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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1281173
審判番号 不服2013-2338  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-06 
確定日 2013-11-07 
事件の表示 特願2009-243571「火花点火式内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月 6日出願公開、特開2011- 89472〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本件出願は、平成21年10月22日の出願であって、平成23年7月1日付けの拒絶理由通知に対して、同年9月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成24年2月16日付けの最後の拒絶理由通知に対して、同年4月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月23日付けで平成24年4月23日付けの手続補正書による手続補正を却下する補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで平成23年9月5日付けの手続補正書により補正された本件出願について平成24年2月16日付けの最後の拒絶理由通知による理由により拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年2月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで手続補正書が提出されて明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において同年5月9日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、同年7月11日付けで回答書が提出されたものである。


【2】平成25年2月6日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成25年2月6日付けの手続補正を却下する。


[理 由]
1.本件補正の内容
平成25年2月6日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年9月5日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記の(b)に示す請求項1ないし4を、下記の(a)に示す請求項1ないし4へと補正するものである。

(a)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
シリンダと当該シリンダ内を往復移動するピストンと前記シリンダ上に設けられて前記ピストンの上面との間で燃焼室を形成するシリンダヘッドとを備えるエンジン本体と、前記シリンダヘッドに設けられて前記シリンダ内への空気の流入をそれぞれ遮断可能な2つの吸気弁と、前記シリンダヘッドに設けられて前記シリンダからの排気の流出をそれぞれ遮断可能な2つの排気弁と、前記シリンダヘッドに設けられて前記燃焼室に臨む点火プラグと、前記シリンダヘッドに設けられて前記燃焼室に臨む燃料噴射弁とを有する火花点火式内燃機関であって、
前記エンジン本体の幾何学的圧縮比は14以上に設定されており、
前記吸気弁と排気弁とは、少なくともエンジン本体の回転数が低く負荷が高いためにノッキングが懸念される運転領域において、その開弁期間が上死点を挟んで互いにオーバーラップするように、かつ、前記運転領域の少なくとも一部の運転条件においてこのオーバーラップ期間が35°CA以上となるように開弁され、
上死点にある前記ピストンの上面と閉弁状態にある前記吸気弁の下面との離間距離および上死点にある前記ピストンの上面と閉弁状態にある前記排気弁の下面との離間距離は、それぞれ5mm以上に設定されており、
前記ピストンのストロークS(mm)は、81.2mm以上の長さに設定され、かつ、前記シリンダのボア径をB(mm)としてS≦0.977×B+18.2mmとなる長さに設定されていることを特徴とする火花点火式内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の火花点火式内燃機関において、
前記ピストンのストロークS(mm)は、前記シリンダのボア径をB(mm)としてS≦0.977×B+15.1mmとなる長さに設定されていることを特徴とする火花点火式内燃機関。
【請求項3】
請求項1または2に記載の火花点火式内燃機関において、
前記ピストンのストロークSが、84.75mm以上の長さに設定されていることを特徴とする火花点火式内燃機関。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の火花点火式内燃機関において、
前記燃焼室の天井部は吸気側及び排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしており、前記ピストンの上面に吸気側及び排気側からそれぞれ中央寄りに向かい隆起する隆起部が形成され、前記隆起部の中央に凹部が形成されていることを特徴とする火花点火式内燃機関。」(下線部は審判請求人が補正箇所を示したものである。)

(b)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
シリンダと当該シリンダ内を往復移動するピストンと前記シリンダ上に設けられて前記ピストンの上面との間で燃焼室を形成するシリンダヘッドとを備えるエンジン本体と、前記シリンダヘッドに設けられて前記シリンダ内への空気の流入をそれぞれ遮断可能な2つの吸気弁と、前記シリンダヘッドに設けられて前記シリンダからの排気の流出をそれぞれ遮断可能な2つの排気弁と、前記シリンダヘッドに設けられて前記燃焼室に臨む点火プラグと、前記シリンダヘッドに設けられて前記燃焼室に臨む燃料噴射弁とを有する火花点火式内燃機関であって、
前記エンジン本体の幾何学的圧縮比は14以上に設定されており、
前記吸気弁と排気弁とは、少なくともエンジン本体の回転数が低く負荷の高い運転領域において、その開弁期間が上死点を挟んで互いにオーバーラップするように、かつ、前記運転領域の少なくとも一部の運転条件においてこのオーバーラップ期間が35度以上となるように開弁され、
上死点にある前記ピストンの上面と閉弁状態にある前記吸気弁の下面との離間距離および上死点にある前記ピストンの上面と閉弁状態にある前記排気弁の下面との離間距離は、それぞれ5mm以上に設定されており、
前記ピストンのストロークS(mm)は、前記シリンダのボア径をB(mm)として
S≦0.977×B+18.2
となる長さに設定されていることを特徴とする火花点火式内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の火花点火式内燃機関において、
前記ピストンのストロークS(mm)は、前記シリンダのボア径をB(mm)として
S≦0.977×B+15.1
となる長さに設定されていることを特徴とする火花点火式内燃機関。
【請求項3】
請求項1または2に記載の火花点火式内燃機関において、
前記ピストンのストロークSが、81.2mm以上の長さに設定されていることを特徴とする火花点火式内燃機関。
【請求項4】
請求項1または2に記載の火花点火式内燃機関において、
前記ピストンのストロークSが、84.75mm以上の長さに設定されていることを特徴とする火花点火式内燃機関。」


2.本件補正の適否について
2-1.目的要件違反
(1)本件補正の目的が、特許法第17条の2第5項第1号ないし第4号の掲げる事項に該当するか否かについて、以下に検討する。

(2)本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項3を独立請求項とし、その際、本件補正前の「回転数が低く負荷の高い運転領域」を本件補正後の「回転数が低く負荷が高いためにノッキングが懸念される運転領域」と限定し、本件補正前の「35度以上」を本件補正後の「35°CA以上」とクランク角の角度である旨を明確化して本件補正後の請求項1とし、これに伴い、本件補正前の請求項3を削除し、本件補正前の請求項4を繰り上げて本件補正後の請求項3とし、そして、本件補正後の請求項4を新たに加えたものである。

(3)そうすると、本件補正後の請求項4に関し、本件補正は、その補正の前後において、一対一の対応関係を維持しつつ、その対応関係にある何れか一つの本件補正前の請求項の発明特定事項を限定的に減縮する補正であるということができず、実質的に請求項数自体を明らかに増加させる増項補正となっており、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められない。また、本件補正は、誤記の訂正あるいは明りようでない記載の釈明を目的とするものでもないので、特許法第17条の2第5項各号のいずれの規定にも該当しない。

2-2.独立特許要件違反
本件補正は、上記2-1.に指摘したように特許請求の範囲の減縮を目的としたものではなく、さらに、請求項の削除、誤記の訂正あるいは明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないが、さらに、上記2-1.(2)に指摘したように、本件補正は、本件補正後の請求項1に関しては、本件補正前の「回転数が低く負荷の高い運転領域」を本件補正後の「回転数が低く負荷が高いためにノッキングが懸念される運転領域」と限定することを含むものであるから、請求項1に関する本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、単に「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。


2-2-1.引用文献記載の発明
(1)原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2009-162153号公報(平成21年7月23日公開。)(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
幾何学的圧縮比が13.0以上であって、火花点火式のレシプロエンジンにおいて、
ピストンが上死点にある場合の燃焼室の容積をV1(mm^(3))、点火プラグの点火点を中心とする半径rの仮想球体のうち、前記ピストンが上死点にある場合において前記燃焼室を画定する燃焼室内壁と干渉しない非干渉部分の容積をV2(mm^(3))、前記ピストンが上死点にある場合において前記仮想球体が前記燃焼室内壁と干渉する干渉面の面積をS(mm2)、とした場合であって、
前記半径rを、
V2=0.15×V1
となるように設定した場合に、
S/V2≦0.12(mm^(-1))
となるように前記燃焼室が形成されたことを特徴とするレシプロエンジン。
・・・(中略)・・・
【請求項3】
前記ピストンの上面に凹部を設けたことを特徴とする請求項2に記載のレシプロエンジン。
【請求項4】
前記ピストンの中心軸と直交する方向に、吸気弁、前記点火プラグ及び排気弁が順に設けられ、
前記ピストンの上面は、前記吸気弁側及び前記排気弁側からその中央に向かって隆起していることを特徴とする請求項3に記載のレシプロエンジン。
【請求項5】
前記凹部を前記点火点の下方に設けたことを特徴とする請求項3又は4に記載のレシプロエンジン。
・・・(中略)・・・
【請求項7】
幾何学的圧縮比が14.0以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のレシプロエンジン。
・・・(後略)・・・」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項8】)

(イ)「【0001】
本発明はレシプロエンジンに関し、幾何学的圧縮比が13.0以上のレシプロエンジンに関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0002】
レシプロエンジンにおいては、燃焼室形状により火炎伝播性を向上する技術が提案されている。例えば、特許文献1にはシリンダヘッド上面に球状の窪みを形成することで火炎伝播の均一化を図り、燃焼効率を向上しようとしたものが提案されている。
【0003】
一方、燃費向上の方法として、幾何学的圧縮比を高く設定することで熱効率を向上することが提案されている。しかし、単に幾何学的圧縮比を高く設定しただけでは燃費が向上しない場合があり、また、ノッキングが発生し易くなる場合があるという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2007-154827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題の原因の1つは火炎伝播性にあるものと考えられる。すなわち、排気量が同じであれば幾何学的圧縮比を高く設定すればするほど燃焼室の容積は小さくなり、その結果、火炎がピストン上面等の燃焼室内壁に早期に干渉し、その冷却損失により熱効率が下がったり、異常燃焼が発生するものと考えられる。火炎伝播性の向上のために、特許文献1に記載されるようにシリンダヘッド上面に窪みを設けることも考えられるが、単に窪みを設ければ幾何学的圧縮比が低下し、燃費向上が不十分となる。
【0006】
従って、本発明の目的は、より確実に燃費向上が図れるレシプロエンジンを提供することにある。」(段落【0002】ないし【0006】)

(エ)「【0011】
また、本発明においては、前記ピストンの中心軸と直交する方向に、吸気弁、前記点火プラグ及び排気弁が順に設けられ、前記ピストンの上面は、前記吸気弁側及び前記排気弁側からその中央に向かって隆起していてもよい。この構成によれば、幾何学的圧縮比をより高く設定し易くなる。」(段落【0011】)

(オ)「【0014】
また、本発明においては、幾何学的圧縮比が14.0以上であってもよく、また、14.5以上であってもよい。幾何学的圧縮比を高めることで更に燃費向上を更に図れる。」(段落【0014】)

(カ)「【0016】
図1(a)は本発明の一実施形態に係るレシプロエンジンAの燃焼室4近傍の構成を示す図、(b)はピストン30の斜視図である。エンジンAは4サイクルの直列多気筒ガソリンエンジンを想定したものであるが、他の形式のレシプロエンジンにも本発明は適用可能である。図中、Zはピストン30の往復直線運動方向を、Yは気筒列方向を、Xは気筒列方向と直交する方向を示し、これらは互いに直交する。CLはピストン30の中心軸線を示し、Z方向と同方向である。
【0017】
エンジンAは、シリンダヘッド10を備える。シリンダヘッド10は1気筒あたり2つの吸気ポート11及び排気ポート12を有しており、吸気ポート11には吸気弁1が、排気ポート12には排気弁2がそれぞれ設けられており、シリンダヘッド10に設けた不図示の動弁機構の作用によりこれらを開閉する。また、シリンダヘッド10は、燃焼室4を形成する部位においてZ方向に窪んでおり、その窪みの中央付近に点火プラグ3を有している。点火プラグ3は燃焼室4内の混合気に火花点火してその燃焼を開始させる。本実施形態では、ピストン30の中心軸CLと直交する方向(X方向)に、吸気弁1、点火プラグ3及び排気弁2が順に設けられている。
【0018】
シリンダヘッド10には、また、燃料を燃焼室4内に噴射するインジェクタ5が設けられている。本実施形態ではいわゆる直噴方式を想定しているが、本発明はポート噴射方式のレシプロエンジンにも適用できる。
【0019】
エンジンAは、シリンダブロック20を備える。シリンダブロック20のシリンダ内にはピストン30が配置され、燃焼室4内の混合気の燃焼によりZ方向に往復直線運動を行う。ピストン30の往復直線運動は不図示のクランク軸の回転運動に変換されることになる。
【0020】
ピストン30の上面31はZ方向に隆起した隆起部32を有する。隆起部32を設けることでレシプロエンジンAの幾何学的圧縮比をピストン30の形状によって、より高く設定することができる。ここで、本実施形態では、上記の通り、シリンダヘッド10が燃焼室4を形成する部位においてZ方向に窪んでおり、吸気弁1側及び排気弁2側から燃焼室4の中央に向かって窪むようにしている。そこで、隆起部32を吸気弁1側及び排気弁2側からその中央に向かって隆起した形状としている。このように隆起部32を形成することで、燃焼室4のZ方向の厚さを、より均一とすることができ、火炎伝播性が大きく悪化することを防止できる。
【0021】
ピストン30の上面31は、また、凹部33を有している。凹部33を設けたことで、ピストン30の運動方向であるZ方向で下方向への火炎伝播を促進でき、エンジンの熱効率向上を図れる。本実施形態の場合、凹部33は点火プラグ3による火花点火の点火点(点火プラグ3の先端の電極間の中央。図2の点CP。)の下方に設けられている。このようなピストン30の上面31の形状により、火炎伝播性を更に向上でき、エンジンAの熱効率向上を図れる。本実施形態では、凹部33はお椀型に形成されているが凹部33の形状は問われない。
【0022】
本実施形態では幾何学的圧縮比を13.0以上に設定する。幾何学的圧縮比を高く設定することで熱効率を向上し、燃費向上を図れる。ここで、幾何学的圧縮比とは、周知の通り、ピストン30が上死点にあるときの燃焼室の容積をV1、排気量(行程容積)をV0とすると、(V0+V1)/V1で示される。
【0023】
容積V1は、いわゆる隙間容積であり、ピストン30上死点にあるときに、燃焼室4に面するシリンダヘッド10の内壁及びシリンダヘッド10に取り付けられた部品(吸気弁1及び排気弁2(閉弁時)、点火プラグ3、インジェクタ5)の表面、シリンダブロック20のシリンダ内壁、ピストン30の表面、シリンダヘッド10とシリンダブロック20との隙間により画定される燃焼室4の容積であり、本実施形態ではその単位はmm^(3)とする。また、このような燃焼室4を画定する部分を総称して燃焼室内壁という。
【0024】
幾何学的圧縮比を高く設定することで熱効率が向上し、燃費向上が図れるはずであるが、単に幾何学的圧縮比を高く設定するだけでは燃費が向上しない。これは、幾何学的圧縮比を高く設定すると、同じ排気量であれば容積V1は相対的に小さくなり、火炎が早期に燃焼室内壁と干渉し易くなり、火炎伝播が悪化すると考えられる。そこで、燃費向上と火炎伝播性との因果関係が分かれば、効率のよいエンジン設計が実現される。」(段落【0016】ないし【0024】)

(キ)「【0029】
当該実験においては、ボア:87.5mm、ストローク:83.1mmのレシプロエンジンについて、形状が異なる複数種類のピストンを作成し、付け替えてそれぞれの燃費を同1条件で計測した。図4(a)は、実験に用いた一部のピストンの、容積V2/容積V1と、干渉面積S/容積V2と、の演算結果を示す図であり、仮想球体ISの半径rを複数種類設定することにより得たものである。」(段落【0029】)

(ク)「【0031】
線L0は、図5(a)に示すように上面が略平坦なピストンに関する演算結果であり、幾何学的圧縮比は11.2である。線L1は図5(a)に示すように上面が略平坦なピストンに関する演算結果であり、幾何学的圧縮比は15.0である。線L0と比較すると、火炎伝播の初期に火炎と燃焼室内壁との干渉が始まっていることになる。
【0032】
線L31?線L34は、図1(b)に示したような、上面にお椀型の凹部を設けたピストンに関する演算結果であり、これらは凹部の大きさや、凹部以外のピストン上面の形状を変えたものである。幾何学的圧縮比は14.0?15.0の範囲内である。これらのピストンを用いた場合には、線L1で示したピストンに比べると、火炎伝播に伴う火炎と燃焼室内壁との干渉度合いが緩やかとなる。そして、凹部を設けたことにより、容積V2/容積V1の値が10%?20%の範囲で、干渉面積S/容積V2の値が小さい。
【0033】
線L4は、図5(b)に示すように、上面に隆起部32’及び角型の凹部33’を設けたピストンに関する演算結果である。幾何学的圧縮比は14.0?15.0の範囲内である。線L1で示したピストンに比べると、火炎伝播に伴う火炎と燃焼室内壁との干渉度合いが緩やかとなる。しかし、線L31?線L34のピストンと比べると、凹部を設けたことによる干渉面積S/容積V2の値の影響は少ない。これは、火炎と凹部内壁との干渉が線L31?線L34のピストンよりも早く生じることを意味する。」(段落【0031】ないし【0033】)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(ク)及び図面の記載からみて、次のことがわかる。

(ケ)上記(1)の(カ)及び図1の記載からみて、レシプロエンジンAは4サイクルの直列多気筒ガソリンエンジンを想定したものであり、当該レシプロエンジンAは、シリンダと当該シリンダ内を往復移動するピストン30と前記シリンダ上に設けられて前記ピストン30の上面31との間で燃焼室4を形成するシリンダヘッド10とを備えるレシプロエンジンAの部分(以下、「レシプロエンジンA」という。)を有していることが分かる。
また、「シリンダヘッド10は1気筒あたり2つの吸気ポート11及び排気ポート12を有しており、吸気ポート11には吸気弁1が、排気ポート12には排気弁2がそれぞれ設けられて」(上記(1)(カ)【0017】参照。)いることから、1気筒あたり2つの吸気弁1及び2つの排気弁2があることは明らかであることから、レシプロエンジンAは、さらに、シリンダヘッド10に設けられてシリンダ内への空気の流入をそれぞれ遮断可能な2つの吸気弁1と、前記シリンダヘッド10に設けられて前記シリンダからの排気の流出をそれぞれ遮断可能な2つの排気弁2と、前記シリンダヘッド10に設けられて前記燃焼室4に臨む点火プラグ3と、前記シリンダヘッド10に設けられて前記燃焼室4に臨むインジェクタ5とを有するものといえる。

(コ)上記(1)の(ア)、(オ)、(カ)、(ク)及び上記(ケ)並びに図1の記載からみて、レシプロエンジンAの「レシプロエンジンA本体部分」の幾何学的圧縮比は14以上に設定されていることが分かる。

(サ)上記(1)の(カ)ないし(ク)及び図1の記載からみて、レシプロエンジンAにおいて、上死点にあるピストン30の上面31と閉弁状態にある吸気弁1の下面との離間距離および上死点にある前記ピストン30の上面31と閉弁状態にある排気弁2の下面との離間距離は、技術常識に照らせば、それぞれ所定長さに設定されていることは明らかである。

(シ)上記(1)の(キ)及び図1の記載からみて、レシプロエンジンAにおいて、ピストン30のストロークは、83.1mmの長さに設定され、ボア径は87.5mmに設定されていることが分かる。

(3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「シリンダと当該シリンダ内を往復移動するピストン30と前記シリンダ上に設けられて前記ピストン30の上面31との間で燃焼室4を形成するシリンダヘッド10とを備えるレシプロエンジンA本体部分と、前記シリンダヘッド10に設けられて前記シリンダ内への空気の流入をそれぞれ遮断可能な2つの吸気弁1と、前記シリンダヘッド10に設けられて前記シリンダからの排気の流出をそれぞれ遮断可能な2つの排気弁2と、前記シリンダヘッド10に設けられて前記燃焼室4に臨む点火プラグ3と、前記シリンダヘッド10に設けられて前記燃焼室4に臨むインジェクタ5とを有する4サイクルの直列多気筒ガソリンエンジンとしてのレシプロエンジンAであって、
前記レシプロエンジンA本体部分の幾何学的圧縮比は14以上に設定されており、
上死点にある前記ピストン30の上面31と閉弁状態にある前記吸気弁1の下面との離間距離および上死点にある前記ピストン30の上面31と閉弁状態にある前記排気弁2の下面との離間距離は、それぞれ所定長さに設定されており、
前記ピストン30のストロークは、83.1mmの長さに設定され、ボア径は87.5mmに設定されている4サイクルの直列多気筒ガソリンエンジンとしてのレシプロエンジンA。」


2-2-2.対比
本件補正発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「ピストン30」は、その機能、形状、構造又は技術的意義からみて、本件補正発明における「ピストン」に相当し、以下同様に、「ピストン30の上面31」は「ピストンの上面」に、「燃焼室4」は「燃焼室」に、「シリンダヘッド10」は「シリンダヘッド」に、「レシプロエンジンA本体部分」は「エンジン本体」に、「吸気弁1」は「吸気弁」に、「排気弁2」は「排気弁」に、「点火プラグ3」は「点火プラグ」に、「インジェクタ5」は「燃料噴射弁」に、「4サイクルの直列多気筒ガソリンエンジンとしてのレシプロエンジンA」は「火花点火式内燃機関」に、それぞれ相当する。
また、ピストンのストロークについて、引用文献記載の発明における「83.1mmの長さに設定され、ボア径は87.5mmに設定されている」は、83.1mmは81.2mm以上の値であり、かつ、S=83.1mm、B=87.5mmとして不等式「S≦0.977×B+18.2mm」に代入すると、83.1mm≦0.977×87.5mm+18.2mm=103.7mmとなり、当該不等式が成立するので、本件補正発明における「81.2mm以上の長さに設定され、かつ、前記シリンダのボア径をB(mm)としてS≦0.977×B+18.2mmとなる長さに設定されている」に包含される。
さらに、両離間距離のそれぞれについて、引用文献記載の発明における「所定長さ」は、「所定長さ」という限りにおいて、本件補正発明における「5mm以上」に相当する。

したがって、本件補正発明と引用文献記載の発明は、次の一致点及び相違点を有するものである。

<一致点>
「シリンダと当該シリンダ内を往復移動するピストンと前記シリンダ上に設けられて前記ピストンの上面との間で燃焼室を形成するシリンダヘッドとを備えるエンジン本体と、前記シリンダヘッドに設けられて前記シリンダ内への空気の流入をそれぞれ遮断可能な2つの吸気弁と、前記シリンダヘッドに設けられて前記シリンダからの排気の流出をそれぞれ遮断可能な2つの排気弁と、前記シリンダヘッドに設けられて前記燃焼室に臨む点火プラグと、前記シリンダヘッドに設けられて前記燃焼室に臨む燃料噴射弁とを有する火花点火式内燃機関であって、
前記エンジン本体の幾何学的圧縮比は14以上に設定されており、
上死点にある前記ピストンの上面と閉弁状態にある前記吸気弁の下面との離間距離および上死点にある前記ピストンの上面と閉弁状態にある前記排気弁の下面との離間距離は、それぞれ所定長さに設定されており、
前記ピストンのストロークは、83.1mmの長さに設定され、ボア径は87.5mmに設定されている火花点火式内燃機関。」

<相違点>
(1)相違点1
吸気弁と排気弁とのオーバーラップ(バルブオーバーラップ)に関し、
本件補正発明においては、「吸気弁と排気弁とは、少なくともエンジン本体の回転数が低く負荷が高いためにノッキングが懸念される運転領域において、その開弁期間が上死点を挟んで互いにオーバーラップするように、かつ、前記運転領域の少なくとも一部の運転条件においてこのオーバーラップ期間が35°CA以上となるように開弁され」ているのに対し、
引用文献記載の発明においては、このようなオーバーラップがあるのか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

(2)相違点2
上死点にあるピストンの上面と閉弁状態にある吸気弁の下面との離間距離および上死点にある前記ピストンピストンの上面と閉弁状態にある排気弁の下面とのそれぞれの離間距離に関し、
本件補正発明においては、「5mm以上」であるのに対し、引用文献記載の発明においては、「所定長さ」である点(以下、「相違点2」という。)。


2-2-3.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
(ア)火花点火式内燃機関において、ノッキングを回避するために、吸気弁と排気弁とを、エンジン本体の回転数が低く負荷が高いためにノッキングが懸念される運転領域において、その開弁期間が上死点を挟んで互いにオーバーラップするように調整することは、従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、原査定の拒絶の理由で例示された特開2002-285876号公報の特に、段落【0012】ないし【0015】及び図8、特開2007-9768号公報の特に、段落【0003】、【0020】及び【0045】並びに図5、特開平11-324775号公報の特に、段落【0003】、特開平7-279712号公報の特に、段落【0010】及び【0017】ないし【0019】並びに図3参照。)である。そして、このオーバーラップするように調整する際に、具体的なオーバーラップ期間の数値を設定することは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜なし得る設計上の事項にすぎないものである。

(イ)また、火花点火式内燃機関において、ノッキングを回避しようとすることは、従来からの普遍的な課題であり、特に、低回転高負荷時にノッキングし易いことも技術常識(必要があれば、例えば、特開平4-262035号公報の特に、段落【0012】、特開2009-174344号公報(平成21年8月6日公開。)の特に、段落【0004】参照。)である。

(ウ)そうすると、引用文献記載の発明において、上記遍的な課題や上記技術常識を鑑みれば、ノッキングを回避するために、上記周知技術1を採用し、その際、オーバーラップ期間の数値を適宜設定して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

(2)相違点2について
(ア)内燃機関において、吸気弁と排気弁とのオーバーラップを確保するために、上死点にあるピストンの上面と閉弁状態にある吸気弁の下面との離間距離および上死点にある前記ピストンピストンの上面と閉弁状態にある排気弁の下面との離間距離を設定することは、従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開昭61-85516号公報の特に、第1ページ右下欄第2行ないし第2ページ左上欄第8行、特開2003-214297号公報の特に、段落【0020】及び【0036】参照。)である。これらの離間距離を設定する際、具体的な離間距離の数値を設定することは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜なし得る設計上の事項にすぎないものである。

(イ)そうすると、引用文献記載の発明において、上記周知技術2を参酌して、上死点にあるピストンの上面と閉弁状態にある吸気弁の下面との離間距離および上死点にある前記ピストンピストンの上面と閉弁状態にある排気弁の下面とのそれぞれの離間距離を適宜設定し、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

また、本件補正発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。


2-2-4.まとめ
したがって、本件補正発明は、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に想到し得る程度のことであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3.むすび
したがって、上記2.の2-1.に記載したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、また、上記2.の2-2.に記載したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。


【3】本件発明について
1.本件発明の内容
平成25年2月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、平成23年9月5日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、単に「本件発明」という。)は、前記【2】の[理 由]の1.(b)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。


2.引用文献記載の発明
原査定の拒絶理由に引用された引用文献(特開2009-162153号公報(平成21年7月23日公開。))の記載事項及び引用文献記載の発明は、前記【2】の[理 由]の2.の2-2.の2-2-1.の(1)ないし(3)に記載したとおりである。


3.対比・判断
本件発明は、本件補正発明の「回転数が低く負荷が高いためにノッキングが懸念される運転領域」を「回転数が低く負荷の高い運転領域」と「ノッキングが懸念される」旨の事項を省き、本件補正発明の「35°CA以上」を「35度以上」とし、本件補正発明の「ピストンのストロークS(mm)は、81.2mm以上の長さに設定され、かつ、」の下限範囲である「81.2mm以上の長さに設定され、かつ、」を省いたものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含んでいる本件補正発明が、前記【2】の[理 由]の2.の2-2.の2-2-1.ないし2-2-4.に記載したとおり、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。


4.むすび
以上のとおり、本件発明は、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-04 
結審通知日 2013-09-10 
審決日 2013-09-24 
出願番号 特願2009-243571(P2009-243571)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
P 1 8・ 57- Z (F02B)
P 1 8・ 575- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 林 茂樹
柳田 利夫
発明の名称 火花点火式内燃機関  
代理人 佐藤 興  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 小谷 悦司  
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