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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1281016
審判番号 不服2012-10808  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-11 
確定日 2013-10-30 
事件の表示 特願2009-515630「改質アルコール電力システム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月21日国際公開、WO2007/147008、平成21年11月19日国内公表、特表2009-540219〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本件出願は、2007年6月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年6月13日、2007年3月13日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年12月12日付けで特許法第184条の5第1項に規定する書面が、そして、平成21年2月10日付けで特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の日本語による翻訳文がそれぞれ提出され、平成22年6月14日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成23年9月8日付けの拒絶理由通知に対して平成23年12月9日付けで意見書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成24年2月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年6月11日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、当審において平成24年10月5日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、平成25年4月8日付けで回答書が提出されたものである。

第2. 平成24年6月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年6月11日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成24年6月11日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年12月9日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲である下記(a)を、下記(b)に補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
アルコールを含む燃料から機械動力または電力を生成するための方法であって、
前記アルコール燃料を含む供給ガス混合物を改質反応ゾーンで改質触媒と接触させて、水素を含む生成物リフォーメートガス混合物を生成する工程であって、前記改質触媒が金属スポンジ支持構造と、前記金属スポンジ支持構造の表面を少なくとも部分的に覆う銅とを含む工程と;
前記生成物リフォーメートガス混合物と酸素含有ガスとを組み合わせて吸気混合物を形成する工程と;
酸素および前記生成物リフォーメートガス混合物を含む吸気混合物を内燃機関の燃焼室に導入し、前記吸気混合物を燃焼させて排気ガス混合物を生成する工程であって、前記内燃機関の燃焼室に導入された吸気混合物が生成物リフォーメートガス混合物で得られた水素および他の成分の少なくとも80%を含む工程と;
前記燃焼室から前記排気ガス混合物を含む排気ガス排出物を放出する工程と;
機械動力または電力の生成に燃焼エネルギーを利用する工程と;
前記排気ガス排出物を前記改質反応ゾーンと熱接触させて、その中の前記改質触媒を加熱する工程と
を含む方法。
【請求項2】
エタノールを含む燃料から機械動力または電力を生成するための方法であって、
前記エタノール燃料を含む供給ガス混合物を改質反応ゾーンで改質触媒と接触させて、水素およびメタンを含む生成物リフォーメートガス混合物を生成する工程であって、前記改質触媒が、金属支持構造の表面に銅を含む工程と;
前記生成物リフォーメートガス混合物と酸素含有ガスとを組み合わせて吸気混合物を形成する工程と;
酸素と前記生成物リフォーメートガス混合物とを含む吸気混合物を内燃機関の燃焼室に導入し、前記吸気混合物を燃焼させて排気ガス混合物を生成する工程であって、前記内燃機関の燃焼室に導入された前記吸気混合物が、前記生成物リフォーメートガス混合物中で得られた水素およびメタンの少なくとも80%を含む工程と;
前記燃焼室から前記排気ガス混合物を含む排気ガス排出物を放出する工程と;
機械動力または電力の生成に燃焼エネルギーを利用する工程と;
前記排気ガス排出物を前記改質反応ゾーンと熱接触させて、その中の前記改質触媒を加熱する工程と
を含む方法。
【請求項3】
エタノールを含む燃料から機械動力または電力を生成するための方法であって、
前記エタノール燃料を含む供給ガス混合物を、改質反応ゾーンで銅を含む改質触媒と接触させて、水素、メタンならびに一酸化炭素、二酸化炭素およびこれらの混合物からなる群から選択される酸化炭素成分を含む生成物リフォーメートガス混合物を生成する工程であって、前記生成物リフォーメートガス混合物中の前記酸化炭素成分に対するメタンのモル比が0.9?1.25で、前記生成物リフォーメートガス混合物中でメタンが生成される比率が、モル基準で前記改質反応ゾーンに導入されるエタノールの比率の少なくとも50%である工程と;
酸素と前記生成物リフォーメートガス混合物とを含む吸気混合物を内燃機関の燃焼室に導入し、前記吸気混合物を燃焼させて排気ガス混合物を生成する工程であって、前記内燃機関の燃焼室に導入された前記吸気混合物が、前記生成物リフォーメートガス混合物中で得られた水素、メタンおよび酸化炭素成分の少なくとも80%を含む工程と;
機械動力または電力の生成に燃焼エネルギーを利用する工程と
を含む方法。
【請求項4】
前記改質触媒が支持構造の表面に銅を含み、前記支持構造が金属を含む請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記金属支持構造が金属スポンジを含み、前記触媒が前記金属スポンジ支持構造の表面を少なくとも部分的に覆う銅コーティングを含む請求項2または4記載の方法。
【請求項6】
前記金属スポンジ支持構造が、アルミニウムおよび卑金属を含む合金からアルミニウムを浸出させることを含むプロセスによって調製される請求項1または5記載の方法。
【請求項7】
前記金属スポンジ支持構造が、銅、および/またはニッケル、コバルト、亜鉛、銀、パラジウム、金、スズ、鉄およびこれらの混合物からなる群から選択される非銅金属を含む請求項1または5記載の方法。
【請求項8】
前記金属スポンジ支持構造が、銅、および/またはニッケル、コバルト、鉄およびこれらの混合物からなる群から選択される非銅金属を含む請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記金属スポンジ支持構造が少なくとも50重量%のニッケルを含む請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記改質触媒が20重量%?45重量%の銅を含む請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記供給ガス混合物が、メタノール、エタノールおよびこれらの混合物からなる群から選択されるアルコールを含む請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記供給ガス混合物がエタノールを含み、前記生成物リフォーメートガス混合物が水素、メタンならびに一酸化炭素、二酸化炭素およびこれらの混合物からなる群から選択される酸化炭素成分を含む請求項11記載の方法。
【請求項13】
一酸化炭素を前記改質反応ゾーンにおいて生成し、水性ガスシフト反応において前記供給ガス混合物中に存在する水と反応させて、前記生成物リフォーメートガス混合物の水素含有量を増大させる請求項1?12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記供給ガス混合物を、400℃未満の温度の前記改質反応ゾーンで前記改質触媒と接触させて、前記生成物リフォーメートガス混合物を生成する請求項1?13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記供給ガス混合物を、220℃?350℃の温度の前記改質反応ゾーンで前記改質触媒と接触させて、前記生成物リフォーメートガス混合物を生成する請求項1?14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記生成物リフォーメートガス混合物中の前記酸化炭素成分に対するメタンのモル比が0.9?1.25で、前記生成物リフォーメートガス混合物中でメタンが生成される比率が、モル基準で前記改質反応ゾーンに導入されるエタノールの比率の少なくとも50%である、請求項2または12記載の方法。
【請求項17】
前記生成物リフォーメートガス混合物中でメタンが生成される比率が、モル基準で前記改質反応ゾーンに導入されるエタノールの比率の少なくとも95%である請求項3または16記載の方法。
【請求項18】
前記生成物リフォーメートガス混合物が、10モル%以下のアセトアルデヒドおよび20モル%以下のエタノールを含む請求項3または16記載の方法。
【請求項19】
前記吸気混合物がエタノール燃料をさらに含み、前記吸気混合物中のメタンに対するエタノールのモル比が少なくとも10であり、前記吸気混合物中のメタンに対するエタノールのモル比が0.4未満である請求項3または16記載の方法。
【請求項20】
前記生成物リフォーメートガス混合物の一部が、前記内燃機関の始動条件の間に前記燃焼室における後続の燃焼のために貯蔵される請求項1?19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記排気ガス混合物を含む排気ガス排出物が、前記燃焼ゾーンから放出され、前記排気ガス排出物の少なくとも一部が再利用され、前記内燃機関の前記燃焼室に導入される前記吸気混合物と混ぜ合わせられる請求項1?20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記排気ガス排出物を前記改質反応ゾーンと熱接触させて、その中の前記改質触媒を加熱し前記排気ガス排出物を冷却することをさらに含み、再利用され前記吸気混合物と組み合わせられた前記排気ガス排出物が、前記冷却された排気ガス排出物の少なくとも一部である請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記排気ガス排出物の少なくとも50%が再利用され、前記内燃機関の前記燃焼室に導入される前記吸気混合物と組み合わせられる請求項21または22記載の方法。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
エタノールを含む燃料から機械動力または電力を生成するための方法であって、
前記エタノール燃料を含む供給ガス混合物を改質反応ゾーンで改質触媒と400℃未満の温度で接触させて、水素およびメタンを含む生成物リフォーメートガス混合物を生成する工程であって、前記改質触媒が、金属支持構造の表面に銅を含む工程と;
前記生成物リフォーメートガス混合物と酸素含有ガスとを組み合わせて吸気混合物を形成する工程と;
酸素と前記生成物リフォーメートガス混合物とを含む吸気混合物を内燃機関の燃焼室に導入し、前記吸気混合物を燃焼させて排気ガス混合物を生成する工程であって、前記内燃機関の燃焼室に導入された前記吸気混合物が、前記生成物リフォーメートガス混合物中で得られた水素およびメタンの少なくとも80%を含む工程と;
前記燃焼室から前記排気ガス混合物を含む排気ガス排出物を放出する工程と;
機械動力または電力の生成に燃焼エネルギーを利用する工程と;
前記排気ガス排出物を前記改質反応ゾーンと熱接触させて、その中の前記改質触媒を加熱する工程と
を含む方法。
【請求項2】
エタノールを含む燃料から機械動力または電力を生成するための方法であって、
前記エタノール燃料を含む供給ガス混合物を、改質反応ゾーンで銅を含む改質触媒と接触させて、水素、メタンならびに一酸化炭素、二酸化炭素およびこれらの混合物からなる群から選択される酸化炭素成分を含む生成物リフォーメートガス混合物を生成する工程であって、前記生成物リフォーメートガス混合物中の前記酸化炭素成分に対するメタンのモル比が0.9?1.25で、前記生成物リフォーメートガス混合物中でメタンが生成される比率が、モル基準で前記改質反応ゾーンに導入されるエタノールの比率の少なくとも50%である工程と;
酸素と前記生成物リフォーメートガス混合物とを含む吸気混合物を内燃機関の燃焼室に導入し、前記吸気混合物を燃焼させて排気ガス混合物を生成する工程であって、前記内燃機関の燃焼室に導入された前記吸気混合物が、前記生成物リフォーメートガス混合物中で得られた水素、メタンおよび酸化炭素成分の少なくとも80%を含む工程と;
機械動力または電力の生成に燃焼エネルギーを利用する工程と
を含む方法。
【請求項3】
前記改質触媒が支持構造の表面に銅を含み、前記支持構造が金属を含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記金属支持構造が金属スポンジを含み、前記触媒が前記金属スポンジ支持構造の表面を少なくとも部分的に覆う銅コーティングを含む請求項1または3記載の方法。
【請求項5】
前記金属スポンジ支持構造が、アルミニウムおよび卑金属を含む合金からアルミニウムを浸出させることを含むプロセスによって調製される請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記金属スポンジ支持構造が、銅、および/またはニッケル、コバルト、亜鉛、銀、パラジウム、金、スズ、鉄およびこれらの混合物からなる群から選択される非銅金属を含む請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記金属スポンジ支持構造が、銅、および/またはニッケル、コバルト、鉄およびこれらの混合物からなる群から選択される非銅金属を含む請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記金属スポンジ支持構造が少なくとも50重量%のニッケルを含む請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記改質触媒が20重量%?45重量%の銅を含む請求項8記載の方法。
【請求項10】
一酸化炭素を前記改質反応ゾーンにおいて生成し、水性ガスシフト反応において前記供給ガス混合物中に存在する水と反応させて、前記生成物リフォーメートガス混合物の水素含有量を増大させる請求項1?9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記供給ガス混合物を、400℃未満の温度の前記改質反応ゾーンで前記改質触媒と接触させて、前記生成物リフォーメートガス混合物を生成する請求項2?10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記供給ガス混合物を、220℃?350℃の温度の前記改質反応ゾーンで前記改質触媒と接触させて、前記生成物リフォーメートガス混合物を生成する請求項1?11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記生成物リフォーメートガス混合物中の前記酸化炭素成分に対するメタンのモル比が0.9?1.25で、前記生成物リフォーメートガス混合物中でメタンが生成される比率が、モル基準で前記改質反応ゾーンに導入されるエタノールの比率の少なくとも50%である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記生成物リフォーメートガス混合物中でメタンが生成される比率が、モル基準で前記改質反応ゾーンに導入されるエタノールの比率の少なくとも95%である請求項2または13記載の方法。
【請求項15】
前記生成物リフォーメートガス混合物が、10モル%以下のアセトアルデヒドおよび20モル%以下のエタノールを含む請求項2または13記載の方法。
【請求項16】
前記吸気混合物がエタノール燃料をさらに含み、前記吸気混合物中のメタンに対するエタノールのモル比が少なくとも10であり、前記吸気混合物中のメタンに対するエタノールのモル比が0.4未満である請求項2または13記載の方法。
【請求項17】
前記生成物リフォーメートガス混合物の一部が、前記内燃機関の始動条件の間に前記燃焼室における後続の燃焼のために貯蔵される請求項1?16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記排気ガス混合物を含む排気ガス排出物が、前記燃焼ゾーンから放出され、前記排気ガス排出物の少なくとも一部が再利用され、前記内燃機関の前記燃焼室に導入される前記吸気混合物と混ぜ合わせられる請求項1?17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記排気ガス排出物を前記改質反応ゾーンと熱接触させて、その中の前記改質触媒を加熱し前記排気ガス排出物を冷却することをさらに含み、再利用され前記吸気混合物と組み合わせられた前記排気ガス排出物が、前記冷却された排気ガス排出物の少なくとも一部である請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記排気ガス排出物の少なくとも50%が再利用され、前記内燃機関の前記燃焼室に導入される前記吸気混合物と組み合わせられる請求項18または19記載の方法。」
なお、下線は審判請求人が付したものである。

(2)本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲に関して、本件補正前の請求項1を削除して、本件補正前の請求項2における発明特定事項である「改質触媒と接触させて」に、本件補正後では「改質触媒と400℃未満の温度で接触させて」(下線は、補正箇所を明瞭にするために当審で付した。)と付加することで限定して、本件補正後の請求項1とする補正を含むものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項によって特定された発明(以下、「本願補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.引用文献
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭55-104559号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。

ア.「本発明はアルコール(メタノール、エタノール等)を燃料とするエンジンの始動装置に関する。」(明細書第1ページ右欄第16及び17行)

イ.「本発明では、エンジン運転中に燃料用アルコールの一部を水素及び一酸化炭素を主成分として含有するガス燃料に改質してこれを貯蔵し、エンジン始動時にこのガス燃料をエンジンに供給することにより、始動を容易化するようにしたのである。」(明細書第2ページ左上欄第16行ないし右上欄第1行)

ウ.「第1図において、1はエアクリーナ、2は気化器、3は吸気管、4はエンジン本体の燃焼室、5は排気管、6は燃料用アルコールを貯蔵する燃料タンクであつて、アルコールは主燃料通路7を通じて気化器2に供給される。
本発明に係る始動装置としては、主燃料通路7とは別に、燃料タンク6から気化器2に至る通路8を設けてあり、この通路8には燃料タンク6側から順に電磁バルブ9、蒸発器10、電磁バルブ11、改質器12、電磁バルブ13を介装してある。そして、排気管5の比較的上流側から分岐した通路14を、電磁バルブ15を介装した後、改質器12及び蒸発器10に導いてそれらが排気熱にさらされるようにし、さらに電磁バルブ16を介装した後、排気管5の比較的下流側に接続してある。前記改質器12はその内部に改質用触媒を充填した触媒床を形成してあり、その上部空間を改質ガスの貯蔵室としてある。
17,18は改質器12内の圧力並びに温度を検出するセンサ、19は排気温度センサ、20はこれらセンサ17,18,19及びスタ-タスイツチ21からの信号によつて作動する電磁バルブ9,11,13,15,16制御用のコントロ-ルユニツトである。
このコントロ-ルユニツト20は、圧力センサ17によつて検出される改質器12内の圧力が設定値(この設定値は温度センサ18からの温度検出信号によつて補正される)以下のときで、且つ排気温度センサ19によつて検出される排気温度が設定値以上のときに、電磁バルブ9,11,15,16を開とし、またスタ-タスイツチ21がオンのときに電磁バルブ13を開とするようになつている。」(明細書第2ページ右上欄第3行ないし左下欄第15行)

エ.「エンジン運転中に、後述の如く生成されて貯蔵される改質器12内の改質ガスの圧力が設定値より減少している場合、即ち改質ガスが十分に残存しない場合は、排気温度が設定値より増大したとき、即ち改質ガスの生成に十分な程度な温度のときに、電磁バルブ9,11,15,16が開き、燃料タンク6から蒸発器10を経て改質器12に送られたアルコールが触媒床で反応(例えばメタノ-ルの場合はCH_(3)OH→2H_(2)+CO)し、水素及び一酸化炭素を主成分として含有する改質ガスが生成される。尚、この反応は吸熱反応で、反応熱は通路14を流れる排気の熱から得ている。生成された改質ガスは電磁バルブ13が閉じているので改質器12の上部空間に滞留し、一部は改質用触媒に吸着される。これにより改質器12内の圧力が上昇すると再び電磁バルブ9,11,15,16が閉じてそれ以上の改質ガスの生成が停止されると共に、すでに生成された改質ガスはそのまま改質器12内に貯蔵される。
エンジン停止後の再始動に際して、スタ-タスイツチ21をオンにすると、電磁バルブ13が開き、前述の如く改質器12内に貯蔵されている水素と一酸化炭素とに富む改質ガスが気化器2に供給され、この改質ガスは気化器2で空気及び主燃料通路7からのアルコールと混合された後、燃焼室4に供給される。この改質ガスは燃焼速度が大きく、点火エネルギが小さくて済むなど優れた燃焼特性を_(も)つており、エンジンは極めて容易に始動する。」(明細書第2ページ左下欄第17行ないし第3ページ左上欄第5行)

オ.「第2図に示す実施例は、アルコールをガスに改質する改質器と、改質ガスを貯蔵するガス貯蔵器とを各別に設けたものである。」(明細書第3ページ右上欄第5行ないし第7行)

カ.「このように、改質器とガス貯蔵器とを各別に設ければ、次のような利点がある。第1に、改質器はエンジンの排気ガスにさらされ、エンジン運転中には300?700℃になるものであり、このような高温の改質器にガスを貯蔵しようとすると、必然的に貯蔵量が少なくなるが、ガス貯蔵器を別にすれば低温で貯蔵できるため、貯蔵量を大きくすることができる。第2に、改質器内に貯蔵すると、エンジン運転中と停止後とで温度変化が大きく、停止後に温度が低下するとガスの圧力も低下し、始動に必要なガスを十分に供給できないこともあるが、ガス貯蔵器を別にして初めから低温で貯蔵すれば貯蔵ガスの圧力が低下しにくくなる。第3に、改質器を小型化でき、排気管中に配設して排気熱の回収効率を高めることが可能となる。」(明細書第3ページ右下欄第5行ないし第19行)

(2)引用文献1に記載された発明
前記(1)ア.ないしカ.及び図面を参酌すると、引用文献1には以下の事項が記載さていることが分かる。

キ.メタノール・エタノール等のアルコール燃料からエンジンを運転するための方法であって、メタノール・エタノール等のアルコール燃料を含む供給ガス混合物(以下、「供給ガス混合物A」という。)を改質器12内で改質用触媒と接触させて、改質ガスを生成する工程があることが分かる。このときの改質ガスとしては、一例としてメタノールであれば水素を含むことが記載され、エタノールであれば水素およびメタンを含むガスであることが記載されているに等しい事項といえる。

ク.空気中の酸素と生成された改質ガスとを含む吸気混合物(以下、「吸気混合物B」という。)をエンジンの燃焼室4に導入し、前記吸気混合物Bを燃焼させての排気ガス混合物(以下、「排気ガス混合物C」という。)を生成する工程があり、燃焼室4から排気ガス混合物Cを含む排気ガスを排気する工程が有ることが分かる。

ケ.エンジンの運転にアルコール燃料の燃焼エネルギーは利用されており、アルコールが触媒床で反応する際の反応熱は、通路14を流れる排気の熱から得ていることから、エンジンの排気ガスを改質器12内において熱接触させて、改質器12内の改質用触媒を加熱する工程があることが分かる。

以上、前記(1)ア.ないしカ.及び(2)キ.ないしケ.並びに図面を参酌すると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用文献1に記載された発明」という。)が記載されているといえる。

「メタノール・エタノール等のアルコール燃料からエンジンを運転するための方法であって、
前記メタノール・エタノール等のアルコール燃料を含む供給ガス混合物Aを改質器12内で改質用触媒と接触させて、水素およびメタンを含む生成された改質ガスを生成する工程であって、
前記生成された改質ガスと空気とを組み合わせて吸気混合物Bを形成する工程と;
空気中の酸素と前記生成された改質ガスとを含む吸気混合物Bをエンジンの燃焼室4に導入し、前記吸気混合物Bを燃焼させて排気ガス混合物Cを生成する工程であって、前記エンジンの燃焼室4に導入された前記吸気混合物Bが、前記生成された改質ガス中で得られた水素およびメタンを含む工程と;
前記燃焼室4から前記排気ガス混合物Cを含む排気ガスを排気する工程と;
エンジンの運転に燃焼エネルギーを利用する工程と;
前記排気ガスを前記改質器12内と熱接触させて、その中の前記改質用触媒を加熱する工程と
を含む方法。」

(3)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2004/35466号(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。
なお、翻訳に当たっては、引用文献2のパテントファミリーである特表2006-517506号公報(平成18年7月27日公開)を参照した。

ア.「BACKGROUND OF THE INVENTION・・・(中略)・・・CO + CH_(4)+H_(2)+H_(2)O → CO_(2)+CH_(4)+2H_(2) (4)」(公報本文第1欄第13行ないし第3欄第1行)
〈当審仮訳〉
「 発明の背景
高温(例えば、200℃を超える)での第一級アルコールと適当な触媒との接触は、該アルコールを水素ガスおよび炭素含有種まで分解させることはよく知られている。このプロセスは、一般的に「アルコール改質」として知られている。例えば、メタノール改質は、以下の式1に示した水素および一酸化炭素の形成に導く:
CH_(3)OH → CO+2H_(2 ) (1)
次いで、改質方法において生成した水素は、電力を生成するための燃料電池に供給できる。該改質方法は吸熱性であり、特に、始動にて高ピークパワーが必要である、特に、輸送適用(例えば、電気自動車)において、触媒に対する効率的な熱移動を必要とする。メタノール改質は、例えば、Gunterら, J. Catal. 203, 133-49(2001);Breenら, J. Chem. Soc. Chem. Comm., 2247-48(1999);European Chemical News, p. 22,(May 11, 1998);およびJiangら, Appl. Cat. 97A, 145-58(1993)に記載されている。メタノール改質および燃料電池用の水素源としてのメタノール改質の特定の適用は、例えば、Agrellら, Catalysis-Specialist Periodical Reports, vol. 16, pp. 67-132(J.J. Spivey編, Royal Society of Chemistry, Cambridge, UK, 2002)に記載されている。
一酸化炭素は、燃料電池の電極に対して一般的に有害であることに注目することは重要である。例えば、燃料電池の効率および電力経済(power economy)は、典型的には、一酸化炭素のレベルが水素供給において約20ppmを超えると低下する。Petterssonら, Int'l J. Hydrogen Energy, vol. 26, p. 246(2001)参照。従って、以下の式2:
CO+H_(2)O → CO_(2)+H_(2) (2)
に示すように蒸気との反応により一酸化炭素を二酸化炭素に変換することが望ましい。この変換は、水性ガスシフト反応として知られ、商業的に広範に実施されている。水性ガスシフト反応の触媒、プロセスおよび適用の記載は、例えば、Catalyst Handbook, pp. 283-339(第2版, M.V. Twigg編, Manson Publishing, London, 1996)に見られる。
メタノールに関する前記と同様な条件下、エタノールの改質は、以下の式3:
CH_(3)CH_(2)OH → CH_(3)C(O)H+H_(2) → CO+CH_(4)+H_(2 )(3)
に示すように、アセトアルデヒドを最初に生成し、次いで、一酸化炭素およびメタンまで分解(すなわち、脱炭酸)できる。
メタノール改質と同様に、エタノール改質は、好ましくは、水-ガス反応でカップリングして、一酸化炭素を二酸化炭素に変換し、次いでさらなる水素を生成する。かくして、エタノール改質に関連する水性ガスシフト反応は、以下の式4:
CO+CH_(4)+H_(2)+H_(2)O → CO_(2)+CH_(4)+2H_(2 ) (4)
に示すように二酸化炭素、メタンおよび水素を生成する。」

イ.「 The present invention is further directed to a process for reforming ethanol . ・・・(中略)・・・a temperature of less than about 350℃.」(公報本文第5欄第5行ないし第14行)
〈当審仮訳〉
「本発明は、さらに、エタノールを改質するためのプロセスに指向される。当該プロセスは、約400℃未満の温度にてエタノールを含む供給ガス混合物と改質触媒とを接触させて、水素を含む改質生成混合物を生成することを含む。該改質触媒は、金属支持構造の表面にて銅を含む。好ましい具体例において、当該プロセスは、約350℃未満の温度でニッケル支持体の表面にて、エタノールを含む供給ガス混合物と銅を含む触媒とを接触させ
ることを含む。」

ウ.「DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENTS・・・(中略)・・・between the copper-containing active phase and the supporting structure.」(公報本文第6欄第16行ないし第8欄第15行)
〈当審仮訳〉
「 好ましい具体例の記載
本発明により、銅および他の金属の混合物、特に銅およびニッケルの混合物をアルコールの脱水素(すなわち、改質)用の触媒として用いる。金属支持構造を含む銅含有触媒、例えば、ニッケルスポンジ支持構造に銅を堆積(deposit)させることにより調製された触媒が、メタノールおよびエタノールのごとき第一級アルコールの気相改質において触媒としての活性の増加を示すことを発見した。本発明の実施に用いた触媒は、穏やかな温度にてアルコールの水素、メタン、一酸化炭素および二酸化炭素への熱分解に対してより安定であり、特に、その熱分解に活性がある。生成した水素は、例えば、燃料電池において水素の水への変換により、および燃料電池に存在するガス流中のいずれかの残余の水素に加えてメタンの燃焼によりパワーを生成するために用いることができる。燃焼プロセスは、発電機を駆動してさらなる電力を駆動するか、あるいは内燃機関において利用して機械力を生成できる。かかるパワー系統は、エタノールからパワーを得るための都合よい方法を提供し、これはさらに、その燃焼を用いて熱を改質器の触媒床へ供給しつつ望ましくない排出を最小化できるという利点がある。より一般的には、本発明による第一級アルコールの改質において生成した生成混合物を、化学プロセス適用(例えば、カルボニル化、水素化およびヒドロホルミル化)および材料加工適用において水素および/または一酸化炭素のソースとして用いることができる。加えて、本明細書に記載されたアルコール改質触媒を用いて、アルコール供給原料から合成ガスとして知られる水素および一酸化炭素を含む生成混合物を生成できる。
A.触媒
本発明の一つの具体例において、アルコール脱水素または改質用の触媒は、銅および/または1以上の非銅金属を含む金属支持構造の表面にて、銅含有活性相を含む。該触媒は、通常、少なくとも約10重量%銅、好ましくは約10重量%?約90重量%の銅、より好ましくは約20重量%?約45重量%の銅を含む。触媒は、銅スポンジのごとき実質的に均質な構造、銅含有単相合金または1を超える区別される相を有する不均質構造を含み得る。かくして、銅含有活性相は、銅コーティングもしくは外層のごとき区別される相;表面層または均質触媒構造の一部分として支持構造の表面にて存在し得る。支持構造の表面にて区別される相を含む銅含有活性相の場合には、金属支持構造は、銅含有活性相により全体的または部分的に被覆され得る。例えば、後記の特に好ましい具体例において、触媒は、ニッケルを含む金属スポンジ支持構造の表面にて銅含有活性相を含む。かかる触媒は、約10重量%?約80重量%の銅、より好ましくは約20重量%?約45重量%の銅を含む。触媒のバランスは、好ましくはニッケルおよび約10重量%未満のアルミニウムおよび他の金属よりなる。さらに、金属支持構造がニッケルを含む好ましい具体例において、銅およびニッケルが全ての割合にて混和できることに注目することは重要である。かくして、ニッケル支持構造の表面にて銅含有活性相を含む触媒は、銅含有活性相と支持構造との間の界面を必ずしも有しない。」

エ.「Referring now to Fig. 2, ・・・(中略)・・・ the reforming catalyst bed are well-known in the art.」(公報本文第34欄第4行ないし第27行)
〈当審仮訳〉
「図2を今や参照すると、わずかにモル過剰の水を含む水-エタノール供給混合物を、銅メッキしたニッケルスポンジ改質触媒201Aおよび水性ガス転化触媒201Bを含む充填床201を含む脱水素反応ゾーンへ導入し、次いで、熱ジャケット202により加熱する。そのアルコールを改質して、従前に記載した充填床内の水素、二酸化炭素およびメタンを含む改質物質を生成する。脱水素ゾーンからの改質物質排出物を、酸素源(例えば、空気)と共に適当な温度にて水素燃料電池205に供給する。メタンおよび二酸化炭素は、PEM燃料電池の効率を低下させない。燃料電池205からの排出物、主としてメタンおよび二酸化炭素を内燃機関207内で酸素源(例えば、空気)と燃焼させる。次いで、内燃機関から熱排気を、好ましくは触媒変換器を介して、該システムを排気として去る前に熱ジャケット202についての熱源として用いる(示さず)。このように、内燃機関からの余熱を吸熱性エタノール改質反応に必要とされる熱を供給して用いるために配置する。別々の熱ガス流および改質触媒床との間の熱交換を可能とする改質器設計は、当該技術分野においてよく知られている」

オ.「1. A process for reforming an alcohol, the process comprising: contacting a feed gas mixture comprising an alcohol with a reforming catalyst comprising copper at the surface of a metal sponge supporting structure to produce a reforming product mixture comprising hydrogen.
2. A process as set forth in claim 1, wherein the feed gas mixture comprises a primary alcohol selected from the group consisting of methanol, ethanol and mixtures thereof.」(請求項1及び2)
〈当審仮訳〉
「1.アルコールを含む供給ガス混合物と金属スポンジ支持構造の表面にて銅を含有する改質触媒とを接触させて、水素を含む改質生成混合物を生成させることを特徴とする、アルコールの改質方法。
2.該供給ガス混合物が、メタノール、エタノールおよびその混合物よりなる群から選択される第一級アルコールを含むことを特徴とする請求項1記載の改質方法。」

カ.「27. A process for reforming ethanol, the process comprising contacting feed gas mixture comprising ethanol with a reforming catalyst at a temperature below about 400℃to produce a reforming product mixture comprising hydrogen, said reforming catalyst comprising copper at the surface of a metal supporting structure.」(請求項27)
〈当審仮訳〉
「27.エタノールを含む供給ガス混合物を約400℃未満の温度にて改質触媒と接触させて、水素を含む改質生成混合物を生成し、該改質触媒が金属支持構造の表面にて銅を含むことを特徴とするエタノールを改質するための改質方法。」

(4)引用文献2に記載された発明
前記(3)ア.ないしカ.及び図面を参酌すると、以下の事項が分かる。
キ.エタノールを改質するため、エタノールを含む供給ガス混合物と改質触媒とを接触する区域(以下、「接触区域D」という。)が有ることが分かる。

以上、前記(3)ア.ないしカ.及び(4)キ.並びに図面を参酌すると、引用文献2には以下の発明(以下、「引用文献2に記載された発明」という。)が記載されているといえる。

「エタノールを含む燃料から機械力を生成または電力を駆動するための方法であって、
前記エタノールを含む供給ガス混合物を接触区域Dで改質触媒と400℃未満の温度で接触させて、水素およびメタンを含む改質物質を生成する工程であって、前記改質触媒が、金属支持構造の表面に銅を含む工程と、燃焼プロセスによって機械力を生成または電力を駆動する工程を含む方法。」

3.対比
本願補正発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明における「改質器12内」は、その機能及び目的からみて、本願補正発明における「改質反応ゾーン」に相当し、以下同様に、「生成された改質ガス」は「生成物リフォーメートガス混合物」に、「空気」は「酸素含有ガス」に、「吸気混合物B」は「吸気混合物」に、「エンジンの燃焼室4」は「内燃機関の燃焼室」に、「排気ガス混合物C」は「排気ガス混合物」に、「排気ガス」は「排気ガス排出物」に各々相当する。また、引用文献1に記載された発明における「メタノール・エタノール等のアルコール燃料」は、本願補正発明における「エタノールを含む燃料」又は「エタノール燃料」に、以下同様に、「供給ガス混合物A」は「供給ガス混合物」に、「改質ガス」は「生成物リフォーメートガス混合物」に、「エンジンの運転」は「機械動力または電力を生成」に各々相当するから、本願補正発明と引用文献1に記載された発明とは
「エタノールを含む燃料から機械動力または電力を生成するための方法であって、
前記エタノール燃料を含む供給ガス混合物を改質反応ゾーンで改質触媒と接触させて、水素及びメタンを含む生成物リフォーメートガス混合物を生成する工程であって、
前記生成物リフォーメートガス混合物と酸素含有ガスとを組み合わせて吸気混合物を形成する工程と;
酸素と前記生成物リフォーメートガス混合物とを含む吸気混合物を内燃機関の燃焼室に導入し、前記吸気混合物を燃焼させて排気ガス混合物を生成する工程であって、前記内燃機関の燃焼室に導入された前記吸気混合物が、前記生成物リフォーメートガス混合物中で得られた水素およびメタンを含む工程と;
前記燃焼室から前記排気ガス混合物を含む排気ガス排出物を放出する工程と;
機械動力または電力の生成に燃焼エネルギーを利用する工程と;
前記排気ガス排出物を前記改質反応ゾーンと熱接触させて、その中の前記改質触媒を加熱する工程と
を含む方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点〉

(1)本願補正発明においては
本願補正発明においては、改質反応ゾーンで改質触媒と400℃未満の温度で接触させて、水素およびメタンを含む生成物リフォーメートガス混合物を生成する工程であって、前記改質触媒が、金属支持構造の表面に銅を含む工程とを含む方法であるのに対して、引用文献1に記載された発明においては、そのように温度及び改質触媒が特定されていない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)本願補正発明においては、内燃機関の燃焼室に導入された吸気混合物が、生成物リフォーメートガス混合物中で得られた水素およびメタンの少なくとも80%を含む工程を含む方法であるのに対して、引用文献1に記載された発明においては、具体的数値が特定されていない点(以下、「相違点2」という。)。

4.判断
上記相違点1及び2について検討する。
(1)相違点1について
本願補正発明と引用文献2に記載された発明とを対比すると、引用文献2に記載された発明における「機械力を生成または電力を駆動する」は、その機能及び目的からみて、 本願補正発明における「機械動力または電力を生成する」に相当し、以下、同様に「エタノールを含む供給ガス混合物」は「エタノール燃料を含む供給ガス混合物」に、「接触区域D」は「改質反応ゾーン」に、「改質触媒」は「改質触媒」に、「改質物質」は「生成物リフォーメートガス混合物」に、「燃焼プロセスによって機械力を生成または電力を駆動する工程」は「機械動力または電力の生成に燃焼エネルギーを利用する工程」に各々相当することから、引用文献2に記載された発明を本願補正発明の用語を用いて整理すると、
「エタノールを含む燃料から機械動力または電力を生成するための方法であって、
前記エタノール燃料を含む供給ガス混合物を改質反応ゾーンで改質触媒と400℃未満の温度で接触させて、水素およびメタンを含む生成物リフォーメートガス混合物を生成する工程であって、前記改質触媒が、金属支持構造の表面に銅を含む工程と、機械動力または電力の生成に燃焼エネルギーを利用する工程を含む方法」が記載されているといえる。
そして、引用文献1に記載された発明と引用文献2に記載された発明は共に、本願補正発明と同様にエタノールを含む燃料の改質のための方法であることから、引用文献1に記載された発明に引用文献2に記載された発明を適用して、相違点1に係る本願補正発明のように特定することは、当業者が容易に推考し得るものである。

(2)相違点2について
生成物リフォーメートガス混合物中で得られた水素およびメタンのうちどの程度、吸気混合物として内燃機関の燃焼室に導入するかは、当業者が適宜決定するものであり、相違点2に係る本願補正発明のように特定することは、当業者が容易に推考し得るものである。

なお、請求人は回答書で「引用文献1に記載のタイプの内燃機関動力系を研究している当業者であれば、引用文献2の教示を見ようとする理由がなく、特に用いる特定の触媒に関する引用文献2の教示を見ようとする理由はない」と主張しているところ、引用文献2の(3)ウ.における「燃焼プロセスは、発電機を駆動してさらなる電力を駆動するか、あるいは内燃機関において利用して機械力を生成できる。」の記載、あるいは改質されたガスを内燃機関及び燃料電池に使用することは周知(例えば、拒絶査定時に提示した特開2006-144736号公報(平成18年6月8日公開)参照、以下、「周知技術」という。)であることからしても、内燃機関の駆動系の研究者が特定の触媒の教示を見ないという主張は失当である。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明、及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.手続の経緯及び本願発明
平成24年6月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成23年12月9日付けの手続書により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、上記第2.の〔理由〕1.(1)の(a)に記載したとおりのものである。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記第2.の〔理由〕2.のとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の〔理由〕1.(2)で検討したように、本願補正発明から限定事項に係る発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2.の〔理由〕2.ないし4.に記載したとおり、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-30 
結審通知日 2013-06-04 
審決日 2013-06-18 
出願番号 特願2009-515630(P2009-515630)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
P 1 8・ 575- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島倉 理  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 藤原 直欣
中川 隆司
発明の名称 改質アルコール電力システム  
代理人 田中 光雄  
代理人 山崎 宏  
代理人 佐藤 剛  

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