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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H05F
管理番号 1279689
審判番号 不服2012-20732  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-22 
確定日 2013-09-25 
事件の表示 特願2006-319326号「ケーブル放電を弱める方法および装置類」拒絶査定不服審判事件〔平成19年6月21日出願公開、特開2007-157710号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成18年11月27日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2005年12月6日(US)アメリカ合衆国)の出願であって、平成23年11月9日付け、及び平成24年5月30日付けの各手続補正があった後、平成24年6月26日付けで、平成24年5月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定と共に拒絶査定がなされ(拒絶査定の謄本の送達(発送)日 平成24年7月3日)、これに対し、平成24年10月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。

II.平成24年10月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年10月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「【請求項1】
ケーブルからエレクトロニクス・システムへの静電放電を弱める装置であって、
前記ケーブルの導体の挿入経路中に配置された放電素子と、
前記ケーブルの導体を前記エレクトロニクス・システムの導体と結合させる前に、前記ケーブルの複数の末端と結合して前記ケーブルの前記導体と前記ケーブルの他の複数の導体を、前記ケーブルの挿入に伴って前記放電素子と少なくとも一時的に一緒に結合させ、前記ケーブルの前記導体と前記ケーブルの前記他の複数の導体との間で静電気を再分配させて前記ケーブルの前記導体上の前記静電気を放電させ、当該放電の後、前記放電素子と前記他の複数の導体との間を切り離すコネクタと、
を含む装置。」(下線は補正箇所を示すものである。)

2.補正の目的及び新規事項の追加の有無
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「放電素子」について、「前記ケーブルの導体の挿入経路中に配置された」との限定を付加し、また、ケーブルの導体と放電素子との結合の態様についても、「前記ケーブルの挿入に伴って」との限定を付加すると共に、発明を特定するために必要な事項である「コネクタ」について、「静電気を減少させるコネクタ」という構成を、「静電気を放電させ、当該放電の後、前記放電素子と前記他の複数の導体との間を切り離すコネクタ」と、さらに限定する補正をするものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明とは、その産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3-1.引用刊行物の記載事項
(刊行物1)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前(本願の上記優先日よりも前)に頒布された刊行物である特開平8-180942号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 ケーブルに電気的に接続される接続端子および接続パッドの少なくとも一方からなる接続部を有するケーブル側コネクタと、
このケーブル側コネクタが接続される際前記接続部が接触する位置に設けられ、装置側のグランドに接続されたショートパッドおよびショート端子の少なくとも一方からなるショート端部と、
前記ケーブル側コネクタが接続される際、前記接続部が前記ショート端部に接触したあと該ショート端部に接触しない位置に設けられた信号伝送用のパッドおよび端子の少なくとも一方からなる信号端部とを有する装置側コネクタとを含むことを特徴とするコネクタ。
【請求項2】 ・・・
【請求項3】 前記ショート端部を構成する複数のショート端子が相互に電気的に接続されかつ該複数のショート端子の少なくとも1つが前記装置側のグランドに接続されたことを特徴とする請求項1記載のコネクタ。」(【特許請求の範囲】)
(イ)「【0027】次に本発明の第3の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【0028】図3(A)および(B)を参照すると、本発明の第3の実施例の特徴はケーブルコネクタ8側がプリント配線板で形成されていても装置側のコネクタ9で対応できる構成にある。
【0029】本発明の第3の実施例におけるケーブルコネクタは、ケーブル10,表裏両面に接続パッド11を有するプリント板8,およびケーブル10とプリント板8とを接続する接続具14を備えている。一方、装置側のコネクタ9は、接続パッド11から信号を伝送するための接続端子12およびこの接続端子12へのコネクタのプリント板8の挿入経路上にありコネクタのプリント板8の挿入時接続端子12の接触以前に接触する位置に配置されたショート端子13を備えている。
【0030】図示されていないが、このショート端子13はコネクタ9のハウジングまたはその他の導体部を介して装置のグランド端子に電気的に接続されている。
【0031】ショート端子13同士は互いに電気的に接続されている。」(段落【0027】?【0031】)
(ウ)「【0032】本発明の第3の実施例の接続動作は以下のようにして行なわれる。
【0033】図3を参照すると、信号を伝送するためコネクタが接続されるとき、ケーブル10側のコネクタの接続パッド11は、装置側のコネクタ9のショート端子13に接触する。ケーブル10が帯電していた場合、これら電荷は接続パッド11および接続端子13を経由して装置側のグランドであるフレームグランドに放電される。ケーブル10側に帯電していた電荷がなくなったあと、正規の接続端子12にコネクタ8の接続端子12にプリント基板8上の接続パッドが接続され、装置側に備えられたIC等の半導体素子が静電破壊されずに接続できる。また、本発明の第3の実施例では、ショート端子13は接続パッド11には接触しない構成となっており、コネクタ接続完了後はショートしない構造となっている。」(段落【0032】?【0033】)

以上の記載事項及び【図3】(A)、(B)の記載からみて、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。
「ケーブル10に電気的に接続される複数の接続パッド11からなる接続部を有するケーブル側コネクタ8と、
このケーブル側コネクタが接続される際、前記接続部が接触する位置に設けられ、IC等の半導体素子を備える装置側のグランドに接続された複数(接続パッド11と同数)のショート端子13からなるショート端部と、
前記ケーブル側コネクタ8が接続される際、前記接続部が前記ショート端部に接触したあと該ショート端部に接触しない位置に設けられた信号伝送用の、ショート端子13と同数の接続端子12からなる信号端部とを有する装置側コネクタ9とを含み、
前記ショート端部を構成する複数のショート端子13が相互に電気的に接続されかつ該複数のショート端子の少なくとも1つが前記装置側のグランドに接続されたコネクタであって、
ケーブル側コネクタ8を装置側コネクタ9に挿入して、ケーブル側コネクタ8と装置側コネクタ9とが接続されるとき、ケーブル側コネクタ8の複数の接続パッド11は、装置側コネクタ9の対応するショート端子13に接触し、ケーブル10が帯電していた場合、これら電荷は接続パッド11およびショート端子13を経由して装置側のグランドであるフレームグランドに放電されて、ケーブル10側に帯電していた電荷がなくなったあと、正規の接続端子12にコネクタ8の接続パッド11が接続され、装置側に備えられたIC等の半導体素子が静電破壊されずに接続できると共に、コネクタ接続完了後は、ショート端子13は接続パッド11には接触しない構成となっているコネクタ。」

3-2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明の「装置側コネクタ9」に係る「装置」とは、「IC等の半導体素子を備える」ことから、本願補正発明でいう「エレクトロニクス・システム」を含む装置であるとみることができ、引用発明で、「ケーブル10が帯電していた場合、これら電荷は接続パッド11およびショート端子13を経由して装置側のグランドであるフレームグランドに放電されて、ケーブル10側に帯電していた電荷がなくなったあと、正規の接続端子12にコネクタ8の接続パッド11が接続され」るとされるところから、引用発明の「コネクタ」は、本願補正発明でいう「ケーブルからエレクトロニクス・システムへの静電放電を弱める装置」を構成するものといえる。
また、引用発明でいう「装置側のグランドに接続された複数のショート端子13」は、本願補正発明でいう「放電素子」に相当し、ショート端子13は、「ケーブル側コネクタが接続される際前記接続部が接触する位置」に設けられるのであるから、「前記ケーブルの導体の挿入経路中に配置された」ものということができる。
さらに、引用発明の「ケーブル側コネクタ8」が有する「複数の接続パッド11」は、ケーブル10に含まれる複数の導体とそれぞれ電気的に接続されて、本願補正発明でいう「ケーブルの複数の末端」を形成しており、「装置側コネクタ9」が有する、接続パッド11と同数の「接続端子12」のそれぞれは、装置側の導体と電気的に接続されていることは明らかである。
したがって、引用発明でいう「正規の接続端子12にコネクタ8の接続パッド11が接続され」るとは、本願補正発明でいう「前記ケーブルの導体を前記エレクトロニクス・システムの導体と結合させる」ことを意味し、引用発明で「ケーブル側コネクタ8を装置側コネクタ9に挿入して、ケーブル側コネクタ8と装置側コネクタ9とが接続されるとき、ケーブル側コネクタ8の複数の接続パッド11は、装置側コネクタ9の対応するショート端子13に接触し、ケーブル10が帯電していた場合、これら電荷は接続パッド11およびショート端子13を経由して装置側のグランドであるフレームグランドに放電され」としているのは、本願補正発明で「前記ケーブルの導体を前記エレクトロニクス・システムの導体と結合させる前に、前記ケーブルの複数の末端と結合して前記ケーブルの前記導体と前記ケーブルの他の複数の導体を、前記ケーブルの挿入に伴って前記放電素子と少なくとも一時的に結合させ、」「前記ケーブルの前記導体上の前記静電気を放電させ」るとしているのと同等のことを意味している。
しかも、引用発明では、「前記ショート端部を構成する複数のショート端子13が相互に電気的に接続され」ているのであるから、引用発明においてもケーブル側コネクタ8の複数の接続パッド11が、対応するショート端子13に接触したときには、本願補正発明でいう「(前記ケーブルの前記導体と前記ケーブルの他の複数の導体が)一緒に(結合)」されて、「前記ケーブルの前記導体と前記ケーブルの前記他の複数の導体との間で静電気を再分配させ」る状態が実現されることになる。
更に、引用発明でいう「放電されて、ケーブル10側に帯電していた電荷がなくなったあと、正規の接続端子12にコネクタ8の接続パッド11が接続され、・・・コネクタ接続完了後は、ショート端子13は接続パッド11には接触しない構成」とは、本願補正発明でいう「前記ケーブルの前記導体上の前記静電気を放電させ、当該放電の後、前記放電素子と前記他の複数の導体との間を切り離」した構成をいうものと解しうる。

以上の点を考慮し、本願補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「ケーブルからエレクトロニクス・システムへの静電放電を弱める装置であって、
前記ケーブルの導体の挿入経路中に配置された放電素子と、
前記ケーブルの導体を前記エレクトロニクス・システムの導体と結合させる前に、前記ケーブルの複数の末端と結合して前記ケーブルの前記導体と前記ケーブルの他の複数の導体を、前記ケーブルの挿入に伴って前記放電素子と少なくとも一時的に一緒に結合させ、前記ケーブルの前記導体と前記ケーブルの前記他の複数の導体との間で静電気を再分配させて前記ケーブルの前記導体上の前記静電気を放電させ、当該放電の後、前記放電素子と前記他の複数の導体との間を切り離すコネクタと、
を含む装置。」という点で一致し、両者の間に相違点はない。

3-3.当審の判断
上記の対比から明らかなように、引用発明は、本願補正発明の構成要件の全てを実質的に有する発明であるといえるから、本願補正発明は刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号前段に規定する発明に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3-5.付記
請求人は、当審からの審尋に対する平成25年3月25日付けの回答書において、「挿入経路中に配置された放電素子の構成および放電を生じさせるべき位置をより明確にするべく、図2および図3の記載に基づいて、「前記放電素子が、電荷を伝導するブラシを含み、さらに前記コネクタは、前記コネクタおよび前記ケーブルに対して前記コネクタの外側の位置で前記ブラシを前記ケーブルに結合させる取り付け板を備え、前記位置において前記ケーブルが前記コネクタと結合する前に前記ブラシと前記ケーブルの前記導体との間の接触を開始させて前記ケーブルの前記導体を実質的に放電させるようになっている」という限定事項を付加する補正の準備がある」旨、主張しているので、念のため、上記補正案について検討する。
当該補正案の「前記コネクタおよび前記ケーブルに対して前記コネクタの外側の位置で前記ブラシを前記ケーブルに結合させる」事項については、請求人が補正の根拠と主張する図2及び図3はもとより、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲でも全く記載も示唆もされていない。図2及び図3では、放電素子(230,240、330,340)が明らかに「ハウジング」(210、310)内に位置する状態が示されており、段落【0025】で、ハウジング210はメス・コネクタ200が備える部材であるとされている。即ち、請求人が述べる上記の準備している補正案は、特許法第17条の2第3項の規定に反する内容のものであるので、当該補正案は受け入れることができない。

III.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成23年11月9日付けの手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「ケーブルからエレクトロニクス・システムへの静電放電を弱める装置であって、
放電素子と、
前記ケーブルの導体を前記エレクトロニクス・システムの導体と結合させる前に、前記ケーブルの複数の末端と結合して前記ケーブルの前記導体と前記ケーブルの他の複数の導体を、前記放電素子と少なくとも一時的に一緒に結合させ、前記ケーブルの前記導体と前記ケーブルの前記他の複数の導体との間で静電気を再分配させて前記ケーブルの前記導体上の前記静電気を減少させるコネクタと、
を含む装置。」

IV.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物1、及び、その記載事項は、上記II.3-1に記載したとおりである。

V.対比・判断
本願発明は、前記II.1.の本願補正発明から、「放電素子」について、「前記ケーブルの導体の挿入経路中に配置された」との限定を省き、また、ケーブルの導体と放電素子との結合の態様についても、「前記ケーブルの挿入に伴って」との限定を省くと共に、「静電気を放電させ、当該放電の後、前記放電素子と前記他の複数の導体との間を切り離すコネクタ」に代えて、単に「静電気を減少させるコネクタ」と、その限定事項を除くものである。
そして、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-3に記載したとおり、刊行物1に記載された発明といえるのであるから、本願発明も、同様に、刊行物1に記載された発明といえる

VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号前段に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2以下に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-24 
結審通知日 2013-04-30 
審決日 2013-05-14 
出願番号 特願2006-319326(P2006-319326)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H05F)
P 1 8・ 575- Z (H05F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 段 吉享森本 哲也  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 小関 峰夫
平田 信勝
発明の名称 ケーブル放電を弱める方法および装置類  
復代理人 間山 進也  
代理人 市位 嘉宏  
代理人 太佐 種一  
代理人 上野 剛史  

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