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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F
管理番号 1281284
審判番号 不服2010-18365  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-16 
確定日 2013-11-08 
事件の表示 特願2003-566979「鉄ベース・コアを有するフィルタ回路」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月14日国際公開、WO03/67756、平成17年 6月 9日国内公表、特表2005-517305〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年2月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2002年2月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、
原審において、平成22年4月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年8月16日に審判請求がなされたものであり、
当審において、平成24年7月23日付けで拒絶理由が通知され、これに対し平成25年1月24日付けで意見書および手続補正書が提出されたものである。


2.本願発明
本件出願の請求項1に係る発明は、平成25年1月24日付けで補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)

(本願発明)
「【請求項1】
コアの磁気励起に対して垂直に磁界を適用することにより、アニールされている鉄ベースのアモルファス合金リボンを含むコアを有するインダクタを備えたバンドパス・フィルタであって、コアは1?1000kHzの周波数範囲にわたり線形の磁化曲線(B-Hループ)および一定の透磁率を有することを特徴とする、バンドパス・フィルタ。」


3.引用発明

A.当審で通知した拒絶理由に引用した、特表2000-503169号公報(以下、「引用例」という。)には、「分布ギャップ電気チョーク」として、図面とともに以下の記載がある。

イ.「【特許請求の範囲】
1. 分布ギャップを有する磁気コアを備えた電気チョークであって、該磁気コアは、部分的に結晶化されたFe基材のアモルファス金属合金から本質的に構成されることを特徴とする電気チョーク。
2. 請求項1に記載の電気チョークにおいて、10kHzにおいて約100から400の範囲の透磁率を有しており、初期透磁率の40%が3,980A/m(50Oe)のDCバイアス磁界において維持され、鉄損が100kHz及び0.1Tバイアス磁界において70W/kgよりも小さく、高い飽和磁束密度を有するように構成されたことを特徴とする電気チョーク。
3. アモルファス金属合金から成るコアを有する電気チョークを製造する電気チョークの製造方法であって、前記アモルファス金属合金の結晶化温度及び化学組成に依存する温度及び時間のパラメータにおいて前記チョークを保護雰囲気中で焼き鈍し処理する焼き鈍し処理工程を備えており、前記時間及び温度のパラメータを特定の鉄基材の合金に関して図1及び図2のデータに従って選択することを特徴とする電気チョークの製造方法。
4. 請求項3に記載の電気チョークの製造方法において、前記アモルファス金属合金をFe_(80)B_(11)Si_(9)とし、前記焼き鈍し処理温度を425℃とし、前記焼き鈍し処理時間を約6-8時間とすることを特徴とする電気チョークの製造方法。
5. 請求項3に記載の電気チョークの製造方法において、前記アモルファス金属合金をFe_(80)B_(12)Si_(8)とし、前記焼き鈍し処理温度を455℃とし、前記焼き鈍し処理時間を約4時間とすることを特徴とする電気チョークの製造方法。
6. 請求項3に記載の電気チョークの製造方法において、前記焼き鈍し処理工程を磁界が存在しない状態で実行することを特徴とする電気チョークの製造方法
7. 請求項3に記載の電気チョークの製造方法において、前記焼き鈍し処理工程の間に、前記温度を約2-5℃以内に制御し、これにより、前記焼き鈍し処理の後の前記チョークが実質的に一定の透磁率を示すようにすることを特徴とする電気チョークの製造方法。」(2頁)

ロ.「【発明の詳細な説明】
分布ギャップ電気チョーク
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、分布ギャップを有する電気チョーク用アモルファス金属磁気コアに関し、より詳細に言えば、アモルファスコアを焼鈍して該アモルファスコアに分布ギャップを形成する方法に関する。
2.従来技術の説明
電気チョークは、エネルギ蓄積インダクタである。トロイダル状のインダクタに関して、蓄積されたエネルギWは、W=1/2[(B^(2)A_(c)l_(m))/(2μ_(0)μ_(r))]で表され、Bは磁束密度であり、A_(c)はコアの有効磁気面積であり、l_(m)は平均磁束路長であり、μ_(0)は自由空間の透磁率であり、μ_(r)は材料の比透磁率である。
小さなエアギャップをトロイドに導入すると、そのようなエアギャップの磁束は強磁性コア材料の磁束と同じ磁束のままである。しかしながら、空気の透磁率(μ?1)は、代表的な強磁性体材料の透磁率(μ?数千)よりも著しく小さいので、ギャップの磁界強度(H)は、コアの残りの部分の磁界強度よりも極めて大きくなる(H=B/μ)。磁界に蓄積される単位体積当たりのエネルギWは、W=1/2(B/H)で表され、そのようなエネルギは、主としてエアギャップに集中されることを表している。換言すれば、コアのエネルギ蓄積能力は、ギャップの導入により高められる。上記ギャップは、離散させる(discrete)かあるいは分布させる(distribute)ことができる。分布されたギャップすなわち分布ギャップは、非磁性結合剤で結合した強磁性体粉末を用いることによって、あるいは、アモルファス合金を部分的に結晶化させることによって、導入することができる。アモルファス合金を部分的に結晶化させることによってギャップを導入する場合には、強磁性結晶相が分離して、非磁性マトリックスに包まれる。この部分的な結晶化のメカニズムは、本発明のチョークに関して利用される。
Fe基材のアモルファスコアを焼き鈍し処理する原理に基づく電気チョークは、英国特許第2,117,979号A、及び、米国特許第4,812,181号に記載されている。上記米国特許第4,812,181号には、Fe基材のアモルファスコアに410℃よりも高い温度で長時間(10時間以上)の焼き鈍し処理を施すことによって、平坦な磁化巻線(loop)を得るための方法が開示されている。上記米国特許に開示されているこの方法は、アモルファスリボンの表面を結晶化させ、これにより、該リボンのアモルファスに応力を与える工程を備えている。
上記英国特許第2,117,979号Aにおいては、電気チョークは、Fe基材のアモルファスコアの熱処理作業に基づいて形成されている。最大透磁率は、その初期値の1/50乃至1/30まで減少し(40,000の最大透磁率に関して、上記処理によって、約800から1,300の範囲の値が生ずる)、アモルファスコアは、その体積の10%を超えない一定程度の結晶化を示す。
ノートブック型コンピュータ及び他の小型装置用の電源に応用する場合には、小さな透磁率(100-300)、非常に低い鉄損及び飽和磁化性を有すると共に、高いDCバイアス磁界に耐えることのできる、極めて小型の電気チョークが必要とされる。
発明の概要
本発明は、100から400の範囲の透磁率及び低い鉄損(100kHz及び0.1Tで70W/kg未満)を有する、約8mmから45mmの範囲(OD)の寸法の電気チョークを提供する。その磁気特性は、DCバイアスの下で維持される(初期透磁率の少なくとも40%が、3,980A/m又は50OeのDCバイアス電界の下で維持される)ので効果的である。
また、Fe基材のアモルファス合金を制御した状態で熱処理してアモルファスリボン本体を部分的に結晶化させて、コアに微小ギャップを生じさせるための方法が、本発明によって提供される。分布ギャップが生ずる結果、上述の特性が得られる。
より詳細に言えば、本発明によれば、結晶化の度合いと透磁率との間の独特な関係がもたらされる。100から400の範囲の透磁率を得るために、アモルファスコア本体の結晶化が必要とされ、コアの体積の10乃至25%程度を結晶化させるのが好ましい。
更に、本発明は、所望のチョーク特性を得るために、ある種の温度及び時間の焼き鈍し処理パラメータ、並びに、これらパラメータの制御度合いを必要とする。」(4?6頁)

ハ.「 好ましい実施例の説明
図1は、焼き鈍し処理されたFe基材の磁気コアの透磁率を焼き鈍し処理温度の関数として示している。透磁率は、10kHzの周波数、8回転のジグ及び100mVのAC励磁電圧において、誘導ブリッジで測定した。焼き鈍し処理時間は、6時間で一定とした。総てのコアは、不活性ガス雰囲気中で焼き鈍し処理を受けた。種々の曲線は、化学組成が少し変動し従って結晶化温度が少し変化するFe基材合金を表している。結晶化温度は、示差走査熱量計(DSC)によって測定した。一定の焼き鈍し処理時間に関して焼き鈍し処理温度を増加させると、透磁率の減少が観察された。与えられた焼き鈍し処理温度に関して、結晶化温度に従う透磁率の目盛、すなわち、透磁率は、最も高い結晶化温度を有する合金について最も大きい。
図2は、焼き鈍し処理を受けた同じ化学組成を有するコアの透磁率を焼き鈍し処理温度の関数として示している。種々の曲線は、異なる焼き鈍し処理時間を表している。そのプロットは、450℃よりも高い温度に関して、焼き鈍し処理温度の効果は、焼き鈍し処理時間の効果よりも支配的であることを示している。
適宜な焼き鈍し処理温度及び焼き鈍し処理時間の条件が、図1及び図2の情報に基づいて、Fe-B-Si基材のアモルファス合金について選択される。この選択は、その合金の結晶化温度(Tx)及び/又は化学組成が既知である場合に行うことができる。例えば、Fe_(80)B_(11)Si_(9)(Tx=507℃)に関して100乃至400の範囲の透磁率を達成するためには、420乃至425℃の範囲の焼き鈍し処理温度で6時間の焼き鈍し処理を行うのが適当である。
図1を再度参照すると、1?2℃未満の温度変動を維持した場合に、与えられた透磁率の値について再現性及び均一性が得られる。炉の中の温度の均一性及び再現性が確立されるように焼鈍プロセスを行うために、特殊な装填形熊が開発された。箱型の不活性ガス炉に関して、ワイヤメッシュのAlプレート(アルミニウム板)2を図3に示すように積み重ね、この構造体を炉の中央に置く。上記Alプレートは、焼き鈍し処理の間にコア1を保持する基材である。
鉄損及びDCバイアスの如き、チョークに関する代表的な磁気特性データが、図4及び図5に示されている。鉄損のデータは、DCバイアス電界の関数としてプロットされており、種々の曲線は、異なる測定周波数を示している。図示のデータは、25mmのOD(外径)を有するコアに関するものである。チョークの性能に関する重要なパラメータは、コアをDCバイアス電界で駆動した時に残る初期透磁率のパーセントすなわち割合である。図5は、35mmのODを有するコアに関する代表的なDCバイアス曲線を示している。
断面走査電子顕微鏡法(SEM)、及び、X線回折法(XRD)を行って、焼き鈍し処理を受けたコアの分布及び結晶化パーセントを測定した。図6は、代表的な断面走査電子顕微鏡写真を示しており、これら写真は、合金の本体及び表面が共に結晶化していることを示している。このことは、表面だけが結晶化される上述の米国特許第4,812,181号に記載されている方法とは容易に区別される。
結晶化の体積パーセントをSEM及びXRDの両方のデータから決定し、その結果を透磁率の関数として図7にプロットした。100乃至400の範囲の透磁率に関して、5乃至30%の範囲の本体の結晶化が必要とされる。」(6?8頁)


上記引用例の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず、上記イ.1.にあるように、引用例記載の「電気チョーク」は、「磁気コア」を備え、「該磁気コアは、部分的に結晶化されたFe基材のアモルファス金属合金から本質的に構成される」ものである。

また、上記「部分的に結晶化された」の構成における部分的な「結晶化」とは、
上記イ.3.の「前記アモルファス金属合金の結晶化温度及び化学組成に依存する温度及び時間のパラメータにおいて前記チョークを保護雰囲気中で焼き鈍し処理する焼き鈍し処理工程」、
上記ロ.5頁下から6?5行の「Fe基材のアモルファス合金を制御した状態で熱処理してアモルファスリボン本体を部分的に結晶化させて、コアに微小ギャップを生じさせる」、
などの記載によれば、「焼き鈍し処理」(熱処理)によって本来非晶質のアモルファス合金の部分的な「結晶化」がなされるものであり、
前記「アモルファスリボン」との記載、および上記ハ.6頁下から7行の「焼き鈍し処理されたFe基材の磁気コア」との記載なども踏まえれば、前記「アモルファス金属合金」は「アモルファス金属合金リボン」の形態であり、これを巻くなどして「磁気コア」を構成するのは明らかであるから、引用例には『焼き鈍し処理されているFe基材のアモルファス金属合金リボンを含む磁気コア』の記載があると言うことができる。

また、上記ロ.2.の「電気チョークは、エネルギ蓄積インダクタである。」との記載、および「磁気コア」に導線(コイル)を巻くことにより「インダクタ」が構成されるという技術常識を勘案すれば、「インダクタ」は「磁気コア」を有し「電気チョーク」を構成するから、結局引用例には、
『焼き鈍し処理されているFe基材のアモルファス金属合金リボンを含む磁気コアを有するインダクタを備えた電気チョーク』が記載されている。

また、「磁気コア」が磁性体として所定の「透磁率」を有することも技術常識であるが、
上記イ.2.には「10kHzにおいて約100から400の範囲の透磁率」とあり、
同箇所後段には「鉄損が100kHz及び0.1Tバイアス磁界において70W/kgよりも小さく」とあり、
更に引用例【図4】には「周波数」が25?200KHzの範囲における「鉄損」の測定例が記載されており、これらの周波数範囲において磁性体である「磁気コア」が磁性材料としての特性の1つである「鉄損」を有する以上、一定値とは限らないものの、磁性材料として所定の「透磁率」を有することは当然であるから、引用例記載の「磁気コア」は『少なくとも10?200KHzの周波数範囲にわたり所定の透磁率を有する』ものである。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「 焼き鈍し処理されているFe基材のアモルファス金属合金リボンを含む磁気コアを有するインダクタを備えた電気チョークであって、磁気コアは少なくとも10?200KHzの周波数範囲にわたり所定の透磁率を有する、電気チョーク。」


4.対比・判断
本願発明と上記引用発明を対比する。
まず、引用発明の「焼き鈍し処理」は本願発明の「アニール」(anneal:焼き鈍し)であって、「Fe基材のアモルファス金属合金リボン」は「鉄ベースのアモルファス合金リボン」であり、「磁気コア」は「コア」である。
また、引用発明の「少なくとも10?200KHzの周波数範囲」と、本願発明の「1?1000kHzの周波数範囲」は、「所定の周波数範囲」の点で一致し、
「所定の透磁率」と「一定の透磁率」は「所定の透磁率」の点で一致する。
そして、引用発明の「電気チョーク」と本願発明の「バンドパス・フィルタ」は、共に電気回路に用いられる部品であるから、両者は「電気回路部品」の点で一致する。
したがって、両者は以下の点で一致し、また相違している。

(一致点)
「 アニールされている鉄ベースのアモルファス合金リボンを含むコアを有するインダクタを備えた電気回路部品であって、コアは所定の周波数範囲にわたり所定の透磁率を有する、電気回路部品。」

(相違点1)
「アニール」に関し、
本願発明は「コアの磁気励起に対して垂直に磁界を適用することにより」、「アニール」されているのに対し、
引用発明の「焼き鈍し処理」にはその様な要件はない点。

(相違点2)
「コア」の特性に関し、
本願発明では「コアは1?1000kHzの周波数範囲にわたり線形の磁化曲線(B-Hループ)および一定の透磁率を有する」のに対し、
引用発明では「磁気コアは少なくとも10?200KHzの周波数範囲にわたり所定の透磁率を有する」点。

(相違点3)
「電気回路部品」に関し、
本願発明は「バンドパス・フィルタ」であるのに対し、引用発明は「電気チョーク」である点。


まず、上記相違点1の「コアの磁気励起に対して垂直に磁界を適用することにより」、「アニール」する点について検討する。
すると、例えば特開昭57-202709号公報(以下、「周知例1」という。)には、
「Fe系非晶質磁性材料を、キューリー点Tc以下の温度で実質的に励磁方向と直角方向(通常はリボン巾方向)の磁場中で焼鈍することにより、極めて角型比の小なるB-Hカーブを有し数10KHz以上の高周波領域で優れた交流磁気特性を有する磁性材料を実現した」(2頁右上欄1?6行)とあり、
また、特開平1-247556号公報(以下、「周知例2」という。)には、
「従来から、各種電子機器やスイッチング電源等のノイズ除去に用いられるコモンモードチョークや高周波トランス用合金には、低角形比でB-H曲線の形がフラットで恒透磁率性に優れた合金が好まれて使用されている。
このような合金としては、磁路と垂直方向に磁場を印加しながら磁場中熱処理したパーマロイや磁路と垂直方向に磁場を印加しながら磁場中熱処理したアモルファス合金、表面を酸化させたFe基アモルファス合金等が知られている。」(2頁左上欄下から5行?右上欄5行)とあるように、
「鉄ベースのアモルファス合金をアニール(焼鈍)する際に、磁気励起に対して垂直に磁界を適用すること」は周知技術であったものと認められる。
したがって、この様な周知技術を引用発明の「焼き鈍し処理」に適用して、相違点1の構成をなすことは当業者であれば容易に想到し得た事であって、相違点1は格別のことではない。

ついで、上記相違点2の「コア」の特性(周波数範囲、線形の磁化曲線、透磁率)について検討する。
まず、本願発明の「1?1000kHzの周波数範囲」について検討すると、そもそもそのような周波数範囲で所定の特性を持たせるための構成要件に関して、本願発明には特段の限定は無く、本願明細書(【FIG4a】、【0018】等)を参照しても、その周波数範囲に格別の臨界的意義がある旨の記載も見あたらず、本願明細書記載のコア材料の組成やアニール方法を検討しても、引用例記載のものと特段の相違があるものとも認められない。
更に、上記周知例1,2にも「数10KHz以上の高周波領域で優れた交流磁気特性を有する」、「高周波トランス用合金」とあるように、前記周知技術の適用によって高周波特性が改善することは、これも広く知られていたものと認められるから、引用発明の「少なくとも10?200KHzの周波数範囲」を「1?1000kHzの周波数範囲」とすることは、例え本願発明や本願明細書に記載のない、何らかの創意工夫、改善があったにせよ、記載がない以上、単に望ましい周波数範囲を広げたに過ぎず、当業者であれば容易に想到し得た事であって、格別のことではないと言わざるを得ない。

また、「線形の磁化曲線(B-Hループ)」について検討すると、一般に磁性材料の特性として「磁化曲線(B-Hループ)」があることは技術常識であって、その曲線の形状が「角型比」(角形比)のようなパラメータで特徴付けられる履歴特性(ヒステリシスループ)を有することも同様であるが、
高周波用の電気回路部品としての用途には「極めて角型比の小なるB-Hカーブ」、「低角形比でB-H曲線の形がフラット」であることが好ましいことも上記周知例1,2には記載がある。
このような低角形比の「磁化曲線(B-Hループ)」が、所定の磁界強度Hの範囲で「線形の磁化曲線(B-Hループ)」と呼ぶことができるものであることは、上記周知例1の第1図の2,周知例2第4図のほか、更に必要とあれば、特開昭57-169207号公報(以下、「周知例3」という。)第1図、特開平6-100999号公報(以下、「周知例4」という。)【図1】からも明らかである。
そして、このような「線形の磁化曲線(B-Hループ)」が、ある程度の周波数範囲であれば特性が変わらないのも当然であるから、前記「周波数範囲」に関する判断を踏まえれば、「1?1000kHzの周波数範囲にわたり線形の磁化曲線(B-Hループ)」を有するようなすことも当業者であれば容易に想到し得た事であって、格別のことではない。

そして、「一定の透磁率」の点については、これもある程度の周波数範囲であれば磁性材料の特性としての「透磁率」も大きくは変わらないのは当然のことであるが、前記周知例2?4にも「恒透磁率性」、「恒透磁性」、「恒透磁率特性」として記載のあることであって、前記「周波数範囲」に関する判断をも踏まえれば、当業者であれば容易に想到し得た事であって、格別のことではない。

さいごに、相違点3の「電気回路部品」(バンドパス・フィルタ/電気チョーク)について検討する。
引用発明の「電気チョーク」とは、「チョークコイル 」(choke coil)などとして、もっぱら直流や、目的の周波数より低い周波数の電流(電力や信号)を通し、目的の周波数より高い電流を阻止するために用いられるインダクタであって、それ自身一種のフィルタとして機能するものであるが、インダクタとコンデンサ(キャパシタ)などを組み合わせて「バンドパス・フィルタ」も含む様々な周波数特性のフィルタを構成可能であることは、電気回路における技術常識である。
さらに言えば、上記周知例には「ノイズフィルター」(周知例1、1頁右下欄4?5行)、「通信機の濾波回路」(周知例3、1頁左下欄下から4行、当審注:「濾波回路」の「濾」の文字は対応する漢字をあてた。なお「濾波回路」とは「フィルタ」のことである。)、「通信機のフィルター回路」(周知例4、【0001】)のような「フィルタ」が、アモルファス合金コアを使用して構成可能であることが示唆されており、
いずれにせよ「電気回路部品」としての引用発明の「電気チョーク」を「バンドパス・フィルタ」に替えることは、当業者であれば容易に想到し得た事であって、格別のことではない。


そして、本願発明の効果も上記引用発明および周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであり、当審の拒絶理由通知に対する意見書における審判請求人の主張も、これらの認定を覆すものではない。


5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-17 
結審通知日 2013-06-18 
審決日 2013-07-01 
出願番号 特願2003-566979(P2003-566979)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 石丸 昌平
関谷 隆一
発明の名称 鉄ベース・コアを有するフィルタ回路  
代理人 富田 博行  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 社本 一夫  
代理人 千葉 昭男  
代理人 夫馬 直樹  

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