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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1279677
審判番号 不服2012-3739  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-27 
確定日 2013-09-25 
事件の表示 特願2007-552235「デジタル作品の注釈を提供する方法およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月27日国際公開、WO2006/078728、平成20年 7月24日国内公表、特表2008-527580〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年1月18日(優先権主張 2005年1月19日 米国)を国際出願日とする特許出願であって,平成23年1月18日付けの拒絶理由通知に対して平成23年7月25日に意見書の提出とともに手続補正がなされ,平成23年10月20日付けの拒絶査定に対して平成24年2月27日に審判請求がなされるとともに手続補正がなされ,平成24年9月11日付けの当審の審尋に対して平成25年3月18日に回答書が提出されたものである。

第2 平成24年2月27日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年2月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容について。
平成24年2月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により,本件補正前の発明である請求項1?23の発明は,本件補正後の発明である請求項1?23の発明にそれぞれ補正された。

2.請求項1に係る本件補正について。

(1)補正の内容について。
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の発明は,以下のとおり補正された。
(なお,下線は,補正の箇所を示すものとして当審で付加したものである。)
<<補正前>>
「サーバシステムがデジタル作品の特定のコンテンツに関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップと,
サーバシステムがデジタル作品に関連する注釈を注釈データベースに記憶するステップと,
サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求を第2のクライアントシステムから受信するステップと,
要求に応答して,サーバシステムが第2のクライアントシステムに注釈の一覧表を提供するステップであって,一覧表は基準を参照することにより決定される順序で複数の注釈を提示する前記ステップと,
サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求に対応する許可証明書を第2のクライアントシステムから受信するステップと,
サーバシステムが許可証明書が有効であることを認証するステップと,
許可証明書が有効である場合,サーバシステムがデジタル作品に関連してデジタル作品の1つまたは複数の注釈を第2のクライアントシステムに提供するステップと
を含む,デジタル作品の注釈を提供するためのコンピュータ実施された方法。」
(以上「本件補正前発明」という。)
<<補正後>>
「サーバシステムが,デジタル作品全体より小さい,該デジタル作品の部分に関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップと,
サーバシステムがデジタル作品に関連する注釈を注釈データベースに記憶するステップと,
サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求を第2のクライアントシステムから受信するステップと,
要求に応答して,サーバシステムが第2のクライアントシステムに注釈の一覧表を提供するステップであって,一覧表は基準を参照することにより決定される順序で複数の注釈を提示する前記ステップと,
サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求に対応する許可証明書を第2のクライアントシステムから受信するステップと,
サーバシステムが許可証明書が有効であることを認証するステップと,
許可証明書が有効である場合,サーバシステムがデジタル作品に関連してデジタル作品の1つまたは複数の注釈を第2のクライアントシステムに提供するステップと
を含む,デジタル作品の注釈を提供するためのコンピュータ実施された方法。」
(以上「本件補正後発明」という。)

(2)補正の目的について。
(ア)本件補正は,本件補正前の,「サーバシステムがデジタル作品の特定のコンテンツに関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップ」との事項を,本件補正後の,「サーバシステムが,デジタル作品全体より小さい,該デジタル作品の部分に関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップ」との事項に補正するものである。
(イ)審判請求人の補正に関する主張は,以下のとおりである。
「2. 補正の根拠
手続補正書に記載の請求項1の『デジタル作品全体より小さい,該デジタル作品の部分』との補正事項,および同請求項15および20の同様の補正事項は,出願当初の段落0064の『特定のコンテンツは,1つまたは複数の画像内の,そのコンテンツが提示される1つまたは複数の位置に相関可能である。この方法は,デジタル作品の表示された特定のコンテンツに関して,デジタル作品の注釈を受信し,そのデジタル作品に関連して注釈をユーザに提供することをさらに含む。後者に関しては,その注釈が,ユーザによってデジタル作品内の特定のコンテンツと知覚できるほど関連付けられるように,デジタル作品の1つまたは複数の画像がユーザに提供されてもよい。例えば,ユーザに対して注釈はデジタル作品の1つまたは複数の画像上に重なって出現するように構成されてよい』との記述等に基づく。
当該補正は,特許法第17条の2第5項第2号に規定される,特許請求の範囲の減縮に該当する。」
(ウ)確かに,審判請求人が主張する,【0064】段落の記載は,「デジタル作品全体より小さい,該デジタル作品の部分」との事項とする補正の根拠となり得る。
(エ)発明の詳細な説明の記載をみると,審判請求人が主張する【0064】段落のほか,「デジタル作品全体より小さい,該デジタル作品の部分」との事項とする補正,特に「デジタル作品の部分」との事項とする補正に関して,以下の記載がある。
「【0062】
先に述べたように,注釈を提出する作者は,注釈が関係するデジタル作品内の特定のコンテンツを表示してもよい。例えば,デジタル作品が書籍である場合,注釈は作品全体または作品の特定部分,例えば,章,特定のページ,またはページ上の特定のテキストに関係してもよい。」
(なお,「デジタル作品」の「部分」との記載は,発明の詳細な説明の,上記【0062】段落以外には見当たらない。)
(オ)発明の詳細な説明の上記の記載によれば,本件補正前の,「サーバシステムがデジタル作品の特定のコンテンツに関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップ」との事項を,本件補正後の,「サーバシステムが,デジタル作品全体より小さい,該デジタル作品の部分に関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップ」との事項に補正する本件補正は,つまり,例えば「デジタル作品が書籍」である場合,「注釈」が「作品全体または作品の特定部分」に関係するとの事項を,(「作品全体」を削除して,)「注釈」が「作品の特定部分」に関係することを特定する補正であるとも理解できる。
(カ)この補正は,特許請求の範囲を限定的に減縮するものであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について。
前記「2.(2)」で判断したとおり,請求項1に係る本件補正は,特許請求の範囲を限定的に減縮することを目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

4.引用例について。

(1)引用例1について。
原査定の拒絶の理由に引用された「特開2002-099739号公報」(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の(ア)?(エ)の事項が記載されている。
(以下「引用例1摘記事項」という。)

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,例えば書籍データのようなコンテンツを提供する作家などのコンテンツ提供者の端末から提供される書籍データ等であるコンテンツをネットワークを介して公開し,この公開したコンテンツをネットワークを介してコンテンツ利用者である例えば読者に販売するコンテンツ販売方法および装置に関し,具体的にはインターネットを介して作家および読者の両方が書籍の書評を利用でき,書籍販売購入に還元し得る例えば書評利用の書籍販売の仲介に有効なコンテンツ販売方法および装置に関する。」
(イ)「【0020】
【発明の実施の形態】以下,図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。図1は,本発明の一実施形態に係るコンテンツ販売方法を実施するコンテンツ販売装置を利用した書評利用の書籍販売仲介システムを含むシステムの構成を示すブロック図である。同図に示す書評利用の書籍販売仲介システム1は,コンテンツ提供者端末である作家から提供されるコンテンツの書籍を通信網を介して公開し,この公開した書籍に通信網を介してコンテンツ利用者である読者がアクセスして購入し得るとともに,購入した書籍の書評も通信網を介して公開し,これより書籍の販売を促進しようとするものであり,インターネットなどからなる通信網3を介してコンテンツ利用者端末である読者端末5およびコンテンツ提供者端末である作家端末7が接続されている。読者端末5はアクセス手段51を有し,また記録媒体52が接続され,作家端末7はアクセス手段71を有し,記録媒体72が接続されている。
【0021】書籍販売仲介システム1は,ユーザデータベース(DB)11,書評データベース(DB)12,書評感想データベース(DB)13,書籍データベース(DB)14,販売ログデータベース(DB)15,ユーザ登録モジュール16,書評登録・検索モジュール17,書評ポイント計算モジュール18,書評編集モジュール19,書籍販売モジュール20から構成されている。
【0022】ユーザ登録DB16は,図17の表1-1?2-2にデータ構造およびデータ例を示すように,作家と読者会員の利用者用のデータが保存されている。作家・読者会員用としては,ユーザ名,ユーザID,パスワード,連絡先等のユーザ情報が保持される。書評データベース12は,図18の表3-1,3-2にデータ構造およびデータ例を示すように,読者会員が入力した書評を保持する。書籍名,ISBN等で書籍を特定し,その書籍に対する書評と書評に対する書評ポイントが保持される。
【0023】書評感想データベース13は,図19の表4にデータ構造を示すように,作家や他のユーザが書評の感想や評価値を入力したものを保持する。作家自身が書いた書評に関する感想や評価を書いたり,他の読者ユーザが書評の感想を書いたりしたデータを保持する。このデータによって,書評ポイントの決定手段となる。書籍データベース14は,図20の表5-1,5-2にデータ構造,データ例を示すように,売り出す書籍の基本的な情報を保持する。販売ログデータベース15は,図21の表6-1,6-2にデータ構造,データ例を示すように,書籍の販売ログを保持する。読者会員の場合は,そのIDを販売ログとして登録しておき,このシステムで買った書籍であることを確認する手段としてログを残す。また書籍の販売に寄与した書評IDがあれば,そのことを販売ログに残し,書評ポイント加算に寄与する。
【0024】ユーザ登録モジュール16は,作家,読者会員がシステムを利用するためのユーザID,パスワード,連絡先等のデータをユーザDB11に登録するモジュールである。書評登録・検索モジュール17は,読者会員が書籍を選択し,ユーザ認証の後,その書籍に関する書評を登録し,登録した書評を書籍情報や読者会員情報等をキーとして入力し,検索実行し,検索結果を返すことができるモジュールである。書評ポイント計算モジュール18は,読者会員がシステムで購入した書籍に対する書評を書いて,書評を登録した時やその書評に関する感想・評価が高い時,またその書評ポイントが販売に寄与した時,ポイント利用時等に,書評ポイントを決定し,そのポイントの加算,減算を計算するモジュールである。」
(ウ)「【0028】次に,図4および図5を参照して,本実施形態の書籍販売仲介システム1の操作手順および処理フローについて説明する。図4は操作手順を示したものであり,図5はこの操作手順に呼応して実際のシステムの処理フローを示したものである。図4,図5において,A,A1,B,B1,…,Qなどは,処理手順の順番であるステップを示している。
【0029】まず,図4の最初のステップAのユーザ登録を説明する。図6のユーザ登録画面に示すように,システムへのアクセス認証のため,作家と読者双方のユーザ情報のユーザDB11への登録をユーザ登録モジュール16を用いて行ない,その確認を行なう。次に,図7の書籍販売・購入画面に示すように,書籍販売・購入の仲介を行なう。まず,ステップBのユーザ認証では,作家は,ユーザIDとパスワード等で認証を受ける。ステップCの処理である書籍販売は,図7の書籍販売・購入画面に示すように販売する書籍情報を入力し,書籍販売登録を確認する。また購入処理であるステップD,E,E′は,読者会員の場合は,ユーザ認証の後に,書籍購入処理である購入書籍情報を選択し,購入情報をシステムに送信すると,システムは,販売ログDB15へ残す処理を行なう。また購入者が書評を読んで購入に至った場合,書評IDが同時にシステムに送信され,販売ログDB15の販売に寄与した書評IDに蓄積される。ここまでは,販売処理モジュールが行なう。その処理と同時に書籍販売モジュール20から書評IDをキーとして,書評ポイント計算モジュール18へ書評IDと書籍販売数が送信され,書評IDをキーとして書評データを割り出し,そのデータベーステーブルで管理される書評ポイントに加算される。
【0030】購入書籍に対して読者会員が書評を登録するステップF,Gについて説明する。図8の書評登録画面に示すように,ユーザIDとパスワード等により認証を受けた後,読者会員は,書評を記入の上,システムの送信処理がなされると,登録確認の後,書評登録モジュールにより書評DB12へ書評が登録される。
【0031】以上のように登録された書評に対して,作家や他の読者が感想や評価を書き込むステップH,I,Jについて説明する。図9の書評感想登録画面が示すように,作家が感想を書き込む場合,作家のユーザ認証を行ない,その後に書評IDとその書評に対する感想,評価を入力し,システムに登録要求を行なう。一般の読者においても認証を除いて手順は同様に行なわれる。システムで書評登録モジュールが書評感想を書評感想DB13へ登録し,書評の評価や書評に対する感想の数等がある決められた条件をクリアすると,書評ポイント計算モジュール18が書評ポイントの加算などを行なう。システム側で登録が完了すると,登録した情報が返信される。
【0032】上述した処理が繰り返されて,書評ポイントが蓄積されるが,そのポイントを確認するステップK,Lについて説明する。図10のポイント確認画面に示すように,読者会員がポイント確認画面で,ユーザIDとパスワード等により認証を受けると,書評ポイント計算モジュール18が,その読者会員の現在のポイント獲得数を表示する。
【0033】次に,蓄積された書評を閲覧するステップMについて説明する。図11の書評閲覧画面に示すように,書評閲覧画面にて,閲覧したい書評について,書評ID,作家名,書籍名,読者ポイント会員名等をキーに検索要求を行なうと,その結果に対する書評が閲覧できるといった処理を書評編集モジュール19が処理する。
【0034】更に,貯まった書評ポイントを利用するステップN,Oについて説明する。図12の書評ポイント画面に示すように,読者会員は,ポイント確認画面で,ユーザIDとパスワード等により認証を受けると,その読者会員の現在のポイント獲得数を表示した上で,利用ポイント数等を記入の上,書評ポイントの利用方法を選択することで,書評ポイントが利用できる。その結果,利用されたポイントにあわせて,書評ポイント計算モジュール18により,ユーザDB11の書評ポイント数をサーバ側で更新する。
【0035】蓄積された自作品に対する書評を利用するステップP,Qについて説明する。図13の書評利用画面に示すように,作家が,ユーザIDとパスワード等により認証を受けると,作家の作品に対する書評の一覧を提示し,その書評の利用方法を選択した上で,システムへ送信する。気に入った書評のみを選択して,利用したりできる。
【0036】決済処理では,販売ログおよび作家の振込先等の情報が,決済機能提供者へ送られることで,実際の代金処理が行なわれることとなる。振込先などは,ユーザDB11へ蓄えられており,読者会員の代金支払は,ユーザDB11の支払方法のところに,プリペイドカード,銀行振込,郵便為替などの方法が選択して入れられている。これらの情報を決済機能提供者に与えると決済処理の依頼が完了する。」
(エ)「【0037】次に,図14?図16に示すフローチャートを参照して,ポイント処理,すなわち書籍利用ポイント処理,購入寄与ポイント処理,ポイント利用処理について説明する。
【0038】まず,図14を参照して,書籍データ登録における書評利用ポイント処理について説明する。この処理では,まず書籍データである書籍名,著者,出版社,販売価格,発行年,国名,ISBN,書評IDを受信すると(ステップS11),この受信した項目を書籍DB14に登録する。ここで,もし利用した書評がある場合には,書評IDをキーとして書評DB12の書評ポイントに利用ポイントを加算し,更に書評DB12のユーザIDをキーとしてユーザDB11の累積書評ポイントにも同様にポイントを加算する(ステップS13)。」
(オ)「【0046】なお,上記実施形態では,書籍利用の書籍販売仲介システムについて説明したが,本発明は,これに限定されるものでなく,書籍と同様にコンテンツを販売するコンテンツ販売装置すべてに適用し得るものである。」

上記(ア)?(オ)の各引用例1摘記事項を参照すれば,引用例1には以下の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されている。

「インターネットを介して作家および読者の両方が書籍の書評を利用するものであって,
書評利用の書籍販売仲介システム1は,コンテンツ提供者端末である作家から提供されるコンテンツの書籍を通信網を介して公開し,この公開した書籍に通信網を介してコンテンツ利用者である読者がアクセスし,購入した書籍の書評を通信網を介して公開するものであり,
書籍販売仲介システム1は,ユーザDB11,書評DB12,ユーザ登録モジュール16,書評ポイント計算モジュール18などから構成され,
ユーザ登録DBには,ユーザ登録モジュールにより,ユーザ名,ユーザID,パスワード等のユーザ情報が保持され,
書評DBは読者会員が入力した書評を保持し,
書評ポイント計算モジュールは,書評の評価が高い時,書評ポイントを決定してそのポイントの加算するモジュールであり,
書籍販売仲介システム1は,
購入書籍に対して読者会員が書評を登録するステップであって,ユーザIDとパスワード等により認証を受けた後,読者会員は書評を記入の上,システムへの送信処理がなされると,登録確認の後,書評登録モジュールにより書評DB12へ書評が登録され,
蓄積された書評は閲覧可能であり,
作家が,蓄積された自作品に対する書評を利用するステップであって,作家が,ユーザIDとパスワード等により認証を受けると,作家の作品に対する書評の一覧を提示し,
ポイント処理がなされ,
利用した書評がある場合には,書評IDをキーとして書評DBの書評ポイントに利用ポイントを加算するものであり,
書籍と同様にコンテンツを販売するコンテンツ販売装置すべてに適用し得る,
書籍販売仲介システム。」

(2)引用例2について。
「特開2004-362452号公報」(以下,「引用例2」という。)には,次の(ア)?(キ)の事項が記載されている。
(以下「引用例2摘記事項」という。)

(ア)「【要約】【課題】本発明は,時系列の区間に分割できるコンテンツの再生時に,再生中のコンテンツに対して入力されているコメントの中から再生中の区間の時間間隔に応じて表示されるコメント量を調整するコメント表示方法の提供を目的とする。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,時系列の区間に分割できるコンテンツの再生時,例えば,映像の再生時に,再生中のコンテンツに対して入力されているコメントを表示するコメント表示方法に関する。」
(ウ)「【0005】
これに対して,本願出願人は,映像コンテンツの特定の場面を指定する時間情報であるタイムコード,並びに,特定の場面を指定する付加情報であるコメントを,ユーザが入力するシステムを提案している(例えば,特許文献1を参照)。このシステムによれば,ユーザは,映像コンテンツ内の時間情報,例えば,先頭からの経過時間であるタイムコードと,例えば,視聴者が映像コンテンツの特定の場面に関して他の視聴者へ伝達したいメッセージであるコメントを書き込むことができる。また,コミュニケーション空間を部分映像毎に形成し,映像再生時には,再生中の部分映像に対応したコミュニケーション空間を提示することにより,映像視聴とコミュニケーション空間の連動表示を実現する技術も提案されている(例えば,非特許文献1を参照)。この技術によれば,コメントは,映像再生と連動して表示されるため,ユーザは,映像視聴中に,視聴しているシーンのコメントを閲覧することが可能である。」
(エ)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし,従来技術によるコメント入力及びコメント表示システムの場合,多数のコメントが同じ映像シーンに対して書き込まれるに従って,この映像シーンを再生している短時間に大量のコメントが表示される。したがって,視聴者は短時間に大量のコメントを読解する負荷を強いられ,コメント量が更に増加すると,視聴者はコメントを解読し尽くせなく
なり,そのためにストレスを感じる,という問題が生じる。
【0009】
本発明は,上記の従来技術におけるコメント入力及びコメント表示システムの問題点に鑑みて,映像コンテンツや音楽コンテンツなどの時系列の区間に分割できるコンテンツの再生時に,再生中のコンテンツに対して入力されているコメントの中から再生中の区間の時間間隔に応じて表示されるコメント量を調整するコメント表示方法の提供を目的とする。」(オ)「【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため,本発明のコメント表示方法は,表示されるコメントの量をコンテンツの再生区間の時間長さに応じた量に調整する。また,本発明のコメント表示方法は,コンテンツの再生区間の時間長さに応じた量に調整されたコメントの表示順序をコメントの対象がコンテンツに出現する順序と一致するように並べ替える。
【0014】
本発明では,コンテンツは,時系列の区間に分割できる素材であることを前提としている。時系列の区間に分割できるコンテンツには,例えば,映像コンテンツや音楽コンテンツのようなコンテンツが含まれる。これらのコンテンツは,例えば,コンテンツの全体が5個の場面に分割できる場合,各場面を1区間とする5個の時系列の区間により表現することができる。また,このようなコンテンツは,所定の速度で再生した場合,例えば,再生時の先頭からの経過時間(例えば,タイムコード)によってコンテンツの特定の時点を指定することが可能である。また,このタイムコードを利用することによって,コンテンツのある特定の時点がコンテンツのどの区間に属するかを知ることが可能である。さらに,コンテンツの再生時に入力されたコメントは,コンテンツのどの時点に対するコメントであるかがコメント入力時のコンテンツのタイムコードによって分かるので,コメントは,コンテンツのどの区間に対応したコメントであるかが特定できる。」
(カ)「【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の局面は,時系列の区間に分割できるコンテンツの再生時に,コンテンツに関連付けられたコメントを表示するコンテンツ連動型のコメント表示方法である。図1は本発明によるコメント表示方法の原理説明図である。
【0018】
請求項1に記載されたコメント表示方法は,
再生するコンテンツに固有の時間情報と時系列の区間との対応関係を表す構造情報を準備する手順(ステップ1)と,
コンテンツを再生し,再生中のコンテンツの再生区間に対応した時間情報を取得する手順(ステップ2)と,
再生中のコンテンツの構造情報を参照して,再生中のコンテンツの時間情報から,再生中のコンテンツの再生区間の時間間隔を取得する手順(ステップ3)と,
コンテンツの区間毎に割り当てられたコメントを格納するコメントデータベースから,再生中のコンテンツの再生区間に割り当てられたコメントを検索する手順(ステップ4)と,
検索されたコメントから再生中のコンテンツの再生区間の時間間隔に表示可能な量のコメントを選択する手順(ステップ5)と,
選択されたコメントを対応した区間の再生中に表示する手順(ステップ7)と,
を有する。ステップ1では,コンテンツの区間を表すデータベースが準備され,ステップ2では,再生箇所が時間的に特定され,ステップ3では,再生区間の時間間隔が取得され,ステップ4では,再生区間に対するコメントが検索され,ステップ5では,再生区間の時間間隔の範囲内で表示可能な量のコメントがフィルタリングされ,ステップ7で選択されたコメントが区間の再生中に表示される。」
(キ)「【0024】
コメントを選択する所定の順の更に別の例は,評価ポイントの高い順である。評価ポイントは,あるユーザが入力したコメントに対して,このコメントを参照したユーザが付与した評価ポイント(又は,その合計,平均など)であり,同じコンテンツに関してコミュニケーションを行うユーザのコミュニティ内において,重要視されているコメントには高い評価ポイントが与えられる。このような評価ポイントの高いコメントは,コメント表示をしようとしているユーザにとっても関心のあるコメントである可能性が高い。このため,請求項5に係る発明によれば,コメントデータベースに格納されているコメントには,コメントを参照したユーザによって付与された評価ポイントが関連付けられる。検索されたコメントから再生中のコンテンツの再生区間の時間間隔に表示可能な量のコメントを選択する手順は,コメントを読むユーザが再生区間の時間間隔に読解可能なコメント量を推定する手順と,検索されたコメントから,推定されたコメント量に達するまで,評価ポイントの高い順にコメントを選択する手順と,を含む,
以上のコメントを選択する所定の順は,コミュニティ全体に共通した順序である。これに対し,コンテンツを再生し,コメントを読解するユーザに特有の順にコメントを選択することも可能である。そのようなフィルタリング基準の一例は,特定のユーザに対して表示するコメントとして,この特定のユーザに類似したユーザが入力したコメントを優先的に選択する類似度に基づくコンテンツ選択法である。」

上記(ア)?(キ)の各引用例2摘記事項を参照すれば,引用例2には以下の発明が記載されている。
(以下「引用例2発明」という。)

「映像や音楽など,例えばコンテンツの全体が5個の場面に分割できる場合,各場面を1区間とする5個の区間により表現し,各場面にコメントすると,各場面のコメントを表示可能な量だけ表示する。」

5.対比。
本件補正発明と引用例1発明とを対比する。
(ア)まず,引用例1発明は,「書籍販売仲介システム」が,「インターネットを介して作家および読者の両方が書籍の書評を利用するものであって,書評利用の書籍販売仲介システム1は,コンテンツ提供者端末である作家から提供されるコンテンツの書籍を通信網を介して公開し,この公開した書籍に通信網を介してコンテンツ利用者である読者がアクセスし,購入した書籍の書評を通信網を介して公開するものであり,書籍販売仲介システム1は,ユーザDB11,書評DB12,ユーザ登録モジュール16,から構成され,ユーザ登録DBには,ユーザ登録モジュールにより,ユーザ名,ユーザID,パスワード等のユーザ情報が保持され,書評DBには読者会員が入力した書評を保持し,購入書籍に対して読者会員が書評を登録するステップであって,ユーザIDとパスワード等により認証を受けた後,読者会員は書評を記入の上,システムの送信処理がなされると,登録確認の後,書評登録モジュールにより書評DB12へ書評が登録される。」ものであり,「書籍と同様にコンテンツを販売するコンテンツ販売装置すべてに適用し得る。」ものである。
(イ)つまり,引用例1発明の,「書籍販売仲介システム」は,「書籍等のコンテンツ」に関して,「複数のコンテンツ利用者の端末」から「書評」が送信されると,「書籍等のコンテンツ」に関する「書評」を「書評DB12」に登録する。
(ウ)ここで,本件補正発明の「デジタル作品」との事項について,本件出願の発明の詳細な説明には,以下の(a)の記載がある。
(a)「【0017】本明細書で示される特定の実施形態に関して説明されるように,サーバシステム10は,デジタル作品およびその注釈を含むデータおよび情報を,クライアントシステム12,14を操作しているユーザ18,20およびクライアントシステム28,30を操作している作者32,34と交換するように構成される。場合によっては,サーバシステム10は,デジタル作品を消費者に販売および配信するための市場を提供する権限を有する,オンライン小売業者などの商人と関連付けられてもよい。本説明との関連において,デジタル作品はデジタル形式で記憶および配信されることが可能な任意の種類のコンテンツを含んでよい。限定されないものとして例示すれば,デジタル作品は,書籍,雑誌,新聞,広報,マニュアル,ガイド,参考文献,写真,記事,報告書,書類など,すべての形式のテキスト情報,および音楽,マルチメディアを使ったプレゼンテーション,オーディオブック,映画など,すべての形式の音声作品および視聴覚作品を含んでよい。」
(エ)本件出願の上記(ウ)の記載によれば,引用例1発明の「書籍等のコンテンツ」は,本件補正発明の「デジタル作品」に相当する。
(オ)さらに,本件補正発明の「注釈」との事項について,本件出願の発明の詳細な説明には,以下の(b)?(d)の記載がある。
(b)「【0001】本発明は,デジタル作品の配信に関し,より具体的には,デジタル作品の注釈を配信するための市場を生み出すことに関する。
【背景技術】
【0002】長い間,活字媒体は固定された形式で情報および考えを伝達する唯一の方法を提供していた。写真術および録音の到来と共に,追加の媒体が情報および考えの伝達に利用できるようになった。しかし,そのような媒体内の情報は静的である。更新情報は,追加の媒体を作成および配信することによってのみ提供される。しかし,情報が複数の当事者によって著作されている場合,批評,補足,特集記事,思想,見識などを含む更新情報の広範囲に及ぶ配信は困難になる。追加の情報または見識を有する媒体の消費者は,通常,その情報を他の消費者と効果的に共有する方法を持たない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
必要とされるのは,媒体のユーザが容易に媒体に注釈をつけ,その後,経済的かつ効率的な方法でそのような注釈を他者に配信することを可能にする方法およびシステムである。本発明はこの必要性および先行技術におけるその他の欠点に対処する。」
(c)「【0036】
本発明の実施形態は,幅広い適用性を有し,以下のその実施例はわずか一部にすぎない。以下の実施例は,本発明のいくつかの利点を理解するための選択された情況を提示する。例えば,注釈はデジタル作品の評論あるいは要旨であってよい。注釈はデジタル作品内に提示された同じトピックに関する別の小論であってもよい。注釈は,ユーザによって提供された言葉,グラフ,数式,ファイル,画像,拡張などであってもよい。例えば,ユーザは,旅行本で説明された場所の最近の画像を提供することによって旅行本に注釈をつけることを望む場合がある。音楽ファイルなど,音声であるデジタル作品の場合,作者は,歌手または録音過程に関する背景情報,代わりの歌詞,作曲,関連する音楽作品などについての技術的情報を提供することによって,歌について批評する追加的なコンテンツで音楽ファイルに注釈をつけてもよい。例えば,デジタル作品が料理本である場合,作者は調理法をより良くする代替材料,料理にさらに香辛料を効かせる材料,低脂肪または低炭水化物であると考えられる代用材料などを提出してもよい。別の場合,作者として,学生または教師は学術書に指示(markup)を提供してもよい。前述の説明から理解されるように,デジタル作品に加えられることが可能な注釈の種類,形式およびコンテンツには,事実上制限は存在しない。例として,注釈は,サーバシステムまたは(1つまたは複数の)クライアントシステムに利用可能な別のページ,ファイル,または文書に対するリンクまたはアドレスの形式とすることもできる。」
(d)「【0062】
先に述べたように,注釈を提出する作者は,注釈が関係するデジタル作品内の特定のコンテンツを表示してもよい。例えば,デジタル作品が書籍である場合,注釈は作品全体または作品の特定部分,例えば,章,特定のページ,またはページ上の特定のテキストに関係してもよい。」
(カ)本件出願の上記(オ)の(b)?(d)の記載によれば,本件補正発明の「注釈」とは,そもそも,ある「デジタル作品」に関する評論や背景などの「見識」であって,「注釈」の対象(つまり「特定のコンテンツ」。)は,作品の「全体」であると「部分」であるとを問わない。
(もちろん本件補正発明の「注釈」は,前記「2.(2)」のとおり,審判請求時補正により「デジタル作品の部分」を対象とするように特定されているが,そもそもの「注釈」は,その対象が「デジタル作品」の「全体」であると「部分」であるとを問わない。)
(キ)してみると,引用例1発明の「書評」は,後記する点で相違するものの,「デジタル作品の特定のコンテンツ」に対する「見識」である点で本件補正発明の「注釈」と共通する。
(ク)以上,上記(ウ)?(キ)のことから,引用例1発明の,「書籍販売仲介システム」,「書籍等のコンテンツ」,「複数のコンテンツ利用者の端末」,「書評」,「書評DB12」は,後記する点で相違するものの,それぞれ,本件補正発明の,「サーバシステム」,「デジタル作品」,「第1のクライアントシステム」,「デジタル作品の特定のコンテンツに関する注釈」,「注釈データベース」に相当する。
(ケ)そして,上記(ア)?(ク)のことから,引用例1発明と本件補正発明とは,後記する点で相違するものの,「サーバシステムが,デジタル作品の特定のコンテンツに関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップと,サーバシステムがデジタル作品に関連する注釈を注釈データベースに記憶するステップ」とを有する点で共通する。

(コ)次に,引用例1発明は,「書籍販売仲介システム1」が,「ユーザDB11,書評DB12,ユーザ登録モジュール16,書評ポイント計算モジュール18などから構成され,ユーザ登録DBには,ユーザ登録モジュールにより,ユーザ名,ユーザID,パスワード等のユーザ情報が保持され,蓄積された書評は閲覧可能であり,作家が,蓄積された自作品に対する書評を利用するステップであって,作家が,ユーザIDとパスワード等により認証を受けると,作家の作品に対する書評の一覧を提示する。」ものであり,「書籍と同様にコンテンツを販売するコンテンツ販売装置すべてに適用し得る。」ものである。
(サ)引用例1発明の,「作家」が用いる端末は,本件補正発明の「第2のクライアントシステム」に相当する
(シ)ここで,本件補正発明の,サーバシステムが注釈にアクセスするための要求を受信すると注釈を一覧表で提示することに係る各ステップと,サーバシステムが注釈にアクセスするための要求に対応する許可証明書を受信すると注釈を提供することに係る各ステップとについて,後者を特定する各ステップが図3の「注釈の受信および配信のための方法」に係るものであり,前者を特定する各ステップが図5?図9の実施形態の例示であって図9の「一覧表」の例示であることを勘案すると,下記(ス)(セ)のことがいえる。
(ス)引用例1発明の「書籍販売仲介システム1」が,「作家」が「蓄積された自作品に対する書評を利用する」ために「ユーザIDとパスワード等により認証を受ける」ことは,本件補正発明の,「サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求を第2のクライアントシステムから受信するステップ」と,「サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求に対応する許可証明書を第2のクライアントシステムから受信するステップと,サーバシステムが許可証明書が有効であることを認証するステップ」とに相当する。
(セ)引用例1発明の「書籍販売仲介システム1」が,「作家の作品に対する書評の一覧を提示する」ことは,後記する点で相違するものの,本件補正発明の,「要求に応答して,サーバシステムが第2のクライアントシステムに注釈の一覧表を提供するステップであって,一覧表は複数の注釈を提示するステップ」と,「許可証明書が有効である場合,サーバシステムがデジタル作品に関連してデジタル作品の1つまたは複数の注釈を第2のクライアントシステムに提供するステップ」とに相当する。

(ソ)以上,(ア)?(セ)のことから,引用例1発明と本件補正発明とは,後記する点で相違するものの,「デジタル作品の注釈を提供するためのコンピュータ実施された方法」の発明である点で共通する。

してみると,引用例1発明と本件補正発明とは,後記する点で相違するものの,
[一致点]
「サーバシステムが,デジタル作品の特定のコンテンツに関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップと,
サーバシステムがデジタル作品に関連する注釈を注釈データベースに記憶するステップと,
サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求を第2のクライアントシステムから受信するステップと,
要求に応答して,サーバシステムが第2のクライアントシステムに注釈の一覧表を提供するステップであって,一覧表は複数の注釈を提示するステップと,
サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求に対応する許可証明書を第2のクライアントシステムから受信するステップと,
サーバシステムが許可証明書が有効であることを認証するステップと,
許可証明書が有効である場合,サーバシステムがデジタル作品に関連してデジタル作品の1つまたは複数の注釈を第2のクライアントシステムに提供するステップと
を含む,デジタル作品の注釈を提供するためのコンピュータ実施された方法。」
の発明である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本件補正発明が,「サーバシステムが,デジタル作品全体より小さい,該デジタル作品の部分に関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップ」を有するのに対して,引用例1発明は,「デジタル作品の特定のコンテンツに関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップ」を有するものであり,このステップは,サーバシステムが,デジタル作品全体に関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するものであるにとどまる点。
[相違点2]
本件補正発明が,「注釈の一覧表」が「基準を参照することにより決定される順序で複数の注釈を提示する」のに対して,引用例1発明はそのようなものではなく,「利用した書評がある場合には,書評IDをキーとして書評DBの書評ポイントに利用ポイントを加算する」ことは開示されるものの、このポイントを注釈を表示する順序を決定する基準とすることまでは開示されていない点。

6.当審の判断。
[相違点1]について。
引用例2発明によれば,引用例2には,「映像や音楽など,例えばコンテンツの全体が5個の場面に分割できる場合,各場面を1区間とする5個の区間により表現し,各場面にコメントすると,各場面のコメントを表示可能な量だけ表示する。」との発明が開示される。
つまり引用例2発明は,「コンテンツの全体が各場面で分割できる場合は,各場面でコメントを共有する」ものである。
ここで,引用例2発明の,映像や音楽などの「コンテンツ」は,本件補正発明の「デジタル作品」に対応し,「コンテンツの全体が各場面で分割できる場合の各場面のコメント」は,本件補正発明の,「デジタル作品全体より小さい,該デジタル作品の部分に関する複数の注釈」に対応する。
つまり,引用例2発明は,本件補正発明の,「デジタル作品全体より小さい,該デジタル作品の部分に関して複数の注釈を受信」し,「デジタル作品の部分に関する注釈を表示」することに対応する。
ここで,引用例1発明,引用例2発明,本件補正発明は,いずれも「デジタル作品」に関する「見識」を共有するものである。
そして,デジタル作品が書籍である場合,章などの複数の場面に分割できることがよく知られている。
してみると,引用例1発明の,サーバシステムが,デジタル作品全体に関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するとの構成,つまり「コンテンツ作品である書籍の全体に対する書評を共有する」との構成にかえて,引用例2発明の,「コンテンツの全体が各場面で分割できる場合は,各場面でコメントを共有する」との構成を採用し,もって「サーバシステムが,デジタル作品全体より小さい,該デジタル作品の部分に関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップ」との構成とすることには何ら困難性がなく,当業者が容易に想到することができたものである。
[相違点2]について。
一覧表に優先順位順に表示をすることはよく知られており,そのような構成を採用することは,必要に応じて当業者が適宜なし得る設計的事項である。
例えば,引用例2摘記事項の(キ)には,「コメントを選択する所定の順の更に別の例は,評価ポイントの高い順である」と記載されている。
してみると,引用例1発明は,「利用した書評がある場合には,書評IDをキーとして書評DBの書評ポイントに利用ポイントを加算する」との構成を有しているところ,このポイントを用いて,一覧表に優先順位順に表示をすること,つまり,「注釈の一覧表」を「基準を参照することにより決定される順序で複数の注釈を提示する」よう構成し,もって相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは,必要に応じて当業者が適宜なし得る設計的事項である。

そして,本件補正発明1の作用効果も,引用例1発明,引用例2発明及び設計的事項から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって,本件補正発明は,引用例1発明,引用例2発明及び設計的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

7.本件補正についてのむすび。
本件補正は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明について。
平成24年2月27日の手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成23年7月25日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
(以下,「本願発明」という。)
「サーバシステムがデジタル作品の特定のコンテンツに関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップと,
サーバシステムがデジタル作品に関連する注釈を注釈データベースに記憶するステップと,
サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求を第2のクライアントシステムから受信するステップと,
要求に応答して,サーバシステムが第2のクライアントシステムに注釈の一覧表を提供するステップであって,一覧表は基準を参照することにより決定される順序で複数の注釈を提示する前記ステップと,
サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求に対応する許可証明書を第2のクライアントシステムから受信するステップと,
サーバシステムが許可証明書が有効であることを認証するステップと,
許可証明書が有効である場合,サーバシステムがデジタル作品に関連してデジタル作品の1つまたは複数の注釈を第2のクライアントシステムに提供するステップと
を含む,デジタル作品の注釈を提供するためのコンピュータ実施された方法。」

2.原査定の拒絶の理由について。
原査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
「【拒絶理由通知】
【理由B】この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
(1)請求項:1?23
引用文献:1
備考:
(途中略)
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2002-99739号公報

【拒絶査定】
この出願については,平成23年1月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由Bによって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
出願人が意見書において,
『しかしながら,引用文献1は,本願発明のような注釈を扱うものではない。引用文献1は書評について論じている一方で,本願発明は,注釈に関する。
注釈は書評とは異なる。なぜならば,書評は書籍全体に対して作成される一方,注釈は書籍または他のデジタル作品内の特定のコンテンツを対象とするからである。』
と,主張している点について,検討する。
本願の発明の詳細な説明には,批評や論評等が「注釈」の一態様として記載されている(例えば,段落【0034】,【0036】,【0045】-【0047】)。そして,引用文献1に記載のものは,コンテンツに対するコメントを登録し,公開するものであるから(請求項1等),上記主張は採用することができない。
よって,請求項1-23に係る発明は,拒絶理由通知で引用した引用文献1に記載の発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであると認められるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

3.引用例について。
原査定の拒絶の理由に引用された「特開2002-99739号公報」(以下「引用例1」という。)には,前記「第2」の「4.(1)」で摘記した各事項が記載されており,引用例1発明は,これを再掲すれば,以下のとおりである。
「インターネットを介して作家および読者の両方が書籍の書評を利用するものであって,
書評利用の書籍販売仲介システム1は,コンテンツ提供者端末である作家から提供されるコンテンツの書籍を通信網を介して公開し,この公開した書籍に通信網を介してコンテンツ利用者である読者がアクセスし,購入した書籍の書評を通信網を介して公開するものであり,
書籍販売仲介システム1は,ユーザDB11,書評DB12,ユーザ登録モジュール16,書評ポイント計算モジュール18などから構成され,
ユーザ登録DBには,ユーザ登録モジュールにより,ユーザ名,ユーザID,パスワード等のユーザ情報が保持され,
書評DBには読者会員が入力した書評を保持し,
書評ポイント計算モジュールは,書評の評価が高い時,書評ポイントを決定してそのポイントの加算するモジュールであり,
書籍販売仲介システム1は,
購入書籍に対して読者会員が書評を登録するステップであって,ユーザIDとパスワード等により認証を受けた後,読者会員は書評を記入の上,システムの送信処理がなされると,登録確認の後,書評登録モジュールにより書評DB12へ書評が登録され,
蓄積された書評は閲覧可能であり,
作家が,蓄積された自作品に対する書評を利用するステップであって,作家が,ユーザIDとパスワード等により認証を受けると,作家の作品に対する書評の一覧を提示し,
ポイント処理がなされ,
利用した書評がある場合には,書評IDをキーとして書評DBの書評ポイントに利用ポイントを加算するものであり,
書籍と同様にコンテンツを販売するコンテンツ販売装置すべてに適用し得る,
書籍販売仲介システム。」

4.対比。
本願発明と引用例1発明とを対比すると,前記「第2」の「5.」の検討を踏まえれば,一致点と相違点は,以下のとおりである。
[一致点]
「サーバシステムが,デジタル作品の特定のコンテンツに関して複数の注釈を第1のクライアントシステムから受信するステップと,
サーバシステムがデジタル作品に関連する注釈を注釈データベースに記憶するステップと,
サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求を第2のクライアントシステムから受信するステップと,
要求に応答して,サーバシステムが第2のクライアントシステムに注釈の一覧表を提供するステップであって,一覧表は複数の注釈を提示するステップと,
サーバシステムが1つまたは複数の記憶された注釈にアクセスするための要求に対応する許可証明書を第2のクライアントシステムから受信するステップと,
サーバシステムが許可証明書が有効であることを認証するステップと,
許可証明書が有効である場合,サーバシステムがデジタル作品に関連してデジタル作品の1つまたは複数の注釈を第2のクライアントシステムに提供するステップと
を含む,デジタル作品の注釈を提供するためのコンピュータ実施された方法。」
[相違点]
本願発明が,「注釈の一覧表」が「基準を参照することにより決定される順序で複数の注釈を提示する」のに対して,引用例1発明はそのようなものではなく,「利用した書評がある場合には,書評IDをキーとして書評DBの書評ポイントに利用ポイントを加算する」ことは開示されるものの、このポイントを注釈を表示する順序を決定する基準とすることまでは開示されていない点。
つまり,本願発明と引用例1発明とは,前記「第2」の「5.」で検討した本件補正発明と引用例1発明との,[一致点]の点で一致し,「相違点」のうち「相違点2」の点で相違する。

5.判断 。
[相違点]について。
[相違点]に係る事項は,前記「第2」の「5.」の[相違点2]に係る事項と同じあるから,前記「第2」の「6.」の「[相違点2]について。」で検討したとおり,相違点に係る発明の構成とすることは,必要に応じて当業者が適宜なし得る設計的事項である。
そして,本願発明の作用効果も,引用例1発明及び設計的事項から当業者が予測できる範囲のものである。

6.審判請求人の主張について。
(ア)審判請求人は,以下の(a)(b)の主張をしている。
(a)「しかしながら,引用文献1は,本願発明のような注釈を扱うものではない。引用文献1は書評について論じている一方で,本願発明は,注釈に関する。
注釈は書評とは異なる。なぜならば,書評は書籍全体に対して作成される一方,注釈は書籍または他のデジタル作品内の特定のコンテンツを対象とするからである。」
(平成23年7月25日の意見書の4ページ16行?19行)
(b)「4. 本願発明と引用発明との対比
引用文献1は,本願発明のような注釈を扱うものではない。引用文献1は書評について論じている一方で,本願発明は,注釈に関する。
注釈は書評とは異なる。なぜならば,書評は書籍全体に対して作成される一方,注釈は書籍または他のデジタル作品内の特定のコンテンツを対象とするからである。
本願発明に係る注釈は,デジタル作品全体よりも小さい,デジタル作品の一部分に関連する一方で,引用文献1の書評および引用文献1の請求項1に記載のコメントは,デジタル作品の一部分のみに関連付けられたものではない。審査官は,なぜ,引用文献1の書評が,デジタル作品の特定の内容に関連付けられる,または特定の内容に対して登録されるものとして解釈されうるのかについて如何なる考察もせずに,単に「コンテンツに対するコメントを登録し,公開する」ことを説示しており,引用文献1の書評および引用文献1の請求項1の内容は,デジタル作品の一部分のみに関連付けられたものではない点を見逃している。換言すると,例えば,2人のユーザが,1つの電子ブックに対するコメントの提供を望んでおり,特に,該電子ブックの異なる部分に関してコメントを提供したいものと仮定する。その場合,引用文献1のシステムは,単に,2つの異なるコメントが,該電子ブック全体に関連付けられていることを示すに過ぎず,該2人のユーザが,それぞれ該電子ブックの異なる部分に関してコメントしていることを示すことはできない。
してみれば,いかに当業者が引用文献1の記載を参酌したとしても,本願請求項1に係る発明を容易に想到できようはずがなく,本願請求項1に係る発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。」
(平成24年2月27日の審判請求書に関する平成24年5月2日の補正書の3ページ1行?20行)
(なお,平成25年3月18日の回答書での主張の趣旨も同様である。)
(イ)ここで,「デジタル作品全体より小さい,該デジタル作品の部分に関して複数の注釈」との事項は,審判請求時の補正により特定されたものである。
(ウ)しかし,審判請求人の上記(ア)の主張全体をとおしてみると,本願発明の「注釈」は,デジタル作品の「全体」を対象にしたものではなく,「部分」を対象にしたものであるとの主張であるともみえる。
(エ)確かに,図5以降の実施例は,「マニュアル」に係るものであり,「マニュアル」内に「注釈」の存在を示す「複数のインジケータ」を設けることが記載されている。
(オ)しかし,まず,本願発明(つまり「本件補正前発明」。)は,「デジタル作品の特定のコンテンツ」に関する「注釈」であることを特定するにとどまる。
(カ)そして,この「注釈」とは,そもそも,ある「デジタル作品」に関する評論や背景などの「見識」であって,「注釈」の対象(つまり「特定のコンテンツ」)は,作品の「全体」であると「部分」であるとを問わないことは,前記「第2」の「5.(カ)」で認定したとおりである。
(キ)そして,審査官は拒絶査定で,「本願の発明の詳細な説明には,批評や論評等が「注釈」の一態様として記載されている(例えば,段落【0034】,【0036】,【0045】-【0047】)。そして,引用文献1に記載のものは,コンテンツに対するコメントを登録し,公開するものであるから(請求項1等),上記主張は採用することができない。」と判断しており,審査官のこの判断は,当審の上記(カ)の認定に沿うものである。

以上のことから,審判請求人の主張を採用することはできない。

6.むすび。
以上のとおり,本願発明は,引用例1発明及び設計的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-26 
結審通知日 2013-04-30 
審決日 2013-05-14 
出願番号 特願2007-552235(P2007-552235)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮地 匡人田内 幸治  
特許庁審判長 清田 健一
特許庁審判官 手島 聖治
西山 昇
発明の名称 デジタル作品の注釈を提供する方法およびシステム  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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