU-12)のDNA配列のORF2、ORF3、またはORF4を含まない配列によってコードされるPRRSVおよび生理学的に許容可能なキャリヤーを含んでなる、PRRSVに対する抗体を誘導するための組成物。」

2.引用例の記載事項
引用例1の記載事項、及び引用例1に記載された発明(引用発明)は、第2 3.(2)で認定したとおりである。

3.当審の判断
(1)本願発明1について
(ア)対比
本願発明1は、「配列番号:55(ISU-12)または配列番号:54(ISU-55)のDNA配列」と選択肢で記載されているところ、前者の選択肢を選択した場合に係る発明について検討する。

本願発明1と引用発明を対比すると、両者は、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルスであるPRRSVのISU-12株に関する発明である点で一致するが、本願発明1は、「32?38、57?66、または120?128位を含んでなるポリペプチドであって、配列番号:55(ISU-12)のDNA配列のORF2、ORF3、またはORF4を含まない単離されたDNA配列によってコードされるポリペプチド」であるのに対し、引用発明は、特にそのようなポリペプチドが記載されていない点で相違する。

(イ)相違点についての検討判断
上記「第2 2.(2)」で述べたように、本願発明1における「32?38、57?66、または120?128位」という記載は、ORF5における超可変領域の位置を示すものである。
引用例1には、ORF5は抗原性を有する超可変領域を有することが記載されている(上記記載事項ウ参照)。
そして、ウイルスタンパク質の超可変領域には、中和免疫応答を誘起する部位があることは技術常識であることを考慮すれば、ORF5の超可変領域に結合する抗体を取得することを目的として、超可変領域を含むORF5の配列によりコードされるポリペプチドを作製することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)本願発明1の奏する効果について
本願明細書の実施例3において、抗ORF5(ISU-12株由来)抗体がインビトロで中和活性を有することが確認されている。
しかしながら、引用例1には、ISU-12株由来のORF5は超可変領域を含むものであることが記載されており、ウイルスタンパク質の超可変領域には、中和免疫応答を誘起する部位があることは技術常識であることを考慮すれば、中和活性を有するという効果は、当業者が予測し得る範囲のものに過ぎない。

(2)本願発明2
(ア)対比
本願発明2と引用発明を対比する。
両者は、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルスであるPRRSVのISU-12株に関する発明である点で一致し、下記の点で相違する。
相違点1:本願発明2は、「ブタにおいて抗体を誘導するのに有効な量の32?38、57?66、または120?128位を含んでなり、配列番号:55(ISU-12)のDNA配列のORF2、ORF3、またはORF4を含まない配列によってコードされるPRRSVおよび生理学的に許容可能なキャリヤーを含んでなる、PRRSVに対する抗体を誘導するための組成物」であるのに対し、引用発明は、ISU-12株には、ORFが存在することが記載されているが、ORFの特定の領域からなるポリペプチドをPRRSVに対する抗体を誘導するために用いることについては特に記載されていない点

相違点2:本願発明2に係る組成物は、「生理学的に許容可能なキャリヤー」を含むものであるのに対し、引用発明には、そのようなことは記載されていない点

(イ)相違点についての検討判断
a.相違点1について
上記「(1)(イ)の相違点についての検討判断」で述べたとおり、引用例1には、ISU-12株のORF5は抗原性を有する超可変領域を有することが記載されているのであるから、ORF5の超可変領域に結合する抗体を取得することを目的として、超可変領域を含むORF5の配列によりコードされるポリペプチドを含んでなるPRRSVに対する抗体を誘導するための組成物を作製することは、当業者が容易に想到し得ることである。

b.相違点2について
上記「第2 3.(4)(イ)相違点2について」で述べたとおり、抗体を誘導するための組成物において、生理学的に許容可能なキャリヤーを添加することは、本願優先日前における周知技術であることを考慮すると、抗体を誘導するための組成物に生理学的に許容可能なキャリヤーを加えることは、当業者が容易になし得ることである。

c.本願発明2の奏する効果について
本願発明2の効果については、上記「(1)(ウ)」で述べたとおり、当業者が予測しうる範囲のものである。

4.小括
以上検討したところによれば、本願発明1及び2は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願請求項1及び2に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-22 
結審通知日 2013-04-23 
審決日 2013-05-08 
出願番号 特願2000-530103(P2000-530103)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 572- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸来 幸男  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 冨永 みどり
田中 晴絵
発明の名称 ブタ生殖器および呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)のポリ核酸によってコードされるタンパク質  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 伊藤 武泰  
代理人 横田 修孝  
代理人 中村 行孝  
代理人 大森 未知子  

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