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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C23C 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C23C 審判 訂正 2項進歩性 訂正する C23C |
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管理番号 | 1281650 |
審判番号 | 訂正2013-390124 |
総通号数 | 169 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-01-31 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2013-08-29 |
確定日 | 2013-10-31 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第4673453号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4673453号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第4673453号(以下、「本件特許」という。)は、2010年9月30日(パリ条約による優先権主張2010年1月21日、日本)を国際出願日とする特願2010-546126号の請求項1?6に係る発明について、平成23年1月28日に特許権の設定登録がされたものである。 そして、本件審判は、本件特許の訂正を求め、平成25年8月29日に請求されたものである。 2.請求の要旨 本件審判の請求の要旨は、本件特許の願書に添付した明細書と特許請求の範囲(以下、まとめて「本件特許明細書」という。)を、平成25年9月26日付けの手続補正により補正された審判請求書に添付した訂正明細書と訂正特許請求の範囲のとおり、請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?5(注:下線部が訂正箇所)である。 訂正事項1 請求項2の記載を、 「Crが20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである組成の金属からなるスパッタリングターゲットであって、このターゲットの組織が、金属素地(A)と、前記(A)の中に、Coを90wt%以上含有する長径と短径の差が0?50%である球形の相(B)を有していることを特徴とする強磁性材スパッタリングターゲット。」から、 「Crが20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである組成の金属からなるスパッタリングターゲットであって、このターゲットの組織が、金属素地(A)と、前記(A)の中に、Coを90wt%以上含有する長径と短径の差が0?50%であって、直径が30?150μmの範囲にある球形の相(B)を前記ターゲットの全体積又は前記ターゲットのエロージョン面の面積の20%以上有し、前記球形の相(B)は、研磨面を顕微鏡で観察したときに前記金属素地(A)で囲まれていることを特徴とする強磁性材スパッタリングターゲット。」に訂正する。 訂正事項2 請求項3の記載を、 「添加元素としてB、Ti、V、Mn、Zr、Nb、Ru、Mo、Ta、Wから選択した1元素以上を、0.5mol%以上10mol%以下含有することを特徴とする請求項1?2のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット。」から、 「添加元素としてB、Ti、V、Mn、Zr、Nb、Ru、Mo、Ta、Wから選択した1元素以上を、0.5mol%以上10mol%以下含有することを特徴とする請求項2に記載の強磁性材スパッタリングターゲット。」に訂正する。 訂正事項3 請求項4を削除する。 訂正事項4 請求項5の記載を、 「金属素地(A)が、炭素、酸化物、窒化物、炭化物から選択した1成分以上の無機物材料を該金属素地中に含有することを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット。」から、 「金属素地(A)が、TiO_(2)、Cr_(2)O_(3)、SiO_(2)から選択した1成分以上の無機物材料を該金属素地中に含有することを特徴とする請求項2又は3のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット。」に訂正する。 訂正事項5 請求項6の記載を、 「相対密度が98%以上であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット。」から、 「相対密度が98%以上であることを特徴とする請求項2、3又は5のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット。」に訂正する。 以上の訂正事項によれば、本件訂正における一群の請求項とは、訂正された請求項2とこれを引用する請求項3,5,6である。 3.当審の判断 3-1.訂正の目的、及び、 新規事項の追加と特許請求の範囲の拡張/変更の有無について 訂正事項1について この訂正は、請求項2記載の発明特定事項である「球形の相(B)」について、「直径が30?150μmの範囲にある」こと、「ターゲットの全体積又は前記ターゲットのエロージョン面の面積の20%以上有する」こと、「研磨面を顕微鏡で観察したときに金属素地(A)で囲まれている」ことを限定するものであるから、同請求項とこれを引用する請求項における特許請求の範囲の減縮を目的とする。 そして、本件特許明細書には、請求項4に「球形の相(B)の直径が、30?150μmの範囲にある」こと、段落0027に「球形の相(B)は、ターゲットの全体積又はターゲットのエロージョン面の面積の、およそ20%以上であれば、本願発明の目的を達成することができる」こと、段落0072に「実施例1、2、3、4のいずれにおいても、金属素地(A)と該金属素地(A)に包囲された、直径が50?100μmの範囲にある球形の相(B)の存在が認められた」ことがそれぞれ記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項2について この訂正は、請求項3記載の発明特定事項である「請求項1?2のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット」を、「請求項2に記載の強磁性材スパッタリングターゲット」に限定するものであるから、同請求項とこれを引用する請求項における特許請求の範囲の減縮を目的とする。 そして、この訂正は、本件特許明細書の請求項3に記載されていた発明特定事項の範囲内でした限定であるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項3について この訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。 そして、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項4について この訂正は、請求項5記載の発明特定事項である「炭素、酸化物、窒化物、炭化物から選択した1成分以上の無機物材料」を、「TiO_(2)、Cr_(2)O_(3)、SiO_(2)から選択した1成分以上の無機物材料」に限定し、さらに同じく発明特定事項である「請求項1?4のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット」を、「請求項2又は3のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット」に限定するものであるから、同請求項とこれを引用する請求項における特許請求の範囲の減縮を目的とする。 そして、本件特許明細書には、段落0044に「実施例1において極めて特徴的なのは、TiO_(2)粒子とSiO_(2)粒子が微細分散したマトリックス」、段落0053に「実施例2において極めて特徴的なのは、TiO_(2)粒子とCr_(2)O_(3)粒子が微細分散したマトリックス」と記載されていたから、前者の訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないし、後者の訂正も、本件特許明細書の請求項5に記載されていた発明特定事項の範囲内でした限定であるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項5について この訂正は、請求項6記載の発明特定事項である「請求項1?5のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット」を、「請求項2、3又は5のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット」に限定するものであるから、同請求項における特許請求の範囲の減縮を目的とする。 そして、この訂正は、本件特許明細書の請求項6に記載されていた発明特定事項の範囲内でした限定であるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3-2.独立特許要件について 特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正後の請求項2,3,5,6に係る発明(以下、「本件訂正発明2,3,5,6」という。)は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。 ここで、請求人は、本件特許の優先日前公知文献である、 甲第1号証(特開2009-108336号公報)、 甲第2号証(特開2009-132975号公報)、 に加え、本件特許の出願日前公知文献である、 甲第3号証(特許第4422203号公報) を、審判請求書に添付し、本件訂正発明2,3,5,6は、仮に優先権主張の効果が認められない場合にも、新規性・進歩性を有し、特許出願の際独立して特許を受けることができると主張しているので、該主張について以下検討する。 (1)甲各号証に記載された発明 (1-1)甲第1号証 甲第1号証には、Co基スパッタリングターゲットの製造方法に関する段落0004の記載から、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「原料粉末としてCr含有量が多い第一CoCr合金粉末、Cr:5?15原子%、残部Coからなる第二CoCr合金粉末、Pt粉末および非磁性酸化物粉末を、非磁性酸化物:0.5?15モル%、Cr:4?20モル%、Pt:5?25モル%、残部がCoとなるように配合、混合したのち加圧焼結して得られるCo基スパッタリングターゲット。」 (1-2)甲第2号証 甲第2号証には、スパッタリングターゲットに関する段落0005の記載と該ターゲットのスケール付き組織写真及び写生図である図1,2の記載から、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「非磁性酸化物:0.5?15モル%、Cr:4?20モル%、Pt:5?25モル%を含有し、残部:Coからなり、直径が約40?90μmの球状のCo-Cr二元系合金相の周囲の一部または全表面が薄い非磁性酸化物相により包囲されている複合相が、Pt相素地中に均一分散しているスパッタリングターゲット。」 (1-3)甲第3号証 甲第3号証には、ターゲットの構成成分に関する段落0026?0031の記載とターゲットのミクロ構造に関する段落0032の記載とスケール付き顕微鏡写真である図1の記載から、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「ターゲット全体に対し、金属(Co、Cr、Pt)を90?94モル%、SiO_(2)を6?10モル%含み、金属(Co、Cr、Pt)全体に対し、Coを60?70at%、Crを18?24at%、Ptを1?6at%含み、マトリックスであるCo-Cr合金相(Co:76at%以上80at%以下)中に、SiO_(2)相及び直径が約30?90μmの球状のPt-Co相(Co:13at%以下)が分散した構造を有するマグネトロンスパッタリン用ターゲット。」 (2)本件訂正発明の新規性・進歩性 (2-1)本件訂正発明2,3と甲1?3発明との対比・判断 本件訂正発明2,3は、いずれも金属のみからなるスパッタリングターゲットである。これに対し、甲1?3発明は、いずれも酸化物を必須成分とするスパッタリングターゲットであるから、本件訂正発明2,3は、甲1?3発明ではないし、これらの発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2-2)本件訂正発明5と甲1発明との対比・判断 本件訂正発明5と甲1発明とを対比すると、Co、Cr、Pt及び非磁性酸化物を必須成分とする点でターゲット組成は一致し、さらに、甲1発明の「第二CoCr合金粉末」の組成が、本件訂正発明5の「相(B)」の組成に相当するものの、本件訂正発明5では、相Bを形成する粗大な粉末を、金属素地(A)を形成するその他の粉末を粉砕混合した後に混合する(本件特許明細書段落0031?0032参照)ことで、「金属素地(A)で囲まれている直径が30?150μmの範囲にある球形の相(B)」にするのに対し、甲1発明では、第二CoCr合金粉末を分級により微細にし(甲第1号証段落0013)、さらにその他の粉末と一緒に混合粉砕する(甲第1号証実施例1?4)ことから、両者は、ターゲット組織の点で本質的な差異がある。 そして、甲1発明において、該相違点を解消すること、すなわち、原料粉の調製工程も混合工程も変更することは、当業者が容易になし得たことではない。 (2-3)本件訂正発明5と甲2発明との対比・判断 本件訂正発明5と甲2発明とを対比すると、Co、Cr、Pt及び非磁性酸化物を必須成分とする点でターゲット組成は一致し、さらに、甲2発明の「球状のCo-Cr二元系合金相」「非磁性酸化物相」「Pt相素地」が、それぞれ本件訂正発明5の「球形の相(B)」「無機物材料」「金属素地(A)」に相当するものの、本件訂正発明5の無機物材料は、金属素地(A)中に含有されているのに対し、甲2発明の非磁性酸化物相は、球状のCo-Cr二元系合金相の周囲に存在するから、両者は、ターゲット組織の点で本質的な差異がある。 そして、この球状のCo-Cr二元系合金相の周囲に存在する非磁性酸化物相は、Pt相素地に対する拡散バリア相である(甲第2号証段落0009)から、甲2発明において、該相違点を解消すること、すなわち、非磁性酸化物相をPt相素地中に含有させることは、当業者が容易になし得たことではない。 (2-4)本件訂正発明5と甲3発明との対比・判断 本件訂正発明5と甲3発明とを対比すると、Co、Cr、Pt及びSiO_(2)を必須成分とする点でターゲット組成は一致し、さらに、甲3発明の「マトリックスであるCo-Cr合金相」「SiO_(2)相」「球状のPt-Co相」が、それぞれ本件訂正発明5の「金属素地(A)」「無機物材料」「球形の相(B)」に相当するものの、本件訂正発明5の球形の相(B)は、Coを90wt%以上含有するのに対し、甲3発明の球状のPt-Co相は、Coの含有割合が13at%(≒4.3wt%)以下であるから、両者は、ターゲット組織の点で本質的な差異がある。 そして、分散媒と分散質が限定されない(甲第3号証段落0044)ことから、Pt-Co相に換えてCo-Cr合金相を分散させるとしても、そのCoの含有割合は80at%(≒82wt%)以下であり、さらに、このCoの含有割合は、ターゲット全体の磁性を減少させるための限定である(甲第3号証段落0034?0041)から、甲3発明において、該相違点を解消すること、すなわち、球状の相のCoの含有割合を90wt%以上にすることは、当業者が容易になし得たことではない。 (2-5)本件訂正発明6と甲1?3発明との対比・判断 本件訂正発明6は、本件訂正発明2,3,5のスパッタリングターゲットについて、その相対密度を限定したものであるから、本件訂正発明2,3,5と同様、甲1?3発明ではないし、これらの発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 また、他に本件訂正発明2,3,5,6について特許出願の際拒絶すべき理由を発見しない。 よって、本件訂正発明2,3,5,6は、特許出願の際独立して特許を受けることができる。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 強磁性材スパッタリングターゲット 【技術分野】 【0001】 本発明は、磁気記録媒体の磁性体薄膜、特に垂直磁気記録方式を採用したハードディスクの磁気記録層の成膜に使用される強磁性材スパッタリングターゲットに関し、漏洩磁束が大きくマグネトロンスパッタ装置でスパッタする際に安定した放電が得られるスパッタリングターゲットに関する。 【背景技術】 【0002】 ハードディスクドライブに代表される磁気記録の分野では、記録を担う磁性薄膜の材料として、強磁性金属であるCo、Fe、あるいはNiをベースとした材料が用いられている。例えば、面内磁気記録方式を採用するハードディスクの記録層にはCoを主成分とするCo-Cr系やCo-Cr-Pt系の強磁性合金が用いられてきた。 また、近年実用化された垂直磁気記録方式を採用するハードディスクの記録層には、Coを主成分とするCo-Cr-Pt系の強磁性合金と非磁性の無機物からなる複合材料が多く用いられている。 【0003】 そしてハードディスクなどの磁気記録媒体の磁性薄膜は、生産性の高さから、上記の材料を成分とする強磁性材スパッタリングターゲットをスパッタリングして作製されることが多い。 【0004】 このような強磁性材スパッタリングターゲットの作製方法としては、溶解法や粉末冶金法が考えられる。どちらの手法で作製するかは、要求される特性によるので一概には言えないが、垂直磁気記録方式のハードディスクの記録層に使用される、強磁性合金と非磁性の無機物粒子からなるスパッタリングターゲットは、一般に粉末冶金法によって作製されている。これは無機物粒子を合金素地中に均一に分散させる必要があるため、溶解法では作製することが困難だからである。 【0005】 例えば、急冷凝固法で作製した合金相を持つ合金粉末とセラミックス相を構成する粉末とをメカニカルアロイングし、セラミックス相を構成する粉末を合金粉末中に均一に分散させ、ホットプレスにより成形し磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを得る方法が提案されている(特許文献1)。 【0006】 この場合のターゲット組織は、素地が白子(鱈の精子)状に結合し、その周りにSiO_(2)(セラミックス)が取り囲んでいる様子(特許文献1の図2)又は細紐状に分散している(特許文献1の図3)様子が見える。他の図は不鮮明であるが、同様の組織と推測される。 このような組織は、後述する問題を有し、好適な磁気記録媒体用スパッタリングターゲットとは言えない。なお、特許文献1の図4に示されている球状物質は、メカニカルアロイグ粉末であり、ターゲットの組織ではない。 【0007】 また、急冷凝固法で作製した合金粉末を用いなくても、ターゲットを構成する各成分について市販の原料粉末を用意し、それらの原料粉を所望の組成になるように秤量し、ボールミル等の公知の手法で混合し、混合粉末をホットプレスにより成型・焼結することによって、強磁性材スパッタリングターゲットは作製できる。 【0008】 スパッタリング装置には様々な方式のものがあるが、上記の磁気記録膜の成膜では、生産性の高さからDC電源を備えたマグネトロンスパッタリング装置が広く用いられている。スパッタリング法とは、正の電極となる基板と負の電極となるターゲットを対向させ、不活性ガス雰囲気下で、該基板とターゲット間に高電圧を印加して電場を発生させるものである。 【0009】 この時、不活性ガスが電離し、電子と陽イオンからなるプラズマが形成されるが、このプラズマ中の陽イオンがターゲット(負の電極)の表面に衝突するとターゲットを構成する原子が叩き出されるが、この飛び出した原子が対向する基板表面に付着して膜が形成される。このような一連の動作により、ターゲットを構成する材料が基板上に成膜されるという原理を用いたものである。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0010】 【特許文献1】特開平10-88333号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 一般に、マグネトロンスパッタ装置で強磁性材スパッタリングターゲットをスパッタしようとすると、磁石からの磁束の多くは強磁性体であるターゲット内部を通過してしまうため、漏洩磁束が少なくなり、スパッタ時に放電が立たない、あるいは放電しても放電が安定しないという大きな問題が生じる。 この問題を解決するには、強磁性金属であるCoの含有割合を減らすことが考えられる。しかし、この場合、所望の磁気記録膜を得ることができないため本質的な解決策ではない。また、ターゲットの厚みを薄くすることで漏洩磁束を向上させることは可能だが、この場合ターゲットのライフが短くなり、頻繁にターゲットを交換する必要が生じるのでコストアップの要因になる。 本発明は上記問題を鑑みて、漏洩磁束を向上させて、マグネトロンスパッタ装置で安定した放電が得られる強磁性材スパッタリングターゲットを提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0012】 上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、ターゲットの組織構造を調整することにより、漏洩磁束の大きいターゲットが得られることを見出した。 【0013】 このような知見に基づき、本発明は、 1)Crが20mol%以下、残余がCoである組成の金属からなるスパッタリングターゲットであって、このターゲットの組織が、金属素地(A)と、前記(A)の中に、Coを90wt%以上含有する長径と短径の差が0?50%である球形の相(B)を有していることを特徴とする強磁性材スパッタリングターゲットを提供する。 【0014】 また、本発明は、 2)Crが20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである組成の金属からなるスパッタリングターゲットであって、このターゲットの組織が、金属素地(A)と、前記(A)の中に、Coを90wt%以上含有する長径と短径の差が0?50%である球形の相(B)を有していることを特徴とする強磁性材スパッタリングターゲットを提供する。 【0015】 さらに、本発明は、 3)添加元素としてB、Ti、V、Mn、Zr、Nb、Ru、Mo、Ta、Wから選択した1元素以上を、0.5mol%以上10mol%以下含有することを特徴とする上記1)?2)のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲットを提供する。 【0016】 さらに、本発明は、 4)球形の相(B)の直径が、30?150μmの範囲にあることを特徴とする上記1)?3)のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲットを提供する。 【0017】 さらに、本発明は、 5)金属素地(A)が、炭素、酸化物、窒化物、炭化物から選択した1成分以上の無機物材料を該金属素地中に含有することを特徴とする上記1)?4)のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲットを提供する。 【0018】 さらに、本発明は、 6)相対密度が98%以上であることを特徴とする上記1)?5)のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲットを提供する。 【発明の効果】 【0019】 このように調整したターゲットは、漏洩磁束の大きいターゲットとなり、マグネトロンスパッタ装置で使用したとき、不活性ガスの電離促進が効率的に進み、安定した放電が得られる。またターゲットの厚みを厚くすることができるため、ターゲットの交換頻度が小さくなり、低コストで磁性体薄膜を製造できるというメリットがある。 【図面の簡単な説明】 【0020】 【図1】実施例1のターゲットの研磨面を光学顕微鏡で観察したときの組織画像である。 【図2】実施例1のターゲットの研磨面を電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で測定したときの元素分布画像を示す図である。 【図3】比較例1のターゲットの研磨面を光学顕微鏡で観察したときの組織画像である。 【図4】実施例2のターゲットの研磨面を光学顕微鏡で観察したときの組織画像である。 【図5】実施例2のターゲットの研磨面を電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で測定したときの元素分布画像を示す図である。 【図6】比較例2のターゲットの研磨面を光学顕微鏡で観察したときの組織画像である。 【発明を実施するための形態】 【0021】 本発明の強磁性材スパッタリングターゲットを構成する主要成分は、Crが20mol%以下、残余がCoである金属と、またはCrが20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである金属である。 なお、前記Crは必須成分として添加するものであり、0mol%を除く。すなわち、分析可能な下限値以上のCr量を含有させるものである。Cr量が20mol%以下であれば、微量添加する場合においても効果がある。本願発明は、これらを包含する。これらは、磁気記録媒体として必要とされる成分であり、配合割合は上記範囲内で様々であるが、いずれも有効な磁気記録媒体としての特性を維持することができる。 【0022】 本願発明において重要なことは、ターゲットの組織が、Coを90wt%以上含有する長径と短径の差が0?50%である球形の相(B)を有していることである。そして、球形の相(B)は周囲の組織より最大透磁率が高く、金属素地(A)によって各々分離された構造になっていることである。 このような組織を有するターゲットにおいて、漏洩磁界が向上する理由は現時点で明確にはなっていないが、ターゲット内部の磁束に密な部分と疎な部分が生じ、均一な透磁率を有する組織と比較し静磁エネルギーが高くなるため、磁束がターゲット外部に漏れ出た方がエネルギー的に有利になるためと考えられる。 【0023】 前記球形の相(B)の最大透磁率を高く維持するためには、Coの濃度が高い方が望ましい。原料としては純Coを使用するが、焼結時に球形の相(B)が周囲の金属素地(A)と相互に拡散するので、好ましい相(B)のCo含有量は90wt%以上であり、より好ましくは95wt%以上、さらに好ましくは97wt%以上である。 上記のようにCoが主成分であるが、中心は純度が高く、周囲は純度がやや低くなる傾向にある。球形の相(B)の径を1/3に縮小したと仮定した場合の相似形(球形)の相の範囲(以下「中心付近」という。)内では、Coの濃度97wt%以上を達成することが可能であり、本願発明は、これらを含むものである。 【0024】 また、本願発明において、添加元素としてB、Ti、V、Mn、Zr、Nb、Ru、Mo、Ta、Wから選択した1元素以上を0.5mol%以上10mol%以下の配合比で含有させることも有効である。これらは磁気記録媒体としての特性を向上させるために、必要に応じて添加される元素である。 相(B)は、直径が30?150μmの球形とするのが望ましい。球形の方が、焼結法でターゲット素材を作製する際、金属素地(A)と相(B)の境界面に空孔が生じにくく、ターゲットの密度を高めることができる。 また、同一体積では球形の方が、表面積が小さくなるので、ターゲット素材を焼結させる際に金属素地(A)と相(B)との間で金属元素の拡散が進みにくい。その結果、組成の異なる金属素地(A)と相(B)が容易に生成され、Coを90wt%以上含有する長径と短径の差が0?50%である球形の相(B)を有する素材を作製することができる。より好ましい相(B)のCo含有量は95wt%以上であり、さらに好ましくは97wt%以上である。 なお、相(B)のCo含有量は、EPMAを用いて測定することができる。また、他の測定方法の利用を妨げるものではなく、相(B)のCo量を測定できる分析方法であれば、同様に適用できる。 【0025】 図1に示すように、金属素地(A)には細かい無機物材料(炭素、酸化物、窒化物、炭化物から選択した1成分以上)の粒子が存在している(図1で微細に分散した黒い部分が無機物材料の粒子である)が、相(B)の直径が30μm未満の場合は、金属素地(A)における無機物材料の粒子と混在している金属との粒サイズ差が小さくなるので、ターゲット素材を焼結させる際に、相(B)が球形であるため拡散速度は遅いけれども、それでも拡散は進むので、この拡散が進むことにより、相(B)の存在が不明確になってしまう。 一方、150μmを超える場合には、スパッタリングが進むにつれてターゲット表面の平滑性が失われ、パーティクルの問題が発生しやすくなることがある。従って相(B)の大きさは30?150μmとするのが望ましい。 【0026】 なお、本願発明において使用する球形とは、真球、擬似真球、扁球(回転楕円体)、擬似扁球を含む立体形状を表す。いずれも、長径と短径の差が0?50%であるものを言う。すなわち、球形は、その中心から外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下であると言い換えることもできる。この範囲であれば、外周部に多少の凹凸があっても、相(B)を形成することができる。球形そのものを確認することが難しい場合は、相(B)の断面の中心と外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下であることを目安としてもよい。 【0027】 また、金属素地(A)中のCoを90wt%以上含有する長径と短径の差が0?50%である球形の相(B)は、ターゲットの全体積又はターゲットのエロージョン面の面積の、およそ20%以上であれば、本願発明の目的を達成することができる。本発明では、50%以上、さらには60%以上のターゲットが製造できる。 【0028】 さらに本発明の強磁性材スパッタリングターゲットは、炭素、酸化物、窒化物、炭化物から選択し一種以上の無機物材料を、金属素地(A)中に分散した状態で含有することができる。この場合、グラニュラー構造をもつ磁気記録膜、特に垂直磁気記録方式を採用したハードディスクドライブの記録膜の材料に好適な特性を備える。 【0029】 本発明の強磁性材スパッタリングターゲットは、相対密度を98%以上とすることが望ましい。一般に、高密度のターゲットほどスパッタ時に発生するパーティクルの量を低減させることができることが知られている。 ここでの相対密度とは、ターゲットの実測密度を計算密度(理論密度ともいう)で割り返して求めた値である。計算密度とはターゲットの構成成分が互いに拡散あるいは反応せずに混在していると仮定したときの密度で、次式で計算される。 式:計算密度=シグマΣ(構成成分の分子量×構成成分のモル比)/Σ(構成成分の分子量×構成成分のモル比/構成成分の文献値密度) ここでΣは、ターゲットの構成成分の全てについて、和をとることを意味する。 【0030】 このように調整したターゲットは、漏洩磁束の大きいターゲットとなり、マグネトロンスパッタ装置で使用したとき、不活性ガスの電離促進が効率的に進み、安定した放電が得られる。またターゲットの厚みを厚くすることができるため、ターゲットの交換頻度が小さくなり、低コストで磁性体薄膜を製造できるというメリットがある。 さらに、高密度化により、歩留まり低下の原因となるパーティクルの発生量を低減させることができるというメリットもある。 【0031】 本発明の強磁性材スパッタリングターゲットは、溶解法または粉末冶金法によって作製される。粉末冶金法の場合は、まず各金属元素の粉末と、さらに必要に応じて添加金属元素の粉末を用意する。これらの粉末は最大粒径が20μm以下のものを用いることが望ましい。また、各金属元素の粉末の代わりにこれら金属の合金粉末を用意してもよいが、その場合も最大粒径が20μm以下とすることが望ましい。 一方、小さ過ぎると、酸化が促進されて成分組成が範囲内に入らないなどの問題があるため、0.1μm以上とすることがさらに望ましい。 そして、これらの金属粉末を所望の組成になるように秤量し、ボールミル等の公知の手法を用いて粉砕を兼ねて混合する。無機物粉末を添加する場合は、この段階で金属粉末と混合すればよい。 無機物粉末としては炭素粉末、酸化物粉末、窒化物粉末または炭化物粉末を用意するが、無機物粉末は最大粒径が5μm以下のものを用いることが望ましい。一方、小さ過ぎると凝集しやすくなるため、0.1μm以上のものを用いることがさらに望ましい。 【0032】 さらに直径が30?150μmの範囲にあるCo球形粉末を用意し、上記の混合粉末とミキサーで混合する。ここで使用するCo球形粉末は、ガスアトマイズ法で作製したものを篩別することで得ることが出来る。また、ミキサーとしては、遊星運動型ミキサーあるいは遊星運動型攪拌混合機であることが好ましい。さらに、混合中の酸化の問題を考慮すると、不活性ガス雰囲気中あるいは真空中で混合することが好ましい。 【0033】 このようにして得られた粉末を、真空ホットプレス装置を用いて成型・焼結し、所望の形状へ切削加工することで、本発明の強磁性材スパッタリングターゲットが作製される。なお、上記のCo球形粉末は、ターゲットの組織において観察される球形の相(B)に対応するものである。 【0034】 また、成型・焼結は、ホットプレスに限らず、プラズマ放電焼結法、熱間静水圧焼結法を使用することもできる。焼結時の保持温度はターゲットが十分緻密化する温度域のうち最も低い温度に設定するのが好ましい。ターゲットの組成にもよるが、多くの場合、900?1300°Cの温度範囲にある。 【実施例】 【0035】 以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。 【0036】 (実施例1、比較例1) 実施例1では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径1μmのTiO_(2)粉末、平均粒径1μmのSiO_(2)粉末、直径が50?100μmの範囲にあるCo球形粉末を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が78Co-12Cr-5TiO_(2)-5SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末11.95wt%、Cr粉末10.54wt%、TiO_(2)粉末6.75wt%、SiO_(2)粉末5.07wt%、Co球形粉末65.69wt%の重量比率で秤量した。 【0037】 次に、Co粉末とCr粉末とTiO_(2)粉末とSiO_(2)粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。さらに得られた混合粉末とCo球形粉末をボール容量約7リットルの遊星運動型ミキサーで10分間混合した。 【0038】 この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1100°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが7mmの円盤状のターゲットを得た。 【0039】 漏洩磁束の測定はASTM F2086-01(Standard Test Method for Pass Through Flux of Circular Magnetic Sputtering Targets,Method 2)に則して実施した。ターゲットの中心を固定し、0度、30度、60度、90度、120度と回転させて測定した漏洩磁束密度を、ASTMで定義されているreference fieldの値で割り返し、100を掛けてパーセントで表した。そしてこれら5点について平均した結果を、平均漏洩磁束密度(%)として表1に記載した。 【0040】 比較例1では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉、平均粒径5μmのCr粉、平均粒径1μmのTiO_(2)粉末、平均粒径1μmのSiO_(2)粉を用意した。これらの粉末をターゲット組成が78Co-12Cr-5TiO_(2)-5SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末77.64wt%、Cr粉末10.54wt%、TiO_(2)6.75wt%、SiO_(2)粉末5.07wt%の重量比率で秤量した。 【0041】 そしてこれらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。 次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1100℃、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが7mmの円盤状のターゲットへ加工し、平均漏洩磁束密度を測定した。この結果を表1に示す。 【0042】 【表1】 【0043】 表1に示すとおり、実施例1のターゲットの平均漏洩磁束密度は56%であり、比較例1の40%より大きく向上していることが確認された。また、実施例1においても相対密度が98%を超える高密度なターゲットが得られた。 【0044】 実施例1のターゲット研磨面を、光学顕微鏡で観察したときの組織画像を図1に、また特に球形の相の部分をEPMAで測定したときの元素分布画像を図2に示す。 図1において黒っぽくみえている箇所がTiO_(2)粒子とSiO_(2)粒子に対応する。この図1の組織画像に示すように、上記実施例1において極めて特徴的なのは、TiO_(2)粒子とSiO_(2)粒子が微細分散したマトリックスの中に、TiO_(2)粒子とSiO_(2)粒子をともに含まない大きな球形の相が分散していることである。 この相は、本願発明の相(B)に相当するものであり、相(B)の中心付近ではCoを99wt%以上含有し、長径と短径の平均の差は20%程度であり、ほぼ球形を呈していた。 【0045】 図2においてEPMAの元素分布画像で白く見えている箇所が、当該元素の濃度の高い領域である。すなわち、球形の相の部分においてCoの濃度が、周囲より高く(白っぽく)なっている。 一方、同図において、球形の相の領域では、SiとTiとOについては黒くなっているので、この領域に存在していないことが分かる。 【0046】 これに対して、図3に示す比較例1によって得られたターゲット研磨面の組織画像には、TiO_(2)とSiO_(2)粒子が分散したマトリックスの中に球形の相は一切観察されなかった。 【0047】 (実施例2、比較例2) 実施例2では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径2μmのPt粉末、平均粒径1μmのTiO_(2)粉末、平均粒径3μmのCr_(2)O_(3)粉末、直径が50?100μmの範囲にあるCo球形粉末を用意した。 これらの粉末をターゲットの組成が65Co-13Cr-15Pt-5TiO_(2)-2Cr_(2)O_(3)(mol%)となるように、Co粉末26.27wt%、Cr粉末9.94wt%、Pt粉末32.31wt%、TiO_(2)粉末5.09wt%、Cr_(2)O_(3)粉末3.87wt%、Co球形粉末22.52wt%の重量比率でそれぞれ秤量した。 【0048】 次に、Co粉末とCr粉末とPt粉末とTiO_(2)粉末とCr_(2)O_(3)粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。さらに得られた混合粉末とCo球形粉をボール容量約7リットルの遊星運動型ミキサーで10分間混合した。 この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1050°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして焼結体を得た。さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが7mmの円盤状のターゲットへ加工し、平均漏洩磁束密度を測定した。この結果を、表2に示す。 【0049】 比較例2では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径2μmのPt粉末、平均粒径1μmのTiO_(2)粉末、平均粒径3μmのCr_(2)O_(3)粉末を用意した。 これらの粉末をターゲット組成が65Co-13Cr-15Pt-5TiO_(2)-2Cr_(2)O_(3)(mol%)となるように、Co粉末48.79wt%、Cr粉末9.94wt%、Pt粉末32.31wt%、TiO_(2)粉末5.09wt%、Cr_(2)O_(3)粉末3.87wt%の重量比率でそれぞれ秤量した。 そしてこれらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。 【0050】 次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1050°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとでホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが7mmの円盤状のターゲットへ加工し、平均漏洩磁束密度を測定した。この結果を表2に示す。 【0051】 【表2】 【0052】 表2に示す通り、実施例2のターゲットの平均漏洩磁束密度は51%であり、比較例2の38%より大きく向上していることが確認された。また、実施例2においても相対密度が98%を超える高密度なターゲットが得られた。 【0053】 実施例2のターゲット研磨面を、光学顕微鏡で観察したときの組織画像を図4に、また特に球形の相の部分をEPMAで測定したときの元素分布画像を図5に示す。図4において黒っぽくみえている箇所がTiO_(2)粒子とCr_(2)O_(3)粒子に対応する。 この図4の組織画像に示すように、上記実施例2において極めて特徴的なのは、TiO_(2)粒子とCr_(2)O_(3)粒子が微細分散したマトリックスの中に、TiO_(2)粒子とCr_(2)O_(3)粒子を含まない大きな球形の相が分散していることである。この相は、本願発明の相(B)に相当するものであり、相(B)の中心付近ではCoを99wt%以上含有し、長径と短径の平均の差は20%程度であり、ほぼ球形を呈していた。 【0054】 図5の元素分布画像で白く見えている箇所が、当該元素の濃度の高い領域である。すなわち、球形の相の部分においてCoの濃度が、周囲より高く(白っぽく)なっている。 一方、図5において、CrとPtは球形の相の周縁部に存在するが中心部には殆ど見られない。また同図において、球形の相の領域では、TiとOについては黒くなっているので、この領域に存在していないことが分かる。 【0055】 これに対して、図6に示す比較例2によって得られたターゲット研磨面の組織画像には、TiO_(2)粒子とCr_(2)O_(3)粒子が分散したマトリックスの中に球形の相は一切観察されなかった。 【0056】 (実施例3、比較例3) 実施例3では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、直径が50?100μmの範囲にあるCo球形粉末を用意した。 これらの粉末をターゲットの組成が85Co-15Cr(mol%)となるように、Co粉末45.81wt%、Cr粉末13.47wt%、Co球形粉末40.72wt%の重量比率でそれぞれ秤量した。 【0057】 次に、Co粉末とCr粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。さらに得られた混合粉末とCo球形粉をボール容量約7リットルの遊星運動型ミキサーで10分間混合した。 この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度950°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして焼結体を得た。さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが7mmの円盤状のターゲットへ加工し、平均漏洩磁束密度を測定した。この結果を表3に示す。 【0058】 比較例3では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末を用意した。 これらの粉末をターゲット組成が85Co-15Cr(mol%)となるように、Co粉末86.53wt%、Cr粉末13.47wt%の重量比率でそれぞれ秤量した。 そしてこれらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。 【0059】 次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度950°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとでホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが7mmの円盤状のターゲットへ加工し、平均漏洩磁束密度を測定した。この結果を表3に示す。 【0060】 【表3】 【0061】 表3に示す通り、実施例3のターゲットの平均漏洩磁束密度は60%であり、比較例3の35%より大きく向上していることが確認された。また、実施例3においても相対密度が98%を超える高密度なターゲットが得られた。 【0062】 また実施例3のターゲットを研磨し、その研磨面においてEPMAで元素分布画像を取得したところ、Coの濃度が周囲より高くなっている球形の相が確認された。この相は、本願発明の相(B)に相当するものであり、相(B)の中心付近ではCoを98wt%以上含有し、長径と短径の平均の差は20%程度であり、ほぼ球形を呈していた。 【0063】 これに対して、比較例3によって得られたターゲット研磨面には球形の相は一切観察されなかった。またEPMAで元素分布画像を取得したところ、元素分布に濃淡は観察されず、ほぼ均一な組成の合金相が形成されていることを確認した。 【0064】 (実施例4、比較例4) 実施例4では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径2μmのPt粉末、直径が50?100μmの範囲にあるCo球形粉末を用意した。 これらの粉末をターゲットの組成が70Co-15Cr-15Pt(mol%)となるように、Co粉末11.29wt%、Cr粉末9.96wt%、Pt粉末37.36wt%、Co球形粉末41.39wt%の重量比率でそれぞれ秤量した。 【0065】 次に、Co粉末とCr粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。さらに得られた混合粉末とCo球形粉をボール容量約7リットルの遊星運動型ミキサーで10分間混合した。 この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1050°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして焼結体を得た。さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが7mmの円盤状のターゲットへ加工し、平均漏洩磁束密度を測定した。この結果を表4に示す。 【0066】 比較例4では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径2μmのPt粉末を用意した。 これらの粉末をターゲット組成が70Co-15Cr-15Pt(mol%)となるように、Co粉末52.68wt%、Cr粉末9.96wt%、Pt粉末37.36wt%の重量比率でそれぞれ秤量した。 そしてこれらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。 【0067】 次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1050°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとでホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが7mmの円盤状のターゲットへ加工し、平均漏洩磁束密度を測定した。この結果を表4に示す。 【0068】 【表4】 【0069】 表4に示す通り、実施例4のターゲットの平均漏洩磁束密度は56%であり、比較例4の39%より大きく向上していることが確認された。また、実施例4においても相対密度が98%を超える高密度なターゲットが得られた。 【0070】 また実施例4のターゲットを研磨し、その研磨面においてEPMAで元素分布画像を取得したところ、Coの濃度が周囲より高くなっている球形の相が確認された。この相は、本願発明の相(B)に相当するものであり、相(B)の中心付近ではCoを98wt%以上含有し、長径と短径の平均の差は20%程度であり、ほぼ球形を呈していた。 【0071】 これに対して、比較例4によって得られたターゲット研磨面には球形の相は一切観察されなかった。またEPMAで元素分布画像を取得したところ、元素分布に濃淡は観察されず、ほぼ均一な組成の合金相が形成されていることを確認した。 【0072】 実施例1、2、3、4のいずれにおいても、金属素地(A)と該金属素地(A)に包囲された、直径が50?100μmの範囲にある球形の相(B)の存在が認められた。そして相(B)は周囲よりCoの濃度が高い領域であることが確認された。こうした組織構造が漏洩磁束を向上させるために非常に重要な役割を有することが分かる。 【産業上の利用可能性】 【0073】 本発明は、強磁性材スパッタリングターゲットの組織構造を調整し漏洩磁束を飛躍的に向上させることを可能とする。従って本発明のターゲットを使用すれば、マグネトロンスパッタ装置でスパッタリングする際に安定した放電が得られる。またターゲット厚みを厚くすることができるため、ターゲットライフが長くなり、低コストで磁性体薄膜を製造することが可能になる。 磁気記録媒体の磁性体薄膜、特にハードディスクドライブ記録層の成膜に使用される強磁性材スパッタリングターゲットとして有用である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 Crが20mol%以下、残余がCoである組成の金属からなるスパッタリングターゲットであって、このターゲットの組織が、金属素地(A)と、前記(A)の中に、Coを90wt%以上含有する長径と短径の差が0?50%である球形の相(B)を有していることを特徴とする強磁性材スパッタリングターゲット。 【請求項2】 Crが20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである組成の金属からなるスパッタリングターゲットであって、このターゲットの組織が、金属素地(A)と、前記(A)の中に、Coを90wt%以上含有する長径と短径の差が0?50%であって,直径が30?150μmの範囲にある球形の相(B)を前記ターゲットの全体積又は前記ターゲットのエロージョン面の面積の20%以上有し,前記球形の相(B)は,研磨面を顕微鏡で観察したときに前記金属素地(A)で囲まれていることを特徴とする強磁性材スパッタリングターゲット。 【請求項3】 添加元素としてB、Ti、V、Mn、Zr、Nb、Ru、Mo、Ta、Wから選択した1元素以上を、0.5mol%以上10mol%以下含有することを特徴とする請求項2に記載の強磁性材スパッタリングターゲット。 【請求項4】(削除) 【請求項5】 金属素地(A)が、TiO_(2)、Cr_(2)O_(3)、SiO_(2)から選択した1成分以上の無機物材料を該金属素地中に含有することを特徴とする請求項2又は3のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット。 【請求項6】 相対密度が98%以上であることを特徴とする請求項2、3又は5のいずれか一項に記載の強磁性材スパッタリングターゲット。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2013-10-21 |
出願番号 | 特願2010-546126(P2010-546126) |
審決分類 |
P
1
41・
121-
Y
(C23C)
P 1 41・ 856- Y (C23C) P 1 41・ 851- Y (C23C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 村守 宏文 |
特許庁審判長 |
山田 靖 |
特許庁審判官 |
小柳 健悟 大橋 賢一 |
登録日 | 2011-01-28 |
登録番号 | 特許第4673453号(P4673453) |
発明の名称 | 強磁性材スパッタリングターゲット |
代理人 | 小越 勇 |
代理人 | 小越 勇 |