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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1280592
審判番号 不服2012-21938  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-06 
確定日 2013-10-17 
事件の表示 特願2008- 62958「導電性基板及びその製造方法、並びに銅配線基板及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月24日出願公開、特開2009-218497〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成20年3月12日の出願であって、平成24年7月31日付け(平成24年8月7日:発送日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年11月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その請求と同時に特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年11月6日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
コア部が銅であり、シェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子を還元性の分散媒に分散させてなる分散液を基板上に塗布し、塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を加熱し、該塗膜中の粒子の酸化銅を銅に還元するとともに、還元されて得られた銅粒子同士を焼結する工程と、
を含む導電性基板の製造方法であって、
前記分散液が、前記粒子に対する保護剤又は分散剤を用いずに調製されてなり、
前記塗膜に対しての加熱温度を120?200℃とすることを特徴とする導電性基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性基板の製造方法により製造されてなる導電性基板。
【請求項3】
コア部が銅であり、シェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子を還元性の分散媒に分散させてなる分散液を用いて基板上に任意の配線パターンを描画する工程と、
前記分散液からなる配線パターンを加熱し、前記配線パターン中に含まれる粒子の酸化銅を銅に還元するとともに、還元されて得られた銅粒子同士を焼結し、銅配線とする工程と、
を含むことを特徴とする銅配線基板の製造方法。
【請求項4】
前記分散液が、前記粒子に対する保護剤又は分散剤を用いずに調製されてなることを特徴とする請求項3に記載の銅配線基板の製造方法。
【請求項5】
前記配線パターンに対しての加熱温度を120?200℃とすることを特徴とする請求項3または4に記載の銅配線基板の製造方法。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか1項に記載の銅配線基板の製造方法により製造されてなる銅配線基板。」

3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)引用文献の記載事項
・原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第2003/051562号(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項(特に実施例2を参照。)が記載されている。
ア.「技術分野
本発明は、金属薄膜を形成するのに適した金属酸化物の分散体及びこの分散体を用いて基板上に金属薄膜を形成するための方法に関する。また、本発明は、多孔性金属薄膜の製造方法にも関する。」(明細書1頁3行?6行)
イ.「金属酸酸化物粒子を分散させた金属酸化物ペーストを用いて金属薄膜を形成するという方法も知られている。特開平5-98195号公報には、結晶性高分子を含み、粒径300nm以下の金属酸化物を分散させた金属酸化物ペーストを加熱し、結晶性高分子を分解させて金属薄膜を得るという方法が開示されている。しかしながら、この方法では、300nm以下の金属酸化物を結晶性高分子中にあらかじめ分散させる必要があり、非常な手間を必要とするのに加えて、結晶性高分子を分解するのに400℃-900℃の高温を必要とする。したがって、使用可能な基材は、その温度以上の耐熱性を必要とし、使用可能な基材に制限があるという問題がある。」(明細書2頁2行?10行)
ウ.「そこで、本発明の課題は、安価に、かつ、低温での加熱処理によって、基材の 上に密着性の高い薄膜の形成が可能な金属酸化物分散体、及びこの金属酸化物分散体を用いて、基材上に金属薄膜を製造する方法を提供することである。また、 多孔性の金属薄膜を得るための製造方法を提供することである。」(明細書3頁26行?29行)
エ.「1. 粒子径が200nm未満の金属酸化物及び分散媒を含む金属酸化物分散 体であって、該分散媒が、多価アルコール及び/またはポリエーテル化合物を含有する該金属酸化物分散体。」(明細書4頁5行?7行) オ.「20.前項1?16のいずれか 1項に記載の金属酸化物分散体を基板に塗布した後、加熱処理することを含む、金属薄膜の製造方法。」(明細書5頁29行?6頁1行)
カ.「一方、粒径が100nm未満であると、微小液滴を押し出して微細な配線を形成するインクジェット法の導電性インクとして使用することが可能になるので、エッチング処理なしで微細回路を形成する場合に好ましい。
金属酸化物は、加熱処理によって還元されるものであれば、いかなるものでも使用可能である。個々の金属酸化物粒子は単独の金属酸化物で構成されていてもよく、また複数の金属酸化物で構成だれている複合金属酸化物であっても良い。金属酸化物は、加熱処理によって還元されるものであれば、いかなるものでも 使用可能である。個々の金属酸化物粒子は単独の金属酸化物で構成されていても よく、また複数の金属酸化物で構成されている複合金属酸化物であっても良い。金属酸化物を還元することによって得られる金属の体積抵抗値は好ましくは 1×10^(-4)Ωcm以下、さらに好ましくは 1×10^(-5)Ωcm以下である。このような金属酸化物を用いると、得られる金属薄膜の電気伝導性が高いので好ましい。この種の金属酸化物としては、例えば、酸化銀、酸化銅、酸化パラジウム、 酸化ニッケル、酸化鉛、酸化コバルト等を例示できる。中でも、容易に還元が可能であって、還元後の電気伝導度の高い酸化銅及ぴ酸化銀が特に好ましい。酸化銀としては、酸化第一銀、酸化第二銀及び酸化第三銀等があり、銀の酸化状態に は制限はないが、粒子の安定性から、酸化第一銀がより好ましい。酸化銅としては、酸化第一銅及び酸化第二銅等があり、銅の酸化状態に制限はないが、金属銅 への還元の容易性から、酸化第一銅が特に好ましい。」(明細書6頁24行?7頁11行)
キ.「また、本発明で用いられる金属酸化物は粒径が200nm以下であって、加熱 処理時の粒子間の融着が妨げられない限りにおいて、金属酸化物粒子の一部が還元可能な金属酸化物以外の材料によつて置換されていてもよい。還元可能な金属 酸化物以外の材料とは、例えば、金属、500℃以下の加熱によって還元されない金属酸化物、あるいは有機化合物である。中心部分が金属でありその表面が金属酸化物によつて覆われた、コア-シェル型の金属-金属酸化物複合微粒子が例として挙げられる。」(明細書7頁22行?28行)
ク.「金属酸化物分散体中に多価アルコールを含有することによって、同分散体中の 金属酸化物粒子の分散性が向上する。多価アルコールとしては、エチレングリコ ール、ジエチレングリコール、(中略)これらの多価アルコールは還元性を 有するので金属酸化物を還元する際に好ましい。
特に好ましい多価アルコールは、炭素数が10以下の多価アルコールであり、その中でも液状であって粘度の低いものは、前述のように、それ自身が分散媒の 役割を果たすことができるので好ましい。このような多価アルコールとして、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコーノレ、(中略)等が挙げられる。」(明細書11頁24行?12頁21行)
ケ.「高い導電性を求める場合には、工業的に安価に入手が可能な銀、ニッケル、 銅が特に好ましく用いられる。銀は金属薄膜に高い耐酸化性を与えるという利点もあり好ましい。また、金属接合層に、耐マイグレーション性を必要とする場合には、耐マイグレーションに強い銅粉を多く加えればよい。」(明細書18頁18行?21行)
コ.「本発明の金属酸化物分散体を用いて、基板上に金属薄膜を形成するには、先ず、基板上に金属薄膜分散体を塗布する。塗布方法は、分散体を基板に塗布する場合に用いられる一般的な方法を用いることができ、例えば、スクリーン印刷方法、 ディップコーティング方法、スプレー塗布方法、スピンコーティング方法、インクジェット方法等が挙げられる。(中略)
分散体を基板上に塗布した後に、分散体が塗布された基板を、金属酸化物を金属に還元するに充分な温度で加熱処理することによつて基板上に金属薄膜を形成させる。」(明細書25頁2行?10行)
サ.「これらの還元処理における、好ましい加熱処理温度は50℃以上 500℃以下、 より好ましくは80℃以上400℃以下、さらに好ましくは100℃以上350℃以下である。本発明の金属酸化分散体に必須成分として含有されるポリエーテ ル化合物及び/または多価アルコールは、このような比較的低温において、焼失 (または分解)され得る。50℃未満の温度で金属酸化物を還元する場合には、金属酸化物分散体の保存安定性が悪くなる傾向があるので好ましくない。また 500℃より高い場合には、多くの有機基材の耐熱性を超えてしまい有機基材上に使用が不可能となるので好ましくない。加熱処理に必要な時間は、金属酸化物の種類、加熱雰囲気、加熱処理温度、並びに加熱処理すべき分散体の形状及ぴ大きさによって影響を受ける。酸化銅を金属酸化物として用いた場合、塗膜がミクロ ンメートルオーダーの薄膜である場合であって、水素ガスを薄めずに還元ガスと して用い、200℃?300℃程度の加熱処理温度を設定した場合には、1?2時間で充分である。
また、同一の金属酸化物であっても、粒径が大きいものに比べて粒径が小さいものは還元されやすいことから、粒径が大きい場合には還元性雰囲気での焼成が必要である場合であっても、粒径が小さい場合には不活性雰囲気中での焼成のみで還元がなされる場合がある。このような場合には、不活性雰囲気での焼成により実用上問題のない金属薄膜を形成することが可能である。」(明細書25頁25行?26頁13行)
シ.「本発明の金属薄膜製造方法は、金属酸化物微粒子を還元して生成する金属微粒子の粒子間融着によって金属薄膜を得る方法であり、還元により粒子間に働く自発的な融着引力を利用するため、加圧工程を必要としない。また、上述したよう に、金属酸化物微粒子の1次粒子径が200nm未満と非常に小さいことと、ポリエーテル化合物及び多価アルコールがそれ自身還元性を有することによって、金属粒子間の自発的な融着がより容易になるものと考えられる。また、高温で焼失する有機バインダーを用いないので、比較的低温の加熱処理で金属薄膜を製造 することが可能である。多価アルコール又はポリエーテル化合物は比較的低温の焼成によって、自身は酸化 ・分解し、揮発するので、金属薄膜中にこれらの絶縁性成分は残りにくく、従って金属薄膜の体積抵抗値は低くなる。」(明細書27頁12行?21行)
ス.「(実施例1:酸化第二銅微粒子分散体の調整、及び多孔性銅薄膜の製造例) 酸化第二銅ナノ粒子(粒径10?100nm、公称平均粒径30nm、シーア イ化成株式会社製)5gを、ジエチレングリコール5gに加え、株式会社キーエンス社製攪拌脱泡機(HM-500) にて、攪拌モード10分、脱泡モード5分の条件で分散処理を行って、酸化第二銅微粒子分散体を得た。得られた酸化第二銅分散体を、スライドガラス上に、長さ2cm、幅1cm、厚み20μmになるように塗布した。焼成炉内に上記スライドガラスを入れ、炉内を真空ポンプで脱気した後、水素ガスを1リットル/分の流量で流した。焼成炉の温度を室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃に到達後、この温度でさらに1時間加熱して焼成した。冷却後、スライドガラスを取り出してスライドガラスを観察したところ、得られた銅薄膜は、厚み4μmで、孔径約0.3μmの多孔性薄膜であった。また、この薄膜はスライドガラスからスコッチテープで容易に剥離することが可能であり、この薄膜の体積抵抗値は5×10^(-5) Ωcmであった。
(実施例2:酸化第二銅微粒子分散体の調整、多孔性銅薄膜の製造例)
分散媒をエチレングリコールに変えて、実施例1と同様の分散方法で酸化第二銅微粒子分散体を調整した。焼成温度を200℃に変える以外は実施例1と同じ条件で、酸化第二銅分散体を水素焼成した。この薄膜はスライドガラスからスコッチテープで容易に剥離することが可能であり、この薄膜の体積抵抗値は6×10^(-5) Ωcmであった。冷却後、スライドガラスを取り出してスライドガラスを観察したところ、厚み4μmで、孔径約0.2μmの多孔構造を有する多孔性 銅薄膜が形成していた。」(明細書28頁26行?29頁17行)
上記記載事項から、以下の事項が認められる。
セ.記載事項ス.の実施例2において、酸化第二銅微粒子分散体を基板に塗布した後には塗膜が形成されるものといえる。

よって、以上の記載事項及び認定事項からみて、本願発明1の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「酸化第二銅ナノ粒子を還元性の分散媒(エチレングリコール)に分散させてなる酸化第二銅微粒子分散体を基板上に塗布し、塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を加熱処理し、該塗膜中の粒子の酸化第二銅を銅に還元するとともに、還元されて得られた銅粒子の粒子間融着によって焼成する工程と、
を含む基板上に銅薄膜を製造する方法であって、
前記塗膜に対しての加熱処理温度を200℃とする基板上に銅薄膜を製造する方法。」

・原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-119686号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
タ.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、微細な銅系配線パターンを形成する方法に関し、より具体的には、酸化銅ナノ粒子の分散液を利用して超ファインなパターン描画後、パターン中の酸化銅ナノ粒子に還元処理を施し、生成する銅ナノ粒子を焼成して、デジタル高密度配線に対応した低インピーダンスでかつ極めて微細な焼結体銅系配線パターンを形成する方法に関する。」
チ.「【0008】
本発明は前記の課題を解決するもので、本発明の目的は、安価で、かつエレクトロマイグレーションの少ない銅を導電媒体に利用する、微細な銅系配線パターンを形成する際、かかる微細な配線パターンの描画にナノ粒子の分散液を使用し、前記分散液塗布層に含まれるナノ粒子に対して、その表面の酸化銅被覆層を、300℃以下の加熱条件において、十分な還元処理がなされ、かつ、得られる銅ナノ粒子相互の緻密な焼成処理が可能な、微細な焼結体銅系配線パターンを形成する方法を提供することにある。より具体的には、極めて微細な配線パターンの描画に適する、平均粒子径が100nm以下、例えば、平均粒子径1?10nm程度のナノ粒子においては、その表面の酸化銅被覆層は、前記平均粒子径の半ば以上に達し、中心部に非酸化状態の銅を核として、若干残余するものの、全体としては、酸化銅のナノ粒子と見なせる状態に達するが、その場合でも、300℃以下の加熱条件において、十分な還元処理がなされ、かつ、得られる銅ナノ粒子相互の緻密な焼成処理が可能な、微細な焼結体銅系配線パターンを形成する方法を提供することにある。」

以上の記載事項からみて、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2に記載されている事項」という。)が記載されている。
「ナノ粒子の分散液からなる分散液塗布層を加熱・還元処理をして微細な焼結体銅系配線パターンの製造方法において、中心部に非酸化状態の銅を核とし、その表面を酸化銅被覆層で覆う銅ナノ粒子を用いること。」

(2)対比
本願発明1と引用発明1を対比すると、その意味、機能または構造からみて、
後者の「酸化第二銅ナノ粒子」と前者の「コア部が銅であり、シェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子」とは、「金属酸化物粒子」である点で共通する。
後者の「酸化第二銅微粒子分散体」と前者の「分散液」とは、金属酸化物粒子を還元性の分散媒に分散させてなる「分散液」という意味において共通する。
後者の「加熱処理」は、前者の「加熱」に相当し、
後者の「酸化第二銅」は、前者の「酸化銅」に含まれる。
後者の「銅粒子の粒子間融着によって焼成する工程」は、前者の「銅粒子同士を焼結する工程」に、後者の「基板上に銅薄膜を製造する方法」は、前者の「導電性基板の製造方法」に、それぞれ相当する。

そうすると、両者は本願発明1の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「金属酸化物粒子を還元性の分散媒に分散させてなる分散液を基板上に塗布し、塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を加熱し、該塗膜中の粒子の酸化銅を銅に還元するとともに、還元されて得られた銅粒子同士を焼結する工程と、
を含む導電性基板の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
「金属酸化物粒子」に関して、
本願発明1は、「コア部が銅であり、シェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子」であるのに対し、
引用発明1は、「酸化第二銅ナノ粒子」である点。

[相違点2]
「分散液」に関して、
本願発明1は、「粒子に対する保護剤又は分散剤を用いずに調製されてな」るのに対して、
引用発明1は、係る点が不明である点。

[相違点3]
「加熱温度」に関して、
本願発明1は、「120?200℃」であるのに対して、
引用発明1は、「200℃」である点。

(3)判断
・上記相違点1について
引用文献1の記載事項キ.には「中心部分が金属でありその表面が金属酸化物によつて覆われた、コア-シェル型の金属-金属酸化物複合微粒子が例として挙げられる。」と記載されてるように、金属酸化物粒子としてコア-シェル型の金属粒子を採用できることが示唆されている。
また、引用文献2には、上記のとおり、「ナノ粒子の分散液からなる分散液塗布層を加熱・還元処理をして微細な焼結体銅系配線パターンの製造方法において、中心部に非酸化状態の銅を核とし、その表面を酸化銅被覆層で覆うナノ粒子を用いること」が記載されている。
そして、引用文献2に記載されている事項は、引用発明1と同じ微細な焼結体銅系配線パターンの製造方法に関するものであり、かつ、300℃以下という比較的低温での加熱処理をするものであるから、引用発明1に引用文献2に記載されている事項を適用する動機付けは十分にあるといえ、引用発明1に引用文献2に記載されている事項の適用を妨げる特別な事情もない。
よって、引用発明1の「酸化第二銅ナノ粒子」に代えて引用文献2に記載されている事項である「中心部に非酸化状態の銅を核とし、その表面を酸化銅被覆層で覆うナノ粒子」を採用し、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

・上記相違点2について
引用発明1は、引用文献1に記載されている実施例2(上記記載事項ス.を参照。)に対応するものであるが、引用文献1には酸化第二銅微粒子分散体が、酸化第二銅ナノ粒子に対する保護剤又は分散剤を用いて調製することは記載されていない。
また、引用発明1は、記載事項ウ.に記載されているように低温で加熱処理を行うことを課題としている点、記載事項イ.に「300nm以下の金属酸化物を結晶性高分子中にあらかじめ分散させる必要があり、非常な手間を必要とするのに加えて、結晶性高分子を分解するのに400℃-900℃の高温を必要とする。したがって、使用可能な基材は、その温度以上の耐熱性を必要とし、使用可能な基材に制限があるという問題がある。」と記載されているように、分散体に含まれる物質によっては加熱処理温度が上昇していまうことを問題としている点、そして、記載事項.クに「金属酸化物分散体中に多価アルコールを含有することによって、同分散体中の 金属酸化物粒子の分散性が向上する。多価アルコールとしては、エチレングリコ ール、ジエチレングリコール、(中略)これらの多価アルコールは還元性を 有するので金属酸化物を還元する際に好ましい。」と記載されるように、引用発明1の分散媒であるエチレングリコ ール自体が既に分散性を有する点、これらの点を総合すると、低温で加熱処理を行う観点から、酸化第二銅ナノ粒子に対する保護材又は分散剤等を用いないで調製する動機付けは十分にあるといえる。
してみると、引用発明1において、酸化第二銅微粒子分散体を、酸化第二銅ナノ粒子に対する保護剤又は分散剤を用いず調製することは、当業者であれば適宜になし得ることである。
よって、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

・上記相違点3について
「加熱温度」に関して、引用発明1は、「200℃」であり、本願発明1の「120?200℃」に対して、「200℃」の点において一致する。
また、引用発明1は上述のとおり、低温で加熱処理を行うことを課題としており、引用文献1の記載事項サ.には「これらの還元処理における、好ましい加熱処理温度は50℃以上 500℃以下、 より好ましくは80℃以上400℃以下、さらに好ましくは100℃以上350℃以下である。」と記載されているように、上限加熱処理温度は低い程好ましいことが示唆されているとともに200℃以下の加熱処理温度帯も想定している。また、同じく記載事項サ.の「加熱処理に必要な時間は、金属酸化物の種類、加熱雰囲気、加熱処理温度、並びに加熱処理すべき分散体の形状及び大きさによって影響を受ける。」との記載から、「加熱処理温度」は、加熱処理時間、金属酸化物の種類、粒径の大きさ、加熱雰囲気等に密接に関連しており、同じく記載事項サ.の「同一の金属酸化物であっても、粒径が大きいものに比べて粒径が小さいものは還元されやすいことから」との記載から粒径を小さくすれば還元されやすく、加熱処理温度が下げられる余地があることが理解できるので、引用発明1において、低温で加熱処理を行うという課題に照らし、粒径を小さくする、加熱処理時間を長くする等を行い、「200℃以下」の加熱処理温度に設定することは当業者であれば適宜になし得ることである。また、「120?200℃」に設定する臨界的意義も認められない。
よって、引用発明1において、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、請求人は回答書において、加熱温度を「120?160℃」と限定する補正案を提出する意志を示しているが、上述のとおり、低温で加熱処理を行うという課題に照らせば、「120?160℃」に設定することも当業者であれば適宜になし得ることである。

・作用効果について
本願発明1の奏する作用効果は、引用発明1、引用文献1に記載されている事項及び引用文献2に記載されている事項から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別ではない。

(4)小括
以上総合すると、本願発明1(請求項1に係る発明)は、引用発明1、引用文献1に記載されている事項及び引用文献2に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.本願の請求項3に係る発明(以下、「本願発明2」という。)について
(1)引用文献の記載事項
・引用文献1の記載事項は、前記「3.(1)ア.?セ.」に記載したとおりであるところ、本願発明2の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1’」という。)が記載されている。

「酸化第二銅ナノ粒子を還元性の分散媒(エチレングリコール)に分散させてなる酸化第二銅微粒子分散体を塗布して基板上に配線回路を形成する工程と、
前記酸化第二銅微粒子分散体からなる配線回路を加熱処理し、前記配線回路中の粒子の酸化第二銅を銅に還元するとともに、還元されて得られた銅粒子の粒子間融着によって焼成し、銅配線とする工程と、
を含む基板上に銅配線を製造する方法。」

・引用文献2の記載事項は、前記「3.(1)タ.?チ.」に記載したとおりであるところ、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2に記載されている事項」という。)が記載されている。
「ナノ粒子の分散液からなる分散液塗布層を加熱・還元処理をして微細な焼結体銅系配線パターンの製造方法において、中心部に非酸化状態の銅を核とし、その表面を酸化銅被覆層で覆う銅ナノ粒子を用いること。」

(2)対比
本願発明2と引用発明1’を対比すると、その意味、機能または構造からみて、
後者の「酸化第二銅ナノ粒子」と前者の「コア部が銅であり、シェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子」とは、「金属酸化物粒子」である点で共通する。
後者の「酸化第二銅微粒子分散体」と前者の「分散液」とは、金属酸化物粒子を還元性の分散媒に分散させてなる「分散液」という意味において共通する。
後者の「加熱処理」は、前者の「加熱」に相当し、
後者の「酸化第二銅」は、前者の「酸化銅」に含まれる。
後者の「配線回路」は、前者の「配線パターン」に相当し、以下同様に、
「塗布して基板上に配線回路を形成する工程」は、「用いて基板上に任意の配線パターンを描画する工程」に、
「銅粒子の粒子間融着によって焼成し」は、「銅粒子同士を焼結し」に、 「基板上に銅配線を製造する方法」は、「銅配線基板の製造方法」に、
それぞれ相当する。

そうすると、両者は本願発明2の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「金属酸化物粒子を還元性の分散媒に分散させてなる分散液を用いて基板上に任意の配線パターンを描画する工程と、
前記分散液からなる配線パターンを加熱し、前記配線パターン中に含まれる粒子の酸化銅を銅に還元するとともに、還元されて得られた銅粒子同士を焼結し、銅配線とする工程と、
を含む銅配線基板の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点4]
「金属酸化物粒子」に関して、
本願発明2は、「コア部が銅であり、シェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子」であるのに対し、
引用発明1’は、「酸化第二銅ナノ粒子」である点。

(3)判断
相違点4は、前記「2.(2)[相違点1]」と同じであるので前記「2.(3)・上記相違点1について」に記載された理由により、引用発明1’において、上記相違点4に係る本願発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明2の奏する作用効果は、引用発明1’、引用文献1に記載されている事項及び引用文献2に記載されている事項から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別ではない。

(4)小括
以上総合すると、本願発明2(請求項3に係る発明)は、引用発明1’、引用文献1に記載されている事項及び引用文献2に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
本願発明1(請求項1に係る発明)及び本願発明2(請求項3に係る発明)が特許を受けることができない以上、本願の請求項2、及び請求項4ないし6に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-06 
結審通知日 2013-08-13 
審決日 2013-09-03 
出願番号 特願2008-62958(P2008-62958)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉澤 秀明  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 山岸 利治
森川 元嗣
発明の名称 導電性基板及びその製造方法、並びに銅配線基板及びその製造方法  
代理人 三好 秀和  

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