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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1281893
審判番号 不服2012-10612  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-07 
確定日 2013-11-20 
事件の表示 特願2009-156475「エンハンサーによって増大した植物における遺伝子の発現」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月12日出願公開、特開2009-261408〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年11月26日(パリ条約による優先権主張 1995年11月29日、英国)を国際出願日とする特願平9-520267号の一部を新たな特許出願として、平成19年7月4日に出願された特願2007-176679号の一部を新たな特許出願として、平成20年4月16日に出願された特願2008-106364号の一部を新たな特許出願として、平成21年7月1日に出願されたものであって、平成24年1月31日付けで拒絶査定がされたところ、同年6月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 平成24年6月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年6月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年6月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、拒絶査定不服審判の請求と同時にしたものであって、補正前の請求項15と補正後の請求項14の記載は次のとおりである。

補正前:
「【請求項15】 遺伝子プロモーターの発現を増大させるエンハンサーの配列を含んでなる核酸であって、該エンハンサーはA及びT塩基に富むヌクレオチド配列であり、その含有するA及びT塩基の総量は該ヌクレオチド配列の50%を上回り、該エンハンサーは、本明細書の図面の図6の配列番号1、エンハンサー活性を有する配列番号1のサブ配列、本明細書の図面の図7の配列番号2、及び、配列番号1由来のヌクレオチド塩基対配列である-388?179からなる群から選択される単離された配列であり、さらに該エンハンサーは、天然のエンドウマメ・プラストシアニン遺伝子の5’非翻訳領域の該エンハンサーの隣に位置するヌクレオチド配列に結合していない核酸を有する細胞。」

補正後:
「【請求項14】 遺伝子プロモーターの発現を増大させるエンハンサーの配列を含んでなる核酸であって、該エンハンサーは、本明細書の図面の図6の配列番号1、本明細書の図面の図7の配列番号2、及び、配列番号1由来のヌクレオチド塩基対配列である-388?179からなる群から選択される単離された配列であり、さらに該エンハンサーは、天然のエンドウマメ・プラストシアニン遺伝子の5’非翻訳領域の該エンハンサーの隣に位置するヌクレオチド配列に結合していない核酸を有する細胞。」

2.補正の適否

上記補正は、補正前の請求項15に択一的に記載されたエンハンサーの中から、「該エンハンサーはA及びT塩基に富むヌクレオチド配列であり、その含有するA及びT塩基の総量は該ヌクレオチド配列の50%を上回」る「エンハンサー活性を有する配列番号1のサブ配列」を削除するものであり、択一的記載の要素の削除に該当するものであって、補正前の請求項15に係る発明と補正後の請求項14に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という)第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項14に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.に「補正後」として記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用例1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるPlant J.,Vol.3(1993)p.437-449(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)。

ア.「β-グルクロニダーゼ(GUS)レポーター遺伝子に融合したエンドウマメのプラストシアニン遺伝子(petE)プロモーターの5’の一連の削除を、形質転換タバコ植物における発現について調べた。明暗中の導入遺伝子の定量的な発現を調節する強い正負のシス要素が、petEプロモーター内に検出された。-784bpにおける負の制御をする要素の中断は、これまで記述された最も強力な光合成遺伝子プロモーターを形成した。組織化学的分析は、すべてのpetE-GUS構築物が葉緑体を含む細胞において発現を指示し、翻訳開始部位の-176bpから+4bpまでの領域が、そのような細胞特異的な発現に十分であったことを実証した。petE-プロモーター融合体は白化した形質転換タバコの苗の中で高レベルで発現されたが、明中ではGUS活性の顕著な誘導はなかった。形質転換タバコにおいて内因性のタバコのプラストシアニン遺伝子及び完全なエンドウマメのプラストシアニン遺伝子も暗中で発現したが、明中では3から7倍の増加を示した。このことは、petE遺伝子の十分な光反応のためにはプロモーターの3’側の配列が必要であることを示す。」(要約の項)

イ.「



ウ.「



エ.「



オ.「最小-176削除のみが、15の根再生体のうち3つにおいて低レベルのGUS発現を指示し、-444削除に比べて45分の1の減少を示した(・・・・・・)。このことは、-444と-176の間に、導入遺伝子の定量的な発現を増強する重要な正のシス要素が存在することを示唆している。」(439頁右欄7?15行)

カ.「-444から-177の正の制御要素中の配列は、-295から-284に(逆向きの)推定上のAT-1に対する結合部位(Datta及びCashmore、1989)と、-254から-247にGボックス結合因子(Giuliano等、1988)を含んでいる。関連するトランス活性化因子の結合が、-444から-177配列の強力な発現上昇特性に寄与するものと思われる。-444から-177の正の要素は、また、-434から-418にシロイヌナズナpetEプロモーターのダイレクトリピートとして示された配列(Vorst等、1988)及びホウレンソウpetEプロモーターに示される2つの配列(Bichler及びHerrmann、1990)と同じ配列を含んでいる。」(446頁右欄25?36行)

上記アの記載及び上記イ.のpetEプロモーターの塩基配列の記載から、上記ウ.の図2に「-444 petE プロモーター」として記載されている断片は、エンドウマメのプラストシアニン遺伝子のプロモーターの-444から+4までの配列からなる核酸を意味していることは明らかである。
よって、上記ア.?ウ.の記載から、引用例1には、エンドウマメのプラストシアニン遺伝子のプロモーターの-444から+4までの配列を含んでなる核酸を有する細胞の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比
本願明細書の実施例1、図1及び図6の記載からすると、本願補正発明の「本明細書の図面の図6の配列番号1」は、エンドウマメのプラストシアニン遺伝子のプロモーターの-444から-179までの配列に相当する。
そこで、本願補正発明と引用発明を比較すると、両者は「本明細書の図面の図6の配列番号1の配列を含んでなる核酸を有する細胞」である点では一致しているが、本願補正発明の核酸が、「本明細書の図面の図6の配列番号1の配列」を遺伝子プロモーターの発現を増大させるエンハンサーの単離された配列として含むものであり、該エンハンサーが、天然のエンドウマメ・プラストシアニン遺伝子の5’非翻訳領域の該エンハンサーの隣に位置するヌクレオチド配列に結合していない核酸を有するものであるのに対し、引用発明の核酸は、「本明細書の図面の図6の配列番号1の配列」をエンドウマメのプラストシアニン遺伝子のプロモーターの-444から+4までの配列の一部として含むものであり、引用例1には「本明細書の図面の図6の配列番号1の配列」がエンハンサーであるとは記載されていない点で相違する。

(4)相違点についての判断
池原森男等監訳「動植物の遺伝子工学-基礎から応用へ-」(株)廣川書店、平成7年4月25日発行、299-314頁(以下、「周知例1」という。)に記載されているように、エンハンサーなどの遺伝子の発現を調節する領域を解析する際に、5’末端や3’末端を欠失させた変異体を作成することは、本願優先日前周知技術である。
引用例1には、エンドウマメのプラストシアニン遺伝子のプロモーターの-444から-177までの配列には、-176から+4までの最小プロモーターの発現を増強する重要な正のシス要素が存在することが記載されている(上記(2)エ.?カ.の記載)から、該プロモーターの-444から-177までの配列中に遺伝子プロモーターの発現を増大させるエンハンサーの配列があることを期待して、該プロモーターの-444から-177までの配列の3’末端から2塩基欠失させた配列(本願補正発明の「本明細書の図面の図6の配列番号1の配列」に相当する。)を作成し、該配列をエンドウマメのプラストシアニン遺伝子の-176から+4までの最小プロモーターに連結して、該プロモーターの発現を増大させるエンハンサーとしての活性を有することを確認することは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、上記2塩基欠失させた配列を上記最小プロモーターに連結すれば、該最小プロモーターとの間には2塩基の欠失が存在することになるから、「本明細書の図面の図6の配列番号1の配列」は、天然のエンドウマメ・プラストシアニン遺伝子の5’非翻訳領域の隣に位置するヌクレオチド配列には結合していないことになる。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年7月13日付けの手続補正書により補正された審判請求書において、本願補正発明の「本明細書の図面の図6の配列番号1の配列」等のエンハンサーの配列が、(a)正方向でも逆方向でも機能し得る、(b)複数コピーのエンハンサー配列をプロモーターに連結すると、当該遺伝子の発現をより顕著に増大させる、(c)遺伝子の転写ターミネーターの下流に連結された場合でも、遺伝子の発現を増大させる、(d)異種プロモーターと作動式に連結された場合でも、遺伝子の発現を増大させる、(e)エンハンサー配列の原プロモーターが通常発現しない組織でも、遺伝子の発現を増大させる、という性質を有するのに、引用例1にはそのような性質は示されていない旨主張している。
しかしながら、本願補正発明は、「本明細書の図面の図6の配列番号1の配列」等のエンハンサーの配列を、逆方向に配置すること、複数コピーのエンハンサー配列をプロモーターに連結させること、遺伝子の転写ターミネーターの下流に連結させること、異種プロモーターに連結させること、エンハンサー配列の原プロモーターが通常発現しない組織で発現させることに限定されている発明ではないので、審判請求人の主張する上記効果は特許請求の範囲の記載に基づくものとはいえない。
また、上記周知例1及びEur.J.Biochem.,Vol.176(1988)p.485-495(以下、「周知例2」という。)には、エンハンサーの諸性質について記載されており、(a)の点は、周知例1の311頁19?20行に、(b)の点は、周知例2の490頁左欄1?8行及び図3に、(c)の点は、周知例1の311頁20?24行及び周知例2の図1(D)に、(d)の点は、周知例1の311頁13?14行に、(e)の点は、周知例1の314頁2?3行にそれぞれ記載されている事項であって、エンハンサーとしての本願優先日前周知の性質にすぎないものであるから、これらの点が当業者が予測出来ない程の格別顕著な効果であるとは認められない。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。

(6)まとめ
以上のように、本願補正発明は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成24年6月7日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?15に係る発明は、平成23年4月5日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項15に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1.に「補正前」として記載したとおりのものである。

2.当審の判断
上記第2 2.で述べたとおり、上記補正は、択一的記載の要素の削除に該当するものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものであることは明らかである。
そして、上記第2 3.で述べたとおり、本願補正発明は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も、同様に、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-24 
結審通知日 2013-06-25 
審決日 2013-07-08 
出願番号 特願2009-156475(P2009-156475)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 正展水落 登希子  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 田中 晴絵
高堀 栄二
発明の名称 エンハンサーによって増大した植物における遺伝子の発現  
代理人 森田 順之  

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