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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
管理番号 1279935
審判番号 無効2012-800023  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-03-09 
確定日 2013-10-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第4216969号発明「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4216969号の請求項1及び2に係る発明は、平成11年9月30日に特許出願され、平成20年11月14日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成24年3月9日に株式会社クラレ(以下、「請求人」という。)より、その請求項1及び2に係る発明の特許について無効審判の請求がなされ、これに対して、平成24年5月31日付けで積水化学工業株式会社(以下、「被請求人」という。)より審判事件答弁書が提出されたもので、その後の無効審判における手続は次のとおりである。
平成24年 8月 6日 審理事項通知書
同 年10月 1日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同 年10月 2日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同 年10月 5日 上申書(請求人)
同 年10月16日 口頭審理

第2 本件特許発明
本件特許第4216969号の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件特許発明1及び2」といい、これらを併せて「本件特許発明」ということがある。)は、本件特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂100重量部と、トリエチレングリコールモノ2-エチルヘキサノエートを0.1?5.0重量%含有するトリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート20?60重量部とを主成分とする合わせガラス用中間膜であって、ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有することを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
少なくとも一対のガラス間に、請求項1記載の合わせガラス用中間膜を介在させ、一体化させて成ることを特徴とする合わせガラス。

第3 請求人の主張
請求人は、本件特許発明1及び2についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲第1及び2号証を提出している。
1.審判請求書、平成24年10月2日付け口頭審理陳述要領書、同年10月5日付け上申書により請求人が主張する無効理由の概要
(1)無効理由1(特許法第36条第6項第1号違反)
本件特許発明1及び2の特許請求の範囲の記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないから、本件特許発明1及び2は、同法第123条第1項第4号により無効とされるべきものである。
この無効理由1についての主張は、概ね次のとおりである。
本件特許発明1及び2は、「耐湿性、接着性、透明性、耐候性等の合わせガラス用中間膜としての基本的な性能に優れ、且つ、帯電防止性に優れた合わせガラス用中間膜及びこの中間膜を用いた合わせガラスを提供する」という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するために、請求項1(同請求項を引用する請求項2も同様)に記載のとおり、ポリビニルアセタール樹脂100重量部と可塑剤トリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート(以下、「3GO」という)20?60重量部とを主成分として含有する合わせガラス用中間膜において、当該3GO中のモノエステル成分であるトリエチレングリコールモノ2-エチルヘキサノエート(以下、「3GO-ME」という)の含有量を0.1?5.0重量%とし、さらに当該中間膜中に「ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有する」という構成を採用したものということができる。
したがって、本件特許発明が特許法第36条第6項第1号に適合するというためには、本件特許発明が本件課題を解決し得るものであること、すなわち、合わせガラス用中間膜としての基本的な性能に優れ、且つ、帯電防止性に優れた合わせガラス用中間膜を提供するものであることが、本件明細書に記載・開示されていることが必要である。
ところが、被請求人の主張にもかかわらず、本件特許発明が「帯電防止性を向上させる」という点を解決し得ることについても、例えば、実施例4及び実施例7では、ナトリウム又はカリウムの含有量が下限である5ppmに近い値であるが、いずれも3GO中の3GO-MEの含有量が1.5重量%であり、これが下限値である0.1重量%の場合に十分な帯電防止性が得られるのか否かについては、本件特許明細書の実施例の記載からは全く認識できない。
しかも、「ポリビニルアセタール樹脂に対して3GO-MEを含有する3GOを配合する」ことは、本件出願日以前に普通に行われていたことにすぎない。事実、現在でも、商業的に入手可能な3GOには、いずれも1.5%以下の3GO-MEが含有されている(甲1号証:Plasticizer WVC 3800の仕様書、甲2号証:OXSOFT 3G8の仕様書)。
そもそも、3GO-MEを含有する3GOを可塑剤として用いた合わせガラス用中間膜であるというだけでは、帯電防止効果すら達成できないことは、本件明細書に記載の実施例及び比較例をみれば、ナトリウム又はカリウムの含有量こそが帯電防止効果に大きく影響することが明白である。このように、本件特許発明の合わせガラス用中間膜が、本件課題の一つである優れた帯電防止効果を発揮するためには、ナトリウム及び/又はカリウムの含有量が重要である。
以上から明らかなように、ナトリウム及び/又はカリウムを一定量含むものが本件課題を解決できるというのであれば、それらの範囲において本件課題を解決し得ることが、当業者が理解し得るように明細書に記載されていなくてはならない。
したがって、本件特許発明1及び2は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、かかる本件の特許請求の範囲の記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しない。

(2)無効理由2(特許法第36条第6項第2号違反)
本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は不明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合しないから、本件特許発明1及び2は、同法第123条第1項第4号により無効とされるべきものである。
この無効理由2についての主張は、概ね次のとおりである。
請求項1における「ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有する」との記載は、「ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する」、「カリウム(K)を5?100ppm含有する」「ナトリウム(Na)を5?50ppm及びカリウム(K)を5?100ppm含有する」ことを意味することについては、異論はない。
しかしながら、通常、特許請求の範囲に、「ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する」と記載されていれば、カリウムの含有量は制限されないと理解される。「ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する」が、カリウムを含有しない意味であれば、「ナトリウム(Na)を5?50ppm含有し、カリウムを含有しない」と記載すべきである。このため、「ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する」「カリウム(K)を5?100ppm含有する」は、通常、それぞれ、カリウム、ナトリウムの含有量には制限がないという意味に理解されるが、そうすると「ナトリウム(Na)を5?50ppm及びカリウム(K)を5?100ppm含有する」という記載が無意味になり、且つ、矛盾を生じてしまう。
したがって、本件特許発明1における「ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有する」との発明特定事項は不明確であり、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号に適合しない。

2.証拠方法
甲第1号証: Plasticizer WVC 3800の仕様書
甲第2号証: OXSOFT 3G8の仕様書
なお、上記甲第1及び2号証は、平成24年10月2日付け口頭審理陳述要領書と共に提出されたものである。

第4 被請求人の主張
被請求人は、平成24年5月31日付け審判事件答弁書(以下、「答弁書」という。)において、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として、乙第1?4号証を提出している。
1.答弁書、平成24年10月1日付け口頭審理陳述要領書における被請求人の主張の概要
(1)本件特許発明について
本件特許発明の技術思想は、ポリビニルアセタール樹脂に対して3GO-MEを含有する3GOを配合することにより、3GOの「高沸点のため高温製膜時に大気中に放出されにくく取り扱い性がよく、耐加水分解性に優れる」という利点を維持したまま、「中間膜が帯電する傾向が強い」との課題を解決するというものである。
なお、本件特許発明が「帯電防止性の向上」という所期の効果を発揮するためには、3GO-MEを含有する3GOのみでは足りず、一定量のナトリウム、カリウムと併用することが必要になる。この点について請求項1に係る本件特許発明においては「ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有する」ことを必須の構成要件としている。ここで、「ナトリウム及び/又はカリウム」とは、「ナトリウム」又は「カリウム」のみならず、「ナトリウム及びカリウム」を含有する場合にでも同様の効果が得られることを確認的に示したものである。

(2)無効理由1に対する反論
本件特許発明1及び2は、本件特許明細書の実施例、比較例により十分にサポートされている。
したがって、本件特許発明1及び2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(3)無効理由2に対する反論
一般常識に基づいて判断すれば、「ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有する」との表現が、「ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する」、「カリウム(K)を5?100ppm含有する」、「ナトリウム(Na)を5?50ppm及びカリウム(K)を5?100ppm含有する」ことを意味することは明確である。
したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。

2.証拠方法
乙第1号証: 平成11年特許願第280310号 特許メモ
乙第2号証: 規格票の様式及び作成方法 JIS Z 8301:2008、第56ページ
乙第3号証: 自動車用安全ガラス JIS R 3211:1998
乙第4号証: 自動車用安全ガラス試験方法 JIS R 3212:1998
なお、乙第3及び4号証は、平成24年10月1日付け口頭審理陳述要領書と共に提出されたものである。

第5 甲各号証の記載事項
1.甲第1号証: Plasticizer WVC 3800の仕様書
「セラニーズ ケミカルズ
販売仕様書
1の1
可塑剤 WVC 3800 CAS-No.94-28-0
(ジ-2-エチルヘキサン酸トリエチレングリコールエステル;3G8)
特徴 限度 単位 方法
ジ-2-エチルヘキサン酸トリ-エチレン 最少97.0 %(a/a) DIN51405(GC)
グリコールエステル(3G8)
モノ-2-エチルヘキサン酸トリ-エチレン 最大1.5 %(a/a) DIN51405(GC)
グリコールエステル(モノエステル)
ジ-2-エチルヘキサン酸ジグリコール 最大0.5 %(a/a) DIN51405(GC)
エステル(2G8) 」(第1ページ1?12行)

2.甲第2号証: OXSOFT 3G8の仕様書
「販売仕様書
OXSOFT 3G8 CAS-Nr.94-28-0
トリエチレングリコール-ジ-(2-エチルヘキサノエート)
物性 限度 単位 試験方法
外観 透明な液体 目視観察
トリエチレングリコール-ビス-2- 最少97.0 %(a/a) DIN51405(GC)
エチルヘキサノエート
トリエチレングリコール-モノ-2- 最大1.5 %(a/a) DIN51405(GC)
エチルヘキサノエート(モノエステル)
ジエチレングリコール-ビス-2- 最大0.5 %(a/a) DIN51405(GC)
エチルヘキサノエート 」(第1ページ1?11行)

第6 当審の判断
1.本件特許発明の意義
(1)本件特許明細書の記載事項について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
ア 「【発明の属する技術分野】
本発明は、合わせガラス用中間膜及びこの中間膜を用いた合わせガラスに関する。」(段落【0001】)
イ 「【従来の技術】
少なくとも一対のガラス板の間に、ポリビニルアセタール中間膜が挟着されてなる合わせガラスは、透明性、耐候性、接着性、耐湿性に優れ、しかも耐貫通性に優れるためガラスが飛散しにくい等の理由から、例えば自動車や建築物の窓ガラスに広く利用されている。
このポリビニルアセタール中間膜は、一般に、ポリビニルアセタール樹脂及び可塑剤とを主成分としており、さらに紫外線吸収剤、酸化防止剤、接着力調整剤等の添加剤とからなる。
本発明で使用する可塑剤はトリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエートであり、高沸点のため高温製膜時に大気中に放出されにくく取り扱い性がよいとか、耐加水分解性に優れる等の利点をもっている。
しかし、この可塑剤は極性が低いために、中間膜が帯電する傾向が強いことが問題となっていた。すなわち、中間膜の製造工程において、主に巻き取り工程で帯電により静電気が発生する。このことは、巻き取り作業者の負担になるばかりでなく、ゴミを引きつけやすくなるため品質面でもよくない。さらに、合わせガラス製造時には、中間膜を伸展し加工するが、この時にも帯電により同様の問題が発生する。
一般に、帯電を防止するには、帯電防止剤を中間膜中に添加するか表面に塗布する方法があるが、帯電防止剤は極性が高いため、過剰な添加は耐湿性を損なうとともにガラスへの接着力も変化させてしまう。
本発明において、可塑剤中のモノエステル成分の含有量を一定の範囲とし、さらにアルカリ金属を一定量含有する場合に、耐湿性、接着性を損なわずに帯電を実用的に問題のないレベルに抑制することが可能であることが明らかとなった。ここで、帯電の実用的に問題のないレベルとは、1.0×10^(13)Ω/□未満である。」(段落【0002】?【0006】)
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の問題点を解決するため、耐湿性、接着性、透明性、耐候性等の合わせガラス用中間膜としての基本的な性能に優れ、且つ、帯電防止性に優れた合わせガラス用中間膜及びこの中間膜を用いた合わせガラスを提供することを課題とする。」(段落【0008】)
エ 「発明1による中間膜においては、可塑剤として用いられるトリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート(以下、3GOという)には、トリエチレングリコールモノ2-エチルヘキサノエート(以下、3GO-MEという)を0.1?5.0重量%含有することが必要であり、後述するアルカリ金属との相乗効果で、帯電防止性の良好な合わせガラス用中間膜を得ることができる。3GO中の3GO-MEの含有量が0.1重量%未満では、得られる中間膜の帯電防止性が不十分であり、3GO中の3GO-MEの含有量が5.0重量%を超えると、得られる中間膜の接着力の経時変化が発生する。」(段落【0016】)
オ 「上記3GOは、一般に、トリエチレングリコールと2-エチルヘキサン酸とを触媒の存在下で反応させることにより製造することができ、当業者公知の方法によって可能である。例えば、トリエチレングリコール1モルに対し2?2.5モルの2-エチルヘキサン酸を加え、必要に応じて、触媒として硫酸、塩酸、燐酸等の無機酸やp-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸を、全反応物質の0.01?5.0重量%程度添加する。このとき、反応系をトルエン、キシレン等の溶媒で希釈しておいてもよい。また、反応物質の2-エチルヘキサン酸自体が触媒であってもよい。この反応は、常温常圧で行ってもよいが、反応の促進および生成する水の除去等を考慮して、50?300℃の高温で行うことが好ましい。
また、上述した3GOの製造方法において、上記3GOは、3GO-MEの含有量が0.1?5.0重量%であるため、反応を完全に進行させることなく3GO-MEの含有量がこの範囲で存在する状態で反応を停止させることが好ましい。反応停止後、中和、水洗及び脱水を行い、次いで減圧乾燥又は蒸留処理を行う。しかし、中間膜の製造に使用する3GO中の3GO-MEの含有量が0.1?5.0重量%の範囲であればよいため、例えば、高純度の3GOと3GO-ME成分を多量に含む3GOとを混合することにより所望の3GOを得ることもできる。」(段落【0018】、【0019】)
カ 「発明1の合わせガラス用中間膜には、ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有することが必要である。Na及び/又はKの含有量が5ppm未満では、得られる中間膜の帯電防止効果が不十分であり、Naの含有量が50ppm及び/又はKの含有量が100ppmを超えると、得られる中間膜の耐湿性や接着力が低下する。
上記Na及びKは、ポリビニルアセタール樹脂を製造する場合に、中和工程で用いたアルカリの残存成分であってもよいし、中間膜を製造する時に新たに添加してもよい。」(段落【0020】、【0021】)
キ 「(実施例1)
(1)PVBの合成
鹸化度99モル%、平均重合度1700のPVA100部を蒸留水に溶解し、この溶液に濃塩酸7.2部を加え、11℃に冷却した状態で撹拌しつつ、ブチルアルデヒド56.2部を滴下した。樹脂の沈殿が析出するのを確認した後、さらに60部の濃塩酸を滴下しながら65℃まで昇温し、2時間保持して反応を完結させた。その後、反応母液を冷却し、苛性ソーダ及び重曹で中和した後、水洗、乾燥を行って白色のPVB粉末を得た。
(2)合わせガラス用中間膜の製造
(1)で得られたPVB100部に対し、可塑剤として1GOを1.5重量%含有する3GOを40部、紫外線吸収剤としてチバ・ガイギー社製「チヌビン328」を0.2部、酸化防止剤として住友化学工業社製「スミライザーBHT」を0.2部、及び接着力調整剤として酢酸マグネシウム四水和物の25重量%水溶液0.23部と2-エチル酪酸マグネシウムの35重量%水溶液0.37部とを添加した混合物を、ラボプラストミルによって760μmのシート状に成形し、合わせガラス用中間膜とした。
(3)合わせガラスの製造
(2)で得られた合わせガラス用中間膜を両側からフロートガラスで挟み、この狭着体をゴムバッグ内に入れて20torrの真空度で20分間保持した後、真空にしたままの状態で90℃のオーブン内に入れ、30分間保持した。次いで、真空バッグから取り出した挟着体を、オートクレーブ内で温度150℃、圧力13kg/cm^(2)の条件で熱プレスし、合わせガラスを得た。」(段落【0036】?【0038】)
ク 「(4)評価
(2)で得られた中間膜の性能(1.Na及びK含有量、2.帯電性)及び(3)で得られた合わせガラスの性能(3.耐湿性、4.接着性)を以下の方法で評価した。その結果は表2に示すとおりであった。
1.Na及びK含有量の分析:(2)で得られた中間膜を、ICP発光分析法により評価した。
2.帯電性:(2)で得られた中間膜を、20℃、50%RHの状態で1日間放置した後、表面固有抵抗を表面抵抗測定装置(東亜電波工業社製、DMS-8103)で測定した。表面固有抵抗が1.0×10^(13)Ω/□未満を良好とし、それ以上を不良とした。
3.耐湿性:(3)で得られた合わせガラスを、50℃、95%RHの雰囲気下に2週間放置した後のガラス周縁端部の白化距離を測定した。上記白化距離が2.0mm以下であれば良好とし、それを超えるものを不良とした。
4.接着性:(3)で得られた合わせガラスを、-18℃±0.6℃の温度下に16時間放置して調整し、このガラスを頭部が0.45kgのハンマーで叩いて、ガラスが部分剥離した後の中間膜の露出度を予めグレード付けした限度見本で判定し、その結果を下記表1に示す判定基準に従ってパンメル値として表した。合わせガラスにした場合の中間膜とガラスとの接着性は上記パンメル値で評価した。表1に示すようにパンメル値が高いほど中間膜とガラスとの接着力が大きく、パンメル値が低いほど中間膜とガラスとの接着力が小さい。
さらに、同様な評価を50℃で4週間放置した合わせガラスについても行い、上記パンメル値の変動が1以下であれば良好とし、それを超えるものを不良とした。」(段落【0039】?【0041】)
ケ 「(実施例2、3及び比較例1、2)
合わせガラス用中間膜の製造において、可塑剤として、表2に示した含有量の3GO-MEを含有する3GOを用いたこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。その性能を実施例1と同様にして評価し、結果を表2に示した。
(実施例4及び比較例3)
PVBの合成において、樹脂の水洗時間を長時間にして、表2に示した中間膜中のNa含有量となるPVBを得たこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。その性能を実施例1と同様にして評価し、結果を表2に示した。
(実施例5、6及び比較例4)
PVBの合成において、樹脂の水洗時間を短時間にして、表2に示した中間膜中のNa含有量となるPVBを得たこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。その性能を実施例1と同様にして評価し、結果を表2に示した。
(実施例7?9及び比較例5、6)
PVBの合成において、樹脂の中和剤として水酸化カリウム及び炭酸カリウムを用い、水洗時間を変化させて、表2に示した中間膜中のK含有量となるPVBを得たこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。その性能を実施例1と同様にして評価し、結果を表2に示した。」(【0043】?【0046】)
コ 「【表2】


(段落【0047】)
サ 「表2から明らかなように、本発明による実施例の合わせガラス用中間膜は、帯電防止性及び耐湿性に優れ、また、本発明による実施例の合わせガラスは、初期に適正なパンメル値、即ち中間膜とガラスとの接着力を示し、またパンメル値の経時変化もない。
これに対して、3GO中の3GO-MEの含有量が0.1重量%未満である比較例1の中間膜は帯電防止性が劣り、逆に、3GO中の3GO-MEの含有量が5.0重量%を超える比較例2の中間膜はパンメル値即ち接着力が経時変化する。
また、中間膜中のNa又はKの含有量が5ppm未満である比較例3又は5の中間膜は帯電防止性が劣り、逆に、含有量が50ppm又は100ppmを超える比較例4又は6の中間膜は耐湿性が劣る。(段落【0048】?【0050】)
シ 「【発明の効果】
以上述べたように、本発明の合わせガラス用中間膜は、接着性、耐湿性等の合わせガラス用中間膜としての基本的で重要な性能を満足し、且つ、帯電防止性に優れるので、中間膜や合わせガラスの製造作業者が静電気により不快に感じることもなく、またゴミ等を引きつけることによる品質上の問題も少ない。従って、本発明の合わせガラス用中間膜及び合わせガラスは、加工性に優れており、自動車用や建築用等の窓ガラス用等として好適に用いられる。」(段落【0051】)

(2)本件特許発明の解決すべき課題及び課題を解決するための手段
上記第6の1.(1)の記載事項ア?ウによれば、本件特許発明は、合わせガラス用中間膜及びこの中間膜を用いた合わせガラスに関するものであり、ポリビニルアセタール中間膜に使用する可塑剤である3GOは極性が低いために、中間膜が帯電する傾向が強いことが問題となっていたことから、耐湿性、接着性、透明性、耐候性等の合わせガラス用中間膜としての基本的な性能に優れ、且つ、帯電防止性に優れた合わせガラス用中間膜及びこの中間膜を用いた合わせガラスを提供することを課題とし、この課題を解決するために、特許請求の範囲に記載の構成(特に、可塑剤である3GO中のモノエステル成分である3GO-MEの含有量を一定の範囲とし、さらにナトリウム及び/又はカリウムを一定量含有すること)を採用することにより、耐湿性、接着性を損なわずに帯電を実用的に問題のないレベルに抑制することが可能な合わせガラス用中間膜及びこの中間膜を用いた合わせガラスが得られたことが記載されているといえる。

2.無効理由についての判断
本件の特許請求の範囲の記載において本件特許発明が明確でなければならないことにかんがみ、無効理由2から、先に判断する。
(1)無効理由2(特許法第36条第6項第2号違反)について
ア 請求人の主張
請求人の主張の内容は、上記第3の1(2)のとおりである。
すなわち、請求人は、「請求項1における『ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有する』との記載は、『ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する』、『カリウム(K)を5?100ppm含有する』『ナトリウム(Na)を5?50ppm及びカリウム(K)を5?100ppm含有する』ことを意味することについては、異論はない。
しかしながら、通常、特許請求の範囲に、『ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する』と記載されていれば、カリウムの含有量は制限されないと理解される。『ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する』が、カリウムを含有しない意味であれば、『ナトリウム(Na)を5?50ppm含有し、カリウムを含有しない』と記載すべきである。このため、『ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する』『カリウム(K)を5?100ppm含有する』は、通常、それぞれ、カリウム、ナトリウムの含有量には制限がないという意味に理解されるが、そうすると『ナトリウム(Na)を5?50ppm及びカリウム(K)を5?100ppm含有する』という記載が無意味になり、且つ、矛盾を生じてしまう。それにもかかわらず、これらの要件を併存させて記載しているから、請求人は、本件特許請求の範囲の記載が不明確であると述べているのである。」(口頭陳述要領書第13ページ13?18行)と主張する。
イ 特許法第36条第6項第2号の趣旨について
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となるのを防止することにある。
そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、発明の技術的範囲を確定できないほど不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
上記観点から、本件特許発明の特許法第36条第6項第2号適合性について検討する。
ウ 本件特許発明1の明確性について
上記第6の1.(1)の記載事項イ、エ及びカによれば、「ナトリウム(Na)」及び「カリウム(K)」とは、合わせガラス用中間膜中に一定量含有するアルカリ金属の具体的な物質名を意味するものと理解できる。
つぎに、「ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有する」の意味するところをみると、一般に、「及び/又は」とは、並列する二つの語句を併合したもの及びいずれか一方の3通りを、一括して示す場合に用いるものである(乙第1号証)から、「ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有する」と記載された場合は、「ナトリウム(Na)を5?50ppm及びカリウム(K)を5?100ppm含有する」、「ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する」、「カリウム(K)を5?100ppm含有する」の3通りの事項を示したものと理解するのが自然な解釈といえる。
そうすると、「ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有する」により特定する本件特許発明1の特許請求の範囲の記載は、その技術的範囲が明確であり、発明の技術的範囲を確定できないほど不明確な内容を含んでいるとはいえない。
また、同様の理由で、本件特許発明2の特許請求の範囲の記載も、その技術的範囲は明確であるといえる。
エ 請求人の主張に対して
この点、請求人は、「『ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する』『カリウム(K)を5?100ppm含有する』は、通常、それぞれ、カリウム、ナトリウムの含有量には制限がないという意味に理解されるが、そうすると『ナトリウム(Na)を5?50ppm及びカリウム(K)を5?100ppm含有する』という記載が無意味になり、且つ、矛盾を生じてしまう。」と主張する。
しかし、上記ウで検討したとおり、アルカリ金属であるナトリウム及びカリウムの含有量は、上記3通りに解釈するのが自然であり、「ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する」又は「カリウム(K)を5?100ppm含有する」の他に、「ナトリウム(Na)を5?50ppm及びカリウム(K)を5?100ppm含有する」というナトリウムとカリウムの両方を含有する場合が記載されていても、本件特許発明1の技術的範囲は明確であるから、請求人の主張は採用できない。
さらに、「ナトリウム(Na)を5?50ppm含有する」場合には、ナトリウム以外の成分の含有量について何ら限定するものではないから、「カリウムを含有しない」との限定を付す必要はなく、同様に、「カリウム(K)を5?100ppm含有する」場合には、カリウム以外の成分の含有量について何ら限定するものではないから、「ナトリウムを含有しない」との限定を付す必要もないことは当然のことである。
そもそも、特許請求の範囲の明確性要件の判断は、特許請求の範囲の記載がそれ自体で明確であるか否かによれば十分であり、解決課題や作用効果いかんに左右されるものではないからである。
オ 小括
以上のとおり、本件の特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でないとすることはできない。
よって、本件特許発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものである。

(2)無効理由1(特許法第36条第6項第1号違反)について
本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものでないものを含んでいるか否か、すなわち、サポート要件を満たすか否かについて、以下に検討する。
ア 本件特許発明1と解決しようとする課題について
本件特許発明1に係る請求項1は、上記第2から明らかなとおり、ポリビニルアセタール樹脂100重量部と、可塑剤である3GO(トリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート)20?60重量部とを主成分とする合わせガラス用中間膜において、3GOが「3GO-ME(トリエチレングリコールモノ2-エチルヘキサノエート)を0.1?5.0重量%含有する」とともに、上記中間膜が「ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有する」ことを発明特定事項とするものであり、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件を満たすためには、発明の詳細な説明に、可塑剤である3GOが「3GO-ME(トリエチレングリコールモノ2-エチルヘキサノエート)を0.1?5.0重量%含有する」とともに、上記中間膜が「ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有する」ことにより、本件特許発明の課題が解決できること、すなわち、合わせガラス用中間膜としての基本的な性能に優れ、且つ、帯電防止性に優れた合わせガラス用中間膜を提供するものであることが本件特許明細書の発明の詳細な説明に具体的に記載されている必要がある。
イ 発明の詳細な説明の記載について
そこで、上記第6の1.(1)の記載事項イ?エによれば、可塑剤である3GOは極性が低いために、中間膜が帯電する傾向が強いことが問題となっていたことから、耐湿性、接着性、透明性、耐候性等の合わせガラス用中間膜としての基本的な性能に優れ、且つ、帯電防止性に優れた合わせガラス用中間膜及びこの中間膜を用いた合わせガラスを提供するという課題が記載され、この課題を解決するために、可塑剤である3GO中のモノエステル成分である3GO-MEの含有量を0.1?5.0重量%の範囲とし、さらにアルカリ金属を一定量含有する場合に、耐湿性、接着性を損なわずに帯電を実用的に問題のないレベルに抑制することが可能であることが記載されているといえる。
ウ 実施例の記載について
そして、上記第6の1.(1)の記載事項キ?コによれば、実施例1?9及び比較例1?6として、PVB(ポリビニルブチラール樹脂)100部に対し、可塑剤としてモノエステルである3GO-MEを一定量(0.05、0.5、1.5、4.2、6.1重量%)含有する3GOを40部、紫外線吸収剤を0.2部、酸化防止剤を0.2部、及び接着力調整剤として酢酸マグネシウム四水和物の25重量%水溶液0.23部と2-エチル酪酸マグネシウムの35重量%水溶液0.37部とを添加した混合物を、ラボプラストミルによって760μmのシート状に成形して合わせガラス用中間膜を製造したこと、得られた合わせガラス用中間膜を両側からフロートガラスで挟み、この狭着体をゴムバッグ内に入れて20torrの真空度で20分間保持した後、真空にしたままの状態で90℃のオーブン内に入れ、30分間保持し、次いで、真空バッグから取り出した挟着体を、オートクレーブ内で温度150℃、圧力13kg/cm^(2)の条件で熱プレスし、合わせガラスを製造したこと、得られた中間膜及び合わせガラスを評価するために、Na及びK含有量については、得られた中間膜を、ICP発光分析法によりNa及びK含有量を分析し、帯電性については、得られた中間膜を、20℃、50%RHの状態で1日間放置した後、表面固有抵抗を表面抵抗測定装置で測定し、耐湿性については、得られた合わせガラスを50℃、95%RHの雰囲気下に2週間放置した後のガラス周縁端部の白化距離を測定し、接着性については、得られた合わせガラスを-18℃±0.6℃の温度下に16時間放置して調整し、このガラスを頭部が0.45kgのハンマーで叩いて、ガラスが部分剥離した後の中間膜の露出度を予めグレード付けした限度見本で判定してパンメル値とするとともに、さらに、同様な評価を50℃で4週間放置した合わせガラスについても行い、パンメル値の変動を調べ、これらの結果を表2にまとめて表示したことが記載されているといえる。
エ 表2に示された3GO中の3GO-MEの含有量とナトリウム又はカリウムの含有量について
a.上記第6の1.(1)の記載事項コの表2によれば、中間膜中のナトリウム含有量を15ppmに固定し、3GO中の3GO-MEの含有量を0.05重量%(比較例1)、0.5重量%(実施例2)、1.5重量%(実施例1)、4.2重量%(実施例3)、6.1重量%(比較例2)と変化させたときの白化距離(mm)は、全て1.0で、耐湿性の評価を満足し、表面固有抵抗(×10^(12)Ω/□)は、それぞれ、13、7.4、6.0、4.8、4.1と減少することから、0.05重量%の場合を除き、帯電性の評価を満足するといえるが、6.1重量%の場合には、パンメル値が初期の7から4に経時変化を生じ、接着性の評価を満足しないことがわかる。
これらのことから、中間膜中のナトリウム含有量を15ppmとした場合、3GO中の3GO-MEの含有量は、0.5?4.8重量%の範囲で帯電性、耐湿性及び接着性の評価を満足するのに対し、3GO中の3GO-MEの含有量が0.1重量%未満である比較例1の中間膜は帯電防止性が劣り、逆に、3GO中の3GO-MEの含有量が5.0重量%を超える比較例2の中間膜は接着力が経時変化するものといえる。
さらに、3GO中の3GO-MEの含有量を1.5重量%に固定し、中間膜中のナトリウム含有量を1ppm(比較例3)、6ppm(実施例4)、15ppm(実施例1)、28ppm(実施例5)、43ppm(実施例6)、60ppm(比較例4)と変化させたときの表面固有抵抗(×10^(12)Ω/□)は、それぞれ、38、8.0、6.0、5.0、3.8、2.9と減少することから、1ppmの場合を除き、帯電性の評価を満足するといえるが、60ppmの場合には、白化距離(mm)が3.5になり、耐湿性の評価を満足しないばかりか、パンメル値が4であり、接着性の評価も満足しないことがわかる。
これらのことから、3GO中の3GO-MEの含有量を1.5重量%とした場合、中間膜中のNaの含有量は、6?43ppmの範囲で帯電性、耐湿性及び接着性の評価を満足するのに対し、中間膜中のNaの含有量が5ppm未満である比較例3の中間膜は帯電防止性が劣り、逆に、含有量が50ppmを超える比較例4の中間膜は耐湿性及び接着性が劣るものといえる。
同様に、3GO中の3GO-MEの含有量を1.5重量%に固定し、中間膜中のカリウムの含有量を1ppm(比較例5)、7ppm(実施例7)、37ppm(実施例8)、94ppm(実施例9)、114ppm(比較例6)と変化させたときの表面固有抵抗(×10^(12)Ω/□)は、それぞれ、34、7.5、3.2、0.9、0.8と減少することから、1ppmの場合を除き、帯電性の評価を満足するといえるが、114ppmの場合には、白化距離(mm)が3.5になり、耐湿性の評価を満足しないばかりか、パンメル値が4であり、接着性の評価も満足しないことがわかる。
これらのことから、3GO中の3GO-MEの含有量を1.5重量%とした場合、中間膜中のカリウムの含有量は、7?94ppmの範囲で帯電性、耐湿性及び接着性の評価を満足するのに対し、中間膜中のKの含有量が5ppm未満である比較例5の中間膜は帯電防止性が劣り、逆に、含有量が100ppmを超える比較例6の中間膜は耐湿性及び接着性が劣るものといえる。
以上のことから、3GO中の3GO-MEの含有量とナトリウム又はカリウムの含有量は、相互に関連して相乗効果があることを実施例の記載から確認できる。
b.一方、審判請求書で請求人が主張するように、発明の詳細な説明に記載された実施例及び比較例には、中間膜中のアルカリ金属として、ナトリウム又はカリウムを単独で含有する例のみが記載され、両者を併用した例は記載されていない。
しかし、ナトリウム(原子量22.991)とカリウム(原子量39.100)は、アルカリ金属の中で、互いに最も似た性質を有する元素であり、中間膜中に含有された場合、その原子量の違いによって同じ重量%であればナトリウムの方がより強くその性質を発揮することが予測され、実際に、実施例においても中間膜中の含有量の上限はカリウムの方が大きいことからも裏付けられているといえ、技術常識からみても、両者の併用を阻害する要因は見当たらない。
c.したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の課題が解決できることを当業者が認識できる程度に具体的に記載されていることから、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、明細書のサポート要件を満たすものといえる。
また、同様の理由で、本件特許請求の範囲の請求項2の記載も、明細書のサポート要件を満たすものといえる。
オ 請求人の主張に対して
a.ナトリウム又はカリウムの含有量が下限値である5ppmで、3GO中の3GO-MEの含有量が下限値である0.1重量%の場合に十分な帯電防止性が得られるのか否かについて
請求人は、本件特許発明について、例えば、実施例4及び実施例7では、ナトリウム又はカリウムの含有量が下限である5ppmに近い値であるが、いずれも3GO中の3GO-MEの含有量が1.5重量%であり、これが下限値である0.1重量%の場合に十分な帯電防止性が得られるのか否かについては、本件特許明細書の実施例の記載からは全く認識できない旨、主張する。
しかし、サポート要件は、明細書の全ての記載事項を考慮して実質的に判断すべきものである。
本件では、上記第6の1.(1)の記載事項エには、「発明1による中間膜においては、可塑剤として用いられるトリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート(以下、3GOという)には、トリエチレングリコールモノ2-エチルヘキサノエート(以下、3GO-MEという)を0.1?5.0重量%含有することが必要であり、後述するアルカリ金属との相乗効果で、帯電防止性の良好な合わせガラス用中間膜を得ることができる。3GO中の3GO-MEの含有量が0.1重量%未満では、得られる中間膜の帯電防止性が不十分であり」と記載されている。
したがって、本件特許発明1が発明の詳細な説明に実質的に記載されたものであることは明らかである。
そして、本件特許発明1の「トリエチレングリコールモノ2-エキルヘキサノエートを0.1?5.0重量%含有する」について、発明の詳細な説明にナトリウム又はカリウムの含有量が下限で、トリエチレングリコールモノ2-エキルヘキサノエートを0.1重量%含有する場合が実施例に記載されていないからといって、直ちにサポート要件違反になるものではないから、請求人の主張は採用できない。
b.可塑剤である3GO中には必然的に3GO-MEが含有されていることについて
請求人は、「ポリビニルアセタール樹脂に対して3GO-MEを含有する3GOを配合する」ことは、本件出願日以前に普通に行われていたことにすぎないとして、通常、3GOは、トリエチレングリコールを2-エチルヘキサン酸と反応させてエステル化することにより製造されるから、100%すべてエステル化されて3GOになることはなく、3GOの他に必然的に少量の3GO-MEが生成するのであり、事実、現在でも、商業的に入手可能な3GOには、いずれも1.5%以下の3GO-MEが含有されている(甲1号証及び甲2号証)ことから、少量の3GO-MEを含有する3GOを可塑剤として合わせガラス用中間膜に用いることはごく普通に行われていたことになり、そうすると、3GOを可塑剤として用いた合わせガラス用中間膜に、取り立てて3GO-MEを添加する必要はなく、そもそも、3GO-MEを含有する3GOを可塑剤として用いた合わせガラス用中間膜であるというだけでは、帯電防止効果すら達成できないことは、本件明細書に記載の比較例3及び5の結果から明らかであり、むしろ、実施例9及び比較例6の結果をみれば、ナトリウム又はカリウムの含有量こそが帯電防止効果に大きく影響することが明白であり、このように、本件発明の合わせガラス用中間膜が、本件課題の一つである優れた帯電防止効果を発揮するためには、ナトリウム及び/又はカリウムの含有量が重要であり、ナトリウム及び/又はカリウムを一定量含むものが本件課題を解決できるというのであれば、それらの範囲において本件課題を解決し得ることが、当業者が理解し得るように明細書に記載されていなくてはならない旨、主張する。
そこで、「ポリビニルアセタール樹脂に対して3GO-MEを含有する3GOを可塑剤として配合する」ことについてみると、上記第6の1.(1)の記載事項オに記載された製造方法からみて、甲第1及び2号証を提示するまでもなく、可塑剤としての3GOが通常、モノエステルである3GO-MEを少量含有することは、本件特許の出願前から知られていたといえる。
しかし、可塑剤としての3GO中のモノエステルである3GO-MEの含有量に着目し、例えば、上記第6の1.(1)の記載事項コの表2のデータによれば、中間膜中のアルカリ金属であるナトリウムの含有量が15ppmのとき、3GO中の3GO-MEの含有量を0.05重量%から6.1重量%までの範囲で変化させると、中間膜の表面固有抵抗値は、3GO-MEの含有量の増加に応じて低下することが裏付けられており、可塑剤としての3GOが通常、モノエステルである3GO-MEを少量含有することが本件出願前に知られていたからといって、3GO中の3GO-MEの含有量を増加させることによって、中間膜の表面固有抵抗値を低下させることは、本件特許の出願前から知られていたとはいえない。
そして、中間膜中のアルカリ金属であるナトリウム又はカリウムの含有量が下限値の5ppmよりも多い15ppmあっても、3GO中の3GO-MEの含有量が所定値以下の場合には、帯電防止効果を発揮しないのであるから、ナトリウム及び/又はカリウムの含有量だけが重要なわけではないことが明らかである。
したがって、本件特許発明の合わせガラス用中間膜が優れた帯電防止性を発揮するのは、可塑剤である3GO中にモノエステルである3GO-MEを0.1?5重量%含有することと、中間膜中にナトリウムを5?50ppm及び/又はカリウムを5?100ppm含有することによる相乗効果であり、中間膜中にナトリウムを5?50ppm及び/又はカリウムを5?100ppm含有することのみによる効果でないから、請求人の主張は採用できない。
カ 小括
以上のとおり、本件特許明細書の特許請求の範囲は、発明の詳細な説明に記載されたものでないものを含んでいるとすることはできない。
よって、本件特許発明1及び2は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1及び2に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-11-27 
出願番号 特願平11-280310
審決分類 P 1 113・ 537- Y (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤代 佳  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 國方 恭子
斉藤 信人
登録日 2008-11-14 
登録番号 特許第4216969号(P4216969)
発明の名称 合わせガラス用中間膜及び合わせガラス  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 井窪 保彦  
代理人 藤野 睦子  
代理人 北原 潤一  
代理人 日野 真美  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 辻 淳子  
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