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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1279664
審判番号 不服2011-5939  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-16 
確定日 2013-09-25 
事件の表示 特願2000-536731「サイトカインレセプター共通γ鎖様」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月23日国際公開、WO99/47538、平成14年 3月 5日国内公表、特表2002-506625〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年3月5日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年3月19日 米国、1998年5月22日米国)とする出願であって、平成21年11月12日付で手続補正がなされたが、平成22年11月12日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年3月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

2.平成23年3月16日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年3月16日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1?12のうち、請求項4?5が削除されるとともに、特許請求の範囲の請求項1、2、3、9、12が補正され、そのうち請求項1は、補正前の
「【請求項1】 核酸分子であって、以下:
(a)配列番号1のポリヌクレオチド;
(b)配列番号2のポリペプチドフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)(a)?(b)に特定されたポリヌクレオチドのいずれか1つに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドであって、ここで、該ポリヌクレオチドは、A残基のみまたはT残基のみのヌクレオチド配列を有する核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズしない、ポリヌクレオチド、
からなる群より選択される配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含有する、核酸分子。」から、
「【請求項1】 核酸分子であって、以下:
(a)配列番号1のポリヌクレオチド;および
(b)配列番号2のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドからなる、核酸分子。」へと、補正された。

上記請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定する事項のうちの選択肢である(c)を削除し、(b)を「配列番号2のポリペプチドフラグメントをコードするポリヌクレオチド」から「配列番号2のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」と限定するとともに、(a)及び(b)について、「からなる群より選択される配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含有する、核酸分子」から「からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドからなる、核酸分子」へと限定するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、上記請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

(2)実施可能要件について
本願補正発明は、ポリヌクレオチドという化学物質に係る発明であり、化学物質に係る発明を当業者が実施することができるよう本願明細書に記載されているとされるためには、当業者であればその物質を作ることができ、かつ、使用することができるよう本願の発明な詳細な説明に記載されていなければならない。
すわなち、化学物質としてのポリヌクレオチドがコードするポリペプチドにどのような有用性(機能)があるかが明細書に記載され、あるいは、出願時の技術常識を考慮しても明細書の記載から類推できなければ、その化学物質をどのように使用できるかについて記載されていないことになり、その発明について当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に、発明の詳細な説明に記載されていないことになる。

(3)本願明細書の記載
本願明細書には、配列番号1のポリヌクレオチド(以下、「CRCGCLポリヌクレオチド」という。)が、配列番号2のポリペプチド(以下、「CRCGCLポリペプチド」という。)をコードすることが記載され、その機能、活性については、段落【0019】?【0029】、以下のとおり記載されている。
「(CRCGCLポリヌクレオチドおよびポリペプチド)
クローンHTAEK53を、活性化されたT細胞のcDNAライブラリーから単離した。最初に、クローンHTAEK53の配列を配列番号26として同定し、そして推定のアミノ酸配列を配列番号27として推定し、それを認識した。
(CRCGCLポリヌクレオチドおよびポリペプチド)
クローンHTAEK53を、活性化されたT細胞のcDNAライブラリーから単離した。最初に、クローンHTAEK53の配列を配列番号26として同定し、そして推定のアミノ酸配列を配列番号27として推定し、配列における明らかなフレームシフトがヌクレオチド256とヌクレオチド277との間に存在することを認識した。このフレームシフトを、標準的な分子生物学的技術を使用して簡単に解決し、配列番号1のヌクレオチド配列および配列番号2に示される推定アミノ酸配列を作製する。
寄託したクローンは、全部で1573ヌクレオチドを有するcDNAを含み、これは、371アミノ酸残基の推定のオープンリーディングフレームをコードする。(図1A-1Bを参照のこと。)オープンリーディングフレームは、13位のヌクレオチドに位置するN末端のメチオニンで始まり、そして1128位のヌクレオチドの停止コドンで終わる。CRCGCLタンパク質の推定の分子量はおよそ42kDaであるはずである。
続くノーザン分析もまた、頸部癌細胞株(HeLa)、活性化されたT細胞、および肺癌腫細胞株(A549)において1.6Kbの転写物を示し、一方より短い改変体がまた、リンパ節中で発現され、そしてより少ない程度で脾臓組織中で発現され、パターンは、免疫特異的発現と一致した。
CRCGCL発現は、以下の細胞株では観察されなかった:HL60,K562、Molt-4、Raji、SW480,G361、ならびに心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、すい臓、胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸、結腸、または末梢血白血球。パターンは免疫特異的発現と一致した。
BLAST分析を使用して、配列番号2は、サイトカインレセプターファミリーのメンバーのホモログであることが見出された。詳細には、配列番号2は、以下の保存されたドメインを含有する、インターロイキン-2レセプターγについてのBos Taurus mRNA(登録番号1532088)(図2)(配列番号3)の翻訳産物に対して相同であるドメインを含み、これは以下の保存されたドメインを含む:(a)およそアミノ酸226-260に位置する推定の膜貫通ドメイン;(b)推定のWXWS(配列番号30)、または[STGL]-x-W-[SG]-x-W-S(配列番号18)、およそアミノ酸198-204に位置するドメイン(T-x-P-S-x-W-S)(配列番号19)、しかし、完全には適合しない;および(c)推定のJak Box(モチーフW(P,E)X(V,I)P(N,S,D)P(配列番号20)を有する)、およそアミノ酸261-268に位置するドメイン(I-P-X-V-P-D-P)(配列番号21)、しかし、完全には適合しない。CRCGCLのこれらのポリペプチドフラグメントが、本発明において特に意図される。インターロイキン-2レセプターγ(登録番号1532088)がサイトカインレセプターとして重要であると考えられるので、インターロイキン-2レセプターγ(登録番号1532088)との間の相同性
さらに、コードされたポリペプチドは、およそアミノ酸1-22に位置する推定リーダー配列を有する。(図1A-1Bを参照のこと。)また、図1A-1Bに示すように、CRCGCLの分泌型形態の1つの実施態様は、およそアミノ酸23-371、アミノ酸23-225、またはアミノ酸1-231を含む。CRCGCLのこれらのポリペプチドフラグメントが本発明において特に意図される。
他の好ましいポリペプチドフラグメントは、以下のアミノ酸配列ならびにそのフラグメントを含む:
【化1】 (アミノ酸配列は省略)
これらのポリペプチドフラグメントをコードするポリヌクレオチドフラグメントもまた好ましい。
CRCGCLが活性化されたT細胞から単離されたので、本発明の核酸は、生物学的サンプルに存在する組織(単数または複数)または細胞型(単数または複数)の差示的同定のため、および免疫障害の診断のための試薬として有用である。同様に、ポリペプチドおよびこれらのポリペプチドに対する抗体が、組織(単数または複数)または細胞型(単数または複数)の差示的同定のための免疫学的プローブを提供するために有用である。多数の免疫システムの障害について、標準的な遺伝子発現レベル(すなわち、この障害を有さない個体に由来する健常な組織における発現レベル)と比較して、有意に高いか、または低いレベルでのこの遺伝子の発現が、このような障害を有する個体から採取された特定の組織(例えば、癌性組織および創傷組織)または体液(例えば、血清、血漿、尿、滑液、もしくは髄液)中で検出され得る。
活性化されたT細胞中のみでの組織分布、ならびにサイトカインレセプターIL2およびIL3に対する相同性は、このタンパク質がT細胞上で特異的に発現されるサイトカインレセプターファミリーの新規のメンバーであることを示唆する。免疫系の細胞におけるこの遺伝子の組織分布は、このクローンのタンパク質産物が、免疫疾患および自己免疫疾患(例えば、狼瘡、移植拒絶、アレルギー反応、関節炎、喘息、免疫不全疾患、白血病、AIDS)の処置、予防、および診断に有用であることを示唆する。T細胞中でのその発現に加えて、胸腺の障害(例えば、グレーブス病、リンパ球性甲状腺炎、甲状腺機能亢進症、および甲状腺機能低下症)の処置、予防、および検出において可能性のある役割を示唆する。レセプターはまた、低分子またはその活性をブロックするモノクローナル抗体の標的として作用し得、これは、本明細書中に列挙される疾患状態において重要であり得る。」と記載され(下線は当審による。)、さらに、段落【0193】?【0202】には、
「同様に、CRCGCLポリペプチドまたはポリヌクレオチドはまた、炎症を調節するために使用され得る。例えば、CRCGCLポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、炎症応答に関与する細胞の増殖および分化を阻害し得る。これらの分子は、以下を含む、炎症性の状態(慢性および急性の状態の両方)を処置するために使用され得る:感染に関する炎症(例えば、敗血症ショック、敗血症、または全身的な炎症性応答症候群(SIRS))、虚血再灌流傷害、内毒素致死率、関節炎、補体媒介性超急性拒絶、腎炎、サイトカインまたはケモカイン誘導性の肺損傷、炎症性腸疾患、クローン病、またはサイトカイン(例えば、TNFまたはIL-1)の過剰産生の結果。
(過剰増殖性障害)
CRCGCLポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、新生物を含む、過剰増殖性の障害を処置または検出するために使用され得る。CRCGCLポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、直接的または間接的な相互作用を通じて障害の増殖を阻害し得る。あるいは、CRCGCLポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、過剰増殖性の障害を阻害し得る他の細胞を増殖させ得る。
例えば、免疫応答を増大させることによって、特に、過剰増殖性の障害の抗原性の量を増大させるか、またはT細胞を増殖、分化、または動員させることによって、過剰増殖性の障害が処置され得る。この免疫応答は、存在する免疫応答を増強するか、または新規の免疫応答を開始することのいずれかによって、増大され得る。あるいは、化学療法剤のように、免疫応答を減少させることもまた、過剰増殖性の障害の処置方法であり得る。
CRCGCLポリヌクレオチドまたはポリペプチドによって処置または検出され得る過剰増殖性の障害の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:以下に位置した新生物:腹部、骨、乳房、消化系、肝臓、すい臓、腹膜、内分泌腺(副腎、上皮小体、下垂体、精巣、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭部および頸、神経(中枢神経および末梢神経)、リンパ系、骨盤、皮膚、柔組織、脾臓、胸部、および尿生殖器。
同様に、他の過剰増殖性障害もまた、CRCGCLポリヌクレオチドまたはポリペプチドによって処置または検出され得る。このような過剰増殖性障害の例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:高ガンマグロブリン血症、リンパ増殖性障害、パラプロテイン血症、紫斑病、サルコイドーシス、セザリー症候群、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、ゴシェ病、組織球増殖症、および任意の他の過剰増殖性の疾患、加えて上記に列挙された器官系に位置した新生物。」と記載されている。
しかしながら、本願明細書には上記の如く、T細胞に存在するサイトカンレセプターが有するであろう機能、活性が網羅的に列挙されているだけであり、それら列挙された多数の機能、活性のうち、CRCGCLポリヌクレオチドあるいはCRCGCLポリペプチドがどのような具体的な機能、活性を有するかについては、本願明細書には記載も示唆もない。

(4)当審の判断
上記(3)で述べたように、本願明細書には、CRCGCLポリヌクレオチドあるいはCRCGCLポリペプチドの機能、活性については、具体的に記載されていない。
また、本願明細書には、CRCGCLポリヌクレオチドが活性化されたT細胞から単離されたこと、及び、CRCGCLポリペプチドがIL-2Rγと相同であるドメインを有することを理由として、サイトカインレセプターファミリーの新規メンバーであることが示唆されたと記載されているが、上記(3)の本願明細書の下線部の「完全には適合しない」という記載にもあるように、本願の図2に示されたIL-2RγとCRCGCLポリペプチドのドメインの中には、相同であるものとないものがあり、ドメイン間の相同性を根拠として、CRCGCLポリペプチドがIL-2Rγに関連したサイトカインレセプターファミリーのメンバーであるとは推認できないから、CRCGCLポリペプチドの活性、機能は、そもそも不明なものである。
また仮に、CRCGCLポリペプチドとIL-2Rγは、相同性検索によればアミノ酸レベルで約22%の相同性であり、ドメインの中には相同なものもあるから、上記(3)の本願明細書の下線部の「サイトカインレセプターファミリーのメンバーのホモログ」であり、CRCGCLポリペプチドが、何らかのサイトカインのレセプターであるとした場合であっても、サイトカインレセプターの活性は上記の(3)の本願明細書の記載の如く広範なものである。そして、サイトカインレセプターは、リガンドであるサイトカインに依存して、上記の活性の全部ではなく、それぞれその一部を有するものであることが本願出願時の技術常識であるから、サイトカインレセプターである可能性はあるとしても、その具体的活性は依然として不明であり、どのように使用できるかが本願明細書に記載されているとはいえない。また、サイトカインレセプターであることにより、共通した何らかの具体的な活性を有するという本願出願時の技術常識があったともいえない。
そうすると、本願明細書には、CRCGCLポリペプチドの可能性のある機能、活性が列挙されているだけであって、具体的な活性、即ち有用性は記載されておらず、かつ本願出願時の技術常識を考慮しても、本願明細書の記載から類推できるものはない。
したがって、本願明細書には、本願補正発明のポリヌクレオチドを使用することができるように記載されているとはいえないから、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(5)審判請求人の主張
審判請求人は、平成24年11月8日付回答書において、「多数のサイトカインサブユニットと対を成し、サイトカインを結合し、そして、免疫機能の調節において役割を果たすことが知られているγcレセプターサブユニットに対するCRCGCLの相同性に基づけば、当業者は、CRCGCLが免疫機能において役割を果たすと考えるのは合理的であるといえ」ること(主張1)、及び「この記載からも明らかなように、CRCGCLの免疫活性に関する役割は明確に記載されており、そのポリペプチドまたはポリヌクレオチドが、免疫系の欠陥または障害の処置に有用であり得ることが明確に記載されています。・・・(途中省略)・・・このように本願明細書には、明らかに、本願発明のCRCGCLポリペプチドまたはポリヌクレオチドが免疫系の細胞を阻害または活性化の両方を行いうることを明記しています。CRCGCLポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、標的細胞の活性化または阻害をしうるかどうかは、標的かされるべき細胞および処置されるべき疾患によっても依存するものです。」(主張2)と主張し、また、「本願明細書には、生物学的活性を試験する代表的な方法の例示が実証されており、実施例にはその結果も記載されています。」(主張3)と主張するとともに、平成21年11月12日付意見書に添付した甲第2号証を挙げて、「多数の上述の活性および本願明細書中に開示される用途(CRCGCLがアレルギー、喘息および皮膚炎に関与することを含む)は、本願出願日以降の刊行物によって確認されています。」(主張4)と、主張している。

まず主張1については、本願明細書に記載された本願出願前の技術常識に基づく活性は、IL-2Rγに関する知見について記載されたものであって、CRCGCLポリペプチドに係るものではない。そして、本願明細書の図2に記載されたヒトCRCGCLポリペプチドとウシIL-2Rγとの相同性が22%と低いことを鑑みれば、本願明細書の記載から、CRCGCLポリペプチドとIL-2Rγの活性にどの程度、又、どのような機能を共有しているのか、逆にどのような点で相違しているのか、当業者といえども予測できるとはいえない。にもかかわらず、本願明細書には、CRCGCLポリペプチドの活性を具体的に確認した結果は記載されていないから、本願明細書の記載によって、当業者がCRCGCLポリペプチドの具体的活性を理解できたとはいえない。
また仮に、活性化したT細胞中に存在することから免疫機能に何らかの役割を果たしていると推認できるとした場合であっても、「本願明細書に明らかに、本願発明のCRCGCLポリペプチドまたはポリヌクレオチドが免疫系の細胞を阻害または活性化の両方を行いうることを明記している」という主張2については、どのような場面あるいは機構で、どのような免疫系細胞を阻害し又は活性化するのかが明らかでない限り、当業者が使用することができるように記載されているとはいえない。特に「標的細胞の活性化または阻害をしうるかどうかは、標的されるべき細胞および処置されるべき疾患によっても依存するもの」であるから、サイトカイン、標的となる細胞、活性化又は阻害の内容との組み合わせが、具体的に何ら示されていない以上、使用できるためには当業者に過度な試行錯誤を強いるものであることも明らかである。
主張3については、主張3には本願明細書の実施例にどのような結果が記載されているのかについて具体的には主張されていないから、本願明細書に参酌すべき結果が記載されているとは認められない。
主張4については、本願明細書には多数の疾患、効用等が列記されており、まして前述のとおりその中には相反する効果も含まれているから、その一部について事後的に該当する事実が判明したとしても、そのことが本願明細書に本願補正発明の有用性が当業者に理解できるように記載されていたことにはならない。そして、このように、出願当初の明細書に予想できる範囲のあらゆる有用性を列挙しておき、出願後に判明したそのうちの一部に符合する有用性をとりあげ、その有用性が出願当初の明細書に記載されていた主張することは、先願主義の下、出願時における十分な技術開示の代償として保護を与えるものであるという特許制度の趣旨からも許されないことである。

以上の理由により、審判請求人の上記主張1?4は採用できない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成23年3月16日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年11月12日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 核酸分子であって、以下:
(a)配列番号1のポリヌクレオチド;
(b)配列番号2のポリペプチドフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)(a)?(b)に特定されたポリヌクレオチドのいずれか1つに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドであって、ここで、該ポリヌクレオチドは、A残基のみまたはT残基のみのヌクレオチド配列を有する核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズしない、ポリヌクレオチド、
からなる群より選択される配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含有する、核酸分子。」

本願発明は、本願補正発明を包含するものであるから、本願発明についても上記2.(4)に記載した理由と同様な理由で、本願の発明の詳細な説明には、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
また、配列番号2のポリペプチドフラグメントをコードするポリヌクレオチド及びその配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列には、CRCGCLと同じ活性をもたない、有用性がさらに推認できないものも包含されることは、本願出願時の技術常識から明らかであるから、なおさら本願の発明の詳細な説明には、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項1に記載の発明について、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-24 
結審通知日 2013-04-30 
審決日 2013-05-13 
出願番号 特願2000-536731(P2000-536731)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 巌  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 植原 克典
高堀 栄二
発明の名称 サイトカインレセプター共通γ鎖様  
代理人 市川 英彦  
代理人 城山 康文  
代理人 安藤 健司  
代理人 坪倉 道明  
代理人 金山 賢教  
代理人 小野 誠  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 重森 一輝  

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