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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
管理番号 1281768
審判番号 不服2013-4740  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-12 
確定日 2013-11-14 
事件の表示 特願2011-238820号「空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔平成24年6月14日出願公開、特開2012-112640号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成23年10月31日(優先日:平成22年11月5日)の出願であって、平成24年12月27日付けで拒絶査定がなされ(発送:平成25年1月8日)、これに対し平成25年3月12日に拒絶査定不服審判が請求されたものであり、さらに、平成25年6月21日付けで当審において拒絶理由が通知され(発送:6月25日)、これに対し同年8月21日に意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年4月2日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
送風機と、
前記送風機によって発生する空気流の流路に配置された熱交換器とを備え、
前記空気流の流路には、前記送風機の長手方向の一部に対応した範囲に配置された流路抵抗部があって、
前記送風機が、2以上の羽根をそれぞれ有すると共に同一回転軸上に設けられた複数の羽根車を有しており、
前記複数の羽根車は、羽根の切り欠き数が互いに異なる複数種類の羽根車を含んでおり、
前記流路抵抗部に対応した範囲に配置された羽根車の所定長さあたりの羽根の切り欠き数が、他の羽根車の所定長さあたりの羽根の切り欠き数より少ないことを特徴とする室内機。」

3.刊行物とその記載事項
(1)当審における平成25年6月21日付けの拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)において引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-261311号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の記載がある。

ア.「【0001】
本願発明は、多翼ファンの羽根車の羽根部の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、クロスフローファン、シロッコファン、ターボファン等の多翼ファンは、空気調和機用の送風機として一般に用いられている。
【0003】
今例えば図16には、同多翼ファンを送風機として用いて構成された壁掛型の空気調和機用室内機Aの構成が示されている。
【0004】
この空気調和機Aは、上面に空気吸込口4を、下面前部に空気吹出口5を備えた本体ケーシング1と、該本体ケーシング1内に配設された熱交換器2と、該熱交換器2の二次側に配設された多翼ファン3とを備えて構成されている。
【0005】
熱交換器2は、空気吸込口4から本体ケーシング1の前面側に形成された空気通路6を介して供給される空気流が通過する前面側熱交換部2aと、該前面側熱交換部2aの上端に連設されて背面側に位置する背面側熱交換部2bとからなっている。
【0006】
一方、符号8は、上記前面側熱交換部2aからのドレンを受け止める第1のドレンパン、9は背面熱交換部2bからのドレンを受け止める第2のドレンパン、10は上記多翼ファン3の羽根車7から吹き出される空気流を案内するスクロール構造のガイド壁部、11は羽根車7から吹き出される空気流の逆流を防止するための逆流防止用舌部、12は空気吹出口5の上流側に配設された垂直羽根、13は空気吹出口5の下流側に配設された水平羽根である。
【0007】
そして、上記空気吸込口4から吸い込まれた空気流は、上記熱交換器2を通過する際に冷却あるいは加熱されて温度調和空気となり、例えば図21に示すように、多翼ファン3の羽根車7を回転軸に対して直交するように貫流した後、空気吹出口5から室内へ吹き出される。
【0008】
この多翼ファン3の羽根車7は、例えば図17に示すように、回転軸16の方向に所定の間隔で各々平行に配設された複数枚の円形支持プレート14,14・・の外周縁部に、回転軸16と平行となるように多数枚の羽根(ブレード)15,15・・を所定のピッチおよび所定の翼角をもって例えば前進翼構造で配設して構成されている。
【0009】
このような多翼ファン3の羽根車7においては、羽根車7を構成する羽根15,15・・を図21のように通過する空気流により生ずる空力騒音が問題となる。この空力騒音の主たる発生原因としては、羽根15,15・・の負圧面側の空気の流れの剥離と翼後縁側で発生する後流渦とが挙げられる。
【0010】
このような多翼ファン3の羽根車7の空力騒音を減少させる方法として、従来から例えば羽根車7の各羽根15,15・・の外周側(又は内周側)翼端に断続的に切欠を設けたり、同翼端をのこぎり歯状にすることにより、羽根負圧面側の空気流れの剥離を防止するとともに、吹出し時の翼後縁側で発生する後流渦を低減して騒音を低減する方法が提案されている(例えば特許文献1、2等を参照)。」(段落【0001】?【0010】、下線は当審にて付与、以下同じ。)

イ.「【0060】
<第1の実施の形態>
先ず図1?図6には、本願発明の第1の実施の形態に係る多翼ファンの羽根車の羽根部の構成が示されている。
【0061】
この実施の形態の多翼ファンの羽根車も、前述の従来例のもの(図17?図19参照)と同様に回転軸16方向に所定の間隔で平行に配設された複数の円形支持プレート14,14・・の外周縁部に、回転軸16と平行となるように多数枚の断面円弧状の羽根15,15・・を所定のピッチ、所定の翼角をもって前進翼構造で配設支持して構成されている。
【0062】
そして、各羽根15,15・・の外周側翼端15aには、例えば図1?図3に示すように、その長手方向に所定の間隔をもって正三角形状(V字形の)の多数の切欠17,17・・が形成され、かつ該切欠17,17・・の間には、翼端の一部を構成する所定の幅の平滑部(非切欠部)18,18・・がそれぞれ設けられている。」(段落【0060】?【0061】)

ウ.「【0068】
ところで、本実施の形態では、複数の節を有して構成されている多連型の羽根車7の上記羽根15の両端側部分(側板14,14の近傍部分)の切欠17a,17a(この実施の形態では、両端側の側板14,14に隣接する各1個のもの)の大きさ(幅b・深さa)をそれらの間のもの17,17・・よりも相似的に小さくしたことを特徴とするものである(図3中のb_(2)<b_(1)、a_(2)<a_(1))。」(段落【0068】)

エ.「【0098】
<第5の実施の形態>
次に図13は、本願発明の第5の実施の形態に係る多翼ファンの羽根車の羽根部の構成を示している。
【0099】
以上の各実施の形態のように、複数の節を有する多連構造の羽根車7において、その複数の側板14,14・・に隣接する各節の羽根15,15・・の左右両端側の切欠17a,17aをそれらの間の切欠17,17・・よりも小さなものにする場合において、例えば対応する両側の側板14,14が、例えば図13に示すように、当該羽根車7の左右両端側にあって図22中の本体ケーシング1の左右の側壁1a,1bと隣接するものであるような場合には、さらに同小さくする切欠17a,17aの縮小度合を大きくするか、または縮小する切欠17aの数を複数個にすることによって、可及的に同領域の流速FV_(3),FV_(3)のアップを図り、可及的有効に送風性能を向上させる構成も必要に応じて採用される。
【0100】
このような構成を採用すると、例えば図15に示すように、上述の各羽根15,15・・左右両側の側板14,14による流速低下部分FV_(2),FV_(2)の流速の回復(アップ)作用に加えて、さらに羽根車7左右両側の本体ケーシング側壁1a,1bの存在による流速低下部分FV_(3),FV_(3)の流速の回復(アップ)をも可能にすることができ、羽根車7の全体に亘って一層均一な風速分布を得ることができる。」(段落【0098】?【0100】)

オ.図13?15には、多翼ファン3が、多数枚の羽根15をそれぞれ有すると共に同一回転軸上に設けられた複数の羽根車7を有していることが図示されている。

上記事項を総合すると、刊行物1には第5の実施の形態対応の発明として、次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「多翼ファン3と、
前記多翼ファン3によって空気通路6を介して供給される空気流が通過する前面及び背面側熱交換部2a,2bとを備え、
前記空気通路6には、前記多翼ファン3の本体ケーシング1の左右の側壁1a,1bと隣接する左右両端側に流速低下部分FV_(3),FV_(3)があって、
前記多翼ファン3が、多数枚の羽根15をそれぞれ有すると共に同一回転軸上に設けられた複数の羽根車7を有しており、
前記複数の羽根車7は、側板14,14近傍の羽根の切欠17a,17aの大きさが互いに異なる複数種類の羽根車7を含んでおり、
前記流速低下部分FV_(3),FV_(3)に対応した左右両端の羽根車7の、側板14,14による流速低下部分FV_(2),FV_(2)の流速の回復のために大きさを縮小された前記切欠17a,17aの縮小度合を、他の羽根車7の羽根の切欠17a,17aより大きくした空気調和機用室内機A。」

(2)当審拒絶理由において引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-292053号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。

カ.「【0003】
今例えば図26には、同多翼ファンを送風機として用いて構成された壁掛型の空気調和機Aが示されている。」(段落【0003】)

キ.「【0012】
しかし、これらの構成では、羽根の外周側翼端に切欠があるために、吹出し時においては、切欠がある部分は無い部分と比べて羽根出口がファンの周方向に十分に向く前に広がっているために、ファン吹出し流れが周方向に十分に向かなくなって圧力が減少し、フィルタ等の圧力損失に対して弱くなり、風が出にくくなるという問題がある。
【0013】
この場合、羽根に設けた切欠の数が多いほど、または切欠の大きさが大きいほど圧力の減少量が大きくなる。」(段落【0012】?【0013】)

4.対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明における「多翼ファン3」は本願発明の「送風機」に相当し、以下同様に、「空気通路6」は「空気流の流路」に、「前面及び背面側熱交換部2a,2b」は「熱交換器」に、「多翼ファン3によって空気通路6を介して供給される空気流が通過する前面側熱交換部2a」は「送風機によって発生する空気流の流路に配置された熱交換器」に、「本体ケーシング1の左右の側壁1a,1bと隣接する左右両端側に」は「送風機の長手方向の一部に対応した範囲に」に、「流速低下部分FV_(3),FV_(3)」は「流路抵抗部」に、「多数枚の羽根15」は「2以上の羽根」に、「空気調和機用室内機A」は「室内機」に、各々相当する。

また、刊行物1記載の発明における「側板14,14近傍の羽根の切欠17a,17aの大きさが互いに異なる複数種類の羽根車7を含んでおり」は本願発明における「羽根の切り欠き数が互いに異なる複数種類の羽根車を含んでおり」と共に、「羽根の切り欠きの調整量が互いに異なる複数種類の羽根車を含んでおり」といえる。同様に、「流速低下部分FV_(3),FV_(3)に対応した左右両端の羽根車7の、側板14,14による流速低下部分FV_(2),FV_(2)の流速の回復のために大きさを縮小された前記切欠17a,17aの縮小度合を、他の羽根車7の羽根の切欠17a,17aより大きくした」は「流路抵抗部に対応した範囲に配置された羽根車の所定長さあたりの羽根の切り欠き数が、他の羽根車の所定長さあたりの羽根の切り欠き数より少ない」と共に、「流路抵抗部に対応した範囲に配置された羽根車の切り欠きの調整による圧力減少量が、他の羽根車の圧力減少量より小さい」といえる。

よって、両者の一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
送風機と、
前記送風機によって発生する空気流の流路に配置された熱交換器とを備え、
前記空気流の流路には、前記送風機の長手方向の一部に対応した範囲に配置された流路抵抗部があって、
前記送風機が、2以上の羽根をそれぞれ有すると共に同一回転軸上に設けられた複数の羽根車を有しており、
前記複数の羽根車は、羽根の切り欠きの調整量が互いに異なる複数種類の羽根車を含んでおり、
前記流路抵抗部に対応した範囲に配置された羽根車の切り欠の調整による圧力減少量が、他の羽根車の圧力減少量より小さい室内機。

(相違点)
流路抵抗部に対応した範囲の切り欠の調整による圧力減少量の調整が、本願発明においては「羽根車の所定長さあたりの羽根の切り欠き数が、他の羽根車の所定長さあたりの羽根の切り欠き数より少ない」ことにより行われているのに対し、刊行物1記載の発明においては「羽根車7の、側板14,14による流速低下部分FV_(2),FV_(2)の流速の回復のために大きさを縮小された前記切欠17a,17aの縮小度合を、他の羽根車7の羽根の切欠17a,17aより大きくした」ことにより行われ、その結果、複数種類の羽根車が、本願発明においては「羽根の切り欠き数が互いに異なる複数種類の羽根車」であるのに対し、刊行物1記載の発明においては「側板14,14近傍の羽根の切欠17a,17aの大きさが互いに異なる複数種類の羽根車7」である点。

5.判断
次いで、上記相違点につき検討する。

空調室内機の技術異分野における羽根車に形成する切り欠きに関して、刊行物2には「切欠の大きさが大きいほど」または「切欠の数が多いほど」、圧力減少量が大きくなることという技術事項が記載されており、この記載は、逆にいえば、圧力減少量を小さくするためには、「切欠の大きさが小さくする」かまたは「切欠の数を少なくすれば」よいことを示唆している(以下「刊行物2の示唆事項」という)。

また、刊行物1には「縮小する切欠17aの数を複数個にする」(摘記事項エ、段落【0099】)として、流速低下部分FV_(3),FV_(3)に対応するために、両端の羽根車においては、側板近傍のみならず中央部の切欠17,17をも「大きさを縮小された切欠17a,17a」とすることが示唆されている(以下「刊行物1の示唆事項」という)。

したがって、刊行物1記載の発明において、圧力減少量を小さくするための手段として「切欠の大きさを小さくする」ことに代え「切欠の数を少なくすることを」採用し、「流路抵抗部に対応した範囲に配置された羽根車の所定長さあたりの羽根の切り欠き数を、他の羽根車の所定長さあたりの羽根の切り欠き数より少なく」して複数種類の羽根車を「羽根の切り欠き数が互いに異なる複数種類の羽根車」とすることは、刊行物1、2の示唆事項を参酌し、対応すべき流路抵抗部の大きさに応じて、当業者が容易になし得た事項である。

そして、本願発明により得られる効果も、刊行物1記載の発明、及び刊行物1、2の示唆事項基づいて、当業者であれば予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

なお、請求人は、平成25年8月21日付け意見書にて「(2-3)本発明と刊行物1記載の発明を対比すると、本発明は、複数種類の羽根車において所定の羽根車の風量を他の羽根車の風量より大きくする発明であるのに対し、刊行物1記載の発明は、1つの羽根車においてその端部部分の風量を他の部分(端部部分でない部分)の風量より大きくする発明であって、両者の技術思想は大きく異なります。」と主張しているが、刊行物1には当審拒絶理由においても引用したように<第5の実施の形態>として、側板の影響のみならず、本体ケーシング1の左右の側壁1a,1bと隣接する左右両端側の流速低下部分FV_(3),FV_(3)に対応するため、両端の羽根車の切欠17a,17aをさらに調整する発明が記載(摘記事項エ、段落【0098】?【0100】)されており、左右の側壁と隣接する羽根車は上記切欠17a,17aが小さな分、他の羽根車より風量が大きくなることは明らである。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

6.結び
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明、及び刊行物1、2の示唆事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-05 
結審通知日 2013-09-10 
審決日 2013-09-30 
出願番号 特願2011-238820(P2011-238820)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 礒部 賢  
特許庁審判長 竹之内 秀明
特許庁審判官 前田 仁
鳥居 稔
発明の名称 空気調和機  
代理人 瀬川 耕司  
代理人 須原 誠  
代理人 梶 良之  

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