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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1279516
審判番号 不服2011-11776  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-02 
確定日 2013-09-17 
事件の表示 特願2000-566305「イムノフュージンとしての新脈管形成インヒビターの発現および輸送」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月 2日国際公開、WO00/11033、平成14年 7月30日国内公表、特表2002-523036〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1999年8月25日(パリ条約による優先権主張 1998年8月25日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年2月14日付けで拒絶査定がされたところ、同年6月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年6月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成23年6月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)は、拒絶査定不服審判の請求と同時にしたものであって、補正前の請求項1と補正後の請求項1の記載は次のとおりである。
補正前:
「【請求項1】 新脈管形成インヒビター活性を有するホモ二量体融合タンパク質であって、該ホモ二量体融合タンパク質は、免疫グロブリンFc領域および標的タンパク質からなり、該Fc領域は、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域を含み、そして該標的タンパク質は、エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有し、そしてプラスミノーゲンフラグメントまたはコラーゲンXVIIIフラグメントであり、そして該免疫グロブリンFc領域のN末端またはC末端に連結しており、該エンドスタチンは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む、ホモ二量体融合タンパク質。」

補正後:
「【請求項1】 新脈管形成インヒビター活性を有するホモ二量体融合タンパク質であって、該ホモ二量体融合タンパク質は、免疫グロブリンFc領域および標的タンパク質からなり、該Fc領域は、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域を含み、そして該標的タンパク質は、エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有し、そしてプラスミノーゲンフラグメントまたはコラーゲンXVIIIフラグメントであり、そして該免疫グロブリンFc領域のN末端またはC末端に連結しており、該エンドスタチンは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含み、該標的タンパク質が、該Fc領域のC末端に結合している、ホモ二量体融合タンパク質であって、該ホモ二量体融合タンパク質は、第2の標的タンパク質をさらに含み、該第2の標的タンパク質が、プラスミノーゲンフラグメントまたはコラーゲンXVIIIフラグメントであり、そしてエンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有する、ホモ二量体融合タンパク質。」
(下線部は補正前からの補正箇所を示す。)

2.補正の適否
上記補正後の請求項1は、補正前の請求項1における「該免疫グロブリンFc領域のN末端またはC末端に連結しており」という事項を「該Fc領域のC末端に結合している」と限定するとともに、補正前の請求項1における「ホモ二量体融合タンパク質」について、「第2の標的タンパク質をさらに含み、該第2の標的タンパク質が、プラスミノーゲンフラグメントまたはコラーゲンXVIIIフラグメントであり、そしてエンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有する」と限定するものあって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という)第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.に「補正後」として記載したとおりのものである。
本願補正発明において、「標的タンパク質」は、「エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有し、そして、プラスミノーゲンフラグメントまたはコラーゲンXVIIIフラグメント」と特定され、また、「第2の標的タンパク質」についても、同様に「プラスミノーゲンフラグメントまたはコラーゲンXVIIIフラグメントであり、そしてエンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有する」と特定されていること、本願明細書の[0014]に、第1および第2の標的タンパク質が同一のタンパク質であり得ることが記載されていることから、結局のところ、本願補正発明は、標的タンパク質と第2の標的タンパク質が同じタンパク質であって、この同じタンパク質2つが、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域を含む免疫グロブリンFc領域の2つのC末端に、それぞれ結合したホモ二量体タンパク質である場合を包含するものと解される。

(2)引用例の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物であるCell,1997年,Vol.88,pp.277-285(以下、「引用例A」という。原査定の拒絶理由で引用された「引用文献5」に同じ。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)。

ア.「我々は、以前、新脈管形成インヒビターであるアンギオスタチンを同定した。類似の戦略を用いて、血管内皮腫によって産生される新脈管形成インヒビターであるエンドスタチンを同定した。エンドスタチンはコラーゲンXVIIIの20kDaのC-末端フラグメントである。エンドスタチンは内皮増殖を特異的に阻害し、新脈管形成と腫瘍増殖を強力に阻害する。・・・」(277頁要約)

イ.「血管内皮腫細胞由来の毛細血管内皮細胞増殖のインヒビターの同定
マウスの血管内皮腫セルラインEOMA(Obeso ら、1990)が内皮細胞増殖のインヒビターを産生する証拠を検証した。・・・」(277頁右欄下から6行?末行)

ウ.「内皮細胞増殖を特異的に阻害するEOMA細胞の馴化培地からの20kDaのタンパク質の精製」(278頁左欄下から15?12行)

エ.「20kDaのタンパク質のミクロ配列分析はコラーゲンXVIIIのフラグメントとの同一性を明らかにする」(278頁右欄23?25行)

オ.「図2.EOMA馴化培地からの内皮細胞増殖インヒビターの精製
・・・
(B)アミノ酸配列。精製された内皮細胞増殖のインヒビター(エンドスタチン)のN末端の配列が、コラーゲンXVIIIの略図と関連させて示されている。N末端配列は、このインヒビターの、コラーゲンXVIIIの20kDaのC末端フラグメント・・・との同一性を明らかにした。我々は、この阻害フラグメントをエンドスタチンと命名した。・・・


」(279頁図2)

カ.「我々は、バキュロウイルス及び大腸菌発現系で組換えマウスエンドスタチンを製造した。・・・組換えエンドスタチン(大腸菌)が再折り畳みされると、溶解性となり内皮細胞増殖を阻害した(データは示さず)。しかし、再折り畳み工程は、タンパク質の99%以上を失う結果となった。したがって、この材料はインビボアッセイで実行性がなかった。」(278頁右欄下から18?17行、279頁左欄11?16行)

キ.「組換えエンドスタチンは新脈管形成を阻害する
組換えマウスエンドスタチンのインビボでの新脈管形成の阻害能を調べるために、我々は、ヒナ絨毛尿膜(CAM)アッセイを用いた・・・。10-20μg/ディスクの量で、試験された全てのCAMにおいて、大腸菌由来及びバキュロウイルス由来のエンドスタチンについて新脈管形成の強力な阻害が見られた。・・・」(279頁左欄17?24行)

上記ア.の記載から、引用例Aには、以下の発明が記載されていると認められる。
「エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有する、コラーゲンXVIIIフラグメントであるタンパク質。」(以下、「引用発明A」という。)

本願の優先日前に頒布された刊行物である特表平10-505751号公報(以下、「引用例B」という。原査定の拒絶理由で引用された「引用文献3」に同じ。)には、以下の事項が記載されている。

ク.「1.分泌融合タンパク質をコードするDNAであって、該DNAが、5'から3'の方向に
a)シグナル配列;
b)少なくともCHlドメインを欠損する免疫グロブリンFc領域;および、
c)標的タンパク質配列;
をコードするポリヌクレオチドを含有する、DNA。
・・・
4.前記Fc領域が、免疫グロブリンγのヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含有する、請求項1に記載のDNA。
・・・
8.請求項1に記載のDNAを発現する、宿主細胞。
9.融合タンパク質を産生する方法であって、以下の工程:
1)請求項8に記載の宿主細胞を、該融合タンパク質の発現および分泌
を促進する条件下、培地中で培養する工程;および、
2)該融合タンパク質を該培地から団収する工程;
を包含する、方法。」(特許請求の範囲)

ケ.「 本発明は、所望の標的タンパク質の産生を高める、哺乳動物細胞において使用するための融合タンパク質発現系に関する。」(4頁6?7行)
コ.「哺乳動物細胞で産生されたタンパク質は、溶解性および細菌発現で直面する分泌の問題をしばしば有さない。哺乳動物系における標的タンパク質の産生または分泌を高めるための遺伝子融合構築物の使用は、完全には探求されていない。
本発明の目的は、標的タンパク質の産生および分泌を容易にするDNAを提供することである。」(5頁4?9行)

サ.「IgA、IgD、およびIgGのFc領域は、ヒンジ-CH2-CH3ドメインの二量体であり、・・・」(13頁末行?14頁1行)

シ.「IL2免疫融合体(実施例5を参照のこと)は、還元条件下で45kDの分子量を有するバンドおよび非還元条件下で90kDの分子量を有するバンドを呈し、このことはIL2免疫融合体はおそらくFc領域のヒンジドメインにおけるジスルフィド結合を介するダイマーとして産生されたことを示す。」(22頁18?21行)

(3)対比
本願補正発明(以下、「前者」という)と引用発明A(以下、「後者」という)とを対比すると、両者の一致点、相違点は以下のようになる。

一致点:「新脈管形成インヒビター活性を有するタンパク質であって、該タンパク質はエンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有するコラーゲンXVIIIフラグメントである、タンパク質。」

相違点1:「エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性」について、前者においては「該エンドスタチンは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含み」と特定されているのに対し、後者においてはかかる特定がされていない点。

相違点2:前者におけるタンパク質が、「ホモ二量体融合タンパク質」であって、「免疫グロブリンFc領域および標的タンパク質からなり」、「該Fc領域は、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域を含み」、「該標的タンパク質が、該Fc領域のC末端に結合している」ものであって、かつ、「第2の標的タンパク質をさらに含み、該第2タンパク質が、プラスミノーゲンフラグメントまたはコラーゲンXVIIIフラグメントであり、そしてエンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有する」のに対し、後者におけるタンパク質は、「標的タンパク質」に相当するタンパク質であるものの、それ以外の特定がされていない点。

(4)相違点についての検討
ア.相違点1について
本願明細書の記載によれば、配列番号4はヒトエンドスタチンのアミノ酸配列を示すものと認められるところ、本願補正発明における「標的タンパク質は、エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有し」及び「該エンドスタチンは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含み」との特定は、要するに、標的タンパク質が、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含むヒトエンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有することを意味すると解される。
一方、上記(2)イ.?キ.の記載によれば、引用発明Aにおける「エンドスタチン」はマウス由来のものと認められる。
しかしながら、本願明細書には、本願補正発明の「配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含むヒトエンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性」が、引用発明Aの「エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性」とは異なる活性を意味するといえるような定義等の記載はなく、両者が、定性的に異なる活性であるとは認められない。むしろ、上記(2)キ.の記載によれば、引用発明Aにおける「エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性」はCAMアッセイにより具体的に確認されたものであるところ、本願補正発明における「配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含むヒトエンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性」も、本願明細書の[0027]の記載によれば、具体的に確認はされていないものの同じくCAMアッセイにより同定され得るものであることからも、両者は定性的に異なる活性でないと解するのが相当である。
よって、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

イ.相違点2について
上記(2)ケ.及びコ.の記載によれば、引用例Bには、哺乳動物細胞を宿主として標的タンパク質の産生を高めるための技術が記載されていると認められ、具体的には、5'から3'の方向に、a)シグナル配列、b)免疫グロブリンγのヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含有する免疫グロブリンFc領域、及び、c)標的タンパク質配列をコードするポリヌクレオチドを含有するDNAを発現する宿主細胞を用いて、融合タンパク質を産生することが記載されている(上記(2)ク.)。そして、上記(2)サ.の記載によれば、融合タンパク質を構成するFc領域はヒンジを介した二量体構造を有するものと認められ、上記(2)シ.の記載によれば、上記(2)ク.に記載された手法によって産生されたIL2免疫融合体は、標的タンパク質であるIL2が免疫グロブリンFc領域のC末端に結合し、そのFc領域がヒンジにおけるジスルフィド結合を介してダイマーすなわち二量体を構成していると認められる。
ところで、遺伝子組換え技術によるタンパク質生成においては、大腸菌発現系で大腸菌体内にタンパク質が合成される場合、変性した不溶性沈殿物となるため、最終的に生理活性のあるタンパク質を得るには変性したタンパク質を再構成する工程が必要となることが、本願優先日当時の技術常識であった(堀尾武一監修「分子細胞生物学基礎実験法」1996年5月10日、南江堂、483頁V.I.1の2段落目、池原森男他監訳「動植物の遺伝子工学-基礎から応用へ-」平成7年4月25日、廣川書店、516頁下から2行?517頁5行)。この点に関連して、引用例Aには、大腸菌発現系で発現したエンドスタチンが再折り畳みされると、溶解性となり内皮細胞増殖を阻害したものの、再折り畳み工程は、タンパク質の99%以上を失う結果となったという問題点が記載されている(上記(2)カ.)。また、哺乳類由来のタンパク質を遺伝子組換えにより産生する際には、天然に近い形でタンパク質を得るために哺乳動物細胞を宿主細胞として用いることが望ましいが、哺乳動物細胞を宿主細胞とする場合には発現量が低いという問題があることも、本願優先日当時に技術常識であった(堀尾武一監修「分子細胞生物学基礎実験法」1996年5月10日、南江堂、484頁2段落及び5段落目、池原森男他監訳「動植物の遺伝子工学-基礎から応用へ-」平成7年4月25日、廣川書店、515頁下から3行?516頁8行)。
このような技術常識の下で、上記のとおり、哺乳動物細胞を宿主として標的タンパク質の産生を高める手法が引用例Bに記載されているのであるから、引用発明Aに係る「エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有する、コラーゲンXVIIIフラグメントであるタンパク質」についても、哺乳動物細胞を用いてその産生を高めるために引用例Bに記載された手法を適用し、当該タンパク質2つが、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域を含む免疫グロブリンFc領域の2つのC末端のそれぞれに結合したホモ二量体融合タンパク質として発現させることは、当業者が容易に想到することである。
そして、本願明細書をみても、本願補正発明が、引用例A、引用例B及び技術常識から当業者が予想できる程度を超える顕著な効果を奏すると認めることはできない。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、ア.平成21年8月25日付け意見書に添付した甲第1号証及び甲第2号証をも考慮すれば本願補正発明が進歩性を有することは明白である、イ.本願明細書において実証されている一過性および安定性のホモダイマータンパク質の高レベルの発現は予想外の効果である旨主張するが、以下のとおりいずれも理由がない。
ア. について
本願優先日後であり出願前の1999年4月に頒布された、本願発明者らが著者である甲第2号証には、RIP1-Tag2トランスジェニックマウスを用いて、Fc-エンドスタチンを含む4種類の新脈管形成インヒビターの、病気の進行の3つの異なるステージにおける効果を比較したこと(アブストラクト)、Fc-エンドスタチンが、予防試験において新脈管形成を61%阻害し(809頁左欄第2段落、Table1)、介入試験において腫瘍成長を88%阻害したこと(809頁左欄第3段落、Table2)等が記載されている。しかしながら、エンドスタチンが新脈管形成及び腫瘍増殖を阻害することは、引用例Aに記載されているように公知であるところ、例えば、引用例Bの実施例6や7において、標的タンパク質の活性を保持した融合タンパク質が得られていることからみて、引用例Aに記載されたコラーゲンXVIIIフラグメント(エンドスタチン)に引用例Bに記載された手法を適用してFc領域を結合させた場合に、エンドスタチンの活性は保持されると解するのが相当である。そうすると、本願補正発明が、甲第2号証に記載されたFc-エンドスタチンと同じ新脈管形成や腫瘍増殖に対する抑制効果を奏するものであったとしても、それは、引用例A及びBの記載から当業者が予想しうる程度のものというべきである。
また、本件出願後の2001年に頒布された、本願発明者らが著者である甲第1号証には、エンドスタチンの単量体は、インビトロで管形成阻害活性及び遊走活性がないのに対し、二量体Fcエンドスタチン及び三量体は、インビトロで管形成阻害活性及び遊走活性があることが示されていると認められる(図3F)。しかしながら、エンドスタチンの単量体がインビボで新脈管形成と腫瘍増殖を強力に阻害することは、引用例A(上記(2)キ.及び279頁右欄下から9行?281頁右欄13行)に記載されているのであって、本件出願後に頒布された甲第1号証に、それとは異なるインビトロでの作用が示されていたとしても、本願優先日において本願補正発明の効果を予想することを妨げるものではない。

イ.について
引用例Bにも、一過性および安定性の融合タンパク質が高レベルの発現が得られたことが、実施例8や11に記載されているから、本願明細書に記載された一過性および安定性のホモダイマータンパク質の高レベルの発現が予想外の効果であったとはいえない。

3.小括
以上検討したところによれば、本願補正発明は、引用例A及び引用例Bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年6月2日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成21年8月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1.に「補正前」として記載したとおりのものである。
本願発明の融合タンパク質は、「ホモ二量体」であるから、標的タンパク質2つが、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域を含む免疫グロブリンFc領域の2つのC末端に、それぞれ結合した構造を有するものと解される。

2.引用例の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物であるProceedings of the American Association for Cancer Research,1998年3月,Vol. 39,pp.271-272(以下、「引用例C」という。原査定の拒絶理由で引用された「引用文献2」に同じ。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)。

「アンギオスタチンとエンドスタチンは、2つの有力な天然の新脈管形成インヒビターである。アンギオスタチンはプラスミノーゲンの前側4つのクリングルからなり、一方エンドスタチンはコラーゲンXVIIIのC末端フラグメントに相当する。遺伝子治療の計画の状況において、より有力な新脈管形成インヒビターを創るための活動として、我々は、前駆体活性化ペプチドと前側3つのプラスミノーゲンのクリングルで始まり、コラーゲンXVIIIのC末端フラグメントで終わる、融合タンパク質を設計した。・・・アンギオスタチンのみ、エンドスタチンのみ、あるいはアンギオスタチン-エンドスタチン融合タンパク質のいずれかをコードするDNAカセットが、レトロウイルスベクターに、ドミナントポジティブの選択可能なマーカーとともに導入された。ヘルパーフリー、高力価のレトロウイルスが、両種性AM12パッケージング細胞中で産生され、次いで、ヒト神経芽腫細胞SKNASの感染に使用された。安定なレトロウイルス導入、組換えタンパク質の有効な発現/分泌が、形質導入され選択された細胞中で、SKNAS細胞のインビトロでの増殖に不利な影響を及ぼすことなく、実証された。しかしながら、ヌードマウスに移植されたSKNAS細胞のインビボでの成長の強力な阻害は、アンギオスタチン-エンドスタチン融合タンパク質をコードするウイルスの場合にのみ、見られた。これらのデータはアンギオスタチンの天然の阻害力の優位性を、人工的に向上させることの可能性を示唆しており、新脈管形成阻害を通した癌の遺伝子治療に対する新しい道を供給している。」

上記の記載によれば、引用例Cには、いずれも新脈管形成インヒビター活性を有するアンギオスタチンとエンドスタチンの融合タンパク質が記載されており、「アンギオスタチンはプラスミノーゲンの前側4つのクリングルからなり」とされていることから、アンギオスタチンはプラスミノーゲンのフラグメントであると認められる。
そうすると、引用例Cには、以下の発明が記載されていると認められる。
「新脈管形成インヒビター活性を有する、プラスミノーゲンフラグメントであるアンギオスタチンとコラーゲンXVIIIフラグメントであるエンドスタチンとからなる、タンパク質。」(以下、「引用発明C」という。)

3.対比
引用例Cには、エンドスタチンは新脈管形成インヒビターであることが記載されているところ、引用発明Cのタンパク質は、プラスミノーゲンフラグメントであるアンギオスタチンとコラーゲンXVIIIフラグメントであるエンドスタチンとを含むのであるから、結局、引用発明Cのタンパク質は、エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有する、プラスミノーゲンフラグメントまたはコラーゲンXVIIIフラグメントであるといえる。
そこで、本願発明(以下、「前者」という)と引用発明C(以下、「後者」という)とを対比すると、両者の一致点、相違点は以下のようになる。

一致点:「新脈管形成インヒビター活性を有するタンパク質であって、該タンパク質は、エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性を有する、プラスミノーゲンフラグメントまたはコラーゲンXVIIIフラグメントを含む、タンパク質。」

相違点1:「エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性」について、前者においては「該エンドスタチンは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含み」と特定されているのに対し、後者においてはかかる特定がされていない点。

相違点2:前者におけるタンパク質が、「ホモ二量体融合タンパク質」であって、「免疫グロブリンFc領域および標的タンパク質からなり」、「該Fc領域は、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域を含む」ものであり、該標的タンパク質は、「該免疫グロブリンFc領域のN末端またはC末端に連結して」いるものであるのに対し、後者におけるタンパク質は、「標的タンパク質」に相当するタンパク質であるものの、それ以外の特定がされていない点。

4.相違点についての検討
ア.相違点1について
上記第2 2(4)ア.で述べたのと同様に、本願発明の「配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含むヒトエンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性」と、引用発明Cの「エンドスタチンの新脈管形成インヒビター活性」とが、定性的に異なる活性であるとは認められないから、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

イ.相違点2について
引用例Bには、上記第2 2(4)イ.で述べたことが記載されている。
ところで、上記第2 2(4)イ.で述べたのと同様に、哺乳類由来のタンパク質を遺伝子組換えにより産生する際には、天然に近い形でタンパク質を得るために哺乳動物細胞を宿主細胞として用いることが望ましいが、哺乳動物細胞を宿主細胞とする場合には発現量が低いという問題があることが、本願優先日当時に技術常識であった(堀尾武一監修「分子細胞生物学基礎実験法」1996年5月10日、南江堂、484頁3段落及び5段落目、池原森男他監訳「動植物の遺伝子工学-基礎から応用へ-」平成7年4月25日、廣川書店、515頁下から3行?516頁8行)。
このような技術常識の下で、上記のとおり、哺乳動物細胞を宿主として標的タンパク質の産生を高める手法が引用例Bに記載されているのであるから、哺乳動物細胞であるヒト神経芽腫細胞SKNASを宿主として発現されている、引用発明Cに係る「新脈管形成インヒビター活性を有する、プラスミノーゲンのフラグメントであるアンジオスタチンと、コラーゲンXVIIIフラグメントであるエンドスタチンとからなる、タンパク質」についても、その産生を高めるために引用例Bに記載された手法を適用し、当該タンパク質2つが、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域を含む免疫グロブリンFc領域の2つのC末端のそれぞれ結合したホモ二量体融合タンパク質として発現させることは、当業者が容易に想到することである。
そして、本願明細書をみても、本願発明が、引用例C、引用例B及び技術常識から当業者が予想できる程度を超える顕著な効果を奏すると認めることはできない。

5.小括
以上検討したところによれば、本願発明は引用例C及び引用例Bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-23 
結審通知日 2013-04-24 
審決日 2013-05-08 
出願番号 特願2000-566305(P2000-566305)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 田中 晴絵
冨永 みどり
発明の名称 イムノフュージンとしての新脈管形成インヒビターの発現および輸送  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  
代理人 山本 秀策  

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