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審決分類 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正しない C12P
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正しない C12P
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない C12P
管理番号 1281051
審判番号 訂正2011-390107  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2011-09-07 
確定日 2013-11-13 
事件の表示 特許第3457962号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第3457962号は,平成4年8月14日を国際出願日とする特許出願であって,その請求項1乃至36に係る発明は,平成15年8月1日にその特許権の設定登録がなされたものである。
そして,平成23年9月7日に本件訂正審判の請求がなされ,同年11月12日付けで当審より訂正拒絶理由を通知したところ,平成24年2月2日に意見書が提出されるとともに,手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。
さらに,請求人は同年2月14日に上申書を提出した。

第2 本件補正について
1 本件補正の概要
本件補正の概要は,審判請求書2頁19行にある
『c.特許請求の範囲の請求項15において,「残基60がアスパラギン酸で置換され,」とあるのを,「残基60がアスパラギンで置換され,」と訂正する。』
の次に改行して,
『d.特許公報6頁11欄38?39行にある「残基60がアスパラギン酸で置換され」を「残基60がアスパラギンで置換され」と訂正する。』
という訂正事項(以下,「追加の訂正事項」という。)を追加するものである。

2 本件補正の適否の判断
訂正審判に係る訂正事項c(審判請求書2頁18?19行)は,『c.特許請求の範囲の請求項15において「残基60がアスパラギン酸で置換され」とあるのを,「残基60がアスパラギンで置換され」と訂正する。』と訂正するものである。
追加の訂正事項と上記訂正審判に係る訂正事項cとは,残基番号及び訂正前後のアミノ酸において一致している。
また,追加の訂正事項における,訂正の目的及びその根拠は,平成24年2月2日付け手続補正書の2頁2?22行に記載のとおり,審判請求書7頁19行?9頁12行記載の「訂正事項cについて」に記載したものと同じであるとしており,追加の訂正事項と訂正審判に係る訂正事項cの訂正の目的及び根拠は軌を一にしているものである。
そうすると,本来,審判請求時に訂正事項cと併せて訂正事項すべきであったものといえ,また,追加の訂正事項は,訂正事項cと同じ趣旨の訂正であるから,訂正事項cに包含される訂正であって,実質的に「審判を申し立てている事項」の同一性や範囲を変更するものではなく,審判請求書の要旨を変更するものでないことは明白である。
したがって,本件補正は,特許法第131条の2第1項の規定に適合する適法なものといえるので,補正を認める。

第3 請求の趣旨
上記「第2」で述べたとおり,本件補正は適法と認められるので,本件訂正審判の請求の趣旨は,特許第3457962号の願書に添付した明細書及び図面(以下,「本件特許明細書」という。)を,本件補正によって補正された審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり,その内容は,次のとおりである。

1 訂正事項1
発明の詳細な説明の欄の配列表において,特許公報50頁6行における「453アミノ酸」を「451アミノ酸」に訂正する。

2 訂正事項2
発明の詳細な説明の欄の配列表において,配列番号8に関する特許公報50頁8行?53頁下から4行記載のアミノ酸配列を,訂正明細書86頁1行?89頁4行に記載のとおり訂正する。
つまり,上記特許公報記載のアミノ酸配列の125番目のLys及び126番目のGlyを削除し,かかる削除に伴い,アミノ酸の配列番号を整理し,全アミノ酸配列の数を453から451に訂正するものである。

3 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項15において「残基60がアスパラギン酸で置換され」とあるのを,「残基60がアスパラギンで置換され」と訂正する。
併せて,特許公報6頁11欄38?39行にある「残基60がアスパラギン酸で置換され」とあるのを「残基60がアスパラギンで置換され」と訂正する。

第4 訂正拒絶理由の概要
訂正拒絶理由の概要は,次のとおりである。
1 訂正事項1及び2について
本件特許明細書の記載のみからは係る配列が誤記であるということができないし,本件出願時の技術常識を参酌しても,誤記であるということはできない。したがって,訂正事項2は,誤記の訂正を目的とするものではなく,また,特許請求の範囲の減縮,明りょうでない記載の釈明を目的とするものでないことも明らかである。
そして,訂正事項2は,本件特許明細書及び技術常識から自明な事項ではないから,本件特許明細書に記載された範囲内においてしたものといえない。
さらに,本件特許明細書記載の請求項1?36に係る発明は,MAE11または配列番号8を特定事項として含むものであり,訂正事項2により配列が変化することとなるから,実質的に特許請求の範囲を変更するものに該当する。
よって,訂正事項2に係る訂正は,特許法第126条の規定に適合しない。
訂正事項1は,訂正事項2により,本件特許明細書記載の配列番号8のアミノ酸数が減少することに伴い,特許公報50頁6行における「453アミノ酸」を「451アミノ酸」に訂正するものである。
訂正事項2に係る訂正は,特許法第126条の規定も適合しないものであるから,訂正事項1に係る訂正もまた,特許法第126条の規定に適合しないものである。

2 訂正事項3について,
本件特許明細書には,「他の好ましい態様は,配列番号8および9にそれぞれ示すヒト化マウス抗体humae11 1型のFab H鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を含む抗体であって,残基60がアスパラギン酸で置換され,残基61がプロリンで置換され,残基67がイソロイシンで置換されていることを特徴とする抗体である。」(特許公報6頁11欄36?41行)(なお,下線は当審にて付記したものである。)と記載されているように,「残基60がアスパラギン酸で置換され」ることが明記されている。請求項15は,この「他の好ましい態様」に基づく発明ということもできるから,残基60のアスパラギン酸はアスパラギンの誤記であるとまではいえない。
また,仮に,誤記であるとしても,アスパラギン酸とアスパラギンのどちらが正しい記載であるか不明であるから,「残基60がアスパラギン酸」とあるのを「残基60がアスパラギン」と訂正することは,自明な事項とはいえない。
さらに,アミノ酸の種類が全く異なるものとなり,実質上特許請求の範囲を変更するものであることは明白である。
したがって,訂正事項3に係る訂正は,特許法第126条の規定に適合しない。

第5 訂正事項2についての当審の判断
1 本件特許明細書の記載に基づく検討
(1)訂正事項2に関する本件特許明細書の記載について
訂正事項2に関する本件特許明細書の記載は以下のとおりである。なお,下線は当審にて付記したものである。以下,同様である。また,頁及び行は本件特許公報の頁及び行を示す。)

ア 本件特許明細書記載の配列番号8について
配列番号8に関するアミノ酸配列は,特許公報50頁8行?53頁下から4行に記載されているが,本件特許明細書中には125番目のLys及び126番目のGlyが誤りであることを示唆する記載はない。

イ 配列番号8で表されるペプチドの由来について
「一つの好ましい態様は,ヒト化マウス抗体humae11 1型,2型,3型,4型,5型,6型,7型,7a型,8型,8a型,8b型または9型のFabH鎖およびL鎖配列を含む抗体であって,その際,該humae11 1型は配列番号8および9にそれぞれ示すH鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を有し,該humae11 2型?9型は,下記表9に示すように,該humae11 1型が有するH鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列に対してさらに以下の修飾を有することを特徴とする抗体である:」(6頁11欄6?14行)と記載されているように,配列番号8は,ヒト化マウス抗体humae11 1型のH鎖のアミノ酸配列であることが理解される。

ウ ヒト化抗体について
ここで,ヒト化抗体について,本件特許明細書に次のように記載されている。
「ヒト化抗体とは,非ヒト免疫グロブリンに由来する配列を最小しか含まない免疫グロブリン,免疫グロブリン鎖またはそのフラグメント(Fv,Fab,Fab',F(ab')2または抗体の他の抗原結合配列など)である。大部分においてヒト化抗体はヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり,レシピエントの相補性決定部位(CDR)からの残基が所望の特異性,親和性および能力を有するマウス,ラットやウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDRからの残基で置換されているものである。」(3頁6欄48行?4頁7欄7行)と記載されている。
そうすると配列番号8のヒト化マウス抗体humae11 1型のH鎖は,ヒト化したものであるから非ヒト免疫グロブリンに由来する配列を最小しか含まない免疫グロブリンということができ,抗原分子と直接接触する主に超可変領域(complementarity-determiningregion:CDR)のアミノ酸配列以外の配列をヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列としたものと解することができる。
そうであるなら,少なくとも配列番号8のヒト化マウス抗体humae11 1型の定常領域は,超可変領域ではないから,ヒト由来のものということができる。

エ ヒト化マウス抗体humae11 1型の由来について
(ア) マウス抗体の由来について
特許公報19頁37欄1行?同頁38欄4行には,次のように記載されている。
「変異体抗huIgE抗体
まずFCELには結合することができるがFCEHには結合することのできない一群のマウスモノクローナル抗体を得ることにより,変異体抗huIgE抗体を製造した。そのような8つのマウスモノクローナル抗体(MAE10,MAE11,MAE12,MAE13,MAE14,MAE15,MAE16およびMAE17と称する)を,ヒトIgEまたはhuIgEの残基315-547からなるポリペプチドでマウスを免疫し抗IgE活性についてスクリーニングすることを含む通常の方法により得た。」とあり,ヒト化マウス抗体humae11 1型の材料として,FCELには結合することができるがFCEHには結合することのできない抗huIgE抗体であるマウスモノクローナル抗体MAE11に由来するものと理解される。

(イ)ヒト化するのに使用する,ヒト抗体の由来について
ヒト化マウス抗体humae11 1型を作成するのに使用するヒト抗体の由来について検討する。
本件特許明細書の表5(特許公報26頁)によると,MaE11型のアイソタイプは,IgG1と記載されている。MaE11をヒト化する場合,マウスと同じアイソタイプを使用するのが自然であって,ヒトのIgG1を使用したものと解することができる。
しかしながら,ヒトのIgG1には,種々の配列のものが存在するところ具体的にどのようなヒトIgG1を使用したのかは,本件特許明細書に明記されていない。

オ 残基番号について
特許公報4頁7欄47行?同頁8欄1行の「本明細書に用いる免疫グロブリン残基番号はカバット(Kabat)ら(Sequences of Proteins of Immunological Interest(国立衛生研究所(National Institutes of Health),ベセスダ,メリーランド州,1987))のものであることに注意すべきである。」と記載されている。そして,特許公報6頁11欄34?35行「(上記定義において抗体中のアミノ酸残基の番号付けはカバットらの番号付けに基づくものである)。」等のように,特許公報で,特にカバットらの番号けによると記載されている箇所については,この刊行物の残基番号によると理解される。

カ 本件特許明細書記載の配列番号8の配列表記載の番号について
特許公報6頁11欄12?26行には,「該humae11 1型が有するH鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列に対してさらに以下の修飾を有することを特徴とする抗体である:
・・・(略)・・・
(h)humae11 8型についてはVH中にA60NおよびD61P;」と記載されている。
つまり,humae11 8型はhumae11 1型のアミノ酸配列を修飾したものであって,A60Nとは,humae11 1型の残基番号60のアラニンをアスパラギンに置換することを意味する。humae11 8型に修飾を施す前のhumae11 1型の配列は,上記「第5 1(1)イ 配列番号8で表されるペプチドの由来について」に記したように,本件特許明細書記載の配列番号8の配列表は,humae11 1型の配列である。この配列表の残基番号60をみると,Tryとなっており,アラニンではないことから,本件特許明細書記載の配列番号8に付された番号は,上記「第5 1(1)オ 残基番号について」で言及したカバットらによる残基番号ではないことが理解される。

(2) 本件特許明細書の記載に基づく検討
上記「第5 1(1)ア」?「第5 1(1)カ」をまとめると,配列番号8に関するアミノ酸配列は,ヒト化マウス抗体humae11 1型のH鎖の配列であって,定常領域を含む大部分においてヒト免疫グロブリンIgG1であり,相補性決定部位(CDR)からの残基が所望の特異性,親和性および能力を有するマウスモノクローナル抗体MAE11のものに置換されている抗体のH鎖のアミノ酸配列であり,配列番号8に記載の残基番号は,カバットら残基番号ではないことが理解される。
そして,本件特許明細書の他の記載事項を精査しても,配列番号8に関するアミノ酸配列の125番目のLys及び126番目のGlyが誤りであることを示唆する直接的な記載はなく,本件特許明細書の記載のみからは係る配列が誤記であるということができない。

2 本件出願時の技術常識を参酌した検討
請求人は,本件特許明細書記載の配列番号8に誤記があると主張し,それを裏付けるために訂正審判請求書に添付された下記参考資料1及び2,平成24年2月2日提出の意見書に添付された参考資料3?23並びに同年2月14日提出の上申書に添付された参考資料25を提出している。
(1) 請求人提出の証拠方法
参考資料1:八杉龍一 等編集,岩波 生物学事典 第4版,岩波書店,第4版第2刷,1996年7月12日,1394?1395頁

参考資料2:Elivin A. Kabatetal,Public Health Service National Institutes of Health,SEQUENCES OF PROTEINS OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, VOL.1 , FIFTH EDITION,ベセスダ,メリーランド州,1巻,第5版,1991年,662頁,718頁

参考資料3:請求人作成の,カバットらの残基番号と配列番号8の残基番号との対応表;重鎖

参考資料4:Elivin A. Kabatetal,Public Health Service National Institutes of Health,SEQUENCES OF PROTEINS OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, VOL.1 , FIFTH EDITION,ベセスダ,メリーランド州,1巻,第5版,1991年(参考資料2と同じ文献の鮮明な複写物)

参考資料5:山田常雄 等編集,岩波 生物学事典 第3版,岩波書店,第3版第1刷,1983年3月10日,1282?1283頁

参考資料6?23:インターネットにおウエブサイト(NCBI)で入手した各種ヒト由来IgG1抗体のCH1領域のアミノ酸配列,掲載日不明。

参考資料25:Leonard G. Presta et al., The Jounal of Imunology, vol.151, no.5, 1993年9月1日, pp.2623-2632

(2) 各参考資料記載の事項
ア 参考資料1記載の事項
(参1-1)「L鎖およびH鎖ともにN末端から約110個のアミノ酸(L鎖の約半分の長さ)の配列は,抗原特異性に応じて部分的に異なった配列の仕方をしている。この部分を可変部(可変領域variable region,V部)とよび,抗原特異性の決定はL鎖とH鎖の両方の可変部(V_(L),V_(H))が関係している。可変部位以下の部分の長さは各クラスあるいはサブクラスごとにほぼ一定であり,定常部(定常領域constant region,C部)とよぶ。定常領域は約110個のアミノ酸からなるポリペプチド単位(相同単位)がL鎖では一つ(C_(L)),H鎖では,IgG,IgA,IgDで3個(C_(H)1,C_(H)2,C_(H)3),IgM,IgEで4個つながっていて,各単位あるいは向かいあった部分と結合して生じた部域をドメイン(domain)という。」(1394頁左欄下から4行?同頁右欄9行)

イ 参考資料2記載の事項
なお,翻訳は当審による。
(参2-1)「HEAVY CONSTANT CHAINS CH1 REGION(cont'd)」(662頁1行)
(翻訳)
「重定常鎖 CH1領域 (続く)」
(参2-2)662頁に記載の表の左端には番号が付してあり,配列が記載されている。配列の上には,番号とアルファベットによる記号が付してある。
28 29 ・・(略)・・35 36 37 ・・(略)・・
EU NIE SAC HUM KOL
IGG
CL
1
・・・(略)・・・
114 ALA ALA ALA ALA ALA
115 SER SER SER SER SER
116 THR THR THR THR THR
117 LYS LYS LYS LYS LYS
118 GLY GLY GLY GLY
119 PRO PRO PRO PRO
--- --- --- ---
--- --- --- ---
120 VAL VAL VAL VAL
121 SER SER SER SER
122 PHE PHE PHE PHE
123 PRO PRO PRO PRO
124 LEU LEU LEU LEU
125 ALA ALA ALA ALA
126 PRO PRO PRO PRO
127 SER SER SER SER
128 SER SER SER SER
129 LYS LYS LYS LYS
130 SER SER SER SER
・・・(略)・・・
222 ARG LYS LYS ARG」(662頁)
(参2-2)「ALLOTYPE:HEAVY CONSTANT CHAINS」(718頁1行)
(翻訳)
「アロタイプ:重定常鎖」
(参2-3)「CLASSIFICATION: HEAVY CONSTANT CHAINS
・・・(略)・・・
28)EU:HUMAN IGG1
29)NIE:HUMAN IGG1
30)CRA:HUMAN IGG1
31)VAD:HUMAN IGG1
32)LYB:HUMAN IGG1
33)KST:HUMAN IGG1
34)YOK:HUMAN IGG1
35)SAC:HUMAN IGG1
37)KOL:HUMAN IGG1
38)MCG:HUMAN IGG1
39)LYC:HUMAN IGG1
40)DOB:HUMAN IGG1」(718頁19?55行)
(翻訳)
「分類:重定常鎖
・・・(略)・・・
8)EU:ヒト IGG1
29)NIE:ヒト IGG1
30)CRA:ヒトIGG1
31)VAD:ヒトIGG1
32)LYB:ヒトIGG1
33)KST:ヒトIGG1
34)YOK:ヒトIGG1
35)SAC:ヒトIGG1
37)KOL:ヒトIGG1
38)MCG:ヒトIGG1
39)LYC:ヒトIGG1
40)DOB:ヒトIGG1」

ウ 参考資料3記載の事項
カバットらの残基番号と配列番号8の残基番号との対応表が記載されている。
また,mae11(マウスドナー抗体)の配列がカバットらの残基番号で1?113,humIII(ヒトレシピエント抗体)の配列がカバットらの残基番号で1?140,配列番号8の配列がカバットらの残基番号で114?130について記載されている。

エ 参考資料4記載の事項
なお,翻訳は請求人の提出したものに当審で翻訳したものを追加したものである。
(参4-1)「序文
我々の初版「免疫グロブリン鎖の可変領域」(1),第二版「免疫グロブリン鎖の配列」(2)および第三版「免疫学的に興味のもたれるタンパク質の配列」(3)は,さらに第四版(4)に拡張され,そして現在は第五版にまで拡張されている。第五版は,前駆体,可変領域,定常領域,免疫グロブリンのJ鎖,β2-ミクログロブリン,主要組織適合複合体の抗原(HLA,H-2,I a; DR),並びにThy-1,補体,T細胞抗原レセプター,免疫グロブリンスーパーファミリーの他のT細胞表面抗原,インターロイキン,インテグリン,および免疫機能に関連する他のタンパク質のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を含む。組換えDNA技術を用いて得られたクローンめ同定およびシークエンシングによって免疫グロブリンのシグナル領域,可変領域および定常領域のヌクレオチド配列が得られ(5,6),これらヌクレオチド配列をアミノ酸配列に翻訳した。後者は,以前にアミノ酸シークエンシングによって直接決定されたアミノ酸配列とともにアミノ酸配列の表に含まれ,クローンの名称の後にアポストロフィとそれに続くCLにより示されている。我々は,配列を作表するために国立衛生研究所(7と8),国立研究資源センター のPROPHET Software Packageを使用し続けてきた。
この第五版のためのデータを収集する際に,我々は,できるだけ最新で,公表された又は出版のために受理されている配列だけを含んでいるようにした。明確に決定されていない残基は除外された。配列が,しばしば詳細な証拠書類なしにレビュー記事で公開されていることを忘れてはならない。これらは,しばしば改訂された。我々は多くの場合,注釈にこのような改訂を記載している;他のものは容易に以前の版の配列と比較して見つけることができる。我々は,アミノ酸として直接決定された配列を蓄積し,ヌクレオチド配列から翻訳されたこれらをそれに混ぜて,このようにすべての比較可能なデータとした。抗体活性が知られている場合には,それらはアミノ酸およびヌクレオチド配列表の後に記載されており,インデックスに含まれる。
疑問が配列内の任意の残基の有効性に関して発生する場合,原典の参照は,配列を立証する決定的な証拠が提供さているかどうか確認するために調べられるべきである。初期の版では,我々は,コンピュータに蓄積する時に,アミノ酸およびヌクレオチド配列を原典の著者に確認のために送った。もしそのように確認されれば,これは各参照の終わりに「著者によってチェックされた」と表記され,最も初期の配列を除いて,チェックされた配列が我々に返信された日付は付与される。可能な場合は常に,GenBank(9)からのヌクレオチド配列が使用された。GenBank配列を,私たちの表のコドン・フォーマットに変換するためのプログラムが開発されている。表配列の正確さは,線形の形に戻って変換しGenBankと比較することにより確認された。これがなされた場合,配列は,「GenBankによる」のように記載される。」(xiii頁1?51行)
(参4-2)「アミノ酸配列
各表の最初の行は残基番号である。補体,T細胞表面抗原,インテグリンその他のタンパク質を除き,第二の行は不変残基を示す。不変性に例外が見出されているので,不変残基として列挙した残基に並べて頻度(1.0未満で0.95以上である場合)を示す;単一の配列しか利用できないときは示していない。これらの列は灰色の陰影を付してある。各配列は,それぞれ次の行に示してある。3つのダッシュ(---)は,その位置にアミノ酸が存在せず,配列が連続することを示す。いかなる場合も,著者が不確かであると考えた残基は表には示していない。ある場合には,一つの位置に幾つかのアミノ酸残基が見出されていることを示すために記号#を用い,これらの残基を注に列挙してある。各表の最後にある4つの行は以下のとおりである:
1.その位置でシークエンシングした残基の数,
2.その位置で見出された異なるアミノ酸の数,
3.アミノ酸が最も共通して存在する回数とそのアミノ酸,及び,
4.変動性。」(xiv頁7?27行)
(参4-3)「定常領域配列
定常領域の配列は,軽鎖(C_(L))や重鎖の個々のドメイン(C_(H)1,C_(H)2,C_(H)3およびC_(H)4)の様々な比較が可能となるような仕方でアラインメントした。このことは,アライメントのためのキャップを挿入しながら,左側に連続した番号付けにより行った。以下の番号付けシステムを用いた:
C_(L)の108?215;
C_(H)1の114?223,ヒンジの第1部(224?241),(242および243),およびC_(H)2の最初の2残基(244および245);
C_(H)2の246?360;
C_(H)3の361?496;
C_(H)4の497?628
ヒトIgG3ヒンジ領域における遺伝子四倍化(218)は,241A?241Z,および241AA?241SSを用いて異なる番号付けをしてあり,これら残基はホモロジーのためにドメインをアラインメントするのに用いるべきでない。重鎖の表中の次の2つの行は,それぞれ,EU(67)およびOU(219)を示す。その次の行(番号付けしてある)は,配列データを示す。C_(H)ドメインおよびヒンジドメインはサカノら(220)の知見と一致し,サカノらは,各ドメインの境界のコードし介入するヌクレオチド配列をシークエンシングすることにより,各ドメインを正確に定義した。」(1vi頁37?58行)

オ 参考資料5記載の事項
(参5-1)「L鎖およびH鎖ともにN末端から約110個のアミノ酸(L鎖の約半分の長さ)の配列は,抗原特異性に応じて部分的に異なった配列の仕方をしている。この部分を可変部(可変領域variable region,V部)とよび,抗原特異性の決定はL鎖とH鎖の両方の可変部が関係している。可変部位以下の部分の長さは各クラスあるいはサブクラスごとにほぼ一定であり,定常部(定常領域constant region,C部)とよぶ。定常領域は約110個のアミノ酸からなるポリペプチド単位(相同単位)がL鎖では一つ,H鎖では,IgG,IgA,IgDで3個,IgM,IgEで4個つながっていて,各単位あるいは向かいあった部分と結合して生じた部域をドメイン(domain)という。」

カ 参考資料6?23記載の事項
参考資料6?23には,アミノ酸3文字表記に改めると,
「AlaSerThrLysGlyProSerValPheProLeuAlaProSerSerLysSer」なる,ヒトIgG1重鎖の配列が記載されている。

キ 参考資料25記載の事項
参考資料25の図1には,humIII(ヒトレシピエント抗体)の配列がカバットらによる番号付けで1?113残基について記載されている。

(3)本件出願時の技術常識を参酌した検討
参考資料1の(参1-1)からは,IgGを含む一般的な抗体のH鎖は,約110個のアミノ酸の可変部位に続き,約110個のアミノ酸からなるポリペプチド単位(相同単位)が4つつながった定常部位から構成されていることが理解される。
そうすると,H鎖の配列に係る配列番号8の125番目及び126番目は,定常部位に相当する領域であることが理解される。
上記「第5 1(1)オ 残基番号について」で言及したように,本件特許明細書で採用されている残基番号は,「カバット(Kabat)ら(Sequences of Proteins of Immunological Interest(国立衛生研究所(National Institutes of Health),ベセスダ,メリーランド州,1987))」の文献によるとされており,参考文献2の(参2-2)に記載の番号が,本件特許明細書でいう「カバットらによる残基番号」である。
参考文献2記載の配列は,28EU,29NIE,36HUMAN IGG1 'CL,37 KOLの4種類のものが記載されているが,残基番号114?130までの配列は同じである。
(参2-2)記載の配列表と本件特許明細書記載の配列番号8の配列(下記対応表の「---」の上段)と,参考文献2記載の配列(下記対応表の「---」の下段)と対応付けることができる。

対応表
本件特許明細書記載の配列番号8の配列
122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137
Ala Ser Thr Lys Gly Lys Gly Pro Ser Val Phe Pro Leu Ala Pro Ser
--------------------------------
Ala Ser Thr Lys Gly Pro Ser Val Phe Pro Leu Ala Pro Ser
114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127
参考文献2記載の配列表(カバットらの番号付け)

本件特許明細書記載の配列番号8の配列
138 139 140
Ser Lys Ser
------
Ser Lys Ser
128 129 130 (カバットらの番号付け)
参考文献2記載の配列表

以上のように,参考文献2記載の配列には,本件特許明細書記載の配列番号8の残基番号125及び126のアミノ酸が存在しないことが分かる。
参考資料2の文献は,「この第五版のためのデータを収集する際に,我々は,できるだけ最新で,公表された又は出版のために受理されている配列だけを含んでいるようにした。」(参4-1)と記載されているように,配列をできる限り集めて作成したものであり,この文献の発行時点では上記28EU,29NIE,36HUMAN IGG1 'CL,37 KOLの4種類のものしか集められなかったことを意味している。
また,参考資料6?23は,その公知日が不明であるが,いずれも「AlaSerThrLysGlyProSerValPheProLeuAlaProSerSerLysSer」という配列であって,本件特許明細書記載の配列番号8の残基番号125及び126のアミノ酸が存在しないことが分かる。

しかしながら,上記「第5 1(1)エ(イ)ヒト化するのに使用する,ヒト抗体の由来について」に記したように,具体的にどのようなヒトIgG1を使用したのかは,本件特許明細書に明記されていない。確かに,参考資料2及び参考資料6?23においては,配列番号8の残基番号125及び126に対応するアミノ酸が存在しないが,(参2-2)の配列表によると222残基は,「28EU」及び「37KOL」ではARGであるが,「29NIE」及び「36HUM IGGCL1」では,LYSとなっており,ヒト由来のIgG1も多型性があることが理解され,ヒト定常領域においても配列のバリエーションは存在する。本件特許出願時に知られていたヒト定常領域のアミノ酸配列が訂正事項2の如くのものしか報告されていないとしても,いまだ報告されていない配列のバリエーションが本件特許明細書記載の配列番号8の配列として記載されていると,当業者が認識する可能性もある。すなわち,本件特許の出願時において,ヒト定常領域の配列に配列番号8の残基番号125及び126に相当するアミノ酸配列がないとの技術常識は存在しないのであるから,本件特許明細書に接した当業者が,本件特許明細書記載の配列番号8の配列に疑いを抱き,誤記であると認識するとまではいえない。

なお,平成24年2月14日提出の上申書に添付された参考資料25について,上申書には,参考資料3に記載されたhumIIIの配列の根拠となる文献である旨が記載されている。しかしながら,参考資料25には,カバットらの番号付けで1?113残基までしか記載されておらず,配列番号8のカバットらの番号付けで114?140残基については記載されていないので,参考資料3記載のhumIIIのカバットらの番号付けで114?140残基の配列の根拠が不明である。
仮に,参考資料3に記載のhumIIIのカバットらの番号付けで114?140残基の配列のとおりであったとしても,上記したように,本件特許明細書に接した当業者が,本件特許明細書記載の配列番号8の配列に疑いを抱き,誤記であると認識するとまではいえない。

3 訂正事項2についての小括
本件特許明細書の記載のみからは係る配列が誤記であるということができないし,また,本件出願時の技術常識を参酌しても,本件特許明細書に接した当業者が,本件特許明細書記載の配列番号8の配列に疑いを抱き,誤記があると認識するとまではいえない。したがって,訂正事項2は,誤記の訂正を目的とするものではなく,また,特許請求の範囲の減縮,明りょうでない記載の釈明を目的とするものでないことも明らかであるから,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法(以下,「平成6年改正前特許法」という。)第126条第1項ただし書き各号のいずれにも該当しない。
そして,訂正事項2は,本件特許明細書及び技術常識を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものとはいえず,「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」したものとはいえないから,平成6年改正前特許法第126条第1項の規定に適合しない。
さらに,本件特許明細書記載の請求項15に係る発明は,配列番号8を特定事項として含むものであり,訂正事項2により配列が変化することとなり,実質的に特許請求の範囲を変更するものとなるから,訂正事項2は,平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合しない。

第6 訂正事項1について
訂正事項1は,訂正事項2により,本件特許明細書記載の配列番号8のアミノ酸数が減少することに伴い,特許公報50頁6行における「453アミノ酸」を「451アミノ酸」に訂正するものである。
上記「第5 訂正事項2についての当審の判断」で言及したように,平成6年改正前特許法第126条第1項,第2項のいずれの規定にも適合しないから,訂正事項1に係る訂正もまた,平成6年改正前特許法第126条第1項,第2項のいずれの規定にも適合しないものである。

第7 訂正事項3についての当審の判断
訂正事項3は,特許請求の範囲の請求項15において「残基60がアスパラギン酸で置換され」とあるのを,「残基60がアスパラギンで置換され」と訂正するものである。つまり,本件特許明細書の請求項15の
「【請求項15】配列番号8および9にそれぞれ示すヒト化マウス抗体humae111型のFabH鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を含む抗体であって,残基60がアスパラギン酸で置換され,残基61がプロリンで置換され,残基67がイソロイシンで置換されている(抗体中のアミノ酸残基の番号付けはカバットらの番号付けに基づく)ことを特徴とする抗体。」とあるのを,本件訂正により,
「【請求項15】配列番号8および9にそれぞれ示すヒト化マウス抗体humae111型のFabH鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を含む抗体であって,残基60がアスパラギンで置換され,残基61がプロリンで置換され,残基67がイソロイシンで置換されている(抗体中のアミノ酸残基の番号付けはカバットらの番号付けに基づく)ことを特徴とする抗体。」に訂正するものである。

ここで,訂正事項3に関する本件特許明細書の記載を精査すると,「配列番号8及び9」における「残基60」に関し,次の事項が記載されている。

記載事項1:「一つの好ましい態様は,ヒト化マウス抗体humae111型,2型,3型,4型,5型,6型,7型,7a型,8型,8a型,8b型または9型のFabH鎖およびL鎖配列を含む抗体であって,
その際,該humae111型は配列番号8および9にそれぞれ示すH鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を有し,
該humae112型?9型は,下記表9に示すように,該humae111型が有するH鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列に対してさらに以下の修飾を有することを特徴とする抗体である:
(a)humae112型についてはVL中にL4MおよびM33L;
(b)humae113型についてはVL中にE55GおよびG57E;
(c)humae114型についてはVH中にI37V;
(d)humae115型についてはVH中にV24A;
(e)humae116型についてはVH中にF78L;
(f)humae117型についてはVL中にL4M,R24K,E55GおよびG57E,およびVH中にV24A,I37V,T57S,A60N,D61P,V63L,G65NおよびF78L;
(g)humae117a型についてはVL中にL4M,R24K,E55GおよびG57E,およびVH中にV24A,I37V,T57S,A60N,D61P,V63LおよびG65N;
(h)humae118型についてはVH中にA60NおよびD61P;
(i)humae118a型についてはVH中にA60N,D61P,V63LおよびF67I;
(j)humae118b型についてはVH中にA60N,D61PおよびF67I;
(k)humae119型についてはVL中にA13V,V19A,V58I,L78VおよびV104L,およびVH中にV48M,A49G,A60N,V63L,F67I,I69V,M82LおよびL82cA
(上記定義において抗体中のアミノ酸残基の番号付けはカバットらの番号付けに基づくものである)。」(6頁11欄6?35行)

記載事項2:「他の好ましい態様は,配列番号8および9にそれぞれ示すヒト化マウス抗体humae111型のFabH鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を含む抗体であって,残基60がアスパラギン酸で置換され,残基61がプロリンで置換され,残基67がイソロイシンで置換されていることを特徴とする抗体である。」(6頁11欄36?41行)

記載事項3:「位置V_(H)-60は,アスパラギンで置換するのが最も好ましいが,グルタミン,ヒスチジン,リシン,アルギニンまたは該抗体の特性が改良される他のいずれかの残基による置換もまたこの発明の範囲に包含される。」(21頁41欄37?40行)
と記載されている。

記載事項1には,変異がまとめられており,「A60N」,すなわち,残基60のアラニンをアスパラギンで置換することが理解できる。
しかしながら,記載事項3には「位置V_(H)-60は,アスパラギンで置換するのが最も好ましいが,グルタミン,ヒスチジン,リシン,アルギニンまたは該抗体の特性が改良される他のいずれかの残基による置換もまたこの発明の範囲に包含される。」と記載されており,アスパラギン以外のアミノ酸への置換を示唆している。
そして,記載事項2には,「他の好ましい態様は,配列番号8および9にそれぞれ示すヒト化マウス抗体humae11 1型のFabH鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を含む抗体であって,残基60がアスパラギン酸で置換され,残基61がプロリンで置換され,残基67がイソロイシンで置換されていることを特徴とする抗体である。」と記載されており,記載事項1とは異なる態様として,「残基60がアスパラギン酸で置換され」ることが明記されている。
そうすると,請求項15は,記載事項3の「他のいずれかの残基」あるいは記載事項2の「他の好ましい態様」に基づく発明ということもできるから,残基60のアスパラギン酸はアスパラギンの誤記であるとまではいえない。
したがって,上記訂正事項3に係る訂正は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前(以下,「平成6年改正前」という。)の特許法第126条第1項ただし書き各号のいずれにも該当しない。
また,訂正の結果,特許請求の範囲の請求項15のアミノ酸の種類が全く異なるものとなる。そして,特許請求の範囲の請求項15において「残基60がアスパラギン酸で置換され」という記載は,それ自体はきわめて明りょうで,明細書中の他の項の記載等を参酌しなければ理解しえない性質のものではなく,本件特許明細書からは,前記したようにアスパラギン酸とアスパラギンのどちらが正しい記載か不明であって,当業者であれば何びともその誤記であることに気づいて「アスパラギン」の趣旨に理解するのが当然であるとはいえないのであるから,実質上特許請求の範囲を変更するものであることは明白である。
したがって,平成6年改正前の特許法第126条第2項の規定にも適合しない。

なお,請求人は,平成24年2月2日提出の意見書において「このように,H鎖の残基60においてアスパラギンではなくアスパラギン酸で置換されているとの記載は,当初明細書等には一切見あたりません。」(意見書7頁末行?8頁2行)と主張する。そして,それを裏付けるため参考資料24(本件の審査手続において提出された平成14年1月23日付け手続補正書)を提出した。
しかしながら,本件訂正審判における法律の適用は,平成6年改正前の特許法第126条であり,「その訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず,・・・」と規定されているように,「願書に最初に添付した明細書又は図面」ではない。
仮に,現行特許法第126条が適用されたとする場合についても検討する。
訂正事項3が,現行特許法第126条第2項に規定する「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」の誤記の訂正であり,同条第1項ただし書き第2号に規定する訂正の目的を満たすとしても,特許請求の範囲の請求項15において「残基60がアスパラギン酸で置換され」という記載は,それ自体はきわめて明りょうで,明細書中の他の項の記載等を参酌しなければ理解しえない性質のものではなく,本件特許明細書からは,前記したようにアスパラギン酸とアスパラギンのどちらが正しい記載か不明であって,当業者であれば何びともその誤記であることに気づいて「アスパラギン」の趣旨に理解するのが当然であるとはいえないのであるから,実質上特許請求の範囲を変更するものであることは明白である。
したがって,現行特許法第126条第3項の規定にも適合しない。

第8 むすび
したがって,本件訂正は,いずれの訂正事項も,平成6年改正前の特許法第126条第1項又は第2項の規定に適合しないから,本件特許明細書を訂正明細書のとおり訂正する本件訂正は認められない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-29 
結審通知日 2012-03-02 
審決日 2012-03-16 
出願番号 特願平5-504475
審決分類 P 1 41・ 852- Z (C12P)
P 1 41・ 841- Z (C12P)
P 1 41・ 855- Z (C12P)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 杉江 渉
鵜飼 健
登録日 2003-08-01 
登録番号 特許第3457962号(P3457962)
発明の名称 特定Fcεレセプターのための免疫グロブリン変異体  
代理人 山崎 宏  
代理人 冨田 憲史  
代理人 山中 伸一郎  
代理人 田中 光雄  

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