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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1282082
審判番号 不服2012-25050  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-18 
確定日 2013-11-28 
事件の表示 特願2009- 61067「熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、及び表面実装用電子部品」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月12日出願公開、特開2009-263635〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成21年3月13日(優先権主張 平成20年4月3日)の出願であって、平成24年4月25日付けで拒絶理由が通知され、同年7月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成25年2月27日付けで前置報告がなされ、それに基いて当審において同年6月3日付けで審尋がなされ、これに対して同年8月2日に回答書が提出されたものである。

第2.平成24年12月18日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年12月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年12月18日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合の補正であって、特許請求の範囲について、本件補正前の

「【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ポリアミド(B)、及び、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を必須成分として二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr・rpm)、吐出される樹脂温度が345?370℃の範囲となるようになる条件下に溶融混練して得られる樹脂組成物であって、該組成物100質量部あたりの前記ポリアミド(B)の含有量が10?30質量部であり、且つ、該組成物をヘキサフルオロイソプロパノールで70℃15分間抽出した際の抽出率が7質量%以下であり、且つ、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、Na含有量500ppm以下のものであり、且つ、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を、該組成物100質量部あたり0.01?2質量部となる割合で含有するものであり、且つ、前記ポリアミド(B)が、脂肪族炭化水素部位の炭素原子数が2?4である脂肪族ポリアミド、または、下記構造式a
【化1】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造(a)を65?75モル%、下記構造式b
【化2】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるイソフタル酸アミド構造(b)を20?25モル%、及び下記構造式c
【化3】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表し、R2は炭素原子数4?10の脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される脂肪族炭化水素構造(c)を5?15モル%となる割合で有する芳香族ポリアミドであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド(B)が、融点280?330℃の範囲にあるものである請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、及び、ポリアミド(B)を必須成分とする樹脂組成物100質量部あたりの前記ポリアミド(B)の含有量をX(質量%)とし、該組成物をヘキサフルオロイソプロパノールで70℃15分間抽出した際の抽出率をY(質量%)とした場合に、Y/Xの値が0.01?0.40の範囲にある請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
350℃、100sec^(-1)のせん断速度条件で、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度をη_(A)、融点が280?330℃の範囲にあるポリアミド(B)の溶融粘度をη_(B)とした場合に、η_(B)/η_(A)の値が0.9?5.0である、請求項1?3のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記した反応性官能基含有オルガノシラン(C)中の反応性官能基が、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
上記各成分に加え、繊維状強化材(E-1)又は無機質フィラー(E-2)を、該組成物100質量部あたり、5?50質量部となる割合で含有する請求項1?5のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とポリアミド(B)と反応性官能基含有オルガノシラン(C)を、全配合成分の合計質量100質量部あたり前記ポリアミド(B)の配合量が10?30質量部、且つ、反応性官能基含有オルガノシラン(C)の配合量が0.01?2質量部となる割合で二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr・rpm)、吐出される樹脂温度が345?370℃の範囲となるようになる条件下に溶融混練する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、Na含有量500ppm以下のものであり、且つ、前記ポリアミド(B)が、脂肪族炭化水素部位の炭素原子数が2?4である脂肪族ポリアミド、または、下記構造式a
【化4】
(イメージ省略)
(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造(a)を65?75モル%、下記構造式b
【化5】
(イメージ省略)
(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるイソフタル酸アミド構造(b)を20?25モル%、及び下記構造式c
【化6】
(イメージ省略)
(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表し、R^(2)は炭素原子数4?10の脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される脂肪族炭化水素構造(c)を5?15モル%となる割合で有する芳香族ポリアミドであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記ポリアミド(B)が、融点280?330℃の範囲にあるものである請求項7記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
上記各成分に加え、繊維状強化材(E-1)又は無機質フィラー(E-2)を、配合成分の合計質量100質量部あたり5?50質量部となる割合で用いる請求項7又は8項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1?6のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の成形物と、金属端子とを必須の構成要素とすることを特徴とする表面実装用電子部品。」

を、

「【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ポリアミド(B)、及び、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を必須成分として二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr・rpm)、吐出される樹脂温度が345?370℃の範囲となるようになる条件下に溶融混練して得られる難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物であって、該組成物100質量部あたりの前記ポリアミド(B)の含有量が10?30質量部であり、且つ、該組成物をヘキサフルオロイソプロパノールで70℃15分間抽出した際の抽出率が7質量%以下であり、且つ、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、Na含有量500ppm以下のものであり、且つ、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を、該組成物100質量部あたり0.01?2質量部となる割合で含有するものであり、且つ、前記ポリアミド(B)が、脂肪族炭化水素部位の炭素原子数が2?4である脂肪族ポリアミド、または、下記構造式a
【化1】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造(a)を65?75モル%、下記構造式b
【化2】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるイソフタル酸アミド構造(b)を20?25モル%、及び下記構造式c
【化3】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表し、R^(2)は炭素原子数4?10の脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される脂肪族炭化水素構造(c)を5?15モル%となる割合で有する芳香族ポリアミドであり、前記ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物中の塩素原子含有量が900ppm以下であることを特徴とする難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド(B)が、融点280?330℃の範囲にあるものである請求項1記載の難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、及び、ポリアミド(B)を必須成分とする樹脂組成物100質量部あたりの前記ポリアミド(B)の含有量をX(質量%)とし、該組成物をヘキサフルオロイソプロパノールで70℃15分間抽出した際の抽出率をY(質量%)とした場合に、Y/Xの値が0.01?0.40の範囲にある請求項1記載の難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
350℃、100sec^(-1)のせん断速度条件で、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度をη_(A)、融点が280?330℃の範囲にあるポリアミド(B)の溶融粘度をη_(B)とした場合に、η_(B)/η_(A)の値が0.9?5.0である、請求項1?3のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記した反応性官能基含有オルガノシラン(C)中の反応性官能基が、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
上記各成分に加え、繊維状強化材(E-1)又は無機質フィラー(E-2)を、該組成物100質量部あたり、5?50質量部となる割合で含有する請求項1?5のいずれか1項記載の難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とポリアミド(B)と反応性官能基含有オルガノシラン(C)を、全配合成分の合計質量100質量部あたり前記ポリアミド(B)の配合量が10?30質量部、且つ、反応性官能基含有オルガノシラン(C)の配合量が0.01?2質量部となる割合で二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr・rpm)、吐出される樹脂温度が345?370℃の範囲となるようになる条件下に溶融混練する難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、Na含有量500ppm以下のものであり、且つ、前記ポリアミド(B)が、脂肪族炭化水素部位の炭素原子数が2?4である脂肪族ポリアミド、または、下記構造式a
【化4】
(イメージ省略)
(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造(a)を65?75モル%、下記構造式b
【化5】
(イメージ省略)
(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるイソフタル酸アミド構造(b)を20?25モル%、及び下記構造式c
【化6】
(イメージ省略)
(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表し、R^(2)は炭素原子数4?10の脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される脂肪族炭化水素構造(c)を5?15モル%となる割合で有する芳香族ポリアミドであり、前記難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物中の塩素原子含有量が900ppm以下であることを特徴とする難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記ポリアミド(B)が、融点280?330℃の範囲にあるものである請求項7記載の難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
上記各成分に加え、繊維状強化材(E-1)又は無機質フィラー(E-2)を、配合成分の合計質量100質量部あたり5?50質量部となる割合で用いる請求項7又は8項記載の難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1?6のいずれか1項記載の難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物の成形物と、金属端子とを必須の構成要素とすることを特徴とする表面実装用電子部品。」

とする補正である。

2.補正の適否について
(1)新規事項の追加の有無について
上記本件補正は、願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲並びに図面(以下、「当初明細書等」という。)の記載からみて、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものではないことから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。

(2)補正の目的について
本件補正は、以下の補正事項を含むものである。
イ)請求項1における「熱可塑性樹脂組成物」について、「難燃性ハロゲンフリー材料用」との事項を付加する補正事項

ロ)請求項1に、「前記ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物中の塩素原子含有量が900ppm以下であること」との事項を付加する補正事項

上記補正事項イについては、熱可塑性樹脂組成物の用途を規定するものであるところ、本件補正前の請求項1?6には、その発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)として当該熱可塑性樹脂組成物の用途についてなんら規定していないことから、補正事項イが本件補正前の請求項1?6に係る発明の発明特定事項を限定したものであるということはできない。
上記補正事項ロについては、本件補正前の請求項1?6には全く存在しなかった「塩素原子含有量が900ppm以下」との事項を規定するものであるから、新たな観点の追加であって、補正事項ロが本件補正前の請求項1?6に係る発明の発明特定事項を限定したものであるということはできない。

そうすると、補正事項イ及びロは、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるということはできない。
そして、当該補正が、請求項の削除、誤記の訂正、または明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものにも該当しないことは明らかである。

よって、補正事項イ及びロを含む本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれかの事項を目的とするものではない。

(3)独立特許要件について
仮に、請求項1に係る本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであるとした場合に、請求項1に係る本件補正が、同条第6項において準用する同法第126条第6項の規定を満たすものか否かについて以下検討する。

(3-1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、平成24年12月18日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書並びに図面(以下、図面の記載を併せて「本件補正明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ポリアミド(B)、及び、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を必須成分として二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr・rpm)、吐出される樹脂温度が345?370℃の範囲となるようになる条件下に溶融混練して得られる難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物であって、該組成物100質量部あたりの前記ポリアミド(B)の含有量が10?30質量部であり、且つ、該組成物をヘキサフルオロイソプロパノールで70℃15分間抽出した際の抽出率が7質量%以下であり、且つ、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、Na含有量500ppm以下のものであり、且つ、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を、該組成物100質量部あたり0.01?2質量部となる割合で含有するものであり、且つ、前記ポリアミド(B)が、脂肪族炭化水素部位の炭素原子数が2?4である脂肪族ポリアミド、または、下記構造式a
【化1】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造(a)を65?75モル%、下記構造式b
【化2】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるイソフタル酸アミド構造(b)を20?25モル%、及び下記構造式c
【化3】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表し、R^(2)は炭素原子数4?10の脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される脂肪族炭化水素構造(c)を5?15モル%となる割合で有する芳香族ポリアミドであり、前記ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物中の塩素原子含有量が900ppm以下であることを特徴とする難燃性ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物。」

(3-2)刊行物
刊行物:特開2008-7742号公報(平成24年4月25日付け拒絶理由通知において提示された引用文献1)

(3-3)刊行物の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな特開2008-7742号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア.「【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を前者/後者の質量比が70/30?95/5なる割合で含有し、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をマトリックスとして前記芳香族ポリアミド(B)が粒子状に分散しており、かつ、前記芳香族ポリアミド(B)の粒子の平均径が0.1?1.0μmの範囲となるものであることを特徴とする耐熱性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)およびテレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)に加え、更に、エポキシ系シランカップリング剤(C)を含有する請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項5】
前記テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)が、下記構造式a
【化1】

(式中、Rは炭素原子数2?12アルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造を、該芳香族ポリアミド(B)を構成する全酸アミド構造単位に対して65モル%以上の割合で含有するものである請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項8】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)およびテレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を、二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr/rpm)なる条件下に溶融混練することを特徴とする耐熱性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記(A)及び(B)成分と共に、エポキシ系シランカップリング剤(C)を溶融混練する請求項8記載の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1、3、5、8及び9)

イ.「【技術分野】
本発明はポリアリーレンスルフィド樹脂と芳香族ポリアミド樹脂とを含む樹脂組成物、その製造方法、耐熱性樹脂成形物、及び表面実装用電子部品に関する。
・・・
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)とを所定割合で配合し、かつ、前記芳香族ポリアミド(B)を前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中に微分散させることによって、その成形物をプリント基板上へ表面実装させる際、加熱炉(リフロー炉)内の高温条件下の熱処理を施しても、曲げ強度等の機械的強度の低下を招くことなく、優れた耐熱性を発現すると共に、優れた難燃性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0001】?【0007】)

ウ.「本発明に使用するポリアリーレンスルフィド樹脂(A)(以下「PAS樹脂(A)」と略記する。)は、・・・
以上詳述したPAS樹脂(A)は、更に、残存金属イオン量を低減して耐湿特性を改善するとともに、重合の際副生する低分子量不純物の残存量を低減できる点から、該PAS樹脂(A)を製造した後に、酸で処理し、次いで、水で洗浄されたものであることが好ましい。
ここで使用し得る酸は、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸、プロピル酸がPAS樹脂(A)の分解することなく残存金属イオン量を効率的に低減できる点から好ましく、なかでも酢酸、塩酸が好ましい。
酸処理の方法は、酸または酸水溶液にPAS樹脂を浸漬する方法が挙げられる。この際、必要に応じさらに攪拌または加熱してもよい。
ここで、前記酸処理の具体的方法は、酢酸を用いる場合を例に挙げれば、まずpH4の酢酸水溶液を80?90℃に加熱し、その中にPAS樹脂(A)を浸漬し、20?40分間攪拌する方法が挙げられる。
このようにして酸処理されたPAS樹脂(A)は、残存している酸または塩等を物理的に除去するため、次いで、水または温水で数回洗浄する。このときに使用される水としては、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。」(段落 【0021】?【0041】)

エ.「次に、本発明に使用する芳香族ポリアミド(B)は、テレフタル酸アミドを必須の構造単位として分子構造中に有するものである。本発明では、芳香族ポリアミド(B)においてこのようなテレフタル酸アミドを必須の構造単位とすることから、その剛直な分子構造に起因して優れた耐熱性と機械的強度とを耐熱性樹脂組成物に付与することができる。
ここで、芳香族ポリアミド(B)の必須の構造単位であるテレフタル酸アミド構造は、具体的には、下記構造式a
【化5】

で表される構造部位が挙げられる。前記構造式a中、Rは炭素原子数2?12アルキレン基を表す。・・・
また、前記芳香族ポリアミド(B)は、テレフタル酸アミド構造の他に、下記構造式b
【化6】

(式中、Rは構造式aのおけるRと同義である。)
で表されるイソフタル酸アミド構造を有することが、前記芳香族ポリアミド(B)自体の融点を下げてPAS樹脂(A)との相溶性を改善できる点から好ましい。
更に、前記芳香族ポリアミド(B)は、テレフタル酸アミド構造の他に、下記構造式c
【化7】

(式中、Rは構造式aのおけるRと同義であり、R^(2)は、テレフタル酸又はイソフタル酸の他の芳香族炭化水素基又は炭素原子数4?10の脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される酸アミド構造を有していてもよい。
ここで、上記構造式cで表される酸アミド構造は、テレフタル酸若しくはイソフタル酸の他の芳香族ジカルボン酸、又は、炭素原子数4?10の脂肪族ジカルボン酸、その酸エステル化物、その酸無水物、又はその酸ハライドと、炭素原子数2?12の脂肪族ジアミンとの反応によって形成されるものである。・・・
前記芳香族ポリアミド(B)は、上述したとおり前記構造式aで表されるテレフタル酸アミド構造を必須の構造部位として有するものであるが、前記芳香族ポリアミド(B)中のテレフタル酸アミド構造の含有率は、該芳香族ポリアミド(B)を構成するジカルボン酸残基の総数に対して、65モル%以上となる割合であることが、耐熱性改善の効果が顕著になる点から好ましい。ここで、ジカルボン酸残基とは、前記芳香族ポリアミド(B)の原料として用いたジカルボン酸に起因する構造部位であり、その総数は前記芳香族ポリアミド(B)を製造する際のジカルボン酸の仕込み総数に等しい。
更に前記芳香族ポリアミド(B)は、耐熱性と耐湿性とのバランスから
前記構造式aで表されるテレフタル酸アミド構造を65?95モル%、
前記構造式cで表される酸アミド構造を35?5モル%で構成されるポリアミド(b1)、或いは、
前記構造式aで表されるテレフタル酸アミド構造を65?75モル%、
前記構造式bで表されるイソフタル酸アミド構造を25?10モル%、
前記構造式cで表される酸アミド構造を10?15モル%、
で構成されるポリアミド(b2)が好ましい。
また、前記芳香族ポリアミド(B)は、前記PAS樹脂(A)への分散性の点から融点290?330℃、また、Tg90?140℃であることが好ましい。」(段落【0043】?【0056】)

オ.「本発明の耐熱性樹脂組成物は、上記した通り、PAS樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を前者/後者の質量比が70/30?95/5なる割合で含有するものであるが、本発明では更にエポキシ系シランカップリング剤(C)を併用することが、前記芳香族ポリアミド(B)の分散性が飛躍的に向上し、良好なモルフォルジーを形成することによって耐熱性及び難燃性の改善効果が一層顕著なものとなる点から好ましい。
ここで前記エポキシ系シランカップリング剤(C)は、エポキシ構造含有基と2個以上のアルコキシ基とが珪素原子に結合した構造を有するシラン化合物であり、前記エポキシ構造含有基はグリシドキシアルキル基、3,4-エポキシシクロヘキシルアルキル基が挙げられる。また、これらの構造中に存在するアルキル基は炭素原子数1?4の直鎖型アルキル基であることが好ましく、一方、前記アルコキシ基は具体的にはメトキシ基及びエトキシ基が挙げられる。このようなエポキシ系シランカップリング剤(C)は、具体的には、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、及びエポキシ系シリコーンオイルが挙げられる。また、前記エポキシ系シリコーンオイルは炭素原子数2?6アルコキシ基を繰り返し単位として2単位乃至6単位で構成されるポリアルキレンオキシ基を有する化合物が挙げられる。前記エポキシ系シランカップリング剤(C)のなかでも、特に、前記芳香族ポリアミド(B)の分散性向上の効果が顕著である点からγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランに代表されるグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物が好ましい。
前記エポキシ系シランカップリング剤(C)の配合量は、前記PAS樹脂(A)と前記芳香族ポリアミド(B)との合計量100質量部に対し、0.01?5質量部であることが好ましく、特に0.1?2質量部であることが好ましい。」(段落【0058】?【0060】)

カ.「以上詳述した耐熱性樹脂組成物を製造する方法は、具体的には、前記PAS樹脂(A)およびテレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を、更に必要に応じてその他の配合成分をタンブラー又はヘンシェルミキサーなどで均一に混合、次いで、2軸押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr/rpm)なる条件下に溶融混練する方法が挙げられる。かかる条件下に製造することによって前記PAS樹脂(A)をマトリックスとして微分酸する前記芳香族ポリアミド(B)の平均径を0.1?1.0μmに調整することができる。
上記製造方法につき更に詳述すれば、前記した各成分を2軸押出機内に投入し、設定温度330℃、樹脂温度350℃程度の温度条件下に溶融混練する方法が挙げられる。この際、樹脂成分の吐出量は回転数250rpmで5?50kg/hrの範囲となる。なかでも特に分散性の点から20?35kg/hrであることが好ましい。よって、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)は、特に0.08?0.14(kg/hr/rpm)であることが好ましい。また、2軸押出機のトルクは最大トルクが20?100(A)、特に25?80(A)となる範囲であることが前記芳香族ポリアミド(B)の分散性が良好となる点から好ましい。」(段落【0072】?【0073】)

キ.「また、上記した表面実装方式での加熱炉(リフロー炉)中での加熱方式には、(1)ヒーター上を移動する耐熱ベルトの上に基板を載せて加熱する熱伝導方式、(2)約220℃の沸点を有するフッ素系液体の凝集時の潜熱を利用するベーパーフェイズソルダリング(VPS)方式、(3)熱風を強制的に循環させているところを通す熱風対流熱伝達方式、(4)赤外線により基板の上部又は上下両面から加熱する赤外線方式、(5)熱風による加熱と赤外線による加熱を組み合わせて用いる方式等が挙げられる。
本発明の耐熱性樹脂組成物の成形物品は、例えば、精密部品、各種電気・電子部品、機械部品、自動車用部品、建築、サニタリー、スポーツ、雑貨等の幅広い分野において使用することができるが、特に難燃性、耐熱性、剛性等々に優れるため、とりわけ、前記した通り、表面実装用電子部品として有用である。
ここで、本発明の表面実装用電子部品は、前記した耐熱性樹脂組成物の成形物と、金属端子とを必須の構成要素とするもので、プリント印刷された配線基板や回路基板上に表面実装方式によって固定されるものである。この電子部品を表面実装方式で基板に固定させるには、該電子部品の金属端子がハンダボールを介して基板上の通電部に接するように基板表面に載せて、上記した加熱方式によってリフロー炉内で加熱することによって、該電子部品を基板にハンダ付けする方法が挙げられる。
かかる表面実装用の電子部品は、具体的には、表面実装方式対応用のコネクター、スイッチ、センサー、抵抗器、リレー、コンデンサー、ソケット、ジャック、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLEDのハウジング等が挙げられる。
また、本発明の製造方法で得られる耐熱性樹脂成形物品は、所謂ハロゲン系銅や酸化アンチモン或いは金属水酸化物といった難燃剤を添加することなく、UL耐炎性試験規格UL-94(アンダーライターズ ラボラトリーズ,インコーポレイテッド,(UL)スタンダード No.94)において、V-0に相当する高い難燃性を達成せしめるものである。」(段落【0078】?【0082】)

ク.「【実施例】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
実施例1?9及び比較例1?5
表1及び表2に記載する配合比率に従い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、芳香族ポリアミド及びその他配合材料(ガラス繊維チョップドストランドを除く)をタンブラーで均一に混合した。その後、東芝機械(株)製ベント付き2軸押出機「TEM-35B」に前記配合材料を投入し、また、サイドフィーダー(スクリュー全長に対する樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率:0.28)から繊維径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランドを上記配合材料60質量部に対して40質量部の割合で供給しながら、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数250rpm、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)=0.1(kg/hr/rpm)、最大トルク65(A)、設定樹脂温度330℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。
次いで、このペレットを用いて以下の各種評価試験を行った
・・・
【表1】

【表2】

なお、表1及び表2中の配合樹脂、材料は下記のものであり、また、表2中の「観測不可」とは、芳香族ポリアミドが粒子形状を形成していなかったことを意味する。
PPS1:大日本インキ化学工業(株)製リニア型PPS「DSP LR-3G」(非ニュートン指数1.2)
PPS2:大日本インキ化学工業(株)製リニア型PPS「LR-100G」(非ニュートン指数1.1)と、大日本インキ化学工業(株)製分岐型PPS「LT-10G」(非ニュートン指数1.5)とを、前者/後者=80/20(質量比)で混合したポリフェニレンスルフィド樹脂(粘度;メルトフローレート 50g/10分、混合物の非ニュートン指数1.2)
PA6T:ソルベイ・アドバンスト・ポリマーズ(株)製「アモデルA-1004」テレフタル酸65?70モル%、その他イソフタル酸及びヘキサメチレンジアミンを必須の単量体成分として反応させた芳香族ポリアミド(融点310℃、Tg120℃)
エポキシシラン:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
ADE-1:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製
ヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス 1098」
ADE-2:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製
リン系加工熱安定剤「イルガフォス 168」
GF:ガラス繊維チョップドストランド(繊維径10μm、長さ3mm)」(段落【0082】?【0090】)

(3-4)引用文献に記載された発明
引用文献には、摘示ア及びオから、
「ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を前者/後者の質量比が70/30?95/5なる割合で含有し、更に、エポキシ系シランカップリング剤(C)を含有し、エポキシ系シランカップリング剤(C)の配合量は、前記PAS樹脂(A)と前記芳香族ポリアミド(B)との合計量100質量部に対し、0.01?5質量部であり、前記芳香族ポリアミド(B)が、下記構造式a
【化1】

(式中、Rは炭素原子数2?12アルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造を、該芳香族ポリアミド(B)を構成する全酸アミド構造単位に対して65モル%以上の割合で含有し、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をマトリックスとして前記芳香族ポリアミド(B)が粒子状に分散しており、かつ、前記芳香族ポリアミド(B)の粒子の平均径が0.1?1.0μmの範囲となるものである耐熱性樹脂組成物。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(3-5)補正発明と引用発明との対比
引用発明の「テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)」は、補正発明における「ポリアミド(B)」に相当する。
引用発明の「耐熱性樹脂組成物」は、摘示イ及びキの記載から、難燃性であって、また、成形を行うものであるので熱可塑性であることは明らかであるから、補正発明における「難燃性熱可塑性樹脂組成物」に相当する。
引用発明の「エポキシ系シランカップリング剤(C)」は、本件補正明細書の段落【0061】の記載と摘示オの記載からみて、補正発明における「反応性官能基含有オルガノシラン(C)」に相当する。
引用発明の「エポキシ系シランカップリング剤(C)の配合量は、前記PAS樹脂(A)と前記芳香族ポリアミド(B)との合計量100質量部に対し、0.01?5質量部であり」は、補正発明における含有量の規定である「該組成物あたり0.01?2質量部」と重複一致している。
引用発明のポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とテレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)が「前者/後者の質量比が70/30?95/5なる割合で含有し」は、引用発明の「エポキシ系シランカップリング剤(C)」の含有量がポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と芳香族ポリアミド(B)との合計量100質量部に対し、0.01?5質量部の範囲であることから、引用発明の組成物中の芳香族ポリアミドの比率は、「エポキシ系シランカップリング剤(C)」が最小の配合量の場合の組成物中の芳香族ポリアミドの比率は、ほぼ5?30%であり、エポキシ系シランカップリング剤(C)」が最大の配合量の場合の組成物中の芳香族ポリアミドの比率は、ほぼ4.8?28.6%と計算されることから、補正発明における「該組成物100質量部あたりの前記ポリアミド(B)の含有量が10?30質量部」に重複一致する。
引用発明の「テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする」「芳香族ポリアミド(B)が下記構造式a
【化1】

(式中、Rは炭素原子数2?12アルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造を、該芳香族ポリアミド(B)を構成する全酸アミド構造単位に対して65モル%以上の割合で含有し」は、摘示エにおいて、芳香族ポリアミド(B)におけるテレフタル酸以外の構成成分として望ましい具体例として「前記構造式aで表されるテレフタル酸アミド構造を65?75モル%、
前記構造式bで表されるイソフタル酸アミド構造を25?10モル%、
前記構造式cで表される酸アミド構造を10?15モル%、
で構成されるポリアミド(b2)が好ましい。」との記載があることから、補正発明における「前記ポリアミド(B)が、下記構造式a
【化1】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造(a)を65?75モル%、下記構造式b
【化2】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるイソフタル酸アミド構造(b)を20?25モル%、及び下記構造式c
【化3】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表し、R^(2)は炭素原子数4?10の脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される脂肪族炭化水素構造(c)を5?15モル%となる割合で有する芳香族ポリアミド」と重複一致していることは明らかである。

そうすると、両者は、

「ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ポリアミド(B)、及び、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を必須成分とする、難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、該組成物100質量部あたりの前記ポリアミド(B)の含有量が10?30質量部であり、且つ、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を、該組成物100質量部あたり0.01?2質量部となる割合で含有するものであり、且つ、前記ポリアミド(B)が、脂肪族炭化水素部位の炭素原子数が2?4である脂肪族ポリアミド、または、下記構造式a
【化1】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造(a)を65?75モル%、下記構造式b
【化2】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるイソフタル酸アミド構造(b)を20?25モル%、及び下記構造式c
【化3】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表し、R^(2)は炭素原子数4?10の脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される脂肪族炭化水素構造(c)を5?15モル%となる割合で有する芳香族ポリアミドである、難燃性熱可塑性樹脂組成物。」

で一致し、以下の点で一応相違している。

<相違点1>
補正発明における難燃性熱可塑性樹脂組成物は、「二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr・rpm)、吐出される樹脂温度が345?370℃の範囲となるようになる条件下に溶融混練して得られる」と特定されているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。

<相違点2>
補正発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は「Na含有量500ppm以下のものであり」と特定されているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。

<相違点3>
補正発明においては、「該組成物をヘキサフルオロイソプロパノールで70℃15分間抽出した際の抽出率が7質量%以下であり」と特定しているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。

<相違点4>
補正発明においては、「熱可塑性樹脂組成物中の塩素原子含有量が900ppm以下である」と特定しているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。

<相違点5>
補正発明における難燃性熱可塑性樹脂組成物は、「ハロゲンフリー材料用」と特定されているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。

以下、相違点について検討する。

相違点1について
補正発明の熱可塑性樹脂の製造方法については、摘示アに
「【請求項8】ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)およびテレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を、二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr/rpm)なる条件下に溶融混練することを特徴とする耐熱性樹脂組成物の製造方法」と記載され、摘示カには
「以上詳述した耐熱性樹脂組成物を製造する方法は、具体的には、前記PAS樹脂(A)およびテレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を、更に必要に応じてその他の配合成分をタンブラー又はヘンシェルミキサーなどで均一に混合、次いで、2軸押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr/rpm)なる条件下に溶融混練する方法が挙げられる。・・・
上記製造方法につき更に詳述すれば、前記した各成分を2軸押出機内に投入し、設定温度330℃、樹脂温度350℃程度の温度条件下に溶融混練する方法が挙げられる」
との記載があることから、引用発明の熱可塑性樹脂組成物の製造も、各成分を二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr/rpm)なる条件下に溶融混練し、その樹脂温度を350℃程度の温度条件下で行うものと認められるので、相違点1は、実質上の相違点ではない。

相違点2について
補正発明において、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)のNa含有量を500ppm以下とすることは、「ポリアミド(B)やカップリング剤などの他の配合成分との反応性が良好となり、前記抽出率の低下に寄与し難燃性が一層良好なもの」(本件補正明細書等 段落【0018】)とするためであり、当該条件を達成するための具体的手段に関して
「以上詳述したPAS樹脂(A)は、更に、残存金属イオン量を低減して耐湿特性を改善するとともに、重合の際副生する低分子量不純物の残存量を低減できる点から、該PAS樹脂(A)を製造した後に、酸で処理し、次いで、水で洗浄されたものであることが好ましい。ここで使用し得る酸は、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸、プロピル酸がPAS樹脂(A)の分解することなく残存金属イオン量を効率的に低減できる点から好ましく、なかでも酢酸、塩酸が好ましい。酸処理の方法は、酸または酸水溶液にPAS樹脂を浸漬する方法が挙げられる。この際、必要に応じさらに攪拌または加熱してもよい。ここで、前記酸処理の具体的方法は、酢酸を用いる場合を例に挙げれば、まずpH4の酢酸水溶液を80?90℃に加熱し、その中にPAS樹脂(A)を浸漬し、20?40分間攪拌する方法が挙げられる。本発明ではこのようにして十分な酸処理を施すことにより、前記したPAS樹脂(A)中のNa含有量を低減させることができる。このようにして酸処理されたPAS樹脂(A)は、残存している酸または塩等を物理的に除去するため、次いで、水または温水で数回洗浄する。このときに使用される水としては、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。また、前記酸処理に供せられるPAS樹脂(A)は、粉粒体であることが好ましく、具体的には、ペレットのような粒状体でも、重合した後のスラリ-状態体にあるものでもよい。」(本件補正明細書等 段落【0037】?【0042】)と記載されている。
一方、引用発明のポリアリーレンスルフィド樹脂に関して、摘示ウには上記補正発明と同様の洗浄手段の記載があること、及び、引用発明の具体的な実施例として記載されている熱可塑性樹脂組成物の原料としてのポリアリーレンスルフィド樹脂の一つが「DIC株式会社製「LR-3G」」(摘示ク)であって、補正発明の実施例で利用されているポリアリーレンスルフィド樹脂と同一(そのNa含有量は300ppm)であることから、引用発明のポリアリーレンスルフィド樹脂においても、残存金属イオン量を低減したものが想定されているといえ、相違点2は、実質上の相違点ではない。

相違点3について
引用発明の熱可塑性樹脂組成物の組成は、上記相違点2を踏まえると補正発明と相違しない。そして、上記相違点1での検討のとおり、その製造方法についても相違しないことから、引用発明の熱可塑性樹脂組成物は、補正発明と同一の組成であって同一の製造過程を経て製造されたものであることから、相違点3に係る「該組成物をヘキサフルオロイソプロパノールで70℃15分間抽出した際の抽出率が7質量%以下」との条件を満足する蓋然性が高い。してみると、相違点3も実質上の相違点ではない。

相違点4について
引用発明の技術分野は、「ポリアリーレンスルフィド樹脂と芳香族ポリアミド樹脂とを含む樹脂組成物、その製造方法、耐熱性樹脂成形物、及び表面実装用電子部品に関する」(摘示イ)であって、補正発明の技術分野(本件補正明細書の段落【0001】)と一致しており、引用発明の具体的な用途に関しての記載である「本発明の耐熱性樹脂組成物の成形物品は、例えば、精密部品、各種電気・電子部品、機械部品、自動車用部品、建築、サニタリー、スポーツ、雑貨等の幅広い分野において使用することができるが、特に難燃性、耐熱性、剛性等々に優れるため、とりわけ、前記した通り、表面実装用電子部品として有用である。ここで、本発明の表面実装用電子部品は、前記した耐熱性樹脂組成物の成形物と、金属端子とを必須の構成要素とするもので、プリント印刷された配線基板や回路基板上に表面実装方式によって固定されるものである。この電子部品を表面実装方式で基板に固定させるには、該電子部品の金属端子がハンダボールを介して基板上の通電部に接するように基板表面に載せて、上記した加熱方式によってリフロー炉内で加熱することによって、該電子部品を基板にハンダ付けする方法が挙げられる。かかる表面実装用の電子部品は、具体的には、表面実装方式対応用のコネクター、スイッチ、センサー、抵抗器、リレー、コンデンサー、ソケット、ジャック、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLEDのハウジング等が挙げられる。」(摘示キ)は、補正発明の具体的な用途の記載(本件補正明細書の段落【0095】?【0097】)と同一である。
本件優先日前のこの発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)において、「表面実装方式対応用のコネクター、スイッチ、センサー、抵抗器、リレー、コンデンサー、ソケット、ジャック、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLEDのハウジング等」において、優先日の時点においてはその具体的な用途に応じたものとして、塩素原子含有量が少ない製品が求められていたことは技術常識であって、引用文献に記載の前記の用途の記載には、塩素原子含有量が900ppm以下として製造された製品を包含していることは、当業者において自明なことと認められる。
なお、相違点3の検討と同様に、引用発明の熱可塑性樹脂組成物は、補正発明と同一の組成であって同一の製造過程を経て製造されたものであることから、相違点4に係る「熱可塑性樹脂組成物中の塩素原子含有量が900ppm以下である」との条件を満足する蓋然性が高い。してみると、相違点4も実質上の相違点ではないともいえる。
そうすると、相違点4は実質的な相違点ではない。
あるいは、上記用途の記載を見た当業者が、塩素原子含有量が900ppm以下のものとすることは当業者が容易になし得たことである。そして、そのことによる効果に格別なものがあるとはいえない。

相違点5について
引用発明の技術分野は、「ポリアリーレンスルフィド樹脂と芳香族ポリアミド樹脂とを含む樹脂組成物、その製造方法、耐熱性樹脂成形物、及び表面実装用電子部品に関する」(摘示イ)であって、補正発明の技術分野(本件補正明細書の段落【0001】)と一致しており、引用発明の具体的な用途に関しての記載である「本発明の耐熱性樹脂組成物の成形物品は、例えば、精密部品、各種電気・電子部品、機械部品、自動車用部品、建築、サニタリー、スポーツ、雑貨等の幅広い分野において使用することができるが、特に難燃性、耐熱性、剛性等々に優れるため、とりわけ、前記した通り、表面実装用電子部品として有用である。ここで、本発明の表面実装用電子部品は、前記した耐熱性樹脂組成物の成形物と、金属端子とを必須の構成要素とするもので、プリント印刷された配線基板や回路基板上に表面実装方式によって固定されるものである。この電子部品を表面実装方式で基板に固定させるには、該電子部品の金属端子がハンダボールを介して基板上の通電部に接するように基板表面に載せて、上記した加熱方式によってリフロー炉内で加熱することによって、該電子部品を基板にハンダ付けする方法が挙げられる。かかる表面実装用の電子部品は、具体的には、表面実装方式対応用のコネクター、スイッチ、センサー、抵抗器、リレー、コンデンサー、ソケット、ジャック、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLEDのハウジング等が挙げられる。」(摘示キ)は、補正発明の具体的な用途の記載(本件補正明細書の段落【0095】?【0097】)と同一である。
本件優先日前の当業者において、「表面実装方式対応用のコネクター、スイッチ、センサー、抵抗器、リレー、コンデンサー、ソケット、ジャック、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLEDのハウジング等」において、優先日の時点においてはその具体的な用途に応じたものとして、塩素原子含有量が少ない製品が求められていたことは技術常識であって、引用文献に記載の前記の用途の記載には、ハロゲンフリー材料用で製造された製品を包含していることは、当業者において自明なことと認められる。
そうすると、相違点5についても実質的な相違点ではない。あるいは、上記用途の記載を見た当業者が、ハロゲンフリー材料用として利用しようとすることは当業者が容易になし得たことである。そして、そのことによる効果に格別なものがあるとはいえない。

(3-6)まとめ
したがって、補正発明は引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。あるいは、補正発明は引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3-7)審判請求人の主張の検討
審判請求人は、平成25年8月2日提出の回答書において、以下のように主張している。

「(a)新規性について
審査官殿は、前置報告書の中で「さらに、難燃性ハロゲンフリー材料用との組成物の用途であるが、引用例1においても表面実装用電子部品に用いることが指摘され(引用例1請求項16、【0086】、【0089】?【0091】)、本願発明における用途(明細書 【0013】、【0014】、【0096】?【0098】)と共通するので、両発明は用途についても相違しない。」、「(前略)・・・使用用途が同じ分野であることなどからみれば、具体的な数値やハロゲンフリー材料に用いるものとの記載はないものの、これらの点で両発明が相違するものとは言えず、出願人の主張は採用できない。」と述べられております。
確かに、引用例1には「配線基板や回路基板」(【0086】段落)、「精密部品、各種電気・電子部品、機械部品、自動車用部品、建築、サニタリー、スポーツ、雑貨等の幅広い分野」(【0089】段落)、「表面実装用電子部品」(【0089】段落)、「表面実装方式対応用のコネクター、スイッチ、センサー、抵抗器、リレー、コンデンサー、ソケット、ジャック、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLEDのハウジング等」(【0091】段落)が挙げられております。しかしながら、これらの用途に用いられるからと言って、必ずしも、『ハロゲンフリー材料用』であるとは限られません。
『ハロゲンフリー材料』は、Apple社等の一部の電子機器・部品メーカーが要求する、ハロゲン含有量の低減された材料 を表す技術分野の名称であります。Apple社の具体的な基準は以下の通りです。
・Apple社「Apple Halogen-Free Specification, 069-1857-C」より抜粋
<イメージ省略>
(抄訳)3.0 ハロゲンフリー製品に求められる必要条件
部品または製品内のすべての単一材料には、アップル社がハロゲンフリー材料と考える表2に掲げられた基準を満たす必要がある。
表2:ハロゲンフリー部品と製品に求められる物質の制限 (表内は割愛)
なお、本発明で「前記ハロゲンフリー材料用熱可塑性樹脂組成物中の塩素原子含有量が900ppm以下」と定義した基準は上記「Apple Halogen-Free Specification, 069-1857-C」に基づくものであります。
したがって、引用例1には、具体的に『ハロゲンフリー材料』として用いることの記載がない以上、このような樹脂組成物が、組成物中の塩素原子含有量900ppm以下の基準を満たす『ハロゲンフリー材料』として専ら用いられることを見出すこと自体が新規であり、本発明は引用例1に対し、いわゆる新規性を有するものと思料致します。」

「(b)進歩性について
本発明で用いるPPS樹脂は、難燃性に優れるものの、ジクロロベンゼンを用いて製造するため、本質的にハロゲン原子を多量に含有します(例えば本発明では1,500?2,000ppm)。このため、優れた難燃性を維持しつつ、Apple社等から『ハロゲンフリー材料』と認定されるためには、PPS樹脂と種々の樹脂材料との組合せや配合割合を考慮しなければならず、材料選定からして大変な労力を要するものであります。
このため、これまでと同じ使用用途(例えば、表面実装用電子部品)であったとしても、優れた難燃性を維持しつつ、『ハロゲンフリー材料』に求められる基準を満たす材料を選定すること自体が非常に困難でありました。
したがって、たとえ、引用例1に記載された発明において、使用した樹脂PPS1が本願発明でも使用されていること、金属イオン塩の低減のための処理を施すことについて記載があること、ポリアミドとの配合割合が重複するとしても、引用例1には、具体的に『ハロゲンフリー材料』として用いることの記載やそれを示唆・教示する記載がない以上、このような樹脂組成物を、専ら『ハロゲンフリー材料』として用いることを見出すこと自体が、当業者にとって容易なものとは認められず、ゆえに、本発明は引用例1に対し、いわゆる進歩性を有するものと思料致します。」

以下、上記主張について検討する。
新規性についての主張については、上記第2.2.(3)(3-5)の相違点5についてで検討したとおりである。
進歩性についての主張については、引用文献に記載されている難燃性熱可塑性樹脂組成物が、すでにハロゲンフリーの基準である塩素原子含有量900ppm以下の条件を満足したものであったことは、上記相違点4で検討したとおりであったことからすると、請求人の主張は、採用できない。

3.補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていないため、あるいは、そうでないとしても、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第6項の規定に違反しており、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明
平成24年12月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成24年7月9日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載されたとおりのものであり、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ポリアミド(B)、及び、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を必須成分として二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr・rpm)、吐出される樹脂温度が345?370℃の範囲となるようになる条件下に溶融混練して得られる樹脂組成物であって、該組成物100質量部あたりの前記ポリアミド(B)の含有量が10?30質量部であり、且つ、該組成物をヘキサフルオロイソプロパノールで70℃15分間抽出した際の抽出率が7質量%以下であり、且つ、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、Na含有量500ppm以下のものであり、且つ、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を、該組成物100質量部あたり0.01?2質量部となる割合で含有するものであり、且つ、前記ポリアミド(B)が、脂肪族炭化水素部位の炭素原子数が2?4である脂肪族ポリアミド、または、下記構造式a
【化1】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造(a)を65?75モル%、下記構造式b
【化2】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるイソフタル酸アミド構造(b)を20?25モル%、及び下記構造式c
【化3】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表し、R^(2)は炭素原子数4?10の脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される脂肪族炭化水素構造(c)を5?15モル%となる割合で有する芳香族ポリアミドであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」

第4.原査定の理由の概要
原査定の理由とされた、平成24年4月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由1の概略は、以下のとおりである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・・・

(理由1,2)
・請求項1-15
・引用文献1-2
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2008-7742号公報
2.略
3.略
4.略
(以下、略)」

第5.当審の判断
1.刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明
原査定で引用された引用文献等1である特開2008-7742号公報は、上記第2 2.(3)(3-2)の刊行物と同じであるから、刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明は、上記第2 2.(3)(3-3)及び(3-4)に記載したとおりである。

2.対比
本願発明は、上記第2 1.で述べたとおり、補正発明における難燃性熱可塑性樹脂組成物の用途を「ハロゲンフリー材料用」であると限定することをなくすと共に、「難燃性熱可塑性樹脂組成物中の塩素原子含有量が900ppm以下である」との限定をなくしたものに相当する。

そうすると、上記第2 2.(3)(3-5)で述べたとおり、両者は、

「ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ポリアミド(B)、及び、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を必須成分とする、難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、該組成物100質量部あたりの前記ポリアミド(B)の含有量が10?30質量部であり、且つ、該組成物をヘキサフルオロイソプロパノールで70℃15分間抽出した際の抽出率が7質量%以下であり、且つ、反応性官能基含有オルガノシラン(C)を、該組成物100質量部あたり0.01?2質量部となる割合で含有するものであり、且つ、前記ポリアミド(B)が、脂肪族炭化水素部位の炭素原子数が2?4である脂肪族ポリアミド、または、下記構造式a
【化1】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるテレフタル酸アミド構造(a)を65?75モル%、下記構造式b
【化2】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表す。)
で表されるイソフタル酸アミド構造(b)を20?25モル%、及び下記構造式c
【化3】

(式中、R^(1)は炭素原子数2?12のアルキレン基を表し、R^(2)は炭素原子数4?10の脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される脂肪族炭化水素構造(c)を5?15モル%となる割合で有する芳香族ポリアミドである、難燃性熱可塑性樹脂組成物。」

で一致し、以下の点で一応相違している。

<相違点A>
本願発明における難燃性熱可塑性樹脂組成物は、「二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02?0.2(kg/hr・rpm)、吐出される樹脂温度が345?370℃の範囲となるようになる条件下に溶融混練して得られる」と特定されているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。

<相違点B>
本願発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は「Na含有量500ppm以下のものであり」と特定されているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。

<相違点C>
本願発明においては、「該組成物をヘキサフルオロイソプロパノールで70℃15分間抽出した際の抽出率が7質量%以下であり」と特定しているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。

3.相違点についての判断
上記相違点A?Cは、上記第2 2.(3)(3-5)における相違点1?3と同じであるから、上記第2 2.(3)(3-5)で述べたとおり、これらの相違点A?Cは、実質上の相違点ではない。

4.まとめ
よって、本願発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由1は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-01 
結審通知日 2013-10-03 
審決日 2013-10-17 
出願番号 特願2009-61067(P2009-61067)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08L)
P 1 8・ 113- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉備永 秀彦福井 美穂  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 塩見 篤史
大島 祥吾
発明の名称 熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、及び表面実装用電子部品  
代理人 河野 通洋  

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