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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L |
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管理番号 | 1280522 |
審判番号 | 不服2011-21594 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-10-06 |
確定日 | 2013-10-15 |
事件の表示 | 特願2009-500832「新規なポリマー組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月27日国際公開、WO2007/107519、平成21年 8月27日国内公表、特表2009-530461〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 本願は,国際出願日である平成19年3月16日(パリ条約による優先権主張 平成18年3月17日(米国),同年6月22日(欧州特許庁),同年8月3日(欧州特許庁))を出願日とする特許出願であって,平成20年11月13日に特許法184条の4第1項の規定による翻訳文が提出され(以下,特許法184条の6第2項の規定により明細書とみなされたものを「本願明細書」という。),平成22年3月16日に特許請求の範囲が補正され,同年6月21日付けで拒絶理由が通知され,同年12月28日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され(なお,当該意見書を補足するとの趣旨で,平成23年1月4日に上申書が提出されている。),平成23年5月31日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年10月6日に拒絶査定不服審判が請求された。 第2 本願発明について 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成22年12月28日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び本願明細書の記載からみて,その請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「ポリエーテルエーテルケトン,ポリエーテルケトンケトン,およびポリエーテルエーテルケトン-ポリエーテルケトンケトンコポリマーから選択されるポリ(アリールエーテルケトン)(P1), ポリフェニルスルホン(P2),および 補強繊維(F), を含むポリマー組成物(C)であって, ポリエーテルエーテルケトンの繰り返し単位の50質量%を超えるものが式: 【化1】 の繰り返し単位であり, ポリエーテルケトンケトンの繰り返し単位の50質量%を超えるものが,次式: 【化2】 の繰り返し単位であり, ポリエーテルエーテルケトン-ポリエーテルケトンケトンコポリマーの繰り返し単位の50質量%以下のものが,次式: 【化3】 の繰り返し単位であり,及び ポリエーテルエーテルケトン-ポリエーテルケトンケトンコポリマーの繰り返し単位の50質量%以下のものが,次式: 【化4】 の繰り返し単位であり, 但しポリエーテルエーテルケトン-ポリエーテルケトンケトンコポリマーの繰り返し単位の50質量%を超えるものが,繰り返し単位(I)および(II)から選択される繰り返し単位であり,及び ポリフェニルスルホン(P2)の繰り返し単位の50質量%を超えるものが,次式: 【化5】 の繰り返し単位(R2)であり, 前記補強繊維(F)の量は,前記ポリマー組成物の全質量を基準にして,12質量%超であり, 前記ポリ(アリールエーテルケトン)(P1)の量は,ポリ(アリールエーテルケトン)(P1)とポリフェニルスルホン(P2)の全質量を基準にして,20質量%超80質量%未満であり, ポリ(アリールエーテルケトン)(P1)とポリフェニルスルホン(P2)の全質量は,前記ポリマー組成物(C)の全質量を基準にして,35質量%超85質量%未満であることを特徴とする,上記ポリマー組成物(C)。」(なお,上記【化1】?【化5】については,以下,審決の便宜のため,その構造式の記載を省略し,単に【化1】?【化5】とのみ記す。) 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。 引用文献1:特開平2-6552号公報 第4 本願が拒絶されるべき理由 1 引用発明 (1) 査定の理由で引用された上記引用文献1には,次の記載がある。(下線は本審決による。以下同じ。) 「(1) 本質的組成分として(A)10乃至89重量%のポリアリールエーテルスルホンと,(B)10乃至89重量%のポリアリールエーテルケトンと,(C)(C1)1500乃至30000の範囲の分子量Mn(審決注:「M」は上にバーが付く。分子量を示す記号として用いる場合において,以下同じ。)を有するポリアリールエーテルスルホンブロック20乃至98モル%及び(C2)ポリアリールエーテルケトンブロック2乃至80モル%から成る,1乃至30重量%の共重縮合物とを含有する耐高熱性の熱可塑性成形材料。 (2) 請求項(1)による耐高熱性の熱可塑性成形材料であって,ポリアリールエーテルスルホン(A)が式(I)及び/或は(II) (式中,X,X′,Q,Q′,W及びW′は相互に無関係に-SO_(2)-,-O-,化学的結合或は-CRR′-であることができ,置換基X,Q或はWの少くとも1個は-SO_(2)-であり,R及びR′はそれぞれ水素,C_(1)?C_(6)アルキル基もしくはC_(1)?C_(6)アルコキシ基,アリール基或はその弗素もしくは塩素誘導体を意味し,p,q及びrは0或は1の数値を意味する)の,或はその核置換C_(1)?C_(6)アルキル或はアルコキシ,アリール,塩素もしくは弗素誘導体の単位で構成されていることを特徴とする材料。 (3) 請求項(1)或は(2)による耐高熱性の熱可塑性成形材料であって,ポリアリールエーテルケトン(B)が式(III)及び/或は(IV) (式中,Y,Y′,T,T′,Z及びZ′が-CO-,CR″R''',化学結合或は-O-であることができ,置換基Y,T及びZ乃至Y′,T′及びZ′の少くとも1個が-CO-であり,R″及びR'''がR及びR′と同じ意味を有し,s,t及びuが0或は1の数値を意味する)の,或はその核置換C_(1)?C_(6)アルキル,C_(1)?C_(6)アルコキシ,アリール,塩素或は弗素誘導体の単位で構成されていることを特徴とする材料。」(特許請求の範囲。なお,上記式(I),(II),(III)及び(IV)については,以下,審決の便宜のため,構造式及びその注記を含め,それぞれ式I,II,III及びIVとのみ記す。) 「しかしながら,全般的にこれらの材料は,ことにその衝撃強度特性について必ずしも十分に満足すべきものではない。 そこで,この分野における技術的課題は,均斉のとれた一連の諸特性,ことに良好な衝撃強さにおいて優れている,ポリアリールエーテルスルホン及びポリアリールエーテルケトンを主体とする混合物(ブレンド)を提供することである。 (発明の要約) この技術的課題は,冒頭において規制された本発明による耐高熱,熱可塑性成形材料により解決される。」(2頁右上欄下から4行?左下欄8行) 「一般式(I)及び(II)の繰返し単位の好ましい例を以下に掲記する。… 」(3頁左上欄14行?右上欄5行) 「本成形材料は,さらに補強作用充填剤,場合により透明ピグメント,及び他の助剤及び添加剤で変性され得る(組成分E)。 補強作用する充填剤としては,例えばアスベスト,炭素,ことにガラスの繊維が使用されるが,この場合ガラス繊維は直径5乃至20μm,好ましくは8乃至15μmであって,成形加工後の平均長さが0.05乃至1mm,ことに0.1乃至0.5mmを示す,富アルカリ分Eガラスから成るガラス織成物,マット,フリース及び/或はことにガラス紡績ロービング或は切断ガラス紡糸の形態で使用される。ガラス紡績ロービング或は切断ガラス紡糸で補強された成形材料は,全量に対し10乃至60重量%,ことに20乃至50重量%の補強材料を含有するが,含浸ガラス織成物,マット,フリースの場合は成形材料全量に対して10乃至80重量%,ことに30乃至60重量%含有される。」(6頁右下欄10行?7頁左上欄6行) 「以下の実施例に示される還元粘度η_(red)(比粘度を濃度で割った数)は,25℃において4-クロルフェノール/1,2-ジクロルベンゼン(重量割合3:2)中1重量%溶液(ポリアリールエーテルスルホン)乃至96重量%H_(2)SO_(4)溶液中1重量%溶液(ポリアリールエーテルケトン)で測定したものである。 実施例 … 各実施例において以下のポリアリールエーテルスルホンが使用された。 … … 以下の繰返し単位を有するポリアリールエーテルケトンが使用された。 」(7頁左上欄下から3行?右下欄下から2行) (2) 上記(1)の摘記,特に特許請求の範囲ならびに補強作用充填剤に係る記載から,引用文献1には,次の発明(引用発明)が記載されていると認める。 「本質的組成分として,10乃至89重量%の式I或いはIIからなるポリアリールエーテルスルホンと,10乃至89重量%の式III或いはIVからなるポリアリールエーテルケトンと,1500乃至30000の範囲の分子量Mnを有するポリアリールエーテルスルホンブロック20乃至98モル%及びポリアリールエーテルケトンブロック2乃至80モル%から成る1乃至30重量%の共重縮合物とを含有し,補強作用充填剤として,10乃至60重量%のガラス繊維を含有する耐高熱性の熱可塑性成形材料。」 なお,引用文献1には,補強作用充填剤は任意成分として含有される旨記載されており,また,補強作用充填剤としてフリースなどが選択されるとき,その含有量は成形材料全量に対して最大で「80重量%」採りうる旨の記載があることなどを併せ勘案すると,上記引用発明の認定において,補強作用充填剤としてのガラス繊維の上記含有割合(「10乃至60重量%」)は,熱可塑性成形材料全体における割合を示し,ポリアリールエーテルスルホン,ポリアリールエーテルケトン並びに共重縮合物それぞれの上記含有割合(「10乃至89重量%」,「10乃至89重量%」,「1乃至30重量%」)は,熱可塑性成形材料全体からガラス繊維を除いた部分における割合を示す(引用発明の上記各成分の含有割合について説示するとき,以下同じ。)。 2 対比 本願発明と引用発明を対比すると,引用発明の「式I或いはIIからなるポリアリールエーテルスルホン」は,引用文献1に好ましい例として掲記されている「(I7)」(3頁右上欄)や実施例で掲記の「A_(3)」(7頁左下欄)の繰り返し単位を含むものであり,これら繰り返し単位は本願発明の【化5】の繰り返し単位と同じであるから,本願発明の「ポリフェニルスルホン(P2)」に相当する。また,引用発明の「式III或いはIVからなるポリアリールエーテルケトン」は,引用文献1の実施例で掲記されている「B_(1)」や「B_(4)」の繰り返し単位を含むものであり,これら繰り返し単位は本願発明の【化1】や【化2】の繰り返し単位と同じであるから,本願発明の「ポリ(アリールエーテルケトン)(P1)」に相当するといえる。また,本願明細書(【0030】)には,本願発明の「補強繊維」の例としてガラス繊維が挙げられていることからすれば,補強作用充填剤として含有された引用発明の「ガラス繊維」は,本願発明の「補強繊維(F)」に相当する。さらに,引用発明の「熱可塑性成形材料」は,本願発明の「ポリマー組成物(C)」に相当するのは明らかである。 そして,本願発明の「ポリマー組成物(C)」は,ポリアリールエーテルスルホンブロックとポリアリールエーテルケトンブロックとからなる共重縮合物が含有されることを何ら排除していないことからして,本願発明と引用発明とは,少なくとも次の点で一致し(一致点),次の点で相違する(相違点)といえる。 ・ 一致点 ポリエーテルエーテルケトン,ポリエーテルケトンケトンから選択されるポリ(アリールエーテルケトン)(P1),ポリフェニルスルホン(P2),および,補強繊維(F)を含むポリマー組成物(C)であって,ポリエーテルエーテルケトンの繰り返し単位の50質量%を超えるものが【化1】の繰り返し単位であり,ポリエーテルケトンケトンの繰り返し単位の50質量%を超えるものが【化2】の繰り返し単位であり,及びポリフェニルスルホン(P2)の繰り返し単位の50質量%を超えるものが【化5】の繰り返し単位(R2)である,上記ポリマー組成物(C) ・ 相違点 ポリアリールエーテルケトン,ポリフェニルスルホン並びに補強繊維の量について,本願発明は「前記補強繊維(F)の量は,前記ポリマー組成物の全質量を基準にして,12質量%超であり,前記ポリ(アリールエーテルケトン)(P1)の量は,ポリ(アリールエーテルケトン)(P1)とポリフェニルスルホン(P2)の全質量を基準にして,20質量%超80質量%未満であり,ポリ(アリールエーテルケトン)(P1)とポリフェニルスルホン(P2)の全質量は,前記ポリマー組成物(C)の全質量を基準にして,35質量%超85質量%未満」と特定するのに対し,引用発明は,10乃至89重量%のポリアリールエーテルスルホン,10乃至89重量%のポリアリールエーテルケトン,10乃至60重量%のガラス繊維を含有する旨を特定する点 3 相違点についての判断 (1) 引用発明の解決課題 ア 引用文献1の記載(上記1(1))から,引用発明が解決しようとする課題は,一義的には,1500乃至30000の範囲の分子量Mnを有するポリアリールエーテルスルホンブロック20乃至98モル%及びポリアリールエーテルケトンブロック2乃至80モル%から成る共重縮合物を1乃至30重量%含有させることで,衝撃強度特性(良好な衝撃強さ)に優れた耐高熱性を有するポリアリールエーテルスルホン及びポリアリールエーテルケトンを主体とする混合物を提供することにあるといえる。さらに,引用発明は,10乃至60重量%のガラス繊維を含有してなることで,補強作用をさらに向上させたものであるということができる。 イ(ア) ところで,本願発明は,本願明細書の記載(例えば,【0002】?【0004】,【0006】,【0045】)からみて,高い剛性と環境応力破壊抵抗性を含む高い耐薬品性の発揮の点でポリ(アリールエーテルケトン)と補強繊維とからなるものと実質的に同等の効果を奏する組成物を提供することを解決課題とするものであるといえる。 他方,引用文献1には,引用発明がそのような課題を解決するものであることについての記載は見あたらない。 (イ) そこで,引用発明の解決課題についてさらに検討するに,本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭61-106666号公報(原査定の拒絶の理由において,引用文献2として引用されたもの。以下「引用文献2」という。)には,次の記載がある。 「1.ビフェニル含有ポリ(アリールエーテルスルホン)と,ポリ(アリールエーテルケトン)とより成るブレンド。… 5.ポリ(アリールエーテルスルホン)が,下記の繰り返し単位: を有するものである特許請求の範囲第1項に記載したブレンド。… 14.ポリ(アリールエーテルケトン)が,次式 で表わされる繰り返し単位を有するものである,特許請求の範囲第1項記載のブレンド。… 16.ポリ(アリールエーテルケトン)が,次式 で表わされる繰り返し単位を有するものである,特許請求の範囲第1項記載のブレンド。…」(特許請求の範囲) 「発明の背景 本発明は,ビフェニル含有ポリ(アリールエーテルスルホン)と,ポリ(アリールエーテルケトン)とより成るブレンドに関する。これらのブレンド(配合物)は,特殊な混和性と,優れた機械的相容性とを有する。これらのブレンドは,それから成型した物品において,一層高いモジュラス,衝撃抵抗性,耐溶剤性及び環境応力割れに対する抵抗性を含む諸性質の良好な平衡を呈する。」(4頁左上欄2?10行) 「その他の添加剤を本発明のブレンドに包含させることが出来ることは,当業者には勿論明らかである。これらの添加剤には,可塑剤,顔料,消炎剤,補強剤例えばガラス繊維,熱安定剤,紫外線安定剤,耐衝撃改変剤などが包含される。 本発明のブレンドは,任意所望の形態すなわち,成型剤,被覆剤(塗料),フィルムまたは繊維に成形することが出来る。これらはギヤー(歯車),ベアリング(軸受)などに使用することができる。」(9頁左上欄13行?最下行) 「実施例1乃至4のサンプルを雌型中360℃で,20ミル厚さ,4×4インチのブラックに圧縮成形した。 20ミルの小板を,圧縮成形した試片から1/8”幅に剪断した。これらのサンプルに,レバーア-ム重量集成装置(lever-arm weighting arrangement)を用いて張力をかけた。綿棒を試片の中心に配置し,そして時間ゼロにおいて試験環境により飽和させた。サンプルが2時間以内に破壊しなかった場合を除き,破壊に要した時間を測定し,次いでサンプルの定性的特性(たとえば,ひび割れおよび脆化)に注目した。 環境応力破壊の結果は表II中に示す。ポリケトンI対ポリスルホンIの添加が,後者の耐環境応力破壊性を改良し,特にポリケトンが20重量%を超える量で存在する場合に,改良されることが理解される。」(11頁左下欄) 「ビフェニル含有ポリ(アリールエーテルスルホン)へのポリ(アリールエーテルケトン)の添加は,改良された耐溶剤性および耐環境応力破壊性をもたらすことになる。」(16頁右上欄9?12行) また,実施例において,アセトンなどの環境下における環境応力破壊の結果が示されている(表IIなど)。 (ウ) そうすると,上記引用文献2の摘記から,本願の優先日において,ビフェニル含有ポリ(アリールエーテルスルホン)とポリ(アリールエーテルケトン)とより成るブレンド(成形材料)が衝撃抵抗性や耐溶剤性及び環境応力割れに対する抵抗性を奏することは当業者に自明の技術事項であるといえるところ,ここでいう耐溶剤性及び環境応力割れに対する抵抗性とは本願発明の解決課題に係る環境応力破壊抵抗性を含む耐薬品性と同義であると解されること,また,引用発明もビフェニル含有ポリ(アリールエーテルスルホン)とポリ(アリールエーテルケトン)とよりなるブレンドであってさらにガラス繊維を含有するものであることを総合すると,引用文献1に明示的記載はないものの,当業者は,引用発明の熱可塑性成形材料が,上述したような剛性などの優れた衝撃強度特性を発揮するとともに,本願発明と同様,環境応力破壊抵抗性を含む耐薬品性を発揮するものであることを容易に理解するといえる。 (2) 相違点についての具体的判断 ア そこで,上記(1)の見地を踏まえて上記相違点について検討するに,引用発明は,10乃至89重量%のポリアリールエーテルスルホンと10乃至89重量%のポリアリールエーテルケトンを主体とする混合物とすることで環境応力破壊抵抗性を含む耐薬品性を有し,さらに10乃至60重量%のガラス繊維を含有することで剛性などの補強作用を向上させたものと解されるところ,引用発明の課題を解決するにあたり,その解決手段である上記各成分(ポリアリールエーテルスルホン,ポリアリールエーテルケトン及びガラス繊維)の成形材料中における含有割合を上記数値範囲(「10乃至89重量%」,「10乃至89重量%」,「10乃至60重量%」)でそれぞれ設定することは,何ら困難でない。相違点に係る本願発明の構成は,上記各成分の含有割合を上記数値範囲で当業者が適宜設定した単なる設計事項にすぎないものである。 イ 本願明細書の記載(例えば,【0064】)によれば,本願発明は,ポリ(アリールエーテルケトン)と補強繊維とからなるものと実質的に同等の耐薬品性を有するものでありながら,より安価であるといった効果を奏するものであると解されるところ,本願発明と引用発明とは,上述のとおり,ポリアリールエーテルケトン,ポリフェニルスルホン並びに補強繊維の量について相違しているにすぎず,ポリアリールエーテルケトン,ポリフェニルスルホン及び補強繊維を含む点で何ら異なるものでないから,引用発明も,本願発明と同様に,ポリ(アリールエーテルケトン)と補強繊維とからなるものと実質的に同等の耐薬品性を有しつつ安価な組成物を提供するといった効果を奏するものである。 よって,本願発明は,安価であるかどうかの点で,引用発明に比し,顕著な効果を奏するとはいえない。 ウ 請求人は,本願発明の補強繊維(F)の量がポリマー組成物の全質量を基準にして12質量%超であることの技術的意義について,出願の後に補充した追加の実験例(実施例2a,比較例2b及び比較例2cの対比によるポリマー組成物の耐薬品性の評価)の結果を踏まえて,本願発明は,補強繊維の量が12質量%以下のものに比し,環境応力破壊抵抗性の点で有利な効果を奏する旨主張する(審判請求書15頁)。 しかし,このような本願発明の効果は,本願の当初明細書(本願明細書の内容と同じである。)において明らかにしていなかった事項であり,しかも本願の当初明細書に当業者において当該効果を認識できる程度の記載やこれを推論できる記載があると認められないので,上記実験結果を参酌することは許されない。 すなわち,本願明細書の記載,例えば 「ポリマー組成物(C)の全質量を基準にして,補強繊維(F)の量は,有利には12質量%を超え…。」(【0013】), 「補強繊維(F) いかなる補強繊維であっても,補強繊維(F)としては望ましい。当業者ならば,その組成物および想定される末端用途に最も適した補強繊維を容易に認識することができるであろう。一般的には,補強繊維(F)は,その化学的性質,その長さ,直径,ブリッジングすることなくコンパウンディング装置に素直にフィードできる性能,および表面処理(特に補強繊維(F)とポリマーとの間に良好な界面接着性があると,ブレンド物の剛性および靱性が改良されるため)に合わせて選択される。」(【0029】), 「補強繊維(F),特にガラス繊維は,高温サイジングを用いて製造されているのが好ましい。本願出願人の観察したところでは,前記高温サイジングによって,一般的に高温で加工することが必要なポリマー,たとえばPEEK,PEKK,およびPPSUとの間で優れた界面接着性が得られる。…」(【0032】) からは,本願発明は,補強繊維を含有することで剛性及び靱性を良好なものとするといった課題を解決し,さらに補強繊維の量を12質量%超とすることで当該解決課題の点で有利な効果を奏することが当業者が認識できたといえるにとどまり,補強繊維の量を12質量%超とすることで環境応力破壊抵抗性の点で有利な効果を奏することまで認識できたということはできない。ましてや,下限値12質量%について,その内と外とで上記効果に顕著な差異(いわゆる臨界的意義)を見いだすこともできない。 追加の実験例を踏まえた請求人の上記主張は,採用の限りでない。 また,仮に追加の実験に基づく上記主張が許されるとしても,上記実験からは,補強繊維として特定のガラス繊維(VETROTEX(登録商標)グレードSGVA910)を用いた場合に有利な効果が認められることが立証できたにすぎず,本願明細書の【0030】で例示されるような補強繊維のすべての場合において,同様に,優れた環境応力破壊抵抗性を呈するとはいえない。 4 小活 したがって,本願発明は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると,本願の請求項2?16に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 第5 むすび よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-05-15 |
結審通知日 | 2013-05-20 |
審決日 | 2013-06-03 |
出願番号 | 特願2009-500832(P2009-500832) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 のぞみ、柴田 昌弘 |
特許庁審判長 |
渡辺 仁 |
特許庁審判官 |
須藤 康洋 蔵野 雅昭 |
発明の名称 | 新規なポリマー組成物 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 大塚 裕子 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 箱田 篤 |