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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C02F 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C02F |
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管理番号 | 1282719 |
審判番号 | 不服2013-3919 |
総通号数 | 170 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-02-28 |
確定日 | 2014-01-08 |
事件の表示 | 特願2008-208758「脱リン材および脱リン装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月25日出願公開、特開2010- 42365、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年8月13日の出願であって、平成23年10月21日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成24年12月7日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年2月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がされ、同年5月13日付けで当審により審尋がされ、同年6月6日付けで回答書が提出され、同年9月18日付けで当審により拒絶理由が通知され、同年9月25日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願の発明は、平成25年9月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 反応式:10Ca^(2+)+4PO_(4)^(3-)+2OH^(-)→Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2) に基づいてリン含有廃水からリンを除去する脱リン処理に用いられる脱リン材であって、 コンクリート廃棄物から骨材をリサイクルする際に発生する廃セメント微粉末にて形成され、 この廃セメント微粉末は、セメント混和部が粉砕されたコンクリート廃棄物を粒径1mm以下に分級することにより骨材の含有量を低下させて形成される ことを特徴とする脱リン材。 【請求項2】 請求項1に記載された脱リン材によりリン含有廃水の脱リン処理を行う脱リン装置であって、 反応槽と、 この反応槽に設けられこの反応槽内へリン含有廃水を供給する廃水供給手段と、 前記反応槽に設けられこの反応槽内へ脱リン材を供給する脱リン材供給手段と、 前記反応槽に設けられこの反応槽内にてリン含有廃水および脱リン材を攪拌する攪拌手段と、 前記反応槽に設けられこの反応槽内の晶析物を回収する回収手段とを具備し、 前記反応槽内に供給された前記リン含有廃水および前記脱リン材を攪拌し、前記反応槽内にてリン酸カルシウムを晶析させることにより前記リン含有廃水からリンを除去し、晶析した脱リン副産物を回収することを特徴とする脱リン装置。」 (以下、本願の請求項1及び2に係る発明を、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。) 第3 拒絶理由の概要 1.原査定の拒絶理由の概要 本願発明1は、その出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明2は、その出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物1?6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1.特開昭62-183898号公報 刊行物2.特開2008-100159号公報 刊行物3.特開2003-230899号公報 刊行物4.特開2001-162288号公報 刊行物5.特開2000-070960号公報 刊行物6.特開2001-038370号公報 2.当審の拒絶理由の概要 請求項1に記載された「セメント混和部が粉砕されたコンクリート廃材を粒径1mm以下に分級することにより骨材の含有量を低下させて形成され」た「脱リン材」とはどのようなものか不明確であり、本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審の判断 1.刊行物4の記載事項 刊行物4には、「脱リン材」(発明の名称)について、次の記載がある。 (1)「【請求項1】珪酸カルシウム水和物と炭酸カルシウム含有物質を主成分とすることを特徴とする脱リン材。 【請求項2】石灰質原料、珪酸質原料、炭酸カルシウム含有物質及び水の混合物からなる造粒物をオートクレーブ養生してなることを特徴とする脱リン材。 【請求項3】炭酸カルシウム含有物質は、石灰石微粉末、貝類の粉砕物、コンクリート構築物の解体粉砕物から粗骨材を取り除いた粉砕物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の脱リン材。 【請求項4】炭酸カルシウム含有物質の混合割合は、炭酸カルシウムとして、石灰質原料と珪酸質原料の合量に対して、5%?75%となるように調合されていることを特徴とする脱リン材。」 (2)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、河川・湖沼等のリンを除去するために使用され、pH値の低くかつ脱リン効率の低下しない脱リン材に関する。」 (3)「【0008】本発明の脱リン材は、珪酸カルシウム水和物と炭酸カルシウム含有物質を主成分とすることを特徴とするものであり、ここで、珪酸カルシウム水和物(主としてトバモライトである。)としては、石灰質原料と珪酸質原料との反応生成物からなる。ここで、石灰質原料としては、主にセメントが用いられ、その種類は特に限定されるものではないが、ポルトランドセメント、高炉セメントやシリカセメント等の混合セメントが好ましい。また珪酸質原料としては、珪砂、珪石、珪藻土、白土の微粉末等が挙げられる。炭酸カルシウム含有物質としては、石灰石微粉末、貝類の粉砕物(例えば、蠣殻等)、コンクリート構築物の解体粉砕物から粗骨材を取り除いた粉砕物から選択れた少なくとも1種が用いられる。これらは、いずれも好ましく用いられるが、コンクリート構築物の解体粉砕物から粗骨材を取り除いた粉砕物がコスト面からいっていっそう好ましい。 【0009】また本発明は、石灰質原料、珪酸質原料、炭酸カルシウム含有物質及び水の混合物からなる造粒物をオートクレーブ養生してなることを特徴とするものであり、石灰質原料及び珪酸質原料は、前記に挙げられた原料が用いられる。・・・(略)・・・【0011】本発明では、造粒物の大きさは、特に限定されないが、粒径は、0.1cm?10cmの範囲で用いることができる。」 (4)「【0013】 【実施例】以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。 【0014】〔実施例1〕普通ポルトランドセメント(三菱マテリアル製)60重量部、珪石微粉末(敦賀セメント製・粉末度:3700cm/g)40重量部の合量に対して、石灰石微粉末(菱光石灰工業製・粉末度:3100cm/g)を40重量部加えて混合した原料混合物をパン型ペレタイザーに入れ、水を噴霧しながら転動造粒した。得られた造立物を常温にて1日養成後、水に浸漬して、オートクレーブ養成(審決注:「養生」の誤記と認める。)(10気圧、保持時間8時間)して脱リン材(粒径:1.6?2.4mm)を製造した(脱リン材1)。次に、蠣殻を洗浄、乾燥後ボールミルを用いて粉砕して得た粉砕物(粉末度:3200cm/g)及び鉄筋コンクリート建築物の解体時に出たコンクリート部分を約300℃で焼成し、粗骨材を取り除いて得た部分をボールミルを用いて粉砕して得た粉砕物(粉末度:3500cm/g)について、上記混合割合にて、同様な方法で造粒物を得た(脱リン材2,3)。 【0015】これらの造粒物を500mlのビーカーに取り、容積率5%になるように、予めリン濃度を2mg/lに調整した河川水を加えて攪拌し、1時間後及び24時間後の検水中のリン濃度とpHの変化を測定した。比較用として、炭酸カルシウム含有物質を混入しない脱リン材(比較1)と炭酸カルシウム含有物質を混入しない脱リン材粉末60重量部と上記石灰石微粉末40重量部を混合し、有機系バインダーを少量加えた原料混合物を上記と同様な方法で転動造粒した後、乾燥して得た脱リン材(比較2)を用いた。測定結果を表1に示す。 【表1】 【0016】表1より明らかなように、炭酸カルシウム含有物質を加え、オートクレーブ養生することによりpH値を下げ、効果的にリンを除去することができることがわかる。」 (5)「【0025】本発明の脱リン材は、蠣殻等の貝類の粉砕物、コンクリート構築物の解体時に発生する粗骨材を取り除き粉砕した物等の炭酸カルシウム含有物質は、廃棄物を有効利用するため、環境上も好ましい。また本発明の脱リン材は、コンクリート構築物の解体時に発生する粗骨材を取り除き粉砕した物質は、炭酸カルシウム以外にシリカ分を含み、安価な脱りん材の原料になる利点を有する。」 これらの記載から、刊行物4には、「珪酸カルシウム水和物と炭酸カルシウム含有物質を主成分」(請求項1)とした脱リン材であって、その実施例である「脱リン材3」として、「珪酸カルシウム水和物(普通ポルトランドセメントと珪石微粉末との反応生成物)」(【0008】、【0014】)と、「炭酸カルシウム含有物質」として「鉄筋コンクリート建築物の解体時に出たコンクリート部分を約300℃で焼成し、粗骨材を取り除いて得た部分をボールミルを用いて粉砕して得た粉砕物(粉末度:3500cm/g)」(【0014】)とを、粒径0.1cm?10cmに造粒して、オートクレーブ養生して製造されたものが記載されている。 そうすると、刊行物4には、「河川・湖沼等に含有されているリンを除去する脱リン材であって、珪酸カルシウム水和物(普通ポルトランドセメントと珪石微粉末との反応生成物)と鉄筋コンクリート建築物の解体時に出たコンクリート部分を約300℃で焼成し、粗骨材を取り除いて得た部分をボールミルを用いて粉砕して得た粉砕物(粉末度:3500cm/g)とを混合し、造粒し、オートクレーブ養生して製造された粒径0.1cm?10cmの造粒物である脱リン材」(以下、「引用発明1」という。)が記載されているということができる。 2.刊行物5の記載事項 刊行物5には、「建築廃材を利用した脱リン材」(発明の名称)について、次の記載がある。 (1)「【請求項1】平均粒径0.5mm?15mmの大きさの珪酸カルシウム水和物を含有する建築廃材からなることを特徴とする脱リン材。 【請求項2】請求項1に記載の脱リン材は、建築廃材を粉砕して平均粒径0.5mm?15mmの大きさの粒子を選択したものであることを特徴とする脱リン材。」 (2)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、脱リン材に関するものであり、更に詳しくは本発明は、河川、湖沼などの脱リン又は生活排水等のリン汚染水のための脱リン材に関するものである。」 (3)「【0014】本発明の脱リン材を製造する際に用いられる珪酸カルシウム水和物を含有する建築廃材としては、住宅やビル建築物の壁や天井に使用される珪酸カルシウム板、鉄骨の耐火被覆に使用される珪酸カルシウム板等が用いられる。これらの建築廃材は、珪酸カルシウム水和物を含有する建築材料の製造工程で発生する端材、製品検査によって不合格となった不良品、又は住宅やビル建築物の解体で得られた使用後の廃材を使用することができる。 【0015】本発明に用いられる建築廃材から脱リン材を製造する方法は、建築廃材を粉砕し、ついで平均粒径を0.5mm?15mmの大きさの粒子を選別することにより粒度調整する。また好ましくは平均粒径1mm?10mmの大きさの粒子がよい。平均粒径が1mm未満のときは、脱リン材が外部に流出する、もしくは脱リン材充填時に充填層が閉塞することにより非処理液の流速が上がらない現象が起こるため使用し難い。平均粒径が10mmの大きさを越えると、反応装置として容積高率が悪く脱リン性能が低下するので不適当である。この平均ように粒度調整された脱リン材は、このまま脱リン材として使用に供される。」 (3)「【0024】一方、比較例1として、セメント56重量部、珪石粉末44重量部を混合して本発明2と同様の方法で粒径2mmの造粒物を得た。また比較例2として、ALC(軽量起泡コンクリート)を粉砕し、平均2mmの粒径の粉砕物を使用した。」 (4)表3 」 これらの記載によれば、刊行物5には、「住宅やビル建築物の壁や天井に使用される珪酸カルシウム板、鉄骨の耐火被覆に使用される珪酸カルシウム板等の建築廃材を粉砕し、ついで平均粒径を0.5mm?15mmの大きさの粒子を選別して得られた、リン汚染水のための脱リン材」(以下、「引用発明2」という。)が記載されているということができる。 また、表3には、平均粒径が0.5mmのものについて、リン除去率が74.9%(5分値)、97.0%(30分値)であることが記載されている。 3.対比 (1)本願発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の、リンが含まれた「河川・湖沼」、「鉄筋コンクリート建築物の解体時に出たコンクリート部分」及び「コンクリート部分を約300℃で焼成し、粗骨材を取り除いて得た部分をボールミルを用いて粉砕して得た粉砕物(粉末度:3500cm/g)」は、本願発明1の「リン含有廃水」、「コンクリート廃棄物」及び「廃セメント微粉末」にそれぞれ相当する。 また、引用発明1の「コンクリート部分」には、セメント混和部が含まれていることは明らかである。 そして、引用発明1の「粉砕物(粉末度:3500cm/g)」は、「コンクリート部分」から粗骨材が取り除かれているから、骨材の含有量を低下させて形成されているものということができる。 また、本願発明1の脱リン材も、引用発明1の脱リン材も、廃セメント微粉末から製造される点では共通する。 そうすると、本願発明1と引用発明1とは、 「リン含有廃水からリンを除去する脱リン処理に用いられる脱リン材であって、 コンクリート廃棄物から形成された廃セメント微粉末にて製造され、 この廃セメント微粉末は、セメント混和部が粉砕されたコンクリート廃棄物より得られた脱リン材。」である点で一致し、次の相違点1?3で相違する。 (相違点1) 脱リン処理が、本願発明は、反応式:10Ca^(2+)+4PO_(4)^(3-)+2OH^(-)→Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)に基づく処理であるのに対し、引用発明では、どのような処理か不明な点。 (相違点2) 脱リン材について、本願発明1では、「廃セメント微粉末にて形成され」、「コンクリート廃棄物を粒径1mm以下に分級することにより骨材の含有量を低下させて形成され」ているのに対し、引用発明1では、珪酸カルシウム水和物と廃セメント微粉末とを混合して製造された造粒物である点。 (相違点3) 脱リン材が、本願発明では、「コンクリート廃棄物から骨材をリサイクル際に発生する廃セメント微粉末」であるのに対し、引用発明1では、骨材をリサイクルすることについては不明な点。 (2)事案に鑑み、相違点2について検討する。 本願の請求項1において、「形成」とは、「形ができ上がること。形づくること。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」であるから、請求項1の記載からは、本願発明1の脱リン材は、廃セメント微粉末であることが明らかであるし、本願の明細書の記載(たとえば、「脱リン材として、廃セメント微粉末の試料を用いた。」(【0040】))を参照しても、本願発明1の脱リン材は廃セメント微粉末であることは明らかである。 そうすると、上記相違点2は、次のように言い換えることができる。 (相違点2’) 脱リン材について、本願発明1では、「コンクリート廃棄物を粒径1mm以下に分級することにより骨材の含有量を低下させて形成された廃セメント微粉末」であるのに対し、引用発明1では、珪酸カルシウム水和物と廃セメント微粉末とを混合して製造された造粒物である点。 そこで、刊行物4の記載を検討すると、刊行物4には、「鉄筋コンクリート建築物の解体時に出たコンクリート部分を約300℃で焼成し、粗骨材を取り除いて得た部分をボールミルを用いて粉砕して得た粉砕物(粉末度:3500cm/g)」を、粉砕物のままの状態で脱リン材として用いることについては、記載も示唆もない。 そして、引用発明1の脱リン材には、珪酸カルシウム水和物が含まれているので、引用発明1の脱リン材において、珪酸カルシウム水和物がどのような作用を有するのか以下に検討する。 刊行物4には、「炭酸カルシウム含有物質は、石灰石微粉末、貝類の粉砕物あるいは、コンクリート構築物の解体粉砕物から粗骨材を取り除いた粉砕物の少なくとも1種であることにより、脱リン効率を下げることなく、pH値を低下させることができる」(【0006】)と記載されていて、「比較用として、炭酸カルシウム含有物質を混入しない脱リン材(比較1)と炭酸カルシウム含有物質を混入しない脱リン材粉末60重量部と上記石灰石微粉末40重量部を混合し、有機系バインダーを少量加えた原料混合物を上記と同様な方法で転動造粒した後、乾燥して得た脱リン材(比較2)を用いた。測定結果を表1に示す。」(【0015】)、「炭酸カルシウム含有物質を加え、オートクレーブ養生することによりpH値を下げ、効果的にリンを除去することができる」(【0016】)と記載されており、刊行物4の表1には、検水中のリン濃度が、炭酸カルシウム含有物質が混入されない比較1について、0.26(1時間)、0.01(2時間)、同様な比較2について、0.43(1時間)、0.02(2時間)と記載されていることから、引用発明1の脱リン材において、リンの除去には、珪酸カルシウム水和物が脱リン材に混入されることが必要であり、pH値を低下させるために炭酸カルシウム含有物質(コンクリート構築物の解体粉砕物等)が用いられたものと理解することができる。 そうすると、引用発明1の脱リン材である造粒物は、「珪酸カルシウム水和物」と「鉄筋コンクリート建築物のコンクリート部分から粗骨材を取り除いて得た部分」との混合物から製造されるものであって、この造粒物から「珪酸カルシウム水和物」を取り除き、「鉄筋コンクリート建築物のコンクリート部分から粗骨材を取り除いて得た部分」のみを脱リン材として用いるようにすることは、刊行物4においては何ら記載されていないというべきである。 次に、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3、6の記載について検討する。 刊行物1には、「リンを含む汚水の脱リン方法」(発明の名称)について、「本発明に用いる多孔質処理材は、更に具体的に説明すると、例えば、珪酸質原料と石灰質原料とを主原料とするスラリーにアルミニウム粉末などの起泡剤を添加して高温高圧下で水熱反応処理して得られる成形物、あるいはこの成形物を破砕して得られる破砕物で空隙率が50?90%のもの、又は珪酸質原料と石灰質原料とを主原料とするスラリーを高温高圧下で水熱反応処理して必要ならば粉砕して得られる粉状物を気泡を入れて造粒あるいは成形した造粒物あるいは成形物で空隙率が50?90%のものである。」という記載がある。 刊行物2には、「脱リン材の製造方法」(発明の名称)について、「体積平均粒径が5μm?0.3mmのケイ酸カルシウム水和物含有粉体と、石灰質原料と、水との混和物を造粒し、オートクレーブ養生することにより硬化させることを特徴とする脱リン材の製造方法。」(【請求項1】)及び「ケイ酸カルシウム水和物含有粉体として、ケイ酸カルシウム水和物を76重量%含有するALC端材をジョークラッシャーで粗粉砕し、さらにハンマーミルで微粉砕することにより体積平均粒径が32μmの粉体を得た。・・・(略)・・・上記ケイ酸カルシウム水和物含有粉体75重量部、普通ポルトランドセメント25重量部、及び水50重量部をオムニミキサーで混練した後、平均粒径が2.8mmになるように造粒した。」(【0024】?【0025】)という記載がある。 刊行物3には、「汚泥中のリン分回収方法およびその装置」(発明の名称)について、「石灰質原料と珪酸質原料とを主原料とし、これに水と起泡剤を加えて高温高圧養生して製造したALC、または珪酸カルシウム水和物を脱リン材として用いる方法である。」(【0009】)という記載がある。 刊行物6には、「排水処理装置」(発明の名称)について、「 リン含有汚泥中の固形物を沈殿分離する固液分離槽と、該固液分離槽で固形物を分離した分離液に脱リン剤及びカルシウムイオンを添加して分離液中のリンと添加したカルシウムとを反応させて析出させることにより分離液中からリンを除去する脱リン槽とを備えていることを特徴とする排水処理装置。」(【請求項1】)という記載がある。 また、上述したように、刊行物5には、「平均粒径0.5mm?15mmの大きさの珪酸カルシウム水和物を含有する建築廃材からなる脱リン材」は記載されているものの、脱リン材は造粒物ではない。 そうすると、刊行物1?3、5、6には、いずれも、珪酸カルシウム水和物と炭酸カルシウム含有物質との造粒物である脱リン材から、「炭酸カルシウム含有物質」ないしは「鉄筋コンクリート建築物のコンクリート部分から粗骨材を取り除いて得た部分」のみを脱リン材として用いることは記載も示唆もされておらず、当該事項は、技術常識ないし周知技術であるとはいえないことから、相違点2に係る本願発明1の構成は、引用発明1及び刊行物1?3、5、6の記載に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。 (3)次に、本願発明1と引用発明2とを対比する。 引用発明2の「平均粒径を0.5mm?15mmの大きさの粒子を選別」すること及び「リン汚染水」は、本願発明1の「分級」及び「リン含有廃水」にそれぞれ相当し、引用発明の「建築廃材」と本願発明1の「コンクリート廃棄物」とは、「廃棄物」である点で共通する。 そうすると、本願発明1と引用発明2とは、 「リン含有廃水からリンを除去する脱リン処理に用いられる脱リン材であって、 廃棄物から形成され、 廃棄物を分級することにより得られた脱リン材。」である点で一致し、次の相違点4?7で相違する。 (相違点4) 脱リン処理が、本願発明は、反応式:10Ca^(2+)+4PO_(4)^(3-)+2OH^(-)→Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)に基づく処理であるのに対し、引用発明2では、どのような処理か不明な点。 (相違点5) 脱リン材が、本願発明では、「コンクリート廃棄物から骨材をリサイクル際に発生する廃セメント微粉末」であるのに対し、引用発明1では、骨材をリサイクルすることについては不明な点。 (相違点6) 廃棄物が、本願発明では、コンクリート廃棄物であるのに対し、引用発明2では、珪酸カルシウム等の建築廃材であって、コンクリート廃棄物であるかどうかは不明である点 (相違点7) 脱リン材が、本願発明では、セメント混和部が粉砕されたコンクリート廃棄物を粒径1mm以下に分級することにより骨材の含有量を低下させて形成されるのに対し、引用発明2では、平均粒径を0.5mm?15mmの大きさの粒子を選別しているものの、粒子の選別によって建築廃材の骨材の含有量を低下させているかどうか不明な点。 (4)ここで、相違点について検討する。 相違点7は、相違点6に係る本願発明の構成である廃棄物がコンクリート廃棄物であることを前提としたものなので、相違点6、7をまとめて検討する。 刊行物5には、「比較例2として、ALC(軽量起泡コンクリート)を粉砕し、平均2mmの粒径の粉砕物を使用した。」と記載され、一応、珪酸カルシウム等の建築廃材として、コンクリート廃棄物を用いることは示唆されているということができる。 しかしながら、ALC(軽量起泡コンクリート)を使用した上記比較例2においては、平均粒径2mmの粉砕物を使用しており、本願発明1のように、粉砕物から粒径1mm以下の粒子を選別しているものではない。 また、上述したように刊行物1?3、6には、粉砕されたコンクリート廃棄物を粒径1mm以下に分級することにより骨材の含有量を低下させることについては、記載も示唆もない。 そして、刊行物4については、上述したように、コンクリート構築物の解体粉砕物から粗骨材を取り除いた粉砕物を脱リン材に混入していて、該粉砕物は骨材の含有量が低下したものだとしても、該粉砕物のまま脱リン材に用いているものではなく、該粉砕物は、リンを除去するためではなくpH値を低下させるために用いられているものであり、しかも、粗骨材を取り除くために粉砕物から粒径1mm以下の粒子を分級しているものでもないことから、刊行物4の記載を根拠に、粉砕されたコンクリート廃棄物を粒径1mm以下に分級することにより骨材の含有量を低下させることを、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。 また、セメント混和部が粉砕されたコンクリート廃棄物を脱リン材として形成するに当たり、粒径1mm以下に分級することにより骨材の含有量を低下させることが技術常識ないしは周知技術であるという根拠は見出せない。 そして、引用発明2では、平均粒径を0.5mm?15mmの大きさの粒子を選別しているものの、仮に平均粒径が0.5mmの大きさの粒子を選別したとしても、粒径1mmを超える粒子が含まれる場合があることは、当業者によって容易に予測し得ることである。 これに対し、本願発明1は、「通常、コンクリート廃材には、重量の7割程度の骨材が含まれており、この骨材はリン含有廃水の脱リン処理の反応には全く関与せず、骨材が含有することにより脱リン材の反応効率を悪化させてしまう」、「骨材には粗骨材と細骨材とが含まれ、一般的に、粗骨材は粒径が5mm以上、細骨材は粒径が5mm以下と規定される」、「セメント混和物部分は、骨材と比較して機械的性質が劣る」という知見に基づき、「コンクリート廃材のセメント混和部を粉砕し、この粉砕されたコンクリート廃材を粒径1mm以下に分級する」ことにより、「骨材とセメント水和物部の微粉末とを分離し易く、骨材の含有量が抑制され、脱リン処理に必要なカルシウムイオンおよび水酸化物イオンを含むセメント水和物部の微粉末を脱リン材として用いることができる」(【0022】)という顕著な作用効果を奏するものである。 そうすると、粒径1mm以下に分級することにより骨材の含有量を抑制しようとすることについて、記載も示唆もない刊行物5に記載された引用発明2に基いて、本願発明1を当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 なお、刊行物5には、「平均粒径が1mm未満のときは、脱リン材が外部に流出する、もしくは脱リン材充填時に充填層が閉塞することにより非処理液の流速が上がらない現象が起こるため使用し難い」(【0015】)と記載されている。 そして、仮に、粉砕物の粒径1mm以下の粒子を選別すると、選別された粒子の平均粒径は1mm以下になることは明らかである。 そうすると、引用発明2において、粉砕物から粒径1mm以下の粒子を選別した脱リン材とすることには、阻害要因があるということができる。 4.本願発明2について 本願発明2は、本願発明1を引用し、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様な理由から、刊行物1?6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 5.当審拒絶理由について 請求項1に記載された「脱リン材」について、「コンクリート廃棄物から骨材をリサイクルする際に発生する廃セメント微粉末にて形成され」た点が明確になり、当審拒絶理由は解消した。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1、2は、刊行物1?6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2013-12-17 |
出願番号 | 特願2008-208758(P2008-208758) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C02F)
P 1 8・ 537- WY (C02F) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 富永 正史 |
特許庁審判長 |
川端 修 |
特許庁審判官 |
吉水 純子 中澤 登 |
発明の名称 | 脱リン材および脱リン装置 |
代理人 | 山田 哲也 |
代理人 | 樺澤 聡 |
代理人 | 樺澤 聡 |
代理人 | 樺澤 襄 |
代理人 | 山田 哲也 |
代理人 | 樺澤 聡 |
代理人 | 山田 哲也 |
代理人 | 樺澤 襄 |
代理人 | 樺澤 襄 |
代理人 | 樺澤 襄 |
代理人 | 山田 哲也 |
代理人 | 樺澤 聡 |
代理人 | 樺澤 聡 |
代理人 | 山田 哲也 |
代理人 | 樺澤 襄 |