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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録(定型) C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録(定型) C08L
管理番号 1281337
審判番号 不服2013-16471  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-26 
確定日 2013-11-26 
事件の表示 特願2009-126712「ポリアミド樹脂組成物及びその製造方法並びに冷媒輸送用ホース」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 9日出願公開、特開2010-275361、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成21年5月26日を出願日とする特許出願であって、平成25年3月15日付けで拒絶理由が通知され、同年5月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、平成25年5月10日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(a)ポリアミド樹脂と、(b)ポリオレフィン系エラストマーと、(c)2価もしくは3価の金属の水酸化物、酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物と含むポリアミド樹脂組成物を製造する方法において、
(c)金属化合物と(a)ポリアミド樹脂とを混練する第1の混練工程と、
該第1の混練工程で得られた混練物と(b)ポリオレフィン系エラストマーとを混練する第2の混練工程と
を含むポリアミド樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリアミド樹脂組成物中のポリマー成分と(c)金属化合物との合計に対する(c)金属化合物の割合が1?10重量%であり、
前記ポリオレフィン系エラストマーの少なくとも一部が酸変性されていることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記(c)金属化合物がハイドロタルサイトであることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ポリアミド樹脂組成物のポリオレフィン系エラストマーの含有量がポリアミド樹脂組成物の総重量に対して10?45重量%であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法により製造されたポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4において、冷媒輸送用ホースのガスバリア層形成用ポリアミド樹脂組成物であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
ポリアミド樹脂組成物よりなるガスバリア層を有する冷媒輸送用ホースにおいて、該ポリアミド樹脂組成物が請求項4又は5に記載のポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする冷媒輸送用ホース。
【請求項7】
請求項6において、前記ガスバリア層の外周側に、補強糸よりなる補強層と外被ゴム層とが設けられていることを特徴とする冷媒輸送用ホース。」

そして、本願請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は上記に記載したとおり、「請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法により製造されたポリアミド樹脂組成物」という物の発明である。

第3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた平成25年3月15日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2の概要はそれぞれ、本願発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない(理由1)、あるいは、本願発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(理由2)、というものである。



引用文献1:特開平8-104806号公報
引用文献2:特開平5-38746号公報

第4.原査定の拒絶の理由の妥当性について
1.理由1について
1-1.引用文献1について
(1)引用文献の記載事項
引用文献1には、以下の記載が認められる。

(摘示1a)
「【請求項11】 ポリアミド樹脂に、下記の(A)成分が配合され、この(A)成分の配合割合が、ポリアミド樹脂100重量部に対して2?20重量部の範囲に設定されていることを特徴とする樹脂組成物。
(A)周期律表のII族に属する金属の酸化物および周期律表のII族に属する金属の水酸化物の少なくとも一方。」(特許請求の範囲、請求項11)

(摘示1b)
「上記ポリアミド樹脂としては、特に制限するものではなく、従来から燃料ホースの分野で一般的に使用されているものがあげられる。・・・そして、柔軟性付与を目的として、上記ポリアミド樹脂に可塑剤やエラストマーを配合したもの、あるいは上記ポリアミド樹脂とポリエーテル,ポリエステルを共重合したものを使用することも可能である。」(段落【0019】)

(摘示1c)
「上記ポリアミド樹脂への、周期律表のII族に属する金属の酸化物および周期律表のII族に属する金属の水酸化物の少なくとも一方〔(A)成分〕の配合は、一般的な樹脂混練機が用いられ、混練することにより樹脂組成物が得られる。上記樹脂混練機のなかでも、二軸混練押出機が好適に用いられる。」(段落【0027】)

(摘示1d)
「【実施例1】 まず、後記の表1に示す材料および条件により、フッ素樹脂製内層およびポリアミド樹脂製外層からなる2層構造の燃料ホースを作製した。すなわち、ポリアミド樹脂(ナイロン11)に可塑剤,酸化マグネシウムとを配合し、ラボプラストミル(モデル80C100,東洋精機社製)を用いて230℃で混練を行い、外層形成用樹脂組成物を調製した。・・・
【実施例2?22、比較例1?4】 後記の表1?表7に示す材料および条件で、実施例1と同様の操作を行い、2層構造のホースを作製した。」(段落【0049】?【0051】)

(2)引用文献に記載された発明
引用文献1には、摘示1aの記載からみて、「ポリアミド樹脂に、(A)周期律表のII族に属する金属の酸化物および周期律表のII族に属する金属の水酸化物の少なくとも一方の成分が配合され、この(A)成分の配合割合が、ポリアミド樹脂100重量部に対して2?20重量部の範囲に設定されている樹脂組成物」が記載されている。また、摘示1b、1dから、柔軟性付与を目的として、かかるポリアミド樹脂に可塑剤や「エラストマー」を配合したものを使用することも可能であること、当該エラストマーとして実施例では「マレイン酸変性EPR」が具体的に配合されることが記載されている。

したがって、引用文献1には、
「ポリアミド樹脂に、マレイン酸EPR等のエラストマー、(A)周期律表のII族に属する金属の酸化物および周期律表のII族に属する金属の水酸化物の少なくとも一方の成分が配合され、この(A)成分の配合割合が、ポリアミド樹脂100重量部に対して2?20重量部の範囲に設定されている樹脂組成物」
なる発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比
本願発明と引用発明Aとを対比すると引用発明Aにおける「マレイン酸EPR等のエラストマー」、及び、「(A)周期律表のII族に属する金属の酸化物および周期律表のII族に属する金属の水酸化物の少なくとも一方の成分」はそれぞれ、本願発明における「少なくとも一部が酸変性されているポリオレフィン系エラストマー」、及び、「2価の金属の水酸化物、酸化物の金属化合物」に相当する。また、引用発明Aにおける「(A)成分の配合割合が、ポリアミド樹脂100重量部に対して2?20重量部の範囲」は、本願発明における「ポリアミド樹脂組成物中のポリマー成分と(c)金属化合物との合計に対する(c)金属化合物の割合が1?10重量%」とその配合割合が重複一致している。

したがって、両発明は、
「(a)ポリアミド樹脂と、(b)ポリオレフィン系エラストマーと、(c)2価もしくは3価の金属の水酸化物、酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物とを含むポリアミド樹脂組成物を製造する方法において、前記ポリアミド樹脂組成物中のポリマー成分と(c)金属化合物との合計に対する(c)金属化合物の割合が1?10重量%であり、前記ポリオレフィン系エラストマーの少なくとも一部が酸変性されている、ポリアミド樹脂組成物の製造方法により製造されたポリアミド樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の相違点で相違するものと認められる。

相違点A
ポリアミド樹脂組成物の製造方法について、本願発明においては、(c)金属化合物と(a)ポリアミド樹脂とを混練する第1の混練工程と、該第1の混練工程で得られた混練物と(b)ポリオレフィン系エラストマーとを混練する第2の混練工程を含むのに対し、引用発明Aにおいては、混練工程について格別特定していない点

(4)相違点についての検討
上記相違点Aについて検討する。
引用文献1には、樹脂組成物の各成分の配合について、摘示1cから、ポリアミド樹脂への(A)成分の配合は、一般的な樹脂混練機が用いられ、混練することにより樹脂組成物が得られる旨記載されている。さらに、実施例1では、ポリアミド樹脂に可塑剤、酸化マグネシウムとを配合し、ラボプラストミルを用いて混練を行い、樹脂組成物を調製する方法が具体的に示されており、ポリアミド樹脂、エラストマー、(A)成分を配合した実施例(実施例3等)についても、実施例1と同様の操作を行うことが記載されている(摘示1d)。
してみれば、引用発明Aのポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂、エラストマー、(A)成分を含む樹脂組成物は、これらすべての成分の配合物を樹脂混練機で一度に混練することにより得られるものであると解することができるが、(A)成分とポリアミド樹脂とを混練する第1の混練工程と、該第1の混練工程で得られた混練物とエラストマーとを混練する第2の混練工程を含む製造方法によって得られたものと解することはできず、上記相違点Aは実質的なものといわざるをえない。

ここで、生産物を製造方法によって特定した場合、かかる製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知であるときは、当該生産物に係る発明の新規性は否定される。例えば、「製造方法Pにより生産されるタンパク質」において、製造方法Qにより製造される公知のタンパク質Zが、製造方法Pにより製造されるタンパク質と同一である場合には、方法Pが新規であるか否かにかかわらず、新規性が否定される(「特許・実用新案審査基準」第II部第2章新規性進歩性1.5.2(3)参照)。
そこで、上記した事項に基づき、本願発明と引用発明Aとを対比するに、本願発明における「ポリアミド樹脂組成物」は、本願請求項1?3のいずれかに記載の製造方法によって、製造された樹脂組成物であり、本願明細書等の段落【0023】?【0024】から、本願発明によれば、「ポリアミド樹脂にポリアミド樹脂に予め金属化合物を混練した後ポリオレフィン系エラストマーを混練することにより得られる樹脂組成物では、金属化合物が主としてポリアミド樹脂相に存在するものとなり、金属化合物によるポリアミド樹脂の劣化防止作用、即ち、冷媒やオイルに含まれる酸成分やハロゲン成分等のポリアミド樹脂の劣化要因物質を金属化合物がトラップする作用がポリアミド樹脂相内で直接的に有効に機能するようになる」という効果を有するものであり、その効果は、「混練の手順により、金属化合物による劣化防止効果に差異があり、金属化合物を予めポリアミド樹脂に混練し、その後ポリオレフィン系エラストマーを混練することにより、これらを一度に混練する場合や、金属化合物を予めポリオレフィン系エラストマーに混練した後ポリアミド樹脂を混練する場合、或いはポリアミド樹脂とポリオレフィン系エラストマーとのポリマーアロイに金属化合物を混練する場合よりも、金属化合物による劣化防止効果がより一層有効に発揮される」ものである。
なお、この効果の具体的な確認について、本願明細書等の実施例において、ポリアミド樹脂とポリオレフィン系エラストマーとのポリマーアロイに金属化合物を混練する場合のポリアミド樹脂組成物との比較が行われており、一度に混練する場合のポリアミド樹脂組成物との比較については、平成25年8月26日提出の審判請求書において追加実験により得られた樹脂組成物の物性が異なることの確認が行われている。
してみると、本願発明における「ポリアミド樹脂組成物」は、「金属化合物が主としてポリアミド樹脂相に存在するポリアミド樹脂組成物」であると認められる。
これに対し、引用発明Aのポリアミド樹脂組成物は、上記検討のとおり、引用発明Aのポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂、エラストマー、金属化合物を含む樹脂組成物は、これらすべての成分の配合物を樹脂混練機で一度に混練することにより得られるものであると解することができるところ、本願発明の混練工程、すなわち、金属化合物とポリアミド樹脂とを混練する第1の混練工程と、該第1の混練工程で得られた混練物とエラストマーとを混練する第2の混練工程を含む製造方法によって得られるポリアミド樹脂組成物と比較して、金属化合物がエラストマー相にもより均一に分散している蓋然性が高いといえるし、少なくとも、混練状態は異なることから、ポリアミド樹脂組成物中の金属化合物が同一の分散状態であると解することは困難である。してみると、本願発明のポリアミド樹脂組成物と引用発明Aのポリアミド樹脂組成物とは異なる製造方法により製造される同一の物であるということはできない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるということはできない。

1-2.引用文献2について
(1)引用文献の記載事項
引用文献2には、以下の記載が認められる。

(摘示2a)
「【請求項1】A(a)ヘキサメチレンアジパミド成分 50?90重量%、(b)ヘキサメチレンテレフタラミド成分 5?40重量%、(c)ヘキサメチレンイソフタラミド成分 5?30重量%からなるポリアミドであって、融点(Tm)、結晶化温度(Tc)がそれぞれ、
Tm≧225℃
Tc≦230℃
を満足する結晶性のポリアミド100重量部に対し、
B 耐熱性改良剤 0.001?10重量部、
C 難燃剤 5?150重量部、
D 難燃助剤 1?50重量部、
E ハロゲン補捉剤 0?20重量部
を配合してなる難燃性ポリアミド組成物であって、かつ溶融粘度が式(I)および(II)を満足する組成物を成形してなる難燃性ポリアミド吹込成形品。
ln μa10≧10.50-0.04(T-Tm)・・・・・・・(I)
μa10/μa1000≧3.3 ・・・・・・・(II)
ここで、
Tm :ポリアミドの融点(℃)
T :Tm+10℃≦T≦Tm+70℃を満足する温度(℃)
μa10 :温度T(℃)、せん断速度10(sec -1)における溶融粘度(ポイズ)
μa1000:温度T(℃)、せん断速度1000(sec -1)における溶融粘度(ポイズ)
【請求項2】請求項1記載の難燃性ポリアミド組成物に、さらにポリアミド 100重量部に対し、エラストマー 5?100重量部を配合してなる難燃性ポリアミド組成物であって、その溶融粘度が請求項1記載の式(I)および式(II)を満足し、ポリアミドマトリックス相中に分散されたエラストマーからなる分散相の平均粒径が、10ミクロン以下である組成物を吹込成形してなる難燃性ポリアミド吹込成形品。」(特許請求の範囲、請求項1及び2)

(摘示2b)
「本発明で用いるハロゲン補捉剤は、ハロゲン系難燃剤を用いる場合に特に有効である。ハロゲン補捉剤としては炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、オルガノホスフェイト化合物(例えば、フェロー社のAM-595など)、ハイドロタルサイト類化合物(例えば、協和化学工業株のDHT-4A、キョーワード1000、2000、1100、2100など)が挙げられる。・・・
本発明で用いるエラストマーはエラストマーに分類されるものであれば特に制限がなく、市販されているものでも使用することができる。特に有用なものとしては、アイオノマー樹脂、エポキシ変性ポリオレフィン、カルボキシ変性ポリオレフィン、エポキシ/カルボキシ混合変性ポリオレフィンなどが挙げられる。」(段落【0026】?【0027】)

(摘示2c)
「・・・しかし、本発明で用いるエラストマーはポリアミドとの相溶性が良好なので比較的容易にここで規定された緊密な混合状態を達成することができるが、より好ましくは吹込成形をする前に一度押出機で溶融混練することが望ましい。エラストマーを組成物の構成要素とする場合は、全て同様に処置するのが好ましい。」(段落【0031】)

(摘示2d)
「実施例 1
参考例1のポリアミド種N-1を固相重合して280℃、せん断速度10sec ^(-1)での溶融粘度がμa10=60000ポイズのポリアミドを得た。このポリアミド100重量部、フエロー社製臭素化ポリスチレン(“パイロチェック”68PB)28重量部、三酸化アンチモン6重量部、ヨウ化銅0.03重量部、ヨウ化カリウム0.2重量部をおよびハイドロタルサイト類化合物(協和化学工業株製DHT-4A)0.3重量部をヘンシェルミキサーで混合し、この混合物を池貝(株)製PCM30 2軸押出機のホッパーに供給し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練し、ストランドを冷却後ペレタイザーでペレット化した。このペレットを真空乾燥した後、諸特性を評価し表2,3に示す結果を得た。この組成物は溶融粘度特性、難燃性、耐熱性および複雑形状の三次元吹込成形性に満足のいく特性を有していた。
・・・
実施例 6?11
参考例1のポリアミドを固相重合して、せん断速度10sec ^(-1)での溶融粘度μa10がN-1で60000ポイズ(T=280℃)、N-2で62000ポイズ(T=270℃)のポリアミドを得た。これらのポリアミド100重量部に対し耐熱性改良剤、難燃剤、難燃助剤、ハロゲン補捉剤およびエラストマー、加工安定剤を表4,5の配合比に計量・配合して実施例1と同様に操作して組成物を調製し、ペレット化した。このペレットを真空乾燥した後、諸特性を評価し表4,5に示す結果を得た。ここで得られた組成物は溶融粘度特性、難燃性、エラストマーの分散粒径、耐衝撃性、耐熱安定性および三次元吹込成形性において、満足のいく実用価値の高い特性を有していた。」(段落【0046】?【0051】)

(2)引用文献に記載された発明
引用文献2には、摘示2aの記載からみて、「ヘキサメチレンアジパミド成分50?90重量%、ヘキサメチレンテレフタラミド成分5?40重量%、ヘキサメチレンイソフタラミド成分5?30重量%からなるポリアミドであって、融点(Tm)、結晶化温度(Tc)がそれぞれ、Tm≧225℃、Tc≦230℃を満足する結晶性のポリアミド100重量部に対し、耐熱性改良剤0.001?10重量部、難燃剤5?150重量部、難燃助剤1?50重量部、ハロゲン補捉剤0?20重量部、エラストマー5?100重量部を配合してなる難燃性ポリアミド組成物であって、かつ溶融粘度が式(I)および(II)を満足する組成物を成形してなる難燃性ポリアミド吹込成形品」が記載されている。また、摘示2bから、ハロゲン補足剤としてハイドロタルサイト類化合物等を用いること、エラストマーとしてカルボキシ変性ポリオレフィン等を用いることが記載されている。

したがって、引用文献2には、
「ヘキサメチレンアジパミド成分50?90重量%、ヘキサメチレンテレフタラミド成分5?40重量%、ヘキサメチレンイソフタラミド成分5?30重量%からなるポリアミドであって、融点(Tm)、結晶化温度(Tc)がそれぞれ、Tm≧225℃、Tc≦230℃を満足する結晶性のポリアミド100重量部に対し、耐熱性改良剤0.001?10重量部、難燃剤5?150重量部、難燃助剤1?50重量部、ハイドロタルサイト類化合物等のハロゲン捕捉剤0?20重量部、カルボキシ変性ポリオレフィン等のエラストマー5?100重量部を配合してなる難燃性ポリアミド組成物であって、かつ溶融粘度が式(I)および(II)を満足する難燃性ポリアミド組成物」
なる発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比
本願発明と引用発明Bとを対比すると引用発明Bにおける、「カルボキシ変性ポリオレフィン等のエラストマー」、及び、「ハイドロタルサイト類化合物等のハロゲン捕捉剤」はそれぞれ、本願発明における「少なくとも一部が酸変性されているポリオレフィン系エラストマー」、及び、「2価の金属の水酸化物、酸化物の金属化合物」に相当する。そして、引用発明Bにおける「ヘキサメチレンアジパミド成分50?90重量%、ヘキサメチレンテレフタラミド成分5?40重量%、ヘキサメチレンイソフタラミド成分5?30重量%からなるポリアミドであって、融点(Tm)、結晶化温度(Tc)がそれぞれ、Tm≧225℃、Tc≦230℃を満足する結晶性のポリアミド」が本願発明における「ポリアミド樹脂」に包含されることは明らかである。また、引用発明Bにおける「結晶性のポリアミド100重量部に対し、ハロゲン捕捉剤0?20重量部」は、本願発明における「ポリアミド樹脂組成物中のポリマー成分と(c)金属化合物との合計に対する(c)金属化合物の割合が1?10重量%」とその配合割合が重複包含している。
また、本願発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン系エラストマー、金属化合物以外の成分を含有しうるものであり、発明の詳細な説明には、「他の添加剤、すなわち・・・耐熱材・・・なども添加することができる」(段落【0059】)旨記載されていることから、引用発明Bにおける「耐熱性改良剤、難燃剤、難燃助剤を含有するポリアミド組成物」は、本願発明のポリアミド樹脂組成物に包含されるものである。
そして、本願発明のポリアミド樹脂組成物はその溶融粘度について何ら特定されておらず、引用発明Bにおける「溶融粘度が式(I)および(II)を満足する難燃性ポリアミド組成物」の態様が、本願発明の「ポリアミド樹脂組成物」に包含されるものであるといえる。

したがって、両発明は、
「(a)ポリアミド樹脂と、(b)ポリオレフィン系エラストマーと、(c)2価もしくは3価の金属の水酸化物、酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物とを含むポリアミド樹脂組成物を製造する方法において、前記ポリアミド樹脂組成物中のポリマー成分と(c)金属化合物との合計に対する(c)金属化合物の割合が1?10重量%であり、前記ポリオレフィン系エラストマーの少なくとも一部が酸変性されている、ポリアミド樹脂組成物の製造方法により製造されたポリアミド樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の相違点で相違するものと認められる。

相違点B
ポリアミド樹脂組成物の製造方法について、本願発明においては、(c)金属化合物と(a)ポリアミド樹脂とを混練する第1の混練工程と、該第1の混練工程で得られた混練物と(b)ポリオレフィン系エラストマーとを混練する第2の混練工程を含むのに対し、引用発明Bにおいては、混練工程について格別特定していない点

(4)相違点についての検討
上記相違点Bについて検討する。
引用文献2には、樹脂組成物の各成分の配合について、摘示2cから、ポリアミド樹脂へのエラストマーの配合は、吹込成形をする前に一度押出機で溶融混練することが望ましい旨記載されている。さらに、実施例1では、ポリアミド樹脂にハイドロタルサイト類化合物等の配合成分をヘンシェルミキサーで混合し、その混合物を2軸押出機に供給し溶融混練し、樹脂組成物を調製する方法が具体的に示されており、ポリアミド樹脂、エラストマー、ハイドロタルサイト類化合物を配合した実施例(実施例6?11等)についても、実施例1と同様の操作を行うことが記載されている(摘示2d)。
してみれば、引用発明Bのポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂、エラストマー、ハイドロタルサイト類化合物を含む樹脂組成物は、これらすべての成分の配合物を樹脂混練機で一度に混練することにより得られるものであると解することができるが、ハイドロタルサイト類化合物とポリアミド樹脂とを混練する第1の混練工程と、該第1の混練工程で得られた混練物とエラストマーとを混練する第2の混練工程を含む製造方法によって得られたものと解することはできず、上記相違点Bは実質的なものといわざるをえない。
そして、上記1-1.(4)での検討のとおり、生産物を製造方法によって特定した場合、かかる製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知であるときは、当該生産物に係る発明の新規性は否定される、という事項に基づいて、本願発明と引用発明Bとを対比・検討した場合についても、上記1-1.(4)での検討と同様、引用発明Bのポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂、エラストマー、金属化合物を含む樹脂組成物は、これらすべての成分の配合物を樹脂混練機で一度に混練することにより得られるものであると解することができるところ、本願発明の混練工程、すなわち、金属化合物とポリアミド樹脂とを混練する第1の混練工程と、該第1の混練工程で得られた混練物とエラストマーとを混練する第2の混練工程を含む製造方法によって得られるポリアミド樹脂組成物と比較して、金属化合物がエラストマー相にもより均一に分散している蓋然性が高いといえるし、少なくとも、混練状態は異なることから、ポリアミド樹脂組成物中の金属化合物が同一の分散状態であると解することは困難である。してみると、本願発明のポリアミド樹脂組成物と引用発明Bのポリアミド樹脂組成物とは異なる製造方法により製造される同一の物であるということはできない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献2に記載された発明であるということはできない。

2.理由2について
(1)引用文献1に記載された発明を主たる発明とする場合について
本願発明と引用発明Aとは、上記1-1.(3)での検討のとおり、相違点Aで少なくとも相違するものと認められるところ、本願発明は、第1の混練工程及び第2の混練工程を含むことで、「金属化合物が主としてポリアミド樹脂相に存在するものとなり、金属化合物によるポリアミド樹脂の劣化防止作用、即ち、冷媒やオイルに含まれる酸成分やハロゲン成分等のポリアミド樹脂の劣化要因物質を金属化合物がトラップする作用がポリアミド樹脂相内で直接的に有効に機能するようになる」(段落【0024】)ことから、「冷却輸送用ホースのガスバリア層形成用ポリアミド樹脂組成物における特定の金属化合物による劣化防止効果を有効に発揮させて、より一層耐久性に優れた冷却輸送用ホースを提供し得るポリアミド樹脂組成物を提供する」(段落【0012】)という本願発明の課題を解決するものであるのに対し、引用文献1には上記課題とその解決手段との関係についての記載も示唆もない。また、引用文献2にも、ポリアミド樹脂組成物の配合成分の混練に際して、第1の混練工程及び第2の混練工程を含む混練工程は記載されておらず、上記課題とその解決手段との関係についての記載も示唆もない。さらに、上記課題とその解決手段との関係が本願出願時における当業者の技術常識であると認めるに足りる証拠は見当たらない。
してみれば、引用発明Aにおけるポリアミド樹脂組成物の配合成分を混練するに際して、第1の混練工程及び第2の混練工程を含む混練工程を採用することは想到容易であるということはできない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明を主たる引用発明として、当該引用発明、あるいは、当該引用発明及び引用文献2に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(2)引用文献2を主たる発明とする場合について
本願発明と引用発明Bとは、上記1-2.(3)での検討のとおり、相違点Bで少なくとも相違するものと認められるところ、上記2.(1)での検討と同様、引用文献2には上記課題とその解決手段との関係についての記載も示唆もない。また、引用文献1にも、ポリアミド樹脂組成物の配合成分の混練に際して、第1の混練工程及び第2の混練工程を含む混練工程は記載されておらず、上記課題とその解決手段との関係についての記載も示唆もない。さらに、上記課題とその解決手段との関係が本願出願時における当業者の技術常識であると認めるに足りる証拠は見当たらない。
してみれば、引用発明Bにおけるポリアミド樹脂組成物の配合成分を混練するに際して、第1の混練工程及び第2の混練工程を含む混練工程を採用することは想到容易であるということはできない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献2に記載された発明を主たる引用発明として、当該引用発明、あるいは、当該引用発明及び引用文献1に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

第5.むすび
以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-11-12 
出願番号 特願2009-126712(P2009-126712)
審決分類 P 1 8・ 121- WYF (C08L)
P 1 8・ 113- WYF (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 政志  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 大島 祥吾
塩見 篤史
発明の名称 ポリアミド樹脂組成物及びその製造方法並びに冷媒輸送用ホース  
代理人 重野 剛  

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