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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G05B |
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管理番号 | 1281253 |
審判番号 | 不服2013-2557 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-02-12 |
確定日 | 2013-11-06 |
事件の表示 | 特願2007-324164「弁制御方法及びそのための装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 2日出願公開、特開2009-146241〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成19年12月17日の特許出願であって、同24年2月10日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月6日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。これに対し、平成25年2月12日付けで本件審判の請求がなされ、同時に手続補正書により、特許請求の範囲及び明細書が補正(以下「本件補正」という。)された。同年5月8日付けの当審よりの審尋に対して、同年7月2日付けで回答書が提出された。 第2 本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲及び明細書について補正をするものであって、補正前後の請求項1の記載は、補正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。 (1)補正前 「【請求項1】 検出される温度と目標温度とが一致するように、弁開度を算出して該弁開度を制御する弁制御方法であって、 前記検出温度と目標温度との偏差を求め、少なくとも該偏差と、設定された制御パラメータとを演算式に代入して前記弁開度を求めるとともに、前記制御パラメータを自動的に設定し、 段階的に設定可能な制御レベルに応じた所定の係数を、前記偏差、前記制御パラメータ、又は前記演算式により求めた弁開度の変化量に乗算することにより、前記演算式で求めた弁開度の大きさを調整することを特徴とする弁制御方法。」 (2)補正後 「【請求項1】 検出される温度と目標温度とが一致するように、弁開度を算出して該弁開度を制御する弁制御方法であって、 前記検出温度と目標温度との偏差を求め、少なくとも該偏差と、設定された制御パラメータとを演算式に代入して前記弁開度を求めるとともに、前記制御パラメータを自動的に設定し、 段階的に設定可能な制御レベルに応じて予め定められた所定の係数を、前記偏差又は前記演算式により求めた弁開度の変化量に乗算することにより、前記演算式で求めた弁開度の大きさを調整することを特徴とする弁制御方法。」 2 補正の適否 請求項1に対する補正は、「所定の係数」を「予め定められた」ものに限定し(以下、「限定事項1」という。)、「係数」を乗算する対象の選択肢を「偏差」、「制御パラメータ」、又は「演算式により求めた弁開度の変化量」の3つの選択肢から「制御パラメータ」を除いた「偏差」又は「演算式により求めた弁開度の変化量」の2つに限定する(以下、「限定事項2」という。)ものであり、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。また、当該補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内のものである。 明細書に対する補正は、特許請求の範囲に対する補正と整合させるためのものであり、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内のものである。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。 (1)補正発明 補正発明は、本件補正により補正がされた明細書、特許請求の範囲及び願書に添付された図面の記載からみて、上記第2の1の(2)の補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 (2)刊行物記載事項 原審拒絶の理由で引用されたものであって、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-169436号公報(以下「刊行物1」という。)及び特開平9-128004号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下のとおり記載されている(数式中の分数の表記について、例えばT分の1を、当審は「(1/T)」と記載した。)。 (2-1) 刊行物1 刊行物1には、第1図ないし第5図とあわせて、以下の点が記載されている。 ア 第2ページ左上欄第20行-同ページ右上欄第15行 「本発明は上記目的を達成するため、コンプレッサからの吐出ガスを第1の弁を介してコンデンサで凝縮させ、これをエバポレータにより熱交換させた後、第2の弁を介して上記コンプレッサに再び循環させるものにおいて、上記各機器はリモコンおよびユニットコントローラにより制御するものであって、これらに温度制御機能(上記第1,第2の弁の開閉制御およびその開度の制御により比例積分微分定数を演算して冷蔵するときはオートチューニング集中制御機能と、冷凍時はオン/オフ制御機能を含む)、・・・が可能な構成としたことを特徴とするものである。」 イ 第2ページ左下欄第7行-第3ページ左下欄第11行 「以下、本発明について図面を参照して説明する。第1図は本発明の冷凍冷蔵自動制御装置の一実施例を示す冷媒系統図である。図において、1はコンプレッサ、2、3、4は吐出管、5は冷却ガス用電磁比例弁、6はホットガス用電磁比例弁、8はコンデンサコイル、7は電磁比例弁5とコンデンサコイル8間の配管、9はコンデンサファン、11はレシーバ、13はドライヤ、10はレシーバ11とコンデンサコイル8間の配管、15はサイトグラス、14はサイトグラス15とドライヤ13間の配管、17は液ライン電磁弁、16は液ライン電磁弁17とサイトグラス15間の配管、19は膨張弁、18は膨張弁19と液ライン電磁弁17間の配管、21はディストリビュータ、20はディストリビュータ21と膨張弁19間の配管、23はエバポレータコイル、22はエバポレータコイル23とディストリビュータ21間の配管、24はエバポレータファン、26はアキュムレータ、25はエバポレータコイル23とアキュムレータ26間の配管、28は吸入圧力調整弁、27は吸入圧力調整弁28とアキュムレータ26間の配管、29は吸入管である。 以下、この様な構成のものにおける各機能について説明する。 (1)PIDオートチューニング制御機能 フル冷却運転時、弁5,17は全開でコンプレッサ1からの吐出ガスをコンデンサコイル8で凝縮させ、レシーバ11、ドライヤ13、サイトグラス15、弁17、膨張弁19、ディストリビュータ21を経てエバポレータコイル23に導き、ここでエバポレータファン24により送られる空気と熱交換させて蒸発させ、アキュームレータ26、吸入圧力調整弁28を経て、コンプレッサ1へ戻るように循環させる。 一方、フル加熱時には弁5を全閉し、弁6を全開し、吐出ガスをディスリビュータ21を経てエバポレータコイル23へ導入し、加熱する。 PID制御時は弁5,6の併用で冷却、加熱をミックスし、庫内空気温度(エバポレータ吹出し、または吸入空気温度)を設定温度に制御するためにPID制御時エバポレータコイル23の吹出し空気温度を第2図に示すセンサ46で検出し、リモコン(メインマイコン)30で演算して弁5,6の開度をコントロールすることによって高精度の恒温制御を行なうことができる。 以下、PIDオートチューニング制御の具体例について説明する。PID制御の基本式は次の(1)で与えられる。 V(t)= K_(p)[f(t)+(1/T_(I))f(t)dt+T_(D)(df(t)/dt)]…(1) ここで、V(t)は電磁比例弁5,6の操作量、f(t)は偏差量、K_(p)は比例ゲイン(%)、T_(I)は積分時間(sec)、T_(D)は微分時間(sec)である。 (1)式の変形として(2)式が成立する。 V(t)≒V(t-Δt)+K_(p)(Δt/T_(I))f(t) +K_(p)Δf(t)+K_(p)(T_(D)/Δt)Δ^(2)f(t)…(2) ここで、Δtはきざみ時間(sec)である。 (2)式よりΔt時間前の電磁比例弁5,6の操作量V(t-Δt)から現在の電磁比例弁5,6の操作量V(t)が求められる。電磁比例弁5,6の弁開度を第3図のようにV_(0)(%)からV_(0)+ΔV(%)へ増加させた時のエバポレータ吹き出し空気温度または吸込み空気温度(検出部温度)をθとすると、θは第4図のような時間変化をする。上記の温度特性のPID制御パラメータは(3),(4),(5)式で制御される。 比例ゲイン K_(p)=1.2×(T/L)×(ΔV/Δθ)…(3) 積分時間 T_(I)=2×L …(4) 微分時間 T_(D)=0.42×L …(5) 上記(3)?(5)式と実機機検出温度特性データより標準PID定数を決定する。さらに、PIDオートチューニング手法として下記(a),(b),(c)の処理し、PID各定数をマイコンソフトで自動計測演算設定する。 (a)PID制御範囲逸脱防止処理 設定温度-Adeg(Aは所定値)以下のアンダーシュートならびに設定温度+Adeg以上のオーバーシュート防止対策として実機の検出部温度サイクルデータにより決められるPID各補正係数によりP定数は増、I,D定数は減の補正をする。(スイッチオン時イニシャルは標準定数でスタートする。)」 ウ 第3ページ右下欄第13行-同ページ同欄第17行 「(c)PID計算結果見直し処理 電磁比例弁6へ出す操作信号V(t)が所定%/sec以上の変化になる場合は実機検出温度サイクルデータにより決められるPID各補正係数によりPID定数を減少する。」 エ 第3ページ右下欄第18行-第4ページ左上欄第4行 「以上により電磁比例弁5(弁開大程冷却増)、電磁比例弁6(弁開大程加熱増)の併用により設定温度に集束させる。このようなことから、PIDオートチューニングにより外乱に即応してマイコンソフトで温度サイクルの所定データを自動計測演算し、PID定数を自動設定して所定部温度を高精度に温度制御することができる。」 オ 認定事項 上記摘記事項イから、刊行物1に記載された発明は、吹出し又は吸入空気温度をセンサ46、47で検出し、弁5,6の開度をコントロールすることによって設定温度にすべく、PID制御による恒温制御を行うものである。してみると、刊行物1に記載の「偏差量f(t)」が、検出される吹出し又は吸入空気温度と設定温度との偏差量であることは、刊行物1の記載から当業者にとって自明な事項である。 また、上記摘記事項イの「(2)式よりΔt時間前の電磁比例弁5,6の操作量V(t-Δt)から現在の電磁比例弁5,6の操作量V(t)が求められる」との記載から、刊行物1に記載された発明においても、(2)式すなわち演算式に、「K_(p)」、「T_(I)」、「T_(D)」すなわち「PID制御パラメータ」を代入して「V(t)」を求めるものであることも、刊行物1の記載から当業者にとって自明である。 [刊行物1記載発明] 上記摘記事項ア、イ、ウ及びエ、ならびに、上記認定事項オから、刊行物1記載の事項を技術常識を考慮しつつ補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1記載発明」という。)が記載されているものと認める。 「検出される吹出し又は吸入空気温度と設定温度とが一致するように、弁操作量V(t)を算出して制御する弁制御方法であって、 前記検出される吹出し又は吸入空気温度と設定温度との偏差量f(t)を求め、少なくとも該偏差量f(t)と、設定されたPID制御パラメータとを演算式に代入して前記弁操作量V(t)を求めるとともに、前記PID制御パラメータを自動的に設定し、 PID各補正係数によりPID制御パラメータを増減させることにより、前記演算式で求めた弁操作量V(t)の大きさを調整する弁制御方法。」 (2-2)刊行物2 刊行物2には、第3図及び第9図とあわせて、以下の点が記載されている。 カ 段落【0018】-【0020】 「【0018】図3において、図示しないロボット30の運転員が外部入力装置10(図1参照)の自動調整モードを選択すると、PID制御装置20はステップ100にて、自動調整モードの処理を開始する。すると、ステップ110にて、PID制御装置20は運転員が外部入力装置10から入力した設定値に基づいて制御対象であるスライダ34の動作範囲のチェックを行う。スライダ34の動作範囲のチェックを行った後、ステップ120に進み、PID制御装置20はモータ31を駆動し、エンコーダ40からの観測結果、即ち、スライダ34の現在位置と指令位置との位置偏差(たまりパルス量)に基づいて、制御対象となるロボット30の負荷イナーシャの同定を行う。制御対象となるロボット30の負荷イナーシャの同定を行った後、ステップ130にて、負荷イナーシャの同定に基づいて制御パラメータの初期設定を行う。 【0019】ついで、ステップ130にて初期設定された制御パラメータに基づいて、PID制御装置20は再度、モータ31を駆動して、再度、スライダ34を動作させ、ステップ140にて制御パラメータの調整(チューニング)を行う。制御パラメータの調整(チューニング)を行って、動作判定がOKになってステップ150にて「YES」と判定されると、ステップ190にて自動調整モードの処理を終了する。 【0020】上述のステップ140において調整した制御パラメータが不適でスライダ34が正常に動作しないと、ステップ150にて「NO」と判定して、ステップ160に進み、PID制御装置20はパラメータの再設定がn回(例えば3?5回)なされたか否かの判定を行い、パラメータの再設定がn回(例えば3?5回)に達していなければ、ステップ180にてパラメータの再設定を行う。パラメータの再設定をn回(例えば3?5回)行ってもステップ150において「YES」と判定されなければ、ステップ170にてPID制御装置20は外部入力装置10に警告表示の信号を送出し、ステップ190にて自動調整モードの処理を終了する。」 キ 段落【0051】-【0059】 「【0051】上述の説明においては、自動モードにより制御パラメータを調整することについて説明したが、本発明のPID制御装置は、自動モードにより制御パラメータが調整できない場合、あるいは制御パラメータを微調整する場合にマニュアルモードにより制御パラメータを調整する機能を備えている。なお、マニュアルモードによる制御パラメータの調整は自動モードにより制御パラメータの調整が失敗した場合に限らず、通常の制御パラメータの調整のために行ってもよいことは明らかである。この以下に、マニュアルモードにより制御パラメータを調整する動作を説明する。 【0052】図9はマニュアルモードにより制御パラメータを調整する動作をしめすフローチャートである。図9のフローチャートにおいて、ロボット30の運転員が外部入力装置10より制御パラメータ調整のマニュアルモードを選択すると、PID制御装置20はステップ200にて、制御パラメータ調整のマニュアル動作を開始する。すると、PID制御装置20はステップ202にて、ロボット30の何軸の制御パラメータを調整したいかを外部入力装置10の表示部に表示させる。 【0053】この表示に基づいて、ロボット30の運転員が外部入力装置10より制御パラメータを調整したい軸を選択して入力すると、PID制御装置20はステップ204にて、ロボット30の運転員が選択した軸の制御パラメータを上げたいか、下げたいかを外部入力装置10の表示部に表示させる。ここで、制御パラメータを上げるとは、応答周波数を高くすることを意味し、制御対象となるロボット30の応答は速くなるがノイズ等の影響を受けやすくなる。反対に、制御パラメータを下げるとは、応答周波数を低くすることを意味し、制御対象となるロボット30の応答は遅くなるがノイズ等の影響を受けにくくなる。 【0054】この制御パラメータを上げたいか、下げたいか表示に基づいて、ロボット30の運転員が外部入力装置10より制御パラメータを上げるか、下げるかを選択して図示しない選択スイッチを運転員が押圧して入力すると、PID制御装置20はステップ206にて、ロボット30の運転員が選択した制御パラメータを上げるか、下げるかを認識し、大きい割合で上げたいか下げたいか、あるいは小さい割合で上げたいか下げたいかを外部入力装置10の表示部に表示させる。ここで、大きい割合とは、制御パラメータの数値の上昇率あるいは低下率を大きくする(例えば、上昇率あるいは低下率を50%とする)ことを意味し、反対に、小さい割合とは、制御パラメータの数値の上昇率あるいは低下率を小さくする(例えば、上昇率あるいは低下率を15%とする)ことを意味する。 【0055】この表示に基づいて、ロボット30の運転員が外部入力装置10より大きい割合か小さい割合かを選択して図示しない選択スイッチを運転員が押圧して入力すると、PID制御装置20はステップ208にて、制御パラメータを大きい割合で上げたいか下げたいか、もしくは小さい割合で上げたいか下げたいかを認識する。ついで、ステップ210にて、PID制御装置20はどのような制御条件により調整するか、即ち、ロボット30の運転員が既に選択した調整条件(例えば、X軸(図1においては左右方向)、上げる、大きい割合等の調整条件)を外部入力装置10の表示部に一覧により表示させ、運転員に選択した調整条件を再確認させる。 【0056】すると、ロボット30の運転員が外部入力装置10より、表示された制御条件に基づいて、制御パラメータの調整を行うか否か選択して入力すると、PID制御装置20はステップ210にて、PID制御装置20は制御パラメータの調整を行うか否か、即ち、制御パラメータ調整の許可が出たか否かを外部入力装置10の図示しない選択スイッチを運転員が押圧して入力された信号に基づいて判定を行う。この判定において「NO」と判定した場合はステップ216にてこのマニュアル処理を終了する。 【0057】ステップ210の判定において「YES」と判定した場合は、ステップ214に進み、制御パラメータの調整を所定のマニュアル調整のアルゴリズムに従って行い、位置制御部25および速度制御部26のパラメータを設定し、ステップ216にてこのマニュアル処理を終了する。ここで、所定のマニュアル調整のアルゴリズムとは、例えば、ステップ208にて、PID制御装置20が制御パラメータを大きい割合で上げることを認識すると、PID制御装置20は制御パラメータ、即ち、制御パラメータの数値の上昇率を大きい割合(例えば、50%の上昇率)に変更し、ステップ208にて、PID制御装置20が制御パラメータを小さい割合で下げることを認識すると、PID制御装置20は制御パラメータ、即ち、制御パラメータの数値の低下率を小さい割合(例えば、15%の低下率)に変更する。 【0058】このように、制御パラメータを上げるか下げるか、あるいは制御パラメータを大きく上げるか下げるか、または小さく上げるか下げるか外部入力装置30の図示しない選択スイッチを押圧して手動入力することにより、この入力指令に基づいて制御パラメータを調整する手動調整機能を備えているので、ロボット30の運転員は、単に、制御パラメータを上げるか下げるか、あるいは制御パラメータを大きく上げるか下げるか、または小さく上げるか下げるかを選択スイッチにより選択すれば制御パラメータが調整できようになるので、PID制御装置についての専門的知識や経験を必要とすることなく、この種の手動調整作業が迅速に、かつ、簡単、容易にできるようになる。また、自動調整にて制御パラメータを調整した後の微調整も、制御パラメータの個々の特性を理解することなく、簡単、容易にできるようになる。 【0059】なお、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができる。例えば、上述の実施の形態においては、本発明のPID制御装置を搬送用ロボットに適用する例について説明したが、搬送用ロボットに限らず、PID制御装置を用いる各種の制御系に適用できることは明らかである。」 ク 認定事項 上記摘記事項キの「PID制御装置20はステップ206にて、ロボット30の運転員が選択した制御パラメータを上げるか、下げるかを認識し、大きい割合で上げたいか下げたいか、あるいは小さい割合で上げたいか下げたいかを外部入力装置10の表示部に表示させる。ここで、大きい割合とは、制御パラメータの数値の上昇率あるいは低下率を大きくする(例えば、上昇率あるいは低下率を50%とする)ことを意味し、反対に、小さい割合とは、制御パラメータの数値の上昇率あるいは低下率を小さくする(例えば、上昇率あるいは低下率を15%とする)ことを意味する」から、刊行物2に記載されたものが、「制御パラメータ」に対して所定の「上昇率」あるいは「低下率」を乗算して「制御パラメータを上げるか、下げるか」するものである点は、当業者にとって自明である。 [刊行物2記載事項] 上記摘記事項カ及びキより、刊行物2には、次の事項(以下、「刊行物2記載事項」という。)が記載されていると認める。 「自動的に設定された制御パラメータをマニュアルモードにより調整するPID制御装置において、マニュアルモードによる調整を、大きい割合又は小さい割合に応じて定められた所定の上昇率又は低下率を、制御パラメータに乗算することにより、制御対象の動作を調整する制御方法。」 (3)対比 補正発明と刊行物1記載発明とを対比すると、刊行物1記載発明の「検出される吹出し又は吸入空気温度」は、補正発明の「検出される温度」に相当し、以下同様に、「設定温度」は「目標温度」に、「弁操作量V(t)」は「弁開度」に、「偏差量f(t)」は「偏差」に、「PID制御パラメータ」は「制御パラメータ」に、「演算式」は「演算式」にそれぞれ相当している。 したがって、両者は以下の点一致し、かつ相違する。 ア 一致点 「検出される温度と目標温度とが一致するように、弁開度を算出して該弁開度を制御する弁制御方法であって、 前記検出温度と目標温度との偏差を求め、少なくとも該偏差と、設定された制御パラメータとを演算式に代入して前記弁開度を求めるとともに、前記制御パラメータを自動的に設定し、 弁開度の大きさを調整する弁制御方法」 イ 相違点 制御パラメータを自動的に設定したものに対する弁開度の大きさを調整する手法として、補正発明では、「段階的に設定可能な制御レベルに応じて予め定められた所定の係数を、偏差又は演算式により求めた弁開度の変化量に乗算することにより、前記演算式で求めた弁開度の大きさを調整する」のに対し、刊行物1記載発明は、「PID各補正係数」により「PID制御パラメータ」を増減させることにより弁開度の大きさを調整するものではあるが、段階的に設定可能な制御レベルに応じて「PID各補正係数」を定め、「偏差又は演算式により求められた弁開度の変化量」に当該「PID各補正係数」を乗算するものではない点。 (4)判断 上記相違点等について、以下検討する。 ア 相違点について 第2の2の(2-2)で述べたとおり、[刊行物2記載事項]には、「大きい割合又は小さい割合」という段階分けをおこない、それに応じて定められた係数である「上昇率又は低下率」をPID制御に用いられる値である制御パラメータに乗算する点、記載されている。また、PID制御において、所定の係数を、(制御パラメータではなく、)制御対象の変化量に乗算することにより、制御対象の動作を調整することは、例えば、特開平3-90437号公報(特に、第3ページ9行「補正係数Kを前記操作量M_(A)に乗算して得られる」に着目されたい)、特開2002-23862号公報(特に、段落【0033】の「電磁弁14の操作量MVに乗算させる補正係数k(0≦k≦1)」や、段落【0048】の「操作量MVに補正係数kを乗算した補正操作量MV’で電磁弁14を制御する」に着目されたい)に記載されている。 そうすると、PID制御における制御パラメータを調整するに際して、段階的に設定可能な制御レベルに応じて所定係数を予め定め、当該所定係数を(制御パラメータではなく、)制御対象の変化量に乗算することは、上記刊行物2や他の刊行物の記載から、従来周知の事項である。 刊行物1記載発明において、「弁開度の大きさを調整する」手法として、段階的に設定可能な制御レベルに応じて所定の係数を予め定めて、「弁操作量V(t)の変化量」自体に乗算したことは、上記従来周知の事項を適用して、当業者が容易になしえたものである。 イ 補正発明の作用効果について 補正発明が奏する作用効果は、刊行物1記載発明、刊行物2に記載された事項及び上記従来周知の事項から当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。 ウ まとめ したがって、補正発明は、刊行物1記載発明、刊行物2に記載された事項及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して 特許を受けることができないものである。 3 補正の却下の決定におけるむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1ないし4に係る発明は、平成24年4月12日付け手続補正書によって補正された明細書、特許請求の範囲及び願書に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認めるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1の(1)に示したとおりである。 2 対比 本願発明は、上記第2の2で述べたとおり、補正発明の発明特定事項から、限定事項1を省くととともに、限定事項2について、2つの選択肢に更に「制御パラメータ」という1つの選択肢が追加されたものである。 そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに、選択できる事項を追加した補正発明が、上記第2の2の(4)で検討したとおり、刊行物1記載発明、刊行物2に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も刊行物1記載発明、刊行物2に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 3 むすび 以上のとおり、本願発明は、原審査定の理由のとおり刊行物1記載発明、刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、この出願の請求項2乃至4に係る発明について判断するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-09-04 |
結審通知日 | 2013-09-10 |
審決日 | 2013-09-24 |
出願番号 | 特願2007-324164(P2007-324164) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G05B)
P 1 8・ 121- Z (G05B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐々木 一浩 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
刈間 宏信 野村 亨 |
発明の名称 | 弁制御方法及びそのための装置 |
代理人 | 中井 潤 |