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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1280464
審判番号 不服2010-20057  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-07 
確定日 2013-10-11 
事件の表示 特願2004-568506「TSG遺伝子ノックアウト動物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月 2日国際公開、WO2004/074483〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権を伴う平成15年8月29日(優先権 平成15年2月20日、特願2003-42137号)を国際出願日とする出願であって、平成21年12月25日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成22年6月1日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月7日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.平成22年9月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成22年9月7日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により、特許請求の範囲の請求項6?10が削除され、請求項1は補正前の、
「【請求項1】TSG遺伝子の発現が人為的に抑制されている疾患モデル遺伝子改変非ヒト哺乳動物であって、該疾患が中胚葉に由来する組織の発達不全を伴う疾患であることを特徴とする疾患モデル遺伝子改変非ヒト哺乳動物。」から、
「【請求項1】TSG遺伝子の発現が人為的に抑制されている疾患モデル遺伝子改変マウスであって、該疾患が中胚葉に由来する組織の発達不全を伴う疾患であることを特徴とする疾患モデル遺伝子改変マウス。」へと補正された。
上記請求項1の補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定する事項である「疾患モデル遺伝子改変非ヒト哺乳動物」を「疾患モデル遺伝子改変マウス」と限定するものであって、その補正前と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の2001年に頒布された刊行物である国際公開第01/18200号(以下、「引用例1」という。)には、
(イ)「本発明は、マウス胚AGM領域由来の新規なTSG様蛋白質およびその遺伝子に関する。」(第1頁第4行?第5行)、
(ロ)「その結果、本発明者らは、ショウジョウバエTSG遺伝子と相同性を有する新規な蛋白質をコードする遺伝子を単離することに成功した。TSG遺伝子は胚の背側決定因子の1つであり、DPP(BMP2/4のカウンターパート)との相互作用により、dorsal midline cellの分化を決定していることが知られている(Mason E. D., et. al., Genes and Development, 8, 1489?1501)。TSG蛋白質はBMPと結合することが報告された(Oelgeschlager M. et al. (2000) Nature 405, 757-763)ことから、単離されたTSG様遺伝子は、TSG遺伝子との構造的類似性によりBMP2/4と相互作用することが予想される。また、このTSG様遺伝子はマウス胚AGM領域から単離されたことより、造血幹細胞の発生に関与していることが示唆される。」(第2頁第7行?第16行)、
(ハ)「本発明は、ショウジョウバエTSG遺伝子と相同性を有する新規な蛋白質に関する。本発明者らにより単離されたマウス由来のcDNAの塩基配列を配列番号:1に、該cDNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。この蛋白質は、そのN末端にシグナル配列を持ち、ショウジョウバエの胚の背側決定因子であるTSGタンパク質と相同性を有する。マウス組織由来のmRNAのノーザンブロット解析の結果、心臓・肺・肝臓・腎臓において約4.0kbのシグナルが認められた。また、胎生9、10、11、12、13日胚においても発現していることが確認された。この蛋白質が胚のAGM領域から単離されたこと、さらに初期胚において発現していること、TSG蛋白質と相同性を有しBMP2/4と相互作用が推定されること、そしてBMP2/4は血球系の分化に必要であること、さらにはTSG蛋白質がBMPと結合し、BMPのシグナリング活性を促進する(Oelgeschlager M. et al. (2000) Nature 405, 757-763)ことなどから、この蛋白質は、造血細胞分化、および骨形成などに関与している可能性が示唆される。」(第4頁第1行?第13行)、
(ニ)「得られたDNA断片についての塩基配列を決定しアミノ酸に翻訳したところ、単離された遺伝子(clone 106)は、Drosophilaの遺伝子であるtwisted gastrulation(TSG)(Mason E. D., et. al., Genes and Development, 8, 1489?1501)とアミノ酸レベルで33%の相同性をもつことが判明した(図1)。DrosophilaのTSG遺伝子は胚の背側決定因子の一つと考えられ、この遺伝子の突然変異により中胚葉由来であるdorsal midline cellのみが分化できない。」(第35頁第18行?第23行)、と記載されている(下線は当審による。)。
そして、配列表の配列番号1には、マウスから単離されたTSG様遺伝子のcDNAの塩基配列が記載されている。
そうすると、引用例1には、配列番号1のヌクレオチド配列を有するマウスTSG様遺伝子に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

また、本願優先日前の2001年に頒布された刊行物であるMammalian Genome (2001) Vol.12, p.554-560(以下、「引用例2」という。)は、「哺乳類tsgの進化的保存、発生発現とゲノムマッピング」という表題の学術文献であって、
(ホ)「ヒトTSGとショウジョウバエTSGとのアミノ酸配列の同一性は39.3%、相同性は53.6%であるが、24のシステイン残基のすべては、ショウジョウバエと脊椎動物とで保存されており、二次構造は高度に保存されている。」(557頁左欄第3行?第7行)、
(ヘ)「ヒトTSGと、マウスTSG、アフリカツメガエルTSG、ゼブラフィッシュTSGとのアミノ酸配列の同一性は、それぞれ97.5%、89.2%、87.1%であり、脊椎動物のTSGタンパク質は互いに非常に良く似ている。」(557頁左欄第10行?第13行)と記載され、引用例2には、ショウジョウバエTSGと哺乳動物のTSGとが進化的に高度に保存されていることが記載されている。

さらに、本願優先日前の2002年に頒布された刊行物であるJ. Exp. Med. (2002) Vol.196, No.2, p.163-171(以下、「引用例3」という。)は、「tsgの発生学的に制御された発現は、T細胞発生の制御におけるBMPの役割を明らかにする。」という表題の学術文献であって、
(ト)「進化的に保存されており、分泌タンパク質であるTsgは、ショウジョウバエではdpp、脊椎動物ではその相同体であるBMP2/4の初期胚中での形態形成の機能を調節する。」(163頁要約の項第1行?第3行)、
(チ)「TsgはBMPの阻害剤であるchordinと協働して、BMP4が仲介する胸腺細胞の増殖と分化の阻害をブロックする。」(163頁要約の項第9行?第10行)と記載され、164頁左欄「材料と方法」の項第1行?第2行には、マウス由来の胸腺を用いたことが記載されている。

(3)対比
本願補正発明1の「TSG遺伝子」について、本願明細書には、
「実施例1 TSGの標的化破壊
本発明者らがマウス大動脈-性腺-中腎(AGM)領域から単離したマウスTSG cDNA(アクセッション番号:NCBI NO.BD013053)は、長さが4.0kbでTSG蛋白質(アクセッション番号:NCBI NO.AAG00605)のアミノ酸222個をコードし、」と記載されており、このアクセッション番号BD013053のヌクレオチド配列は、引用例1の配列番号1のマウスTGS様遺伝子のヌクレオチド配列と同一である。
そこで、本願補正発明1と引用発明とを比較すると、本願補正発明1のマウス「TSG遺伝子」と引用発明のマウス「TSG様遺伝子」は、同一のものであるから、両者は、マウスTSG遺伝子に関連するものである点で共通するが、本願補正発明1は、TSG遺伝子の発現が人為的に抑制されている疾患モデル遺伝子改変マウスであって、該疾患が中胚葉に由来する組織の発達不全を伴う疾患であるのに対して、引用発明では、TSG遺伝子の発現が人為的に抑制されている、いわゆるノックアウトした疾患モデル遺伝子改変マウスを作成していない点で相違する。

(4)当審の判断
本願優先日前、遺伝子の生体内機能を探る目的で遺伝子をノックアウトしたマウスを作成し、当該マウスの性質を解析して遺伝子の機能を解明することは、既に自明の技術的課題であり、かつ、常套手段(例えば、原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された国際公開第01/98508号公報参照。)であったから、引用発明のマウスTSG遺伝子の機能を解明するために、そのマウス遺伝子を破壊するノックアウトマウス(以下、「KOマウス」という。)を作成することは、当業者であれば何ら困難なくなし得たことである。
ところで、引用例1には、TSG遺伝子がマウス胚AGM領域から単離されたこと、及びショウジョウバエTSGとの構造類似性から、マウスTSGの機能について、ショウジョウバエTSGと同様にBMP2/4と相互作用し、造血細胞分化及び骨形成に関与することが示唆されている(引用例1記載事項(ロ)、(ハ))。ここで、血液細胞や骨格が中胚葉に由来する組織であることは技術常識であり、しかも、引用例1には、ショウジョウバエTSG遺伝子が突然変異すると中胚葉由来である細胞のみが分化できないことが具体的に記載されている(引用例1記載事項(ニ))。
そうすると、上記のようにして作成されたKOマウスが、中胚葉に由来する組織の発達不全を伴うものであることは、引用例1の上記記載及び技術常識から推認可能なことである。
また、上記引用例2には、ショウジョウバエTSGと哺乳動物のTSGとが進化的に高度に保存されていることが記載され、上記引用例3には、ショウジョウバエと同様に脊椎動物においても、TSGはBMP2/4の初期胚中での形態形成の機能を調節していること(引用例3記載事項(ト))、及びマウスにおいてBMP4が仲介する胸腺細胞の増殖と分化にTSGが関与すること(引用例3記載事項(チ))が記載されているから、上記のようにして作成されたKOマウスが、中胚葉に由来する組織の発達不全を伴うものであることは、上記引用例2、3の記載からも推認可能なことである。
さらに、KOマウスを疾患モデルマウスとすることは、本願優先日前当業者が適宜なし得たことであるから、引用発明のマウスTSG遺伝子を破壊して作成したKOマウスを、中胚葉に由来する組織の発達不全を伴う疾患のモデルとすることは、上記引用例1、又は1?3の記載から当業者が適宜なし得たことである。
そして、本願補正発明1が、当業者が予測できない程の格別な効果を奏するとも認められない。
したがって、本願補正発明1は、引用例1、又は1?3の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)審判請求人の主張
審判請求人は、平成22年9月7日付審判請求書において、引用例1はTSGそのものの利用について述べているが、本願はTSGを欠損させ消失させたマウス、すなわちTSGそのものを全く利用しないマウスであるから、引用例1と本願はその技術的思想を異にしている旨主張している。
しかしながら、本願優先日前、一旦マウスの遺伝子がクローニングされれば、その生体内での機能を解明するためにそのKOマウスを作成することは、既に自明の課題及び常套手段であったから、審判請求人の上記主張は採用できない。
また、審判請求人は、ノックアウト動物の作製には、多くの問題点・数多の障害が存在することは技術常識であり、例えば胚生致死となったり、何ら表現形質に差が出なかったりして解析が困難になることがあるにもかかわらず、本願では、TSG遺伝子KOマウスが胎生致死にならずに作出できること、さらにTSG遺伝子ノックアウトマウスが中胚葉に由来する組織の発達不全を伴う疾患のモデルマウスとなることを見出した旨も主張している。
しかしながら、本願優先日前、ノックアウト動物の作成自体は既にルーティンワークであり、常套手段であった以上、当業者であればTSG遺伝子のKOマウスを当然作成してみるはずであり、その結果、胚生致死でなかっただけのことであり、また、中胚葉に由来する組織が発達不全であることも上記(4)で述べたように、当業者が推認可能であるから、審判請求人の上記主張も採用できない。

(6)むすび
以上のとおり、本願補正発明1は、引用例1?3の記載から当業者であれば容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成22年9月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本出願に係る発明は、平成21年12月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものである。
そのうち、請求項1、6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明6」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】TSG遺伝子の発現が人為的に抑制されている疾患モデル遺伝子改変非ヒト哺乳動物であって、該疾患が中胚葉に由来する組織の発達不全を伴う疾患であることを特徴とする疾患モデル遺伝子改変非ヒト哺乳動物。」
「【請求項6】TSGまたはTSGをコードするDNAを有効成分として含有する、薬物による骨量減少、骨粗しょう症、骨折、または、薬物による成長抑止の治療または予防のための薬剤。」

(1)特許法第29条第2項
原査定の拒絶の理由で引用した引用例1の記載事項及び引用発明は、上記2.(2)に記載のとおりのものである。
そして、本願発明1は、本願補正発明1を包含するものであるから、上記2.(4)において、本願補正発明1が引用例1の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであるとしたのと同じ理由により、本願発明1は引用例1の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)特許法第36条第4項第1号
本願発明6は、TSGまたはTSGをコードするDNAを有効成分として含有する、薬物による骨量減少、骨粗しょう症、骨折、または、薬物による成長抑止の治療または予防のための薬剤に係るものである。
本願明細書には、TSG欠損マウスは、成長遅延、骨形成遅延、腎形成遅延、リンパ系細胞の枯渇が観察されること(実施例2?4)について具体的に記載されているのみで、TSGやそれをコードするDNAを、本願発明6で特定された疾患の薬剤として有効に使用できたことを示す実施例等の具体的記載はない。
そればかりか、実施例5には、「TSG機能の分子メカニズムを解明するために、BMP-4シグナル伝達の下流で起こる現象について調べた。10日齢の+/+および-/-同腹仔の胸腺細胞におけるSMAD1のセリンリン酸化について調べた。図16Aに示されるように、SMAD1はインビボにおいては、胸腺細胞中で既にリン酸化されており、in vitroにおいては、組み換えTSGの存在あるいは非存在下でのBMP-4によるさらなる細胞の刺激は、SMAD1のリン酸化にほとんど影響を及ぼさなかった。」と記載されており、10日齢の+/+及び-/-同腹仔の胸腺細胞にTSGを加えても、BMP-4シグナル伝達に何らの変化も生じなかったことが記載されている。BMP-4は骨形成タンパク質であるから、むしろ骨量減少、骨粗しょう症、骨折のための薬剤として効果がないことが示されているとさえいえる。
また、「薬物による骨量減少、骨粗しょう症、骨折、または、薬物による成長抑止」という薬物による疾病は、発生にかかわるTSG遺伝子の不全によるものとはいえず、これらの疾患がTSGを補う後からのTSG投与により治療/予防し得るとは、本願出願時の技術常識を参酌しても推認できない。
したがって、本願の発明の詳細な説明には、出願時の技術常識を考慮しても、TSGやTSGをコードするDNAを有効成分として含有する薬物による、骨量減少、骨粗しょう症、骨折、または、薬物による成長抑止の治療または予防のための薬剤を、使用できる程度に記載されているとはいえない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また、本願請求項6に記載の発明について、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-16 
結審通知日 2013-08-19 
審決日 2013-08-30 
出願番号 特願2004-568506(P2004-568506)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01K)
P 1 8・ 575- Z (A01K)
P 1 8・ 121- Z (A01K)
P 1 8・ 536- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 田中 晴絵
冨永 みどり
発明の名称 TSG遺伝子ノックアウト動物  
代理人 清水 初志  
代理人 新見 浩一  
代理人 新見 浩一  
代理人 清水 初志  

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