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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1281847
審判番号 不服2011-23415  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-31 
確定日 2013-11-21 
事件の表示 特願2000-605581「抗炎症剤としての芳香族複素環化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月21日国際公開、WO00/55152、平成14年11月19日国内公表、特表2002-539206〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2000年 1月31日(優先権主張 外国庁受理 1999年 3月12日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成13年 9月12日 国内書面
平成19年 1月26日 手続補正書
平成22年 5月 7日付け 拒絶理由通知書
平成22年11月15日 意見書・手続補正書
平成22年12月 6日付け 拒絶理由通知書
平成23年 6月 9日 意見書・手続補正書
平成23年 6月27日付け 拒絶査定
平成23年10月31日 審判請求書
平成23年12月12日付け 手続補正書(審判請求書)

第2 本願発明
この出願の特許請求の範囲は、平成23年 6月 9日付けの手続補正によって補正されたものである。その特許請求の範囲の請求項1?4の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】下記式(I)を有する化合物又はその薬学的に許容しうる塩。

[式中、
Ar_(1)は、以下からなる群から選ばれ:

(式中、
R_(1)は、C_(1-4)分枝鎖又は直鎖アルキル、シクロプロピル又はシクロヘキシルであり、それぞれ部分的に又は完全にハロゲン化されていてもよく、1?3個のC_(1-3)アルキル基で置換されていてもよい;
R_(2)は水素又は部分的に又は完全にハロゲン化されていてもよいC_(1-6)分枝鎖又は直鎖アルキル基であり;
R_(3)は-COOR_(4)、-CONR_(5)R_(6)である;
(式中、R_(4)は水素又はC_(1-4)-アルキルであり;
R_(5)は水素であり;
R_(6)は水素又はメチルである))
Ar_(2)はナフチルであり;
Lはプロポキシ、エトキシ又はメトキシであり、それぞれ0?2個のオキソ基及び1個以上のハロゲン原子で置換されていてもよい1個以上のC_(1-4)分枝鎖又は直鎖アルキル基で置換されていてもよく;
Qは
a)フェニル、ピリジン(ここで、フェニルは1?2個のC_(1-6)アルキル基で置換されていてもよい。)からなる群より選ばれた1?3個の基で置換されていてもよい。);
b)モルホリン;
からなる群より選ばれた基に共有結合している。)からなる群より選ばれ;
XはOである。]
【請求項2】Lがオキソ基と1個以上のC_(1-4)分枝鎖又は直鎖アルキル(1個以上のハロゲン原子で置換されていてもよい。)で置換されていてもよいエトキシである、請求項1記載の化合物。
【請求項3】下記の化合物からなる群より選ばれた化合物、又はその薬学的に許容しうる塩。
(1) 1-[2-カルボメトキシ-5-tert-ブチル-3-チエニル]-3-[4-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(2) 1-[2-メチルカルバモイル-5-tert-ブチル-3-チエニル]-3-[4-(2-(モルホリン-4-イル)エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(3) 1-[2-カルボメトキシ-5-tert-ブチル-3-チエニル]-3-[4-(ピリジン-4-イル-メトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(4) 1-[2-メチルカルバモイル-5-tert-ブチル-3-チエニル]-3-[4-(ピリジン-4-イル-メトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(5) 1-[2-カルボメトキシ-5-tert-ブチル-3-チエニル]-3-[4-(2-(3,4-ジメトキシフェニル)エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(6) 1-[2-メチルカルバモイル-5-tert-ブチル-3-チエニル]-3-[4-(2-(3,4-ジメトキシフェニル)エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(7) 1-[2-カルボメトキシ-5-tert-ブチル-3-ピロリル]-3-[4-(2-(モルホリン-4-イル)エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(8) 1-[2-メチルカルバモイル-5-tert-ブチル-3-ピロリル]-3-[4-(2-(モルホリン-4-イル)エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(9) 1-[1-メチル-2-カルボメトキシ-5-tert-ブチル-3-ピロリル]-3-[4-(2-(モルホリン-4-イル)エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(10) 1-[2-カルボメトキシ-5-tert-ブチル-3-ピロリル]-3-[4-(ピリジン-4-イル-メトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(11) 1-[2-メチルカルバモイル-5-tert-ブチル-3-ピロリル]-3-[4-(ピリジン-4-イル-メトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(12) 1-[2-カルボメトキシ-5-tert-ブチル-3-ピロリル]-3-[4-(2-(3,4-ジメトキシフェニル)エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素;
(13) 1-[2-メチルカルバモイル-5-tert-ブチル-3-ピロリル]-3-[4-(2-(3,4-ジメトキシフェニル)エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素。
【請求項4】下記式(I):

(式中、Ar_(1)、Ar_(2)、L及びQは請求項1で定義した通りであり、XはOである。)を有する請求項1記載の化合物の製造方法であって、
(a)式(II):Ar_(1)-NH_(2)を有するアミノ複素環とフェニルクロロホルメートとを適当な塩基の存在下に適切な溶媒中で反応させて下記式(V):

を有するカルバメート化合物を形成する工程、及び
(b)工程(a)からの式(V)のカルバメート化合物と下記式(IV):

を有するアリールアミンとを適当な塩基の存在下に適切な極性溶媒中で反応させて式(I)の化合物を形成する工程を含む、前記方法。」
(以下、上記請求項1?4に記載された事項により特定される発明をそれぞれ「本願発明1」などといい、まとめて「本願発明」ともいう。ただし、「本願発明1」については、請求項1に誤記があるため、次の読み替えを行った。)

上記請求項1は、平成23年 6月 9日付けの手続補正がされる前の平成22年11月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された請求項1(これを「旧請求項1」という。)に対応するものであって、旧請求項1には、以下の記載がある。
「 a) フェニル、ナフチル、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、フラン、チオフェン、ピラン、ナフチリジン、オキサゾ[4,5-b]ピリジン及びイミダゾ[4,5-b]ピリジン(それぞれはハロゲン、C_(1-6)アルキル、C_(1-6)アルコキシ、ヒドロキシ、モノ又はジ(C_(1-3)アルキル)アミノ、C_(1-6)アルキル-S(O)_(m)及びフェニルアミノ(ここで、フェニル環はハロゲン、C_(1-6)アルキル及びC_(1-6)アルコキシからなる群より選ばれる1?2個の基で置換されていてもよい。)からなる群より選ばれた1?3個の基で置換されていてもよい。);
b) テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラノン、1,3-ジオキサノン、1,4-ジオキサン、モルホリン、チオモルホリン、チオモルホリンスルホキシド、ピペリジン、ピペリジノン、テトラヒドロピリミドン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、ペンタメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルホキシド、ペンタメチレンスルホン、テトラメチレンスルフィド、テトラメチレンスルホキシド及びテトラメチレンスルホン(それぞれはC_(1-6)アルキル、C_(1-6)アルコキシ、ヒドロキシ、モノ又はジ(C_(1-3)アルキル)アミノ-C_(1-3)アルキル、フェニルアミノ-C_(1-3)アルキル及びC_(1-3)アルコキシ-C_(1-3)アルキルからなる群より選ばれた1?3個の基で置換されていてもよい。); 及び
c) C_(1-6)アルコキシ、第二級アミン又は第三級アミン(ここで、アミノ窒素はC_(1-3)アルキル及びC_(1-5)アルコキシアルキル、フェニルアミノ(ここで、フェニル環はハロゲン、C_(1-6)アルコキシ、ヒドロキシ又はモノ又はジ(C_(1-3)アルキル)アミノからなる群より選ばれた1?2個の基で置換されていてもよい。)、C_(1-6)アルキル-S(O)_(r)、フェニル-S(O)_(t) (ここで、フェニル環はハロゲン、C_(1-6)アルコキシ、ヒドロキシ又はモノ又はジ(C_(1-3)アルキル)アミノからなる群より選ばれた1?2個の基で置換されていてもよい。)からなる群より選ばれた基に共有結合している。)
からなる群より選ばれ; 」
旧請求項1の記載からみて、請求項1に
「Qは
a)フェニル、ピリジン(ここで、フェニルは1?2個のC_(1-6)アルキル基で置換されていてもよい。)からなる群より選ばれた1?3個の基で置換されていてもよい。);
b)モルホリン;
からなる群より選ばれた基に共有結合している。)からなる群より選ばれ;」
と記載されているのは、
「Qは
a)フェニル、ピリジン(ここで、フェニルは1?2個のC_(1-6)アルキル基で置換されていてもよい。);
b)モルホリン;
からなる群より選ばれ;」
を意図するものの誤記であることは明らかであるから、本願発明1は、以下のとおりのものであると認める。
(本願発明1)
「【請求項1】下記式(I)を有する化合物又はその薬学的に許容しうる塩。

[式中、
Ar_(1)は、以下からなる群から選ばれ:

(式中、
R_(1)は、C_(1-4)分枝鎖又は直鎖アルキル、シクロプロピル又はシクロヘキシルであり、それぞれ部分的に又は完全にハロゲン化されていてもよく、1?3個のC_(1-3)アルキル基で置換されていてもよい;
R_(2)は水素又は部分的に又は完全にハロゲン化されていてもよいC_(1-6)分枝鎖又は直鎖アルキル基であり;
R_(3)は-COOR_(4)、-CONR_(5)R_(6)である;
(式中、R_(4)は水素又はC_(1-4)-アルキルであり;
R_(5)は水素であり;
R_(6)は水素又はメチルである))
Ar_(2)はナフチルであり;
Lはプロポキシ、エトキシ又はメトキシであり、それぞれ0?2個のオキソ基及び1個以上のハロゲン原子で置換されていてもよい1個以上のC_(1-4)分枝鎖又は直鎖アルキル基で置換されていてもよく;
Qは
a)フェニル、ピリジン(ここで、フェニルは1?2個のC_(1-6)アルキル基で置換されていてもよい。);
b)モルホリン;
からなる群より選ばれ;
XはOである。]」
なお、本願において、明細書の手続補正はされていないので、その記載は、平成13年 9月12日付けで提出された国内書面の明細書のとおりである(以下、これを「本願明細書」という。)。

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成22年12月 6日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって、拒絶をすべきものです。 なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」というものである。
原査定における平成22年12月 6日付け拒絶理由通知書の「理由」の欄には「1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」と記載され、この理由について、「記」に以下の記載がある。
「理由1,2について
請求項1-4について
本願請求項に係る発明は、化合物についてのものであり、発明の詳細な説明には、請求項1に記載の化合物の製造方法、物性を具体的に確認できる記載が存在しないところ、化学物質はその構造から、具体的な反応性、各種物性を予測することは困難であるから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が上記請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、上記請求項に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。
(本願明細書に記載の合成手順の記載では不十分である。意見書等で具体的な試験結果等を示してもこの理由は解消しない。)」
以上のことから、原査定における「平成22年12月 6日付け拒絶理由通知書に記載した理由」とは、「本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」という理由を含むと認められる。

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、と判断する。
その理由は、以下のとおりである。

本願発明1?3の化合物の製造について、本願明細書には、以下の記載がある。
ア「【0052】合成手順
1-[2-カルボメトキシ-5-アルキル-3-チエニル]-3-[アリール]尿素(1)の調製:
方法 A:
メチル5-アルキル-3-アミノチオフェン-2-カルボキシレート(2)は、メチルチオグリコレート(3)と2-アルキル-2-クロロアクリロニトリル(4)の塩基触媒縮合から調製される。好ましい塩基はナトリウムメトキシドである。好ましい溶媒はメタノールであり、好ましい反応温度は50?90℃である。生成物の精製は、再結晶、蒸留又はシリカゲルクロマトグラフィーによって達成される。この3-アミノチオフェン(2)は、塩基の存在下にフェニルクロロホルメートで処理される。好ましい溶媒はTHFである。得られたチオフェンフェニルカルバメート(5)は、トリエチルアミンのような塩基と共にDMSO中で芳香族アミン(6)と反応させて生成物(1)を得、これは再結晶又はシリカゲルクロマトグラフィーで精製される。
【0053】

【0054】方法 B:
3-アミノチオフェン(2)を塩化メチレンと水性重炭酸ナトリウムに溶解し、0℃に冷却する。ホスゲンを添加し、水層からチオフェンイソシアネート(7)を分離し、乾燥し、芳香族アミン(6)と塩基、例えば、トリエチルアミンとをTHFのような非プロトン性溶媒中で反応させて尿素生成物(1)を得る。
【0055】

【0056】方法 C:
芳香族アミン(6)を塩化メチレンと水性重炭酸ナトリウムに溶解し、0℃に冷却する。ホスゲンを添加し、水層から芳香族イソシアネート(8)を分離し、乾燥し、チオフェンアミン(2)と反応させて尿素生成物(1)を得る。
【0057】

【0058】1-[2-メチルカルバモイル-5-アルキル-3-チエニル]-3-[アリール]尿素(10)の調製
方法 D:
2-メチルカルバモイル-5-アルキル-3-アミノチオフェン(13)は、メチル5-アルキル-3-アミノチオフェン-2-カルボキシレート(2)からアミノ基とベンジルクロロホルメートとをトルエンのような非プロトン性溶媒と炭酸ナトリウムのような塩基中で反応させることにより調製される。得られたメチル3-(N-カルボベンジルオキシアミノ)-5-アルキルチオフェン-2-カルボキシレート(11)は、メタノールのようなプロトン性溶媒中メチルアミンとNaCNで高温の密封容器内で処理される。好ましい温度は、50?90℃である。2-メチルカルバモイル-5-アルキル-3-(N-カルボベンジルオキシアミノ)チオフェン(12)の精製は、シリカゲルクロマトグラフィーで達成される。カルボベンジル基の除去は、酢酸中HBrで達成され、アミン(13)を得る。このアミンによる尿素形成は、上記方法A、B又はCで達成され、1-[2-メチルカルバモイル-5-アルキル-3-チエニル]-3-[アリール]尿素(10)が得られる。
【0059】

【0060】1-[2-(N-アセチルアミノメチル)-5-アルキル-3-チエニル]-3-[アリール]尿素(14)の調製
方法 E:
1-[2-(アミノメチル)-5-アルキル-3-チエニル]-3-[アリール]尿素(15)は、 メチルアミンをアンモニアに置き換えることにより方法Dによって調製される1-[2-カルバモイル-5-アルキル-3-チエニル]-3-[アリール]尿素(16)をTHFのような非プロトン性溶媒中ボランのような水素化物還元剤で50?90℃のような高温において処理し、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製することにより調製される。アミド(16)は、このアミンをN-カルボ-tert-ブトキシグリシン(17)のようなN-保護グリシンと標準ぺプチド形成試薬、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミドやヒドロキシベンゾトリアゾールと共にTHFのような非プロトン性溶媒中でカップリングし、生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより調製される。N-アセチル生成物(14)の形成は、(16)を酸で処理してアミン(17)を得、続いて塩化アセチルや酢酸無水物のようなアシル化剤とTHFのような非プロトン性溶媒中で反応させ、シリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより達成される。
【0061】

【0062】1-[2-カルボメトキシ-5-アルキル-3-フリル]-3-[アリール]尿素(18)の調製
方法 F:
5-アルキルフラン-2-カルボキシレート(19)は、2-アルキルフラン(20)をTHFのような非プロトン性溶媒中ブチルリチウムのような強塩基で-78?0℃の温度において処理し、二酸化炭素で急冷することにより調製される。メチル5-アルキル-3-アミノフラン-2-カルボキシレート(21)は、5-アルキルフラン-2-カルボキシレート(19)をTHFのような非プロトン性溶媒中ブチルリチウムのような強塩基で-78?0℃の温度において処理し、トシルアジドで急冷することにより調製される。カルボン酸はメタノール中TMSCHN2でエステル化され得てメチル5-アルキル-3-アミノフラン-2-カルボキシレート(22)が得られる。このアミンによる尿素形成は上記方法A、B又はCによって達成され、1-[2-カルボメトキシ-5-アルキル-3-フリル]-3-[アリール]尿素(18)が得られる。
【0063】

【0064】1-[2-カルボメトキシ-5-アルキル-3-ピロリル]-3-[アリール]尿素(23)の調製
方法 G:
メチル5-アルキルピロール-2-カルボキシレート(24)は、メチルピロール-2-カルボキシレート(25)をジクロロメタンのような非プロトン性溶媒と2-クロロ-2-メチルプロパンのようなクロロアルカン中AlCl3のようなルイス酸で処理することにより調製される。この生成物(24)のニトロ化は、発煙硝酸で達成され、メチル5-アルキル-3-ニトロピロール-2-カルボキシレート(26)を得、これをメタノールのようなプロトン性溶媒中パラジウム触媒で水素添加し、シリカゲルクロマトグラフィーで精製するとメチル5-アルキル-3-アミノピロール-2-カルボキシレート(27)が得られる。このアミンにより方法上記A、B又はCで尿素形成すると1-[2-カルボメトキシ-5-アルキル-3-ピロリル]-3-[アリール]尿素(23)が得られる。
【0065】

【0066】1-[2-メチルカルバモイル-5-アルキル-3-ピロリル]-3-[アリール]尿素(28)の調製
方法 H:
5-アルキル-3-ニトロピロール-2-カルボキシレート(29)は、上で調製した5-アルキル-3-ニトロピロール-2-カルボキシレート(26)からTHF、メタノール又は水のような溶媒混合液中水酸化ナトリウムのようなアルカリで50?90℃の温度において処理することにより調製される。生成物の精製は、摩砕又はシリカゲルクロマトグラフィーで達成される。5-アルキル-3-ニトロピロール-2-カルボキシレート(29)の2-メチルカルバモイル-5-アルキル-3-ニトロピロール(30)への変換は、THFやDMFのような非プロトン性溶媒中EDCIのようなメチルアミン及びアミド形成試薬で処理することにより達成される。2-メチルカルバモイル-5-アルキル-3-アミノピロール(31)は、酢酸エチルのような非プロトン性溶媒中パラジウム触媒の存在下にニトロ基を還元することにより調製される。このアミン(31)による尿素形成は、上記のように方法A、B又はCで達成され、1-[2-メチルカルバモイル-5-アルキル-3-ピロリル]-3-[アリール]尿素(28)が得られる。
【0067】


本願明細書には、本願発明1?3の化合物を製造した反応についての実際の反応条件や収率、得られた生成物の物性値は記載されていない。
本願明細書における上記アの記載は、いずれも、-Ar_(2)-L-Qを有する本願発明の化合物の合成経路を模式的に記載し、その反応条件を例示して大まかに説明したものである。化合物の反応性は、反応に直接関与する基だけでなく、その周辺の置換基の構造にも影響を受けるから、反応の種類としては公知の反応であったとしても、実際に当該反応が起こるかどうかは、実験によって確認する必要があり、このことは、化学が実験の学問と言われる所以である。このような技術常識からみると、-Ar_(2)-L-Qとして、請求項1の定義による多様な基を有する化合物を製造するには、上記アのように、反応の経路が記載され、反応条件が例示的に説明されていても、実際に反応を行い、生成物の物性値によって、所期の反応が起こったことを確認して、特定の条件で、実際に反応が進行すると客観的に判断できるような記載がなければ、当業者であっても、当該化合物を製造することができるとはいえない。本願明細書の上記アの記載は、概略的なものであって、技術常識を考慮しても、本願明細書の記載から、当業者が実際に本願発明の化合物を得ることができると当業者が客観的に理解するには不十分な記載である。

請求人は、実施可能要件について、平成23年12月12日付けの手続補正により補正された審判請求書において、概略以下の主張をしている。
「本願明細書の段落0045?0081に記載の合成手順を指針として、本発明に係る化合物を合成可能であると思料する。 具体的には、方法K,L,Nは、式(I)の化合物の右半分(-NH-Ar_(2)-L-Q)に関する記載であり、方法A?D,F?Jは、式(I)の化合物全体、主に左半分に関する記載である.当業者がであれば、これら本願明細書に記載の方法を適宜組み合わせれば、補正後の請求項1?3の化合物を製造可能であることは容易に理解できよう。・・・方法A?D,F?Jでは、-NH-Ar_(2)-L-QとR1が特定されていないが、それ以外の基は具体的なものに特定されている。-NH-Ar_(2)-L-Qは、方法K,L,Nで具体的な化合物に特定されている。本願明細書には、各方法について、好ましい溶媒、反応温度、精製手段等が記載されている。そうすると、当業者であれば、本願明細書の記載を指針に、本発明に係る化合物を製造できるし、裏返しとして、本発明は、発明の詳細な説明に記載されている。
特に、請求項3に記載の化合物(1)?(13)は、下記表に示すとおり、方法A?D
,F?Jに記載の化合物と、方法K,L,Nに記載の化合物とを組み合わせることにより
得られる化合物である。当業者であれば、これら化合物を容易に製造できるであろう。

」(平成23年12月12日付け手続補正書1頁最下行?3頁下から4行)
また、平成23年 6月 9日付の意見書においても、実施可能要件について、上記の審判請求書におけるのと同じ主張をしている(1頁下から9行?3頁下から4行)。
しかし、請求人が本願が実施可能要件を満たす根拠として挙げる段落0045?0081の記載は、各方法の反応について好ましい溶媒、反応温度、精製手段等が記載され、方法K,L,Nで-NH-Ar_(2)-L-Qの構造を具体的に特定していても、本願発明の化合物である式(I)の化合物を得る方法A?D,F?Jの反応の条件については、一般的に説明するにとどまり、実際に本願発明の化合物が得られた条件については明らかにしておらず、実際に目的物が得られたことを示す物性値等の記載がないことは、既に上記で指摘したとおりである。
発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たすことの立証責任は、出願人及び請求人が負担すべきであるというのが通説であるから、当審は、請求人に、審判請求書及び意見書に提示した表のとおりの上記アの製造方法により、実際に本願発明の化合物が製造できることを客観的に示す資料として、審判請求書に提示された上記の表の化合物(1)?(13)(請求項3に記載された化合物と同じものである。)を製造した際の具体的な試薬の添加量、反応温度等の反応条件、収率、生成物の物性値の提示を求めたが、請求人はこれに応じなかった(応対記録を参照。)。
このように、請求人の主張を考慮しても、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本願発明の化合物を実際に製造することができるのに十分な記載がされているとはいえない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、特許法第49条第4号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-14 
結審通知日 2013-06-19 
審決日 2013-07-08 
出願番号 特願2000-605581(P2000-605581)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 保  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 門前 浩一
齋藤 恵
発明の名称 抗炎症剤としての芳香族複素環化合物  
代理人 箱田 篤  
代理人 大塚 文昭  
代理人 中村 稔  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 西島 孝喜  

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