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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1280966
審判番号 不服2013-8977  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-16 
確定日 2013-10-31 
事件の表示 特願2006-259954「樹脂組成物、バリア性共押出多層シーラントフィルム、このフィルムを用いた包装材料、包装袋および包装製品」拒絶査定不服審判事件〔平成20年4月10日出願公開、特開2008-81525〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成18年9月26日の特許出願であって,平成23年8月15日付けで拒絶理由が通知され,同年10月14日に意見書とともに手続補正書が提出され,その後,平成24年4月6日付けで拒絶理由が通知され,同年6月6日に意見書とともに手続補正書が提出されたが,平成25年2月12日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年5月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は,平成24年6月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに明細書及び図面(以下,「本願明細書等」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」ともいう。)は,以下のとおりのものである。
「5層からなる共押出多層フィルムであって,
表面層を構成する第1層と裏面層を構成する第5層は,ヒ-トシ-ル性能を有するオレフィン系樹脂層からなり,
第2層と第4層は,ヒ-トシ-ル性能を有する接着樹脂層からなり,
第3層は,エチレン-ビニルアルコール共重合体,
主鎖または側鎖に不飽和二重結合ユニットを有し,紫外光からなるエネルギー照射により,当該不飽和二重結合部分にラジカルを発生し,連続的に酸素を吸収し出し,そして,ラジカルによる連鎖反応により,酸素との相互作用により飽和状態となることで酸素吸収機能を奏することができる,エチレン/メチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートターポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレート/エチレンコポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレート/スチレンコポリマー,シクロヘキセニルアクリレートホモポリマー又はメチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートコポリマーからなる酸化性樹脂
及び紫外光からなるエネルギーを与えることで,上記の酸化性樹脂のラジカル的分解反応が促進され,上記の酸化性樹脂の酸化吸収が開始され,制御する遷移金属触媒を含み,
さらに,上記の遷移金属触媒による酸化反応を強め,進行させる補助機能を果たすラジカル系光重合開始剤を含む樹脂組成物層からなること
を特徴とするバリア性共押出多層シーラントフィルム。」

第3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由とされた平成24年4月6日付け拒絶理由通知書に記載した理由1は,以下のとおりである。
「本願請求項1?8に係る発明は,下記の刊行物1?8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2001-106920号公報
2.特開2003-12944号公報
3.特開2006-70108号公報
4.特開2006-168003号公報
5.特開2006-168002号公報
6.特開2006-123531号公報
7.特開2005-8823号公報
8.特表2003-521552号公報」
(なお,上記拒絶理由通知書における請求項1?8とは,平成23年10月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8を意味している。)

第4.合議体の判断
1.刊行物の記載事項
(1)刊行物1(特開2001-106920号公報)
(1-1)「【請求項1】 酸素透過速度が500ml・20μm/m^(2)・day・atm(20℃,65%RH)以下のガスバリア性樹脂(A),炭素-炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(B)および遷移金属塩(C)を含有するガスバリア性樹脂組成物。
【請求項9】 前記ガスバリア性樹脂(A)が,エチレン含有量5?60モル%,ケン化度90%以上のエチレン-ビニルアルコール共重合体である,請求項1から8いずれかの項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】 前記遷移金属塩(C)が鉄塩,ニッケル塩,銅塩,マンガン塩,コバルト塩から選択される少なくとも一種である,請求項1,2,および4から9いずれかの項に記載の樹脂組成物。
【請求項16】 請求項1から14いずれかの項に記載のガスバリア性樹脂組成物を含む層を有する多層構造体。」(特許請求の範囲請求項1,9,10,16)

(1-2)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,酸素に対し感受性が高く劣化し易い製品,特に食品,飲料,医薬品,化粧品などを包装する場合において,優れたガスバリア性,防湿性,保香性,およびフレーバーバリア性を有する樹脂組成物を提供することにある。本発明の他の目的は,上記ガスバリア性,防湿性などの優れた性質に加え,酸素を掃去あるいは吸収する効果に優れた組成物を提供することである。本発明のさらに他の目的は,上記性質を有する樹脂を提供することにある。本発明のさらに他の目的は,上記組成物を用いて,上記ガスバリア性,酸素吸収性などに優れた成形品を提供することにある。」(段落【0006】)

(1-3)「本発明においては,炭素-炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(B)が使用される。熱可塑性樹脂(B)は,その分子内に炭素-炭素二重結合を有するため,酸素と効率よく反応することが可能であり,酸素掃去機能(酸素吸収機能)が得られる。上記炭素-炭素二重結合とは,共役二重結合を包含するが,芳香環に含まれる多重結合は包含しない。
・・・・
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(B)の炭素-炭素二重結合は,主鎖に含まれてもよく,側鎖に含まれてもよいが,側鎖に含まれる二重結合の量が多い方が(すなわち,炭素-炭素二重結合を有している基が側鎖に多い方が),酸素吸収速度を早くすることから好ましい。」(段落【0055】?【0060】)

(1-4)「本発明の樹脂組成物は,好ましくは遷移金属塩(C)を含有する。この遷移金属塩(C)は,好ましくは金属元素換算で1?5000ppm,好ましくは5?1000ppm,さらに好ましくは10?500ppmの範囲で含有される。これにより,熱可塑性樹脂(B)の酸素酸化反応を促進することができる。例えば,本発明の組成物から得られる包装材料内部に存在する酸素並びに包装材料中を透過しようとする酸素と熱可塑性樹脂(B)とが効率よく反応し得るようになる。その結果,本発明の樹脂組成物における酸素バリア性および酸素掃去作用が向上する。但し,遷移金属塩(C)の含有量が金属元素換算で5000ppmを超える範囲で使用すると本発明の樹脂組成物の熱安定性が低下し,分解ガスの発生やゲル物の発生が著しくなる。このような観点から,遷移金属塩(C)の含有量は上記の範囲が好ましい。
このような遷移金属塩(C)に用いられる金属は,周期表の第1,第2または第3遷移系列から選択されるのが好ましい。適当な金属にはマンガン,鉄,コバルト,ニッケル,銅,ロジウム,チタン,クロム,バナジウムおよびルテニウムが含まれるが,これに限定されない。これらの金属の中で好ましいのは,鉄,ニッケル,銅,マンガンおよびコバルトであり,より好ましくは,マンガンおよびコバルトであり,更に好ましくはコバルトである。
遷移金属塩(C)に用いられる金属の対イオンとしては,有機酸または塩化物由来のアニオンが挙げられる。有機酸としては,酢酸,ステアリン酸,ジメチルジチオカルバミン酸,パルミチン酸,2-エチルへキサン酸,ネオデカン酸,リノール酸,トール酸,オレイン酸,樹脂酸,カプリン酸,およびナフテン酸が含まれるが,これに限定されるものではない。特に好ましい塩には,2-エチルへキサン酸コバルト,ネオデカン酸コバルトおよびステアリン酸コバルトが挙げられる。金属塩は重合体性対イオンを有する,いわゆるアイオノマーであっても良い。」(段落【0084】?【0086】)

(1-5)「本発明の樹脂組成物には,必要に応じて各種の添加剤が含有される。このような添加剤の例としては,酸化防止剤,可塑剤,熱安定剤(溶融安定剤),光開始剤,脱臭剤,紫外線吸収剤,帯電防止剤,滑剤,着色剤,フィラー,乾燥剤,充填剤,顔料,染料,加工助剤,難燃剤,防曇剤あるいは他の高分子化合物を挙げることができ,これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲内で含有させることが可能である。
・・・・
上記添加剤のうち光開始剤は,樹脂組成物でなる層状体,包装用フィルムなどの中で,酸素掃去を開始または促進させるために使用される。
本発明の酸素吸収性組成物に酸化防止剤が含有されている場合,この組成物にさらに1種以上の光開始剤を含有させることもまた,推奨される。このような組成物に所望の時期に光を照射することにより,熱可塑性樹脂(B)と酸素との反応の開始が促進され,その結果,組成物の酸素掃去機能を発現することが可能となる。
適当な光開始剤の例としては,次の化合物が挙げられるがこれに限定されない:ベンゾフェノン,・・・・。一般にはより迅速かつ効率的な開始効果が得られるので,光開始剤の使用が好ましい。」(段落【0093】?【0100】)

(1-6)「本発明においては,上記成形により得られる成形品は単層であってもよいが,他の色々な樹脂から構成される層との積層体として用いることが,多機能を付与できる点からより好ましい。本発明の樹脂組成物を単層で用いた場合,内容物あるいは外気の水分によって酸素バリア性が低下することがある上,機械的強度が十分でないことがある。それを補う上で,水分の多く存在する側に水蒸気バリア性のある層を積層したり,或いは機械的強度の高い層を積層したりすることが好ましい。
また,本発明においては,樹脂組成物層の外側を他の樹脂層で覆うことによって,外部からの酸素の浸入速度を抑制することができ,樹脂組成物の酸素吸収機能を長時間維持することができる点からも,多層構成とすることが好ましい。
多層構成の容器のうち,この容器の最内層が本発明の樹脂組成物で形成されている実施態様は,容器内の酸素掃去機能が速やかに発揮される観点から好適である。
多層構造体の具体的な層構成としては,熱可塑性樹脂(B)以外の樹脂,金属,紙,織布あるいは不織布等からなる層をA層,熱可塑性樹脂(B)あるいはこの熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物層をB層,接着性樹脂層をC層とすると,A/B,A/B/A,A/C/B,A/C/B/C/A,A/B/A/B/A,A/C/B/C/A/C/B/C/Aなどの層構成が例示されるが,・・・・好適である。
本発明のガスバリア性樹脂組成物の成形品に積層する樹脂層を形成する材料としては,加工性等の点から,熱可塑性樹脂が好ましい。・・・・。
これらの熱可塑性樹脂のうち,ポリオレフィンは耐湿性,力学特性,経済性,ヒートシール性等にも優れる点から好適である。また,ポリエステルは透明性が良好で,力学特性にも優れるため,透明性の良好な本発明の樹脂組成物と積層する有用性が大きい。
・・・・
本発明においては,本発明の樹脂組成物層と他の樹脂層とを接着するために,接着性樹脂を使用することができる。接着性樹脂は各層間を接着できるものであれば特に限定されるものではないが,ポリウレタン系,ポリエステル系一液型あるいは二液型硬化性接着剤,二液型硬化性接着剤,不飽和カルボン酸またはその無水物(無水マレイン酸など)をオレフィン系重合体または共重合体に共重合またはグラフト変性したもの(カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂)が好適に用いられる。
これらのうちでも,接着性樹脂がカルボン酸変性ポリオレフィン樹脂であることが,ポリオレフィンなどの表面層と樹脂組成物層との接着性の観点からより好ましい。かかるカルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂の例としては,ポリエチレン{低密度ポリエチレン(LDPE),直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE),超低密度ポリエチレン(VLDPE)},ポリプロピレン,共重合ポリプロピレン,エチレン-酢酸ビニル共重合体,エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル,またはエチルエステル)共重合体等をカルボン酸変性したものが挙げられる。
多層構造体を得る方法としては,押出ラミネート法,ドライラミネート法,溶剤流延法,共射出成形法,共押出成形法などが例示されるが,特に限定されるものではない。共押出成形法としては,共押出ラミネート法,共押出シート成形法,共押出インフレ成形法,共押出ブロー成形法などを挙げることができる。」(段落【0137】?【0146】)

(1-7)「【発明の効果】本発明によれば,ガスバリア性,特に酸素ガスバリア性に優れ,さらに酸素吸収性に優れた樹脂組成物が得られる。さらに適切に樹脂を選択することにより,良好な透明性が得られる。このような樹脂組成物は任意の形状の成形品に調製され得る。これらを用いて調製された成形品,例えば,フィルムや容器は,ガスバリア性および酸素吸収性に優れ,さらに良好な透明性が得られる。そのため,本発明の樹脂組成物あるいは樹脂は,食品,医薬品等の酸素による劣化を受けやすい物品を保存するための容器として有用である。
上記樹脂組成物を用いた多層構造体,例えば多層フィルムからなる包装材料も上記優れた性能を有するため好適に用いられる。特に,全層厚みが300μm以下である多層フィルムからなる容器,あるいは熱可塑性ポリエステル層と積層してなる多層容器は,上記酸素吸収性あるいはガスバリア性に加え,透明性が要求される容器の用途に好適に用いられる。」(段落【0271】?【0272】)

(2)刊行物8(特表2003-521552号公報)
(2-1)「【請求項60】 容器から酸素を除去することによりまた容器外から酸素が容器内に進入するのを阻止することにより容器の内容物の酸化を防止する容器として好適な製造物品であって,この物品が,ポリマー主鎖,環状オレフィン懸垂基,主鎖にオレフィン懸垂基を結合する結合基そして遷移金属触媒を含む酸素捕集組成物からなる製造物品。
【請求項70】 組成物がエチレン/メチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートターポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレート/エチレンコポリマー,シクロヘキセニルメチルメタクリレート/スチレンコポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレートホモポリマーまたはメチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートコポリマーである請求項60に記載の製造物品。
【請求項71】 遷移金属触媒が金属塩である請求項60に記載の製造物品。
【請求項74】 酸素捕集の開始を強化するための少なくとも1つの触発物質をさらに含有する請求項60に記載の製造物品。
【請求項75】 触発物質が光開始剤である請求項74に記載の組成物。
【請求項83】 請求項60記載の製造物品と,追加的な少なくとも1つの機能層とを含む多層フィルム。
【請求項84】 追加的な少なくとも1つの層が,酸素バリアー層,ポリマー選択バリアー層,構造層および熱シール層から選択される請求項83に記載の多層フィルム。」(特許請求の範囲請求項60,70,71,74,75,83,84)

(2-2)「(発明の分野)
本発明はプラスチック物質,そして特にプラスチックフィルム中で使用するための酸素スカベンジャーに関する。パッケージのヘッドスペースを汚染するであろう酸化副生物を生成する水準が低いまたは無視できるスカベンジャーが重視される。本発明は酸素に敏感な製品,特に食品および飲料製品がおさめられている環境から酸素を捕集するのに有用である組成物にも関する。一層特定的に,酸素を捕集する組成物には,環状部分内に含まれるエチレン性不飽和を有するポリマー,遷移金属化合物そして,場合によっては光開始剤が含まれる。本発明は食品の包装のような分野で使用するための,そして包装される内容物の匂いおよび味にたいする影響が最小である組成物にも関する。本発明では,酸素を捕集する包装材料中で使用するように選択された環状アリル懸垂基で変性されているエチレンアクリレートコポリマーの使用が好ましい。本発明はポリエステルテレフタレート,またはポリエステルナフタレートのようなポリエステルと酸素捕集ポリマーとを含む堅いポリマーの食品容器または飲料容器にも関する。」(段落【0001】)

(2-3)「酸素を捕集する別な方法は,エチレン不飽和炭化水素と遷移金属触媒とを含む酸素捕集組成物による。スクアレン,脱水されたヒマシ油および1,2-ポリブタジエンのようなエチレン不飽和化合物は有用な酸素捕集組成物であり,またポリエチレンおよびエチレンコポリマーのようなエチレン性飽和化合物が希釈剤として使用される。スクアレン,ヒマシ油または他のこのような不飽和炭化水素を利用する組成物は,化合物が材料の表面に向かって移行するので,油っぽい肌触りを一般に有する。さらに,主鎖中でエチレン不飽和であるポリマー鎖は,酸素捕集に際して劣化が予想され,ポリマー主鎖の破断のためポリマーが弱体化し,また種々の匂い/味の外れた副生物が発生する。
技術上認められた酸化可能な他のポリマーには,ポリ(エチレン-メチルアクリレート-ベンジルアクリレート),EMBZ,およびポリ(エチレン-メチルアクリレート-テトラヒドロフルフリルアクリレート),EMTF,そしてまたポリ(エチレン-メチルアクリレート-ノポールアクリレート),EMNPのような「高活性の」酸化可能なポリマーがある。これらのポリマーは酸素スカベンジャーとして有効であるが,酸素捕集の後に多量の揮発性副生物および/または強い匂いを発生するという欠点を有する。」(段落【0033】?【0034】

(2-4)「本発明は,匂いまたは味に悪影響を与える酸化副生物の移行をほとんどまたは全く生まない環状アリル(オレフィン)懸垂基を含み,従って食品の包装での感覚器官の刺激の問題を最小にするポリマーを含有する酸素捕集包装物質に特によって,先行技術の多くの問題を解決する。これは,環状アリル構造は,酸素捕集包装物質で使用される慣用の開放鎖環状アリル(オレフィン)基に比べると,酸化後に断片化あるいは分裂する傾向が低いことによる。
PET,PENおよび/またはポリアミドの上記したようなポリマー容器では,そこに包装される酸素に敏感な物質と接触する酸素と反応してその量を減少する酸化可能な成分が利用される。この酸化可能な物質はすべて,それの酸化に際して放出される副生物のために,包装された物質にいやな匂いおよび/または味を与える欠点を有する。別な問題は,ポリマー主鎖からの酸化による断片化が制御されず,これは鎖の離脱を誘発し,従って,容器の多層構造の物理的一体性を弱くすることである。
対照的に本発明は,酸素捕集機能の結果として匂いおよび味を放出しない環状オレフィンの酸素捕集成分が入った,PETおよび/またはPENを含む飲料および/または食品の堅い容器を実現する。酸化は分子量の変化を惹起することもない。これは,環状オレフィン酸素捕集成分は酸化に際して断片化しないことによるのであり,従って構造的一体性を維持しつつ,包装された物質に酸化副生物をあたえるという問題が回避される。」(段落【0046】?【0048】)

(2-5)「(発明の詳細な説明)
本発明者は,ある種のシクロヘキセニル官能基を含む物質は,遷移金属塩とそして場合によっては光開始剤とともにコンパウンド化されるとき優れた酸素吸収剤であり,またこの物質が酸化すると極めて低水準の酸化副生物が生成することを見いだしている。このことは,線状の不飽和化合物の遷移金属塩とのコンパウンドを使用すると優れた酸素吸収剤を得ることができるものの酸化副生物の水準が過度に高い既知の技術と著しい対照をなす。この改善が得られるのは,シクロヘキセンの穏和な酸化によって環構造上の結合が壊れないが,リノール酸または植物油のような線状の不飽和物質は似た条件の下で酸化すると鎖の切断によってより小さい分子が生成することによると考えられる。シクロヘキセンを含有する系は線状の不飽和物質より揮発性の低い副生物が生成することが見いだされている。
本発明の組成物は,先行技術において記載されているものより一層清浄であり,好ましくない副生物を吸収するために高水準の添加剤を使用することは必要でない。」(段落【0201】?【0202】)

2.刊行物に記載された発明
刊行物1には,摘示(1-1)の記載からみて,「酸素透過速度が500ml・20μm/m^(2)・day・atm(20℃,65%RH)以下のエチレン含有量5?60モル%,ケン化度90%以上のエチレン-ビニルアルコール共重合体であるガスバリア性樹脂(A),炭素-炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(B)および遷移金属塩(C)を含有するガスバリア性樹脂組成物を含む層を有する多層構造体。」に係る発明が記載されている。
当該多層構造体は,ガスバリア性樹脂組成物を含む層を有するのであるから,ガスバリア性多層構造体といえるものである。
さらに,摘示(1-6)には,ガスバリア性樹脂組成物に光開始剤を含有させることが記載されている。
そして,摘示(1-6)には,多層構造体の具体的な層構成として,「熱可塑性樹脂(B)以外の樹脂,金属,紙,織布あるいは不織布等からなる層をA層,熱可塑性樹脂(B)あるいはこの熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物層をB層,接着性樹脂層をC層とすると,A/B,A/B/A,A/C/B,A/C/B/C/A,A/B/A/B/A,A/C/B/C/A/C/B/C/Aなどの層構成が例示される」(注:下線は当審で付与,以下同様)ことが記載され,「ガスバリア性樹脂組成物の成形品に積層する樹脂層を形成する材料としては,加工性等の点から,熱可塑性樹脂が好まし」く,その「熱可塑性樹脂のうち,ポリオレフィンは耐湿性,力学特性,経済性,ヒートシール性等にも優れる点から好適である」ことが記載されているから,ポリオレフィン層/接着性樹脂層/炭素-炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物層/接着樹脂層/ポリオレフィン層の5層構造体が記載されているといえる。
さらに,摘示(1-6)には,多層構造体を得る方法として,共押出成形法が例示されている。

したがって,刊行物1には,
「第1層及び第5層は,ヒートシール性を有するポリオレフィン樹脂層であり,
第2層及び第4層は,接着性樹脂層であり,
第3層は,酸素透過速度が500ml・20μm/m^(2)・day・atm(20℃,65%RH)以下のエチレン含有量5?60モル%,ケン化度90%以上のエチレン-ビニルアルコール共重合体であるガスバリア性樹脂(A),炭素-炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(B)および遷移金属塩(C),並びに光開始剤を含有するガスバリア性樹脂組成物を含む層である,ガスバリア性共押出5層構造体。」に係る発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3.対比,判断
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
両発明は,「包装材料を通して外部から酸素,水蒸気等が侵入することを防止し,且つ包装容器内に存在する酸素乃至包装容器内において発生する酸素を十分に捕捉するのに好適な樹脂組成物,この樹脂組成物からなる層を含むガスバリア性共押出多層構造体の提供」という点で,共通の課題を有するものである(本願明細書等段落【0003】等及び摘示(1-2))。
まず,引用発明のガスバリア性共押出5層構造体は,シーラントフィルムの態様を包含するものである(摘示(1-6))。
そして,引用発明の「炭素-炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(B)」(以下,単に「熱可塑性樹脂(B)」という。)は,摘示(1-3)?(1-5)の記載からみて,本願発明の「主鎖または側鎖に不飽和二重結合ユニットを有し,紫外光からなるエネルギー照射により,当該不飽和二重結合部分にラジカルを発生し,連続的に酸素を吸収し出し,そして,ラジカルによる連鎖反応により,酸素との相互作用により飽和状態となることで酸素吸収機能を奏することができる,酸化性樹脂」に相当する。
また,引用発明の遷移金属塩(C)は,本願明細書等の段落【0008】,【0028】の記載及び摘示(1-1)及び(1-4)の記載からみて,本願発明の「紫外光からなるエネルギーを与えることで,上記の酸化性樹脂のラジカル的分解反応が促進され,上記の酸化性樹脂の酸化吸収が開始され,制御する遷移金属触媒」に相当する。
さらに,引用発明の光開始剤は,摘示(1-5)の記載からみて,本願発明の「紫外光からなるエネルギーを与えることで,上記の酸化性樹脂のラジカル的分解反応が促進され,上記の酸化性樹脂の酸化吸収が開始され,制御する遷移金属触媒を含み,
さらに,上記の遷移金属触媒による酸化反応を強め,進行させる補助機能を果たすラジカル系光重合開始剤」に相当する。

したがって,両発明は,
「5層からなる共押出多層フィルムであって,
表面層を構成する第1層と裏面層を構成する第5層は,ヒ-トシ-ル性能を有するオレフィン系樹脂層からなり,
第2層と第4層は,接着樹脂層からなり,
第3層は,エチレン-ビニルアルコール共重合体,
主鎖または側鎖に不飽和二重結合ユニットを有し,紫外光からなるエネルギー照射により,当該不飽和二重結合部分にラジカルを発生し,連続的に酸素を吸収し出し,そして,ラジカルによる連鎖反応により,酸素との相互作用により飽和状態となることで酸素吸収機能を奏することができる,酸化性樹脂
及び紫外光からなるエネルギーを与えることで,上記の酸化性樹脂のラジカル的分解反応が促進され,上記の酸化性樹脂の酸化吸収が開始され,制御する遷移金属触媒を含み,
さらに,上記の遷移金属触媒による酸化反応を強め,進行させる補助機能を果たすラジカル系光重合開始剤を含む樹脂組成物層からなること
を特徴とするバリア性共押出多層シーラントフィルム。」の点で一致しているが,以下の相違点1で一応相違し,相違点2で相違している。

<相違点1>
本願発明は,接着樹脂層が「ヒートシール性能を有する」と特定されているのに対し,引用発明では,かかる特定はなされていない点。

<相違点2>
本願発明は,酸化性樹脂が「エチレン/メチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートターポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレート/エチレンコポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレート/スチレンコポリマー,シクロヘキセニルアクリレートホモポリマー又はメチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートコポリマーからなる酸化性樹脂」と特定されているのに対し,引用発明では,「熱可塑性樹脂(B)」である点。

(2)相違点についての検討
(2-1)相違点1について
刊行物1には,第2層及び第4層の接着性樹脂層(接着樹脂層)について「接着性樹脂は各層間を接着できるものであれば特に限定されるものではないが,ポリウレタン系,ポリエステル系一液型あるいは二液型硬化性接着剤,二液型硬化性接着剤,不飽和カルボン酸またはその無水物(無水マレイン酸など)をオレフィン系重合体または共重合体に共重合またはグラフト変性したもの(カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂)が好適に用いられる。
これらのうちでも,接着性樹脂がカルボン酸変性ポリオレフィン樹脂であることが,ポリオレフィンなどの表面層と樹脂組成物層との接着性の観点からより好ましい。かかるカルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂の例としては,ポリエチレン{低密度ポリエチレン(LDPE),直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE),超低密度ポリエチレン(VLDPE)},ポリプロピレン,共重合ポリプロピレン,エチレン-酢酸ビニル共重合体,エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル,またはエチルエステル)共重合体等をカルボン酸変性したものが挙げられる。」(摘示(1-6))と記載されている。
ポリオレフィンはヒートシール性を有すること(摘示(1-6))及び本願明細書等の実施例において,接着樹脂層に用いられているのは「無水マレイン酸変性の接着性ポリエチレン」であることからみて,引用発明の接着性樹脂層も「ヒートシール性能を有する」ものと認められる。
したがって,相違点1は,実質的な相違点とは認められない。

(2-2)相違点2について
引用発明の「熱可塑性樹脂(B)」は,摘示(1-3)?(1-5)の記載からみて,遷移金属塩(C)及び光開始剤の作用により,酸素と効率よく反応することが可能であり,酸素掃去機能(酸素吸収機能)を有するものである。
これに対して,刊行物8には,食品等の包装材料に用いられるプラスチックフィルム中で使用するための食品酸素捕集組成物として,「エチレン/メチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートターポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレート/エチレンコポリマー,シクロヘキセニルメチルメタクリレート/スチレンコポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレートホモポリマーまたはメチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートコポリマー,遷移金属触媒及び光開始剤を含む組成物」が記載されている(摘示(2-1),(2-2))。
当該組成物における「エチレン/メチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートターポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレート/エチレンコポリマー,シクロヘキセニルメチルメタクリレート/スチレンコポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレートホモポリマーまたはメチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートコポリマー」は,「遷移金属塩とそして場合によっては光開始剤とともにコンパウンド化されるとき優れた酸素吸収剤」となるものであり(摘示(2-5)),引用発明の「熱可塑性樹脂(B)」と同様の機能を有するものと認められる。
そして,当該組成物は,従来の酸素捕集組成物の有する「ポリマー主鎖の破断のためポリマーが弱体化し,また種々の匂い/味の外れた副生物が発生する。」,「酸素捕集の後に多量の揮発性副生物および/または強い匂いを発生する」等の問題点を解決し,「ポリマー主鎖の破断がなく,包装される内容物への匂いおよび味の移行が少ない包装材料」を提供できることが記載されている(摘示(2-3)?(2-5))。
引用発明は,食品,飲料,医薬品等の包装材料に用いられるものであるから(摘示(1-2),(1-7)),「包装される内容物への匂いおよび味の移行」の低減という課題が内在しているものと認められ,この課題の解決のために,引用発明の「熱可塑性樹脂(B)」として,刊行物8に記載された,「炭素-炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂」である「エチレン/メチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートターポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレート/エチレンコポリマー,シクロヘキセニルメチルメタクリレート/スチレンコポリマー,シクロヘキセニルメチルアクリレートホモポリマーまたはメチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートコポリマー」を適用することは,当業者が容易に試みる事項と認められる。
また,そのことによる効果も格別なものとも認められない。

(3)まとめ
したがって,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び刊行物8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第5.むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-29 
結審通知日 2013-09-03 
審決日 2013-09-18 
出願番号 特願2006-259954(P2006-259954)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 道弘  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 須藤 康洋
富永 久子
発明の名称 樹脂組成物、バリア性共押出多層シーラントフィルム、このフィルムを用いた包装材料、包装袋および包装製品  
代理人 藤枡 裕実  
代理人 深町 圭子  
代理人 伊藤 裕介  
代理人 後藤 直樹  
代理人 伊藤 英生  
代理人 立石 英之  

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