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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1282793
審判番号 不服2012-11579  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-21 
確定日 2013-12-11 
事件の表示 特願2007- 12927「高密度磁気記録用スライダ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 9日出願公開、特開2007-200534〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年1月23日(パリ条約による優先権主張2006年1月26日、米国)の出願であって、平成23年6月21日付けで拒絶理由が通知され、同年12月27日付けで手続補正がされたが、平成24年2月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月21日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がされ、同年11月29日付けで審尋がなされ、平成25年5月30日に回答書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年6月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は補正前の平成23年12月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された

「スライダであって、
0.85ミリメートルの長さ、0.5ミリメートル以上かつ0.7ミリメートル未満の幅及び0.18ミリメートルの厚さを有する胴体、および
前記スライダを動作中のデータ記憶媒体上で滑空することを可能にする空気軸受表面、からなるスライダ。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、

「スライダであって、
0.85ミリメートルの長さ、0.5ミリメートルの幅及び0.18ミリメートルの厚さを有する胴体、
前記スライダを動作中のデータ記憶媒体上で滑空することを可能にする空気軸受表面、
前記空気軸受表面の先端部分に置かれ、前記空気軸受表面で延びるU字形状のレール、
前記空気軸受表面の末端部分に置かれ、前記空気軸受表面で延びるメイン圧縮パッド、および
前記メイン圧縮パッドをまたぎ、中心から離れた2つの圧縮パッド、
からなるスライダ。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された、「胴体の幅」に関し、「0.5ミリメートル」と限定し、「スライダ」に関し、「前記空気軸受表面の先端部分に置かれ、前記空気軸受表面で延びるU字形状のレール、前記空気軸受表面の末端部分に置かれ、前記空気軸受表面で延びるメイン圧縮パッド、および前記メイン圧縮パッドをまたぎ、中心から離れた2つの圧縮パッド」を付加して限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(新規事項)及び同改正前の特許法第17条の2第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で補正後の発明として認定したとおりである。

(2)引用発明
原審の拒絶理由に引用された特開2005-302262号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0mm以下の幅と0.85mmより長い長さを有する本体と、スライダを可動のデータ記憶媒体上で滑空させるエアベアリング面と、
を有することを特徴とするスライダ。
【請求項2】
前記本体の厚さが0.23mm以下である請求項1に記載のスライダ。
【請求項3】
前記本体の長さが1.235mmであり、かつ前記本体の幅が0.7mmである請求項1に記載のスライダ。
【請求項4】
前記本体の長さが3.0mm以下である請求項1に記載のスライダ。
【請求項5】
エアベアリング面の先端に近接して配置されるエアベアリング面から伸びるU字型レールをさらに有する請求項1に記載のスライダ。
【請求項6】
前記U字型レールは高さが異なる二つの面を有し、各面が前記エアベアリング面に平行である請求項5に記載のスライダ。
【請求項7】
前記エアベアリング面の先端に近接して配置されるエアベアリング面から伸びる主圧縮パッドをさらに有する請求項1に記載のスライダ。
【請求項8】
前記主圧縮パッドは高さが異なる二つの面を有し、各面が前記エアベアリング面に平行であり、さらに前記主圧縮パッドにまたがる二つの外側圧縮パッドを有し、各圧縮パッドは主圧縮パッドの面の一つと同一高さにある請求項7に記載のスライダ。」(2頁)

ロ.「【技術分野】
【0001】
本発明はヘッド・ジンバル・アセンブリのスライダの形状および大きさに係わる高密度磁気記録用スライダ、磁気ハードディスクドライブおよびそのスライダの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブは一般的な情報記憶装置であり、基本的には、磁気読み出し/書き込み素子によりアクセスされる一連の回転ディスクからなる。これらのデータ転送素子は一般には変換器(transducer)として知られ、通常は、ディスク上に離散したデータトラックにわたって近接した相対位置に保持されて読み出しまたは書き込み動作を行うスライダ体に埋込まれ、スライダ体によって運ばれる。変換器をディスク表面に対して適切に位置を合わせるために、スライダ体に形成されたエアベアリング面(ABS)に流動的な気流がおこり、その気流が十分な揚力を生み、スライダと変換器をディスクデータトラックの上に浮上させる。磁気ディスクが高速で回転すると、表面に沿ってディスクの接線速度に実質的に平行した方向に気流が流れる。気流がスライダのABSと協働して、回転するディスクの上にスライダを浮上させることができる。実際には、浮遊しているスライダは自己作動エアベアリングを通じてディスク表面から物理的に離れている。
【0003】
ABS設計の主な目的は、スライダと、スライダに付随する変換器を回転ディスクの表面にできるだけ近づけて浮上させ、浮上状態が変動しても、一定の接近距離を一律に維持することにある。エアベアリングスライダと回転する磁気ディスクとの間の高さまたは間隔は、通常浮上高さとして定義される。一般的に、取り付けられた変換器や読み出し/書き込み素子は、回転ディスクの表面からわずか約数ナノメーターの上部に浮上している。スライダの浮遊高さは、取付けられた読み出し/書き込み素子の磁気ディスク読み出しおよび記録容量に影響するもっとも重大なパラメータのひとつとして見られている。相対的に浮遊高さが小さいと、変換器のディスク表面上の別個のデータビット位置間の分解能を高くすることができ、データ密度と記憶容量を大きくするよう改善できる。相対的には小さくても高性能なディスクドライブが用いられる軽量でコンパクトなノート型コンピュータの人気が高まるにつれ、徐々に浮上高さを低くする必要性が絶えず高まっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1に示すように、一般的なカタマランスライダ5は、ディスクに面したスライダ面の外端に沿って伸びる一対の平行したレール2、4により形成される。種々の表面領域と幾何学的形状を有する3つ以上のレールを含む他のABSの形状も開発されている。通常、2つのレール2、4は、先端6から後端8までのスライダ体長さの少なくとも一部に沿って延びる。先端6は後端8に向かって延びるスライダ5の長さ分を回転ディスクが最初に通過するスライダの端部として定義される。図示のごとく、先端6は、この機械加工に通常付随する望ましくない大きな公差にもかかわらずテーパが付けられている。変換器または磁気ヘッド7は通常、図1に示すように、スライダの後端8に沿ったどこかに取り付けられる。レール2、4は、ABS面を形成し、スライダはその上を浮上して、ディスク回転により生ずる気流と接触して必要な揚力を提供する。ディスクが回転すると、発生した風または気流はカタマランスライダレール2、4の下方およびこれらレールの合間に流れる。レール2、4の下方に気流が通ると、レールとディスクとの間に空気圧が増加し、正圧と揚力が生まれる。カタマランスライダは一般に十分な揚力または正負荷圧を生み出し、回転するディスクの上方に適度な高さでスライダを浮上させる。レール2、4がないと、スライダ体5の大きな表面積は過剰に大きなABS面の領域を作り出し得る。一般に、ABS面の領域が増えると、生ずる揚力の量も増える。レールがないと、スライダは回転ディスクから離れすぎる程浮上してしまい、前述した浮遊高さが低いことによる利点を失う。
【0005】
図2に示すように、ヘッド・ジンバル・アセンブリ(HGA)40はスライダに、スライダの浮遊高を表す垂直間隔、ピッチ角、ロール角等に多自由度をもたらす。図2に示すように、サスペンション74はHGA40を、矢印80が示す方向に回転する(縁部70を持つ)回転ディスク76の上部に保持している。図2に示すように、ディスクドライブの動作において、アクチュエータ72(例えば、ボイスコイルモータ(VCM))が、弧75を越えて、ディスク76の様々な直径(例えば、内径(ID)、中径(MD)、外径(OD))にわたってHGAを動かす。
【課題を解決するための手段】
【0006】
スライダの大きさを小さくすることにより、浮上高さを低い製作コストでより低くできる。スライダの大きさを小さくするほどABS面の領域も小さくなり、浮上高さを下げる。スライダの大きさがより小さくなるということは、一枚のウエハでより多くのスライダが生産できるということを意味する。スライダのひとつの形としては、長さ1mmから3.0mm、幅1mmから2.5mm、厚さ0.65mmより小のものがある。図3の(a)は、現在の業界標準である「ピコ」(PICO)スライダの大きさを示している。ピコスライダの長さ310は1.25mm、幅320は1mm、厚さ(図示せず)は0.3mmである。近年、国際ディスクドライブ機器材料協会(IDEMA)は、図3の(b)に示すように「フェムト」(FEMTO)スライダを規格化した。フェムトスライダは長さ330が0.85mm、幅340が0.7mm、厚さ(図示せず)が0.23mmである。新しいフェムトスライダ規格によって、一枚のウエハからより多くのスライダが作られるようになった。しかし、小さなスライダは、外側の力に対抗するための必要なエアベアリング剛性を譲歩しており、それゆえ浮上高さの最小の変動を維持することが難しくなる。また、フェムトスライダのABS面の領域を小さくすることは、生産の許容値や環境条件などから生ずる外部の力にエアベアリングが対抗するには剛性がより小さくなることを意味する。」(3?4頁)

ハ.「【0009】
改良されたスライダの設計を示す。スライダの幅が1.0mmより小さくなる一方、スライダの長さは0.85mmより大きくなっている。スライダの厚さは0.23mmになり得る。スライダのABS面は二段のU字型レールを先端に有する。二段の主圧縮パッドが二枚の外側の圧縮パッドでまたがった状態でABS面の後端から伸びている。
【0010】
図4は本発明によるスライダの一実施例を示す。スライダの長さ410は3.0mm、幅420は1.0mm以下、厚さ(図示せず)は0.23mm以下である。本実施例において、スライダの長さは標準的なフェムトスライダの最大長(0.85mm)よりも長くなっている。一実施例におけるスライダは、長さ410が1.235mm、幅420が0.7mm、厚さ(図示せず)が0.23mmで、ピコスライダの長さでフェムトスライダを形成している。長さ410がより長くなると、ABS面430も大きくなり、安定性が増す。一実施例では、ABS面の長さ410は0.85mmから1.25mmの間である。
【0011】
一実施例では、様々な特徴がABS面430に追加され、ハードディスク表面上を「浮上」させ、ABS面430の能力を向上させている。U字型レール440は、ABS面430上で、スライダの先端から伸び得る。U字型レール440は2段になっており、第一の表面442と、第一の表面442とは異なる段に第二の表面444とを持っている。主たる圧縮パッド450はABS面430上でスライダの後端から伸び得る。主圧縮パッド450は二段になっており、第一の表面452と、第一の表面452とは異なる高さ(レベル)の第二の面454とを持つ。二つの外側の圧縮パッド460が主圧縮パッド450にまたがっていてもよい。外側の圧縮パッド460は主圧縮パッド450の第二の面454と同じ高さ(レベル)にある。上記のようなABS面の設計は一例であり、いかなるABS面の設計も用いることができる。
【0012】
スライダと回転ディスクとの間に形成されたエアベアリングは非常に堅いバネに似ているとみなされる。エアベアリングの堅さは、ABS面の設計、ABS面の領域、雰囲気の条件、浮上高さ、および他の要因の関数となる。製造許容誤差によって生ずる外部の力を相殺することがABS面設計における重要な目標である。読み出し/書き込み素子は、スライダ体の中心線に沿って後端に位置しているため、外側のピッチトルクは、許容しうる浮遊高さの公差に多大な影響力を持つ。ピッチトルクの主な二つの原因は、スライダの整列性と浮上ピッチ静的姿勢(PSA)の公差である。フェムトスライダは長さが短いために、浮上高さがピッチトルクの変化に対して特に弱い。本実施例のスライダの長さは外部ピッチ回転力に対抗するためのさらなる影響力を提供し、浮上高さが低い高さの変形例のものとなる。図5は、本発明のスライダに対するピコスライダの剛性を百分率で表したエアベアリングの剛性マトリクスと、フェムトスライダに対するピコスライダの剛性を百分率で表したエアベアリング剛性マトリクスを表形式で比較したものである。図5の(a)は、本発明のスライダのピッチ剛性とピコスライダのピッチ剛性との比較表である。図5の(b)はフェムトスライダのピッチ剛性とピコスライダのピッチ剛性との比較表である。」(5頁)

上記引用例の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記イ.の【請求項1】における「1.0mm以下の幅と0.85mmより長い長さを有する本体と、スライダを可動のデータ記憶媒体上で滑空させるエアベアリング面とを有することを特徴とするスライダ。」との記載、同イ.の【請求項2】における「前記本体の厚さが0.23mm以下である請求項1に記載のスライダ。」との記載、及び図4によれば、スライダは、0.85mmより長い長さ、1.0mm以下の幅及び0.23mm以下の厚さを有する本体と、スライダを可動のデータ記憶媒体上で滑空させるエアベアリング面とを有している。
また、上記ハ.の【0011】における「U字型レール440は、ABS面430上で、スライダの先端から伸び得る。U字型レール440は2段になっており、第一の表面442と、第一の表面442とは異なる段に第二の表面444とを持っている。主たる圧縮パッド450はABS面430上でスライダの後端から伸び得る。」との記載、及び図4によれば、スライダは、ABS面(430)の先端に配置され、ABS面(430)で伸びるU字型レールと、ABS面(430)の後端に置かれ、ABS面(430)で伸びる主圧縮パッド(450)とを有している。ここで、同ハ.の【0011】における「主圧縮パッド450は二段になっており、第一の表面452と、第一の表面452とは異なる高さ(レベル)の第二の面454とを持つ。二つの外側の圧縮パッド460が主圧縮パッド450にまたがっていてもよい。」との記載、及び図4によれば、スライダは、主圧縮パッド(450)をまたぎ、外側の二つの圧縮パッド(460)を有している。
ここで、前述のエアベアリング面は、ABS(air bearing surface)面(430)である。

したがって、上記引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「スライダであって、
0.85mmより長い長さ、1.0mm以下の幅及び0.23mm以下の厚さを有する本体、
前記スライダを可動のデータ記憶媒体上で滑空させるABS面(430)、 前記ABS面(430)の先端に配置され、前記ABS面(430)で伸びるU字型レール、
前記ABS面(430)の後端に置かれ、前記ABS面(430)で伸びる主圧縮パッド(450)、および
前記主圧縮パッド(450)をまたぎ、外側の二つの圧縮パッド(460)、からなるスライダ。」

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「0.85mmより長い長さ」と、補正後の発明の「0.85ミリメートルの長さ」とは、いずれも、「特定の長さ」という点で一致する。
b.引用発明の「1.0mm以下の幅」と、補正後の発明の「0.5ミリメートルの幅」とは、いずれも、「特定の幅」という点で一致する。
c.引用発明の「0.23mm以下の厚さ」と、補正後の発明の「0.18ミリメートルの厚さ」とは、いずれも、「特定の厚さ」という点で一致する。
d.引用発明の「本体」、「ABS面(430)」、「U字型レール」及び「主圧縮パッド(450)」は、補正後の発明の「胴体」、「空気軸受表面」、「U字形状のレール」及び「メイン圧縮パッド」にそれぞれ相当する。
e.引用発明の「可動のデータ記憶媒体」は、データ記録媒体が可動した動作状態であるから、「動作中のデータ記録媒体」ということができる。
f.引用発明の「外側の二つの圧縮パッド(460)」は、図4によれば、本体(胴体)の中心から離れているから、「中心から離れた2つの圧縮パッド」ということができる。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「スライダであって、
特定の長さ、特定の幅及び特定の厚さを有する胴体、
前記スライダを動作中のデータ記憶媒体上で滑空することを可能にする空気軸受表面、
前記空気軸受表面の先端部分に置かれ、前記空気軸受表面で延びるU字形状のレール、
前記空気軸受表面の末端部分に置かれ、前記空気軸受表面で延びるメイン圧縮パッド、および
前記メイン圧縮パッドをまたぎ、中心から離れた2つの圧縮パッド、
からなるスライダ。」

(相違点1)
「特定の長さ」に関し、
補正後の発明は、「0.85ミリメートル」であるのに対し、引用発明は、「0.85mmより長い」点。

(相違点2)
「特定の幅」に関し、
補正後の発明は、「0.5ミリメートル」であるのに対し、引用発明は、「1.0mm以下」である点。

(相違点3)
「特定の厚さ」に関し、
補正後の発明は、「0.18ミリメートル」であるのに対し、引用発明は、「0.23mm以下」である点。

そこで、まず、上記相違点1について検討する。
上記引用例の上記ロ.の【0006】における「スライダの大きさを小さくすることにより、浮上高さを低い製作コストでより低くできる。スライダの大きさを小さくするほどABS面の領域も小さくなり、浮上高さを下げる。」との記載によれば、スライダの大きさを小さくすることは、スライダの技術分野では普通に知られていることである。
そうすると、引用発明は、「0.85mmより長い」ところ、数値の下限は、ほぼ0.85ミリメートルであり、明細書の記載を参酌しても、0.85ミリメートルにすることに臨界的意義は見いだせないから、数値を「0.85ミリメートル」と定めることは当業者が適宜なし得ることである。
したがって、補正後の発明のように「0.85ミリメートル」とすることは格別なことではない。

次に、上記相違点2について検討する。
上記引用例の上記ロ.の【0006】における「スライダの大きさを小さくすることにより、浮上高さを低い製作コストでより低くできる。スライダの大きさを小さくするほどABS面の領域も小さくなり、浮上高さを下げる。」との記載によれば、スライダの大きさを小さくすることは、スライダの技術分野では普通に知られていることである。
そうすると、引用発明は、「1.0mm以下」であるところ、明細書の記載を参酌しても、0.5ミリメートルにすることに臨界的意義は見いだせないから、数値を「0.5ミリメートル」と定めることは当業者が適宜なし得ることである。
したがって、補正後の発明のように「0.5ミリメートル」とすることは格別なことではない。

次に、上記相違点3について検討する。
上記引用例の上記ロ.の【0006】における「スライダの大きさを小さくすることにより、浮上高さを低い製作コストでより低くできる。スライダの大きさを小さくするほどABS面の領域も小さくなり、浮上高さを下げる。」との記載によれば、スライダの大きさを小さくすることは、スライダの技術分野では普通に知られていることである。
そうすると、引用発明は、「0.23mm以下」であるところ、明細書の記載を参酌しても、0.18ミリメートルとすることに臨界的意義は見いだせないから、数値を「0.18ミリメートル」と定めることは当業者が適宜なし得ることである。
したがって、補正後の発明のように「0.18ミリメートル」とすることは格別なことではない。

そして、補正後の発明の作用効果も、引用発明から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

以上のとおり、補正後の発明は引用発明に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成24年6月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2 補正却下の決定 1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から当該本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2013-07-09 
結審通知日 2013-07-16 
審決日 2013-07-30 
出願番号 特願2007-12927(P2007-12927)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡部 博樹井上 和俊中野 和彦  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 関谷 隆一
萩原 義則
発明の名称 高密度磁気記録用スライダ  
代理人 鶴田 準一  
代理人 青木 篤  
代理人 河合 章  
代理人 中村 健一  
代理人 南山 知広  

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