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審決分類 審判 全部無効 1項1号公知  E03F
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E03F
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  E03F
審判 全部無効 1項2号公然実施  E03F
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E03F
審判 全部無効 2項進歩性  E03F
管理番号 1281628
審判番号 無効2011-800193  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-10-03 
確定日 2013-01-31 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4658218号発明「封水蒸発防止剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成21年11月20日:出願(特願2009-265439号)
平成23年 1月 7日:設定登録(特許第4658218号)
平成23年10月 3日:本件審判請求
平成23年12月14日:被請求人より答弁書,訂正請求書提出
平成24年 1月12日:審理事項通知
平成24年 2月 6日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成24年 2月 7日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成24年 2月21日:被請求人より口頭審理陳述要領書(その2)
提出
平成24年 2月22日:口頭審理
平成24年 3月 5日:請求人より上申書提出
平成24年 3月12日:被請求人より上申書提出
平成24年 3月19日:請求人より上申書(その2)提出

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明は,特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
B廃油を、乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化して、さらに、比重を(ρ)とすると、0.98≦ρ< 1.0である水溶性液体を主成分としたことを特徴とする封水蒸発防止剤。
【請求項2】
乳化剤がアルカリ性洗剤である請求項1記載の封水蒸発防止剤。」
(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」という。)

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は,特許第4658218号の請求項1,及び2に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,その理由として,以下の無効理由1ないし5を主張し,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。

[無効理由]
(1)無効理由1(特許法第36条第6項第1号,第2号要件違反)
本件特許の請求項1及び2の記載は不明確であり特許法第36条第6項第2号の要件を満足せず,又は発明の詳細な説明に記載されたものではなく特許法第36条第6項第1号の要件を満足していない。
したがって,本件発明1及び2に係る特許は,特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。
(具体的な理由)
ア 本件発明1及び2の「B廃油」は,一般的に広く使用される明確な技術用語ではなく不明確であり,特許法第36条第6項第2号の要件を満足していない。
また,そのために,本件発明1及び2は,発明の詳細な説明に記載されたものでなく特許法第36条第6項第1号の要件を満足しない。
イ 本件発明1及び2は「水溶性液体を主成分とする」と規定されているが,「水溶性液体を主成分とする」とエマルジョン化した成分が封水に溶解して分離しなくなり,発明の詳細な説明及び図面に記載の作用効果は生じなくなるから,「水溶性液体を主成分とする」ことは,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,本件発明1及び2は,特許法第36条第6項第1号の要件を満足しない。

(2)無効理由2(特許法第36条第4項第1号要件違反)
本件発明1及び2は,「B廃油」を用いるものではあるが,当業者がB廃油を購入等入手することができないものであり,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから,特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。
したがって,本件発明1及び2に係る特許は,特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。

(3)無効理由3(特許法第29条第1項第3項及び第2項の規定)
本件発明1及び2は,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第1項第3号の規定に該当し,又は特許法第29条第2項の規定により特許に受けることができないものである。
したがって,本件発明1及び2に係る特許は,特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(具体的理由)
[特許法第29条第1項第3号について]
ア 本件発明1及び2の「B廃油」は不明確であるので,「食用の油」として認定すると,甲第1号証記載の油系成分である油脂類は「B廃油」に相当する。
イ 甲第1号証の段落【0027】にはエマルジョン化することについて開示があり,また,本件発明1及び2において,「乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化した」点には技術的意味はない。
ウ 甲第1号証において,油系成分を乳化させたものは比重0.98≦ρ< 1.0の範囲となるものを含む。
エ したがって,本件発明1及び2は,甲第1号証記載の発明と同一もしくは実質的に同一である。

[特許法第29条第2項について]
ア 甲第1号証には,乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化したことは記載されていないが,油系成分又はそれを含む水不溶成分は,エマルジョンを排除するものではなく,また,本件発明1,2において乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化したことは,安定性が望まれる成分を単に選択したことに過ぎず,甲第1号証記載の発明に基づいて容易に想到できる事項である。
イ 甲第1号証には,比重を1未満とすることが記載されており,また,比重を水に近づけ,封水中に分散させるメカニズムが開示されており,水に近い比重0.98≦ρとすることは容易に想到される。
ウ 本件発明2に関して,甲第1号証には,アルカリ性洗剤に含まれる界面活性剤(乳化を促進するもの)に関する示唆がなされているから,乳化剤をアルカリ性洗剤とすることは当業者が容易に想到できたことである。
エ したがって,本件発明1及び2は,甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである

(5)無効理由4(特許法第29条第1項,第2項違反)
本件発明1は,甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明であるか,本件特許出願前公然実施された発明であるから,特許法第29条第1項第2号又は第3号の規定により特許に受けることができないものである。
また,本件発明1及び2は,甲第1号証及び,甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明又は公然実施された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許に受けることができないものである。
したがって,本件発明1及び2に係る特許は,特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(具体的理由)
ア 甲第4号証ないし甲第7号証に示される公知のクリームを台所の流しに廃棄する行為は,本件特許の請求項1に係る発明の封水蒸発防止剤を実施する行為に相当するから,本件発明1及び2は,甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当する。
イ 甲第4号証ないし甲第7号証に記載されたような公知のクリームを台所の流しに廃棄する行為は公然実施されたものであって,封水蒸発防止剤を実施する行為に相当するから,発明本件発明1及び2は,特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当し,特許を受けることができないものである。
ウ 甲第1号証記載の封水蒸発防止剤として,甲第4号証ないし甲第7号証に記載されたクリームを採用することは当業者が容易になしうることであり,本件発明1及び2は,甲第1号証及び,甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2009-127355号公報
甲第2号証:理化学辞典 第5版 株式会社岩波書店,2003年11月10日発行,378,932,1005,1410ページ
甲第3号証:科学大辞典 第2版 丸善株式会社,平成17年2月28日発行,695,833,1168,1530ページ
甲第4号証:「乳製品の化学」地球出版株式会社,昭和36年1月25日発行,2?9ページ
甲第5号証:「乳製品製造I」株式会社朝倉書店,昭和38年10月30日発行,1?7ページ
甲第6号証:「加工食品の実際知識」東洋経済新報社,昭和53年8月30日発行,316?318ページ
甲第7号証:「食品科学便覧」初版 共立出版株式会社,昭和53年5月10日発行,228?229ページ
甲第8号証:請求人からアースデザインインターナショナル株式会社への「B廃油」の「購入申し入れ書」及び,アースデザインインターナショナル株式会社の「回答書」

2 被請求人の主張
被請求人は,答弁書及び訂正請求書を提出し,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,請求人主張の無効理由に対して以下のように反論するとともに,証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証を提出した。
(1)無効理由1に対して
本件特許の請求項1,2の記載に不備はなく,特許法第36条第6項第1号又は第2号の要件を満している。
(具体的理由)
ア 乙第1号証ないし乙第10号証に示すように「B廃油」は,産業廃棄物業界で一般的に用いられている技術用語であり明確である。
イ 本件発明の封水蒸発防止剤は,一旦封水(水)に溶けたのち,最終的に封水と分離するというものであり,請求項1中の「水溶性液体を主成分とした」との記載に不備はない。

(2)無効理由2に対して
「B廃油」は,産業廃棄物業界において簡単に入手可能なものであり,当業者は明細書等の記載から実施をすることができるものであるから,本件特許明細書の記載は,特許法第36条第4項第1号の要件を満している。

(3)無効理由3に対して
甲第1号証には,B廃油をエマルジョン化して,比重を0.98≦ρ< 1.0としたものを封水蒸発防止剤とすることは記載されていないから,本件発明1及び2は,甲第1号証に記載された発明ではない。
また,「3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化する」とは,甲第1号証のように手で振ってエマルジョン化するとは異なるものであり,本件発明1及び2は,甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)無効理由4に対して
甲第4号証ないし甲第7号証には,クリームが記載されているがB廃油とは関係がない。クリームを廃棄することは,封水蒸発防止剤の実施ではない。
したがって,本件発明1及び2は甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明,あるいは甲第4号証ないし甲第7号証に示される公知のクリームに係る発明ではないから,特許法第29条第1項第1号ないし第3号に該当するものではなく,また,甲第1号証及び甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものでもないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

[証拠方法]
乙第1号証:「廃棄物適正管理の豆知識」アース・デザイン・インターナショナル株式会社のホームページ(http://www.edi.ne.jp/trivia/trivia_06.html)
乙第2号証:特開2002-129080号公報
乙第3号証の1:平成24年2月1日付けの株式会社大口油脂代表取締役島村日出夫氏宛の照会書
乙第3号証の2:平成24年2月16日付けの株式会社大口油脂の回答書
乙第4号証:株式会社大口油脂作成の平成24年2月16日付けの株式会社東洋化研宛の見積書及び規格表
乙第5号証:名刺
乙第6号証:全国油脂事業協同組合連合会作成のパンフレット「UCオイルのリサイクルガイドライン」
乙第7号証:特開2002-121428号公報
乙第8号証:平成24年2月29日付けの株式会社Pick Up Galleryの回答書
乙第9号証:平成24年2月28日付けの特定非営利活動法人エヌピーオーワークグループの回答書
乙第10号証:平成24年2月27日付けのバーゼル貿易株式会社の回答書

第4 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件無効審判の訂正請求は,本件特許の願書に添付した明細書(以下,「本件特許明細書」という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり,その内容は,次のとおりである。

訂正事項
明細書2ページ11行(特許公報2ページ45行)における「食廃油」を「食廃油(すなわち食用油の廃油)」と訂正する。

2 訂正の目的,新規事項,特許請求の範囲の拡張,変更の有無
上記訂正事項は,訂正前の「食廃油」が,「食用油の廃油」であることを明確にするものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第3号に規定される明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして,「食廃油」が,食用油の廃油であることは明らかであり,上記訂正事項は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3 むすび
したがって,上記訂正事項は,第134条の2第1項ただし書きに適合し,特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項及び4項の規定に適合するから,当該訂正を認める。

第5 無効理由についての判断
1 無効理由1について
(1)「B廃油」について
ア 本件の明細書には,「B廃油」に関して次のように記載されている。
「そこで、本発明に係る封水蒸発防止剤は、B廃油を、乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化して、さらに、比重をρとすると、0.98≦ρ< 1.0である水溶性液体を主成分としたものである。」(段落【0006】)
「封水防止剤Eは、食廃油(すなわち食用油の廃油)がエマルジョン化されて、比重をρとすると、0.98≦ρ<1.0である水溶性液体が主成分である。・・・食廃油は、例えばB廃油とするのが好ましい。」(段落【0010】)
「実施例1として、B廃液 100ccに、乳化剤としてスマートウォッシュを 100cc加え、機械乳化によりB廃液を95%乳化させた封水蒸発防止剤Eを製造した。」(段落【0015】)
「また、食廃油をB廃油としたので、用途が狭いB廃油を有効活用することができる。」(段落【0021】)
これらの記載によれば,本件発明1及び2を特定する事項である「B廃油」は,食用油の廃油と認められるが,具体的にどのような廃油であるかは,本件明細書に明記されていない。

イ また,「B廃油」は,「理化学辞典」(甲第2号証)や「科学大辞典」(甲第3号証)に記載されておらず,法令で明確に定義された用語,あるいは学術用語として明確に定義された用語であるとはいえない。

ウ しかしながら,被請求人の提出した乙第6号証には,廃食用油脂であるUCオイルのリサイクルガイドラインが記載され,廃食用油脂は,回収され不純物を取り除いた後,再生油として,用途別に各種原料として出荷されることが示されている。
すなわち,乙第6号証には「UCオイルとは、・・・「廃食用油」のことで、外食店などから排出された使用済みの食用油や賞味期限切れ等によって廃棄処分されることになった食用油脂のことです。」(上段左欄),「UCオイルは下のフロー図のように専門の事業者により回収され、不純物を取り除いた後に石けんや飼料の原料としてリサイクルされています。」(上段右欄)と記載され,中段のフロー図には,産業廃棄物収集運搬業者(回収業者)により回収されたUCオイルは,産業廃棄物中間処理業者(再生工場)で処理され,用途別に各種原料として出荷されることが示されている。

また,乙第2号証には,「食品の製造や調理に使われた後の廃食油は、活性白土等でろ過して異物、ゴミ等を取り除いたものが再生植物油として工業的に利用されている。これら再生植物油は色調や臭気等で判定される油の傷みの程度により分類される。色調が薄く臭気の弱い良質の再生油(酸価3以下、油色;ガードナー7以下)は、植物油Aグレードと呼ばれ、以前から印刷インキや樹脂、脂肪酸等の原料として利用されている。・・・Aグレードの次に良質な再生油(酸価5以下、油色;ガードナー11以下)は植物油Bグレードと呼ばれる。これらA、Bグレードよりさらに品質が劣る回収油は、色が濃かったり臭気が強く低級な油のため工業的利用が難しく、大豆等の絞り粕等に混ぜ家畜の飼料に利用する等以外には使い道が無いのが実態である。」(段落【0002】?【0004】)と記載され,再生植物油は色調や臭気等で判定される油の傷みの程度により分類されていること,酸価3以下,油色がガードナー7以下の良質な再生油は植物油Aグレードと呼ばれ,次に良質な再生油である酸価5以下,油色がガードナー11以下のものは,植物油Bグレードと呼ばれ,これらA,Bグレードよりさらに品質が劣る回収油とは区別されていることが示されている。
さらに,乙第3号証の2,乙第8号証ないし乙第10号証には,「B廃油」を称される廃油が販売されていることが示されている。

エ 「B廃油」の定義についてみると,乙第3号証の2では「色調11以下のもの」,乙第8号証では「色調11以下,酸価5以下,ヨウ素価110?120」,乙第9号証では「色調11以下,酸価4以下,ヨウ素価110?」,乙第10号証では「ヨウ素価110程度,色調11以下」と記載されている。
また,被請求人が審査の過程で提出した平成22年7月14日付け意見書には「B廃油とは、食廃油を精製したものの一種類です。廃油を取扱う産業廃棄物(処理)業界に於て、精製の程度が高いものから、順に、A廃油、B廃油、C廃油として一般的に広く使用されている技術用語です。・・・B廃油は、一般的な廃油で低コストですが、精製の程度が低いので、用途が狭いという欠点があります。・・・具体的には、ヨウ素価の値によって、A廃油、B廃油、C廃油に分類されます。すなわち、A廃油とは、ヨウ素価が120を超える廃油であり、B廃油とは、ヨウ素価が110?120の廃油であり、C廃油とは、ヨウ素価が110以下の廃油を意味するものとして、上記産業廃棄物(処理)業界では慣用されています。」と記載されている。
これらの記載によると「B廃油」の定義は統一されているとは言い難いが,産業廃棄物中間処理業者において,食用油の廃油を分類し,良質な再生油であるA廃油に次いで良質な廃油であって,概ね,ガードナー色(油の色調)が11以下,酸価が5以下,ヨウ素価が110?120程度のものが,「B廃油」として,市場で取引されていたものと認められる。
このことは,請求人の平成24年3月5日付け上申書の5-2-5に,請求人が面談した複数の者が,廃油についてA,B等と名称を付けて取引することがあると述べたことが記載されていることからも明らかである。

オ そうすると,本件発明1,2を特定する「B廃油」とは,廃油の成分又は化学的特性を定義したものではなく,産業廃棄物中間処理業者が廃食用油脂の不純物を取り除いて再生した廃油であって,市場で市場で「B廃油」とランク付けされて取引されている廃食油を示すものと認められる。
したがって,本件発明1及び2を特定する「B廃油」が不明確であるとまではいえない。

(2)「水溶性成分を主成分とする」について
請求項1に記載の「水溶性成分を主成分とする」とは,エマルジョンが,水溶性成分からなる媒体に油性成分が分散している状態であることを意味していると解され,「水溶性成分を主成分とする」が不明確であるとはいえない。
そして,明細書の実施例には,B廃油100ccに対し,スマートウォッシュ(水溶液)100ccを加えて乳化すること,すなわち水溶性成分を50%とすることが記載されており,水溶性成分を主成分とすることが実質的に示されている。
また,封水蒸発防止剤を封水中に投入すると,安定したエマルジョン状態の封水蒸発防止剤は,エマルジョン状態で封水の表面を覆い,すなわち,油性成分の微粒子が乳化剤の作用で水溶性成分と結び付いた状態で,投入された封水から分離してその表面を覆い,封水作用を発揮することができるものと認められ,エマルジョンが水溶性成分を主成分とするものであることと,明細書記載の作用効果を奏することとは,矛盾するものではない。
したがって,「水溶性成分を主成分とする」は明確であり,また,発明の詳細な説明に記載された事項である。

よって,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号及び第2号の要件を満たしていないとすることはできない。

2 無効理由2について
上記「1 無効理由1について」で述べたとおり,「B廃油」は,市場で取引されているものであり,当業者が入手可能なものである。
なお,乙第7号証にも,「再生植物油としてはヨウ素価が116?121であるところの市場で再生植物油Bとして販売されているものを用いた。」と記載され,「B廃油」に相当するとみられる「再生植物油B」が市販されていることが記載されている。
したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものということができ,特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていないとすることはできない。

3 無効理由3について
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には,次の事項が記載されていると認められる。
(a)「【請求項1】
比重が1.0未満で、蒸気圧が水よりも低い水不溶性成分と、水系成分とを含む排水トラップの封水蒸発防止剤組成物。
【請求項2】
更に、界面活性剤を含む請求項1記載の封水蒸発防止剤組成物。
【請求項3】
水不溶性成分は、油脂、流動パラフィン、アルコール、ケトン、アルデヒド、エステル、シリコーン、炭化水素から少なくとも1種類以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の封水蒸発防止剤組成物。」

(b)「【0001】
本発明は、排水口部や配管等に取り付けられる水封型排水トラップの封水の蒸発防止剤組成物及び該組成物を用いた封水の蒸発防止方法に関し、より詳しくは、封水となる水と混合されて使用され該封水の蒸発を防止可能な蒸発防止剤組成物及び蒸発防止方法に関する。」

(c)「【0019】
上記水不溶性成分は、油脂類、流動パラフィン類、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類、エステル類、シリコーン類、炭化水素類から少なくとも1種類以上を含んでよい。特に、油脂類、流動パラフィン類、シリコーン類が好ましい。ここで流動パラフィンは、常温では無色の液体で非揮発性であるが、わずかに臭うものである。水には不溶である。・・・」

(d)「【0021】
排水トラップの封水蒸発防止方法においては、排水トラップにおける既に貯留されている封水と空気(相)との界面の間に、不揮発性の層を形成することを特徴とすることができる。しかしながら、排水トラップにおいて、排水口側の封水と空気(相)との界面へは容易にアクセスできるが、下水側の封水と空気(相)との界面へは容易にアクセスできない。排水口側であれば、排水口から不揮発性の層を形成する水よりも比重が小さい油系成分等を投入すればよい。しかしながら、下水側には直接アクセスする手段がなく、敢えて行えるとすれば、可曲性のパイプ若しくはチューブを下水側まで差し込みそのパイプ若しくはチューブにかかる油系成分を投入することができる。この場合であっても、パイプ若しくはチューブ内に封水が流れ込まないようにしなければならない。流れ込んだ封水がかかる油系成分が下水側に移動することを妨げるからである。本発明の封水蒸発防止方法においては、このような比重が低い油系成分を水系成分と混合し分散させることにより、分散された混合物の見かけの比重が水の比重に近く、排水口から投入される勢いにより、封水トラップの底部近傍若しくはそれを越えて下水側になるところまで、かかる分散された混合物を移動させることができる。その後、浮力により油系成分が分離して、封水の表面まで上昇するが、既に底部若しくは下水側に移動しているので、少なくとも一部は、下水側の封水と空気(相)との界面へ到達し、封水と空気(相)との直接接触を防止できる。例えば、比重1.0未満、蒸気圧が水よりも低い水不溶性成分(1?99質量%)と、水系成分(1?99質量%)とを混合し、分散させて、排水トラップに投入する。分散をより容易にするために、界面活性剤(0.001?30質量%)を更に加え、撹拌などで分散させることがより好ましい。
【0022】
ここで、上記水不溶性成分は油系成分を含んでよい。また、上記水不溶性成分の沸点は、水の沸点以上であることが好ましい。また、水不溶性とは、実質的に水に溶解しないものであればよい。例えば、多少溶解しても、不溶成分が溶解せずに残り、混合、乳化の後にこの不溶部分が相分離できればよい。尚、水に対する溶解度が、室温で1%以下であることがより好ましい。蒸気圧が低いとは、蒸発し難いことを意味することができる。例えば、室温で、蒸気圧が20mmHg以下であると好ましい。更に好ましくは、10mmHg以下である。そして、1mmHg以下であればより一層好ましい。この水不溶成分は、液体である。また、その比重は、水よりも小さいものが好ましく、例えば、0.999以下が好ましい。また、より好ましくは、0.95以下である。素早い相分離という観点から、0.9以下であればより一層好ましい。しかしながら、比重があまりに小さく、また、撥水性の高い流体の場合は、相分離が急速に起こるおそれがあり、また、分散が十分に行われないおそれがある。尚、このような水不溶成分は、2以上の化合物を混合することにより物理的に及び/又は化学的に生成されてもよい。また、水の表面にその層を広げやすい比較的粘度の低いものが好ましい。また、水が拡散して表面に出難いように、被覆性が高い方が好ましい。」

(e)「【0027】
図2は、洗面台10を例にとり、本発明の封水蒸発防止剤組成物を適用する方法を図解するものである。水及び封水蒸発防止剤組成物に不活性な材質からなる容器200に所定量の封水蒸発防止剤組成物202が入っている。そこに、水道等の管204から水206を所定の割合で混合する。そして容器200の封をし、しばらく静置すると、下から水の相206、封水蒸発防止剤組成物の相202、空気の相208ができる。これを容器ごと上下に撹拌すると、分離していた下から水の相206及び封水蒸発防止剤組成物の相202が混ざり合って乳化した液体210ができる。容器200の蓋を開け、洗面台10のシンク14に流すと、既に封水18が溜められた封水部に、この混合物が流れ込む。投入される乳化した液体210が大量の場合は、図2の左下(b)のように、封水部に乳化した液体210が入れ替わって溜まる。しばらく時間が経つと、比重がより低い封水蒸発防止剤組成物が表面に広がり、封水の表面を覆い、蒸発を防止する(図1(a))。
【0028】
一方、投入される乳化した液体210が少量の場合は、図2の右下(c)のように、封水部に溜められた封水に乳化した液体210が入り込み、封水部の底部を越えて、下水側に達する。しばらく時間が経つと、既に溜められた水と、投入により新たに加えられた水が合体し水相を底部に形成し、比重がより低い封水蒸発防止剤組成物は表面に広がる。このようにして、下水側にも投入された水に分散されて一体となって一緒に移動した封水蒸発防止剤組成物が封水の下水側の表面をも覆い、両側で封水の蒸発を防止する(図1(a))。」

(f)「【0031】
また、図2に示すように後から水を加えるのではなく、予め水系の液体と混ぜてそのまま排水管に流すことができる封水蒸発防止剤組成物とすることもできる。このような場合は、主成分としての油系成分は、環境への負荷の面から2?30質量%が望ましい。この混ぜられる水系成分は、純水、軟水、蒸留水、通常の水道水等を例として挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。経済性、貯蔵安定性の点から、水道水、イオン交換水が好ましい。この水系成分は、封水蒸発防止剤組成物中で1?99質量%の割合で配合されてよい。より好ましくは、10?70質量%である。
【0032】
本発明の封水型防止剤組成物には、更に、界面活性剤を含んでもよい。この界面活性剤は、主成分の油系成分と、後から加えられる水(封水蒸発防止剤組成物に水を加えて使用する場合)若しくは上述の水系成分(封水蒸発防止剤組成物をそのまま適用できる場合)と、を使用前に軽く上下に振るだけで内容物の油系成分が水中に乳化・分散できるものが好ましい。即ち、水封部分に投入する際に簡単な撹拌で、すばやく均一に混合できるようにする為に配合される。また、長期間放置される排水トラップ内の汚れを洗浄する効果を持たせることもできる。また、長期間放置される排水トラップに汚れが付着するのを防止するような効果を持たせることも可能である。更に、長期間放置された排水トラップを通常の使用状況に戻す際に、軽く水を流すだけで油系成分がすばやく排水トラップ中から排出されるようにする効果を持たせることもできる。このような界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも用いることができる。このような界面活性剤は、単体で用いても、二種以上の混合物で用いてもよい。上述する主成分である油系成分と、後から加えられる水(封水蒸発防止剤組成物に水を加えて使用する場合)若しくは上述の水系成分(封水蒸発防止剤組成物をそのまま適用できる場合)と、を排水トラップ中に投入する際に攪拌または振盪することにより、ほぼ均一に乳化・分散可能となるような量の界面活性剤を加えることが好ましい。即ち、油系成分と水系成分がほぼ均一に乳化・分散し、排水口に投入できる状態にできる界面活性剤の量であれば特に限られることはないが、一般には、0.001質量%以上が好ましく、30質量%以下が好ましい。更に好ましくは、5質量%以下である。」

(g)「【0036】
(実験1)
以下、具体的な実験例を説明する。表1に示す材料をそれぞれの配合割合に従い、混合し、実施例1から3及び比較例1をそれぞれ500cc準備し、ガラス容器に充填した。尚、各材料の商品名、一般名称、メーカ名を表2にまとめる。これらの混合物を充填した容器を密封し、それぞれ上下に20回激しく振り、静置し、10秒後に乳化の状態を目視で観察した。その結果を表1にまとめる。油剤、界面活性剤、防腐剤、色素、そして水を混ぜた実施例1は、乳化状態が非常に良好であった。油剤、界面活性剤、そして水を混ぜた実施例2も乳化状態が非常に良好であった。油剤、及び水だけを加えた実施例3では、乳化状態がやや良であったが、静置後直ぐに分離が始まっていた。」

(h)「【0039】
【表1】


【0040】
【表2】



表1に記載の「AJINOMOTO大豆白絞油」(大豆油)は食用油であり,また,実施例1,2において水系成分である蒸留水が主成分であることは明らかであるから,これらの記載によれば,甲第1号証には,次の発明が記載されていると認められる。
「比重が1.0未満で,蒸気圧が水よりも低い水不溶性成分と,水系成分としての水と界面活性剤とを含み,
前記水不溶性成分が,食用油を含むものであり,
投入時に攪拌または振盪することにより,水不溶性成分と水系成分とを均一に乳化分散させる,
水系成分を主成分とした排水トラップの封水蒸発防止剤組成物。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)本件発明1についての判断
本件発明1と甲1発明を対比すると,甲1発明の「排水トラップの封水蒸発防止剤組成物」は,本件発明1の「封水蒸発防止剤」に相当し,甲1発明において「均一に乳化分散させ」とは,本件発明1の「エマルジョン化した」に相当する。
また,甲1発明の「食用油」と本件発明1の「B廃油」とは「食用油由来の油」である点で共通する。
さらに,甲1発明の封水蒸発防止剤組成物は,比重が1.0未満の水不溶性成分と比重が1.0である水とを乳化分散させたものであるから,比重を(ρ)とすると,ρ< 1.0であることは明らかである。

したがって,両者は,次の点で一致する。
「食用油由来の油をエマルジョン化して,さらに,比重を(ρ)とするとρ< 1.0である水溶性液体を主成分とした封水蒸発防止剤。」

また,両者は次の点で相違する。
[相違点1]
食用油由来の油が,本件発明1では,「B廃油」であるのに対し,甲1発明では食用油であり,「B廃油」ではない点。
[相違点2]
エマルジョン化に関して,本件発明1は,「乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化している」のに対し,甲1発明は,投入時に攪拌または振盪することによりエマルジョン化させるものである点。
[相違点3]
本件発明1は,封水蒸発防止剤の比重(ρ)が0.98≦ρ< 1.0であるであるのに対し,甲1発明は,比重(ρ)がρ< 1.0であるものの,下限が0.98に限定されていない点。

上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
甲第1号証には,水不溶性成分としての油脂類は,比重が1.0未満で、蒸気圧が水よりも低いものであればよいことが示されているといえるが,特に食用油の廃油である「B廃油」を使用することまでは示されておらず,「B廃油」を使用することが,当業者が容易に想到しうるとすることはできない。

イ 相違点2について
本件発明1において,「乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化している」ことの技術的意義について検討すると,本件明細書には,次の記載がある。
「乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するように乳化されている。例えば、食廃油を機械乳化により、80%?95%エマルジョン化する。すなわち、食廃油の80%?95%がエマルジョン化されている。エマルジョン化の割合が上記範囲内にある場合、封水Wの中を排水口側Kから下水側Gへ容易に移動することができる。また、排水管Hの管壁内面Nに付着した汚れ層S(図2参照)に浸入した後に目詰まりすることにより、封水Wが汚れ層Sから蒸発することを防止することができる。また、封水Wに流入してから所定時間経過後、封水Wの水面Mに分離する。
エマルジョン化の割合が80%未満の場合、封水Wの中を排水口側Kから下水側Gへ移動しづらい。また、排水管Hの管壁内面Nに付着した汚れ層S(図2参照)に浸入しづらく、封水Wが汚れ層Sに浸入・上昇した後に蒸発してしまう虞れがある。」(段落【0011】?【0012】)
「エマルジョン化していることにより、封水Wに流入した後の封水Wとの分離速度が遅く(例えば5時間)、作業効率が良い。また、排水管Hの管壁内面Nに付着した汚れ層Sに浸入した後に目詰まりすることにより、封水Wが汚れ層Sから蒸発することを防止することができる。」(段落【0020】)
また,本件図面の図1及び図2には,封水Wの表面をエマルジョンEが覆うことが示されている。

これらの記載によれば,「乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化している」こととは,エマルジョン状態が安定であって,エマルジョン状態で,封水の表面を被覆して表面からの封水の蒸発を防止するとともに,エマルジョン中の油分(油粒子)が排水管壁の汚れ層内部に浸入し,エマルジョン中の水分が蒸発した後も,油分が汚れ層の毛細管内に目詰まりを生じさせ,排水管壁の汚れ層からの封水の蒸発を防止する作用を奏するものと認められる。

一方,甲1発明の封水蒸発防止剤は,封水に投入される際は,攪拌浸透によりエマルジョン状態となっているが,投入後は,食用油を含む水不溶成分と水系成分とが速やかに分離し,食用油を含む水不溶成分のみで封水の表面を被覆して,封水表面からの水の蒸発を防止するものであるから,エマルジョン状態を安定化させる動機付けがなく,甲1発明の封水蒸発防止剤において,乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化することは,当業者が容易になしうることではない。

ウ 相違点3について
甲第1号証には,水不溶成分の比重に関して「水よりも小さいものが好ましく、例えば、0.999以下が好ましい。また、より好ましくは、0.95以下である。素早い相分離という観点から、0.9以下であればより一層好ましい。しかしながら、比重があまりに小さく、また、撥水性の高い流体の場合は、相分離が急速に起こるおそれがあり、また、分散が十分に行われないおそれがある。」と記載され,水不溶成分の比重は水よりも小さいが,あまり小さくないことが好ましいとされている。
また,甲第1号証には「封水部に溜められた封水に乳化した液体210が入り込み、封水部の底部を越えて、下水側に達する。しばらく時間が経つと、既に溜められた水と、投入により新たに加えられた水が合体し水相を底部に形成し、比重がより低い封水蒸発防止剤組成物は表面に広がる。」とのメカニズムが記載されており,封水部の底部を越えて、下水側に達するためには,急速に浮上しないようにすることが必要であることは明らかであり,封水蒸発防止剤の比重ρの下限を水に近い0.98とすることは当業者が容易に想到しうることである。

そして,本件発明1は,「B廃油」を「乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化している」ことにより,前記イに示すように,排水管壁の汚れ層からの封水の蒸発を防止するとの格別の作用効果を奏するものであり,また,用途が少ない「B廃油」を有効活用できるものである。

したがって,本件発明1は,甲1発明であるとすることも,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

(3)本件発明2について
本件発明2は,本件発明1を引用し,さらに他の特定事項を付加した請求項1に係る発明であり,前記(1)で判断したとおり,本件発明1は,甲1発明であるとすることも,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできないから,本件発明2も,甲1発明であるとすることも,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

4 無効理由4について
(1)甲第4号証ないし甲第7号証の記載事項
甲第4号証には,牛乳から分離される「クリーム」に関して記載され,8ページの「第5表クリームの組成」には,試料VIとして,水分55.4%,脂肪40.0%で,比重0.992のクリームが記載されている。

甲第5号証には,乳製品である「クリーム」に関して記載され,2ページの「表1.1クリーム組成例」には,ホイップドクリームとして,水分49.8%,脂肪45.00%で,比重0.986のクリームが記載されている。

甲第6号証には,牛乳から分離される「クリーム」に関して記載され,316ページの「表3.24死亡率によるクリームの性状」には,脂肪率30%,比重0.966,水分63.67%のクリームが記載されている。

甲第7号証の238?239ページには「表1.1食品の比重一覧表」が記載され,クリーム(40%)にものは比重が0.99であることが記載されている。

(2)本件発明1についての判断
ア 甲第4号証ないし甲第7号証に基づく判断
甲第4号証ないし甲第7号証には,「乳脂肪をエマルジョン化したものであって,比重を(ρ)とすると、0.98≦ρ< 1.0である水溶性液体を主成分としたクリーム」が記載されていると認められる。
また,このようなクリームは本件出願前に公知であったと認められる。
しかし,甲第4号証ないし甲第7号証に記載されたクリーム,あるいは甲第4号証ないし甲第7号証に示される公知のクリームは,「B廃油をエマルジョン化」したものではない。
また,甲第4号証ないし甲第7号証には,クリームを封水蒸発防止剤として使用することは何ら記載されていない。
そして,封水蒸発防止剤とは,長期間排水管を使用しない場合に排水トラップの封水の蒸発を防止するためのものであり,仮にクリームをU字トラップを有する排水管に廃棄したとしても,そのことが直ちに封水蒸発防止剤の使用になるものではない。
したがって,本件発明1は,甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明であるとすることはできない。
同様に,本件発明1は,甲第4号証ないし甲第7号証に示される公知のクリームであるとすることもできない。
さらに,本件発明1は,甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

イ 甲1発明及び甲第4号証ないし甲第7号証に基づく判断
甲1発明の封水蒸発防止剤は,前記「第5 3(2)イ」で相違点2について検討したとおり,封水に投入される際はエマルジョン状態となっているが,投入後は,食用油等の水不溶成分と水系成分とが分離し,食用油等の水不溶成分のみで封水の表面を被覆して表面からの封水の蒸発を防止するものであるから,水不溶成分と水系成分とが容易に分離しない「クリーム」を封水蒸発防止剤とすることは,当業者が容易に想到しうることではない。
したがって,本件発明1は,甲1発明及び,甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(3)本件発明2についての判断
本件発明2が引用する本件発明1は,上記のとおり,甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明であるとすることも,甲第4号証ないし甲第7号証に示される公知のクリームの発明であるとすることも,甲1発明及び、甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
さらに,甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明,あるいは公知のクリームは食用であるから,乳化剤としてアルカリ性洗剤を使用することには,阻害要因があるというべきである。
したがって,本件発明2は,甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明であるとすることも,甲第4号証ないし甲第7号証に示される公知のクリームの発明であるとすることも,甲1発明及び、甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

第6 むすび
以上のとおり,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件発明1及び2に係る特許を,無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
封水蒸発防止剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、封水蒸発防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗面台、流し台等の排水管は、下水側から悪臭が室内に入ったり、害虫等の生物が室内に入るのを防止するために、封水を溜めるための排水トラップが設けられている。しかし、家を不在にしたり、マンションの借り手がいない等の理由により、長期間洗面台、流し台等を使用しない場合、封水が蒸発して(渇水して)下水側から悪臭が室内に入ったり、害虫等の生物が室内に入る虞れがある。そこで、封水の蒸発を防ぐために、封水に油(封水蒸発防止剤)を投入して水面を被覆していた(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、上記油は水より比重が軽く、封水蒸発防止剤を投入した際に、封水の中を排水口側から下水側へ移動しづらいという欠点があった。また、図4に示すように、排水管の管壁内面に付着した汚れ層に油(封水蒸発防止剤)が浸入することができず、図4の矢印Xに示すように、下方の封水が汚れ層に浸入・上昇し、それによって、封水Wが蒸発して(排水トラップT内が渇水して)しまう虞れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「トラップキーパー・EC-101」ホームページアドレスhttp://www.lifestyle-service.net/torapkeep/torapkeep.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、封水蒸発防止剤を投入した際に、封水の中を排水口側から下水側へ移動しづらい点である。また、排水管の管壁内面に付着した汚れ層に油が浸入することができず、封水が汚れ層に浸入・上昇した後に蒸発してしまう(排水トラップT内が渇水してしまう)点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明に係る封水蒸発防止剤は、B廃油を、乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化して、さらに、比重をρとすると、0.98≦ρ<1.0である水溶性液体を主成分としたものである。
また、乳化剤がアルカリ性洗剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の封水蒸発防止剤によれば、封水蒸発防止剤を投入した際に、封水の中を排水口側から下水側へ容易に移動することができる。また、排水管の管壁内面に付着した汚れ層に浸入した後に目詰まりすることにより、封水が汚れ層から蒸発することを防止することができる。すなわち、排水トラップ内が渇水することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態の使用状態を示す説明図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】使用方法を示す説明図である。
【図4】従来例の使用状態を示す説明図である。
【図5】実施例の試験方法を示す説明図である。
【図6】比較例の試験方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の実施の一形態の使用状態を示す説明図である。この封水蒸発防止剤Eは、封水Wが蒸発するのを防止するために、例えば、排水管Hの排水トラップTに投入して(流入させて)用いられる。具体的には、封水蒸発防止剤Eが、封水Wの下水側Gと排水口側Kの両方の水面Mを覆うことにより、封水Wが蒸発することを防止する。
【0010】
封水防止剤Eは、食廃油(すなわち食用油の廃油)がエマルジョン化されて、比重をρとすると、0.98≦ρ<1.0である水溶性液体が主成分である。比重ρが、ρ<0.98の場合、封水Wに流入した後の封水Wとの分離速度が早く、作業効率が悪くなる。また、比重ρが、1.0≦ρの場合、封水Wの水面Mに分離せず、封水Wの底に沈殿したりする。食廃油は、例えばB廃油とするのが好ましい。
【0011】
乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するように乳化されている。例えば、食廃油を機械乳化により、80%?95%エマルジョン化する。すなわち、食廃油の80%?95%がエマルジョン化されている。エマルジョン化の割合が上記範囲内にある場合、封水Wの中を排水口側Kから下水側Gへ容易に移動することができる。また、排水管Hの管壁内面Nに付着した汚れ層S(図2参照)に浸入した後に目詰まりすることにより、封水Wが汚れ層Sから蒸発することを防止することができる。また、封水Wに流入してから所定時間経過後、封水Wの水面Mに分離する。
【0012】
エマルジョン化の割合が80%未満の場合、封水Wの中を排水口側Kから下水側Gへ移動しづらい。また、排水管Hの管壁内面Nに付着した汚れ層S(図2参照)に浸入しづらく、封水Wが汚れ層Sに浸入・上昇した後に蒸発してしまう虞れがある。エマルジョン化の割合が95%を超える場合、封水Wに流入した封水蒸発防止剤Eが、封水Wに完全に溶け込んで、封水Wの水面Mに分離しなくなってしまう。乳化剤は、例えばアルカリ性洗剤(「スマートウォッシュ」株式会社スマート製)とするのが好ましい。
【0013】
図2に示すように、封水蒸発防止剤Eは、排水管Hの管壁内面Nに付着した汚れ層Sに浸入した後に、図2の矢印Aに示すように、汚れ層Sを上昇し、水分が蒸発して、例えば、図2の範囲Zにおいて、油分が目詰まりを生じ始め、その後、しだいに範囲Zが下方まで拡大するように目詰まりする。これにより、封水Wは、汚れ層S内を、封水蒸発防止剤の液面(空気との境界面)Pより上方高さへ上昇することができない。すなわち、封水Wが汚れ層Sから蒸発することを防止することができる。
【0014】
図3は、本発明の封水蒸発防止剤Eの使用方法を示す。すなわち、排水口側Kから封水蒸発防止剤Eを排水トラップT内の封水W(図1・図2参照)へ投入する(流入させる)。投入した(流入した)封水蒸発防止剤Eは、封水W内で拡散し、封水蒸発防止剤Eの一部は、封水W内を図3の矢印Cに示すように、下水側Gへ移動する。その後、図1に示したように、封水蒸発防止剤Eが封水Wの水面Mを覆う。
【実施例】
【0015】
次に、図5・図6に示すように、本発明の封水蒸発防止剤Eと、従来の封水蒸発防止剤Lとを用いて、比較のためのモデル試験を行った。実施例1として、B廃液100ccに、乳化剤としてスマートウォッシュを100cc加え、機械乳化によりB廃液を95%乳化させた封水蒸発防止剤Eを製造した。比較例として、ヤシ油の新油を用いた(封水蒸発防止剤L)。
【0016】
図5に示すように、直径80mmのビーカーYに50ccの水W_(0)を入れ、実施例1の封水蒸発防止剤Eを50cc投入した。また、図6に示すように、直径80mmのビーカーYに50ccの水W_(0)を入れ、比較例の封水蒸発防止剤Lを50cc投入した。それぞれのビーカーYには、あらかじめ汚れ層S(図2・図4参照)の代わりとして、ガーゼ布片FをビーカーYの側壁Y_(1)に沿って配設するとともに、一部をビーカーYの外部へビーカーYの上端縁Y_(2)から垂下させておく。
【0017】
図5に示した実施例1の封水蒸発防止剤Eを投入したものでは、10分後に毛細管現象がおわり、5時間後にビーカーY内の水W_(0)の量が49ccに減少した後は、ほぼビーカーY内の水W_(0)の量に変化が見られなかった。すなわち、水W_(0)の蒸発はなくなった。図6に示した比較例の封水蒸発防止剤Lを投入したものでは、20分後にビーカーY内にあった水W_(0)が毛細管現象によりほとんどすべてガーゼ布片Fを介してビーカーYの外部へ移動した。
【0018】
以上より、実施例1の封水蒸発防止剤Eは、ガーゼ布片F内に浸入した後に、ガーゼ布片F内で乾燥して油分が目詰まりを生じたと考えられる。また、比較例の封水蒸発防止剤Lは、ガーゼ布片F内に浸入しなかったと考えられる。本発明に係る封水蒸発防止剤Eが投入される排水管Hの管壁内面Nに形成された汚れ層Sは、多数の微細な間隙を有する構造であり、上記ガーゼ布片Fも同様の微細な間隙を有する構造であって、上述のモデル試験は実際の汚れ層Sを有する排水管Hと同様の結果を生ずる。
【0019】
なお、本発明の封水蒸発防止剤Eを洋式トイレの便器内に投入して使用するも良い。便器内の水の蒸発を防止することができる。
本発明は、設計変更可能であって、例えば、あらかじめ除菌剤を含有させておくも良い。除菌効果をもたせることができる。
【0020】
以上のように、本発明は、食廃油をエマルジョン化して、比重をρとすると、0.98≦ρ<1.0である水溶性液体を主成分としたので、封水蒸発防止剤Eを投入した際に、封水Wの中を排水口側Kから下水側Gへ容易に移動することができる。特に、比重ρが水の比重に近いことと、エマルジョン化していることにより、封水Wに流入した後の封水Wとの分離速度が遅く(例えば5時間)、作業効率が良い。また、排水管Hの管壁内面Nに付着した汚れ層Sに浸入した後に目詰まりすることにより、封水Wが汚れ層Sから蒸発することを防止することができる。さらに、食廃油にはグリセリンが例えば約20%含まれており、グリセリンは親水基と親油基を有するので、乳化状態を長時間保持させることができる。また、グリセリンが含まれることにより、寒冷地での配管の凍結を防止することができる。例えば、-8℃まで凍結することを防止することができる。
【0021】
また、食廃油をB廃油としたので、用途が狭いB廃油を有効活用することができる。また、低コストで封水蒸発防止剤Eを製造することができる。さらに、エマルジョン化すると黄色く見え、外観が良い。すなわち、着色しなくても自然に見えて違和感がなく、清潔感のある色なので、トイレに使用する場合にも適している。
また、乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するように乳化したので、長期間水を流さない場合にも、排水トラップT内の封水Wが渇水することを防止することができる。すなわち、長期間にわたって、封水Wが蒸発することを防止することができる。
【0022】
また、食廃油の80%?95%をエマルジョン化したので、封水Wの中を排水口側Kから下水側Gへ容易に移動することができる。また、排水管Hの管壁内面Nに付着した汚れ層Sに浸入した後に目詰まりすることにより、封水Wが汚れ層Sから蒸発することを防止することができる。また、封水Wに流入してから所定時間経過後、封水Wの水面Mに分離する。
また、乳化剤がアルカリ性洗剤であるので、防錆効果を有する。また、油が流入した場合に油汚れを防止することができる。
【符号の説明】
【0023】
E 封水蒸発防止剤
S 汚れ層
W 封水
ρ 比重
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B廃油を、乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化して、さらに、比重を(ρ)とすると、0.98≦ρ<1.0である水溶性液体を主成分としたことを特徴とする封水蒸発防止剤。
【請求項2】
乳化剤がアルカリ性洗剤である請求項1記載の封水蒸発防止剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-03-22 
結審通知日 2012-03-23 
審決日 2012-03-30 
出願番号 特願2009-265439(P2009-265439)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (E03F)
P 1 113・ 112- YA (E03F)
P 1 113・ 111- YA (E03F)
P 1 113・ 113- YA (E03F)
P 1 113・ 536- YA (E03F)
P 1 113・ 537- YA (E03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福永 千尋  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 鈴野 幹夫
仁科 雅弘
登録日 2011-01-07 
登録番号 特許第4658218号(P4658218)
発明の名称 封水蒸発防止剤  
代理人 相川 俊彦  
代理人 中谷 武嗣  
代理人 中谷 武嗣  

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