• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21D
管理番号 1281182
審判番号 不服2013-6255  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-05 
確定日 2013-11-07 
事件の表示 特願2008-299816「高強度アルミニウム合金板の温間プレス成形方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 9日出願公開、特開2009-148822〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯・本願発明

本願は、平成20年11月25日(優先権主張平成19年11月27日)の出願であって、平成24年8月22日付けで拒絶の理由が通知され、平成24年10月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年12月26日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し、平成25年4月5日付けで本件審判の請求がされた。
当審から、平成25年5月27日付けで拒絶の理由が通知され、平成25年7月29日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記平成25年7月29日付け手続補正書により補正された、本願特許請求の範囲、【請求項1】に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
溶体化処理後、更に、180?300℃で0.5?10時間保持する熱処理を施した6000系アルミニウム合金板を、フランジ部分の温度が170℃以上300℃以下であるダイスと、該ダイスのフランジ部分よりも低温であるポンチを用いて成形することを特徴とする高強度アルミニウム合金板の温間プレス成形方法。」

第2 引用例

これに対して、当審で通知した上記平成25年5月27日付け拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-205244号公報(以下、「刊行物1」という。)には以下の点記載されている。

1 刊行物1

刊行物1には、【図1】とともに以下の点記載されている。

ア 段落【0001】

「【0001】
本発明は、Al-Mg-Si系アルミニウム合金板を温間成形してなる、例えば自動車外板(ボディーシート)等の温間成形加工品及びその製造方法に関する。」

イ 段落【0009】、【0010】

「【0009】
第1の発明は、パンチ、ダイス、及びしわ押さえを具備する成形装置を用いて、Al-Mg-Si系アルミニウム合金板よりなる素材板を温間成形して温間成形加工品を製造する方法において、
上記素材板としては、Siを0.5?2.0mass%、Mgを0.2?1.5mass%含有し、かつT4処理されたAl-Mg-Si系アルミニウム合金板を採用し、
上記素材板の端部を上記成形装置の上記ダイスと上記しわ押さえとで挟持する保持工程と、
上記成形装置の上記パンチを上記ダイスに対して相対的に前進させて上記素材板を成形する成形工程とを有し、
上記保持工程においては、上記素材板の上記ダイスと上記しわ押さえとによって狭持したフランジ部を温度T(150≦T≦300)℃にt_(1)(t_(1)=-0.1×T+31)分間以下加熱保持し、
上記成形工程においては、上記パンチの温度を上記フランジ部の温度T℃よりも30℃以上低い温度に保持した状態で、成形時間t_(2)(t_(2)=-0.06×T+20)分間以内で成形を行うことを特徴とする温間成形加工品の製造方法にある(請求項1)。
【0010】
上記第1の発明の製造方法においては、上述のごとく、上記素材板として、Mg及びSiを上記特定量含有すると共に、T4処理されたAl-Mg-Si系アルミニウム合金板を用いている。さらに、上記保持工程においては上記素材板のフランジ部の加熱温度及び加熱保持時間を特定の範囲に制御し、上記成形工程においては上記パンチの温度及び成形時間を特定の範囲に制御している。
そのため、上記成形工程において、上記素材板の時効硬化と加工硬化と軟化とのバランスが温間成形に適した状態に保持される。それ故、上記成形装置の上記パンチの肩部分(以下適宜「パンチ肩部」という)における破断抵抗をほとんど減少させることなく、縮みフランジ抵抗を減少させることができる。その結果、限界絞り比を向上させ、上記素材板の成形性を向上させることができる。」

ウ 段落【0017】、【0018】

「【0017】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
上記温間成形加工品の製造方法においては、上記保持工程と上記成形工程とを行ってAl-Mg-Si系アルミニウム合金板(6000系合金板)よりなる素材板を温間成形する。
【0018】
上記素材板としてのAl-Mg-Si系アルミニウム合金板は、SiとMgとを主要添加元素として含有するアルミニウム合金板である。上記Al-Mg-Si系アルミニウム合金板は、Alの他に、Siを0.5?2.0mass%、Mgを0.2?1.5mass%含有する。
Siの含有量が0.5mass%未満の場合又はMgの含有量が0.2mass%未満の場合には、充分な成形性が得られないおそれがあり、また、上記温間成形加工品が熱処理により充分なベークハード性を発揮できないおそれがある。ベークハード性を示すための熱処理としては、例えば温度150?200℃の範囲内で20分間保持する熱処理を行うことができる。また、Siの含有量が2.0mass%を越える場合又はMgの含有量が1.5mass%を越える場合には、充分な成形性が得られないおそれがあり、また、上記成形工程における成形中に上記素材板が時効硬化し、強度が高くなりすぎてしまうおそれがある。その結果ベークハード性が得られないおそれがある。

エ 段落【0020】?【0024】

「【0020】
また、上記素材板としては、T4処理されたもの、即ち溶体化処理後に自然時効させたAl-Mg-Si系アルミニウム合金板を用いる。Al-Mg-Si系アルミニウム合金板素材の調質がT4以外の例えばO及びT6の場合には、充分な温間成形性及びベークハード性が得られないおそれがある。 【0021】
次に、上記保持工程においては、上記素材板の端部を上記成形装置の上記ダイスと上記しわ押さえとで挟持する。このとき、上記素材板の上記ダイスと上記しわ押さえとによって狭持したフランジ部を温度T(150≦T≦300)℃にt_(1)(t_(1)=-0.1×T+31)分間以下加熱保持する。
【0022】
上記フランジ部の温度Tが150℃未満の場合には、成形工程時にフランジ部における縮みフランジ抵抗の減少が不充分となり、成形性が充分に向上しないおそれがある。一方、300℃を越える場合には、成形工程時に上記素材板としてのAl-Mg-Si系アルミニウム合金板が時効硬化又は軟化してしまい、温間成形性及びベークハード性が損なわれてしまうおそれがある。
また、加熱保持時間がt_(1)分間を越える場合には、上記素材板としてのAl-Mg-Si系アルミニウム合金板が時効硬化し、温間成形性及びベークハード性が損なわれてしまうおそれがある。
また、t_(1)は0分であってもよい。即ち、t_(1)は、0≦t_(1)≦-0.1×T+31という範囲にあり、上記保持工程において上記フランジ部の温度をT℃にした後その温度(T℃)で保持することなく、直ちに上記成形工程における成形を行うことができる。
なお、加熱保持時間t_(1)は、上記保持工程において上記フランジ部を温度T℃で加熱保持する時間であり、後述の成形工程における時間は含まない。したがって、上記保持工程後の成形工程においては、上記加熱保持時間t_(1)に関係なくフランジ部を温度T℃で加熱保持することができる。
【0023】
また、上記成形工程においては、上記成形装置の上記パンチを上記ダイスに対して相対的に前進させて上記素材板を成形する。このとき、上記パンチの温度を上記フランジ部の温度T℃よりも30℃以上低い温度に保持した状態で、成形時間t_(2)(t_(2)=-0.06×T+20)分間以内で成形を行う。
【0024】
上記パンチと上記フランジ部(温度T℃)との温度差が30℃未満の場合には、上記成形工程においてパンチ肩部の破断抵抗が高まらず、限界絞り比の向上効果が得られないおそれがある。
また、成形時間t_(2)が(-0.06×T+20)分を超える場合には、温間成形中に上記素材板のフランジ部が時効硬化し、上記温間成形加工品が充分にベークハード性を発揮できなくなるおそれがある。また、この場合には、縮みフランジ抵抗が大きくなり、充分な限界絞り比の向上効果が得られなくなるおそれがある。また、成形中に加工硬化したフランジ部の回復が不充分になり、縮みフランジ抵抗の減少が不充分となるおそれがあるため、成形時間t_(2)は0.02分以上であることが好ましい。より好ましくは成形時間t_(2)は0.1分以上がよい。」

オ 段落【0032】?【0039】

「【0032】
以下、本例の温間成形加工品の製造方法につき、詳細に説明する。
まず、図1に示すごとく、パンチ21、ダイス22、及びしわ押さえ23を具備する成形装置2を準備した。パンチ21において、パンチ径はφ50mm、パンチ肩部215の肩半径はR5mmである。ダイス22において、ダイス肩部225の肩半径はR5mmである。また、パンチ21、ダイス22、しわ押さえ23には、それぞれヒータ3が内蔵されており、パンチ21、ダイス22、しわ押さえ23の温度を制御することができる。
【0033】
次に、素材板1として、T4処理された、円盤状で板厚1mmのAl-Mg-Si系アルミニウム合金板(6016合金板)を準備した。この素材板1は、Mgを0.48mass%、Siを1.0mass%含有する。次いで、素材板1の両面に潤滑剤としての二硫化モリブデンをスプレーにより塗布し、この素材板1を成形装置2のダイス22としわ押さえ23とで狭持した。
【0034】
次に、ダイス22及びしわ押さえ23に内蔵されたヒータ3によって、ダイス22としわ押さえ23とによって狭持した素材板1のフランジ部15を温度150℃に加熱した(加熱保持時間0分)。次いで、パンチ21に内蔵されたヒータ3によって、パンチ21の温度をフランジ部15の温度よりも30℃低い温度、即ち120℃に加熱保持した状態で、パンチ21をダイス22に対して相対的に前進させて素材板1の深絞り成形を行い、底部を有する円筒状の温間成形加工品(試料E1)を作製した。成形は、0.2分間で行い、このときの限界絞り比を測定した。
【0035】
限界絞り比(L.D.R)は、ブランク径を変更しながら、各ブランク径についてそれぞれ5個ずつの同一径の素材板を成形した際に、同じ径の素材板を破断なしで3個以上成形できたときの素材板の最大径を最大ブランク径とすると、下記の式(1)から算出することができる。その結果を表1に示す。
L.D.R=最大ブランク径/パンチ径 ・・・(1)
【0036】
また、本例においては、上記試料E1とはフランジ部の加熱温度、加熱保持時間、パンチの温度、及び成形時間を変えて、その他は上記試料E1と同様にして温間成形を行い、複数の温間成形加工品(試料E2?E5)を作製し、限界絞り比を測定した。その結果を表1に示す。
【0037】
また、本例においては、試料E1?試料E5の比較用として、上記試料E1とは素材板の種類(調質)、フランジ部の加熱温度、加熱保持時間、パンチの温度、及び成形時間を変えて、その他は上記試料E1と同様にして温間成形を行い、複数の温間成形加工品(試料C1?C8)を作製し、限界絞り比を測定した。その結果を表1に示す。
【0038】
さらに、本例においては、上記試料E1?試料E5及び試料C1?試料C8の温間成形加工品について、そのベークハード性の評価を引張試験により行った。
具体的には、まず、上記試料E1?試料E5及び試料C1?試料C8を温度170℃で20分間加熱する熱処理を行った。この熱処理は各試料の成形後30分?1時間以内に行った。
次いで、底部を有する円筒状の温間成形加工品の各試料(試料E1?試料E5及び試料C1?試料C8)の底部から15mm×35mmの寸法で引張試験用の試験片を切り出した(図2及び図3参照)。同図に示すごとく、この試験片は幅8mm、長さ8mmの寸法の平行部を有している。
【0039】
次に、この試験片を用いて、JIS Z 2241(1998年)に規定の「金属材料引張試験方法」にしたがって、各試料の試験片の耐力を測定した。その結果を表1に示す。
また、上記熱処理を行う前の温間成形加工品(試料E1?試料E5及び試料C1?試料C8)の各試料から、上述と同様の引張試験用の試験片を作製し、耐力を測定した。そして、熱処理による耐力の増加量を、熱処理前後における耐力の差を求めること、即ち熱処理後の耐力の値から熱処理前の耐力の値を減することにより算出し、その結果を表1に示す。」

カ 【表1】
【表1】には、「試料No.C3」として、「素材の調質」が「T6」、「フランジ部の加熱条件」の「加熱温度(℃)」と「保持時間(min)」がそれぞれ「250」と「0」、以下同様に、「パンチ温度(℃)」、「フランジ温度とパンチ温度の差(℃)」、「成形時間(min)」、「限界絞り比」、「ベークハード後の耐力(MPa)」及び「ベークハード前後の体力差(MPa)」がそれぞれ「220」、「30」、「0.2」、「2.1」、「249」、「-1」であるものが記載されている。

キ 認定事項
アルミニウム合金の調質記号「T6」が、溶体化処理後人工時効硬化処理したものであることは、JIS H 0001-1998にも定められているとおり、技術常識である。
刊行物1記載発明の「6000系アルミニウム合金板のフランジ部」の温度を「250℃」に保持したまま成形加工するためには、加熱源である「ダイス」の温度を250℃としなければならないことは刊行物1の記載から当業者にとって自明である。
また、刊行物1記載発明の「パンチ」は、「ダイス」により加熱される「該6000系アルミニウム合金板のフランジ部の温度」よりも低温であるから、「パンチ」が、「ダイス」のうちの「該6000系アルミニウム合金板のフランジ部」を加熱する部分よりも低温であることも、自明である。

[刊行物1記載発明]

上記摘記事項ア?カ、認定事項キを技術常識を考慮しながら、特に【表1】の「試料No.」が「C3」のものに着目し、本願発明に照らして整理すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載発明」という。)が記載されている。

「溶体化処理後、人工時効硬化処理を施した6000系アルミニウム合金板を、該6000系アルミニウム合金板のフランジ部の温度を250℃に加熱する部分の温度が250℃であるダイスと、該6000系アルミニウム合金板のフランジ部の温度を250度に加熱する部分よりも低温であるパンチを用いて成形するアルミニウム合金板の温間成形加工品の製造方法。」

第3 対比

本願発明と刊行物1記載発明とを比較する。

人工時効硬化処理は熱処理の一種である。
刊行物1記載発明の「パンチ」、「アルミニウム合金板」、「温間成形加工品の製造方法」はそれぞれ、本願発明の「ポンチ」、「高強度アルミニウム合金板」、「温間プレス成型方法」に相当する。
刊行物1記載発明の「ダイス」の「該6000系アルミニウム合金板のフランジ部の温度を250℃に加熱する部分の温度が250℃である」ことは、「250℃」が「170℃以上300℃以下」の範囲に含まれる温度であるから、本願発明の「ダイスのフランジ部分の温度が170℃以上300℃以下である」ことに相当する。

本願発明と刊行物1記載発明は、以下の点で一致し、かつ相違する。

1 一致点

「溶体化処理後、熱処理を施した6000系アルミニウム合金板を、フランジ部分の温度が170℃以上300℃以下であるダイスと、該ダイスのフランジ部分よりも低温であるポンチを用いて成形する高強度アルミニウム合金板の温間プレス成形方法。」

2 相違点

「溶体化処理後、熱処理を施」すにあたり、本願発明は、「180℃?300℃」で「0.5?10時間保持する」ものであるのに対し、刊行物1記載発明は、熱処理である「人工時効硬化処理」を施すが、温度や保持時間の条件が明らかではない点。

第4 相違点についての検討

6000系アルミニウムに対する人工時効硬化処理の条件として、温度を「180℃?300℃」で「0.5?10時間保持」の範囲内としたことは、当審より通知した上記拒絶の理由で周知例として提示した以下の刊行物に記載されており、本願出願前周知である。
・特開2003-221636号公報(上記拒絶の理由の引用文献6、段落【0020】に、「180?220℃で1?10時間」と記載。)
・特開2004-10926号公報(上記拒絶の理由の引用文献7、段落【0004】に、「180℃で6時間」と記載。)
・特開2004-43907号公報(上記拒絶の理由の引用文献8、段落【0065】に170?200℃×4?9時間」と記載。)
・特開2004-292937号公報(上記拒絶の理由の引用文献9、段落【0061】に、「人工時効硬化処理(170?200 ℃×5 時間)」と記載。)
そうすると、刊行物1記載発明の「人工時効硬化処理」の条件として、温度を「180℃?300℃」で「0.5?10時間保持」の範囲内とした点は、上記従来周知の条件から当業者が容易に設定し得た設計上の事項である。

刊行物1記載発明において、「人工時効硬化処理」の温度や保持時間の条件を、「180℃?300℃」で「0.5?10時間保持する」を満たすものを選択することは、従来周知の条件を適用することで、当業者が容易になし得た事項である。

本願発明の奏する作用ないし効果についても、刊行物1記載発明及び従来周知の事項から予測し得る程度のものであって、格別なものではない。

3 小結

上記の検討から、本願発明は、刊行物1記載発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易になし得たものである。

以上のとおりであるから、本願発明は刊行物1記載発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

4 本件請求人の主張についての検討

本件請求人は上記当審より通知した拒絶の理由への応答である平成25年7月29日付け意見書において、刊行物1に対して、以下の点主張し、刊行物1記載発明を本願発明の進歩性を否定する先行技術として用いることに阻害事由がある旨主張しているので、まずはこの点検討する。
「しかし、引用文献1に記載の技術では、事項処理はT4処理、すなわち自然時効に限定されており、本件発明のように、β”を析出させた合金板では、目的が達成されないことが指摘されております(段落[0020])。特に、T6処理については、前項に摘記したように、温間成形性とベークハード性の観点から明確に排除されております」(上記意見書第5ページ第5?8行)
上記摘記事項カのとおり、刊行物1の【表1】の「試料No.C3」は、「素材の調質」として「T6」処理が施されるものであって、温間成形性の指標である「限界絞り比」は「2.1」であった。また、「ベークハード後の耐力(MPa)」は「249」であり、「ベークハード前後の耐力差(MPa)」は「-1」であるから、ベークハード前には、248MPaの耐力があったと解され、「試料No.C3」はベークハードを行わずとも、200MPaを超える耐力を実現できたものであると解される。本願明細書には、「本発明の高強度アルミニウム合金板の温間プレス成形方法では、プレス成形性の目標を従来の高強度鋼板以上、具体的には限界絞り比(LDR)で2.0以上、好ましくは2.2以上とし、強度の目標を自動車の外販に適用する際のレベル、具体的には、150MPa以上、好ましくは200MPa以上とする」(段落【0012】)と記載されているから、刊行物1記載発明は上記「限界絞り比(LDR)」と「強度の目標」の両方を達成するものである。また、本願明細書には「これらに対して、特許文献4(当審注:本審決における刊行物である特開2006-205244号公報)では、BH性を発現する6000系アルミニウム合金の温間成型方法が提案されている。これは、溶体化処理後、室温で時効させたものであるが、例えば、自動車の外板に適用するには、より高い強度が要求される」(段落【0007】)と記載されていて、BH(ベークハード)によらず強度を向上させることを排除しない点、少なくとも示唆されている。
そうすると、刊行物1自体には、T6処理を排除する点、記載されているかも知れないが、許容できる限界絞り値によって、そしてベークハードすることなく強度の向上をさせることで、刊行物1記載発明が熱処理としてT6処理採用できると解されるから、上記請求人の主張は失当である。

また上記意見書において、本件請求人は「これらに記載された合金は全て、鍛造用又は押出用の合金であり、これらが採用する高温時効処理は、鍛造加工或いは押出加工を経て成形された部材に対する熱処理であり、それ以降に加工する必要のない部材である」(第5ページ第28及び31行、ただし空白行を含まず。)と主張している。しかし、「人工時効硬化処理」を施した後に、「ダイス」と「パンチ」を用いて「成形」することは、上記第2で述べたとおり、刊行物1に記載されているから、「人工時効硬化処理」に際しての「温度」と「保持時間」を条件を設定するにあたり、従来周知の範囲に属するものを選択することに、困難性は認められない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、刊行物1記載発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-04 
結審通知日 2013-09-10 
審決日 2013-09-24 
出願番号 特願2008-299816(P2008-299816)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村山 睦  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
久保 克彦
発明の名称 高強度アルミニウム合金板の温間プレス成形方法  
代理人 亀松 宏  
代理人 古賀 哲次  
代理人 亀松 宏  
代理人 中村 朝幸  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 朝幸  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ