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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1280262
審判番号 不服2013-598  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-15 
確定日 2013-10-10 
事件の表示 特願2006-339370「SOI基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月 3日出願公開、特開2008-153411〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年12月18日の出願であって、平成24年6月25日付けの拒絶理由に対して、同年8月30日に手続補正がなされるとともに、意見書が提出され、同年10月10日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成25年1月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日に手続補正がなされ、その後、同年4月16日付けで審尋がなされ、同年6月17日に回答書が提出されたものである。

2.補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成25年1月15日になされた手続補正を却下する。

【理由】
(1)補正の内容
平成25年1月15日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし5を、補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3に補正するとともに、明細書を補正するものであり、そのうちの補正前後の請求項1は、以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
主面に厚みが0.2μm以上の酸化膜を有するシリコン基板の主面に水素イオン注入層を形成するイオン注入工程と、石英基板、サファイア基板、または、ガラス基板の何れかである絶縁性基板と前記シリコン基板の少なくとも一方の主面に活性化処理を施す表面処理工程と、前記絶縁性基板と前記シリコン基板の主面同士を貼り合わせる工程と、前記貼り合せ基板の前記シリコン基板からシリコン薄膜を加熱なしに機械的剥離して前記絶縁性基板の主面上にシリコン膜を形成する剥離工程を備え、前記イオン注入工程における前記シリコン基板の温度が400℃以下に保持されることを特徴とするSOI基板の製造方法。」

(補正後)
「【請求項1】
主面に厚みが0.2μm以上の酸化膜を有するシリコン基板の主面に水素イオン注入層を形成するイオン注入工程と、石英基板、サファイア基板、または、ガラス基板の何れかである絶縁性基板と前記シリコン基板の少なくとも一方の主面にプラズマ処理又はオゾン処理の少なくとも一方で活性化処理を施す表面処理工程と、前記絶縁性基板と前記シリコン基板の主面同士を貼り合わせる工程と、該貼り合わせる工程の後に前記絶縁性基板と前記シリコン基板を貼り合わせた状態で400℃以下の温度で熱処理する工程と、該熱処理工程後に前記貼り合せ基板の前記シリコン基板からシリコン薄膜を加熱なしに機械的剥離して前記絶縁性基板の主面上にシリコン膜を形成する剥離工程とを備え、
前記プラズマ処理は、酸素ガス、水素ガス、アルゴンガス、またはこれらの混合ガス、あるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガスにより高周波プラズマを発生させて実行され、前記オゾン処理は、窒素ガスやアルゴンガスにより高周波プラズマを発生させ、当該プラズマによりチャンバ内雰囲気中の酸素をオゾンに変換させて実行される、ことを特徴とするSOI基板の製造方法。」

(2)補正事項の整理
本件補正のうち、補正前の請求項1についての補正を整理すると、次のとおりである。
(補正事項a)
補正前の請求項1の「石英基板、サファイア基板、または、ガラス基板の何れかである絶縁性基板と前記シリコン基板の少なくとも一方の主面に活性化処理を施す表面処理工程と、」を、補正後の請求項1の「石英基板、サファイア基板、または、ガラス基板の何れかである絶縁性基板と前記シリコン基板の少なくとも一方の主面にプラズマ処理又はオゾン処理の少なくとも一方で活性化処理を施す表面処理工程と、」と補正すること。

(補正事項b)
補正前の請求項1の「前記絶縁性基板と前記シリコン基板の主面同士を貼り合わせる工程と、」を、補正後の請求項1の「前記絶縁性基板と前記シリコン基板の主面同士を貼り合わせる工程と、該貼り合わせる工程の後に前記絶縁性基板と前記シリコン基板を貼り合わせた状態で400℃以下の温度で熱処理する工程と、」と補正すること。

(補正事項c)
補正前の請求項1の「前記貼り合せ基板の前記シリコン基板からシリコン薄膜を加熱なしに機械的剥離して前記絶縁性基板の主面上にシリコン膜を形成する剥離工程を備え、」を、補正後の請求項1の「該熱処理工程後に前記貼り合せ基板の前記シリコン基板からシリコン薄膜を加熱なしに機械的剥離して前記絶縁性基板の主面上にシリコン膜を形成する剥離工程とを備え、」と補正すること。

(補正事項d)
補正前の請求項1の「前記イオン注入工程における前記シリコン基板の温度が400℃以下に保持されることを特徴とする」を、補正後の請求項1の「前記プラズマ処理は、酸素ガス、水素ガス、アルゴンガス、またはこれらの混合ガス、あるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガスにより高周波プラズマを発生させて実行され、前記オゾン処理は、窒素ガスやアルゴンガスにより高周波プラズマを発生させ、当該プラズマによりチャンバ内雰囲気中の酸素をオゾンに変換させて実行される、ことを特徴とする」と補正すること。

(3)補正の目的の適否についての検討
上記補正事項のうち、補正事項dは、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「前記イオン注入工程における前記シリコン基板の温度が400℃以下に保持される」という事項を削除するとともに、「前記プラズマ処理は、酸素ガス、水素ガス、アルゴンガス、またはこれらの混合ガス、あるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガスにより高周波プラズマを発生させて実行され、前記オゾン処理は、窒素ガスやアルゴンガスにより高周波プラズマを発生させ、当該プラズマによりチャンバ内雰囲気中の酸素をオゾンに変換させて実行される」という事項を付加するものであるところ、前記「前記イオン注入工程における前記シリコン基板の温度が400℃以下に保持される」という発明特定事項を削除することは、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものでないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。また、補正事項dが、特許法第17条の2第4項のその他のいずれの号に掲げる事項を目的とするものにも該当しないことは明らかである。

(4)補正の却下の決定についてのむすび
以上、検討したとおりであるから、他の補正事項について検討するまでもなく、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成25年1月15日になされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成24年8月30日になされた手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されている事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

4.引用刊行物に記載された発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前である平成12年2月2日に日本国内において頒布された特開2000-36583号公報(以下「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審において付与したものである(以下、同じ。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体基板、半導体薄膜の作製方法および多層構造体に関し、更に詳しくは、絶縁層上に単結晶半導体層を有する半導体基板、Si基板上の単結晶化合物半導体の作製方法、さらに単結晶半導体層に作成される電子デバイス、集積回路に適する多層構造体とその作製方法および多層構造体に関するものである。」
「【0022】本発明の目的は、欠陥の少ない、また膜厚均一性に優れた半導体薄膜の作製方法を提供することにある。
【0023】本発明の別の目的は、SOI層の膜厚均一性に優れたSOI基板の作製方法を提供することにある。」
「【0041】図2から図6を用いて、本発明をより具体的に説明する。
【0042】まず、図2に示すように、一主表面に水素アニール処理された表層部12を有する第1の基板10を用意する。表層部12は、シードとなるバルクウエハを水素を含む還元性雰囲気中で熱処理(以下、「水素アニール」という。)することにより形成することができる。本発明にいう「表層部」とは、OSF、COP、FPDといったバルクウエハであることに起因する欠陥の数が低減された層(低欠陥層)を意味する(以下、「表層部」を「低欠陥層」と記述する場合もある。)。
【0043】11は、水素アニールによるOSF、COP等の欠陥の低減の効果が低い領域である。もちろん、第1の基板10全体が、低欠陥層12となっていてもよい。なお、図2においては、低欠陥層12と領域11がある境界をもって急峻に分かれているように図示してあるが、実際には厳密な境界はなく、徐々に変化している。また、第1の基板10の表面及び裏面が低欠陥層となっていてもよい。
【0044】また、低欠陥層12中にMOSFET等の素子構造を形成した後に以降の工程をおこなってもよい。
【0045】次に、図3に示すように、前記第1の基板10に、水素等のイオン注入を行ない、分離層14を形成する。
【0046】分離層14は、前記低欠陥層12内部あるいは、領域11と低欠陥層12との界面に形成することが望ましい。低欠陥層12の内部に分離層14を形成した場合、低欠陥層12は、分離層14の上部に位置する層16(以下、「SOI層」という。)と、下部に位置する層17に分かれる。また、分離層14を領域11の内部に形成しても良い。
【0047】なお、イオン注入を行なう前後に、必要に応じて絶縁層13を形成してもよい。絶縁層13により貼り合わせ界面の界面準位を活性層から離すことができ、特に、イオン注入工程前に絶縁層13を形成しておけば、イオン注入による低欠陥層12の表面荒れを防止するという点でも効果的である。
【0048】特に、低欠陥層12表面を酸化することで絶縁層を形成しておけば、絶縁層13はこのまま貼り合わせてSOIウエハの埋め込み酸化膜として使用可能である。
【0049】次に、前記第1の基板10を第2の基板15と低欠陥層12が内側に位置するように貼り合わせ、多層構造体18を形成する(図4)。
【0050】その後、図5に示すように、多層構造体18を分離層14を利用して分離する。分離は、分離層14の内部であっても、分離層14の領域11側の界面であっても、若しくは分離層14の第2の基板15側の界面であってもよい。また、一部は分離層14内部で分離され、他の一部は界面で分離されてもよい。
【0051】こうして図5に示すように第2の基板15上にSOI層16が移設された半導体基板が完成する。このSOI層は、低欠陥層12を元に形成されているため、OSF、COP等のバルクウエハに特有の欠陥の無い、あるいは非常に低減されたSOI層となる。」
「【0090】また、第1の基板がシリコン基板である場合には、基板表面を酸化して酸化シリコン層を絶縁層13として用いることができる。また、窒化することにより窒化シリコン層を形成したり、酸化シリコン膜や窒化シリコン膜を低欠陥層12上に、CVDにより堆積させることにより絶縁層13としてもよい。
【0091】絶縁層の厚さ13としては、数nm?数μm程度が好ましい。」
「【0099】イオン注入時の温度は、-200℃から600℃の間で行なうことが好ましく、より好適には500℃以下で、更に好ましくは400℃以下で行なうことが望まれる。これは、凡そ500℃を超えると、投影飛程付近に溜まった注入イオン種が急速に拡散し、第1の基板10から放出されるため、分離層(マイクロバブル層)14が形成されないからである。」
「【0101】(貼り合わせ)第1の基板10と貼り合わせる第2の基板15としては、単結晶シリコン基板、多結晶シリコン基板、非晶質シリコン基板、サファイア基板、あるいは石英基板やガラス基板のような光透過性基板、Al等の金属基板、アルミナなどのセラミックス基板、GaAsやInPなどの化合物半導体基板が挙げられる。第2の基板は、用途に合わせて適宜選択される。適当な平坦性を有していれば、プラスチック等の基板に貼り合わせることも可能である。」
「【0104】多層構造体18の形成は、第1の基板10と第2の基板15を室温で貼り合わせることにより行なう。
【0105】室温で重ね合せる前に、窒素や酸素プラズマで表面を活性化処理して、水洗、乾燥を行うと、次工程の貼り合わせ強度を強める熱処理をより低温化出来る。」
「【0111】(分離)多層構造体18の分離は、熱処理することにより行なうことができる。具体的には、400℃以上、1350℃以下、より好ましくは400℃以上、1000℃以下、さらに好ましくは400℃以上、600℃以下である。」
「【0122】多層構造体18の分離方法として、高水圧等のジェット流を利用することもまた好ましいものである。
【0123】イオン注入層(分離層14)での分離を行なうために、高圧の水流をノズルから噴射するいわゆるウォーター・ジェット法を用いてもよい。また水を使用せずアルコールなどの有機溶媒やふっ酸、硝酸などの酸あるいは水酸化カリウム等のアルカリその他の分離領域を選択的にエッチングする作用のある液体なども使用可能である。さらに流体として空気、窒素ガス、炭酸ガス、希ガスなどの気体を用いても良い。あるいは、低温の流体、超低温の液体を用いてもよい。」
「【0126】なお、ジェット流で分離する場合には、多層構造体18の温度は、-200℃から450℃の範囲内で行なう。好ましくは、室温以上350℃以下である。」

(2)そうすると、引用刊行物には、以下の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。

「表層部12を有し、前記表層部12を酸化することで絶縁層13が形成されたシリコンからなる第1の基板10に、400℃以下で水素のイオン注入を行ない、分離層14を形成し、
前記第1の基板10と、サファイア基板あるいは石英基板やガラス基板のような光透過性基板である第2の基板15を、窒素や酸素プラズマで表面を活性化処理して、水洗、乾燥を行ったのちに、前記表層部12が内側に位置するように貼り合わせ、多層構造体18を形成し、
ジェット流を利用し、前記多層構造体18を前記分離層14を利用して分離する
SOI基板の作製方法。」

5.対比
(1)刊行物発明の「表層部12を有し、前記表層部12を酸化することで絶縁層13が形成されたシリコンからなる第1の基板10」と、本願発明の「主面に厚みが0.2μm以上の酸化膜を有するシリコン基板」とは、「主面に酸化膜を有するシリコン基板」という点で共通する。そして、刊行物発明の「水素のイオン注入を行ない、」「形成」された「分離層14」は、本願発明の「水素イオン注入層」に相当するから、刊行物発明の「表層部12を有し、前記表層部12を酸化することで絶縁層13が形成されたシリコンからなる第1の基板10に、400℃以下で水素のイオン注入を行ない、分離層14を形成」することと、本願発明の「主面に厚みが0.2μm以上の酸化膜を有するシリコン基板の主面に水素イオン注入層を形成するイオン注入工程」とは、「主面に酸化膜を有するシリコン基板の主面に水素イオン注入層を形成するイオン注入工程」という点で共通する。

(2)刊行物発明の「サファイア基板あるいは石英基板やガラス基板のような光透過性基板である第2の基板15」は、本願発明の「石英基板、サファイア基板、または、ガラス基板の何れかである絶縁性基板」に相当するから、刊行物発明の「前記第1の基板10と、サファイア基板あるいは石英基板やガラス基板のような光透過性基板である第2の基板15を、窒素や酸素プラズマで表面を活性化処理」することは、本願発明の「石英基板、サファイア基板、または、ガラス基板の何れかである絶縁性基板と前記シリコン基板の少なくとも一方の主面に活性化処理を施す表面処理工程」に相当する。

(3)刊行物発明の「前記第1の基板10と、サファイア基板あるいは石英基板やガラス基板のような光透過性基板である第2の基板15を、」「前記表層部12が内側に位置するように貼り合わせ、多層構造体18を形成」することは、本願発明の「前記絶縁性基板と前記シリコン基板の主面同士を貼り合わせる工程」に相当する。

(4)刊行物発明の「ジェット流を利用し、前記多層構造体18を」「分離する」ことは、本願発明の「機械的剥離」に相当する。そして、刊行物発明において、「前記多層構造体18を前記分離層14を利用して分離」すると、「第2の基板」の主面上にシリコン膜が形成されることは明らかであるから、刊行物発明の「ジェット流を利用し、前記多層構造体18を前記分離層14を利用して分離する」ことと、本願発明の「前記貼り合せ基板の前記シリコン基板からシリコン薄膜を加熱なしに機械的剥離して前記絶縁性基板の主面上にシリコン膜を形成する剥離工程」とは、「前記貼り合せ基板の前記シリコン基板からシリコン薄膜を機械的剥離して前記絶縁性基板の主面上にシリコン膜を形成する剥離工程」という点で共通する。

(5)そうすると、本願発明と刊行物発明とは、
「主面に酸化膜を有するシリコン基板の主面に水素イオン注入層を形成するイオン注入工程と、石英基板、サファイア基板、または、ガラス基板の何れかである絶縁性基板と前記シリコン基板の少なくとも一方の主面に活性化処理を施す表面処理工程と、前記絶縁性基板と前記シリコン基板の主面同士を貼り合わせる工程と、前記貼り合せ基板の前記シリコン基板からシリコン薄膜を機械的剥離して前記絶縁性基板の主面上にシリコン膜を形成する剥離工程を備え、前記イオン注入工程における前記シリコン基板の温度が400℃以下に保持されることを特徴とするSOI基板の製造方法。」
である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1)本願発明の「シリコン基板」は、「主面に厚みが0.2μm以上の酸化膜を有する」のに対して、刊行物発明においては、「絶縁層13」の厚みが特定されていない点。

(相違点2)本願発明では、「前記貼り合せ基板の前記シリコン基板からシリコン薄膜を加熱なしに機械的剥離して」いるのに対して、刊行物発明では、「ジェット流を利用し、前記多層構造体18を前記分離層14を利用して分離する」際の温度については、特定がなされていない点。

6.判断
以下、相違点について、以下、検討する。
(1)相違点1について
シリコン基板と支持基板とを絶縁層を介在させて貼り合わせる、いわゆる「貼り合わせ法」を用いたSOI基板の作成方法において、当該絶縁層の厚みをどの程度にするかということは、要求されるSOI基板の厚み、機械的強度、SOI層の電気的特性等に応じて、当業者が適宜設定し得る設計的事項であるところ、引用刊行物の段落【0091】には、「絶縁層の厚さ13としては、数nm?数μm程度が好ましい。」と記載されており、刊行物発明においても、「絶縁膜13」の厚みを0.2μm以上とすることにより、本願発明のように、「主面に厚みが0.2μm以上の酸化膜を有するシリコン基板」という構成にすることは、当業者が必要に応じて、適宜なし得たことと認められる。そして、その効果も、当業者が予測し得る範囲にあるものと認められる。
よって、相違点1は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(2)相違点2について
引用刊行物の段落【0123】には、「イオン注入層(分離層14)での分離を行なうために、高圧の水流をノズルから噴射するいわゆるウォーター・ジェット法を用いてもよい。また水を使用せずアルコールなどの有機溶媒やふっ酸、硝酸などの酸あるいは水酸化カリウム等のアルカリその他の分離領域を選択的にエッチングする作用のある液体なども使用可能である。さらに流体として空気、窒素ガス、炭酸ガス、希ガスなどの気体を用いても良い。あるいは、低温の流体、超低温の液体を用いてもよい。」と記載され、段落【0126】には、「なお、ジェット流で分離する場合には、多層構造体18の温度は、-200℃から450℃の範囲内で行なう。好ましくは、室温以上350℃以下である。」と記載されていることから、ジェット流で分離する際の温度については、ジェット流として使用する液体あるいは気体の種類に応じて、当業者が適宜設定し得る設計的事項と認められ、刊行物発明において、ジェット流として使用する液体あるいは気体の種類を適宜選択して、室温で分離することより、本願発明のように、「前記貼り合せ基板の前記シリコン基板からシリコン薄膜を加熱なしに機械的剥離」する構成とすることは、当業者が必要に応じて、適宜なし得たことと認められる。そして、その効果も、当業者が予測し得る範囲にあるものと認められる。
よって、相違点2は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(5)以上検討したとおり、本願発明と刊行物発明との相違点は、いずれも当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものにすぎず、本願発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-08 
結審通知日 2013-08-13 
審決日 2013-08-27 
出願番号 特願2006-339370(P2006-339370)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 57- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 俊哉  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小野田 誠
加藤 浩一
発明の名称 SOI基板の製造方法  
代理人 大野 聖二  
代理人 片山 健一  
代理人 森田 耕司  

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