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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1280553
審判番号 不服2012-19081  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-28 
確定日 2013-10-15 
事件の表示 特願2007-213152「超重防食塗料、その塗装方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年3月5日出願公開、特開2009-46564〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成19年8月17日の出願であって、平成24年5月24日付けで拒絶理由が通知され、同年7月24日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月16日付けで拒絶査定され、同年9月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年11月9日付けで前置審査の結果が報告され、当審において平成25年1月28日付けで審尋され、同年3月18日に回答書が提出されたものである。

II.補正の却下の決定
[決定の結論]
平成24年9月28日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年9月28日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号に掲げる場合の補正であって、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(平成24年7月24日付け手続補正書参照)の
「ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス、防錆顔料、体質顔料、着色顔料を有する主剤とポリアミドアミン系硬化剤とから構成されるエポキシ樹脂系下塗り塗料と、
変性アクリルポリオール樹脂ワニス、アクリル表面調整剤、着色顔料を有する主剤とイソシアネート樹脂ワニス硬化剤とから構成されるウレタン樹脂系上塗り塗料とを備え、
前記エポキシ樹脂系下塗り塗料の主剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス25?35重量%、防錆顔料8?12重量%、体質顔料、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され、
前記エポキシ樹脂系下塗り塗料の主剤と前記ポリアミドアミン系硬化剤との混合比を、重量比で5:1?7:1とし、
前記ウレタン樹脂系上塗り塗料の主剤は、変性アクリルポリオール樹脂ワニス55?65重量%、アクリル表面調整剤0.1?0.5重量%、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され、
前記ウレタン樹脂系上塗り塗料の主剤とイソシアネート樹脂ワニス硬化剤との混合比を、重量比で9:1?11:1とし、
前記エポキシ樹脂系下塗り塗料により膜厚15?200μmの第1の塗膜を形成し、
前記ウレタン樹脂系上塗り塗料により膜厚15?150μmの第2の塗膜を形成することを特徴とする超重防食塗料。」から、
「ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス、防錆顔料、体質顔料、着色顔料を有する主剤とポリアミドアミン系硬化剤とから構成されるエポキシ樹脂系下塗り塗料と、
変性アクリルポリオール樹脂ワニス、アクリル表面調整剤、着色顔料を有する主剤とイソシアネート樹脂ワニス硬化剤とから構成されるウレタン樹脂系上塗り塗料とを備え、
前記エポキシ樹脂系下塗り塗料の主剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス25?35重量%、防錆顔料8?12重量%、体質顔料、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され、
前記エポキシ樹脂系下塗り塗料の主剤と前記ポリアミドアミン系硬化剤との混合比を、重量比で5:1?7:1とし、
前記ウレタン樹脂系上塗り塗料の主剤は、変性アクリルポリオール樹脂ワニス55?65重量%、アクリル表面調整剤0.1?0.5重量%、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され、
前記ウレタン樹脂系上塗り塗料の主剤とイソシアネート樹脂ワニス硬化剤との混合比を、重量比で9:1?11:1とし、
前記エポキシ樹脂系下塗り塗料により膜厚125?200μmの第1の塗膜を1回塗りで形成し、
前記ウレタン樹脂系上塗り塗料により膜厚125?150μmの第2の塗膜を1回塗りで形成することを特徴とする超重防食塗料。」(注:下線は原文のとおり)に補正する補正事項を含むものである。

2.補正の目的
上記補正事項は、請求項1に係る発明の超重防食塗料において特定されている、エポキシ樹脂系下塗り塗料による第1の塗膜の膜厚を、「15?200μm」から「125?200μm」と減縮し、同じくウレタン樹脂系上塗り塗料による第2の塗膜の膜厚を、「15?150μm」から「125?150μm」に減縮する補正を含むものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項)について以下に検討する。

3-1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された本願出願前の刊行物である特開2004-43905号公報(原査定の引用文献1。以下、「引用例1」という)、特開2000-191982号公報(原査定の引用文献2。以下、「引用例2」という)、及び特開平8-71502号公報(原査定の引用文献4.以下、「引用例3」という)には、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

[引用例1]
(1-i)「【請求項1】
浮き錆のみ除去した錆が残存する耐候性鋼表面に、(a)湿気硬化型樹脂、(b)導電性材料、(c)腐食イオン固定化剤、及び(d)カップリング剤を含有する素地調整剤の塗膜(A)を、乾燥塗布量0.03?2kg/m^(2)の範囲で形成し、次いで、防錆剤を含有した防食塗膜(B)を、乾燥膜厚30?150μmで形成し、更に、促進耐候性試験サンシャインウェザーメーター照射300時間後の光沢保持率が85%以上の着色上塗塗膜(C)を、乾燥膜厚20?90μmで形成することを特徴とする耐候性鋼の防食法。」
(1-ii)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、錆が残存する耐候性鋼の新規な塗装方法に関し、更に詳しくは、耐候性鋼の流れ錆(赤錆)を防止し、環境に調和した様々な着色の付与を可能にし、更に省工程で長期耐候性及び防錆性を付与する耐候性鋼の防食方法に関する。」
(1-iii)「【0018】
次に、本発明の防食塗膜(B)について説明する。
防食塗膜(B)は、樹脂、防錆剤及び必要に応じて配合されるシランカップリング剤や、溶媒、更には、分散剤、抗菌剤、ハジキ防止剤などの各種添加剤を含有する防食塗料から形成される。・・・・・(後略)・・・・・」
(1-iv)「【0020】
これら有機系防錆剤の添加量は、樹脂(及び硬化剤)100質量部に対して、例えば、0.5?40質量部、好ましくは、2?10質量部添加することが適当である。・・・・・(後略)・・・・・」
(1-v)「【0021】
これら無機系防錆剤は、樹脂(及び硬化剤)100質量部に対して、例えば、1?80質量部、好ましくは、5?60質量部添加するのが良い。・・・・・(後略)・・・・・」
(1-vi)「【0022】
・・・・・(前略)・・・・・防食塗膜(B)の膜厚は、30?150μm、好ましくは、35?120μmが適当である。なお、30μm未満であると、防食性が不充分であり、一方、150μm超えると、垂直面に塗装した場合、塗料がタレやすく、また乾燥が遅くなりやすい等の不具合が生じる。防食塗膜(B)は、上記厚みを有する限り、複数層で形成してもよい。」
(1-vii)「【0023】
次に、着色上塗塗膜及び、それを形成するための着色上塗塗料について説明する。
着色上塗塗料は、樹脂、着色剤、必要に応じて配合される防錆顔料、シランカップリング剤、溶媒、分散剤、紫外線吸収剤、抗菌剤などの各種添加剤を含有することができる。・・・・・(後略)・・・・・」
(1-viii)「【0038】
・・・・・(前略)・・・・・
着色上塗塗料は、乾燥膜厚20?90μm、好ましくは、30?80μmで塗装することが適当である。20μm未満であると、隠蔽性や耐候性が不充分となる。一方、90μm越えると、発泡や硬化不良が生じやすくなり、また垂直面に塗装した場合、塗料がたれる等の不具合が生じる。・・・・・(後略)・・・・・」
(1-ix)「【0050】
実施例2
5年間無処理で屋外暴露し、浮き錆を有する3×100×300(mm)のJIS G3141に規定された耐候性鋼(SMA400)表面の付着物や脆弱錆のみをスコッチブライト除去し、表1に示す素地調整剤(i)を0.1kg/m^(2)となるよう塗装し、乾燥して、素地調整剤の塗膜を形成し、その上に、下記組成を有する防食塗料を乾燥膜厚が70μmになるよう塗装し、乾燥し、次いで、下記の着色上塗塗料を乾燥膜厚が50μmになるよう一回塗装し、乾燥した後、裏面及び側面をエポキシ樹脂塗料でシールし、7日間自然乾燥させた。
その塗装鋼の耐候性及び防食性などの評価結果を以下の表2に示す。
【0051】
「防食塗料」
〔主剤成分〕
エポキシ樹脂溶液 ^(注9)) 200.0部
亜鉛粉末 41.5部
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 6.4部
メチルエチルケトン 26.0部
注9)エポキシ当量250のビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形分50%
〔硬化剤成分〕
ポリアミドアミン樹脂溶液 ^(注10)) 101.6部
キシレン 172.4部
注10)アミン価75mgKOH/g、固形分65%
【0052】
「着色上塗塗料」
〔主剤成分〕
アクリル樹脂溶液 ^(注11)) 154.0部
キナクリドンレッド 30.8部
キシレン 43.1部
注11)樹脂の水酸基価80mgKOH/g、数平均分子量12000、固形分65%
〔硬化剤成分〕
ヘキサメチレンジイソシアネート 27.7部
酢酸ブチル 75.8部」

[引用例2]
(2-i)「【請求項1】着色顔料、硬化性樹脂組成物、及び、水トレランスが0.5?3.0mlである消泡剤を含んでなり、前記硬化性樹脂組成物の硬化型は、メラミン硬化型又は酸/エポキシ硬化型である自動車用ソリッド塗料であって、・・・・・(中略)・・・・・されるものであることを特徴とする自動車用ソリッド塗料。」
(2-ii)「【0036】本発明で用いられるメラミン硬化型の硬化性樹脂組成物は、水酸基含有アクリル樹脂若しくは水酸基含有ポリエステル樹脂及びメラミン系硬化剤を樹脂成分とするものであるのが好ましい。」
(2-iii)「【0046】上記メラミン系硬化剤は、アミノ樹脂及び/又はブロックポリイソシアネート化合物である。」
(2-iv)「【0164】上記消泡剤としては、上述した性質を有するものであれば特に限定されず、例えば、アクリル系重合物、エーテル系重合物、シリコーン系重合物、ビニル系重合物、エステル系重合物、フッ素系重合物等の消泡剤が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。」
(2-v)「【0167】上記消泡剤の配合量は、上述した樹脂成分全量に対して、0.01?5重量%である。0.01重量%未満であると、消泡効果が劣り、サーキュレーション安定性や塗装作業性に劣り、5重量%を超えると、塗膜にハジキが発生するおそれがある。好ましくは0.1?3重量%である。なお、上記重量%は、固形分換算の値である。」
(2-vi)「【0168】上記消泡剤を用いることにより、自動車塗装ラインにおいてサーキュレーションするときに、塗料中に発生する微小な泡を消すことができることから、塗装粘度及び塗布量を一定に保ち、塗膜の肉痩せ感、ワキ、色相変化等の外観不良の発生を抑え、上記自動車用ソリッド塗料の塗装作業において、ワキ、ピンホール、泡等の外観不良を起こす膜厚が厚くなることから、塗装ラインで管理する膜厚の範囲が広くなり、塗装ライン管理が容易となる。」

[引用例3]
(3-i)「【請求項1】前処理した金属素材に下地塗りおよび着色上塗りを行い塗膜を形成する金属材の塗装方法であって、下地塗りはポリエステル樹脂、ベンゾグアナミン環を有するメラミン樹脂、エポキシ樹脂、亜鉛華を含む顔料および球状タルクを含む体質顔料とを含む塗料を用いて塗装し、着色上塗りは、焼付け塗料または常温乾燥塗料のいずれかを用いて塗装を行うことを特徴とする金属材の塗装方法。」
(3-ii)「【0027】その後、着色上塗り塗装を行った。用いる塗料としては、焼付け塗料の場合は一般に使用されているメラミン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料などが使用できる。常温乾燥塗料の場合は、アクリルポリオール樹脂およびポリイソシアネート樹脂から構成される二液型のポリウレタン樹脂塗料を使用して、各々の塗装条件に適合した方法で図1に示す着色上塗り塗膜4を形成した。膜厚は20?25μmとなるように塗装した。着色上塗りに使用したポリウレタン樹脂塗料の成分を重量%で表2に示す。」
(3-iii)「【0028】
【表2】
┌──────────────────┬─────┐
│ 成 分 │ 重量% │
├───┬──────────────┼─────┤
│主 剤│アクリルポリオール樹脂ワニス│ 58.7│
│ │着色顔料 │ 24.4│
│ │添加剤 │ 3.5│
│ │溶剤 │ 13.4│
│ ├──────────────┼─────┤
│ │合計 │100.0│
├───┼──────────────┼─────┤
│硬化剤│ポリイソシアネート樹脂ワニス│ 88.0│
│ │溶剤 │ 12.0│
│ ├──────────────┼─────┤
│ │合計 │100.0│
└───┴──────────────┴─────┘
以上のようにして調製した二液型ポリウレタン樹脂系常温乾燥塗料は、150?160℃程度の温度で短時間(30分以内)の加熱では、通常の塗膜性能試験で劣化が認められず、その後の焼付け乾燥の条件に耐えうる耐熱性を有している。」

3-2.対比、判断
引用例1には、「浮き錆のみ除去した錆が残存する耐候性鋼表面に、(a)湿気硬化型樹脂、(b)導電性材料、(c)腐食イオン固定化剤、及び(d)カップリング剤を含有する素地調整剤の塗膜(A)を、乾燥塗布量0.03?2kg/m^(2)の範囲で形成し、次いで、防錆剤を含有した防食塗膜(B)を、乾燥膜厚30?150μmで形成し、更に、促進耐候性試験サンシャインウェザーメーター照射300時間後の光沢保持率が85%以上の着色上塗塗膜(C)を、乾燥膜厚20?90μmで形成することを特徴とする耐候性鋼の防食法」が記載されており(摘示(1-i)参照)、実施例2においては、防食塗膜として
「〔主剤成分〕
エポキシ樹脂溶液 ^(注9)) 200.0部
亜鉛粉末 41.5部
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 6.4部
メチルエチルケトン 26.0部
注9)エポキシ当量250のビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形分50%
〔硬化剤成分〕
ポリアミドアミン樹脂溶液 ^(注10)) 101.6部
キシレン 172.4部
注10)アミン価75mgKOH/g、固形分65%」からなる防食塗料を「乾燥膜厚が70μmとなるように塗装」し、次いで着色上塗塗膜として
「〔主剤成分〕
アクリル樹脂溶液 ^(注11)) 154.0部
キナクリドンレッド 30.8部
キシレン 43.1部
注11)樹脂の水酸基価80mgKOH/g、数平均分子量12000、固形分65%
〔硬化剤成分〕
ヘキサメチレンジイソシアネート 27.7部
酢酸ブチル 75.8部」からなる着色上塗塗料を「乾燥膜厚が50μmとなるように一回塗装」したことが記載されている(摘示(1-ix)参照)。
したがって、引用例1には、「ビスフェノールA型エポキシ樹脂溶液200.0部、亜鉛粉末41.5部、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン6.4部、メチルエチルケトン26.0部を有する主剤と、ポリアミドアミン樹脂溶液101.6部、キシレン172.4部からなる硬化剤成分とから構成される防食塗料と、水酸基含有アクリル樹脂溶液154.0部、キナクリドンレッド30.8部、キシレン43.1部を有する主剤と、ヘキサメチレンジイソシアネート27.7部、酢酸ブチル75.8部からなる硬化剤成分とから構成される着色上塗塗料とを備え、前記防食塗料により膜厚70μmの塗膜を形成し、前記着色上塗塗料により膜厚50μmの塗膜を一回塗装で形成することのできる塗料」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が実質的に開示されているものと認められる。

そこで、本願補正発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明における「ビスフェノールA型エポキシ樹脂溶液」、「亜鉛粉末」、「ポリアミドアミン樹脂溶液」、「防食塗料」は、本願補正発明の「ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス」、「防錆顔料」、「ポリアミドアミン系硬化剤」、「エポキシ樹脂系下塗り塗料」にそれぞれ相当し、また、引用例1発明における「水酸基含有アクリル樹脂溶液」、「キナクリドンレッド」、「ヘキサメチレンジイソシアネート」、「着色上塗塗料」は、本願補正発明の「変性アクリルポリオール樹脂ワニス」、「着色顔料」、「イソシアネート樹脂ワニス硬化剤」、「ウレタン樹脂系下塗り塗料」にそれぞれ相当するから、両発明は、本願発明の表現を借りて表すと、

「ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス、防錆顔料を有する主剤とポリアミドアミン系硬化剤とから構成されるエポキシ樹脂系下塗り塗料と、
変性アクリルポリオール樹脂ワニス、着色顔料を有する主剤とイソシアネート樹脂ワニス硬化剤とから構成されるウレタン樹脂系上塗り塗料とを備えた塗料」

である点で一致し、次の相違点A?Dで相違している。

<相違点>
A.本願補正発明の塗料は「超重防食塗料」であるのに対して、引用例1発明の塗料は用途について特定されていない点。
B.本願補正発明では、「エポキシ樹脂系下塗り塗料の主剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス25?35重量%、防錆顔料8?12重量%、体質顔料、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され」、「エポキシ樹脂系下塗り塗料の主剤と前記ポリアミドアミン系硬化剤との混合比を、重量比で5:1?7:1とし」ているのに対して、引用例1発明の防食塗料では、体質顔料、着色顔料及び添加剤については記載がなく、また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂溶液は主剤成分の約73%、亜鉛粉末は主剤成分の約15.2%、主剤成分と硬化剤成分の混合比は約1:1である点。
C.本願補正発明では、「ウレタン樹脂系上塗り塗料の主剤は、変性アクリルポリオール樹脂ワニス55?65重量%、アクリル表面調整剤0.1?0.5重量%、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され」、「ウレタン樹脂系上塗り塗料の主剤とイソシアネート樹脂ワニス硬化剤との混合比を、重量比で9:1?11:1とし」ているのに対して、引用例1発明の着色上塗塗料では、添加剤及びアクリル表面調整剤については記載がなく、また、水酸基含有アクリル樹脂溶液は主剤成分の約67.6%、主剤成分と硬化剤成分の混合比は約2:1である点。
D.本願補正発明では、「エポキシ樹脂系下塗り塗料により膜厚125?200μmの第1の塗膜を1回塗りで形成し」、かつ、「ウレタン樹脂系上塗り塗料により膜厚125?150μmの第2の塗膜を1回塗りで形成」しているのに対して、引用例1発明では、「前記防食塗料により膜厚70μmの塗膜を形成し、前記着色上塗塗料により膜厚50μmの塗膜を一回塗装で形成」している点。

そこで、これらの相違点について検討する。
(a)相違点Aについて
本願補正発明の「超重防食塗料」とは、明細書段落【0005】の記載によれば、「塗膜が水漏れしている時間が長く、水分中に腐食促進イオンが含まれ、温度上昇などがあるような厳しい環境下においても、これに長時間耐え得ることのできるもの」である。
一方、引用例1には、発明の属する技術分野について、「耐候性鋼の流れ錆(赤錆)を防止し、環境に調和した様々な着色の付与を可能にし、更に省工程で長期耐候性及び防錆性を付与する耐候性鋼の防食方法に関する」と記載されており(摘示(1-ii)参照)、引用例1発明の塗料が厳しい環境下に曝される耐候性鋼に長期耐候性及び防錆性を与えるものであることは明らかであるから、引用例1発明の塗料も本願補正発明と同じ「超重防食塗料」に相当するものである。
したがって、相違点Aは実質的な相違点ではない。

(b)相違点Bについて
引用例1には、防食塗料に各種添加剤を含有させることが記載されており(摘示(1-iii)参照)、引用例1発明において、体質顔料、着色顔料、添加剤などを配合することは当業者が実施にあたり適宜なし得ることである。
また、引用例1には、防錆剤について、「これら有機系防錆剤の添加量は、樹脂(及び硬化剤)100質量部に対して、例えば、0.5?40質量部、好ましくは、2?10質量部添加することが適当である」(摘示(1-iv)参照)、「これら無機系防錆剤は、樹脂(及び硬化剤)100質量部に対して、例えば、1?80質量部、好ましくは、5?60質量部添加するのが良い」(摘示(1-v)参照)と記載されており、有機系、無機系いずれの防錆剤においても、その添加量の範囲は本願補正発明で特定する「防錆顔料8?12重量%」を含んでおり、このような範囲を特定することは当業者であれば適宜なし得ることである。
さらに、塗料の主剤における樹脂ワニスの含有量や、主剤と硬化剤の混合比等については、用いる材料や組成、固形分濃度や当量などによって適当な範囲に定められるのが普通であり 、引用例1発明においても最適な値に定められているものと認められる。本願補正発明においては、エポキシ樹脂系下塗り塗料の主剤におけるビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニスの含有量を25?35重量%、主剤とポリアミドアミン系硬化剤の混合比を重量比で5:1?7:1と定めてはいるものの、樹脂ワニスの固形分濃度は不明であり、また硬化剤が溶剤を含むのかどうかも不明であり、さらに、樹脂ワニスの含有量や主剤と硬化剤の混合比が上記範囲を外れるものとの比較がなされているわけではないから、これらの値に定めたことに特別な意味があるものとは認められない。(なお、ポリアミドアミン系硬化剤の量は、主剤のビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニスにおける官能基の量との関係(例えば当量比)で決めない限り、あまり意味のあるものとは認められない。)
したがって、引用例1発明において、防錆塗料の主剤の樹脂ワニス含有量や主剤と硬化剤の混合比が本願補正発明で特定する範囲から外れていることをもって、両者に差異があるものとは認められないか、そうでないとしても、これらを本願補正発明で特定する範囲とすることは当業者が適宜なし得ることである。

(c)相違点Cについて
本願補正発明の「アクリル表面調整剤」は、本願明細書段落【0019】に「アクリル表面調整剤においては、表面張力をコントロールすることで消泡剤、わき防止剤として働き」との記載があることから、実際には「消泡剤」であると認められる。
一方、引用例2には、「着色顔料、硬化性樹脂組成物、及び、水トレランスが0.5?3.0mlである消泡剤を含んでなり、前記硬化性樹脂組成物の硬化型は、メラミン硬化型又は酸/エポキシ硬化型である自動車用ソリッド塗料」が記載されており(摘示(2-i)参照)、消泡剤を用いることにより、「塗料中に発生する微小な泡を消すことができることから、塗装粘度及び塗布量を一定に保ち、塗膜の肉痩せ感、ワキ、色相変化等の外観不良の発生を抑え、上記自動車用ソリッド塗料の塗装作業において、ワキ、ピンホール、泡等の外観不良を起こす膜厚が厚くなることから、塗装ラインで管理する膜厚の範囲が広くなり、塗装ライン管理が容易となる」ことが記載されている(摘示(2-vi)参照)。また、消泡剤の例としてアクリル系重合物が挙げられ(摘示(2-iv)参照)、配合量についても「樹脂成分全量に対して、0.01?5重量%である」「好ましくは0.1?3重量%である。」として適当な範囲が示されている(摘示(2-v)参照)。
そして、引用例1発明の着色上塗塗料においては、膜厚が90μmを越えると発泡や硬化不良が生じやすくなることが指摘されており(摘示(1-viii)参照)、引用例1発明の着色上塗塗料において、塗装粘度及び塗布量を一定に保ち、塗膜の肉痩せ感、ワキ、色相変化等の外観不良の発生を抑えることを目的とし、さらには、ワキ、ピンホール、泡等の外観不良を起こす膜厚を厚くして塗装ラインで管理する膜厚の範囲を90μmを越えて広くすることを目的として、引用例2に記載されているような消泡剤を使用することは、引用例2に記載されている自動車用ソリッド塗料の組成が引用例1発明の着色上塗塗料と共通しているものである(摘示(2-ii)(2-iii)参照)ことからみて当業者が容易に想到できることである。また、その際に含有量についても、引用例2に記載されている配合量の範囲を参照して、0.1?0.5重量%という適当な範囲を見出すことは、当業者であれば容易になし得ることである。
また添加剤については、引用例1には、着色上塗塗料に各種添加剤を含有させることが記載されており(摘示(1-vii)参照)、引用例1発明において添加剤などを配合することは当業者が実施にあたり適宜なし得ることである。
さらに、塗料の主剤における樹脂ワニスの含有量や、主剤と硬化剤の混合比等については、用いる材料や組成、固形分濃度や当量などによって適当な範囲に定められるのが普通であり 、引用例1発明においても最適な値に定められているものと認められる。一方、本願補正発明においては、ウレタン樹脂系上塗り塗料の主剤における変性アクリルポリオール樹脂ワニスの含有量を55?65重量%、主剤とイソシアネート樹脂ワニス硬化剤との混合比を重量比で9:1?11:1と定めてはいるものの、樹脂ワニス硬化剤がどのような組成であるのか不明であり、また、樹脂ワニスの含有量や主剤と硬化剤の混合比が上記範囲を外れるものとの比較がなされているわけではないから、これらの値に定めたことに特別な意味があるものとは認められない。(なお、イソシアネート樹脂ワニス硬化剤の量は、主剤の変性アクリルポリ0-留樹脂ワニスにおける官能基の量との関係(例えば当量比)で決めない限り、あまり意味のあるものとは認められない。)
したがって、引用例1発明において、着色上塗塗料の主剤の樹脂ワニス含有量や主剤と硬化剤の混合比が本願補正発明で特定する範囲から外れていることをもって、両者に差異があるものとは認められない。

(d)相違点Dについて
引用例2には、塗料に消泡剤を含有させることにより、「ワキ、ピンホール、泡等の外観不良を起こす膜厚が厚くなる」、すなわち、「ワキ、ピンホール、泡等の外観不良」を起こさずに膜厚を厚くできること、その結果「塗装ラインで管理する膜厚の範囲が広くなり、塗装ライン管理が容易となる」ことが記載されており、(摘示(2-vi)参照)、また、「125?200μm」や「125?150μm」という膜厚が、125μmまでの膜厚の値とかけ離れたものではなく、塗装にあたって特別な技術を要するものとも認められないから、引用例1発明の防食塗料あるいは着色上塗塗料において、塗装ラインで管理する膜厚の範囲を広くして、塗装ライン管理を容易にすることを意図し、消泡剤を添加することによってワキ、ピンホール、泡等の外観不良を起こすことを抑制しながら、「125?200μm」あるいは「125?150μm」という通常よりも厚い塗膜を得ることは、当業者が容易になし得ることである。また、引用例2における、「ワキ、ピンホール、泡等の外観不良を起こす膜厚が厚くなる」という記載は、「1回塗り」を意味していることは明らかであるから、「125?150μm」という厚膜の塗膜は当然1回塗りで塗装することが意図されるものである。
また、特に引用例1発明の防食塗膜については、その膜厚について「30?150μm」が適当である旨の記載があり、また「上記厚みを有する限り、複数層で形成してもよい」との記載がある(いずれも摘示(1-vi)参照)ことから、膜厚30?150μmの塗膜を1回塗りで形成することが開示されているものと認められ、引用例1発明において、防食塗料(エポキシ樹脂系下塗り塗料)により125?150μmの塗膜を1回塗りで形成することは、当業者が引用例1の記載に基づき容易になし得ることである。
そして、本願補正明細書段落【0014】に「次に下地との高付着性および優れた耐食性を得るために、表1に示すエポキシ樹脂系下塗り塗料を塗装し、第1の塗膜2を形成する。膜厚は、15?200μm(標準30?150μm)である。」と、また【0017】に「次に、表2に示すウレタン樹脂系上塗り塗料を塗装し、第2の塗膜3を形成する。膜厚は、15?150μ(標準20?100μ)である。」と記載されていることにかんがみれば、本願補正発明において、「125?200μm」や「125?150μm」との膜厚とすることにより格別の効果を奏するものとも認められない。

以上のとおりであり、上記相違点AないしDに挙げられた構成は、実質的に引用例1発明と等しいか、あるいは、引用例1及び2の記載に基づき当業者が容易に導き出し得たものであり、また、上記相違点AないしDに係る構成を併せ採用することも当業者が容易になし得たことであって、それによって格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。
したがって、本願補正発明は、引用例1及び2の記載、並びにこの出願日前周知の技術的事項を勘案し、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3-3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
平成24年9月28日付けの手続補正書による補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成24年7月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるのもと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス、防錆顔料、体質顔料、着色顔料を有する主剤とポリアミドアミン系硬化剤とから構成されるエポキシ樹脂系下塗り塗料と、
変性アクリルポリオール樹脂ワニス、アクリル表面調整剤、着色顔料を有する主剤とイソシアネート樹脂ワニス硬化剤とから構成されるウレタン樹脂系上塗り塗料とを備え、
前記エポキシ樹脂系下塗り塗料の主剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス25?35重量%、防錆顔料8?12重量%、体質顔料、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され、
前記エポキシ樹脂系下塗り塗料の主剤と前記ポリアミドアミン系硬化剤との混合比を、重量比で5:1?7:1とし、
前記ウレタン樹脂系上塗り塗料の主剤は、変性アクリルポリオール樹脂ワニス55?65重量%、アクリル表面調整剤0.1?0.5重量%、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され、
前記ウレタン樹脂系上塗り塗料の主剤とイソシアネート樹脂ワニス硬化剤との混合比を、重量比で9:1?11:1とし、
前記エポキシ樹脂系下塗り塗料により膜厚15?200μmの第1の塗膜を形成し、
前記ウレタン樹脂系上塗り塗料により膜厚15?150μmの第2の塗膜を形成することを特徴とする超重防食塗料。」

1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記II.3.3-1.に記載したとおりである。

2.対比、判断
前記II.3.3-2.において述べたとおり、引用例1には、「ビスフェノールA型エポキシ樹脂溶液200.0部、亜鉛粉末41.5部、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン6.4部、メチルエチルケトン26.0部を有する主剤と、ポリアミドアミン樹脂溶液101.6部、キシレン172.4部からなる硬化剤成分とから構成される防食塗料と、水酸基含有アクリル樹脂溶液154.0部、キナクリドンレッド30.8部、キシレン43.1部を有する主剤と、ヘキサメチレンジイソシアネート27.7部、酢酸ブチル75.8部からなる硬化剤成分とから構成される着色上塗塗料とを備え、前記防食塗料により膜厚70μmの塗膜を形成し、前記上塗塗料により膜厚50μmの塗膜を一回塗装で形成した塗料」の発明(「引用例1発明」)が実質的に開示されているものと認められる。

そこで、本願発明と引用例1発明とを対比すると、両発明は、本願発明の表現を借りて表すと、

「ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス、防錆顔料を有する主剤とポリアミドアミン系硬化剤とから構成されるエポキシ樹脂系下塗り塗料と、
変性アクリルポリオール樹脂ワニス、着色顔料を有する主剤とイソシアネート樹脂ワニス硬化剤とから構成されるウレタン樹脂系上塗り塗料とを備え、
前記エポキシ樹脂系下塗り塗料により膜厚70μmの第1の塗膜を形成し、
前記ウレタン樹脂系上塗り塗料により膜厚50μmの第2の塗膜を形成することを特徴とする塗料」

である点で一致し、次の相違点aないしcで相違している。

<相違点>
a.本願補正発明の塗料は「超防食塗料」であるのに対して、引用例1発明の塗料は用途について特定されていない点。
b.本願補正発明では、「エポキシ樹脂系下塗り塗料の主剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス25?35重量%、防錆顔料8?12重量%、体質顔料、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され」、「エポキシ樹脂系下塗り塗料の主剤と前記ポリアミドアミン系硬化剤との混合比を、重量比で5:1?7:1とし」ているのに対して、引用例1発明の防食塗料では、体質顔料、着色顔料及び添加剤については記載がなく、また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂溶液は主剤成分の73%、亜鉛粉末は主剤成分の15.2%、主剤成分と硬化剤成分の混合比は1:1である点。
c.本願補正発明では、「ウレタン樹脂系上塗り塗料の主剤は、変性アクリルポリオール樹脂ワニス55?65重量%、アクリル表面調整剤0.1?0.5重量%、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され」、「ウレタン樹脂系上塗り塗料の主剤とイソシアネート樹脂ワニス硬化剤との混合比を、重量比で9:1?11:1とし」ているのに対して、引用例1発明の着色上塗塗料では、添加剤及びアクリル表面調整剤については記載がなく、また、水酸基含有アクリル樹脂溶液は主剤成分の67.6%、主剤成分と硬化剤成分の混合比は約2:1である点。

上記「相違点a」ないし「相違点c」は、前記II.3.3-2.において検討した「相違点A」ないし「相違点C」とそれぞれ同じものであり、その判断もII.3.3-2.の「(a)相違点Aについて」ないし「(c)相違点Cについて」でそれぞれ述べたものと同じである。

3.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、引用例1及び2の記載、並びにこの出願日前周知の技術的事項を勘案し引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-19 
結審通知日 2013-08-20 
審決日 2013-09-02 
出願番号 特願2007-213152(P2007-213152)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
P 1 8・ 575- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牟田 博一  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 新居田 知生
橋本 栄和
発明の名称 超重防食塗料、その塗装方法  
代理人 藤原 康高  

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