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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F
管理番号 1282190
審判番号 不服2011-549  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-11 
確定日 2013-11-29 
事件の表示 特願2002-516794「高性能バルク金属磁気構成部品」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月 7日国際公開、WO02/11158、平成16年 4月15日国内公表、特表2004-511898〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2001年7月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2000年7月27日、米国)を国際出願日とする出願であって、原審において平成22年9月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成23年1月11日に審判請求とともに手続補正がなされたものであり、
当審において平成24年7月25日付けで拒絶理由を通知したところ、平成25年1月28日付けで意見書が提出されたものである。


2.本願発明
本件出願の請求項に係る発明は、平成23年1月11日付けで補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)

(本願発明)
「【請求項1】
ほぼ同じ形状の複数の結晶性強磁性金属帯板層を備える高性能低コア損失バルク磁気構成部品であって、
前記複数の結晶性強磁性金属帯板層は、積層多面体形状部を形成するように、接着結合手段によって一体に接着結合され、
前記強磁性金属帯板は、4?11重量パーセントのSiを含む鉄ベースの合金を含み、
50Hz乃至20,000Hzの範囲の励磁周波数「f」でピーク誘導レベルBmaxまで動作させたときに、該磁気構成部品のコア損失が、以下の「L」よりも小さく、
ここで、Lは、式L=0.0135f(Bmax)^(1.9)+0.000108f^(1.6)(Bmax)^(1.92)によって与えられ、
コア損失、励磁周波数およびピーク誘導レベルの単位が、それぞれワット毎キログラム、ヘルツおよびテスラであり、
20,000Hzの周波数および0.30テスラの磁束密度で動作させたとき、前記構成部品のコア損失が、磁性金属材料1キログラムあたり105ワット以下であることを特徴とする磁気構成部品。」


3.引用例に記載された発明

A.当審で通知した拒絶理由に引用した、特開2000-45053号公報(以下、「引用例」という。)には、「鉄損の低い方向性珪素鋼板」として、図面とともに以下の記載がある。

イ.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 Cが0.01wt%以下であり、Si濃度が5?8wt%の部分が、鋼板の上下両面表層から板厚深さ方向に板厚の10%以上あり、かつ板厚中心付近のSi濃度が2.2?3.5wt%であることを特徴とする板厚0.2mm以上の鉄損の低い方向性珪素鋼板。
【請求項2】 Cが0.01wt%以下であり、Si濃度が5?8wt%の部分が、鋼板の上下両面表層から板厚方向に板厚の10%以上あり、かつ板厚中心付近のSi濃度が3.0?6.0wt%であることを特徴とする板厚0.2mm未満の鉄損の低い方向性珪素鋼板。」(2頁1欄)

ロ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、トランス、リアクトルなどの鉄心用として好適である高周波鉄損の低い方向性珪素鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に珪素鋼板の鉄損は励磁周波数が高くなると急激に上昇することが知られている。ところが近年、珪素鋼板が広く用いられているトランス、リアクトルなどの駆動周波数は、鉄心の小型化や高効率化をはかるために、年々高周波化してきている。この駆動周波数の高周波化に伴い、珪素鋼板の鉄損によるこれら鉄心の温度上昇や効率の低下が問題となるケースがとみに増加してきている。このような理由から珪素鋼板の高周波鉄損を低減することが必要とされるようになってきている。
【0003】従来、珪素鋼板の高周波鉄損を低減する手法としては、Si含有量を高めて固有抵抗を高くすることで高周波鉄損を低減する方法と、板厚を薄くして渦電流損失を抑えることで高周波鉄損を低減する方法とがとられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】Si含有量を高める方法を採用したものとして登録特許1856674号公報に開示される高珪素方向性珪素鋼板の製造技術が開発された。高珪素方向性珪素鋼板は優れた高周波低鉄損特性を示すが高Si濃度であるため加工性が悪いという欠点を持つ。さらに近年の高周波化に対応するためには、より低鉄損化することが求められている。また板厚を薄くする方法も、薄くするほど鋼板そのものの製造コストがかさみ、なおかつ鉄心の積層枚数が増えることから鉄心の製作コストの上昇を招くという問題点があった。」(2頁1欄)

ハ.「【0012】
【発明の実施の形態】以下本発明について詳細に説明する。本発明に係る珪素鋼板は、いわゆるゴス粒およびゴス粒と近い結晶方位を有する結晶粒からなる方向性珪素鋼板であり、基本的には上述したようにCを0.01wt%以下とし、Si濃度が5?8wt%の部分が、鋼板の上下両面表層から板厚深さ方向に板厚の10%以上、好ましくは15?20%あり、かつ板厚中心付近のSi濃度が板厚が0.2mm以上では2.2?3.5wt%、板厚が0.2mm未満では3.0?6.0wt%である。」(3頁3欄)

ニ.「【0020】
【実施例】以下本発明の実施例について説明する。
[実施例1](板厚0.2mm以上対象)
表1の組成を有する板厚0.23mmの方向性鋼板を1200℃のSiCl_(4)雰囲気中で浸珪処理を行い、その後1200℃のN_(2) 雰囲気中で拡散処理を行って種々のSi濃度分布を有する珪素鋼板を作製した。Si濃度分布はサンプル断面についてEPMA(電子線プローブマイクロアナライザ)で分析した。Si以外の元素の量は浸珪、拡散処理の前後でほとんど変化しなかった。なお、皮膜は無機有機混合皮膜とした。
【0021】このようにして作製した鋼板からL方向サンプルを採取し歪取焼鈍後、周波10kHz、磁束密度0.1Tでの交流磁気特性をエプスタイン試験器を用いて測定した。Si濃度分布と磁気特性を表2に示す。表より本発明に従えば高周波鉄損の極めて低い方向性珪素鋼板が得られた。
【0022】[実施例2](板厚0.2mm未満対象)
表1の組成を有する板厚0.05?0.15mmの方向性珪素鋼板を1150℃のSiCl_(4) 雰囲気中で浸珪処理を行い、その後1150℃のN_(2 )雰囲気中で拡散処理を行って種々のSi濃度分布を有する珪素鋼板を作製した。Si濃度分布はサンプル断面についてEPMA(電子線プローブマイクロアナライザ)で分析した。Si以外の元素の量は浸珪、拡散処理の前後でほとんど変化しなかった。なお、皮膜は無機有機混合皮膜とした。
【0023】このようにして作製した鋼板からL方向サンプルを採取し、周波10kHz、磁束密度0.1Tでの交流磁気特性を測定した。Si濃度分布と磁気特性を表3に示す。この表から、本発明の実施例と本発明の範囲から外れるものと比較すれば、本発明によれば、高周波鉄損の極めて低い方向性珪素鋼板が得られることが確認された。
【0024】[実施例3]実施例1の表2のNo.1の鋼板にフォルステライトを含む絶縁皮膜を形成し鉄損(周波数10kHz、磁束密度0.1T)を測定した。鉄損値は10.7W/kgであった。この表から、本発明の実施例と本発明の範囲から外れるものと比較すれば、本発明によれば、高周波鉄損の極めて低い方向性珪素鋼板が得られることが確認された。
【0025】
【表1】


【0026】
【表2】


【0027】
【表3】


」(3頁4欄?5頁7欄)


上記引用例の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず、上記引用例記載の「鉄損の低い方向性珪素鋼板」は、上記ハ.【0012】にあるように「結晶粒からなる」、「珪素」(元素記号:Si)を含む鋼板であって、
上記イ.【請求項2】や、ニ.【0022】?【0023】、【0027】の「表3」によれば、板厚方向に分布があるものの、その「Si濃度が3?8wt%」あり、
特に上記ニ.【0023】の[実施例2]の記載と、「表3」(引用例5頁上欄)の「No.8、11、12」の鉄損の値を見ると、「周波10KHz、磁束密度0.1Tで鉄損が2.6?4.2W/Kg」である。

また、上記ロ.【0001】の「本発明は、トランス、リアクトルなどの鉄心用として好適である高周波鉄損の低い方向性珪素鋼板に関する。」、【0004】の「鉄心の積層枚数が増える」との記載からすれば、このような「珪素鋼板」を「積層」して「鉄心」を制作することは技術常識として明らかであり、引用例には「結晶粒からなる鉄損の低い方向性珪素鋼板層」を備える「鉄心」の記載があるということができる。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「結晶粒からなる鉄損の低い方向性珪素鋼板層を備える鉄心であって、
前記方向性珪素鋼板は、Si濃度が3?8wt%であり、
周波10KHz、磁束密度0.1Tで鉄損が2.6?4.2W/Kgである、鉄損の低い方向性珪素鋼板を備える鉄心」


4.対比・判断
本願発明と上記引用発明を対比する。
まず、引用発明の「結晶粒からなる鉄損の低い方向性珪素鋼板を備える鉄心」において、
「結晶粒からなる」とは「結晶性」ということができ、
「珪素鋼板」は「強磁性金属板」であるのは技術常識であり、
「鉄損」とは「鉄心」(コア)における電気的な損失のことであるから、「コア損失」であり、
「鉄損の低い」とは「低コア損失」ということであり、
「鉄損」は磁性体の実用上の性能指標のひとつであって、「鉄損」が「低い」ほど「高性能」であるのも技術常識であり、
「鉄心」は「バルク」(bulk:大きさ、容積)のある「磁気構成部品」ということができるから、
結局、引用発明の「結晶粒からなる鉄損の低い方向性珪素鋼板を備える鉄心」は、本願発明の「結晶性強磁性金属板層を備える高性能低コア損失バルク磁気構成部品」にあたる。

また、引用発明の「Si濃度が3?8wt%」と、本願発明の「4?11重量パーセントのSiを含む」を比較すると、両者は「4?8重量パーセントのSiを含む」点で一致し、
引用発明の「珪素鋼」は、「珪素」(Si)を含む「鋼」であるから、「鉄」(Fe)が基質(ベース)となる、「鉄ベースの合金」である。

そして、引用発明の「周波10KHz、磁束密度0.1Tで鉄損が2.6?4.2W/Kgである」点と、本願発明の「20,000Hzの周波数および0.30テスラの磁束密度で動作させたとき、前記構成部品のコア損失が、磁性金属材料1キログラムあたり105ワット以下である」を対比すると、
製造誤差、ばらつき等を考慮して引用発明の鉄損値に適当な余裕、マージンを取った上限値を設定するのは任意であるから、両者は「所定の周波数および所定の磁束密度で動作させたとき、前記構成部品のコア損失が、磁性金属材料1キログラムあたり所定のワット数以下である」点において一致する。

したがって、両者は以下の点で一致し、また相違している。

(一致点)
「結晶性強磁性金属板層を備える高性能低コア損失バルク磁気構成部品であって、
前記強磁性金属板は、4?8重量パーセントのSiを含む鉄ベースの合金を含み、
所定の周波数および所定の磁束密度で動作させたとき、前記構成部品のコア損失が、磁性金属材料1キログラムあたり所定のワット数以下である磁気構成部品。」

(相違点1)
「結晶性強磁性金属板層」に関し、
本願発明は「ほぼ同じ形状の複数の結晶性強磁性金属帯板層」であるのに対し、引用発明では「結晶粒からなる鉄損の低い方向性珪素鋼板層」であって、「ほぼ同じ形状の複数の」結晶性強磁性金属「帯」板層であるか不明な点。

(相違点2)
「結晶性強磁性金属板層」に関し、
本願発明では「前記複数の結晶性強磁性金属帯板層は、積層多面体形状部を形成するように、接着結合手段によって一体に接着結合され」るのに対し、引用発明にはこの点の構成がない点。

(相違点3)
「Si」の「重量パーセント」に関し、
本願発明は「4?11重量パーセント」であるのに対し、引用発明では「3?8wt%」である点。

(相違点4)
「コア損失」(鉄損)の値の上限に関し、
本願発明では「50Hz乃至20,000Hzの範囲の励磁周波数「f」でピーク誘導レベルBmaxまで動作させたときに、該磁気構成部品のコア損失が、以下の「L」よりも小さく、ここで、Lは、式L=0.0135f(Bmax)^(1.9)+0.000108f^(1.6)(Bmax)^(1.92)によって与えられ、コア損失、励磁周波数およびピーク誘導レベルの単位が、それぞれワット毎キログラム、ヘルツおよびテスラ」であるのに対し、引用発明にはこの点の構成がない点。

(相違点5)
「所定の周波数および所定の磁束密度で動作させたとき、前記構成部品のコア損失が、磁性金属材料1キログラムあたり所定のワット数以下である」点に関し、
本願発明は「20,000Hzの周波数および0.30テスラの磁束密度で動作させたとき、前記構成部品のコア損失が、磁性金属材料1キログラムあたり105ワット以下である」のに対し、引用発明は「周波10KHz、磁束密度0.1Tで鉄損が2.6?4.2W/Kgである」である点。


まず、上記相違点1、2の「結晶性強磁性金属板層」について、まとめて検討する。
すると、上記引用発明の認定においても述べたように、「珪素鋼板」を「積層」して「鉄心」を制作することは技術常識として広く行われていることであるが、このような鋼板が帯状の板を巻いたコイルなどの形式で供給されることも同様であるから、「結晶性強磁性金属板」を「結晶性強磁性金属帯板」とするのは格別のことではない。
またこのような鋼板を積層して部品を構成するのであれば、通常「ほぼ同じ形状の複数の」板を積層して必要に応じ角柱のような立体形状を構成することも広く周知の手段であり、そのような立体形状を「積層多面体形状」と呼ぶのは適宜のことに過ぎず、更に必要に応じて接着剤などの「結合手段」によって層間を「接着結合」することも同様であって、例えば、
国際公開第00/28556号(以下、「周知例1」という。Fig.1?3、7頁18行?8頁3行など)、
国際公開第00/28640号(以下、「周知例2」という。Fig.1?5、10頁9?20行など)、
に開示のあることである。
したがって、「結晶性強磁性金属板層」を「ほぼ同じ形状の複数の結晶性強磁性金属帯板層」とする相違点1、2は、何れも技術常識ないし周知技術の適用により、引用発明より容易になし得る程度のことであって、格別のことではない。

ついで、相違点3の「Si」の「重量パーセント」について検討する。
本願発明の「4?11重量パーセント」の範囲について、本願明細書には本願発明の実施例に関しては、「いくつかの応用例において、Siを6?7%含む合金が、より適している。」(【0037】)、「前者は、Siを6.5%含む合金鋼であり、後者は、表面の6.5%Siから中央の4%まで帯板の厚さに沿ったSi濃度勾配を有する合金である。」(【0042】)などの記載がみられるのみであって、「4?11重量パーセント」の範囲については格別の臨界的意義を認めることの出来る記載は無く、
更に、本願発明の最適値とされる上記「6?7%」の範囲は、引用例の上記ニ.「表3」の「No.8、11、12」の実施例記載のSi濃度(最表層で5.9?6.6%)とほぼ一致するものであり、「帯板の厚さに沿ったSi濃度勾配を有する」点でも引用例も同様であるから、引用発明と格別の技術的意義のある差異を認めることもできない。
したがって、「Si」の「重量パーセント」の範囲に関する相違点3も、当業者であれば適宜になし得る程度のことであって格別のものではない。

つぎに、相違点4の「コア損失」(鉄損)の値の上限を与える「式L」について検討する。
すると、この「式L」は、物の発明としての本願発明の、対象物の特性値である「コア損失」(鉄損)の上限値を与えるに過ぎず、高性能化のため低い「コア損失」(鉄損)を目指すのは当然であるから、後述の相違点5の特定の条件におけるコア損失の上限値(105ワット)とともに、これらの上限値より低いコア損失の先行技術を排除する要件となるものではなく、
引用発明が「周波10KHz、磁束密度0.1Tで鉄損が2.6?4.2W/Kg」であって、その条件における本願発明の式Lの値「4.961」ワット毎キログラムよりも小さい以上、本願発明の要件を満たしており実質的な相違点を構成するものではない。

念のため更に検討しておくと、一般に磁性材料の「コア損失」(鉄損)が、磁束密度Bmと周波数fの冪関数の積から成る、いわゆる「ヒステリシス損」と「渦電流損」の2つの項の和で標記されることは、例えば、原審の拒絶理由通知においても引用された、
特開昭62-124704号公報(以下、「周知例3」という。)に、鉄損Wの一般式として、
「 一般に磁性材料の鉄損Wは、次式で表わされる。

ここでBm:動作磁束密度、 f:動作周波数、
ρ:比電気抵抗、 t:板厚、
A、B:定数」(2頁左上欄)とあり、
更に、
特開平11-144932号公報(以下、「周知例4」という。)、あるいは、特開平11-251131号公報(以下、「周知例5」という。)の【0003】に、
「【式1】 W=(k_(1)Bm^(2)t^(2)/ρ)f^(2)+k_(2)Bm^(1.6)f」ともあるように、磁性材料の技術分野において従来より広く知られたことにすぎず、その上限値も同様であることは自明なことに過ぎない。
特に、上記各式に見られるように、高い動作周波数fにおいて支配的となるf^(2) の掛かる「渦電流損」の項は、金属板層の板厚tにも大きく影響を受けるものであって、板厚tを小さく(薄く)するほど「渦電流損」は押さえることが可能であることも明らかであって、実際に上記周知例3の実施例2は、相違点5の検討で後述のように「厚み:5μm」とすることにより本願発明より低い鉄損を達成している。(当審注:本願発明に金属板の厚みの要件はないが、本願明細書【0042】、【0051】によれば、本願の金属板の厚みは50?100μmとある。)
そして、「50Hz乃至20,000Hzの範囲の励磁周波数「f」」の点については、使用する周波数の範囲は、「磁気構成部品」(鉄心)の使用目的に応じ定まることに過ぎないが、前記周知例1の「TABLE1?4」(12?13頁)、周知例2の「TABLE1?4」(15?16頁)にも、「Core Loss」(コア損失)に関して同様な周波数範囲の開示があり、
本願発明の「式L」の係数、指数の具体的な値についても、本願明細書の【0056】、【0057】にも記載があるように、周知の経験的な手法により決定可能なものであって、相違点3の「Si」の「重量パーセント」以外に、このような特性値を実現するための磁性材料としての組成、製法などが本願発明に規定されているものでもない。
したがって、「式L」よりも「コア損失」(鉄損)の低い磁気部品を構成することは当業者には容易なことでもあって、この観点からも相違点4は格別のことではない。

最後に、相違点5の「20,000Hzの周波数および0.30テスラの磁束密度で動作させたとき、前記構成部品のコア損失が、磁性金属材料1キログラムあたり105ワット以下である」点について検討する。
すると、当審の拒絶理由通知においても指摘したように、引用例の「表3」(引用例5頁上欄)の「No.8、11、12」には「周波10KHz、磁束密度0.1Tで鉄損が2.6?4.2W/Kg」である旨の記載があり、
一方、当審拒絶理由通知に対する請求人の意見書(平成25年1月28日付け)3頁27行?4頁2行で請求人も認めるように、本願発明の「式L」の、「周波10KHz、磁束密度0.1T」(周波数10000Hz,1kガウス)における鉄損値は「4.961ワット」であるから、
引用発明と同じ条件においては、引用発明の方が本願発明よりも鉄損値(コア損失)が低いものであり、引用発明の鉄損値(コア損失)を本相違点5の条件に外挿すれば、引用発明においても「20,000Hzの周波数および0.30テスラの磁束密度で動作させたとき、前記構成部品のコア損失が、磁性金属材料1キログラムあたり105ワット以下」とすることが可能であろうことは、当業者であれば引用発明より容易に想到可能なことである。
なお、請求人が上記意見書でいう、引用例記載の鉄損値が「少なくとも8.00W/kg」であるとの主張は、引用例の[実施例1]対応の【表2】(引用例4頁【0026】)の「No.1、4,5」に基づく主張であって、前述のように当審拒絶理由通知においては[実施例2]に対応する【表3】(引用例【0027】、5頁上欄)を引用しているから、請求人の主張は当を得ないものである。

また、本相違点5についても念のため更に検討しておくと、前述の相違点4の検討と同様に、前記周知例3(特開昭62-124704号公報)には、その3頁右下欄下から6行?4頁左上欄3行に、
「実施例2
幅:10、厚み:5μmの6.5%Si-Fe合金薄帯の表面に、真空蒸着法によって0.2μm圧のZrCN被膜を被成した。ついで、内径:50mm、外径:60mmのトロイド状コアとしたのち、H_(2)中で1150℃、3時間の仕上げ焼鈍を施した。
かくして得られた巻コアの磁束密度:0.5T,周波数100KHzにおける鉄損W5/100Kは78W/Kgであった。」との記載があり、
前述の本周知例3の「磁性材料の鉄損W」の式「 W=ABmf+・・・」にせよ、本願発明の「式L」にせよ、周波数や磁束密度が増えるほどコア損失(鉄損)の値も増加する点では共通するのであるから、上記周知例3の「実施例2」が、本相違点5の条件よりも厳しい条件である「磁束密度:0.5T,周波数100KHz」において、本願発明の「1キログラムあたり105ワット」よりも低い「78W/Kg」の「鉄損W5/100K」を達成する以上、周知例3の「実施例2」の鉄損値が本相違点5の条件においても「105ワット」よりも低いのは明らかであり、この点からしても本相違点5は格別のことではない。

そして、本願発明の効果も上記相違点の克服に伴って当業者が予測し得る範囲のものであり、当審の拒絶理由通知に対する意見書における審判請求人の主張も、これらの認定を覆すものではない。


5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-02 
結審通知日 2013-07-03 
審決日 2013-07-22 
出願番号 特願2002-516794(P2002-516794)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 朋広小池 秀介  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 乾 雅浩
大澤 孝次
発明の名称 高性能バルク金属磁気構成部品  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 夫馬 直樹  
代理人 富田 博行  

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