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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1281122
審判番号 不服2011-18114  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-22 
確定日 2013-11-05 
事件の表示 特願2007-501141「液体シリコーンゴム組成物(LSR)」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月13日国際公開、WO2005/095503、平成19年 9月13日国内公表、特表2007-526373〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯


本願は、平成17年2月8日(パリ条約による優先権主張 2004年3月5日 ドイツ(DE))を国際出願日とする特許出願であって、平成22年4月26日付けで拒絶理由が通知され、同年7月28日に意見書とともに誤訳訂正書が提出されたが、平成23年4月18日付けで拒絶査定がなされ、同年8月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年10月24日付けで前置報告がなされ、当審で平成24年7月30日付けで審尋がなされ、平成25年2月1日に回答書が提出されたものである。


第2.本願発明


本願の請求項1?2に係る発明は、平成23年8月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「オルガノポリシロキサン及びヒドロゲンシロキサンをベースとした液体シリコーンゴム組成物(LSR)であって、
前記オルガノポリシロキサンは、一般式(I)
(R^(1))_(a)(R^(2))_(b)SiO_((4-a-b)/2) (I)
[式中、
R^(1)は、1?8個の炭素原子を有する一価の脂肪族基を表し、
R^(2)は、2?8個の炭素原子を有するアルケニル基を表し、
aは0、1、2又は3であり、
bは0、1又は2であり、
かつa+bの合計は0、1、2又は3であるが、
但し、1分子当たり平均して少なくとも2個のR^(2)基が存在するものとする]の単位からなるシロキサンからなり、
前記ヒドロゲンシロキサンは、一般式(II)
(R^(1))_(c)(H)_(d)SiO_((4-c-d)/2) (II)
[式中、
R^(1)は、1?8個の炭素原子を有する一価の脂肪族基を表し、
cは0、1、2又は3であり、
dは0、1又は2であり、
c+dの合計は0、1、2又は3であり、
但し、1分子当たり平均して少なくとも2個のSi結合水素原子が存在するものとする]の単位からなるシロキサンであり、
前記液体シリコーンゴム組成物(LSR)は、
シラン化された構造変性された疎水性熱分解シリカを充填剤として含有し、
前記シリカは、ボールミル内で構造変性されたものであるか、又は、ボールミル内で構造変性されかつ引き続く後粉砕が施されたものであり、次の物理化学的特性:
BET表面積 m^(2 )/g: 25?400
平均一次粒子サイズ nm: 5?50
pH値 : 3?10
炭素含有率% : 0.1?10
DBP値 % : <200又は測定不可能
を有する、ことを特徴とする、液体シリコーンゴム組成物(LSR)。」


第3.原査定の拒絶の理由の概要


原査定の拒絶の理由は、要するに、「本願発明は、その優先日前に日本国内において頒布された下記引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

引用文献2:特開平10-87317号公報」

というものを含むものである。
なお、以下、引用文献2を「刊行物A」という。


第4.刊行物Aの記載事項


本願の優先日前に頒布された刊行物Aには、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

A1「【特許請求の範囲】
【請求項1】 次の物理学的-化学的特性を有するシラン化ケイ酸:
比表面積(m^(2)/g) 80?400、
一次粒度(nm) 7?40、
タップ密度(g/l) 50?300、
pH 3?10、
炭素含有率(%) 0.1?15、
DBP-数(%) <200。
【請求項2】 請求項1に記載のシラン化ケイ酸の製法において、適当な混合容器中のケイ酸に、激しい混合下に、場合により、先ず水又は希酸を、引き続き、表面変性反応薬又は数種の表面変性反応薬からなる混合物を噴霧し、15?30分、後撹拌し、100?400℃の温度で、1?6時間熱処理し、引き続き、この疎水性シラン化ケイ酸を、機械的作用により破壊/圧縮し、かつミル中で後粉砕することを特徴とする、請求項1に記載のシラン化ケイ酸の製法。
【請求項3】 請求項1に記載のシラン化されたケイ酸を含有する、低い降伏価を有する低粘度ポリマー系、つや消し剤、フリーフロー剤、ケーブルゲル、液体プラスチック系及び反応樹脂中の抗沈降剤、研磨剤及び研磨物。」
A2「【0004】本発明のもう1つの目的は、低粘稠化性シラン化ケイ酸の製法であり、それは、適当な混合容器中のケイ酸に、激しい混合下に、場合により、先ず水又は希酸を、引き続き、表面変性反応薬又は数種の表面変性反応薬からなる混合物を噴霧し、15?30分、後撹拌し、100?400℃の温度で、1?6時間熱処理し、引き続き、疎水性シラン化ケイ酸を、機械的作用により(例えば、ボールミル中で)破壊/圧縮し、かつミル(例えば、エアジェットミル、ピンディスクミル)中で後粉砕することを特徴とする。」

A3「【0006】表面変性反応薬としては、例えば、ヘキサメチルジシラザンを使用することができる。」

A4「【0007】本発明のもう1つの目的は、本発明の低粘稠化性シラン化ケイ酸を、低い降伏価を有する低粘度のポリマー系、例えば、1-及び2-成分過酸化物縮合架橋性シリコーンゴム材料及び付加架橋性シリコーンゴム材料、接着剤、成形体、充填物等の製造のために使用すること、例えば、ラッカー、シート中でのつや消し剤として、フリーフロー剤(例えば、SAP、消火粉末)として、ケーブルゲル(Kabelgelen)の製造のために、液体プラスチック系及び反応樹脂(例えば、合成大理石、ポリマーコンクリート、義歯)中での抗沈降剤として、研磨剤及び/又は研磨体として使用することである。」

A5「【0011】
【実施例】Aerosil 200を、水4.3部及びHMDS(ヘキサメチルジシラザン)18.5部と混合し、かつ140℃に加熱する。引き続き、疎水性にシラン化されたケイ酸を、連続的に処理する垂直ボールミルで、約250g/lまで圧縮した。この後、このケイ酸を、エアジェットミルを用いて後粉砕する。
【0012】得られたケイ酸は、次の特性を有する:
【0013】
【表1】

【0014】
実用技術的試験
2K-RTV-シリコーンラバー(充填率20%)
レオロジー:降伏価 1.9Pa
粘度 30.9s^(-1)
機械的特性:引張強度 1.7N/mm^(2 )
伸張度 230%
引裂強さ 14.0N/mm
ショアーA硬度 34。 」


第5.刊行物Aに記載された発明


刊行物Aには、疎水性シラン化ケイ酸をボールミル中で機械的作用により破壊/圧縮することが記載(摘示A2)されており、低粘稠化性シラン化ケイ酸を低い降伏価を有する低粘度のポリマー系として、1-及び2-成分過酸化物縮合架橋性シリコーンゴム材料及び付加架橋性シリコーンゴム材料の製造のために使用することが記載(摘示A4)されていることをふまえ、摘示A1の記載を併せみると、刊行物Aには以下の発明(以下「刊行物A発明」という。)が記載されているということができる。

「次の物理学的-化学的特性を有するシラン化ケイ酸:
比表面積(m^(2)/g) 80?400、
一次粒度(nm) 7?40、
タップ密度(g/l) 50?300、
pH 3?10、
炭素含有率(%) 0.1?15、
DBP-数(%) <200。

前記シラン化ケイ酸は、適当な混合容器中のケイ酸に、激しい混合下に、場合により、先ず水又は希酸を、引き続き、表面変性反応薬又は数種の表面変性反応薬からなる混合物を噴霧し、15?30分、後撹拌し、100?400℃の温度で、1?6時間熱処理し、引き続き、この疎水性シラン化ケイ酸を、ボールミル中で破壊/圧縮し、かつミル中で後粉砕することにより製造されるものであって、

前記シラン化ケイ酸を含有する、低い降伏価を有する低粘度ポリマー系としての1-及び2-成分過酸化物縮合架橋性シリコーンゴム材料及び付加架橋性シリコーンゴム材料。」


第6.対比・判断


1.本願発明について
本願発明と刊行物A発明とを比較する。

刊行物A発明における「シラン化ケイ酸」は、「疎水性シラン化ケイ酸を、ボールミル中で破壊/圧縮し、かつミル中で後粉砕して製造」されたものであることから、本願発明における「シラン化された構造変性された疎水性熱分解シリカ」であって、「前記シリカは、ボールミル内で構造変性されたものであるか、又は、ボールミル内で構造変性されかつ引き続く後粉砕が施されたもの」に相当する。
そして、刊行物A発明における「シラン化ケイ酸」の「比表面積」「一次粒度」「pH」「炭素含有率」「DBP-数」は、それぞれ、本願発明における「シリカ」の「BET表面積」「平均一次粒子サイズ」「pH値」「炭素含有率%」「DBP値%」に相当し、それらの値も重複一致する。

また、刊行物A発明における「シリコーンゴム材料」は、本願発明における「シリコーンゴム組成物」に相当する。

以上をまとめると、本願発明と刊行物A発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
シリコーンゴム組成物であって、
シラン化された構造変性された疎水性熱分解シリカを充填剤として含有し、
前記シリカは、ボールミル内で構造変性されたものであるか、又は、ボールミル内で構造変性されかつ引き続く後粉砕が施されたものであり、次の物理化学的特性:
BET表面積 m^(2 )/g: 25?400
平均一次粒子サイズ nm: 5?50
pH値 : 3?10
炭素含有率% : 0.1?10
DBP値 % : <200又は測定不可能
を有する、ことを特徴とする、シリコーンゴム組成物。

〔相違点〕
本願発明において、シリコーンゴムを「
オルガノポリシロキサン及びヒドロゲンシロキサンをベースとし、
前記オルガノポリシロキサンは、一般式(I)
(R^(1))_(a)(R^(2))_(b)SiO_((4-a-b)/2) (I)
[式中、
R^(1)は、1?8個の炭素原子を有する一価の脂肪族基を表し、
R^(2)は、2?8個の炭素原子を有するアルケニル基を表し、
aは0、1、2又は3であり、
bは0、1又は2であり、
かつa+bの合計は0、1、2又は3であるが、
但し、1分子当たり平均して少なくとも2個のR^(2)基が存在するものとする]の単位からなるシロキサンからなり、
前記ヒドロゲンシロキサンは、一般式(II)
(R^(1))_(c)(H)_(d)SiO_((4-c-d)/2) (II)
[式中、
R^(1)は、1?8個の炭素原子を有する一価の脂肪族基を表し、
cは0、1、2又は3であり、
dは0、1又は2であり、
c+dの合計は0、1、2又は3であり、
但し、1分子当たり平均して少なくとも2個のSi結合水素原子が存在するものとする]の単位からなるシロキサンであ」ることを特定しているのに対し、刊行物A発明においては、「1-及び2-成分過酸化物縮合架橋性シリコーンゴム及び付加架橋性シリコーンゴム」とされている点。

2.相違点について
刊行物A発明では、シリコーンゴムとして、「1-及び2-成分過酸化物縮合架橋性シリコーンゴム及び付加架橋性シリコーンゴム」と規定されているところ、その具体的な態様として実施例では、「2K-RTV-シリコーンラバー」が包含されることが記載(摘示A5)されている。ここで、一般に、シリコーンゴムは、加硫機構(加熱加硫、室温硬化)、形態(一成分系、二成分系)、硬化機構(縮合硬化系、付加硬化系)により、以下の表9.1のとおり分類されることは、当該技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)において周知の事項である(伊藤邦雄編「シリコーンハンドブック」(以下、「参考資料1」という。)276-277頁を参照のこと。)。



そして、刊行物Aの実施例において記載されている「2K-RTV-シリコーンラバー」における「2K-RTV」が上記した参考資料1の表9.1における「室温硬化」型の「液状ゴム」に分類されている「二液型RTV」を意味するものと認められることから、刊行物A発明における「付加架橋性シリコーンゴム」は、参考資料1に記載の「室温硬化」型の「液状ゴム」における「二液型RTV」に分類される「付加反応架橋」型のシリコーンゴムに相当するものである。そうすると、刊行物A発明におけるシリコーンゴムは、「2成分型液状付加架橋性シリコーンゴム」に相当するものといえる。
そして、付加型液状シリコーンゴムは、主成分としてビニル基含有オルガノポリシロキサン、架橋剤としてハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなることも、当業者において周知の事項であるし、さらに、付加型液状シリコーンゴムの構成成分として、「ビニル基含有オルガノポリシロキサン」は、通常両末端及び側鎖にビニル基を有すること、「ハイドロジェンオルガノポリシロキサン」は、通常1分子中に3個以上のSiH基を有するものであることも、当業者において周知の事項である(例えば、参考資料1の385?386頁10.2.2を参照のこと。)
「表10.27に付加型液状シリコーンゴムの構成成分の概要を示した。

・・・



2)の成分であるハイドロジェンポリシロキサンは、分子中にSiH結合を有する比較的低分子量のポリマーであり、通常は1分子中に3個以上のSiHを有するものが使用される。」
そうすると、刊行物A発明における「付加架橋性シリコーンゴム」は、本願発明における「
オルガノポリシロキサン及びヒドロゲンシロキサンをベースとした液体シリコーンゴム組成物(LSR)であって、
前記オルガノポリシロキサンは、一般式(I)
(R^(1))_(a)(R^(2))_(b)SiO_((4-a-b)/2) (I)
[式中、
R^(1)は、1?8個の炭素原子を有する一価の脂肪族基を表し、
R^(2)は、2?8個の炭素原子を有するアルケニル基を表し、
aは0、1、2又は3であり、
bは0、1又は2であり、
かつa+bの合計は0、1、2又は3であるが、
但し、1分子当たり平均して少なくとも2個のR^(2)基が存在するものとする]の単位からなるシロキサンからなり、
前記ヒドロゲンシロキサンは、一般式(II)
(R^(1))_(c)(H)_(d)SiO_((4-c-d)/2) (II)
[式中、
R^(1)は、1?8個の炭素原子を有する一価の脂肪族基を表し、
cは0、1、2又は3であり、
dは0、1又は2であり、
c+dの合計は0、1、2又は3であり、
但し、1分子当たり平均して少なくとも2個のSi結合水素原子が存在するものとする]の単位からなるシロキサンである」なる事項を備えているといえ、この点は、実質的な相違点ではない。

よって、本願発明と刊行物A発明との間に差異はない。


第7.請求人の主張について


請求人は、平成25年2月1日付け回答書において補正案を提示しており、該補正案において、シリカが有するべき官能基、すなわち表面処理剤の種類をさらに限定し、刊行物Aは、実施例において、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を用いることによって得られたシリカを含む2K-RTV-シリコーンラバーを開示するにとどまり、用いられた変性剤によって、すなわち、表面処理剤による官能基によって、得られるシリカ及び当該シリカを含むシリコーンゴムの物性が異なると主張している。
しかし、刊行物Aには、表面変性反応薬によりシリカを表面処理する旨の記載(摘示A3)があり、「例えば、ヘキサメチルジシラザンを使用することができる」と記載されているとおり、当該表面処理剤として「ヘキサメチルジシラザン」のみに限定されているわけではない。そして、シリカの表面処理をすることは当該技術分野において通常行うことであるし、シリカの表面処理剤として、シリカの表面処理によりメチルシリル基が表面に固定されるヘキサメチルジシラザンやメチルトリメトキシシラン等とビニル基が表面に固定されるビニル基含有アルコキシシランとを併用することも周知技術であると認められる(例えば、特開平9-208824号公報(特許請求の範囲、【0028】、実施例)、特開2002-327110号公報(特許請求の範囲、【0019】、実施例)、特開2000-212442号公報(特許請求の範囲、実施例)、特開平10-140014号公報(特許請求の範囲、【0046】)を参照のこと。)。そうすると、刊行物Aにおける表面変性反応薬として、ヘキサメチルジシラザンとビニル基含有アルコキシシランとを併用することに特段の困難性は見あたらないし、それによる効果も格別であるとはいえないから、上記補正案において、シリカが有するべき官能基を更に特定したとしても、当該補正案に係る発明は刊行物Aに記載された発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


第8.まとめ


以上のとおり、本願発明は、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとする原査定の理由は妥当なものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-03 
結審通知日 2013-06-10 
審決日 2013-06-21 
出願番号 特願2007-501141(P2007-501141)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉備永 秀彦  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 大島 祥吾
加賀 直人
発明の名称 液体シリコーンゴム組成物(LSR)  
代理人 篠 良一  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  
代理人 高橋 佳大  
代理人 星 公弘  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  

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