• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C09J
管理番号 1282893
審判番号 不服2013-4944  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-14 
確定日 2014-01-14 
事件の表示 特願2012- 93305「太陽電池封止シート及び太陽電池封止シートの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 1日出願公開、特開2012-211319、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年9月16日(優先権主張 平成22年10月6日及び平成23年3月18日)を国際出願日とする特許出願(特願2011-539826号)の一部を平成24年4月16日に新たな特許出願としたものであって、平成24年7月27日付けで拒絶理由が通知され、同年9月12日に意見書の提出がなされ、同年12月11日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年3月14日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、「本願発明1?4」という。)は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
フッ素系樹脂シート上に、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂からなる接着剤層を有する太陽電池封止シートであって、
前記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、α-オレフィン含有量が1?25重量%であるα-オレフィン-エチレン共重合体が無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂であり、かつ、無水マレイン酸の総含有量が0.1?3重量%であり、
更に下記一般式(I)で示されるシラン化合物を、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂100重量部に対して0.05?5重量部含有する
ことを特徴とする太陽電池封止シート。
【化1】

式中、R^(1)は、3-グリシドキシプロピル基又は2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基を示し、R^(2)は、炭素数が1?3であるアルキル基を示し、R^(3)は、炭素数が1?3であるアルキル基を示し、且つ、nは0又は1である。
【請求項2】
α-オレフィンは、1-ブテン、1-ヘキセン又は1-オクテンである請求項1記載の太陽電池封止シート。
【請求項3】
フッ素系樹脂シートは、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、エチレンクロロトリフルオロエチレン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、テトラフロオロエチレン-パーフロオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリビニルフルオライド樹脂、テトラフロオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び、ポリフッ化ビニリデンとポリメタクリル酸メチルとの混合物からなる群より選択される少なくとも一種のフッ素系樹脂からなる請求項1又は2記載の太陽電池封止シート。
【請求項4】
α-オレフィン含有量が1?25重量%であるα-オレフィン-エチレン共重合体が無水マレイン酸でグラフト変性され、かつ、無水マレイン酸の総含有量が0.1?3重量%である無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂100重量部と、下記一般式(I)で示されるシラン化合物0.05?5重量部とを押出機に供給して溶融、混練し、前記押出機からシート状に押し出して接着剤層を形成する工程と、前記接着剤層をフッ素系樹脂シートと積層一体化する工程とを有することを特徴とする太陽電池封止シートの製造方法。
【化2】

式中、R^(1)は、3-グリシドキシプロピル基又は2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基を示し、R^(2)は、炭素数が1?3であるアルキル基を示し、R^(3)は、炭素数が1?3であるアルキル基を示し、且つ、nは0又は1である。」

第3 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,要するに,
「本願の請求項1?4に係る発明は引用例1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない」というものであって,原査定の備考欄には,次の記載がなされている。
「引用例1(国際公開第2004/055908号)には,例えば,実施例16において,エチレンに1-ブテンを8重量%で共重合させたポリエチレン100重量部に無水マレイン酸2重量部をグラフト重合させた充填材シートと,ETFEからなる表面保護シートと,配置させた太陽電池素子と,を有する太陽電池モジュールの製造方法が開示されている。
そして,引用例1には,無水マレイン酸をグラフト変性させたオレフィン系樹脂からなる充填材シートにシラン化合物を含有させたものは,実施例としては,開示されていないと思われるものの,オレフィン系樹脂からなる充填材シートにシラン化合物を含有させることは周知であり(例えば,引用例1の実施例1),また,無水マレイン酸を含む充填材シートにもエポキシ基を有するシラン化合物を含有させてもよいことは,例えば,特開2001-77390号公報(以下,「引用例2」)(例えば,[0075])に記載されているとおりである。」

第4 当審の判断
1.引用刊行物及びその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の最初の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2004/055908号(以下,「刊行物A」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。


「また、上記の太陽電池モジュールを構成する充填材シートとしては、表面保護シートあるいは裏面保護シートとの接着性を有することは勿論であるが、更に、光起電力素子としての太陽電池素子の表裏両面の平滑性を保持する機能を果たすために熱可塑性を有すること、更には、光起電力素子としての太陽電池素子の保護ということから、強度、耐久性等に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐光性、耐水性、耐風圧性、耐降雹性等の諸特性に優れ、更にまた、耐スクラッチ性、衝撃吸収性等に優れていることが必要であるとされているものである。」(2頁3?9行)


「また、太陽電池素子の表面側と裏面側に積層する充填材シートとして、無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物による樹脂膜からなる充填剤シートを用いることにより、α-オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体またはその変性ないし縮合体と、耐光剤、紫外線吸収剤、および熱安定剤からなる群から選択された1種ないし2種以上とを含む樹脂組成物による樹脂膜を用いた場合と同様の効果が得られるだけでなく、さらに、表面保護シートや裏面保護シートとの接着安定性に優れることを見出して本発明を完成させるに至った。」(4頁17?24行)


「本発明にかかる太陽電池モジュール10は、図1に示すように、表面保護シート1、充填材シート2、光起電力素子としての太陽電池素子3、充填材シート4、および、裏面保護シート5を順次に積層し、次いで、これらを真空吸引して加熱圧着するラミネーション法等の通常の成形法を用いて、上記の各層を一体化成形体とした構成からなることを基本構造とするものである。」(20頁20?24行)


「特に、本発明においては,上記のような各種の樹脂のフィルムないしシートのなかでも、ポリフッ化ビニル系樹脂(PVF)、または、テトラフルオロエチレンとエチレンまたはプロピレンとのコポリマー(ETFE)からなるフッ素系樹脂シート、あるいは、特に、シクロペンタジエンおよびその誘導体、ジシクロペンタジエンおよびその誘導体、または、ノルボルナジエンおよびその誘導体等の環状ジエンのポリマーないしコポリマーからなる環状ポリオレフィン系樹脂シートを使用することが好ましいものである。」(22頁3?9行)


「5.太陽電池モジュールの製造方法
次に、本発明において、前述の本発明にかかる太陽電池モジュールを製造する方法について説明する。このような製造方法の一例を示すと、一般に用いられる方法、例えば、表面保護シート、本発明にかかる充填剤シート、光起電力素子としての太陽電池素子、本発明にかかる充填剤シート、および、裏面保護シート等を対向させて、順次に積層し、更に、必要ならば、各層間に、その他の素材を任意に積層し、次いで、これらを、真空吸引等により一体化して加熱圧着するラミネーション法等の通常の成形法を利用し、上記の各層を一体成形体として加熱圧着成形して、本発明にかかる太陽電池モジュールを製造する方法を挙げることができる。なお、上記方法においては、表面保護シートと充填材シートとが、予め積層され、一体化しているものや、裏面保護シートと充填材シートとが、予め積層され、一体化しているものを用いることもできる。」(29頁17?28行)


「実施例1
(1)充填材シート(A)の製造
直鎖状低密度ポリエチレン100重量部に、ビニルトリメトキシシラン3重量部、および、遊離ラジカル発生剤(t-ブチル-パーオキシイソブチレート)0.1重量部を混合し、押出温度200℃でグラフト重合させてシラン変性したシラン変性率2%のシラン変性直鎖状低密度ポリエチレン85重量部に対し、ヒンダードアミン系光安定剤2.5重量部、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤7.5重量部、リン系熱安定剤5重量部を混合して溶融・加工し、マスターバッチとした。」(31頁7?14行)


「実施例16
(1)充填材シート(B)の製造
エチレンに1-ブテンを8重量%の比率で共重合させて合成した直鎖状低密度ポリエチレン100重量部と,無水マレイン酸2重量部と、遊離ラジカル発生剤(t-ブチル-パーオキシベンゾエート)3重量部を混合し、押出温度200℃でグラフト重合させて無水マレイン酸変性した無水マレイン酸変性率0.08%の直鎖状低密度ポリエチレン85重量部に対し、ヒンダードアミン系光安定剤2.5重量部,ベンゾフェノン系紫外線吸収剤7.5重量部、リン系熱安定剤5重量部を混合して溶融・加工し、マスターバッチとした。
なお、上記の無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレンのゲルパーミエーションクロマトグラフィ法(GPC法)により求めた重量平均分子量は,33,700であった。また,重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は,1.01であった。
上記の無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン100重量部に対し、上記のマスターバッチ5重量部を加え,25mmφ押出機、300mm幅のTダイスを有する成形機を使用し、樹脂温度230℃,引き取り速度3m/分で厚さ400μmのフィルムを成膜化した。
上記の成膜化は支障なく実施することができた。また、上記で得られたフィルムは,外観及び全光線透過率が良好であった。
剥離強度に関しては、温度85℃湿度85%の高温多湿状態にて1000時間放置した後でも、容易に剥離することなく良好な状態であった。
(2)太陽電池モジュールの製造
上記で製造したフィルムを充填材シートとして使用し、表面保護シートとして、厚さ50μmの大気圧プラズマ処理を施したETFE、厚さ400μmの上記で製造したフィルム,アモルファスシリコンからなる太陽電池素子を並列に配置した厚さ50μmのポリイミドフィルム、厚さ400μmの上記で製造したフィルム、および、裏面保護シートとして、鉄鋼の上に亜鉛とアルミニウムの合金を被覆したガルバリウム鋼鈑に、ポリエステル系塗膜を塗装した厚さ500μmのカラー鋼鈑を積層し、その太陽電池素子面を上に向けて、太陽電池モジュール製造用のラミネーターにて150℃15分間仮圧着後、オーブンにて150℃15分間加熱して、本発明にかかる太陽電池モジュールを製造した。
上記の太陽電池モジュールを、温度85℃湿度85%の高温多湿状態にて1000時間放置した後でも外観に変化は観られず、起電力の低下は5%以内であった。」(41頁7行?42頁11行)


「実施例20
エチレンに1-ブテンを8重量%の比率で共重合させて合成した直鎖低密度ポリエチレン100重量部と、無水マレイン酸40重量部と、遊離ラジカル発生剤(t-ブチルパーオキシベンゾエート)3重量部を混合し、押出温度200℃でグラフト重合させて無水マレイン酸変性した無水マレイン酸変性率0.1%の無水マレイン酸直鎖低密度ポリエチレンを作製した。」(44頁9?14行)


「請求の範囲

3.エチレン性不飽和シラン化合物が、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、およびビニルトリカルボキシシランからなる群から選択された1種ないし2種以上からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の太陽電池モジュール用充填材シート。

5.太陽電池素子の表面側と裏面側に積層する充填材シートとして、無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物による樹脂膜から充填剤シートを構成することを特徴とする太陽電池用充填材シート。

7.前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンが、ポリオレフィンに無水マレイン酸がグラフト共重合されて変性されたものであり、無水マレイン酸変性ポリオレフィン中の無水マレイン酸の含有率が0.001重量%?30重量%の範囲内であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の太陽電池用充填材シート。

15.表面保護シート、充填材シート、太陽電池素子、充填材シートおよび裏面保護シートを順次に積層し、一体化してなる太陽電池モジュールであって、当該充填材シートが、請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の太陽電池モジュール用充填材シートであることを特徴とする太陽電池モジュール。
16.表面保護シートが、ガラス板、フッ素系樹脂シート、環状ポリオレフィン系樹脂シート、ポリカーボネート系樹脂シート、ポリ(メタ)アクリル系樹脂シート、ポリアミド系樹脂シート、または、ポリエステル系樹脂シートからなることを特徴とする請求項15に記載の太陽電池モジュール。

19.表面保護シートと、充填材シートとが、予め、積層し、一体化していることを特徴とする請求項15から請求項18までのいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。」(50頁1行?52頁26行)


図1




(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の最初の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-77390号公報(以下,「刊行物B」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。


【0015】すなわち、光起電力素子の受光面及び/または非受光面が有機高分子樹脂層で封止されている太陽電池モジュールにおいて、前記有機高分子樹脂層のうち少なくとも一層を、エチレン-不飽和脂肪酸エステル-不飽和脂肪酸三元共重合体を主構成成分とする。
【0016】本発明によれば以下の効果が期待できる。
【0017】耐候性・耐熱性・耐湿性に優れた太陽電池モジュールを提供できる。すなわち、封止材の本質的な接着性が向上するので長期間の屋外曝露でも剥離が生じない。また、高温高湿環境下で封止材が分解して酸が遊離することがないので、耐候性が向上し、酸による光起電力素子の腐食もないため長期間にわたり安定した太陽電池性能を維持できる。
【0018】また前記三元共重合体がエチレン-アクリル酸エステル-アクリル酸三元共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル-アクリル酸三元共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-メタクリル酸三元共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル-メタクリル酸三元共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体のいずれかあるいはこれらの混合物であることにより、耐候性・耐熱性・耐湿性においてバランスの取れた封止材となるとともに、透光性にも優れた封止材となり、極めて優れた太陽電池モジュールを提供できる。
【0019】前記三元共重合体の各構成成分の含有量は、エチレン含有量が65?89.9重量%、不飽和脂肪酸エステル含有量が10?30重量%、不飽和脂肪酸含有量が0.1?5.0重量%であることが好ましい。これにより、耐候性・耐熱性・耐湿性を損うことなく、特に優れた接着性をもたせることができる。」


【0075】より厳しい環境下で太陽電池モジュールの使用が想定される場合には封止材と光起電力素子あるいは表面部材との接着力を向上することが好ましい。シランカップリング剤や有機チタネート化合物を封止材に添加することで前記接着力を改善することが可能である。シランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ一アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。


【0100】〔封止材〕封止材302としては、エチレン-アクリル酸メチル-無水マレイン酸三元共重合体(EMM)樹脂ペレット(アクリル酸メチル含有量20wt%、無水マレイン酸含有量3wt%、ビカット軟化点55℃)100重量部に対して、架橋剤として2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン3重量部、シランカップリング剤としてγ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン0.3重量部、紫外線吸収剤として2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン0.3重量部、光安定化剤としてビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート0.1重量部、酸化防止剤としてトリス(モノ-ノニルフェニル)フォスファイト0.2重量部をそれぞれ添加したものを加熱溶融させ、Tダイのスリットから押し出して成形した厚さ400μmのシート状EMM(以下、EMMシート)を用いた。

2.刊行物A記載の発明
ア 刊行物Aの請求の範囲15(摘示ケ)には,
「表面保護シート、充填材シート、太陽電池素子、充填材シートおよび裏面保護シートを順次に積層し、一体化してなる太陽電池モジュールであって、当該充填材シートが、請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の太陽電池モジュール用充填材シートであることを特徴とする太陽電池モジュール。」
と記載されている。
イ 該請求の範囲15でいう『表面保護シート』に関し,同項を引用した請求の範囲16(摘示ケ)に,
「表面保護シートが、…,フッ素系樹脂シート、…、または、…からなることを特徴とする請求項15に記載の太陽電池モジュール。」
と記載され,さらに,実施例16(摘示キ)にも,
「(2)太陽電池モジュールの製造
上記で製造したフィルムを充填材シートとして使用し,表面保護シートとして、厚さ50μmの大気圧プラズマ処理を施したETFE、…を積層し、…、本発明にかかる太陽電池モジュールを製造した。」(ここでいう『ETFE』とは,刊行物Aの摘示エによれば,「テトラフルオロエチレンとエチレンまたはプロピレンとのコポリマー(ETFE)」の意である)」
と記載されていることから,表面保護シートとしてはフッ素系樹脂シートが具体的に示されているといえる。
ウ 前記請求の範囲15の『充填材シート』に関しては,同項において引用する請求の範囲5(摘示ケ)において,
「太陽電池素子の表面側と裏面側に積層する充填材シートとして、無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物による樹脂膜から充填剤シートを構成することを特徴とする太陽電池用充填材シート。」と記載され,さらに,該請求の範囲5を引用する同7(摘示ケ)において,
「前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンが、ポリオレフィンに無水マレイン酸がグラフト共重合されて変性されたものであり、無水マレイン酸変性ポリオレフィン中の無水マレイン酸の含有率が0.001重量%?30重量%の範囲内であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の太陽電池用充填材シート。」
と記載されていることから,充填材シートとして,「無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物による樹脂膜であって,該無水マレイン酸変性ポリオレフィンが,ポリオレフィンに無水マレイン酸がグラフト共重合されて変性されたものであり,無水マレイン酸変性ポリオレフィン中の無水マレイン酸の含有率が0.001重量%?30重量%の範囲内である」充填材シートが記載されているものといえる。
エ 前記請求の範囲15を引用する同19(摘示ケ)には,
「表面保護シートと、充填材シートとが、予め、積層し、一体化していることを特徴とする請求項15から請求項18までのいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。」と記載され,また,刊行物Aの摘示オには,
「5.太陽電池モジュールの製造方法
…、上記方法においては、面保護シートと充填材シートとが、予め積層され、一体化しているもの…を用いることもできる。」
とも記載されていることから,刊行物Aには,
『表面保護シートと充填材シートとが予め積層され一体化された積層シートであって,太陽電池モジュールの一部を構成する積層シート』が記載されているといえる。
オ 以上のことから,刊行物Aには次の発明が記載されているものといえる。
『表面保護シートと充填材シートとが予め積層され一体化された積層シートであって,
該表面保護シートはフッ素系樹脂であり,
該充填材シートは無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物による樹脂膜であって,該無水マレイン酸変性ポリオレフィンが,ポリオレフィンに無水マレイン酸がグラフト共重合されて変性されたものであり,無水マレイン酸変性ポリオレフィン中の無水マレイン酸の含有率が0.001重量%?30重量%の範囲内である,
太陽電池モジュールの一部を構成する積層シート』(以下,「引用発明」という。)

3.対比・判断
(1)本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する
ア 対比
(ア)例えば,本願明細書の背景技術に関する記載である段落【0004】における,
「上記太陽電池封止シートは,外部からの衝撃を防止したり,太陽電池素子の腐食を防止したりするためのものである。上記太陽電池封止シートは,透明シート上に接着剤層が形成されたものであり,…」といった記載,及び,同明細書段落【0043】における
「上記太陽電池封止シートは,フッ素系樹脂シート上に上記接着剤層が形成されたものである。
上記フッ素系樹脂シートは,透明性,耐熱性及び難燃性に優れるものであれば,特に限定されないが,…」
といった記載から,本願発明1の太陽電池封止シートの一部を構成するフッ素系樹脂シートは,透明性が求められるほか,外部衝撃の防止や腐敗の防止などの機能が求められており,太陽電池の表面保護の機能を有していると解される。
本願図面における太陽電池封止シートに関する【図1】,すなわち,

及び,太陽電池モジュールに関する【図5】,すなわち,

(両図において,「1」がフッ素系樹脂シートで,「2」が接着剤層,「3」が太陽電池)
と,刊行物Aの太陽電池モジュールに関する図1(摘示コ),すなわち,

(ここで,「1」が表面保護シートで,「2」が充填材シート,「3」が太陽電池(摘示ウ)
とを,物理的な形態面から比較しても,本願発明1のフッ素系樹脂シートは,引用発明の表面保護シートに相当するものといえることは明らかであり,しかも,引用発明においてもその材質はフッ素系樹脂である。
よって,本願発明1のフッ素系樹脂シートは,引用発明のフッ素系樹脂からなる表面保護シートと一致する。
(イ)刊行物Aの摘示アにおける,
「太陽電池モジュールを構成する充填材シートとしては、表面保護シートあるいは裏面保護シートとの接着性を有することは勿論であるが、…」
といった記載や,同摘示イにおける
「太陽電池素子の表面側…に積層する充填材シートとして、無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物による樹脂膜からなる充填剤シートを用いることにより、…、表面保護シート…との接着安定性に優れることを見出して本発明を完成させるに至った。」
なる記載から見て,引用発明の『充填材シート』は,接着剤の働きをするものと解され,しかも,本願発明1の接着剤層と同様な材料が使用されていることから,本願発明1における接着剤層に相当するものといえる。
さらに,引用発明における充填材シートに関し,刊行物Aの実施例20(摘示ク)には,
「エチレンに1-ブテンを8重量%の比率で共重合させて合成した直鎖低密度ポリエチレン100重量部と、無水マレイン酸40重量部と、遊離ラジカル発生剤(t-ブチルパーオキシベンゾエート)3重量部を混合し、押出温度200℃でグラフト重合させて無水マレイン酸変性した無水マレイン酸変性率0.1%の無水マレイン酸直鎖低密度ポリエチレンを作製した。」
と記載されていて、ここでいう「1-ブテンを8重量%の比率で共重合させて合成した直鎖低密度ポリエチレン」というのは,本願発明1にいう,「α-オレフィン含有量が1?25重量%であるα-オレフィン-エチレン共重合体」に相当するといえ,また,同じく,「直鎖低密度ポリエチレン100重量部と、無水マレイン酸40重量部と、…を混合し,…グラフト重合させて無水マレイン酸変性した無水マレイン酸変性率0.1%の無水マレイン酸直鎖低密度ポリエチレンを作製した。」というのは本願発明1でいう,「α-オレフィン-エチレン共重合体が無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂であり,かつ,無水マレイン酸の総含有量が0.1?3重量%であり,」に相当するものと解される。
すなわち,本願発明1において「無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂からなる接着剤層を有する」ことは,引用発明における「該充填材シートは無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物による樹脂膜であって,」に相当することであり,また,
本願発明1における「前記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は,α-オレフィン含有量が1?25重量%であるα-オレフィン-エチレン共重合体が無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂であり,かつ,無水マレイン酸の総含有量が0.1?3重量%であり,」というのは,引用発明における「該無水マレイン酸変性ポリオレフィンが,ポリオレフィンに無水マレイン酸がグラフト共重合されて変性されたものであり,無水マレイン酸変性ポリオレフィン中の無水マレイン酸の含有率が0.001重量%?30重量%の範囲内である,」といえる。
(ウ)上記「ア」及び「イ」に記載したように,本願発明1に係る太陽電池封止シートは,該シートを構成するフッ素樹脂シート及び接着材シートは,それぞれ引用発明の表面保護シート及び充填材シートに相当するものであって,しかも,刊行物Aの,例えば請求の範囲15(摘示ケ)及び図1(摘示コ)に記載されているように,引用発明に係る積層シートは,裏面保護シートなどともに太陽電池の上下両方向から挟み込むように一体化して太陽電池モジュールとするものであるから,『太陽電池封止シート』といい得るものである。
(エ)以上のことから,本願発明1と引用発明との一致点・相違点を整理すると次のようになる。
一致点(本願発明1の表現に即して記載する)
「フッ素系樹脂シート上に,無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂からなる接着剤層を有する太陽電池封止シートであって,
前記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は,α-オレフィン含有量が1?25重量%であるα-オレフィン-エチレン共重合体が無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂であり,かつ,無水マレイン酸の総含有量が0.1?3重量%である,
太陽電池封止シート。」
相違点
本願発明1では,「更に下記一般式(I)で示されるシラン化合物を,無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂100重量部に対して0.05?5重量部含有する


とされているのに対して,引用発明ではそのような成分を含有していない点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)刊行物Aの請求の範囲3(摘示ケ)には,「3.エチレン性不飽和シラン化合物が、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、およびビニルトリカルボキシシランからなる群から選択された1種ないし2種以上からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の太陽電池モジュール用充填材シート」と記載され、さらに,刊行物Aの摘示イには、「太陽電池素子の表面側と裏面側に積層する充填材シートとして、無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物による樹脂膜からなる充填剤シートを用いる」との記載があるものの,本願発明1に係る一般式(I)で示されるシラン化合物についての記載はなく,刊行物Aの実施例1(摘示カ)には,ビニルトリメトキシシランで変性したシラン変性直鎖状低密度ポリエチレンが記載されているのみであって,この共重合体は「無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物」の代わりに充填材シートを構成するものであることから,刊行物Aには,本願発明1に係る一般式(I)で示されるシラン化合物をα-オレフィン-エチレン共重合体を無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂に更に含有させることについての記載はない。
(イ)刊行物Bの摘示サには,「また前記三元共重合体が……、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体……エチレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体のいずれかあるいはこれらの混合物であることにより、耐候性・耐熱性・耐湿性においてバランスの取れた封止材となるとともに、透光性にも優れた封止材となり、極めて優れた太陽電池モジュールを提供できる。」と記載されているが,前記エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元重合体及びエチレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体は無水マレイン酸は主鎖中に取り込まれた構造のものであって,α-オレフィン-エチレン共重合体を無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂である無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂についての記載はない。また刊行物Bの摘示シには,「より厳しい環境下で太陽電池モジュールの使用が想定される場合には封止材と光起電力素子あるいは表面部材との接着力を向上することが好ましい。シランカップリング剤や有機チタネート化合物を封止材に添加することで前記接着力を改善することが可能である。シランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ一アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。」と記載され,前記「γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン」が本願発明1に係る一般式(1)に相当する化合物であるものの,刊行物Bの摘示スを参酌しても、前記「γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン」をα-オレフィン-エチレン共重合体を無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂に含有させることについての記載及び示唆はない。
(ウ)上記(ア)及び(イ)から,刊行物A及びBには,本願発明1に係る一般式(I)で示されるシラン化合物をα-オレフィン-エチレン共重合体を無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂に含有させる点については記載を示唆もされていない。したがって,本願発明1は,引用発明並びに刊行物A及びB記載の事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2及び3について
本願発明2及び3は,本願発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから,上記(1)イで述べたと同様の理由により,引用発明並びに刊行物A及びB記載の事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明4について
ア 本願発明4は,「α-オレフィン含有量が1?25重量%であるα-オレフィン-エチレン共重合体が無水マレイン酸でグラフト変性され,かつ,無水マレイン酸の総含有量が0.1?3重量%である無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂100重量部と,下記一般式(I)で示されるシラン化合物0.05?5重量部とを押出機に供給して溶融,混練し,前記押出機からシート状に押し出して接着剤層を形成する工程…

式中、R^(1)は、3-グリシドキシプロピル基又は2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基を示し、R^(2)は、炭素数が1?3であるアルキル基を示し、R^(3)は、炭素数が1?3であるアルキル基を示し、且つ、nは0又は1である。」を発明特定事項とするものであって,該発明特定事項は本願発明4に係る一般式(I)で示されるシラン化合物をα-オレフィン-エチレン共重合体を無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂に含有させる構成を有するものと認められる。
イ 上記(1)イで述べたとおり,刊行物A及びBには,本願発明4に係る一般式(I)で示されるシラン化合物をα-オレフィン-エチレン共重合体を無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂に含有させる点については記載を示唆もされていないから,上記アに照らし,本願発明4は,引用発明並びに刊行物A及びB記載の事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明1?4は,引用発明並びに刊行物A及びB記載の事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-12-26 
出願番号 特願2012-93305(P2012-93305)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C09J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 濱田 聖司  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 菅野 芳男
松浦 新司
発明の名称 太陽電池封止シート及び太陽電池封止シートの製造方法  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ