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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C09D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C09D
管理番号 1282918
審判番号 不服2013-4286  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-05 
確定日 2014-01-14 
事件の表示 特願2005-379471「建築基体コーティング用塗料の製造におけるVDFベースポリマーの水性分散体の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月20日出願公開、特開2006-188702、請求項の数(18)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成17年12月28日(パリ条約による優先権主張:平成17年1月5日、イタリア)の出願であって、平成20年12月16日に出願審査の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、平成23年10月26日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成24年4月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月30日付けで拒絶査定され、これに対し、平成25年3月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、さらに、当審において、同年4月25日付けで審査官により作成された前置報告書に基づいて、同年7月26日付けで審尋を行ったが、回答書は提出されなかったものである。

第2 平成25年3月5日付けの手続補正の適否

平成25年3月5日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてする補正であって、以下の補正事項からなる。
(i)補正前の請求項1の削除及びそれに伴う請求項番号の繰り上げ
(ii)補正前の請求項2及び請求項16(補正後の請求項1及び請求項15)において、「任意の存在下」を「存在下または非存在下」とする補正
(iii)補正前の請求項9(補正後の請求項8)において、「MおよびXは上記のとおりである」、「Mは上記のとおりである」及び「Mは上記のとおりであり」をそれぞれ「M = NH_(4), アルカリ金属, H;およびX = F, CF_(3)」、「M = NH_(4), アルカリ金属, H」及び「M = NH_(4), アルカリ金属, H」とする補正
(iv)補正前の請求項16(補正後の請求項15)において、「R_(f)は:- 直鎖のまたは分枝したパーフルオロアルキル鎖;または- (パー)フルオロポリエーテル鎖である」を「R_(f)は(パー)フルオロポリエーテル鎖である」とする補正
ここで、補正事項(i)は請求項の削除を目的とするものに該当する。また、補正事項(iii)及び(iv)は、拒絶査定における拒絶の理由に示す事項(第36条第6項第1号及び第2号違反に係る理由3の指摘1及び指摘5)についてする明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって、上記補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものといえる。
ところで、補正事項(ii)は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと解されるものの、拒絶理由通知及び拒絶査定における拒絶の理由に示す事項についてするものではない。しかし、当該補正事項は、軽微な補正であって、発明の技術的事項はこの補正により実質的に変更されるものではないことから、補正の目的(特許法第17条の2第4項)の適合性について問わないこととする。
また、本件補正は特許法第17条の2第3項に違反するものでもない。
以上のとおりであるから、本件補正は特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件に適合するものと判断する。

第3 本願発明

本件補正は、上記のとおり適法な補正であって許容されるべきものであるから、本願の請求項1ないし18に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定される次のとおりものである(以下、請求項1ないし18に係る発明をそれぞれ「本願発明1」などといい、本願発明1ないし18をまとめて「本願発明」ということがある。)。
「 【請求項1】
1以上のフッ素化コモノマーの存在下または非存在下、数平均分子量が650?800の範囲にある式:
A-R_(f)-B (I)
(式中、
A = -O-CFX-COOM;
B = -CFX-COOM;
X = F, CF_(3);
M = NH_(4), アルカリ金属, H;
R_(f)は(パー)フルオロポリエーテル鎖である)
の2官能性界面活性剤の存在下に、ビニリデンフルオライド乳化重合により得られる、0.260?0.3μmの間の平均粒子サイズを有する、ビニリデンフルオライドベースポリマーの水性分散体の、基体コーティング用塗料の製造のための使用。
【請求項2】
R_(f)が、鎖に沿って統計的に分布する次の:
a) -(C_(3)F_(6)O)-;
b) -(CF_(2)CF_(2)O)-;
c) -(CFL_(0)O)- (ここで、L_(0) = -F, -CF_(3));
d) -(CF_(2)(CF_(2))_(z')CF_(2)O)- (ここで、z'は整数1または2である);
e) -(CH_(2)CF_(2)CF_(2)O)-
の1以上から選択される繰り返し単位を含む(パー)フルオロポリエーテル鎖を表わす、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
R_(f)が次の構造:
1) -(CF_(2)O)_(a)-(CF_(2)CF_(2)O)_(b)-
(式中、aおよびbは以下で定義されるとおりである;単位(CF_(2)O)および(CF_(2)CF_(2)O)の両方が存在するとき、b/aは両端を含んで0.3?10の間であり、aは0でない整数であるか;または2つの単位の1つが存在しなくてもよい);
2) -(CF_(2)-(CF_(2))_(z')-CF_(2)O)_(b')-
(式中、z'は1または2の整数であり;b'は以下で定義されるとおりである);
3) -(C_(3)F_(6)O)_(r)-(C_(2)F_(4)O)_(b)-(CFL_(0)O)_(t)-
(式中、r、b、tは以下で定義されるとおりであり;3つの単位が全て存在するとき、r/b= 0.5?2.0、(r+b)/t = 10?30、bおよびtは0でない整数であるか;または3つの単位の1つもしくは2つが存在しなくてもよく;
L_(0)は-Fまたは-CF_(3)である);
5) -(CF_(2)CF_(2)CH_(2)O)_(q')-R'_(f)-O-(CH_(2)CF_(2)CF_(2)O)_(q')-
(式中、R'_(f)は1?4の炭素原子のフルオロアルキレン基であり;
q'は以下の定義のとおりである);
6) -(C_(3)F_(6)O)_(r)-OCF_(2)-R'_(f)-CF_(2)O-(C_(3)F_(6)O)_(r)-
(式中、R'_(f)は上記の定義のとおりであり;
rは以下の定義のとおりである);
上記の式において、-(C_(3)F_(6)O)-は、式:-(CF(CF_(3))CF_(2)O)-および/または-(CF_(2)-CF(CF_(3))O)-の単位を表わすことができ;a、b、b'、q'、r、tは、R_(f)が上記式(I)の界面活性剤の数平均分子量を与えるような数平均分子量値を示すような整数である
の1つを有する、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
(パー)フルオロポリエーテル鎖R_(f)が、単位-(CF_(2)O)_(a)-(CF_(2)CF_(2)O)_(b)- (ここで、aおよびbは、式(I)の界面活性剤の数平均分子量が上記の範囲内にあるような数である)を有する構造1)である、請求項1?3のいずれか1つに記載の使用。
【請求項5】
分散体が、フルオロポリマーに対して0.01?3重量%の範囲の量の式(I)の界面活性剤を含む、請求項1?4のいずれか1つに記載の使用。
【請求項6】
分散体が、式(I)の界面活性剤の混合物を含む、請求項1?5のいずれか1つに記載の使用。
【請求項7】
分散体が、式(I)のものとは異なるその他の界面活性剤を、式(I)の界面活性剤の全量に対して20重量%より多くない量で含む、請求項1?6のいずれか1つに記載の使用。
【請求項8】
式(I)のものとは異なる界面活性剤が、次の:
T(C_(3)F_(6)O)_(n0)(CFXO)_(m0)CF_(2)COOM (II)
(式中、TはClまたはパーフルオロアルコキシド基;C_(k)F_(2k+1)O(ここで、k = 1?3の整数、任意に1つのF原子は1つのCl原子で置き換えられていてもよい)であることができ;
n0は1?6の範囲の整数であり、m0は0?6の整数であり;
M = NH_(4), アルカリ金属, H;および
X = F, CF_(3));
CF_(3)(CF_(2))_(n1)COOM (III)
(式中、n1は4?12の範囲の整数であり;M = NH_(4), アルカリ金属, H);
F-(CF_(2)-CF_(2))_(n2)-CH_(2)-CH_(2)-SO_(3)M (IV)
(式中、M = NH_(4), アルカリ金属, H;n2は2?5の範囲の整数である)
から選択される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
ビニリデンフルオライドベースポリマーが、ポリビニリデンフルオライド、および1以上のフッ素化コモノマーを0.1?10モル%の量で含むビニリデンフルオライドコポリマーから選択される、請求項1?8のいずれか1つに記載の使用。
【請求項10】
ポリマーがポリビニリデンフルオライドホモポリマーである、請求項1?8のいずれか1つに記載の使用。
【請求項11】
水性塗料調製のための、請求項1?10のいずれか1つに記載のビニリデンフルオライドベース水性分散体の使用。
【請求項12】
パウダーコーティング用塗料製造のための、請求項1?10のいずれか1つに記載の使用で用いられる水性分散体から凝固したビニリデンフルオライドベースポリマーの粉末の使用。
【請求項13】
溶剤ベース塗料調製のための、請求項1?10のいずれか1つに記載の使用で用いられる水性分散体から凝固したビニリデンフルオライドベースポリマーの粉末の使用。
【請求項14】
金属基体をコーティングするための、請求項1?13のいずれか1つに記載の使用。
【請求項15】
1以上のフッ素化コモノマーの存在下または非存在下、数平均分子量が650?800の範囲にある式:
A-R_(f)-B (I)
(式中、
A = -O-CFX-COOM;
B = -CFX-COOM;
X = F, CF_(3);
M = NH_(4), アルカリ金属, H;
R_(f)は(パー)フルオロポリエーテル鎖である)
の2官能性界面活性剤の存在下に、ビニリデンフルオライド乳化重合により得られる、0.260?0.3μmの間の平均粒子サイズを有する、ビニリデンフルオライドベースポリマーの水性分散体。
【請求項16】
請求項1?10のいずれか1つに記載の使用で用いられるビニリデンフルオライドベースのポリマー分散体から得られる水性塗料、粉末塗料、溶剤塗料。
【請求項17】
無機顔料、有機顔料、アクリル樹脂を含むフィルム化樹脂、増粘剤から選択される、1以上の添加剤を含む、請求項16に記載の塗料。
【請求項18】
請求項16または17に記載の塗料から得られる表面コーティングを含む建築用の金属基体をベースとした製品。」

第4 原査定の理由の概要

原査定の理由は、平成23年10月26日付け拒絶理由通知書に記載された理由1?3であって、具体的には以下のとおりである。
理由1:
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物A?Cに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2:
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物A?Cに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

A.特開2003-286379号公報
B.特表2003-500495号公報
C.国際公開第03/020836号
理由3:
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第5 当審の判断

当審は、上記原査定の理由の当否について検討した上、他の拒絶理由の存否について再度検討するが、平成24年10月30日付けの拒絶査定書における備考欄、及び、平成25年4月25日付けの前置報告書を斟酌すると、上記原査定の理由1(新規性)及び理由2(進歩性)は、上記刊行物A?Cのうち、特に刊行物Aに依拠するものと解されることから、各刊行物の記載事項等については、刊行物Aについてのみ詳述することとする。

1 原査定の理由1及び理由2について

(1)刊行物Aについて

ア 刊行物Aの記載事項

引用文献Aには、以下の事項が記載されている。
(a-1)「 【特許請求の範囲】
【請求項1】 式:
A-R_(f)-B (I)
[式中、AおよびBは互いに等しいかまたは異なって、
-(O)_(p)CFX-COOM
(ここで、
M = NH_(4)、アルカリ金属、H;
X = F、CF_(3);
pは、0または1に等しい整数である)であり;R_(f)は、(I)の数平均分子量が300ないし1,800、好ましくは500ないし1,600、より好ましくは600ないし1,200となるような直鎖の、または分岐したパーフルオロアルキル鎖または(パー)フルオロポリエーテル鎖である]で表される2官能性のフッ素化界面活性剤を含有し、平均粒径が150?400nm、好ましくは170?280nmの粒子を有するフルオロポリマーの水性分散液。
・・・・・
【請求項3】 式(I)の界面活性剤において、R_(f)、AおよびBが次の意味を有する、請求項1または2に記載の分散液:R_(f)は、統計的に鎖に沿って分配された、次の
a) -(C_(3)F_(6)O)- ;
b) -(CF_(2)CF_(2)O)- ;
c) -(CFL_(0)O)-、(ここで、L_(0) = -F、-CF_(3) );
d) -(CF_(2)(CF_(2))_(z')CF_(2)O)-、(ここで、z’は、整数1または2である);
e) -(CH_(2)CF_(2)CF_(2)O)- ;
の一つ以上から選択される繰り返し単位を含む(パー)フルオロポリエーテル鎖を表す
p=1で、A=-(O)_(p)CFX-COOM;
p=0で、B=-(O)_(p)CFX-COOM。
・・・・・
【請求項6】 フルオロポリマーが次のものにより形成される、請求項1?5のいずれかに記載の分散液:
-- テトラフルオロエチレン(TFE)ホモポリマー、およびエチレン型の不飽和を少なくとも1つ有するモノマーとのそのコポリマー;
-- PFA、MFA、FEPおよびETFEなどのTFEに基づく溶融体からの熱加工性フルオロポリマー;
-- VDFベースのホモポリマーおよびコポリマー;
-- CTFEベースのホモポリマーおよびコポリマー;
-- VDFベースのフルオロエラストマー:
-- TFEおよび/またはパーフルオロアルキルビニルエーテルから選択されるビニルエーテルおよび/またはパーフルオロアルコキシアルキルビニルエーテルを任意に含んでいてもよいVDF/HFP;任意にエチレンおよびプロピレンのような水素化されたオレフィンを含んでいてもよい;
-- TFEに基づく(パー)フルオロエラストマー;
-- パーフルオロアルキルビニルエーテルから選択されるビニルエーテルおよび/またはパーフルオロアルコキシアルキルビニルエーテルとのTFEコポリマー、特にTFE/PMVE、TFE/PEVE、TFE/PPVE;
-- 水素化されたオレフィン、好ましくはエチレンおよび/またはプロピレンとのTFEコポリマー;
-- 5?7の炭素原子を有するジオキゾール環を含有し、特に、(パー)フルオロジオキゾールまたは環化によりジオキゾール環を与えるモノマーとの共重合によって得られる、TFEおよび/またはVDFの非晶質および/または結晶性フルオロポリマー。
・・・・・
【請求項14】 次の工程を含む、請求項1?13のいずれかに記載のフルオロポリマーに基づく分散液の製造方法:
a)式(I)の2官能性界面活性剤の溶液を、重合反応器中の界面活性剤濃度が反応媒体の0.05?20g/l、好ましくは0.1?5g/lとなるように、反応器に供給する工程;
b)任意に、加えられた式(I)の界面活性剤を、式(I)のものとは異なったフッ素化界面活性剤によって部分的に置換する工程、前記任意の界面活性剤は好ましくは式(II)または(IV)から選択される;
c)重合反応器中に反応媒体を供給し、反応器を脱気し、1つ以上のフッ素化モノマーと、任意の連鎖移動剤および安定化剤を反応器に加える工程;
d)重合開始剤を加え、任意に重合中にモノマーおよび/またはコモノマー、重合開始剤、連鎖移動剤をさらに加える工程、
e)フッ素化界面活性剤全体の最終濃度が、フルオロポリマーに対して0.01?3重量%、好ましくは0.05?1重量%となるように、式(I)の界面活性剤を重合中に任意にさらに加える工程;界面活性剤の総量の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは100重量%が式(I)の化合物により形成される;
f)ポリマーラテックスを反応器から排出する工程。
【請求項15】有機および/または無機ポリマーの表面、金属またはセラミックの表面を被覆する、請求項1?13のいずれかに記載の分散液の使用。
・・・・・
【請求項17】請求項1?14のいずれかに記載の分散液で、有機/無機ポリマー、金属またはセラミックの表面を処理することによって得られる製品。」

(a-2)「【0013】
【発明が解決しようとする課題】環境に与える影響が少なくて、優れた光沢をもった繊維含浸に利用できるようなフッ素化ポリマーの分散液、特にPTFEまたは修飾PTFE(以下で述べる)を入手する必要性が感じられていた。本発明者は、環境に与える影響が少なくて、物理的に完全で、ひび割れがなく、光沢に優れた膜を得るための繊維含浸に適したフルオロポリマーラテックスを、意外にも予想に反して見出した。」

(a-3)「【0025】上記のように、本発明のフルオロポリマーの分散液は、環境への影響が低減され、特に急性毒性(以下に定義されるLD50)として表れる界面活性剤の毒性が低減されていることにより特徴づけられる。一般に、前記の分散液は、基材などのコーティング用に、あるいは凝固した後に例えば粉末コーティングとして、あるいは溶融体から加工されて製品を得る熱加工性のポリマーとして使用できる。より具体的には、平均粒径が150?400nm、好ましくは170?280nmであり、環境に与える影響が少ない、TFEホモポリマーまたはコポリマーのラテックス(または分散液)は、繊維の含浸に有利に使用できる。」

(a-4)「【0036】実施例1
数平均分子量750を有する式(I)の界面活性剤を用いたPTFE分散液の取得およびガラス布の含浸
次の式(I):
NH_(4)OOC-CF_(2)O(CF_(2)CF_(2)O)_(n)(CF_(2)O)_(m)CF_(2)-COONH_(4)(ここで、n/m比の平均値は2であり、平均分子量は750(ZDIAC750)である)の界面活性剤の、100g/l濃度を有する水溶液(110ml)を、攪拌機を備え、予め真空にされた50Lのオートクレーブ中の好適に脱気された水(31L)に加える。反応器には、軟化点が52℃?54℃のパラフィン(300g)も予め導入されている。オートクレーブは機械的攪拌下に維持され、TFEで20バールの圧力まで加圧される。内部温度は68℃になる。この時点で、APS(192mg)およびDSAP(3,840mg)に相当する(NH_(4))_(2)S_(2)O_(8)(APS)およびジスクシニックパーオキサイド(DSAP)の溶液(500ml)をオートクレーブに供給する。
【0037】反応器内の圧力が0.5バール降下したとき、反応器内で定圧20バールを維持するように、コンプレッサによりTFEを供給し始める。この間、反応器の内部温度を0.4℃/分の割合で79℃まで上げる。反応中、ZDIAC750の100g/l水溶液(510ml)がオートクレーブ中に供給される。60分後、TFE(15,800g)が反応したとき、TFEの供給を停止し、反応器を減圧、冷却する。ラテックスを排出した後、反応器の内表面は清浄であり、凝固物がない。レーザー光散乱(LLS)によって測定されたポリマーの一次粒子の直径は249nmである。ラテックス中のポリマー含量は、湿った分散液に対して32.1重量%である。一次溶融温度は342.48℃であり、DSCによって決定された結晶化熱は-32.09J/gである。
【0038】熱平衡のパイレックス(登録商標)ガラス反応器内の上記分散液(10kg)に、トリトンX-100の25重量%溶液(2kg)を加える。この混合物を当初は室温で適当にホモゲナイズし、その後、温度を71℃まで上げる。上記の温度で攪拌を停止し、上層の透明な水相と、高い含量のフッ素化ポリマー粒子を有する下層との分離が認められる。下層の組成物は、72.1重量%のフッ素化ポリマーおよび2.1重量%のトリトンX-100である。濃縮された分散液(2,000g)に、ポリマーに対して0.42重量%のZDIAC750、続いてトリトンX-100、水およびアンモニアを、最終分散液がその分散液の重量に対して60重量%のPTFEと3.5%のトリトンX-100を含み、pHが約9となるように加える。上記の試料は、6連続工程を用いるガラス布の含浸に用いられる。例えばゲル(微量凝固物)またははじき等の欠陥を示さない最終製品は、新しい布156g/m^(2)に等しい量のPTFE沈殿物および27.5%の光沢を特徴とする。」

(a-5)「【0039】実施例2
数平均分子量1,200を有する式(I)の界面活性剤を用いたPTFE分散液の取得
実施例1の界面活性剤(ただし、平均分子量は1,200(ZDIAC1200)、m/n比は2であり、上記の方法で測定された毒性LD50は2,000mg/kgよりも高い)の、濃度50g/lを有する水溶液(220ml)を、攪拌機を備え、予め真空にされた50Lのオートクレーブ中の好適に脱気された水(31L)に加える。反応器には、軟化点が52℃?54℃のパラフィン(300g)も予め導入されている。APS(520mg)に相当する(NH_(4))_(2)S_(2)O_(8)(APS)の溶液(500ml)をオートクレーブ中に供給する。オートクレーブは機械的攪拌下に維持され、55℃で20バールの圧力までTFEで加圧される。この時点で、SdM(90mg)に相当する(NH_(4))_(2)Fe(SO_(4))_(2)6H_(2)O(SdM)溶液(500ml)をオートクレーブに供給する。
【0040】反応器内の圧力が0.5バール降下したとき、反応器内で定圧20バールを維持するように、コンプレッサによりTFEを供給し始める。この間、反応器の内部温度を0.6℃/分の割合で75℃まで上げる。反応中、ZDIAC1200の50g/l水溶液(1020ml)がオートクレーブ中に供給される。134分後、TFE(15,800g)が反応したとき、TFEの供給を停止し、反応器を減圧、冷却する。ラテックスを排出した後、反応器の内表面は清浄であり、凝固物がない。レーザー光散乱(LLS)によって測定されたポリマーの一次粒子の直径は170nmである。ラテックス中のポリマー含量は、湿った分散液に対して28.5重量%である。一次溶融温度は341,66℃であり、DSCによって決定された結晶化熱は-31.25J/gである。
【0041】熱平衡のパイレックス(登録商標)ガラス反応器内の上記分散液(10kg)に、トリトンX-100の25重量%溶液(2kg)を加える。この混合物を当初は室温で適当にホモゲナイズし、その後、温度を68.5℃まで上げる。上記の温度で攪拌を停止し、上層の透明な水相と、高い含量のフッ素化ポリマー粒子を有する下層との分離が認められる。下層の組成物は、65.3重量%のフッ素化ポリマーおよび2.7重量%のトリトンX-100である。」

(a-6)「【0042】実施例C1(比較)
数平均分子量4,000を有する式(I)の界面活性剤を用いた乳化重合の実験
実施例1の界面活性剤(62g)(ただし、数平均分子量4,000を有する)(ZDIAC4000)を、攪拌機を備え、予め真空にされた50Lのオートクレーブ中の好適に脱気された水(31L)に加える。反応器には、軟化点が52℃?54℃のパラフィン(300g)も予め導入されている。オートクレーブは機械的攪拌下に維持され、20バールの圧力までTFEで加圧される。当初の温度は68℃になる。この時点で、APS(192mg)およびDSAP(3840mg)に相当する(NH_(4))_(2)S_(2)O_(8)(APS)およびジスクシニックパーオキサイド(DSAP)の溶液(500ml)をオートクレーブに供給する。
【0043】反応器内の圧力が0.5バール降下したとき、反応器内で定圧20バールを維持するように、コンプレッサによりTFEを供給し始める。この間、反応器の内部温度を0.4℃/分の割合で79℃まで上げる。38分後、TFE(4025g)が反応したとき、凝固物の生成を示す異常運動のために反応を止める。TFEの供給を停止し、反応器を減圧、冷却する。反応器を開けた後、反応器の内側に完全なラテックスの凝固が認められた。」

(a-7)「【0056】
【発明の効果】本発明によれば、環境に与える影響が少なく、毒性が低く、コーティングしたときにひび割れがなく、光沢に優れたフルオロポリマーが得られる。」

イ 刊行物Aに記載された発明

上記摘記事項(a-1)によると、その【請求項6】に記載された分散液は、引用請求項からみて、【請求項3】及び【請求項1】に記載された事項をすべて含む態様を包含するものである。この場合、【請求項1】に記載されたA、B、及びR_(f) はそれぞれ、【請求項3】に記載されたA=-O-CFX-COOM、B=-CFX-COOM、及び(パー)フルオロポリエーテル鎖となり、当該【請求項1】に記載されたフルオロポリマーとしては、【請求項6】に記載された、VDF(ビニリデンフルオライド)ベースのホモポリマーを選択することが可能となる。そして、上記摘記事項(a-1)の【請求項14】の記載や、摘記事項(a-4)の実施例の記載に照らすと、上記フルオロポリマーは、乳化重合により得られ、分散液は水性であることが理解できるから、これらを総合すると、刊行物Aには次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されているといえる。
「式:
A-R_(f)-B (I)
[式中、
A =-O-CFX-COOM;
B =-CFX-COOM;
M =NH_(4)、アルカリ金属、H;
X =F、CF_(3);
R_(f)は、(I)の数平均分子量が600ないし1,200となるよう な直鎖の、または分岐した(パー)フルオロポリエーテル鎖 である]
で表される2官能性のフッ素化界面活性剤を含有し、平均粒径が170?280nmの粒子を有する、乳化重合により得られる、VDF(ビニリデンフルオライド)ベースのホモポリマーの水性分散液。」

ウ 対比・検討

(ア) 本願発明15について
本願発明1ないし18はすべて、本願発明15に記載された分散体を、発明を特定するために必要な事項として含むものであるから、最初に、本願発明15について検討する。

a 本願発明15と引用発明Aとの対比
本願発明15と、引用発明Aとを対比すると、両者は、
「1以上のフッ素化コモノマーの非存在下、
式: A-R_(f)-B (I)
(式中、
A = -O-CFX-COOM;
B = -CFX-COOM;
X = F, CF_(3);
M = NH_(4), アルカリ金属, H;
R_(f)は(パー)フルオロポリエーテル鎖である)
の2官能性界面活性剤の存在下に、ビニリデンフルオライド乳化重合により得られる、ビニリデンフルオライドベースポリマーの水性分散体。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点:
本願発明15における2官能性界面活性剤の数平均分子量は、650?800であるのに対して、引用発明Aのものは、600?1200であるとともに、本願発明15におけるビニリデンフルオライドベースポリマーの平均粒子サイズは、0.260?0.3μmであるのに対して、引用発明Aのものは、170?280nm(0.170?0.280μm)である点。

b 相違点の検討
上記相違点について検討する。
本願発明15は、2官能性界面活性剤の数平均分子量(以下、単に「界面活性剤の分子量」ということがある。)、及び、ビニリデンフルオライドベースポリマーの平均粒子サイズ(以下、単に「PVDFの粒子サイズ」ということがある。)を特定の数値範囲に限定するものであるから、まず、その意義(有利な効果)について確認すべく、本願明細書を仔細にみると、実施例1及び実施例4(比較)として、以下のような実験結果が示されている。
「 【0027】
PVDF分散体の製造
実施例1
撹拌機を備えた7.5リッターのステンレス鋼の水平反応器に、5.375 gの脱イオン水、および式(I)(M = NH_(4), X = F, A = -O-CFX-COOM; B = -CFX-COOM; R_(f)はクラス1)の構造および738の数平均分子量を有する)の2官能性フッ素化界面活性剤の水溶液を、反応器の水相での濃度が0.84 g/lであるような量で加える。
次いで、50?60℃の間の融点を有するパラフィン蝋4 gを加える。反応器を密封し、約2分間脱気し、撹拌下に100℃に加熱する。
反応器を122.5℃まで加熱し、次いで反応器圧力が46.5バールになるように、ビニリデンフルオライドの十分な量を反応器に供給する。ジ-tert-ブチルパーオキサイド(DTBP)21.5 gの添加で重合を誘発する。約15分間の誘導期間後、反応器圧力がゆっくり下がり、重合の開始を示す。
ビニリデンフルオライドが、反応器圧力を一定に維持するために連続的に加えられ、一方、反応器ジャケット中に水およびエチレングリコールを循環させることにより、温度は122.5℃に維持される。
モノマーの全量2.298 gの導入に必要な時間の約170分後、供給は停止される。収率を最適化するため、反応器圧力が約11バールに下がるまで重合を継続させる。この時点で、反応器を冷却し、未反応のビニリデンフルオライドを排気し、次いでラテックスを反応器から排出し、存在するかもしれない凝塊を除去するために80メッシュで濾過する。
ラテックスは、ポリマーの30.7重量%を含む。反応器は、重合の間に形成された存在するかもしれない凝塊を除去するために洗浄される。
【0028】
凝塊による2%の喪失が計測された(ビニリデンフルオライドの2.298 gの初期重量に対する凝塊した粒子のパーセンテージで定義される)。
濾過されたラテックスは、レーザー光散乱手法により分析され、0.271 μmの粒子直径の平均サイズを有することが分かる。
次いで、ラテックスは機械的撹拌により凝固され、凝固されたポリマーは、洗浄水の伝導度が2 μohm/cmに下がるまで、脱イオン水で数回洗浄される。湿ポリマーは、水分含量が0.15重量%より低くなるまで、対流式オーブン中60℃で乾燥される。
Kayeness Galaxy細管レオメーター(L/D = 15/1)を用いて、232℃、剪断速度100 s-1で測定されたポリマーの溶融粘度は32.0 kPである。
ポリマーの熱安定性は、乾燥された粉末のアルミニウム容器中、270℃で1時間の加熱後の色彩観察による美質により評価された。」
「 【0032】
実施例4(比較)
式(I)(ここで、M = NH_(4), X = F, A = -O-CFX-COOM; B = -CFX-COOM; R_(f)はクラス1)の構造であるが、数平均分子量870を有する)の2官能性界面活性剤を用いることにより、実施例1の方法が繰り返された。
実施例1および2で定義された範囲、すなわち0.6?1.2 g/Lの界面活性剤の濃度を与えるように、界面活性剤の量が使用された。
これら全ての場合で、0.1?0.11μmの範囲の平均サイズ、すなわち、本発明で定義された範囲外の大きさを有する粒子を含むラテックスが得られた。
さらに、得られたラテックスは、小さい粒子の高濃度に因る高い粘性となり、本質的に不安定となる。このことは、ペイント塗料を製造するための有意な量の粉末を得ることを妨害する。
それゆえ、該界面活性剤は、高性能のペイント塗料に適した化合物の合成には適さないようであった。」

これら2つの実験結果から、界面活性剤の分子量が650?800の範囲から逸脱すると、得られるPVDFの粒子サイズは、0.260?0.3μmの範囲から外れ、その結果、分散体(ラテックス)の粘性不良や不安定を招来し、ひいてはペイント塗料の製造に支障を来すことがある旨理解できる。
そうすると、当該界面活性剤の分子量の規定は、ペイント塗料の製造などにおいて所望されるPVDFの粒子サイズを実現する上で、重要な要因となっていると解するのが相当である。

一方、引用発明Aにおける界面活性剤の分子量とPVDFの粒子サイズの規定について、刊行物Aの記載事項を俯瞰すると、上記摘記事項から、これらの規定の意義に関する明示的な記載を確認することはできないが、摘記事項(a-4)?(a-6)には、実施例1、実施例2、及び実施例C1(比較)として、PTFE分散液に関する実験結果が示されており、具体的には、界面活性剤の分子量とPTFEの粒子サイズとがそれぞれ、750と249nm(0.249μm)、1200と170nm(0.170μm)、4000と凝固のため不明、となっている。
これらの実験結果はあくまで、PTFE分散液に関するものであって、PVDF分散液とは直接関係しないものの、当該実施例1には、数平均分子量が750である界面活性剤が具体的に示されているのであるから、引用発明A(PVDF分散液)における界面活性剤の分子量の最適範囲600?1200のうち、750という数値のものは、引用発明Aが具体的に想定するものとして、刊行物Aに記載されているに等しい事項というべきである。また、これらの実験結果によると、当該最適範囲を外れると、乳化重合のための反応器の内側への凝固などの不具合が生じることが理解できるから、引用発明Aにおける界面活性剤の分子量の規定は、このような不具合との関係において有意であることが把握できる。
しかしながら、上記摘記事項(a-4)?(a-6)に記載された実験結果を参酌しても、引用発明A(PVDF分散液)において、数平均分子量が750である界面活性剤を使用した場合に、PVDFの粒子サイズがどの程度になるかは定かでないから、引用発明Aが、本願発明15において規定される界面活性剤の分子量とPVDFの粒子サイズの両者を満足する確証はない。
また、上述のとおり、本願発明15における界面活性剤の分子量の規定は、ペイント塗料の製造などにおいて所望されるPVDFの粒子サイズとの関係で有意な効果を奏するものであることから、引用発明Aにおける界面活性剤の分子量の規定が意図するところ、すなわち、反応器内側への凝固の回避などとは異なるし、当該技術分野において、界面活性剤の分子量と、得られるPVDFの粒子サイズとの関係が既に知られているわけでもなく、そもそもPVDFの粒子サイズが0.260?0.3μmであるものがペイント塗料などとして最適であることを裏付ける証拠もないことから、当業者といえども、引用発明Aにおける界面活性剤として、本願発明15に規定される条件を満たすものを採用し、もって、PVDFの粒子サイズの適正化を図ることを想起することは困難であるといわざるを得ない。
以上のように、引用発明Aにおける界面活性剤の分子量とPVDFの粒子サイズの数値範囲は、外見上、本願発明15における数値範囲と重複するものの、本願発明15において規定される界面活性剤の分子量とPVDFの粒子サイズの両者を満足するものまでが、刊行物Aに記載されていたとは認められず、また、本願発明15は、引用発明Aに基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。

(イ)本願発明1ないし14、16ないし18について
本願発明1ないし14、16ないし18は、本願発明15に記載された分散体を、発明を特定するために必要な事項として含むものであるから、これらの発明についても、本願発明15についてと同様の理由により、新規性及び進歩性を有するものである。

(2)刊行物Bについて

刊行物Bには、「フルオロ界面活性剤を含有する水性媒体中に、実質的に球状のフルオロポリマー粒子を含む分散液であって、前記分散液が、分散液の全重量に対して少なくとも20重量%の固形分を含有し、前記粒子が、150ナノメートル以下の平均直径を有し、前記フルオロ界面活性剤の濃度が、前記分散液中の水の重量を基準にして、前記フルオロ界面活性剤の臨界ミセル濃度未満であることを特徴とする分散液。」(【請求項20】)が記載され、当該「フルオロ界面活性剤」としては、段落【0042】にPFPE-3として、HOOC-CF_(2)-O-(-CF_(2)CF_(2)-O-)_(q)-(-CF_(2)-O-)_(r)-CF_(2)-COOHが示され、これを用いた具体例も実施例6などとして記載されている(段落【0064】など)。
そして、上記「フルオロポリマー」としては、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられている(段落【0024】など)。
しかしながら、刊行物Bを仔細にみても、フルオロ界面活性剤の数平均分子量に関する記載は見当たらないし、フルオロポリマー粒子の粒径も150ナノメートル以下と規定されていることから、当該刊行物Bに、本願発明1ないし18が記載されているということはできないし、当業者が、該刊行物Bに記載された事項に基いて本願発明1ないし18を想起し得るとする証拠を見いだすこともできない。

(3)刊行物Cについて

刊行物C(パテンファミリーである特表2005-501956号公報参照)には、「10?400nmの平均粒度を有する水中に分散されたフルオロポリマー粒子を含むフルオロポリマー分散体であって、該分散体は、1000g/モル未満の分子量を有するフッ素化界面活性剤を含まないか、または1000g/モル未満の分子量を有する該フッ素化界面活性剤を、該分散体の固形分の全重量を基準として0.025重量%以下の量で含み、該分散体は、ノニオン界面活性剤をさらに含むフルオロポリマー分散体において、該分散体が少なくとも1000g/モルの分子量を有するフッ素化アニオン界面活性剤、非フッ素化アニオン界面活性剤、およびこれらの混合物から選択されたアニオン界面活性剤を含むことを特徴とするフルオロポリマー分散体。」(パテントファミリーの【請求項1】参照)が記載され、当該「1000g/モル未満の分子量を有する該フッ素化界面活性剤」としては、次式(II)で表されるパーフルオロポリエーテル界面活性剤が示されるとともに(パテントファミリーの段落【0016】参照)、上記「フルオロポリマー」としては、ポリフッ化ビニリデンが挙げられている(パテントファミリーの段落【0027】参照)。
<式(II)>
MOOC-Q^(1)-O-(CF_(2)O)_(k)(CF_(2)CF_(2)O)_(p)(CF(CF_(3))CF_(2)O)_(q)-Q^(2)-COOZ (II)
[式中、k、pおよびqはそれぞれ0?15、典型的には0?10または12の値を表し、k、pおよびqの合計は数平均分子量が少なくとも1000g/モルであるものである。MおよびZはそれぞれ、独立に、水素またはカチオンを表す。好ましくは、アンモニウムなどの一価カチオンまたはアルカリ金属イオンである。Q^(1)およびQ^(2)はそれぞれ、独立に、-CF_(2)-または-CF(CF_(3))-を表す。]
しかしながら、刊行物Cに記載された上記パーフルオロポリエーテル界面活性剤の分子量は少なくとも1000g/モルであるから、当該刊行物Cに、本願発明1ないし18が記載されているということはできないし、当業者が、該刊行物Cに記載された事項に基いて本願発明1ないし18を容易に発明し得たとする証拠も見当たらない。

(4)小括
上記のとおり、本願発明1ないし18は、刊行物AないしCに記載された発明であるとはいえず、当該刊行物に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

2 原査定の理由3について

原査定の理由3に係る記載不備については、平成25年3月5日に提出された審判請求書による釈明及び同日付けの手続補正の内容に照らすと、既に解消しているものと認められる。

3 他の拒絶理由の存否

さらに、本願発明1ないし18につき再度検討しても、拒絶すべき他の理由を発見することはできない。

4 当審の判断のまとめ

以上のとおり、原査定の理由により本願を拒絶すべきものであるということはできないし、他に本願を拒絶すべき理由も発見しない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、本願は、特許法第49条各号の規定に該当するものではなく、本件審判請求につき理由があるから、同法第159条第3項で準用する同法第51条の規定により、本願に係るすべての発明は、特許すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-12-27 
出願番号 特願2005-379471(P2005-379471)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (C09D)
P 1 8・ 121- WY (C09D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 橋本 栄和
日比野 隆治
発明の名称 建築基体コーティング用塗料の製造におけるVDFベースポリマーの水性分散体の使用  
代理人 野河 信太郎  
代理人 金子 裕輔  
代理人 稲本 潔  
代理人 甲斐 伸二  

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