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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1281001 |
審判番号 | 不服2013-3645 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-02-26 |
確定日 | 2013-10-28 |
事件の表示 | 特願2012-119754「電極箔および有機デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 1日出願公開、特開2012-212675〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年3月1日に出願した特願2011-536655号(優先日:平成22年6月4日、平成22年8月4日)の一部を平成24年5月25日に新たな特許出願としたものであって、平成24年8月27日に手続補正がなされたが、同年11月30日付けで拒絶査定がなされた。 これに対し、平成25年2月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 第2 本願発明 1.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成24年8月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「銅箔である金属箔と、 前記金属箔上に直接設けられ、アルミニウム膜、アルミニウム系合金膜、銀膜、銀系合金膜からなる群から選択される少なくとも一種である反射層と を備えてなり、フレキシブル電子デバイス用の支持基材を兼ねたアノードまたはカソードとして用いられる、1?100μmの厚さを有する電極箔。」(以下「本願発明」という。) 2.引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、国際公開第2010/000226号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。 なお、以下の摘記事項は上記引用文献1のパテントファミリーである特表2011-526409号公報の記載を援用した。 (1)「【0017】 別の実施形態では、有機電子構成部材は殊に、 ・柔軟な第1の基板上の、少なくとも1つの有機層を有する少なくとも1つの機能的積層体と、 ・第2の基板とを有しており、当該第2の基板上に、前記少なくとも1つの機能的積層体が、前記有機層と反対側にある、前記第1の基板の表面で配置されており、 ・前記第2の基板は、前記第1の基板よりも、低い柔軟性と、湿気および酸素に対する高い密閉性とを有している。 【0018】 有機電子構成部材は殊に、上述の方法によって低コストかつ効率に製造可能である。 【0019】 以下に記載する特徴は同様に、上述した方法に対しても、光学的な電子構成部材に対しても有効である。 【0020】 第1の基板は例えば、プラスチックおよび/または金属から成るフィルムとして構成される。この金属はここで殊に、特殊鋼、アルミニウムおよび/または銅を含む、または、1つまたは複数の金属から成る。プラスチックは、例えば高い密度および低い密度のポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)等の、1つまたは複数のポリオレフィンを有する。さらに、プラスチックは、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチロール(PS)、ポリエステルおよび/または有利にはポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルサルホン(PES)および/またはポリエチレンナフタレート(PEN)も含み得る。 【0021】 第1の基板は、ここで湾曲可能であり、かつ巻き取り可能であり、殊に、ロールに巻き取り可能なフィルムバンドとして提供される。第1の基板はここで、1つまたは複数のプラスチックおよび/または1つまたは複数の金属から成る混合物、層列および/またはラミネートを含むこともできる。第1の基板は1mm以下、有利には500μm以下、殊に有利には250μm以下の厚さを有し得る。さらに第1の基板が、1μm以上の厚さを有することもある。例えば、第1の基板は約5μmの厚さまたは約12μmの厚さを有し得る。第1の基板が厚く構成されるほど、バンド積層設備および以降のステップにおける少なくとも1つの有機層の被着に関してより安定する。第1の基板が薄くなるほど、第1の基板は湾曲しやすくなり、より軽量になる。 【0022】 第1の基板、殊にフィルムとして上述のように提供された第1の基板は、湿気および/または酸素に対する自身の透過性ないしバリヤ機能に関して、最適化される必要はない。「透過性」とはここで、湿気および/または酸素の拡散に対する高い透過性を意味しており、有機電子構成部材が継続的に作動された場合には、少なくとも1つの有機層および/または別の層または部材がこの第1の基板によって十分には、湿気および/または酸素から保護されないことを意味する。 【0023】 例えば、第1の基板は金属フィルムまたはプラスチックフィルムとして、またはプラスチックフィルムおよび金属フィルムを有する層列として提供される。ここで例えば金属フィルムは、方法において製造可能な電子構成部材に対する下方の電極層の機能を担う。さらに第1の基板は、純粋な金属または金属合金を含み得る。さらに、第1の基板に、絶縁性または導電性のブラグ反射器の形状のコーティング、および/または透明なバッファ層、例えばプラスチック層を含むコーティングを施すことができる。択一的にまたは付加的に、このような層をバンド積層設備によって被着することもできる。 【0024】 下方の電極層を、第1の基板と少なくとも1つの有機層との間に配置することができる。またはこれを、第1の基板によって形成することができる。さらに、下方の電極としての第1の基板は、透明導電性酸化物(transparent conductive oxide、略してTCO)、例えば酸化亜鉛、酸化スズ、酸化カドミウム、酸化チタン、酸化インジウム、または酸化インジウムスズ(ITO)等を含むことがある。二成分金属酸化物、例えばZnO、SnO_(2)またはIn_(2)O_(3)の他に、三成分金属酸化物、例えばZn_(2)SnO_(4)、CdSnO_(3)、ZnSnO_(3)、MgIn_(2)O_(4)、GaInO_(3)、Zn_(2)In_(2)O_(5)またはIn_(4)Sn_(3)O_(12)または異なる透明導電性酸化物の混合物も、TCOのグループに属する。さらに、TCOは、必ずしも化学量論的組成に相応しなくてもよく、pドーピングまたはnドーピングされてもよい。 【0025】 下方の電極層はさらに、1つまたは複数の金属を含むことができる。これは例えばアルミニウム、バリウム、インジウム、銀、金、マグネシウム、カルシウムまたはリチウム並びにこれらの金属の化合物、組み合わせおよび合金である。下方の電極層が、少なくとも1つのTCO層および少なくとも1つの金属層との組み合わせを含んでもよい。 【0026】 殊に、下方の電極層は透明または反射性に構成され、上述した材料の1つまたは複数を含むことができる。」 (2)「【0031】 さらに、ステップA2において、少なくとも1つの有機層を被着する前に、下方の電極層が第1の基板上に被着され得る。下方の電極層はここで、1つまたは複数の金属を含む。この金属は例えばアルミニウム、バリウム、インジウム、銀、金、マグネシウム、カルシウムまたはリチウムならびにこれらの金属の化合物、組み合わせおよび合金である。択一または付加的に、ステップA2において、下方の電極層として1つまたは複数のTCO層が被着される。下方の電極層は、少なくとも1つのTCO層と少なくとも1つの金属層との組み合わせも含む。下方の電極層はここで例えば、蒸着方法またはスパッタリングによって被着される。さらに、第1の基板の上に、ステップA2において、少なくとも1つの有機層を被着する前に、金属膜を積層することがある。」 (3)「【0039】 下方の電極層は例えばアノードとして構成され、上方の電極層はカソードとして構成される。これに対して択一的に、上方の電極層をアノードとして構成し、下方の電極層をカソードとして構成することができる。 【0040】 少なくとも1つの有機層を備えた第1の基板は、ステップA3において、機械的な、光学的なまたは熱的な分断方法を用いて、またはこれらの組み合わせを用いて、多数の機能的積層体にラテラル方向に個別化される。機械的な分断方法は例えば、機械的な切断(カッティング)および/または打ち出し(ダイカッティング)を含んでいる。光学的な分断方法は例えば、レーザ分断(レーザ切断)を含んでいる。熱的な分断方法は、例えば、高温のワイヤーを用いた溶融分断(ホットワイヤー切断)を含んでいる。 【0041】 さらに、第1の基板に、ステップA1において既に、つながっている個別化領域を設けることができる。これらの個別化領域の間には、個別化線、例えば目標亀裂線または目標切り取り線および/または切り取り点線が配置されている。従って、つながっている複数の個別化領域を有する第1の基板上に、ステップA2において、少なくとも1つの有機層が継続して被着される。ステップA3では、少なくとも1つの有機層を備えたこれらの個別化領域が、設定された個別化線に沿って、簡単に、第1の基板から剥がされる。ステップA1およびA2は、ステップA3における個別化前に、機能的積層体の後の形状に依存していないので、少なくとも1つの有機層を有する第1の基板を、ステップA2の後、ステップA3において、それぞれ任意の形状の複数の機能的積層体に個別化することができる。 【0042】 この場合には複数の機能的積層体の各々は、個別化の後に、第1の基板と、その上に少なくとも1つの有機層を有しており、さらに、存在している場合には、下方の電極層および/または上方の電極層および/または有機層列を有している。機能的積層体は、個別化後に、同じ形状またはそれぞれ異なった形状を有することができる。ここでこの個別化は、少なくとも1つの有機層を有する第1の基板の面を最適に利用するという点に関しても実施される。これによって、第1の基板の基板表面に傷が付くことを低減することができるまたはむしろ完全に回避することができる。複数の機能的積層体に個別化することによって、有機的な電子構成部材の後の活性面の形状、すなわち、OLEDとして構成された有機電子構成部材での発光面が、コストのかかる構造化プロセスおよびマスクプロセスを用いずに選択され、かつ個別に変更可能であり、変更されたデザインおよびレイアウトに整合可能である。」 (4)「【0060】 図1A?1Eには、有機電子構成部材100を製造する方法のための実施例が示されている。 【0061】 ステップAでは、機能的積層体10が製造される。このために、図1Aに示された、ステップAの部分ステップA1において、柔軟な第1の基板1が提供される。この第1の基板1は、プラスチック製の透明な、柔軟フィルムとして提供される。図示の実施例においてポリエチレンから成るこの第1の基板1はここでフィルムロールの形状で提供される。このフィルムロールは、図2に示されたバンド積層設備90内でさらに処理される。 【0062】 図1Bに示された、ステップAのさらなる部分ステップA2では、少なくとも1つの有機層2が、第2の基板1上に、バンド積層設備90を用いて被着される。図示の実施例では、図1Bに従ってさらに、この少なくとも1つの有機層2を被着する前に、下方の電極層3が第1の基板1上に被着されている。少なくとも1つの有機層2上には、上方の電極層4が被着される。図示の実施例では、下方の電極層3として、酸化インジウムスズ(ITO)から成る層が被着され、上方の電極層4としてアルミニウム層が被着される。少なくとも1つの有機層2は、ホール搬送層と、電子搬送層と、アクティブなエレクトロルミネセンス領域とを備えた有機層列を含んでいる。このエレクトロルミネセンス領域内では、有機電子構成部材100の作動時に、ホールと電子の再結合によって電磁ビームが生成される。部分ステップA2に対する、殊にバンド積層設備90に対するさらなる詳細を、さらに下方で、図2に関して説明する。 【0063】 ステップAのさらなるステップA3では、図1Cに示されているように、第1の基板1が、少なくとも1つの有機層2とともに、複数の機能的積層体10に個別化される。これは矢印19によって示されている。図示の実施例では、この個別化19は、機械的な切断によって行われる。ここでこの機能的積層体10の形状は個別に選択可能であり、例えば相互に異なっていてもよい。択一的に、個別化19を、別の、一般的な部分に記載した個別化方法によって行ってもよい。殊に、機能的積層体10が複雑な形状の場合には、例えば、レーザ分断方法または高温ワイヤーを用いた分断方法(ホットワイヤカッティング)も有利である。 【0064】 複数の機能的積層体10の各々が、例えば、予め定められた幾何学的形状を有することができる。これらを介して、有機電子構成部材100内で、装飾的なおよび/または情報提供的な印象および効果が生起される。従って、機能的積層体10を例えば、情報媒介ピクトログラム、文字および/または数字の形状に個別化することもできる。 【0065】 さらなるステップBにおいては、図1Dに示されているように、第2の基板5が提供される。この第2の基板の柔軟性は、第1の基板1の柔軟性よりも低く、湿気および酸素に対する密閉度は第1の基板のそれよりも高い。第2の基板5は、図示の実施例では、透明なガラスから成り、次のような厚さを有している。すなわち、第2の基板5が湿気および酸素に対してハーメチックに密閉性であるような厚さを有している。 【0066】 さらなるステップCでは、図1Eに示されているように、図1Cに示されたステップA3からの、複数の機能的積層体10のうちの1つが、少なくとも1つの有機層2と反対側の、基板1の表面11でもって、第2の基板5上に被着される。これによって、有機電子構成部材100が構成される。ここでこの機能的積層体10は、第2の基板5上に、接着層(図示されていない)によって積層される。例えば第1の基板1に、自己接着フィルムとして、接着層が、表面11上に既にステップA1において設けられてもよい。」 (5)「【0076】 図5には、有機電子構成部材400に対する別の実施例が示されている。これは湾曲された第2の基板5を有している。従って機能的積層体10は、第2の基板5の撓まされ、かつ湾曲された主表面上に配置される。第1の基板1が、ステップA2のバンド積層化プロセスに対して適しているという事実に基づいて、機能的積層体10の形状は、大きな湾曲を有する表面にも整合される。 【0077】 択一的または付加的に、第2の基板5は柔軟である。この場合に機能的な積層体10の機能性は、第2の基板5と比較して高い第1の基板1の柔軟性によって、第2の基板5の湾曲変化によって損傷されることはない。」 (6)「【図1A】?【図1E】 」 (7)「【図2】 」 これらの記載事項を含む引用文献1全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。 「ホール搬送層と、電子搬送層と、アクティブなエレクトロルミネセンス領域とを備えた有機層列を含んでいる少なくとも1つの有機層(2)を備えた機能的積層体(10)を構成する第1の基板(1)は約5μmまたは約12μmの厚さを有する銅から成るフィルムとして構成され、湾曲かつ巻き取り可能であり、殊に、ロールに巻き取り可能なフィルムバンドとして提供され、 第1の基板は電子構成部材に対するアノードとして構成される下方の電極層の機能を担い、 下方の電極層は第1の基板上に被着されるアルミニウムを含み反射性に構成され、 電子構成部材は湾曲された第2の基板(5)を有し、従って機能的積層体は第2の基板の撓まされかつ湾曲された主表面上に配置される、 電子構成部材。」(以下「引用発明」という。) 3.対比・判断 補正発明と引用発明を対比する。 (1)引用発明の「約5μmまたは約12μmの厚さを有する銅から成るフィルムとして構成され」る「第1の基板」は、本願発明の「銅箔である金属箔」に相当する。 同様に「第1の基板上に被着されるアルミニウムを含み反射性に構成され」た構成は、「前記金属箔上に直接設けられ、アルミニウム膜、アルミニウム系合金膜から選択される少なくとも一種である反射層」に相当する。 (2)引用発明の「下方の電極層」が被着された「第1の基板」は電子構成部材のアノードとして構成されるから、本願発明の「アノードとして用いられる電極箔」に相当する。 (3)引用発明の「機能的積層体」は本願発明の「電子デバイス」に相当する。 ここで、機能的積層体は「撓まされかつ湾曲された主表面上に配置される」から、フレキシブルであることがわかる。 (4)引用発明の「第1の基板」は、電子構成部材を製造する際に用いられる複数の機能的積層体をそれぞれ支持するための基板として用いられる(上記摘記事項(4)参照)から、「支持基材」としての機能を備えている。 したがって、引用発明の「下方の電極層」が被着された「第1の基板」は、本願発明の「フレキシブル電子デバイス用の支持基材を兼ねたアノードとして用いられる電極箔」に相当する。 してみると両者は、 「銅箔である金属箔と、 前記金属箔上に直接設けられ、アルミニウム膜、アルミニウム系合金膜から選択される少なくとも一種である反射層と を備えてなり、フレキシブル電子デバイス用の支持基材を兼ねたアノードとして用いられる電極箔。」 の点で一致し、次の点で相違している。 (相違点) 電極箔の厚さが、本願発明では「1?100μm」であるのに対して、引用発明では、第1の基板が約5μmまたは約12μmの厚さを有するものの、本願発明の電極箔に相当する「下方の電極層が被着された第1の基板」の厚さは不明な点。 3.判断 上記相違点について検討する。 引用発明の第1の基板が、約5μmまたは約12μmの厚さを有すること、上記摘記事項(4)及び図2を参酌すれば、第1の基板のみならず該基板上に構成される機能的積層体もロールに巻き取り可能なフィルムバンドとして提供されるものであること、引用文献1に「第1の基板が薄くなるほど、第1の基板は湾曲しやすくなり、より軽量になる。」(上記摘記事項(1)の段落【0021】参照)と記載されていること、等を考慮すれば、本願発明の電極箔に相当する引用発明の「下方の電極層が被着された第1の基板」の厚さを1?100μmに設定することに、格別の技術的困難性も阻害要因もない。 してみると、引用発明に上記相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易になしうる事項である。 そして、本願発明全体の効果も、引用発明から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。 したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-08-29 |
結審通知日 | 2013-08-30 |
審決日 | 2013-09-13 |
出願番号 | 特願2012-119754(P2012-119754) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池田 博一 |
特許庁審判長 |
神 悦彦 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 北川 清伸 |
発明の名称 | 電極箔および有機デバイス |
代理人 | 加島 広基 |
代理人 | 高村 雅晴 |