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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21D |
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管理番号 | 1280959 |
審判番号 | 不服2013-6264 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-04-05 |
確定日 | 2013-10-31 |
事件の表示 | 特願2008-301067「アルミニウム合金冷延板の温間プレス成形方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 9日出願公開、特開2009-148823〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成20年11月26日(優先権主張平成19年11月27日)の出願であって、平成24年8月22日付けで拒絶の理由が通知され、平成24年10月26日(受付日)付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年12月27日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し、平成25年4月5日付けで本件審判の請求がされた。 当審から、平成25年5月28日付けで拒絶の理由が通知され、平成25年8月1日付けで意見書及び手続補正書が提出された。 本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年8月1日付けの手続補正書により補正された、本件特許請求の範囲、【請求項1】に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。 「【請求項1】 400℃以上で焼鈍した熱延板、または、400℃以上で中間焼鈍した中間焼鈍板を冷間圧延した、冷間圧延ままの、Mgを含有するアルミニウム合金冷延板を、フランジ部分の温度が170℃以上300℃以下であるダイスと、該ダイスのフランジ部分よりも低温であるポンチを用いて成形することを特徴とするアルミニウム合金冷延板の温間プレス成形方法。」 第2 引用例 これに対して、当審で通知した平成25年5月28日付け拒絶の理由に引用された刊行物である特表2006-519105号公報(以下、「刊行物1」という。)及び特開2004-124175号公報(以下、「刊行物2」という。)には以下の点、それぞれ記載されている。 1 刊行物1 刊行物1には、【図2】とともに以下の点記載されている。 ア 【特許請求の範囲】 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 アルミニウム合金製絞り加工部材の製造方法であって、 ・組成が(重量%で): Mg:1-6 Mn<1.2 Cu<1 Zn<1 Si<3 Fe<2 Cr<0.4 Zr<0.3 他の元素はそれぞれが<0.1で合計で<0.5 残りはAlの合金製で、厚さが0.5mmと5mmの間に含まれる帯材を製造し、 ・この帯材からブランク材を一枚切り取り、 ・該ブランク材の局部または全体を、150℃と350℃の間に含まれる温度で<30s加熱し、 ・後過程の作業と両立可能な潤滑剤を存在させつつ、150℃と350℃の間に含まれる温度で、少なくとも部分的に加熱した装置を用いて、加熱したブランク材を絞り加工する、 という各過程で行われることを特徴とする、アルミニウム合金製絞り加工部材の製造方法。 【請求項2】 元になる帯材が、冷鍛されている状態か、部分的に焼き戻しした状態のものであることを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金製絞り加工部材の製造方法。 ・・・ 【請求項10】 ブランク材の加熱を、周辺区域で行うことを特徴とする、請求項1?9のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製絞り加工部材の製造方法。」 イ 段落【0004】 「【0004】 本発明の目的は、この欠点を克服し、アルミニウム合金製、特にAl-Mg合金製の自動車用の部材を温間絞り加工できるようにすることであり、しかも、生産性を、自動車産業での要請と一致したものにして、それにより、冷間では製作できないような部材を作ったり、そのような部材の製作を、特に絞り加工のパスの数を減らして、容易にしたり、より経済的ではあるが、冷間での成形性には乏しい合金を用いたりすることである。」 ウ 段落【0009】 「【0009】 図2は、実施例1および実施例2で用いられているブランク材の予熱した区域を示している。」 エ 段落【0012】 「【0012】 帯材の作製は、従来のやり方で、板材を鋳造し、熱間圧延し、つぎに冷間圧延して行ってもよいし、また、帯材の連続鋳造を、まず二本の金属製ベルトの間を通して行い(“belt casting”)、つぎに熱間圧延しそして場合によっては冷間圧延したり、まず冷却した二本のシリンダの間を通して行い(“roll casting”)、つぎに冷間圧延したりしてもよい。ベルトの間で鋳造する場合には、得ようとする厚さに差し支えなければ、熱間圧延した帯材を用いるのが技術面でも経済面でも有益なことがある。」 オ 段落【0040】?【0042】 「【0040】 本発明による方法を応用することは、ブランクホルダの下に来ることになる図2の区域(1)に相当する、ブランク材の周辺を予熱し、それにより、その弾性限界を低くし、そうすることによって、ブランクホルダの圧力が大きくても、絞り工具の中に金属が流れやすくなるようにすることである。これに反して、ブランク材の中央、特にそのパンチの半径方向で引張力の下で折り曲げられる状態になる区域は、低温のままであり、それにより、その機械的強度は劣化しないようになっている。 【0041】 ブランク材の予熱は、10秒間、接触させることにより行われる。局部的な加熱を行うために、加熱対象区域の形をした楔を加熱板の下にねじ止めする。つぎにブランク材をこの楔に押しつけて、250℃の温度にまでなるようにする。図2は、加熱板にねじ止めされた楔の形状を示している。加熱が短時間(10秒)で行われるので、プレスの動作タクトで供給を確保することができ、ブランク材の熱勾配が維持される。 【0042】 ブランク材は、絞り加工プレスの下に吐き出されるのだが、該プレスは、900トンの油圧プレスである。絞り工具は、パンチ、ブランクホルダ、そして2つの部分に分かれた抜き型という4つの要素で形成されている。第一の部分は、リング抜き型と呼ばれ、ブランクホルダと向かい合った位置にある。第二の部分は、抜き型の底と呼ばれ、パンチと向かい合った位置にある。リング抜き型とブランクホルダとだけを250℃に加熱するのを、抜き型に入る線に沿ったU字型の抵抗器を介して行う。エアスペースによりリング抜き型から分離された抜き型の底とパンチとは、実験が行われている間ずっと130℃未満の温度のままである。」 カ 段落【0054】 「【0054】 本発明の方法による温間絞り加工により、合金5182製の屋根を製作する。このタイプの部材を用いる上での特性の一つは、その凹みに対する強度であり、それは弾性限界と直接関連するものである。ところで、合金5000は、塗装が焼き付けされる際に硬化する合金6000とは逆に、組織硬化するものではないので、その部材の、成型後の弾性限界は、仕様書を満足させるに足るほど大きくなければならない。それゆえにこそ、材料とするブランク材は、厚さ1mmで、状態H14で強く冷鍛された合金5182製のものであり、その弾性限界は240MPaを超え、即ちビッカース硬さ>95Hvである。従来の冷間絞り加工法によっては、そのようなブランク材を成形することはできない。」 キ 上記摘記事項アには、「アルミニウム合金絞り加工部材の製造方法」に「冷鍛されている状態」の「帯材」を用いる点、記載されている。一方、上記摘記事項エには、実施例として、「帯材の作製は、従来のやり方で、板材を鋳造し、熱間圧延し、つぎに冷間圧延して行ってもよい」と記載されている。「鋳造」、「熱間圧延」そして「冷間圧延」のうち冷やした状態で行う加工方法は冷間圧延のみである。以上の記載から、「冷鍛されている状態」として「冷間圧延ままの」が含まれることは、当業者にとって自明である。 [刊行物1記載発明] 上記摘記事項ア?カ、認定事項キ及び図面記載の事項を技術常識を考慮しながら本願発明に照らして整理すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載発明」という。)が記載されている。 「冷間圧延ままの、重量%で、Mg:1-6 Mn<1.2 Cu<1 Zn<1 Si<3 Fe<2 Cr<0.4 Zr<0.3 他の元素はそれぞれが<0.1で合計で<0.5 残りはAlの合金製アルミニウム合金帯材を、リング抜き型の温度が250℃である抜き型と、該抜き型のリング抜き型よりも低温であるパンチを用いて成形するアルミニウム合金帯材の温間絞り加工方法。」 2 刊行物2 刊行物2には以下の点記載されている。 ク 【特許請求の範囲】 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 Mg:0.30?0.90%(mass%、以下同じ)、Si:0.50?1.60%、Cu:0.50?1.00を含有し、さらに、Mn:0.05?0.30%、Cr:0.05?0.30%、Zr:0.05?0.30%、Ti:0.005?0.15%、Fe:0.03?0.40%の1種または2種以上を含有し、その他不可避不純物からなるアルミニウム合金鋳塊に均質化処理、熱間圧延及び冷間圧延を行い所要の板厚とし、480℃?580℃の温度で5分以内の溶体化処理を行い、その温度から1℃/s以上の平均冷却速度で65℃?120℃の温度範囲まで第1段の冷却を行い、その後、平均冷却速度0.05?1℃/hで0.5h?10hの第2段の冷却を行い、さらにその後、平均冷却速度2.5℃/h以上で45℃以下まで第3段の冷却を行って、耐力を110?135MPaとすることを特徴とする成形性、焼付硬化性、スプリングバック性に優れた成形加工用6000系合金板の製造方法。 【請求項2】 熱間圧延と冷間圧延との間、あるいは冷間圧延途中において480?580℃の温度範囲で5分以内の中間焼鈍を施し1℃/s以上の冷却速度で冷却することを特徴とする請求項1に記載の成形性、焼付硬化性、スプリングバック性に優れた成形加工用6000系合金板の製造方法。」 ケ 段落【0018】 「【0018】 請求項2の発明では、熱間圧延と冷間圧延との間、あるいは冷間圧延の中途において480?580℃の温度範囲で5分以内の中間焼鈍を行なう。 この中間焼鈍を行うことにより成形性が向上する。また、この中間焼鈍を高温で行うことによりMgとSiの固溶量が、最終溶体化処理のみの場合に比べ多くなる。480℃未満では、上記の効果が不十分で、580℃越えると共晶融解、再結晶粒粗大化の恐れがあるから中間焼鈍温度は480?580℃とする。中間焼鈍時間は5分越えると上記の効果が飽和し、経済性を損なうから、中間焼鈍の時間は5分以内とする。所定温度に到達したら保持無しで冷却しても勿論構わない。また、冷却速度が1℃/s未満では、冷却中に多量の析出物が生じて、固溶量の低下に繋がり、結果的に塗装焼付硬化性が低下する。したがって、冷却速度を1℃/s以上とする。 尚、加熱速度は速いほど結晶粒径が細かくなるので好ましい。通常の連続焼鈍炉では加熱速度は1?30℃/s程度であり好適に使用できる。」 コ 段落 【0032】 「【0032】 【発明の効果】 この発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法によれば、低温での安定化処理を省略でき、できるだけ冷却しないような断熱を行う処理なので低コストで、高い成形加工性、焼付硬化性、スプリングバック性を確保できる。 そのため、自動車用ボディシート、家電部品、各種機械器具部品、そのほか成形加工および塗装焼付を施して用いる用途のアルミニウム合金の製造に最適である。」 [刊行物2記載の事項] 上記摘記事項ク?コより、刊行物2には、以下の事項が記載されている。 「自動車用ボディシートに用いる成形加工用アルミニウム合金板の製造法として、熱間圧延と冷間圧延との間において480℃?580℃の温度範囲で中間焼鈍をおこなうこと。」 第3 対比 本願発明と刊行物1記載発明とを比較する。 刊行物1記載発明の「重量%で、Mg:1-6 Mn<1.2 Cu<1 Zn<1 Si<3 Fe<2 Cr<0.4 Zr<0.3 他の元素はそれぞれが<0.1で合計で<0.5 残りはAlの合金製アルミニウム合金帯材」、「抜き型」、「パンチ」、「温間絞り加工方法」は、それぞれ本願発明の「Mgを含有するアルミニウム合金冷延板」、「ダイス」、「ポンチ」、「温間プレス方法」にそれぞれ相当する。 上記摘記事項オ及び【図2】の記載から、刊行物1記載発明の「リング抜き型」は、「温間絞り加工」が施される「アルミニウム合金帯材」のフランジ部分ということができるから、刊行物1記載発明の「リング抜き型」は、「フランジ部分」に相当する。 したがって、本願発明と刊行物1記載発明は、以下の点で一致し、かつ相違する。 1. 一致点 「冷間圧延ままの、Mgを含有するアルミニウム合金冷延板を、フランジ部分の温度が170℃以上300℃以下であるダイスと、該ダイスのフランジ部分よりも低温であるポンチを用いて成形するアルミニウム合金冷延板の温間プレス成形方法。 」 2. 相違点 「温間プレス成型方法」が対象とする「冷間圧延のままの、Mgを含有するアルミニウム合金冷延板」に関して、本願発明は、「400℃以上で焼鈍した熱延板、または、400℃以上で中間焼鈍した中間焼鈍板を冷間圧延した」ものを用いているのに対し、刊行物1の記載はこの点明らかではない点。 第4 相違点についての検討 刊行物1には、上記摘記事項イにあるように、刊行物1記載発明に係る「アルミニウム合金製絞り加工部材の製造方法」が自動車産業で用いられる旨、記載されている。一方、刊行物2には、上記摘記事項コにあるように、アルミニウム合金板を「自動車ボディシート」に用いるために最適な手法として、上記摘記事項ケにあるように、熱間圧延と冷間圧延との間において480℃?580℃の温度範囲で中間焼鈍を行うことが記載されている。そうすると、刊行物1記載発明と刊行物2に記載された事項とは、自動車に用いられるアルミニウム合金板の製造・加工方法である点で、共通する技術分野に属する。 また、成形性の向上は、絞り加工部材の製造方法である刊行物1記載発明においても、内在する課題である。 そうすると、刊行物1記載発明の加工方法に用いられる「冷間圧延ままの、Mgを含有するアルミニウム合金帯板」に対して、400℃以上の温度である「480℃?580℃」で中間焼鈍することは、刊行物1記載発明と共通の技術分野に属する刊行物2に記載された成形性向上のための上記事項を、刊行物1記載発明においても内在する同様の課題解決のために適用することで、当業者が容易に想到し得たものである。 本願発明の奏する作用ないし効果についても、刊行物1、2にそれぞれ記載された発明及び事項から予測できる程度のものであって、格別なものではない。 以上のとおりであるから、本願発明は刊行物1記載発明及び刊行物2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、刊行物1記載発明及び刊行物2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-09-02 |
結審通知日 | 2013-09-03 |
審決日 | 2013-09-17 |
出願番号 | 特願2008-301067(P2008-301067) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B21D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村山 睦 |
特許庁審判長 |
野村 亨 |
特許庁審判官 |
久保 克彦 刈間 宏信 |
発明の名称 | アルミニウム合金冷延板の温間プレス成形方法 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 中村 朝幸 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 亀松 宏 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 中村 朝幸 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 亀松 宏 |
代理人 | 石田 敬 |