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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1280635
審判番号 不服2012-9972  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-30 
確定日 2013-10-01 
事件の表示 平成10年特許願第534764号「核酸を輸送するための微粒子」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 7月23日国際公開、WO98/31398、平成13年 7月10日国内公表、特表2001-509178〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1998年1月22日(パリ条約による優先権主張 1997年1月22日、1998年1月6日、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年1月23日付けで拒絶査定がされたところ、同年5月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年5月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年5月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)は、拒絶査定不服審判の請求と同時にしたものであって、補正前の請求項1と補正後の請求項1の記載は次のとおりである。

補正前:
「【請求項1】 それぞれがポリマー基質および核酸を含み、該ポリマー基質が、水の中での溶解度が1 mg/l未満である、一つ以上の合成ポリマーからなる微粒子の調製物において、
少なくとも90%の微粒子が直径100ミクロンよりも小さく、且つ
該核酸が、そのうちの少なくとも60%がスーパーコイル化している環状プラスミドDNA分子からなる発現ベクターである、
調製物。」

補正後:
「【請求項1】 それぞれがポリマー基質および核酸を含み、該ポリマー基質が、水の中での溶解度が1 mg/l未満である、一つ以上の合成ポリマーからなる微粒子の調製物において、
少なくとも90%の微粒子が直径100ミクロンよりも小さく、且つ
該核酸が、そのうちの少なくとも80%がスーパーコイル化している環状プラスミドDNA分子からなる発現ベクターである、
調製物。」(下線部は補正前からの補正箇所を示す。)

2.補正の適否
上記補正後の請求項1は、補正前の請求項1におけるスーパーコイル化の割合の「少なくとも60%」を「少なくとも80%」と限定するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という)第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.に「補正後」として記載したとおりのものである。
(2)引用例の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第95/24929号(以下、「引用例」という。原査定の拒絶理由で引用された「引用文献1」に同じ。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)。

ア.「1 細胞への遺伝子の送達システムであって、
生体適合性ポリマーデバイスと
哺乳類細胞で発現できるようにプロモーターの制御下にある遺伝子からなり、
ここで遺伝子は、ポリマー中に封入され、ポリマーデバイスが組織に植え込まれると周囲の細胞に放出される、
送達システム。」(クレーム)

イ.「したがって、本発明の目的は、患者の細胞への外来遺伝子の効率的な導入のための手段を提供することである。
本発明のさらなる目的は、患者における外来遺伝子の長期間の発現のための手段を提供することである。」(4頁31?36行)

ウ.「ポリマーデバイスのサイズと組成は、組織における好ましい放出動態をもたらすように選択される。」(5頁35行?6頁1行)

エ.「分解及び放出プロフィールのより良好な特性のため、合成ポリマーが望ましいが、・・・」(7頁2?4行)

オ.「好ましい態様では、ポリマーマトリックスは直径がナノメーターから1ミリメーターまでの間の微小球であり、注射又は吸入(アエロゾル)による投与のために0.5から100ミクロンの間の粒子サイズが、より好ましい。」(9頁11?16行)

カ.「実施例1 : ラットの筋肉組織におけるポリマーインプラントに封入された直線状及びスーパーコイル化プラスミドDNAの発現
・・・直線状DNAを左脚に、スーパーコイル化DNAを右脚に、埋め込んだ。
・・・期待したとおり、導入はスーパーコイル化DNAの場合がより効率的であった。」(23頁31?34行、24頁35?37行、25頁18?19行)

キ.「実施例5 : 製造工程中のプラスミドの安定性
プラスミドDNAは高温、物理操作、及びその他の要因で傷つきやすいことが知られている。製造技術にはプラスミドのさまざまな操作が必要であるので、プラスミドの実質的な分解を避けるように、方法が選択される。・・・
熱の影響 ホットメルト微小球調製プロトコールにしたがって、凍結乾燥プラスミドを乾燥ポリマー(PCL)に添加し、5分間85℃に加熱し、85℃コーン油浴中で回転させた。抽出されたプラスミドの電気泳動は、負荷された大部分のプラスミドがスーパーコイルトポロジーを失い、直線状形態に分解されたことを示す。
超音波処理の影響 ・・・ポリマーマトリックスへの分散のためのプラスミド/ポリマー溶液の超音波処理は、プラスミドの実質的な分解をもたらす。
メチレンクロライド曝露の影響 凍結乾燥プラスミド及び溶液中のプラスミドがメチレンクロライドに曝露され、30秒間共撹拌された。抽出されたプラスミドのアガロースゲル電気泳動は、メチレンクロライド曝露による検出可能な分解はないことを示す。
結果 ・・・インビトロ及びインビボの導入効率はスーパーコイルDNAの場合の方が高い。したがって、製造方法は、ポリマーマトリックス中でのDNAのスーパーコイルトポロジーを保つように、選択ないし最適化すべきである。」(29頁33行?31頁3行)

ク.「実施例7 : 血管平滑筋及び内皮を標的とするプラスミド放出のための、ラット大動脈/外膜層における微小球の送達
以下の研究は、プラスミドを封入した微小球が、平滑筋及び内皮を標的として、プラスミドがこれらの細胞に直接放出するように用いられたことを示すために行われた。
・・・ヒアルロン酸ナトリウム溶液に懸濁された100μm篩過PLGA/PCL微小球が大動脈に注射された。」(34頁4?23行)

上記ク.の記載において、「PLGA/PCL」は乳酸-グリコール酸コポリマー(PLGA)とポリカプロラクトン(PCL)の混合物を意味し、また、ヒアルロン酸ナトリウム溶液に懸濁された微小球は、微粒子の調製物であるといえるから、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。

「乳酸-グリコール酸コポリマーとポリカプロラクトンの混合物、及びプラスミドDNAを含む、100μm篩過微粒子の調製物」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明(以下、「前者」という)と引用発明(以下、「後者」という)とを対比すると、後者における「乳酸-グリコール酸コポリマーとポリカプロラクトンの混合物」は、前者における「一つ以上の合成ポリマー」である「ポリマー基質」に包含されるものであることは明らかである。また、後者における「100μm篩過微粒子」は、すべての微粒子が100μmの篩を通過したものであるから、前者における「少なくとも90%の微粒子が直径100ミクロンよりも小さく」に相当する。さらに、後者における「プラスミドDNA」は、引用例のクレームに記載された「哺乳類細胞で発現できるようにプロモーターの制御下にある遺伝子」(上記(2)ア.)を実施例において具体化したものであると認められ、前者における「環状プラスミドDNA分子からなる発現ベクター」に相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のようになる。

一致点:「それぞれがポリマー基質および核酸を含み、該ポリマー基質が、一つ以上の合成ポリマーからなる微粒子の調製物において、
少なくとも90%の微粒子が直径100ミクロンよりも小さく、且つ
該核酸が、環状プラスミドDNA分子からなる発現ベクターである、
調製物。」

相違点1:ポリマー基質である一つ以上の合成ポリマーについて、前者においては「水の中での溶解度が1 mg/l未満である」と特定されているのに対し、後者においては「乳酸-グリコール酸コポリマーとポリカプロラクトンの混合物」である点。

相違点2:環状プラスミドDNA分子について、前者においては「そのうちの少なくとも80%がスーパーコイル化している」と特定されているのに対し、後者においてはかかる特定がされていない点。

(4)相違点についての検討
ア.相違点1について
本願明細書に、「このポリマー基質は、水への溶解度がおよそ1mg/lよりも小さな一つ以上の合成ポリマーからできている。・・・このポリマー基質は、生物分解性のものでもよい。・・・特定の場合には、このポリマー基質は、例えば、ポリ-乳酸-コ-グリコール酸(PLGA)など、1種類の合成生物分解性のコポリマーから作成することができる。」(特表2001-509178号公報(以下、「本件公表公報」という)の9頁下から11行?末行)、「ポリマー材料は、市販している供給業者から入手するか、既知の方法によって調製することができる。例えば、乳酸とグリコール酸のポリマーは、・・・。または、あるいはさらに、ポリマー基質は、・・・ポリカプロラクトン、・・・などである。」(本件公表公報25頁9?16行)と記載されているように、乳酸-グリコール酸コポリマーも、ポリカプロラクトンも、「水の中での溶解度が1mg/l未満である、一つ以上の合成ポリマー」を発明特定事項とする本願補正発明を記載した本願明細書に、例示された合成ポリマーであるから、「乳酸-グリコール酸コポリマーとポリカプロラクトンの混合物」についても、その水の中での溶解度は、本願補正発明に特定されたのと同程度、すなわち、「1mg/l未満である」と解するのが相当である。
また、引用発明における「乳酸-グリコール酸コポリマーとポリカプロラクトンの混合物」の「水の中での溶解度が1mg/l未満」でないとしても、上記(2)イ.の記載によれば、引用発明は、患者における外来遺伝子の長期間の発現を目的の一つとするものであることが認められ、同(2)ウ.及びエ.の記載によれば、引用例においてポリマーの組成は好ましい放出特性をもたらすように選択されるものと認められるから、当業者は、患者における外来遺伝子の長期間の発現をもたらすように、水の中での溶解度が小さいポリマーを用いることを当然試みるはずであり、水の中での溶解度が1mg/l未満である合成ポリマーを採用することに、格別の困難は要しない。そして、本願明細書をみても、本願補正発明が「水の中での溶解度が1mg/l未満である、一つ以上の合成ポリマー」を用いることにより、当業者の予想を超える顕著な効果を奏するとは認められない。
以上のとおり、相違点1は実質的な相違点ではないか、又は相違点1に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものである。

イ.相違点2について
上記(2)カ.及びキ.の記載によれば、引用例には、スーパーコイル化DNAは、85℃での加熱や、超音波処理により分解してしまうが、遺伝子の導入効率はスーパーコイル化DNAの方が直線状DNAよりも効率的であることから、ポリマーマトリックス中でのDNAのスーパーコイルトポロジーが保たれるように、微粒子調製物の製法を選択ないし最適化すべきであることが記載されていると認められる。
そうすると、引用発明のプラスミドDNAについても、遺伝子の導入効率を高めるために、スーパーコイルが分解されてしまうような処理条件を避け、スーパーコイルが、例えば少なくとも80%といった高い割合で保持されるようにして、微粒子調製物を製造することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願明細書には、スーパーコイル化DNAの割合を最大にすることによる効果に関連して、「スーパーコイル化しているプラスミド分子の割合を最大にし、それによって、スーパーコイル化していない(すなわち、ニックが入っているか、直鎖状の)プラスミドよりも安定しているか、またはより効率的なトランスフェクションもしくは発現が可能になることを意味する。」(本件公表公報20頁3?7行)と記載されるにとどまるところ、このような効果は、上記(2)カ.等の記載からみて、当業者が予想できるものといえるから、本願補正発明が、「そのうちの少なくとも80%がスーパーコイル化している」環状プラスミドDNA分子を用いることにより、当業者の予想を超える顕著な効果を奏するとは認められない。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年7月19日付け手続補正書により補正された審判請求書において、本願補正発明は、100ミクロンよりも小さい直径、特に好適な例として20ミクロンよりも小さい直径を有し、かつDNA分子が少なくとも80%スーパーコイル化しているプラスミドDNAである微粒子と、その調製法を提供するものであり、例えば、マクロファージ等による微粒子の貪食に有効な方法が提供可能であり、微粒子の大きさを約20μmよりも小さくすること、好ましくは11μmよりも小さくすることによって増進できることを具体的に教示したものであるのに対し、引用例には、本願補正発明の上記構成も、それにより奏される効果も何ら記載されていないから、引用例の記載に基づいて、特定の直径サイズとスーパーコイルDNAの量を備えた本願補正発明に想到するのは、当業者といえども不可能ないし困難であり、ここに、当業者が予期し得ない本願補正発明の顕著な効果がある旨、主張する。
しかしながら、上記(4)で説示したとおり、引用例には、100μm篩過微粒子が記載されており、また、スーパーコイルが、例えば少なくとも80%といった高い割合で保持されるようにして、微粒子調製物を製造することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願明細書の「マクロファージ、樹状細胞、およびその他のAPCによる微粒子の貪食は、これらの細胞の中に微粒子を導入するのに有効な方法である。微粒子の大きさを約20μmよりも小さくすること、好ましくは、11μmよりも小さくすることによって、これらの細胞による貪食を増進することができる。」(本件公表公報20頁16?19行)との記載、及び、「本発明の第二の微粒子調剤は、細胞によって直接取り込まれることを意図しておらず、生物性分解によって微粒子から放出されたときにだけ細胞によって取り込まれる核酸をゆっくりと放出するための貯蔵装置として主に用いることを意図している。・・・この態様のポリマー粒子は、貪食を防止するのに十分な大きさでなければならない(すなわち、5μm、および、好ましくは19μmよりも大きい)。このような粒子は、より小さな粒子を作成するために上記した方法によって作製されるが、前記第一と第二のエマルジョンの混合強度を低くする。すなわち、より低いホモジナイズ速度、ボルテックスミキサーの速度、または超音波の設定を用いることによって、5μmよりも100μmに近い直径を有する粒子を得ることができる。」(本件公表公報24頁12?22行。下線は当審による。)との記載によれば、マクロファージ等による微粒子の貪食に有効であるのは、微粒子の大きさが約20μmより小さい場合であって、本願補正発明で特定された微粒子の直径の数値範囲は、「貪食を防止するのに十分な大きさ」までも含むものであるから、マクロファージ等による微粒子の貪食に有効な方法を提供できることは、本願補正発明の全体が奏する効果であるとはいえない。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。

3.小括
以上検討したところによれば、本願補正発明は、引用例に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成24年5月30日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明1?55は、平成23年11月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?55に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1.に「補正前」として記載したとおりのものである。

2.本願発明の進歩性について
上記第2 2.で述べたとおり、本願補正発明は本願発明におけるスーパーコイル化の割合「少なくとも60%」を「少なくとも80%」と限定したものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものであることが明らかである。
そして、上記第2 3.で述べたとおり、本願補正発明は引用例に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も、同様に、引用例に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-02 
結審通知日 2013-05-08 
審決日 2013-05-21 
出願番号 特願平10-534764
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬下 浩一荒木 英則  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 高堀 栄二
田中 晴絵
発明の名称 核酸を輸送するための微粒子  
代理人 山口 裕孝  
代理人 清水 初志  
代理人 大関 雅人  
代理人 春名 雅夫  
代理人 新見 浩一  
代理人 井上 隆一  
代理人 小林 智彦  
代理人 渡邉 伸一  
代理人 川本 和弥  
代理人 刑部 俊  
代理人 佐藤 利光  

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