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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1281024
審判番号 不服2012-18732  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-26 
確定日 2013-10-30 
事件の表示 特願2000-385072「エレベータかご室床の加速度制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月26日出願公開、特開2001-171950〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件出願は、平成12年12月19日(パリ条約による優先権主張1999年12月21日、米国)の出願であって、平成22年12月2日付けの拒絶理由通知に対して平成23年3月2日付けで意見書が提出されるとともに同日付けの手続補正書によって明細書の特許請求の範囲について補正する手続補正がなされ、さらに、平成23年9月1日付けの拒絶理由通知に対して平成23年11月30日付けで意見書が提出されるとともに同日付けの手続補正書によって明細書の特許請求の範囲について補正する手続補正がなされが、平成24年5月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年9月26日に拒絶査定不服の審判が請求されたものであって、その請求項1ないし16に係る発明は、平成23年11月30日付けの手続補正書によって補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
エレベータかご室床およびエレベータかごフレームの一方に対して固定して配置された電磁石と、前記エレベータかご室床に対して固定して配置され且つ前記エレベータかご室床の加速度を示す加速度信号を発生させる加速度センサと、前記加速度信号に応答して、前記電磁石によって発生する磁場の強さを変えて前記エレベータかご室床の加速度を制御する制御装置とからなり、 前記エレベータかご室床および前記エレベータかごフレームの他方に対して固定して配置された磁石反応物と、この磁石反応物と前記電磁石との間に配置されたエアギャップとをさらに備え、前記エアギャップと前記磁石反応物と前記電磁石が、前記電磁石によって発生する磁場のための磁気回路を完成し、
前記エレベータかご室床と前記エレベータかごフレームとが隔離装置を介して固定されており、前記エレベータかご室床および前記エレベータかごフレームが、前記隔離装置の変形を介して互いに相対的に移動可能であり、
前記電磁石がさらに第1の横方向の軸線に沿って配置された一対の電磁石からなり、前記加速度信号がさらに前記第1の横方向の軸線に沿った加速度を示す信号からなり、前記制御装置が前記第1の横方向の軸線に沿った加速度を双方向に制御することを特徴とする、エレベータかごフレームに配置されたエレベータかご室床の加速度を制御する制御システム。」

2.引用文献
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-215634号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。

ア.「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、エレベーターの乗かごの側板と分離して設けられたかご室床を浮上させるかご室床の浮上装置に関する。」(段落【0001】)

イ.「【0004】この発明は、このような従来技術の実状に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、かご枠からかご室への振動の伝達を有効に抑制し、乗り心地の良いエレベーターを提供できるエレベーターかご室の浮上装置を提案することにある。また、第2の目的は、この浮上装置を小型にし、低コストで提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、この発明は、ガイドレールに沿って昇降するエレベーターかご枠と、このかご枠内に設けられ、床部と側板部とが別体に分離可能に形成されたかご室と、前記かご枠に取り付けられたかご室の側板部と前記かご室の床部との間に設けられ、前記床部をかご枠に対して電磁力で非接触の状態を保持させる電磁石とを備えていることを特徴としている。
【0006】この場合、前記電磁石は、垂直方向で前記床部を浮上させる縦方向電磁石と、水平方向で前記床部をかご枠から離間させる横方向電磁石とから構成することが望ましい。また、前記電磁石は、電磁石制御手段によって電磁力が制御できるように構成し、前記床部と前記かご枠とのギャップを制御するとよい。ギャップを制御するためには、さらに、前記床部と前記かご枠とのギャップを検出するギャップセンサを設けるとよい。そして、このギャップセンサの検出出力を前記電磁石制御手段に取り込み、前記床部の振動が低減するように前記電磁石の電磁力を制御するようにすることもできる。さらには、前記床部の振動を検出する振動検出手段をさらに設け、前記電磁石制御手段は、前記振動検出手段からの検出出力に応じて前記床部の振動が低減するように前記電磁石の電磁力を制御するようにすることもできる。」(段落【0004】ないし【0006】)

ウ.「【0008】
【実施例】以下、図面を参照し、この考案の実施例について説明する。図1は実施例に係るエレベーターのかご室の浮上装置の詳細を示す図、図2はかご室をかご枠と浮上装置の概略構成を示す図である。図2において、エレベーターのかご室1はかご枠2内に設けられ、かご枠2の上部にはロープ3が連結されている。かご枠2は当該ロープ3によって吊り下げられ、図示しないガイドレールに取り付けられて当該ガイドレールに沿って走行するようになっている。かご室1はかご室床(床部)4とかご室側板(側板部)5とからなり、両者は互いに移動可能に分離されている。
【0009】かご枠2の底板6には弾性体からなる防振ゴム7が設置され、その上に図1に示すようにかご室側板5の底部支持板8が載置され、固定されている。言い替えれば、かご室側板5の底部から水平方向に底部支持板8が突設され、その底部支持板8が防振ゴム7上に取り付けられている。そして、かご室床4が底部支持板8上に位置している。かご室床4からは、図1から分かるようにかご室側板5の底部支持板8を横切って側面視コの字形のブラケット(以下、「縦方向ブラケット」と称する。)9が延設されている。この縦方向ブラケット9の下側の水平部分9a上には垂直方向に作用する電磁石(以下、「縦方向電磁石」と称する。)10とかご枠2の底板6との間隔を検出するギャップセンサ(以下、「縦方向ギャップセンサ」と称する。)11が設けられている。また、かご枠2の底板6の前記ブラケット9の垂直部分に外側から対向する個所には水平方向に作用する電磁石(以下、「横方向電磁石」と称する。)12を支持するブラケット(以下、「横方向ブラケット」と称する。)13が垂設されている。この横方向ブラケット13には、さらに前記縦方向ブラケット9との間隔を検出するギャップセンサ(以下、「横方向ギャップセンサ」と称する。)14が設けられている。かご室床4には前記縦方向ブラケット9の他に垂直方向の加速度を検出する加速度センサ(「以下、「縦方向加速度センサ」と称する。)15と、水平方向の加速度を検出する加速度センサ(以下、「横方向加速度センサ」と称する。)16とが設置されている。」(段落【0008】及び【0009】)

エ.「【0011】同様に、前記横方向加速度センサ16の出力は横方向ゲイン-位相調整器21に入力され、その出力は横方向電磁石制御器22に入力される。また、横方向ギャップセンサ14の検出出力は横方向ギャップ指令部23からの指令出力と横方向加算器24で加算されて横方向電磁石制御器22に入力される。そして、この横方向電磁石制御器18から横方向電磁石12への制御信号が出力される。なお、これらの縦横方向の電磁石10,12を含む各構成部材は、かご室床4の両側に対称に設けられている。なお、これらの各構成部材をかご室床4の4隅に対応する部分に設けてもよいことは言うまでもない。
【0012】このように構成された浮上装置では、縦方向電磁石10に通電されておらず、電磁力が発生しない状態では、かご室床4と防振ゴム7との間のギャップδ1は零となり、従来装置と同様にかご室1とかご枠2とは防振ゴム7を介して接している。すなわち、かご室1は防振ゴム7を介してかご枠2に支持されている。したがって、縦方向電磁石10を駆動しない状態でも通常の走行運転をすることができる。
【0013】これに対し、縦方向電磁石10に通電し、縦方向電磁石制御器18によって所定の電磁力を発生させると、縦方向電磁石10はかご枠2の底板6を吸引し、かご室床4の重量及びかご室床4に加わる荷重とバランスするように縦方向ブラケット9が移動し、かご枠2の底板6と縦方向電磁石10とのギャップδ2が変化する。これによりかご室床4が防振ゴム7から離間して浮上し、防振ゴム7の上面のかご室側板5の底部支持板8と縦方向ブラケット9との間、言い換えれば底部支持板8とかご室床4との間にギャップδ1が生じる。このようにかご室床4はかご室側板5及びかご枠2から機械的に離れるので、振動の伝達は低減される。さらに、かご室床4の荷重変化に対して前記ギャップδ2が一定になるように縦方向電磁石10の吸引力を制御すると、かご室床4が安定し、振動も有効に抑制することができる。このために前記縦方向ギャップセンサ11と縦方向加速度センサ15が設けられ、検出したギャップδ2と縦方向の振動に基づいて縦方向電磁石10の吸引力を制御する。
【0014】すなわち、縦方向ギャップ指令部19によって目標とすべきギャップの指令値と、かご枠2の底板6との実際のギャップδ2の検出値を縦方向加算器20に入力し、その偏差に応じて縦方向電磁石制御器18は、ギャップδ2が前記目標値になるように縦方向電磁石10の電磁力を制御する。また、かご室床4の微振動を縦方向加速度センサ15で検出し、この検出信号を縦方向電磁石制御器18に与え、縦方向電磁石制御器18は、かご室床4の振動を打ち消すように縦方向電磁石10の電磁力を制御する。このためかご室床4の振動を有効に低減することができる。また、この振動の低減をより効果的にするために、この実施例では縦方向ゲイン-位相調整器17を縦方向加速度センサ15から縦方向電磁石制御器18の間に設けてある。このように縦方向ゲイン-位相調整器17を設けると縦方向ゲイン-位相調整器17の定数を適正に設定すれば、より効果的にかご室床4の信号を低減することができる。なお、縦方向ゲイン-位相調整器17の定数は、かご室床4の荷重や乗かごの走行位置などに応じて変更される。このように構成することによって、乗客の人数やロープ長の条件で変化する振動に対してかご室床4の振動はより確実に低減される。
【0015】以上のようにすると、縦方向電磁石10によって垂直方向の振動は有効に低減できるが、水平方向の振動に対しては不安定である。そこで、水平方向の振動を抑えるために前記と同様の防振ゴムをかご室床4とかご枠2との間に設置してもよいが、前述と同様の理由で振動を有効に減衰させることはできない。そこで、この実施例では、縦方向電磁石10と同様の横方向電磁石12をかご枠2側に設けてある。そして、縦方向の振動制御に使用した各構成要素と同様の横方向ギャップセンサ14、横方向加速度センサ16、横方向ゲイン-位相調整器21、横方向ギャップ指令部23、及び横方向加算器24を設け、かご枠2とかご室床4側の縦方向ブラケット9とのギャップδ3及び横方向加速度センサ16によって垂直方向と同様にして水平方向の振動を抑制するようにしてある。
【0016】なお、この実施例では、かご室側板5の底板6を防振ゴム7上に固定しているが、かご室側板5をかご枠2に固定し、かご室床4をかご枠2から浮上させるようにしても良い。ただし、この場合は、かご室側板5の振動が大きくなることは否めない。
【0017】図3は他の実施例を示す要部拡大図である。この実施例では、縦方向電磁石10をかご枠2の底板6とかご室床4の両方に対向して設けるとともに、横方向電磁石12をかご室床4の垂下部4aとかご枠2の内面の両方に対向して設け、縦方向ギャップδ2と横方向ギャップδ3を前述の実施例と同様にして制御するもので、対向する電磁石の反発力を利用する点が前記実施例と異なるだけで、その他の各構成要素は前記実施例と同等に構成されている。なお、電磁石10,12の吸引力を利用するか反発力を利用するかは選択の問題であり、縦方向と横方向でそれぞれ方式を変えても良いことは言うまでもない。」(段落【0011】ないし【0017】)

オ.「【0024】電磁石の電磁力を制御する電磁石制御手段をさらに備え、床部とかご枠とのギャップを制御するようにした請求項5記載の発明によれば、ギャップの間隔を制御して床部に伝達される振動を積極的に抑制するので、請求項1または3記載の発明の効果に加えて、さらに振動を抑制することができる。
【0025】床部とかご枠とのギャップを検出するギャップセンサをさらに備え、電磁石制御手段が、前記ギャップセンサからの検出出力に応じて前記床部の振動が低減するように前記電磁石の電磁力を制御する請求項6記載の発明によれば、ギャップセンサによってギャップの変化を検出し、この変化に応じて電磁石を制御して床部の振動を低減させるので、請求項5記載の発明の振動の抑制効果をさらに向上させることができる。
【0026】床部の振動を検出する振動検出手段をさらに備え、電磁石制御手段が、前記振動検出手段からの検出出力に応じて前記床部の振動が低減するように前記電磁石の電磁力を制御する請求項7記載の発明によれば、振動検出手段によって振動の状態を検出し、これに応じて電磁石を制御して床部の振動を低減させるので、請求項5記載の発明の振動の抑制効果をさらに向上させることができる。」(段落【0024】ないし【0026】)

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)ア.ないしオ.及び図面の記載を参酌すると、以下のことが分かる。
カ.水平方向の加速度を検出する横方向加速度センサの出力は横方向ゲイン-位相調整器21に入力され、その出力は横方向電磁石制御器22に入力され、横方向電磁石制御器22から横方向電磁石12への制御信号が出力されることから、エレベータかご室床4およびエレベータかご枠2の一方に対して固定して配置された電磁石12と、前記エレベータかご室床4に対して固定して配置され且つ前記エレベータかご室床4の加速度を示す加速度信号(以下、「加速度信号A」という。)を発生させる横方向加速度センサ16があることが分かる。

キ.加速度信号Aに応答して、電磁石12によって発生する磁場の強さを変えてエレベータかご室床4の加速度を制御する横方向電磁石制御器18とからなり
前記エレベータのかご室床4および前記エレベータかご枠2の他方に対して固定して配置された電磁石12(以下、他方の電磁石を「電磁石12B」という。)と、この電磁石12Bと前記電磁石12(以下、対向する電磁石を「電磁石12C」という。)との間に配置されたギャップδ3とをさらに備え、前記ギャップδ3と前記電磁石12Bと前記電磁石12Cが、前記電磁石12B,Cによって発生する磁場のための磁気回路を完成していることが分かる。

ク.エレベータかご室床4とエレベータかご枠2とが、防振ゴム7とギャップδ1を介しており、前記エレベータかご室床4および前記エレベータかご枠2が、互いに相対的に移動可能であることが分かる。

ケ.引用文献1の【図1】において、例えば、横方向加速度センサ16上に←→と横方向の線(以下、「横方向の線D」という。)が記載され、横方向の線Dに沿って配置された一対の電磁石12B,Cがあることから、加速度信号Aが前記横方向の線Dに沿った加速度を示す信号であって、横方向電磁石制御器18が前記横方向の線Dに沿った加速度を双方向に制御しており、エレベータかご枠2に配置されたエレベータかご室床4の振動を低減する装置であることが分かる。

以上、上記(1)ア.ないしオ.及びカ.ないしケ.並びに図面の記載を参酌すると、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「引用文献1に記載された発明」という。)。
「エレベータかご室床4およびエレベータかご枠2の一方に対して固定して配置された電磁石12と、前記エレベータかご室床4に対して固定して配置され且つ前記エレベータかご室床4の加速度を示す加速度信号Aを発生させる横方向加速度センサ16と、
加速度信号Aに応答して、電磁石12によって発生する磁場の強さを変えてエレベータかご室床4の加速度を制御する横方向電磁石制御器18とからなり
前記エレベータのかご室床4および前記エレベータかご枠2の他方に対して固定して配置された電磁石12Bと、この電磁石12Bと前記電磁石12Cとの間に配置されたギャップδ3とをさらに備え、前記ギャップδ3と前記電磁石12Bと前記電磁石12Cが、前記電磁石12B、Cによって発生する磁場のための磁気回路を完成し
エレベータかご室床4とエレベータかご枠2とが防振ゴム7とギャップδ1を介しており、前記エレベータかご室床4および前記エレベータかご枠2が、互いに相対的に移動可能であり、
電磁石12がさらに横方向の線Dに沿って配置された一対の電磁石12からなり、前記加速度信号Aがさらに前記横方向の線Dに沿った加速度を示す信号からなり、前記横方向電磁石制御器18が前記第1の横方向の線Dに沿った加速度を双方向に制御する、エレベータかご枠2に配置されたエレベータかご室床4の振動を低減する装置。」

(3)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-319739号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。

ア.「【0036】
【実施例】
実施例1.以下、請求項1,2の発明の一実施例を図について説明する。図1において、1はかご室、2はかご室1を防振ゴム7,8を介して支持するかご枠、10はかご室1、かご枠2を含むかご、4はかご10を吊り下げる主ロープ、3は一対のガイドレール、5はかご10にガイドローラサスペンション5aを介して設けられガイドレール3に係合するガイドローラから成るレール係合子で、図示のものは向って左右方向にかご10を支持するが、図示せずも紙面に垂直方向にかご10を支持するレール係合子も設けられている。
【0037】41はガイドレール3に転動可能に係合するガイドローラ、42はガイドローラ41を介してガイドレール3の変位を検出する振動センサ、40はガイドローラ41及び振動センサ42で構成されるガイドレール変位センサで、かご枠2の上下に設けられている。43はガイドレール変位センサ40をかご枠2に支点43aを中心に回動自在に取付けるアーム、44はアーム43を所定方向に付勢するばね、ダンパ、45はかご10に設けられたかご室振動抑制制御装置である。
【0038】かご室振動抑制制御装置45において、46はかご10の水平方向振動を検出するためのかご室1、かご枠2に取付けられた振動センサ、47は振動センサ46の検出信号及びガイドレール変位センサ40の検出信号に基づいて制御信号を作るコントローラ、48 はコントローラ47の制御信号に基づいてかご室1の水平方向振動を抑制するサーボモータ、48aはサーボモータ48に直結したボールねじ、48bはボールねじ48aのナット、49はサーボモータ48、ボールねじ48a、ナット48bで構成されるアクチュエータである。なお、アクチュエータ49、コントローラ47により制振手段が構成される。
【0039】図2は上記のように構成されたエレベータの制振装置におけるガイドレール変位センサ40の働きを示すブロック図であり、図1に示したガイドレール変位センサ40、コントローラ47、アクチュエータ49、かご10、振動センサ46等がブロックにより示されている。
【0040】次に動作について説明する。ガイドレール3は完全に真直なレールであることが理想であるが、現実には高層ビルの高さに相当する長さのレールを完全に真直にかつ継目も無く製造、設置することは不可能であり、また、レール及び高層ビル自体の経年変化に伴うゆがみが生じるため、ガイドレール3に案内され、上下に高速昇降するかご枠2及びかご室1には水平方向に振動を生じる。この水平方向振動を低減させる目的で、ガイドレール3からかご枠2の間にはガイドローラサスペンション5aに支持されたガイドローラから成るレール係合子5が、かご枠2の両側上下に合計4個取り付けてある。ガイドローラ及びガイドローラサスペンション5aは前後方向にもそれぞれ取り付けてある。またかご枠2からかご室1に伝わる振動は防振ゴム7,8により減衰される。通常の昇降速度のエレベータならば、これら二つの振動減衰機構により、かご室1に伝わる振動レベルを目標値である10?15Gal以下に抑えることが可能である。しかし、超高層ビル用の最大速度が500M/min以上となる超高速エレベータでは、この振動減衰機構のみでは振動レベルを目標値以下に抑制することは一般に困難となるため、かご室振動抑制制御装置45などを取り付ける必要が生じてくる。
【0041】そこで通常は、かご室1に生じる振動を振動センサ46により計測し、この振動が小さくなるようにアクチュエータ49を駆動する、いわゆるフィードバック制御系を構成する。これにより振動抑制効果はかなり得られる。しかし、あらかじめ、エレベータのかご10に加わる外乱成分を検出し、フィードフォワード制御することにより、より効果の高い振動制御系が実現できる。このためにエレベータのかご10の上下にガイドレール3のたわみ変位を計測するガイドレール変位センサ40を取り付けている。このガイドレール変位センサ40は、そのガイドローラ41がアーム43とばね、ダンパ44とによりガイドレール3に押しつけられており、エレベータ昇降時にガイドレール3のたわみにより生ずる振動を振動センサ42により計測する。この変位情報をコントローラ47にフィードフォワード情報として与え、かご室1に取り付けた振動センサ46のフィードバック情報による制御系と組み合わせて、より高性能な制振制御系を実現する。」(段落【0036】ないし【0041】)

イ.「【0044】実施例3.上記実施例1ではかご室振動抑制制御装置45としてかご室1とかご枠2をアクチュエータ49により相対的に駆動する形式のものを用いているが、ガイドローラ変位センサ40は図3に示すように、従来のガイドローラサスペンション5aの代わりにガイドローラの支持部に設けたガイドローラアクティブサスペンション50と組み合わせた場合でも、実施例1と同様に実現可能である。即ち、ガイドレール変位センサ40からのフィードフォワード信号とかご10に設けたアクティブサスペンション用の振動センサ51からのフィードバック信号をコントローラ52に入力することで、ガイドローラアクティブサスペンション50の制御信号が得られ、実施例1と同等な制振性能を発揮する。なお、ガイドローラアクティブサスペンション50とコントローラ52により制振手段が構成される。」(段落【0044】)

ウ.「【0047】実施例6.図5は請求項3,4,5の発明の一実施例を示し、図1と対応部分には同一符号を付して説明を省略する。図5において55はボールねじ48aのナット48bに取り付けられたスラスト移動機構である。56はかご枠ボールねじ締結器であり、かご枠2に取り付けられスラスト移動機構55を介しナット48bからの軸力をかご枠2へ伝達する。57はボールねじ48aの片端を支持するボールねじ支えである。58はかご室1の床部に設置された振動センサ、59はかご枠2の下部に設置された振動センサ、60はサーボモータ48のロータに直結されて回転を検出するエンコーダである。61は振動センサ58,59、エンコーダ60の情報などをもとにサーボモータ48を制御するコントローラである。同図は駆動用のアクチュエータ49としてサーボモータ48とボールねじ48a及びナット48bから構成されるものを用いた場合を示している。
【0048】図6は前記のように構成されたエレベータの制振装置の機構部分とエレベータかご室1、かご枠2を2自由度の質点系にモデル化したものである。図7はエレベータの制振装置のコントローラ61の構成の一例を示したブロック図である。コントローラ61の内部は、各種センサ情報より制御状態量を推定する状態指定オブザーバ62と、振動センサ58,59、エンコーダ60から成る各種センサ情報部63と状態推定オブザーバ62からの推定状態量をもとに制御指令信号Tcを出力する補償器64とから構成される。図8はこの発明によるエレベータの制振装置の制振効果を示すボード線図の一例である。
【0049】次に動作について説明する。従来の振動減衰機構では抑制できない振動成分がかご室1に生じると、かご室1の床部に設置された振動センサ58がかご室1の床部の振動を検出する。さらに、かご枠2の下部にも同様に設置された振動センサ59がかご枠2の振動を検出する。これらの振動センサ58,59により計測される加速度あるいは速度信号に加え、サーボモータ48のエンコーダ60より測定される位置又は速度信号をもとにコントローラ61はサーボモータ48の制御指令信号Tcを発生する。制御指令信号はかご室1の床部の振動レベルが低減するようにアクチュエータ49を駆動する。かご室1の床下部に固定されたサーボモータ48のロータが回転することにより、ロータに連結されたボールねじ48aも回転する。一方、ナット48bはスラスト移動機構55とかご枠ボールねじ締結器56とを通じてかご枠2に固定されている。よって、サーボモータ48が回転することによりかご室1とかご枠2とは相対的に図に向かって左右に移動する。
【0050】ところで、かご室1は主ロープ4に懸架されたかご枠2に防振ゴム7,8により弾性支持されているため、かご室1内の搭乗人数の増減による重量の変化に応じかご枠2とかご室1との相対位置は上下に振動する。そのため、かご室1に固定されたサーボモータ48とかご枠2に固定されたかご枠ボールねじ締結器56とは相対的に上下に変位することとなる。従って、直接にナット48bとかご枠ボールねじ締結器56とを締結すると、かご室1の重量の増減による上下動によりボールねじ48aに直行方向に荷重が加わることとなる、ボールねじ48aに軸方向以外の外力が加わることは、機構の安定した動作と寿命の面から好ましくないので、この上下動の動きをボールねじ48aに伝えないように、ボールねじ48aの軸方向に剛性が高く、ボールねじ48aの直角方向には自由に動く機構としてスラスト移動機構55がナット48bとかご枠ボールねじ締結器56との間に取り付けられている。よって、サーボモータ48とボールねじ48aからなる駆動用のアクチュエータ49は、ボールねじ48aの軸方向のみに力を発生することとなる。」(段落【0047】ないし【0050】)

(4)引用文献2に記載された技術
上記(1)ア.ないしエ.及び図面の記載を参酌すると、引用文献2には以下の事項が記載されていることが分かる。

オ.エレベータかご室1には、床(以下、「かご室床E」という。)があり、前記かご室床Eとエレベータかご枠2とが防振ゴム8及び振動抑制装置45を介して固定されており、前記エレベータかご室1のかご室床Eおよび前記エレベータかご枠2が、前記防振ゴム8及び振動抑制装置45の変形を介して互いに相対的に移動可能であるエレベータが記載されていることが分かる。

以上、上記(1)ア.ないしエ.及びオ.並びに図面を参酌すると、引用文献2には、以下の技術が記載されているといえる(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)

「エレベータかご室1のかご室床Eとエレベータかご枠2とが防振ゴム8及び振動抑制装置45を介して固定されており、前記エレベータかご室1のかご室床Eおよび前記エレベータかご枠2が、前記防振ゴム8及び振動抑制装置45の変形を介して互いに相対的に移動可能であるエレベータの制振装置。」

3.対比
本願発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明における「エレベータかご室床4」は、その技術的意義からみて、本願発明における「エレベータかご室床」に相当し、以下同様に、「エレベータかご枠2」は「エレベータかごフレーム」に、「加速度信号A」は「加速度信号」に、「電磁石12B」は「電磁石」に、「横方向加速度センサ16」は「加速度センサ」に、「横方向電磁石制御器18」は「制御装置」に、「ギャップδ3」は「エアギャップ」に、「防振ゴム7とギャップδ1」は「隔離装置」に、「横方向の線D」は「第1の横方向軸線」に、「エレベータかご室床4の振動を低減する装置」は「エレベータのかご室床の加速度を制御する制御システム」に各々相当する。また、引用文献1に記載された発明における「電磁石12C」は、本願発明における「磁石反応物」に包含されることから、本願発明と引用文献1に記載された発明とは
「エレベータかご室床およびエレベータかごフレームの一方に対して固定して配置された電磁石と、前記エレベータかご室床に対して固定して配置され且つ前記エレベータかご室床の加速度を示す加速度信号を発生させる加速度センサと、前記加速度信号に応答して、前記電磁石によって発生する磁場の強さを変えて前記エレベータかご室床の加速度を制御する制御装置とからなり、 前記エレベータかご室床および前記エレベータかごフレームの他方に対して固定して配置された磁石反応物と、この磁石反応物と前記電磁石との間に配置されたエアギャップとをさらに備え、前記エアギャップと前記磁石反応物と前記電磁石が、前記電磁石によって発生する磁場のための磁気回路を完成し、
前記エレベータかご室床と前記エレベータかごフレームとが隔離装置を介しており、前記エレベータかご室床および前記エレベータかごフレームが、互いに相対的に移動可能であり、
前記電磁石がさらに第1の横方向の軸線に沿って配置された一対の電磁石からなり、前記加速度信号がさらに前記第1の横方向の軸線に沿った加速度を示す信号からなり、前記制御装置が前記第1の横方向の軸線に沿った加速度を双方向に制御することを特徴とする、エレベータかごフレームに配置されたエレベータかご室床の加速度を制御する制御システム。」の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点」という。)。

〈相違点〉
本願発明においては、エレベータかご室床とエレベータかごフレームとが隔離装置を介して固定されており、前記エレベータかご室床および前記エレベータかごフレームが、前記隔離装置の変形を介して互いに相対的に移動可能であるのに対して、引用文献1に記載された発明においては、そのように特定されているかどうか定かではない点(以下、「相違点」という。)。

4.判断
相違点について検討する。
本願発明と引用文献2に記載された技術とを対比すると、引用文献2に記載された技術における「かご室床E」は、その技術的意義からみて、本願発明における「かご室床」に相当し、以下同様に、「かご枠2」は「かごフレーム」に、「防振ゴム8と振動抑制装置45」は「隔離装置」に各々相当することから、引用文献2に記載された技術を本願発明の用語を用いて表現すると、「エレベータかご室床とエレベータかごフレームとが隔離装置を介して固定されており、前記エレベータかご室床および前記エレベータかごフレームが、前記隔離装置の変形を介して互いに相対的に移動可能であるエレベータ」となる。
請求人は審判請求書において「引用文献1の構成では、そもそも本願発明のように、かご室床4とエレベータかごフレーム2とを隔離装置を介して固定する必要が無く、・・・中略・・・引用文献1のかご床「浮上」装置に対し、引用文献2に記載の隔離装置を採用し、エレベータかご室床とエレベータかごフレームとを隔離装置を介して(浮遊しないように)固定するための解決課題や動機は存在しない。特に、引用文献1と引用文献2とを組み合わせた場合、引用文献1,2のいずれも本来の浮上機能あるいはアクチュエータ制振機能を果たすことができなくなってしまう。
このように、引用文献1と本願発明とは、課題解決の前提が異なるから、引用文献1の解決課題からは、「引用文献2に記載の事項を採用し、エレベータかご室床とエレベータかごフレームとを隔離装置を介して固定する」ための動機付けは生じない。」旨主張している。
そもそも、引用文献1及び引用文献2に記載されるようにエレベータのかご室とかご枠との間に防振ゴム等を設け、防振制御すること自体は当業者において周知の事項(以下、「周知技術」という。)である。そして、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術は、共に本願発明と同様に、エレベータにおけるかご床の横方向の振動を制御するものであって、引用文献1に記載された発明に引用文献2に記載された技術を適用するにあたって、周知技術を考慮して相違点に係る本願発明のように特定することに各別な困難性はないものである。
しかも、本願発明の作用効果も、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-31 
結審通知日 2013-06-04 
審決日 2013-06-19 
出願番号 特願2000-385072(P2000-385072)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 出野 智之  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 柳田 利夫
久島 弘太郎
発明の名称 エレベータかご室床の加速度制御システム  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  

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