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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1282549
審判番号 不服2011-6922  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-04 
確定日 2013-12-02 
事件の表示 特願2001-559454「発育中のイヌにおける骨造形及び軟骨細胞機能を向上する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月23日国際公開、WO01/60356、平成15年 7月29日国内公表、特表2003-522788〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2001年2月16日(パリ条約による優先権主張 2000年2月17日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成22年12月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年4月4日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1?14に係る発明は、平成22年10月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項14に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項14】 発育中のイヌにおける骨造形及び軟骨細胞機能を向上するための方法であって、発育中のイヌの食餌中にn-6及びn-3脂肪酸を含有することを含む方法であって、
n-6脂肪酸対n-3脂肪酸の比率が10:1から5:1である、
方法。」


3.引用例に記載された事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるWorld Review of Nutrition and Dietetics (1998), 83, p38-51(以下「引用例1」という。なお、原査定の拒絶の理由におけるこの刊行物は、「SIMOPOULOS, A.P., PART 1: OMEGA-3 FATTY ACIDS AND HEALTH, 1998年, p. 38-51」と表記されているが、審判請求人は、原査定に至る審査の過程及び本件審判の過程において、この刊行物の記載内容を踏まえて応答しているので、この刊行物に基づく拒絶の理由は、正しく審判請求人に通知されたものとみなす。)には、以下の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているので、訳文で示す。)
(ア)「骨造形及び軟骨機能における多価不飽和油脂の調節効果」(38ページ冒頭のタイトル)

(イ)「骨造形とは、骨格の成熟が達成されるまでの個々の成長における、骨の形、長さ、及び、幅における持続的な変化を表す。」(40ページ下から15?13行)

(ウ)「食餌中の多価不飽和油脂は骨の形成を変化させる

・・・我々の研究は、食餌中の脂質が骨の形成と軟骨細胞の機能に影響することを示した。例えば、骨造形の動力学的分析は、・・・骨形成速度(BFR)が、メンハーデン油+サフラワー油を与えられたひよこにおいて、大豆油を与えられたひよこに比べて有意に大きかったことを明らかにした[30]。 さらに興味深い観察は、20-及び22-炭素(ω3)脂肪酸を与えられたひよこにおける増加したBFRは、脛骨におけるエックスビボでのPGE_(2)産生における3.5倍の減少を伴ったというものであった。この食餌の条件下では・・・[30]。・・・食餌中の20-及び22-炭素(ω3)脂肪酸は、骨の形成を最適化するために骨におけるPGE_(2)産生の抑制を助けるようである・・・。」(45ページ下から4行?47ページ10行)

(エ)「骨粗鬆症
骨粗鬆症は、米国において重要な健康問題であり、・・・。
・・・
食餌中の脂質が骨の代謝に効果を有することを訴える最近のデータは、食餌中の20-及び22-炭素(ω3)脂肪酸が骨格におけるPGE_(2)産生を減らし、若者の骨造形を最適化して骨形成を強化し、ひいては、晩年の骨粗鬆症を防ぐかもしれないことを示す。さらには、・・・[45,55]。」(47ページ下から21行?下から6行)

(オ)「結論
新しい研究は、食餌中の脂質が動物における骨形成速度と軟骨細胞培養におけるコラーゲン合成に影響することを示した。」(48ページ19?21行)

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-38063号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(カ)「【請求項11】 オメガ-6及びオメガ-3脂肪酸を含有し、そのオメガ-6脂肪酸:オメガ-3脂肪酸の比が3:1ないし10:1であり、かつ含有全脂肪酸の少なくとも15%がオメガ-6脂肪酸であるペットフード組成物から実質的になる餌をペット動物に与えることからなるペット動物の炎症及びアレルギー性皮ふ反応を低減する方法。
・・・
【請求項19】 ペット動物がイヌ、ネコ及びウマからなる群より選択される請求項11の方法。
【請求項20】 ペット動物がイヌである請求項19の方法。」(【特許請求の範囲】)

(キ)「【従来の技術】脂肪酸は動物の通常の成長及び機能のために必要とされる。オメガ-6脂肪酸は必須脂肪酸であり、典型的な餌における最も一般的な脂肪酸類の一種である。オメガ-6すなわちn-6脂肪酸の欠乏は、乾燥したカサカサ肌、皮ふ病変、成育阻害、そして終局的には死をもたらしうる。しかし、n-6脂肪酸は皮ふのアレルギー性及び炎症状態を促進する作用もなす。
【0003】n-6脂肪酸の炎症効果を克服するためのいくつかの試みがなされてきている。少数の最近のペットフードでは、n-6問題を軽減しようと試みるn-6及びn-3脂肪酸の組合せが採用されている。しかしながら、これらの製品は、積極的効果が極めて小さいような少量のn-3脂肪酸を用いているので、満足すべきものではない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従って、n-6脂肪酸の積極的効果を包含するもののその有害な炎症効果をn-3脂肪酸を添加することにより充分に相殺するような健康的な餌となるペットフード製品に対する要求が存在する。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、ペットフード製品ならびに特定の比率でオメガ-6及びオメガ-3脂肪酸を含むフード組成物をペット動物に与えることからなる炎症アレルギー反応を低減する方法によって前記の要求に応えるものである。この餌は、健康的な動物を飼育するのに、そして皮ふ炎及び掻痒のような皮ふ病の炎症を予防及び/または軽減するのに有用である。
【0006】本発明のペットフード製品は、多様なタンパク源及び添加剤を含むことができ、イヌ、ネコ、ウマ及びさらにテンジクネズミのような珍しい動物の如きペット動物を処置し飼育するのに適している。本発明の重要な特徴は、オメガ-6及びオメガ-3の両方の脂肪酸が製品中に存在することである。これらの脂肪酸は、3:1ないし10:1のオメガ-6脂肪酸:オメガ-3脂肪酸の比で存在する。好ましい具体例においては、ペットフード製品は5:1ないし10:1、そして最も好ましくは5:1ないし7.5:1のオメガ-6脂肪酸:オメガ-3脂肪酸の比を有する。」(【0002】?【0006】)

(2)引用例1の記載事項(ア)によれば、引用例1には、「骨造形及び軟骨機能における多価不飽和油脂の調節効果」と題する内容が記載され、記載事項(イ)によれば、「骨造形」とは、要するに、成長期における骨の成長を意味するものといえる。また、記載事項(ウ)によれば、骨形成速度(BFR)が、メンハーデン油+サフラワー油を与えられたひよこ、すなわち、発育中の鶏において、大豆油を与えられたひよこに比べて有意に大きかったことや、20-及び22-炭素(ω3)脂肪酸を与えられたひよこにおいては、BFRが増加するとともに、脛骨におけるPGE_(2)産生が減少したことを、従来の文献を引用して示しつつ、食餌中の脂質が骨の形成と軟骨細胞の機能に影響することが記載され、記載事項(エ)によれば、食餌中の脂質が骨の代謝に効果を有することを訴える最近のデータは、食餌中の20-及び22-炭素(ω3)脂肪酸が骨格におけるPGE_(2)産生を減らし、若者、すなわち、発育中の人間の骨造形を最適化することが従来の文献を引用しつつ記載されている。そして、記載事項(オ)によれば、以上の内容を踏まえた結論として、食餌中の脂質が動物における骨形成速度と軟骨細胞培養におけるコラーゲン合成に影響することが記載されている。
そうすると、これら引用例1の記載を総合すれば、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「発育中の鶏や人間のような動物における骨形成速度の増加を含む骨造形の最適化及び軟骨細胞の機能の調節をするための方法であって、発育中の鶏や人間のような動物の食餌中に(ω3)脂肪酸を含有することを含む方法。」


4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明にいう「発育中の鶏や人間のような動物」と、本願発明にいう「発育中のイヌ」は、どちらも、「発育中の動物」という点で共通する。また、引用発明にいう「骨形成速度の増加を含む骨造形の最適化及び軟骨細胞の機能の調節をする」は、本願発明にいう「骨造形及び軟骨細胞機能を向上する」に相当する。そして、「n-3脂肪酸」と「(ω3)脂肪酸」は同義であるから、本願発明にいう「食餌中にn-6及びn-3脂肪酸を含有することを含む方法」であって「n-6脂肪酸対n-3脂肪酸の比率が10:1から5:1である、」方法は、引用発明にいう「食餌中に(ω3)脂肪酸を含有することを含む方法」すなわち「食餌中にn-3脂肪酸を含有することを含む方法」の一種といえるものである。

したがって、両者は、
「発育中の動物における骨造形及び軟骨細胞機能を向上するための方法であって、発育中の動物の食餌中にn-3脂肪酸を含有することを含む方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
・発育中の動物が、引用発明では「鶏や人間のような動物」であるのに対し、本願発明では「イヌ」である点(以下、「相違点1」という。)
・「食餌中にn-3脂肪酸を含有することを含む方法」について、引用発明ではこれ以上の限定条件は付されていないのに対し、本願発明では「食餌中にn-6及びn-3脂肪酸を含有することを含む方法」であって「n-6脂肪酸対n-3脂肪酸の比率が10:1から5:1である、」という限定条件が付されている点(以下、「相違点2」という。)


5.判断
上記相違点について検討する。
1)相違点1について
イヌは、動物の中でも代表的なものであり、また、食餌を与える対象としても代表的なものであるから、発育中の鶏や人間のような動物に与える食餌に関する引用発明に接した当業者が、該引用発明を発育中のイヌに適用することに、格別の創意を要したものとはいえない。

2)相違点2について
食餌を用意する際に栄養のバランスに配慮しなければならないことは、食餌が人間用の食事であれ、動物用の餌であれ、本願優先日前から周知の事項である。してみると、引用発明に接した当業者が、該引用発明を発育中のイヌに適用するに当たっては、n-3脂肪酸を使用するにしても、他の栄養とのバランスをどうするか、を検討することが不可欠である。
ここで、引用例2の記載事項(キ)によれば、引用例2には、オメガ-6すなわちn-6脂肪酸は、必須脂肪酸すなわち他の栄養素の摂取では代替できない栄養素であり、餌における最も一般的な脂肪酸類の一種であり、その欠乏は、成育阻害や死をもたらすものであるが、その一方で有害な炎症効果をも有するものであること、n-6脂肪酸の炎症効果を克服するため少数の最近のペットフードでは、n-6及びn-3脂肪酸の組合せが採用されているが、少量のn-3脂肪酸を用いているので、満足すべきものではないこと、n-6脂肪酸の積極的効果を包含するもののその有害な炎症効果をn-3脂肪酸を添加することにより充分に相殺するような健康的な餌となるペットフード製品に対する要求が存在することが記載され、記載事項(カ)?(キ)によれば、上記の要求に応える方法として、オメガ-6及びオメガ-3脂肪酸を含有し、そのオメガ-6脂肪酸:オメガ-3脂肪酸の比が3:1ないし10:1、好ましい具体例においては、5:1ないし10:1であり、かつ含有全脂肪酸の少なくとも15%がオメガ-6脂肪酸であるペットフード組成物から実質的になる餌をペット動物に与えることからなるペット動物の炎症及びアレルギー性皮ふ反応を低減する方法が記載され、該ペット動物としてイヌが記載されている。
そうすると、これら引用例2の記載に接した当業者は、n-6及びn-3脂肪酸を含有し、そのn-6脂肪酸:n-3脂肪酸の比が5:1ないし10:1であるペットフード組成物からなる餌をイヌなどのペット動物に与えることが、n-3脂肪酸を該動物に与える具体的態様として好ましいという示唆を受けるものといえる。
したがって、引用例1及び2を併せ見た当業者ならば、引用発明を発育中のイヌに適用するに際し、引用発明における「食餌中にn-3脂肪酸を含有することを含む方法」について、該イヌにn-3脂肪酸を与える具体的態様として、「食餌中にn-6及びn-3脂肪酸を含有することを含む方法」であって「n-6脂肪酸対n-3脂肪酸の比率が10:1から5:1である、」という限定条件を付することに、格別の創意を要したものとはいえない。

また、本願発明の効果について検討するに、本願明細書の実施例1及び2では、本願発明のn-6脂肪酸対n-3脂肪酸の比率の条件を満たす食餌が、n-6脂肪酸の比率がより高い、換言すれば、n-3脂肪酸の比率がより低い食餌に比較して、骨形成が刺激され、発育中のイヌの骨造形を最適化することを示唆するデータが得られたとされているようであるが、このような効果、並びにこれに基づく、発育中のイヌにおける骨造形及び軟骨細胞機能を向上し得たとされる本願発明の効果は、引用例1の記載から当業者が予測し得たものに過ぎない。

なお、審判請求人は、当審の審尋に対する回答書の中で、
「2-2-1-2.拒絶理由が取り下げられる理由
前置報告書では、請求項1?13とともに請求項14へも拒絶理由が通知されていますが、その詳細な理由では、ペットフード組成物への拒絶理由が通知されているのみで、補正前請求項14に係る発明「発育中のイヌにおける骨造形及び軟骨細胞機能を向上するための方法」への拒絶理由は通知されておりません。
今回添付した補正案では、補正前請求項14に係る発明となるように、請求項1を補正しています。」
などと主張する。
しかしながら、該前置報告書では、
「この審判請求に係る出願については、下記の通り報告します。

・根拠条文 第29条第2項
・請求項 1-14
・引用文献等 1-4
・特許査定できない理由
・・・」
と記載されているのであるから、進歩性を否定する対象として請求項14も含まれていることは明らかである。加えて、上記「特許査定できない理由」の内容は、請求項14に係る発明も踏まえたものと解されるし、上記補正案すなわち請求項14に係る発明となるように補正することによっても進歩性が生じないことは、改めて本審決で説示したとおりである。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-08 
結審通知日 2013-07-09 
審決日 2013-07-22 
出願番号 特願2001-559454(P2001-559454)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 紀子瀬下 浩一  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 渕野 留香
天野 貴子
発明の名称 発育中のイヌにおける骨造形及び軟骨細胞機能を向上する方法  
代理人 池田 幸弘  
代理人 安藤 克則  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  

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