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審決分類 |
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 A46D 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A46D |
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管理番号 | 1280297 |
審判番号 | 無効2011-800265 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-12-22 |
確定日 | 2013-10-29 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3981290号発明「回転歯ブラシの製造方法及び製造装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3981290号は、平成14年4月1日に出願された特願2002-99172号に係り、平成19年7月6日にその請求項1ないし7に係る発明について特許権の設定登録が行われた。 本件無効審判は、平成23年12月22日に、無効審判請求人 株式会社STBヒグチ(以下、「請求人」という。)により、「本件特許の特許請求の範囲の請求項2及び請求項3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める」として請求がなされたものであって、本件審判の手続の概要は以下のとおりである。 平成23年12月22日 本件無効審判請求 平成24年 3月19日 答弁書 平成24年 7月 9日 口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成24年 7月10日 口頭審理陳述要領書(請求人) 平成24年 7月19日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人) 平成24年 7月23日 口頭審理 平成24年 8月 6日 上申書(被請求人) 平成24年 8月 7日 上申書(請求人) 平成24年 8月10日 上申書(2)(被請求人) 平成24年 8月30日 上申書(2)(請求人) II.請求人の主張 請求人は「特許第3981290号発明の特許請求の範囲の請求項2及び請求項3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし、証拠方法として甲第1号証-甲第12号証を提出し、次の無効理由を主張する。 1.無効理由1 請求人が主張する無効理由1の概要は以下のとおりである。 請求人が提示した甲第3号証に記載された請求人実施方法が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない(審判請求書)、また、請求項2及び請求項3に係る発明に含まれる「他の具体例」が想定されるが、その「他の具体例」について、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をもってしても当業者がその実施をすることができない十分な理由があるから、請求項2及び請求項3に係る発明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない(口頭審理陳述要領書)と主張し、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項2及び請求項3に係る発明を当業者が実施できる程度に記載されていないから、請求項2及び請求項3に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項の規定に違反した出願に対してなされたものであるから、特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 2.無効理由2 請求人が主張する無効理由2の概要は以下のとおりである。 請求人が提示した甲第3号証に記載された請求人実施方法は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは実施できず、明細書の発明の詳細な説明に記載された課題を解決できないから、発明の詳細な説明の説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである(審判請求書)、また、請求項2及び請求項3に係る発明に含まれる「他の具体例」が想定されるが、その「他の具体例」が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載も示唆もされておらず、請求項2及び請求項3に係る発明と、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明とが実質的に対応していないから、本件特許の請求項2及び請求項3に係る発明は、特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでない(口頭審理陳述要領書)と主張し、請求項2及び請求項3に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反した出願に対してなされたものであるから、特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 <証拠方法> 甲第1号証:特許第3981290号公報(本件特許公報) 甲第2号証:請求人が被請求人に対して請求した前回無効審判(無効2011-800066)の第1回口頭審理調書 甲第3号証:請求人が被請求人に対して請求した前回無効審判(無効2011-800066)の平成23年11月8日付け口頭審理陳述要領書(被請求人) 甲第4号証:web表示データ:コスモシステム株式会社HP、製品案内>超音波溶着機 内、「超音波溶着の原理(技術説明)」 平成24年7月5日検索<インターネットアドレス:http://www.cosmo-stm.com/ultrasonic/about-us-welding.html> 甲第5号証:web表示データ:プロソニック株式会社HP、超音波プラスチック溶着機 内、「超音波溶着の原理」 平成24年7月5日検索<インターネットアドレス:http://www.prosonic.co.jp/welding/theory/> 甲第6号証:被請求人が製造する回転ブラシの実施例の平面拡大写真、被請求人撮影 甲第7号証:請求人が製造する回転ブラシの実施例の平面拡大写真、被請求人撮影 甲第8号証:「新・注解 特許法【上巻】」第664?665頁、編集者 中山信弘、小泉直樹、発行 株式会社青林書院 甲第9号証:被請求人が製造する回転ブラシの羽根単体の実施例と、請求人が製造する円筒状ブラシの羽根単体の実施例それぞれについての引張強度試験成績証明書、請求人作成 甲第10号証:「超音波応用加工」第174?177頁、編者 社団法人 日本塑性加工学会、発行 森北出版株式会社 甲第11号証:「超音波便覧」第689頁、編者 超音波便覧編集委員会、発行 丸善株式会社 甲第12号証:「実験成績証明補足書」 請求人会社作成 III.被請求人の主張 被請求人は「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める」ことを答弁の趣旨とし、証拠方法として乙第1号証-乙第2号証を提出し、次のとおり主張する。 1.本件の請求項2及び請求項3に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号の規定に違反する出願に対してなされたものではなく、無効とすべきものではない。 <証拠方法> 乙第1号証:「特許 実用新案 審査基準」第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件 第1?5、20?23頁 編集 特許庁、発行 一般社団法人 発明推進協会 乙第2号証:「特許 実用新案 審査基準」平成24年改訂発行、第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件 第20?30頁 編集 特許庁、発行 一般社団法人 発明推進協会 IV.本件特許の特許請求の範囲の請求項2及び請求項3の記載 本件特許における特許請求の範囲の請求項2及び請求項3の記載は次のとおりである。 「【請求項2】 多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法であって、 多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させる第1の工程と、 この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程と、 開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する第3の工程と、 溶着された中央部分の中心部を切除する第4の工程とからなる回転ブラシのブラシ単体の製造方法。 【請求項3】 多数枚を重ねて回転ブラシを形成するためのブラシ単体の製造装置であって、 多数の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔を設けた台座と、 素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させて保持するチャックと、 素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノズルと、 開かれた素線群を台座に固定する押え体と、 素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する溶着機と、 溶着機による溶着部分の中心部を切除する切除手段とを備えている回転ブラシのブラシ単体の製造装置。」 V.当審の判断 1.無効理由1について (1)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項 本件特許明細書の段落【0003】には、「ところで、以上のように製作される回転ブラシは、そのブラシ単体の厚みを均一とするには熟練を要し、ブラシ単体の厚みが不均一の場合は回転ブラシの毛足密度が不均一となる。しかも、工程数が多く複雑な工程を要するので、一貫した連続製造が困難で回転歯ブラシの製造コストも高くなる。」と、その課題が記載され、段落【0004】には、「回転歯ブラシを構成するブラシ単体を高度な熟練を要することなく、しかもできるだけ工程数少なく効率良く製造できるブラシ単体の製造方法とその装置を提供し、ひいては回転歯ブラシを量産化可能とする製造方法を提供することを目的とする。」と、その目的が記載され、段落【0044】には、「本発明によれば、均一な厚さのブラシ単体の製造を可能とし、しかも高度な熟練を要することなく製造することができるので、量産化を可能とし、しかも素線の重なりを少なくすることができたブラシ単体を高速度で効率良く製造することができ、回転歯ブラシの均質化及び量産化が可能となった。」と、その効果が記載されている。 また、段落【0005】?【0043】、【図1】?【図15】には、本件実施態様発明として、次の発明が記載されている。 「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法であって、 多数の素線を束状に集合させてなる素線群1を台座2に設けた挿通孔2aから上方に一定量突出した状態で保持させる工程と(段落【0024】、【図3】参照)、 この素線群1の突出端の上端中央にノズル4の空気通路41からエアを吹き込んで素線群1を放射方向に開く工程と(段落【0025】、【図4】、【図5】参照)、 開かれた素線群1を押え体5によって台座2に固定した状態で素線群の中央部分を溶着機6の先端により溶着する工程と(段落【0027】、【図7】参照)、 溶着された中央部分の中心部をノズル4の先端に形成した切除手段7により切除する工程と(段落【0028】、【図8】参照) からなる回転ブラシのブラシ単体の製造方法。」(以下、「本件実施態様発明1」という。) また、上記段落【0005】?【0043】、【図1】?【図15】には、本件実施態様発明として、次の発明も記載されている。 「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するためのブラシ単体の製造装置であって、 多数の素線1aを束状に集合させてなる素線群1を通す挿通孔2aを設けた台座2と、 素線群を掴んで台座2の挿通孔2aから一定量突出させて保持するチャック3と、 素線群1の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノズル4と、 開かれた素線群1を台座2に固定する押え体5と、 素線群1を台座2に固定した状態で素線群1の中央部分を溶着する溶着機6と、 溶着機6による溶着部分の中心部を切除する切除手段7とを備えている回転ブラシのブラシ単体の製造装置。」(以下、「本件実施態様発明2」という。) (2)本件請求項2に係る発明と本件特許明細書の詳細な説明に記載された発明との対比及びその実施可能要件 本件請求項2に係る発明と本件実施態様発明1とを対比すると、本件実施態様発明1の「挿通孔2aから上方に一定量突出した状態で保持させる」という点は、本件請求項2に係る発明の「挿通孔から外方に一定量突出させる」に包含されるものであるから、本件請求項2に係る発明の「多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させる第1の工程」は本件実施態様発明1の「多数の素線を束状に集合させてなる素線群1を台座2に設けた挿通孔2aから上方に一定量突出した状態で保持させる工程」に相当する。以下、同様に「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程」は「この素線群1の突出端の上端中央にノズル4の空気通路41からエアを吹き込んで素線群1を放射方向に開く工程」に、「開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する第3の工程」は「開かれた素線群1を押え体5によって台座2に固定した状態で素線群の中央部分を溶着機6の先端により溶着する工程」に、「溶着された中央部分の中心部を切除する第4の工程」は「溶着された中央部分の中心部をノズル4の先端に形成した切除手段7により切除する工程」に相当する。したがって、本件実施態様発明1は、本件請求項2に係る発明の発明特定事項を全て有しており、本件請求項2に係る発明の実施例に相当するものであって、本件請求項2に係る発明が発明の詳細な説明の記載から読み取れることは明かである。 そして、「回転ブラシのブラシ単体の製造方法」という物を生産する方法の発明である本件請求項2に係る発明の実施例である本件実施態様発明1について、原材料として、「例えばナイロン等の熱可塑生樹脂の素線1aを束状に集合させてなる素線群」を用いることが段落【0013】に記載されており、その処理工程として、第1の工程から第4の工程までが、段落【0024】?段落【0028】及び【図3】?【図9】に記載されており、生産物である「ブラシ単体9」が得られることが段落【0029】に記載されているから、回転ブラシのブラシ単体の製造方法を成す、原材料、その処理工程、生産物が本件特許明細書の発明の詳細な説明に明確に記載され、その明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造できるように記載されている。そして、その製造方法により、段落【0044】に記載された効果を奏するものである。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が、本件請求項2に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。 (3)請求項3に係る発明と本件特許明細書の詳細な説明に記載された発明との対比及びその実施可能要件 本件請求項3に係る発明と本件実施態様発明2とを対比すると、本件請求項3に係る発明の「多数の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔を設けた台座」は本件実施態様発明2の「多数の素線1aを束状に集合させてなる素線群1を通す挿通孔2aを設けた台座2」に相当する。以下、同様に「素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させて保持するチャック」は「素線群を掴んで台座2の挿通孔2aから一定量突出させて保持するチャック3」に、「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノズル」は「素線群1の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノズル4」に、「開かれた素線群を台座に固定する押え体」は「開かれた素線群1を台座2に固定する押え体5」に、「素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する溶着機」は「素線群1を台座2に固定した状態で素線群1の中央部分を溶着する溶着機6」に、「溶着機による溶着部分の中心部を切除する切除手段」は「溶着機6による溶着部分の中心部を切除する切除手段7」に相当する。したがって、本件実施態様発明2は、本件請求項3に係る発明の発明特定事項を全て有しており、本件請求項3に係る発明の実施例に相当するものであって、本件請求項3に係る発明が発明の詳細な説明の記載から読み取れることは明かである。 そして、「回転ブラシのブラシ単体の製造装置」という物の発明である本件請求項3に係る発明の実施例である本件実施態様発明2について、その構成部材である「台座2」、「チャック3」、「ノズル4」、「押え体5」、「溶着機6」、「切除手段7」の個々の構成・機能及びそれらの相互の関連を示す構成及びその動作機構が、段落【0013】?【0022】、【図1】?【図9】に記載されており、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその「回転ブラシのブラシ単体の製造装置」を製造できるように記載されている。 さらに、明細書の段落【0023】?【0035】、【図1】?【図9】には、その製造装置の動作状況が説明され、当該製造装置を使用して、回転ブラシのブラシ単体を連続的に製造する点も記載されており、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその「回転ブラシのブラシ単体の製造装置」を使用できるように記載されている。 そして、その「回転ブラシのブラシ単体の製造装置」により、段落【0044】に記載された効果を奏するものである。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が、本件請求項3に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。 (4)請求人の主張について 請求人は、本件請求項2及び請求項3に係る発明について、本件特許明細書に記載された実施態様とは異なる「他の具体例」が想定され、その「他の具体例」が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をもってしても当業者がその実施をすることができない十分な理由があるから、本件請求項2及び請求項3に係る発明は当業者が実施できる程度に明確にかつ十分に説明されていないと主張している。(平成24年7月10日 請求人提出の口頭審理陳述要領書) そこで、請求人が提示し、かつ、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をもってしても当業者がその実施をすることができない十分な理由があると主張する、他の具体例2、他の具体例4、他の具体例6、他の具体例8について検討する。 a.「他の具体例2」について 請求人は、本件請求項2及び請求項3に係る発明の構成である「開かれた素線群」が、「エアのみを吹き込んで放射状に開かれただけの素線群」という具体例1のほかに「エアの吹き込みとともにエア以外の他の接触手段(たとえば押し込み装置などの機械的手段)によっても開かれた素線群」という他の具体例2が想定されるが、これは、具体例1とは明らかに異なる形態となり、この形態の相違に伴って固定手段や溶着条件、溶着後の状態の後処理等が大きく相違すると考えられるが、これらの相違に対応すべき材料、装置、固定などが不明瞭であり、しかもそれらが出願時の技術常識に基づいて当業者が理解できない程度に多様性を有しており、このため、特に具体例2の場合においては、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとは言えない具体的理由が存在すると主張する。 しかしながら、本件請求項2及び請求項3に係る発明の構成である「開かれた素線群」について、「エアの吹き込みとともにエア以外の他の接触手段(たとえば押し込み装置などの機械的手段)によっても開かれた素線群」という他の具体例2が想定されたとしても、そのような実施態様の発明についても、素線群の材料や寸法、接触手段の構成、固定状態などを考慮して、出願時の技術常識に基づいて当業者であれば十分実施できることであり、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとは言えない具体的理由が存在するものではない。 b.「他の具体例4」について 請求人は、本件請求項2及び請求項3に係る発明の構成である「台座に固定した状態」が、「『溶着中に素線群の位置ずれや浮き上がりを防止するための固定状態』という具体例3のほかに「『溶着後に素線群が溶着手段にくっついて持ち上がるのを防止するため』に継続的に非加圧固定した状態」という他の具体例4が想定されるが、これは、固定の態様が明らかに異なると主張し、特に具体例4の場合においては、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとは言えない具体的理由が存在すると主張する。 しかしながら、本件請求項2及び請求項3に係る発明の構成である「台座に固定した状態」について、「『溶着後に素線群が溶着手段にくっついて持ち上がるのを防止するため』に継続的に非加圧固定した状態」という他の具体例4が想定されたとしても、台座に素線群を固定する目的は、溶着や切断を含む素線群の加工処理の過程において素線群をずれないようにするためのものであることは、本件特許明細書に接した当業者であれば当然認識できることであり、その目的達成のために、固定手段または固定機構を備えるようにすることは、出願時の技術常識に基づいて当業者が十分理解できることであるから、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとは言えない具体的理由が存在するものではない。 c.「他の具体例6」について 請求人は、本件請求項2に係る発明の構成である「溶着された中央部分」が、”「中央部分を溶着する第3の工程」によって溶着が終了(完了)したもの”の中央部分のみをいい、これを切除した具体例5のほかに”「中央部分を溶着する第3の工程」によって溶着が終了(完了)する前のもの(完全には溶着されていないものの部分的にまたは工程進行的に溶着されつつある第3の工程中のものを切除した他の具体例6が想定されるが、これは、溶着状態や切除状態、ないしは切除後の素線群の状態が明らかに異なると主張し、特に具体例6の場合においては、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとは言えない具体的理由が存在すると主張する。 しかしながら、第3の工程は、溶着された素線群の中央部分を切除し、ブラシ単体から回転ブラシを構成するために必要な「環状部」を形成するためのものであり、溶着部分がある程度固化し、切除後にその環状部が維持される程度に溶着されていれば十分その目的を達せられることは、本件特許明細書に接した当業者であれば当然認識できることであり、その切除タイミングが適宜設定され得ることは、出願時の技術常識に基づいて当業者が十分理解できることであるから、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとは言えない具体的理由が存在するものではない。 d.「他の具体例8」について 請求人は、本件請求項2に係る発明の構成である「中央部分の中心部」、請求項3に係る発明の構成である「溶着部分の中心部」の用語の意義は、溶着された(或いは溶着されつつある)溶着対象部分を含むか、溶着されない非溶着部分を含むかにおいて不明確であり、「溶着対象の中心部分」を切除する具体例7に加え、「溶着部分の中央側であって、溶着されない非溶着部分の中心部」を切除する具体例8も請求項2に係る発明の具体的な実施例として具体的に想定されるが、具体例7と具体例8とでは、中心部切除後の再切除工程や切除タイミング、切除方向、切除刃の具体的構成等が大きく相違すると主張し、特に具体例8の場合においては、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとは言えない具体的理由が存在すると主張する。 しかしながら、溶着された中心部の切除は、ブラシ単体から回転ブラシを構成するために必要な環状部をブラシ単体に形成するためのものであることは明らかであり、切除後に、その環状部が維持され、かつ、回転ブラシ構成時においても、環状部に所望の強度が得られるようなっていれば十分その目的を達せられることは、本件特許明細書に接した当業者であれば当然認識できることであり、また、切除部の状態や切除方向、切除部の強度を考慮して、その切除刃の方向、形状を定め得ることや、各製造工程のタイミングを考慮して切除のタイミングを定め得ることは、出願時の技術常識に基づいて当業者が十分理解できることであるから、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとは言えない具体的理由が存在するものではない。 以上のとおり、請求人が主張する、他の具体例が想定されるとしても、本件請求項2及び請求項3に係る発明が、本件特許明細書に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとは言えない具体的理由が存在するものではない。 (5)小括 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件請求項2及び請求項3に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件特許は特許法第36条第4項の規定に違反する出願に対してなされたものではないから、当該理由により本件請求項2及び請求項3に係る発明についての特許を無効とすることはできない。 2.無効理由2について (1)本件特許明細書の記載事項 本件特許の明細書には、上記V.1.(1)に記載のとおり、本件発明の目的、効果、実施態様が記載されている。 (2)本件請求項2に係る発明と本件特許明細書に記載された発明との対比 上記V.1.(2)に記載のとおり、本件特許明細書に記載された本件実施態様発明1は、本件請求項2に係る発明の発明特定事項に対応する構成を全て有している。 そして、請求項2に係る発明は、多数の素線を束状に集合させてなる素線群を、第1の工程から第4の工程を実施して回転ブラシのブラシ単体を製造しており、ブラシ単体を製造するために必要な工程が特定されており、本件実施態様発明1を参酌すれば、本件特許明細書の段落【0003】に記載された本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。 本件請求項2に係る発明が、出願時の技術常識に照らしても、本件請求項2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合、または、本件請求項2において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合に該当するものでもない。 したがって、本件請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (3)本件請求項3に係る発明と本件特許明細書に記載された発明との対比 上記V.1.(2)に記載のとおり、本件特許明細書に記載された本件実施態様発明2は、本件請求項3に係る発明の発明特定事項に対応する構成を全て有している。 そして、本件請求項3に係る発明は、回転ブラシのブラシ単体の製造装置を構成する「台座2」、「チャック3」、「ノズル4」、「押え体5」、「溶着機6」、「切除手段7」を有しており、回転ブラシのブラシ単体の製造装置に必要な構成を特定しており、本件実施態様発明2を参酌すれば、本件特許明細書の段落【0003】に記載された本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。 また、本件請求項3に係る発明が、出願時の技術常識に照らしても、本件請求項3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合、または、本件請求項3において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合に該当するものでもない。 したがって、本件請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (4)請求人の主張 請求人は、本件請求項2及び請求項3に係る発明に含まれる他の具体例が明確に想定され、その他の具体例が発明の詳細な説明に記載されておらず、本件請求項2及び請求項3に係る発明と発明の詳細な説明とが実質的に対応しておらず、本件請求項2及び請求項3に係る発明が特許法第36条第6項第1号の規定に違反する旨主張している。 しかしながら、請求人主張の他の具体例が想定されたとしても、上記V.2.(2)、(3)で述べたとおり、本件請求項2及び請求項3に係る発明が、出願時の技術常識に照らしても、本件請求項2及び請求項3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合に該当する、または、本件請求項2及び請求項3において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合に該当する、という理由は発見できない。 (5)小括 したがって、本件請求項2及び請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものではないから、当該理由により本件請求項2及び請求項3に係る発明についての特許を無効とすることはできない。 VI.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件請求項2及び請求項3に係る発明についての特許を無効にすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-09-03 |
結審通知日 | 2012-09-05 |
審決日 | 2012-09-19 |
出願番号 | 特願2002-99172(P2002-99172) |
審決分類 |
P
1
123・
537-
Y
(A46D)
P 1 123・ 536- Y (A46D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 冨江 耕太郎 |
特許庁審判長 |
山口 直 |
特許庁審判官 |
田合 弘幸 関谷 一夫 |
登録日 | 2007-07-06 |
登録番号 | 特許第3981290号(P3981290) |
発明の名称 | 回転歯ブラシの製造方法及び製造装置 |
代理人 | 川角 栄二 |
代理人 | 高橋 司 |
代理人 | 柳舘 隆彦 |
代理人 | 塩田 哲也 |
代理人 | 向江 正幸 |
復代理人 | 森田 拓生 |
代理人 | 福島 三雄 |
代理人 | 高崎 真行 |