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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1281741
審判番号 不服2012-9566  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-24 
確定日 2013-11-14 
事件の表示 特願2007-541468「燃料電池構成要素の改良に基づく溶液および他の電気化学システムおよびデバイス。」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月26日国際公開、WO2006/055652、平成20年 6月19日国内公表、特表2008-521174〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年11月16日(パリ条約による優先権主張 2004年11月16日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年 2月21日付けの拒絶理由が通知され、それに対する意見書および手続補正書の提出はなされず、平成24年 1月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年 5月24日に審判請求がされるとともに、特許請求の範囲についての手続補正がされたものである。その後、前置審査において、同年 8月 2日付けの拒絶理由が通知されたが、これに対する意見書および手続補正書の提出はなく、平成25年 4月 9日付けで特許庁長官に対し前置審査における拒絶理由によって拒絶されるべき旨の前置報告がなされた。


第2 前置審査における拒絶理由
前置審査において通知された平成24年 8月 2日付けの拒絶理由の一つは、概略、以下のとおりである。

「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1に「イオン導電性ポリマーおよび少なくとも1つの溶媒の真溶液を備える組成から調整され・・・」とあるが、請求項1には、イオン導電性ポリマーの種類・構造について特定がないため、請求項1に係る発明のイオン導電性ポリマーには、任意の種類・構造のイオン導電性ポリマーが含まれることになる。
イオン導電性ポリマーとしては、「パーフルオロスルホン酸ポリマー(ナフィオン(登録商標)等)」以外のものも想定し得るが、発明の詳細な説明に具体的に開示されたイオン導電性ポリマーが「ナフィオン(登録商標)」だけであるため、このような特定のイオン導電性ポリマーによる発明の教示を、それ以外のイオン導電性ポリマーにまで拡張ないし一般化し得るとは直ちには認められない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
また、請求項2?3、5?14に係る発明についても同様である。」


第3 当審の判断
そこで、本願の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているか否かについて以下に検討する。

(1) 請求項1の記載
本願の請求項1の記載は以下のとおりである。

「【請求項1】
イオン導電性ポリマーおよび少なくとも1つの溶媒の真溶液を備える組成から調製される燃料電池の構成要素であって、前記ポリマーおよび前記少なくとも1つの溶媒が、前記真溶液を作成するために、δ溶媒を前記少なくとも1つの溶媒のヒルデブランド溶解度パラメータ、およびδ溶質を前記ポリマーのヒルデブランド溶解度パラメータとして、|δ溶媒-δ溶質|<1MPa^(0.5)の関係に基づいて選択される、燃料電池の膜及び/又は電極である、構成要素。」

(2) 発明の詳細な説明の記載
一方、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(「…」は記載の省略を表す。)。

(2-1)「 【背景技術】

【0004】
PEM燃料電池の本質は、膜電極接合体(MEA)を構成する、両側に加えられた触媒の薄いコーティングを有する膜である。水素がMEAのアノード側を通って流れる際、白金ベースの触媒が、水素気体が電子と陽子(水素イオン)に分離するのを促進する。水素イオンは、膜の厚さを通過し、カソード側において酸素および電子と組み合わされ、水および熱を生成する。膜を通過することができない電子は、セルによって生成された電力を消費する電気負荷を含む外部回路を通ってアノードからカソードに流れる。…
【0005】
燃料電池は1839年以来存在するが、コストが高く、かつ耐久性が不十分な構成要素材料によって阻害されてきた。それにもかかわらず、燃料電池は、従来のエネルギー技術より高い効率および低い放出で電気および熱を生成する能力のために、近年大きな関心を集めてきた。しかし、燃料電池のコストは依然として過度に高く、広範な商業的応用が現実的になることができるまでには、技術的な突破口が必要である。
【0006】
燃料電池構成要素の設計の近年の発展にもかかわらず、基礎科学から可能な技術に燃料電池を変容させるには、さらなる改良が必要である。

【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、一般的には、電気化学デバイス用の構成要素、および構成要素を調製する方法に関する。構成要素および方法は、イオン導電性ポリマーおよび少なくとも1つの溶媒を備える組成の使用を含み、ポリマーおよび溶媒は、組合せの熱力学に基づいて選択される。」

(2-2)「 【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態では、本発明は、イオン導電性ポリマーおよび少なくとも1つの溶媒の真溶液を備える組成から調製される電気化学デバイス用の構成要素に関し、ポリマーおよび少なくとも1つの溶媒は、δ溶媒を少なくとも1つの溶媒のヒルデブランド溶解度パラメータ、およびδ溶質をポリマーのヒルデブランド溶解度パラメータとして、|δ溶媒-δ溶質|<1であるように選択される。」

(2-3)「【0012】
本発明は、燃料電池などの電気化学デバイス用の構成要素を調製するために、イオン導電性ポリマーおよび少なくとも1つの溶媒を選択する新規な溶液熱力学的手法を使用する。熱力学的手法は、以下においてより詳細に記述される。本発明により調製される構成要素は、従来の方法によって調製された構成要素と比較して、改良を含むことが可能であることが有利である。
【0013】
たとえば、本発明は、1)新規なイオノマー結合剤溶液の配合…により、MEAの3相界面を加工することによって、燃料電池の性能および/または耐久性を向上させることが可能である。…「イオノマー」および「イオン導電性ポリマー」という用語は、イオン化可能および/またはイオンのグループの任意の大部分を有するポリマーを指すために、本明細書では区別なく使用される。
【0014】
水素-空気燃料電池の主な分極損失は、酸化還元反応(ORR)の不十分な動態、ならびにカソードにおける陽子および反応物質の結果的な輸送限界のためである。3相界面における相互作用を理解することにより、効率、エネルギー密度、および耐久性を向上させながら、分極損失を低減することが可能である高性能の電極およびMEAを開発することが可能になった。MEAの製作、単一セル試験、および特徴付け(すなわち、周期的なボルタメトリおよび原子力顕微鏡法)に関する実験の詳細は、以下において提示される。

【0016】
本発明は、…MEA製作技法である1)新規なイオノマー結合剤溶液の配合…から導出される構成要素の改良を対象とするので、以下の記述は、それぞれの膜電極接合体の製作を詳述することに充てられる。
【0017】
イオノマー結合剤溶液の配合。本発明は、電極を調製するために使用されるイオノマー結合剤溶液など、電気化学デバイス用の構成要素を調製するために組成において使用されるイオノマーおよび少なくとも1つの溶媒を選択する新規な溶液熱力学的手法を含む。組成は真溶液であり、分散またはコロイド懸濁液ではない。真溶液は単相である。分散は少なくとも2つの相からなり、分散相と連続相との間に境界面を有する。
【0018】
この溶液熱力学的手法によれば、イオノマーと溶媒を混合する際の自由エネルギーの変化ΔGは、溶液が熱力学的に実現可能であるように負でなければならない。
【0019】
ΔHをエンタルピの変化、TΔSを温度Tとエントロピの変化ΔSの積として、溶解度
についてΔG=ΔH-TΔS;<0である。
【0020】
上式を分析すると、ΔHが特定の相互作用によるポリマー溶解度を導出すると決定することができるが、その理由は、TΔSは、一般に、構成確率が低量であるためにポリマーについて小さいからである。
【0021】
ΔHは、ヒルデブランド溶解度パラメータδに関係し、溶解度について|δ溶媒-δ溶質|<1である。式の結果は、<0とすることもできる。このパラメータは、ファン・デル・ワールス力全体を表す。溶解度の理論において最も一般的に使用される3つのタイプの相互作用が存在する。これらは、分散力(誘起双極子-誘起双極子の力またはロンドン分散力)、極性力(双極子-双極子の力)、および水素結合力である。溶媒混合物のヒルデブランド値は、個々の溶媒のヒルデブランド値を容積によって平均することによって決定することができる。」

(2-4)「 【0025】
2つの異なる触媒インク配合が調製された。それぞれは、標準的な触媒を含有していた。すなわち、5重量パーセントのナフィオン(登録商標)1100EW溶液(ElectroChem,Inc.)およびVulcan XC-72カーボン・ブラック上の20重量パーセントのPt(E-tek DeNora)を使用する2.5:1のナフィオン(登録商標)比(28重量パーセントのイオノマー結合剤)。一方の配合に対して、t-ブチルアルコール(Aldrich)が希釈溶媒として追加され、他方に対して、n-ブチルアセテート(Aldrich)が追加された。配合は、室温において一晩撹拌プレート上で撹拌することが可能であった。追加されたこれらの化学物質の重量は、各配合のナフィオン(登録商標)結合剤溶液の重量に等しかった。いくつかの場合、超音波処理が、電気触媒粒子の分散を補助するために使用された。様々なイオノマー結合剤の装填(すなわち触媒:イオノマー結合剤)を使用することができることに留意されたい。
【0026】
5cm^(2)の移送デカルが、強化ガラスポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜(Saint-Gobain)から調製された。各触媒インク・コート/層が、1cm^(2)の電極あたり約0.2mgの触媒を含む最終乾燥重量まで、赤外線熱の下で適切な触媒インクを有する平坦ブラシ(Winsor Newton)で各デカルの片側に印刷された。
【0027】
ナフィオン(登録商標)112(Aldrich)が、塩の形態に変換され、次いでMEAが、カーバー液圧プレス上において以下の手続きを使用して製作された。すなわち、(1)事前に加熱された(210C)のプレスの上にMEAアセンブリを配置し、10分間400psigにおいて圧縮する。この温度および圧力は、膜および結合剤材料のタイプに応じてより高くすることが可能であることに留意されたい。(2)加圧下において室温まで冷却する。(3)プレスから取り外す。(4)デカルをMEAアセンブリから一度に1つ剥離させ、膜に融合された電極のみを残す。」

(2-5)「【0043】
単一セル試験
すべてのMEAが、室温(23C)で2時間、0.5MのH_(2)SO_(4)の酸混合物において陽子付加され、次いで、燃料電池試験の前に残留する酸を除去するために、室温で2時間、脱イオン水でリンスされた。高い温度および濃度など、様々な他の陽子付加の手続きおよび条件を使用することができる。単一側面ELAT材料(E-tek DeNora)が、気体拡散媒体として使用された。
【0044】
単一セル試験が、600W Fuel Cell Technologies,Inc.の試験局を使用して実施された。この局は、Agilent Technologies 120A負荷モジュール、デジタル質量流量制御装置、自動背圧システム、5cm^(2)燃料電池ハードウエア、搭載ACインピーダンス・システム、および湿度ボトル・アセンブリを装備している。搭載電気化学インピーダンス分光法システムは、2kHzの周波数において各MEAの高周波抵抗(HFR)をその場で測定するために使用された。HFRは、膜の抵抗、界面の抵抗、および電極の抵抗の和である。
【0045】
すべてのMEAは、分極曲線が収集される前に0.50Vにおいて少なくとも2時間、80C、100パーセント相対湿度(RF)において調整された。分極曲線は、30秒の遅延を有して0.05Vの増分において、1.00Vから0.00Vまで収集された。
【0046】
特徴付け
追加の特徴付け(すなわち、ボルタメトリおよび原子力顕微鏡法)が、イオノマー結合剤溶液の配合から製作されたMEAについて実施された。これらの実験技法に関する詳細が、ここで提示される。
【0047】
周期ボルタメトリ。30psigセル圧力の希釈水素での1秒あたり5mVにおける線形スイープ・ボルタメトリが、Solartron Analytical SI 1287 Electrochemical Interfaceで実施された。試験は、Handbook of Fuel Cells-Fundamentals Technology and Applications、vol.3、545?562ページに記載されているように実行された。得られたECAは、以下の式に基づいて計算された。
【0048】
【数1】

【0049】
原子力顕微鏡法。タッピング・モード原子力顕微鏡法(AFM)が、NanoscopeIV制御装置を有するDigital Instruments Dimension 3000走査プローブ顕微鏡で実施された。5?10nmの曲率の公称先端半径を有するエッチングされた単一結晶シリコンで作成されたタッピング・モードの先端が、走査中に使用された。すべてのサンプルが、分析前に乾燥剤の下において24時間維持された。次いでサンプルは、5μm^(2)サンプル領域内において室温で即座に走査された。
【0050】
結果および議論

【0052】
イオノマー結合剤溶液の配合。本発明による電極(t-ブチルアルコール配合)を現況技術(n-ブチルアセテート配合)と比較する代表的な分極曲線が、図6および7に示されている。図6は、下方に0.4Vまでの分極領域を捕捉し、これにより、セルの電位の範囲にわたって結果として生じる過電圧を識別するのが比較的容易になる。図7は、活性化分極領域の近接図を示す。電極を比較するために基準点として0.7Vを使用する場合、図6から、バッテル電極(t-ブチルアルコール配合)が、0.06Ω・cm^(2)に等しい高周波抵抗(HFR)で1cm^(2)あたり0.6760Aの電流密度を有し、一方、現況技術の電極(n-ブチルアセテート配合)が、0.08Ω・cm^(2)に等しいHFRで1cm^(2)あたり0.3996Aの電流密度を有することがわかる。電極を比較するために基準点として0.85Vを使用する場合、図7から、バッテル電極(t-ブチルアルコール配合)が、1cm^(2)あたり0.0631Aの電流密度を有し(0.06Ω・cm^(2)に等しいHFR)、一方、現況技術の電極(n-ブチルアセテート配合)が、1cm^(2)あたり0.0288Aの電流密度(0.08Ω・cm^(2)に等しいHFR)を有することがわかる。これらの結果は、驚くべきことであるように見える可能性があるが、その理由は、同じ触媒装填およびプレス条件が使用されたからである。しかし、溶媒システムは、最終的なMEA製作ステップの前に電極構造およびMEA性能に対して著しい影響を及ぼすことがある。これをさらに理解するために、まず3相界面を理解しなければならない。
【0053】
燃料電池電極内の触媒部位は、3相界面が有効であるように維持する。この界面は、電子およびイオンの連続性を見込み、一方、燃料または酸化剤へのアクセスを提供する。…MEA性能の向上を提供するために、電極加工により可能な限り多数の触媒部位について、すべての3つの条件を満たすことが望ましい。
【0054】
ナフィオン(登録商標)は、有機溶媒と混合されるとき、3つの状態のうちの1つを形成する:(i)溶液、(ii)コロイド分散、および(iii)沈殿。分散相が分子分散であるとき、真溶液が形成され、一方コロイド分散では、分散相またはコロイドは分子より大きい。コロイドは、寸法の特徴であるが、コロイドはまた、分散媒体(すなわち溶媒)にわたって均一に分散する。コロイドの通常の規模は、1nmと1,000nmの間である。これらのコロイドがより大きくなる際、コロイドは、相対的な比重に応じて、表面まで上昇する、または溶液から降下して沈殿を形成する。ナフィオンをベースとするポリマーおよびある条件下のある溶媒では、これらの状態は、誘電定数εによって分類することができる。誘電定数は、溶媒分極の粗い表示として使用される。ナフィオン(登録商標)をベースとするシステムのいくつかのガイドラインは、以下の通りである。
・εが10より大きいとき、溶液が形成される。
・εが3より大きいが、10より小さいとき、コロイド分散が形成される。
・εが3より小さいとき、沈殿が生じる。
【0055】
ウチダらのJournal of the Electrochemical Society、vol.142、463ページ(1995年)は、様々な溶媒で実験し、n-ブチルアセテート(ε=5.01)が、コロイド分散を形成するその能力のために最適な性能向上分散剤であることを実験した。示唆された提案の機構は、ナフィオン(登録商標)がマクロ細孔を充填し、Pt/イオノマー接触領域を増大させるものであった。しかし、より高いナフィオン(登録商標)の装填では、イオノマーは、酸素の輸送率および水の除去率を阻害した。
【0056】
またウチダらの刊行物では、10より大きい誘電定数を有するすべての溶媒システムが溶液を形成し、燃料電池の環境において不十分に実施されるMEAをもたらすことも判明した。しかし、t-ブチルアルコールは、この研究では使用されなかった。第3ブチルアルコールは、水およびアルコールの可溶性材料であり、ブチルアセテート(126.3C)より顕著に低い82.9Cの沸点を有し、25Cにおいてε=12.47および30Cにおいて10.9の誘電定数を有する。
【0057】
さらに以下の図6および7において、t-ブチルアルコールは、n-ブチルアセテート・システムと比較して、燃料電池の性能について明瞭な向上を提供することが示され、これはウチダらの研究とは対照的である。また、高周波抵抗(HFR)は、0.08Ω・cm^(2)から0.06Ω・cm^(2)に降下したことにも留意されたい。したがって、改良された電極構造はまた、MEAにわたって抵抗/インピーダンスをも低減させた。より一般的には、本発明により調製された電極は、図6に示された条件下において、0.08Ω・cm^(2)未満の高周波抵抗で0.7Vのセル電位における少なくとも約0.6A/cm^(2)の電流密度によって測定して、向上した性能を有することが可能である。電極は、0.08Ω・cm^(2)未満の高周波抵抗で0.7Vのセル電位における少なくとも約0.6A/cm^(2)の電流密度、および0.08Ω・cm^(2)未満の高周波抵抗で0.85Vのセル電位における少なくとも約0.04A/cm^(2)の電流密度によって測定して、経時的に向上した性能を有することが可能である。
【0058】
いくつかの実施形態では、本発明により調製された膜電極接合体は、驚くべき耐久性の利益を提供する。アセンブリの電極が、本発明による真溶液を使用して作成されるとき、これは、アセンブリのポリマー電解質膜の耐久性を向上させる効果を有する。図10は、開回路電圧実験の現況技術と比較して優れた耐久性を有する本発明によるMEAの膜を示す。好ましい実施形態では、本発明は、膜電極接合体を提供し、電極の少なくとも1つは、上述されたように選択されたイオノマーおよび少なくとも1つの溶媒を含む組成から調製され、アセンブリの膜は、図10に示された条件下において少なくとも約100時間、好ましくは少なくとも約300時間の開回路電圧(OCV)保持時間によって測定して、向上した耐久性を有する。より一般的には、…本発明はまた、本発明による真溶液から構成要素を調製することによって、電気化学デバイス用の構成要素の耐久性を向上させる方法を提供する。…本発明は、膜電極接合体、膜、電極…など…の構成要素に適用することができる。高性能および耐久性の他に、電極構造の他の通常好ましい特性は、高い触媒利用である。これを判定するために、燃料電池内のイン・シチュECAが、水素吸着/脱着ピーク(hydrogen adsorption/desorption peak)下の領域を使用して周期ボルタメトリによって測定された。これらの結果が表4に示されている。驚くべきことに、t-ブチルアルコール・システムは、ECA範囲がn-ブチルアセテート・システムと比較して著しく低減されている電極構造を作成した。すなわち、本発明による電極は低い触媒利用率を有し、一方、依然として性能を向上させる。一実施形態では、電極は、1グラムの触媒あたり約40平方メートル未満、時には1グラムの触媒あたり約35平方メートル未満の触媒の電気化学領域によって測定して、低い触媒利用率を有し、電極は、0.08Ω・cm^(2)未満の高周波抵抗で0.7Vのセル電位における少なくとも約0.6A/cm^(2)の電流密度によって測定して、向上した性能を有する。
【表4】


【0059】
高電流密度における触媒利用の効率は、細孔およびイオノマーの分布、ならびに電極の厚さにわたる酸素濃度の勾配によって左右される質量輸送によって記述されるので、これらの新規な電極は、陽子、反応剤気体、および水の輸送の競合用件を改善したと考慮可能である。これらの結果から、酸素の輸送率は阻害された可能性があるが、水の除去は、そのような性能の向上を可能にするように改善されたはずであることが明らかであった。この改善により、触媒層の抵抗が通常は支配的である高電流密度における分極が増大することになった可能性がある。触媒の周辺における疎水性材料の分布を改善することによって、水を活性部位から引き離し、それにより水の輸送を促進し、局所的なフラッディングを低減するのを補助することが可能である(すなわち、水の管理を最適化し、質量輸送の損失を低減する)。
【0060】
AFMが、電極の表面モルフォロジを調査するために使用された。図11および12に示されたように、電極のタッピング・モードの振幅および相の画像が、材料の表面モルフォロジの相対的な違いを調査するために、5μm×5μmの規模の周囲条件下において記録された。図11では、表面モルフォロジを破壊し、したがってn-ブチルアセテート・システムの3相界面の連続性を破壊する比較的大きな高分子の島またはドメインが存在することがわかる。これらの島は、長さが約0.63μmから2.50μmの程度にわたる。しかし図12からは、t-ブチルアルコール・システムは、n-ブチルアセテート・システムと比較して、パーコレーション閾値により近いように見える電極モルフォロジを提供することが明瞭にわかり、この場合、イオン輸送、酸素拡散、水輸送、および電気化学活性表面領域を提供する構成要素間に、最適を超える均衡および分布が存在する。これによりまた、膜に接触するポリマー表面積の増大が可能であることにより、膜基板へのより優れた接着も可能になる。これらの島またはドメインは、通常、任意の1つの方向において0.63μmより小さい。本発明の一実施形態では、電極は、ポリマーのドメインを含むモルフォロジを有し、ポリマー・ドメインの少なくとも約80%が、任意の1つの方向において約0.63μmより小さく、ポリマー・ドメインのほぼすべてが、このサイズより小さいことが好ましい。ポリマー・ドメインは、電極の表面上に存在することが可能であり、および/または電極にわたって存在することが可能である。」、そして、【図6】には、現況技術の電極の状態と比較した本発明による電極の代表的な分極曲線が、【図7】には、本発明による電極を現況技術の電極と比較する活性化分極領域の近接図が、【図10】には、本発明による電極の耐久性を現況技術の電極と比較するグラフが、【図11】には、現況技術によるn-ブチルアセテートから製作された電極のAFMタッピング・モード画像を示す図が、【図12】には、本発明によるt-ブチルアルコールから製作された電極のAFMタッピング・モード画像を示す図が、それぞれ、記載されている。

(2-6)「 【0028】
本発明において使用されるイオン導電性ポリマーは、現在既知である、または将来開発されるあらゆるものとすることが可能である。イオン導電性ポリマーのいくつかの一般的なカテゴリは、以下を含むことが可能である。標準的:ナフィオン(登録商標)--ポリ(TFE-コ-パーフルオロスルホン酸)。Radel(登録商標)、Kraton(登録商標)、PBIなどのほとんどのあらゆるポリ(芳香族)のスルホン酸化バージョン。
上記に加えられた他の酸基:スルホンイミド、リン酸など。上記の支持バージョン:支持剤として使用されるゴアテックス(登録商標)など。PBI/リン酸(CWRU(登録商標))またはリンタングステン酸など、吸収された固体または液体の酸を有するポリマー。
【0029】
たとえば、本発明において使用されることが可能であるポリマーのいくつかの具体的な例が、2001年9月21日に出願され、「Ion-Conducting Sulfonated Polymeric Materials」という名称のPCT出願第PCT/US01/29293において教示されており、好ましい材料は、具体的には、本明細書において記述されたように使用されたBPSH-xx(Bi Phenyl Sulfone)、および6F-XX-BPSH-XX(Hexafluoro Bi Phenyl Sulfone)である。同様に、本発明において使用されることが可能である他のポリマーが、2003年4月1日に出願され、「Sulfonated Polymer Composition for Forming Fuel Cell Electrodes」という名称のPCT出願第PCT/US03/09918において教示されており、2003年2月6日に出願され、「Polymer Electrolyte Membranes Fuel Cell System」という名称のPCT出願第PCT/US03/03864、および2003年2月6日に出願され、「Polymer Electrolyte Membranes for Use in Fuel Cells」という名称のPCT出願第PCT/US03/03862において教示されている。使用されることが可能である他のポリマーが、2003年12月30日に発行された米国特許第6670065 B2号、2005年5月17日に発行された米国特許第6893764 B2号、および2005年2月10日に発表された米国特許出願公開第2005/0031930 Al号において開示されている。使用されることが可能である他のポリマーが、整理番号第15000P2号、PEM’s for Fuel Cell Applicationsという名称の2005年11月15日に出願された米国仮出願60/_において開示されている。上述された出願および特許は、本明細書において完全に述べられているかのように参照によって本明細書に組み込まれている。本発明は、Battellion(商標)と呼ばれる材料を含めて、それらにおいて記述された材料と共に使用されることが可能であることが有利である。
【0030】
本発明において使用される溶媒は、燃料電池などの電気化学デバイス用の構成要素を調製するのに適切な現在既知の、または将来開発されるあらゆるものとすることが可能である。ナフィオン(登録商標)および非ナフィオン(登録商標)(すなわち炭化水素)のイオノマーの両方に使用される通常の溶媒および希釈剤のいくつかの例が、表1に示されている。
【表1】





(3) 判断
ア. 上記(1)によれば、本願の請求項1に記載された発明は、イオン導電性ポリマーおよび少なくとも1つの溶媒の真溶液を備える組成から調製される、燃料電池の膜及び/又は電極である、構成要素に関し、前記イオン導電性ポリマーおよび前記少なくとも1つの溶媒が、前記真溶液を作成するために、δ溶媒を前記少なくとも1つの溶媒のヒルデブランド溶解度パラメータ、およびδ溶質を前記ポリマーのヒルデブランド溶解度パラメータとして、「|δ溶媒-δ溶質|<1MPa^(0.5)」(以下、「本願の溶解度パラメータの関係式」という。)に基づいて選択されることを特定事項とするものであるところ、前記イオン導電性ポリマーには、種類や構造についての特定がないため、請求項1に記載の発明は、任意のイオン導電性ポリマーについて、本願の溶解度パラメータの関係式を満たし、真溶液を作成するイオン導電性ポリマーと溶媒との組合せが含まれると解される。

イ. これに対して、発明の詳細な説明には、上記(2-1)?(2-2)に、PEM燃料電池の構成要素材料に関するコスト高、耐久性の不十分さがこの発明の解決すべき課題であり、電気化学デバイス用の構成要素の調製において、本願の溶解度パラメータの関係式を満たすイオン導電性ポリマーと溶媒の組合せを選択し、それらの真溶液を作成することが、上記の課題の解決手段であることが記載されている。

ウ. そして、上記(2-3)には、本願の溶解度パラメータの関係式を満たすイオン導電性ポリマーと溶媒との組合せにより、MEAの3相界面を加工することによって、燃料電池の性能および/または耐久性を向上させることが可能となったとの記載があり、また、本願の溶解度パラメータの関係式は、熱力学的に真溶液を実現するΔH及びΔGと関連があることが記載されている。
また、上記(2-5)における【0053】には、燃料電池の性能や耐久性の向上には、燃料電池電極内の可能な限り多数の触媒部位の3相界面が、電子及びイオンの連続性、燃料又は酸化剤へのアクセスに有効であるように維持することが望ましいと記載されている。

エ. 上記「ウ」に示す(2-3)や(2-5)の記載からは、燃料電池の構成要素の調製において、イオン導電性ポリマーと溶媒との組合せを、本願の溶解度パラメータの関係式を満たすように選択することにより、真溶液を作成し、これにより、MEAの3相界面を加工することによって、燃料電池の性能および/または耐久性を向上させることが可能となったことは把握できる。
しかし、燃料電池の構成要素の調製において、イオン導電性ポリマーと溶媒の真溶液により、燃料電池電極内の可能な限り多数の触媒部位の3相界面が、電子及びイオンの連続性、燃料又は酸化剤へのアクセスに有効であるように維持でき、燃料電池の性能および/または耐久性を向上させることが可能となるメカニズム又は作用機序については、発明の詳細な説明に記載されていない。

オ. ところで、上記(2-4)?(2-5)には、本願発明の具体例として、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマーを、溶媒としてn-ブチルアセテートと混合した組成から燃料電池の電極を調製する現況技術(従来例)に対し、n-ブチルアセテートに代えて、t-ブチルアルコールを溶媒として使用して燃料電池の電極を調製したものが記載され、表4に示されているように、電極触媒の利用率が低下したにもかかわらず、図6および7、並びに図10等に記載されるように、燃料電池の性能や耐久性が向上したと記載されている。

カ. そして、上記(2-5)の【0054】には、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマーは、溶媒と混合されるとき、溶液、コロイド分散、および、沈殿の3つの状態のうちの1つを形成し、コロイド分散では、1nmと1000nmの間の規模のコロイドが分子よりも大きいコロイドとして分散しており、溶媒の誘電定数が10よりも大きいときは溶液が形成されると記載されており、上記(2-5)の【0056】には、t-ブチルアルコールの誘電定数が10より大きいことが記載され、図12には、具体例による電極のAFMタッピング・モード画像が示されており、5μm^(2)の規模の画像であることからすると、0.63μmよりも小さい、高分子の島またはドメインが分布していることが把握できる。そして、具体例の場合について、例えば、上記(2-5)における【0060】には、この図12の画像から、イオン輸送、酸素拡散、水輸送、および電気化学活性表面領域を提供する構成要素間に、最適を超える均衡および分布が存在し、また、膜に接触するポリマー表面積の増大が可能であることにより、膜基板へのより優れた接着も可能になることが記載されている。

キ. しかし、図12に示されている画像からすると、具体例による電極において、分布している高分子の島またはドメインは、コロイド分散の最小値である1nmよりも大きいことは明らかであるから、溶媒であるt-ブチルアルコールの誘電定数が10より大きいことのみを根拠として、実施例において真溶液が調製されているとは必ずしもいえず、コロイド分散である可能性がある。

ク. また、上記(2-6)の【表1】には、溶媒および希釈剤についてのヒルデブランド溶解度パラメータは明記されているものの、パーフルオロスルホン酸ポリマー等のイオン導電性ポリマーについてのヒルデブランド溶解度パラメータは、発明の詳細な説明全体の記載を参照しても、不明であり、具体例において、本願の溶解度パラメータの関係式を満足していることも裏付けられてはいない。
なお、ナフィオン(登録商標)のSP値は23.2であるとの刊行物の記載(特開2008-53011号公報 【0052】?【0053】)を考慮すると、具体例は、「|δ溶媒-δ溶質|<1MPa^(0.5)」を満足しておらず、請求項1に記載の発明には該当していない蓋然性が高い。

ケ. 以上によると、上記(2-4)?(2-5)に記載されている具体例が、請求項1に記載される「真溶液」、及び「溶解度パラメータの関係式」についての特定事項を備えているかについて、いずれも疑義がある。

コ. さらに、上記の具体例が、請求項1に記載の発明特定事項を備えるものとしても、上記(2-5)における【0055】?【0056】には、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマーと混合する溶媒として、様々な溶媒を用いて実験し、現況技術(従来例)とされるn-ブチルアセテート(誘電定数=5.01)が最適な性能向上分散剤であること、また、10よりも大きい誘電定数を有するすべての溶媒は、溶液を形成し、燃料電池の環境において不十分に実施されるMEAをもたらしたことが記載されているから、発明の詳細な説明に記載された、誘電定数が10よりも大きい、t-ブチルアルコールを溶媒に用いる上記の具体例において、電極触媒の利用率が低下したにもかかわらず、燃料電池の性能や耐久性が向上したということは、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマーとt-ブチルアルコールとを組み合わせた電極を用いた場合に生じる個別的な現象であって、任意のイオン導電性ポリマーについて、本願の溶解度パラメータの関係を満たし、真溶液を作成するイオン導電性ポリマーと溶媒との組合せにおいて、共通して生じる現象であるとは解されない。

サ. してみると、仮に、具体例による燃料電池の構成要素が、請求項1に記載の発明に該当するとしても、PEM燃料電池の構成要素材料に関するコスト高、耐久性の不十分さという発明の課題を解決する手段として、発明の詳細な説明に具体的に記載されているのは、当該具体的なイオン導電性ポリマーと溶媒との組合せの場合だけであって、任意のイオン導電性ポリマーについて、本願の溶解度パラメータの関係を満たし、真溶液を作成するイオン導電性ポリマーと溶媒との組合せにまで、発明の課題を解決し得る手段を一般化ないし拡張することできない。

シ. そうすると、発明の詳細な説明の全ての記載を参酌しても、請求項1に記載の発明は、本願に係る課題を解決するか不明な発明を含み、また、具体例として記載された発明が請求項1に記載の発明に該当するかに疑義があり、仮に、具体例として記載された発明が請求項1に記載の発明に該当するとしたとしても、当該実施例を、請求項1に記載の発明にまで拡張ないし一般化することはできない。

ス. したがって、本願の請求項1に係る発明は、本願の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

(4)まとめ

以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。


第4 むすび

以上のとおりであるから、前置審査における拒絶理由は妥当であり、本願は拒絶されるべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-28 
結審通知日 2013-06-04 
審決日 2013-06-24 
出願番号 特願2007-541468(P2007-541468)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 536- Z (H01M)
P 1 8・ 537- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 雅博油科 壮一守安 太郎  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山田 靖
小川 進
発明の名称 燃料電池構成要素の改良に基づく溶液および他の電気化学システムおよびデバイス。  
代理人 尾原 静夫  
代理人 真田 雄造  

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